果報は寝て待て寝ます。寝ますが、果報が来ません果報は寝て待て時間は過ぎる、されど連絡はまだなし果報は寝て待てトリステインがガリアに言い訳するには、色々と屁理屈が必要なのです。それは重々承知なのですがね母親の身柄を確保しにタバサがガリアに戻った後、1隻の大型船がトリステイン王城に設けられている港に停泊しています。大型船とはいえレキシントンのように超巨大というわけではありませんが、特徴的なのは船のあちこちから蒸気がもうもうと噴出されているという点でしょうか。「ゲルマニアの技術は世界一ィ!」「それの発案は、うちの商会なのですが…。」そして、その大型船から降りて来たキュルケがいきなり自慢げに言い放ったので、取り敢えずツッコむ事にしました。船にはためいているのは当家の蜂の家紋と、ツェルプストー家のファスケスと杖が交差した家紋です。ちなみにこのファスケスというのは、束ねられた棒と斧の意匠であり、ジュリオ・チェザーレの帝国に於いては権威の象徴であったものなのです。そう言うと何となくわかるかもしれませんが、ツェルプストー家はジュリオ・チェザーレの帝国が現在のゲルマニアを征服した際に、属州総督としてロマリアから派遣された貴族が元になっています。ツェルプストーの家紋のファスケスは、それを主張しているわけです。ジュリオ・チェザーレの帝国は、確かに滅びました。滅びましたが、あまりにも巨体だったが故に属州でも始祖の子孫たる王家が存在するトリステイン・ガリア・アルビオンを除いた地域、つまりゲルマニアが残ってしまったわけです。属州総督達は崩壊した帝国本国からの難民を受け入れ、その後属州総督同士ですったもんだの戦争を繰り返していました。ざっと300年ほど続いたその戦争でゲルマニアの国土は荒廃、そこに住まう者達もすっかり疲弊し、どうにもこうにもにっちもさっちもいかない領土の奪い合いに疲れ果てた属領総督達は、選挙によって自分達の頭を決めて取り敢えずそれに従うという形を用意する事で、互いの矛を収めるという事にしたのです。そして彼らは故地ロマリアの教皇庁の権威を借りて、自分達の頭となるものをかつての故国の頭になぞらえ『皇帝』としました。それがゲルマニア皇帝…まあアレですよ、300年も誰が強いか腕力で決めようとしたけれども決まらなかったから、皆で選挙して皇帝を決めて恨みっこ無しよというわけですね。時代の変化とともに属州総督は『辺境伯』という爵位を名乗るようになり、ゲルマニアでは今でも各辺境伯家が主に選帝侯となって皇帝を選挙で選ぶという方式をが続いています…めでたしめでたし。そんなわけで地球だと由緒ある家として扱われる筈ですし、実際にゲルマニアでは強大なる権威と権力を共に有する大貴族なのですが、始祖の血脈を引き継ぐ王家が6000年も保っているような世界に於いては『成り上がり者』と呼ばれるわけなのですよ、面倒臭いのですね。うちも取り敢えず6000年以上の血脈を持つ家ですし、モンモランシ家もそれに近い家だったりと、この世界に於ける貴族の血脈の長続きぶりったら、もうね…なのです。…おっとっと、思考が脱線していますね。「そんなわけで、フォルヴェルツ号持ってきたわよ。」そう、そしてとうとうトリステイン初の蒸気機関船となったフォルヴェルツ号が、ちょうどこのタイミングでのお披露目となったわけなのです。ちなみに蒸気タービンは何回も爆発したので、今回は諦めました…まさか、こんなに再現が難しいとは。そんなわけで蒸気タービン機関は何とか作れないかと試行錯誤中ではありますが、もう暫くかかるでしょう。代わりに用意した蒸気機関はレシプロ方式のものでタービンほど効率は良くありませんが、頑丈に作れるのと保守がタービンよりも容易である事が利点となっています。レシプロ蒸気機関に関しては、コルベール先生の今までの研究…つまり、レシプロ内燃機関の研究がかなり応用されているのだとか。ちなみにこの蒸気機関、水も火も必要無いという凄まじくチートな蒸気機関だったりします。蒸気機関の釜にあたる部分が、火石と水石を魔法の触媒で互いに共鳴させ合うことで、大量の蒸気を発生させるという魔法の蒸気発生装置になっているのですよ、実は。火石と水石の質にもよりますが、この魔法の蒸気発生装置は一度起動させると10年間無交換で作動し続けるとか…出力はかなり小さいですが、原子炉かって感じですね。まあそんなわけで、ぶっちゃけこの心臓部分が魔法的にどうなっているのか、私も詳しくは説明出来ません。たぶん、作っている人達も何で水石と火石を共鳴させると凄まじい量の水蒸気が出るのかはわかっていません…はっきり言いましょう、皆が勘で作っています。そもそも、この世界の船についている浮力発生装置だって、何で風石に魔法の触媒を反応させると浮力が発生するのかわかっていないのですから。これだからファンタジーは嫌いなのです。「キュルケ、お疲れ様でした。 コルベール先生も、御久し振りです。」「おおミス・ロッタ、久しぶりですな。」降り立つと同時にキラーンと輝くコルベール先生の頭。うむ、相変わらず手入れが行き届いていますね。「お疲れ様ですというか、よくもまあこんな短期間で開発が終わりましたねというか。 まあ兎に角、とても楽しんでいたという風に伺っておりますが。」「流石は古代ロマリアからの火の技術を受け継ぎ発展させてきたゲルマニアですな。 製鉄技術は流石の一言でしたぞ! 工房が東トリステインに移転すると伺いましたが、職人を皆連れて行くとか?」をう、既にあちらにも伝わっていましたか。「ええ、このフォルヴェルツ号の同級を複数隻建艦する為には、ブレーメンの河岸では少々手狭ですからね。 陛下から海沿いに大規模な造船所を建設せよと、直接の思し召しを戴きました。 政府からの補助金も出ますし、でっかい研究施設も作りましょう。」「おお、それは素晴らしい!」いっそ、このハルケギニア中の研究者を集めて、技術を独占しつつ高める事にしないといけない感じになってきたのですよね。技術を発展させるにしても、そこにある程度魔法を介在させる製造技術を徐々に魔法のいらないものにしていかないと、この6000年続いてきた世界は木っ端微塵になりかねません。作動自体に魔法が必要無いものであっても、このハルケギニアに全く魔法無しで作れるものは何一つ存在しませんから。それを圧倒的なマジョリティである所謂『平民』が理解しなくなると、えらい事になります。銃は平民でも扱えますが、銃の中枢機構の量産はメイジにしか出来ないのですから。所謂『市民革命』は、現状に於いてハルケギニアの魔法文明を根本から破壊する一撃となりかねません。そうしない為には、製造技術を魔法無しでも運用可能な技術へとシフトさせる必要があるのです。これによって、長く続いてきた世界を破壊してしまうというのは理解していますが、危険に怯んで歩みを止めたら人が人である理由なんてありません。文明というものは止まったら後は死にゆくのみ、『立ち止まって一旦考えてみよう』というのは、滅びを誘う悪魔の誘惑です。それに私がやらなくても、いつか誰かがやる事である以上、国益の為に私の意識化である程度コントロールしてしまおうというのもあります。「この国はそこそこ資源はありますが、国土が小さく人口も少ない。 技術で上回らないと、量に対抗出来なくなってしまいますからね。」「ここ数十年の技術発展は、確かに凄まじい物がありますからな。 遅れると大変な事になるというのは、確かに道理ですな、ふむ。」コルベール先生はそう言って、ウンウンと頷くのでした。魔法という人の才能頼みのエネルギーを利用して非常にゆっくりゆっくりと進んできたこの世界の技術も、とうとう産業革命前夜まで来たという事なのですよね。ハルケギニアは地球での産業革命に必須であった石炭や石油などの化石燃料が殆ど見つからないわけですが、その代わりとして精霊が凝集して形成された『火石・風石・水石・土石』という凄まじくファンタジーな化石燃料のようなものの鉱脈が存在します。エネルギー源までファンタジーです、すっげーですね、ファンタジー。何で化石燃料が殆ど見つからないかって、恐らくは数千年ごとに大地が天高くカッ飛んでは落下しているせいなのでしょう。恐らくは地の底深くに鉱脈が追いやられてしまったのだと思われます。「…そろそろ、説明過多の地の文ウザいとか言われかねないのですね。」「…ん?何言っているの、ケティ?」「いえいえ、何でもありません。」首を傾げて聞いてきたルイズに、私はニッコリそう答えたのでした。やれやれ、メタるのも大変なのですよ。デルフリンガーはサラッとやりますが。そんなわけで面子が揃い、私達は姫様の執務室へと呼び出されたのでした。「さて…。」姫様が執務室にて、跪く私達に声をかけます。え?何で跪いているのって?命令を受ける際は何時も跪いていますよ。これが宮廷作法であり、私達は貴族ですからね。「ジャン・コルベールで良いのかしら? それともフランソワ・ミシェル・ル・テリエと、本名で呼ぶべきかしら?」「ジャン・コルベールとお呼び下さい陛下。 この名前で呼ばれ続けて10年…こちらで呼ばれる方が慣れてしまっておりますが故。」まあ、本名だと色々と問題もありますしね。コルベール先生がそれで良いというのであれば、それで良いのでしょう。「ではジャン・コルベール、卿の公文書無断処分の罪を女王アンリエッタ・ド・トリステインの名に於いて恩赦とする。 …別に、私が直々にやらなくても良い程度の恩赦なんだけどね。 まあ、謁見のついでと言う事で。」「これで、学院で教師が出来るわけですな…。」コルベール先生が、ほうっと胸をなで下ろしています。「とはいえ、アルクマールに建設中の研究所が出来たら、そちらに暫く移って貰うことになりそうだけれども、良いかしら?」「おおっ、そうでしたな! 生徒に教育を施すのも素晴らしいが、研究所暮らしもまた魅力的…ううむ。」コルベール先生が頭を抱えて唸り始めてしまったのでした。彼は典型的な学者タイプなのに、授業するのもかなり好きな先生ですからねー。同じ学者莫迦タイプでも、ギトー先生とはそのあたりが違うのですよ。あの人は自説をうっとりと語っている時以外は、えらく面倒臭そ~に授業をやりますから。この前ルイズに全力で張った風の障壁をいとも容易く抜かれた上にチョップを食らった(ルイズ曰く、軽くやっただけよ)らしく、それ以来怯えて授業そのものに出てきませんけれども。何で、よりによって風最強理論の実践相手を、拳で魔法を無効化するルイズにやらせたのですか、ギトー先生…。今度、美味しいお菓子でも差し入れる事にしましょう。「次は…と、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー伯爵公女。 今回の件に関する貴家の申し出、有り難くとツェルプストー辺境伯殿にお伝え願えますか?」「はい、父に伝えておきますわ。 トリステインが今、表立ってガリアと揉めるわけには行きませんものね。 あの子の身分は、我がツェルプストー家が保証する事にいたします。」今回の件というのは、旧オルレアン大公家の身元の受け入れなのですよ。ツェルプストー家は代々やたら情に厚いので、いきなり連れていっても問題無いような気はしますし実際原作ではあっさり受け入れたわけですが、ガリア王族を受け入れるのですから事前の根回しはやっておいて損はありません。面倒な話ですが、それぞれが領地持ち貴族という政治的な性質を持つ家に生まれていますからね。友情にせよ何にせよ、政治から離れるのは困難…やれやれなのです。「…で、ケティ?」「はい、タバサが捕まった場合の連絡手段は複数ルートで確保しています。 …本当は、何も無いのが一番なのですけれどもね。」ガリアのデコ姫が何故か原作とは全然別人のノリですしね。まさか重度の従妹スキーとは…いやまあ、タバサがあれ程愛らしいのですから、無理はないのですが。あのタバサに冷たく当たるとか、精神病んでいるか美意識かおかしいかのどちらかであると断言します。「何も無い可能性は?」「あの派手で用意周到で狡猾なジョゼフ王が、オルレアン大公家の生き残りなどという不安材料を何時までも放って置くと思いますか?」「まあ、無いわね。 そもそも魔法の使える使えないなんて、為政者の資質とは何の関係もないものねぇ。 誰よ、あのズッコケ王を無能とか言い出した莫迦は? 無能王とか、長閑な渾名をつけて諸国を油断させた罪で斬首よ、斬首…ハァ。」うんざりした表情で、姫さまがそう言いながら溜息を吐きます。ズッコケ王も割とのほほんとした渾名だと思うのですが、そこにはツッコまないでおきましょう。どうせ『私が国で私が法だから良いのよ』とか、サラっと言いやがりますし。「はっはっは、大貴族は何処も大変だねぇ、我が愛しき蝶モンモランシー?」「世間一般じゃ私達も割と大きな貴族の部類に入るのだけれども、ルイズの家とかキュルケの家と比べると吹いて飛ぶような領地だしね。 うちは元侯爵家だけれども…ううっ、お祖父様の莫迦。」「大貴族爆発しろ。」見栄張り過ぎで自転車操業状態のグラモン家、先代がやんちゃやらかし過ぎて先祖代々のモンモランシ侯爵家領をボッシュートされたモンモランシ家、代々矢鱈と変態を排出する(輩出とは言わないでしょう)グランドプレ家の三人が、何か言っているのです。まあ、領民少な過ぎる上に交易も碌に出来ない僻地領主である我がラ・ロッタ家も、本来はあっち側なのですが。「しかし、タバサがどうにかならないと助けに行けないってのはやりにくいなぁ。」「そうよね~…ねえケティ、先回りしてちゃちゃっと連れてきちゃ駄目なの?」才人とルイズが、そう私に尋ねてきたのでした。単純明快なやり方を好みますからね、二人共。似たもの主従なのですよ、意外と。「だ…。」「駄目に決まっているでしょう。 廃止されたとはいえ、王族を何の名目も無しに拐ったのがバレたら即戦争よ。 予備役動員と学徒動員は解除しちゃったし、そろそろ国庫もスッカラカンなの。 これ以上何かやるなら、戦争税を徴収して戦時国債も発行しなきゃいけなくなるわ。 ただでさえ、何の為に借りたんだかわからない借金が腹立つくらいあるのに、勘弁して頂戴。」「…と、言う事なのです。」姫様に全部言われてしまいましたが、その通り。旧オルレアン大公家の処刑を防ぐ為の身元確保とか何とか理由をでっち上げられる状況にないと、流石にタバサ達の身元を確保するわけには行きません。王族とは、すなわち国家の所有物なのですから、明確に国家が『要りません』というサインを出さない限り、勝手に連れ出すのは無理です。そもそも、その状況であっても限りなく黒に近いグレーなので、かなり拙いのですよ?「そもそも、ケティが持っている伝手ってそんなに正確なの?」「それに関しては姫様にも話せませんが、ご安心あれ。 ガリアも、色々と複雑なのですよ。」デコ姫と、商会経由で渡りをつけた旧シャルル派と、誰も喋るとは思っていないおしゃべり風韻竜。主なルートだとこんだけですが、あまり増やすと却って逆に情報が流出しかねませんからね。「しかし、任務に失敗したら即死刑とは…ね。 まさかミス・タバサにそのような過酷な裏があったとは。」「家名を名乗らない時点で、何処かのご落胤か何かだと思っていたけれどもね。 オルレアン大公家だって聞いた時には、流石に仰天したわよ。 何とか、助けないとね。」心配そうにギーシュとモンモランシーがそんな話をしています。今まで結構色々と一緒にやってきた身ですからね、情も湧くというものでしょう。「…つまり、颯爽とこのマリコルヌ・ド・グランドプレがミス・タバサを助けに行って、『素敵、抱いて!』的展開になる事も有り得るという事だね。 フフフフフ、我が世の春が来たァ!」まあ、夢を見るのは自由ですよね。徹頭徹尾ただの夢ですが、ええもうどうにもこうにも夢ですが、完全無欠に夢以外の何者でもありませんが。「夢を馬鹿にするな! 夢を見るからこそ、人は生きて行けるのだよ!」「変態の癖に上手いこと言ってんじゃねーよ、なのです。 炎の矢。」「ぎゃー!ありがとうございます!ありがとうございます!」人の心中を読むような輩は、取り敢えず燃やしておきましょう、ええ。しかし、この常識外れの変態…どうしましょうか?数日後、ルイズとシエスタが私の部屋にやって来たのでした。変な本を持って。「バタフライ伯爵夫人の優雅な一日?」「シエスタが言うには、今トリスタニアで流行っている本なんだって。」渡されたのでパラパラ~っと読んでみましたが、エロ小説ですね。伯爵夫人と使用人やら騎士やらの美青年が一日中組んず解れつアレコレするだけの内容なのです。…乙女に何つーモノを読ませるのですか。「いったい、どんだけ性欲を持て余しているのですか、トリスタニア市民は。」エロ小説が流行るとか、どういう状況なのですか。しかも恋愛にエロを絡ませるわけじゃなくて、ただただひたすらヤってるだけですよ、コレ。「きゃーとか言わないわね。」「赤くなりませんわね。」頭上から、不満そうな声が…。「私をキャーキャー言わせたかったのですか?」『うんうん。』ルイズとシエスタはコクコクと頷いています。コヤツら…。「恥ずかしくないの?」「恥ずかしくなる前に、ドン引きでしたが…。」そもそも男性とそういう事になるってのが、いまいちピンと来ないと言うか。2回ほど押し倒されたのに、未だにピンと来ないのもどーなんだって感じなのですが。「だだだだだって、命令するのよ。 命令して、めめめ命令して、な、舐めさせたりとか。」「そうです、命令された使用人が、使用人ががが…。」ナルホド、この二人がこの小説に反応しまくっているのはそれですか。双方ともに自己を投影しているのですね。「二人共、才人にこんな事をしてみたいとか、されてみたいとかいう願望があるのですか。」『キャーキャーキャー!』「もが…。」顔を真赤にした二人に、私は口を塞がれたのです。「だだだ、だから何でそんな破廉恥な事を、真顔で言えるのよあんたは!?」真っ赤になったルイズに、何故か怒られてしまいました。怒られた原因はわかっていますが、内容はボカしましたし破廉恥な事など言っていないではありませんか。「そそそそうですわ、破廉恥なのはいけないと思います!」破廉恥な本読ましておいてそりゃねえぜとっつぁんと言うか、それは中の人的に姫様のネタなのですよ、シエスタ。「そうは言われても、私は才人にそういう命令をしたいともされたいとも思った事は…もが。」「だから、そういう破廉恥な事を言わない!?」『そういう命令』としか言っていないのに、理不尽な…。「で…ケティ?」「はい、何ですか?」ルイズが私の耳元でボソボソ呟きます。息がくすぐったいのですが…。「…内容、理解出来るの? わたしは何か凄く破廉恥だってのは、辛うじてわかる程度なのだけれども。」「わかりますよ、概ね。」そっち関連の知識は、前世の人のですけれども。こっちは色々と素朴ですし、読めば何やっているのかは概ね予測がつくのです。「わかるのっ!?」「そういう知識が欲しいなら、モンモランシーの部屋に行けば置いてありますよ。」モンモランシーの部屋には水系統魔法医療関係の本に紛れて、房中術系の魔法指南書の本も何冊か置いてありました。確かに房中術は水系統に属するものですが、一体何を企んでいるのだか。まあそれはさて置き、房中術の魔法指南書はそっち系のテクニックの指南書でもありますから、読んで理解出来れば私の手の中にあるエロ小説の中身も大体想像出来るようになります。…何で知っているのかって?ええそうですよ、読みましたよ、読んじゃ悪いですか?そういう年頃なのですよっ!「あんのエロモンモン、まさかそんな本を持っているだなんて…。 ケティにそんな本見せて!」まあそんな訳で、ルイズには私の知識の出所がモンモランシーの持っている本だという事にしておきます。モンモランシーにとってはとんだとばっちりですが、あんな本を持っている方が悪いのですよ、おほほほ。「…で、それはさて置きコレってどう意味なの?」「ああ、それですか? ゴショゴショゴショ…。」「え?うわ、何それ、そんな事するの? そそそそそんな恥ずかしい事するの? わわわたしダメ、そそんなの恥ずかしくて出来ない! …で、こ、こっちは?」「それはですね…ゴショゴショゴショ…。」「きゃー!きゃー!何それ!何それー!?」話の内容は、検閲につき削除なのです。「うは、うはははははははは…。」エロ小説の中身を私がルイズに親切丁寧にわかりやすく解説するという訳のわからないやり取りが何回か交わされた結果…ルイズは顔を真赤にして変な笑い声を上げながら、床に転がって虚ろな目で体をクネらせています。純情なルイズには刺激が強過ぎたようです…かく言う私も、おそらく顔が真っ赤ですが。心を平静に保つにも限度ってもんがあるのですよと言うか、まずい腰に力が入らない…。「な、何だかわかりませんけれども、『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』で何が起こっているのか全部理解しているとか…年下なのにミス・ロッタ凄いです!」「いやシエスタ。 こんな下らない事で、そのような尊敬の眼差しを向けられても。」と言うか、微妙に馬鹿にされているような気が…。「女子寮のエロマスターを名乗れますよ!」「その名称は断固としてお断りします!」何という嫌な呼び名…。いろんな意味で乙女としては終わっている呼び名ですよ、それは。「…で、ミス・ロッタ質問なんですけれども、ここはどういう事なんですか?」「そこはですね…ゴショゴショゴショ…。」「だ、駄目です私、サイトさんにそんな事出来ません!」「やらなくて結構です!」「あ、次は…。」ああもう、何で聞かれると思わず説明してしまうのでしょうね、私は。勿論こちらのやり取りも、検閲につき削除なのですよ。18禁になっちゃいますからね。「ふふふ…ふふふふふふふふふふ、良い事聞いちゃった、良い事聞いちゃった。」ルイズの時と似たようなやり取りが繰り返された結果、シエスタも床に転がって虚ろな目で変な笑い声を上げています。自分で説明しておきながら、私も完全に腰が抜けてしまいました。…トリステインのエロ作家、恐るべし。「…ね、ねえケティ? 話は思い切り変わるのだけれども、良いかしら?」「な、何ですか?」ある程度立ち直ったらしく、ルイズが私に話しかけてきます。さすがにもう、エロ解説は無理なのですよ?「さっき、シエスタと話している時に指摘されたんだけれども、ひょっとして使い魔の契約魔法って、使い魔に主人への好意を植えつける効果とかがあるのかしら?」「…ありますよ。」あ、このノリで聞かれたから、ついペラッと…。「あるの!?」「ナンノコトヤラ。」コレで誤魔化せれば良いのですが。「誤魔化さないで!」無理でした…。「はいはい…ありますよ。 使い魔として契約するんですから、行動及び思考を制約する魔法…つまりギアスの類がかかるのは当然なのです。」「あるんだ…。」ルイズの呆然とした声…まあ、気持ちはわからなくも無いですが。「でないと、例えば凶暴な火竜を呼び出したりしたら、四六時中使い魔に怯えて生活しなくてはいけなくなるでしょう? 使い魔との契約の魔法は使い魔に主人への好意を植えつけ、更に害を為せないように行動を制約します。」「そ、そうなんだ…じゃあ、サイトがわたしを好きって言ってくれるのは、魔法のせいなのね…。」ルイズは床に転がったまま、ダンゴ虫みたいに丸まってしまいました。コレは敢えて言いませんが、才人が怒ったルイズに何の抵抗もせずに殴られるがままなのは、反撃出来ないように魔法によって行動を制約されているからです。今のルイズが頑丈であるとか無いとかそもそも強いとか…そんなものは通り越して、才人はルイズを殴る事が絶対に出来ませんし、そういう思考すら浮かびません。それが使い魔ってものなのです。「じゃあやっぱり、サイトに他に好きな女の子が居ても、魔法で捻じ曲げられちゃうのね。 例えば本当は、ケティが好きだとしても。」「…その可能性は低いですが、有り得ます。 それがどうしたって感じですけれども。」ンな瑣末な問題で悩まないで貰いたいものです。気にしたってしょうがないのですから。「そ、それがどうしたって…。 魔法で気持ちが捻じ曲げられるなんて、良い事じゃないわ。」「はぁ…いいですか? 吊橋効果ってのがありまして。 男女を二人きりで不安定な吊り橋の上で過ごさせると、恋に落ちる確率が凄まじく高いそうなのですよ。」「え、ええと、つまりどういう事?」私の話がよくわからないのか、ルイズは首を傾げます。「吊橋の上に居るとですね、まず高所という慣れない場所なので心臓の鼓動が上がります。 そして、心細い中で目の前に居るのは一緒に居る異性だけです。 ドキドキして、安心します。 これを、人の心は恋愛感情と勘違いする事があり、実際に恋愛関係になったりします。」「そ、そんな事で?」信じられないといった感じの表情で、ルイズが私を見ています。「そういう攻略法もあるんですね、ふむふむ?」何メモってますか、シエスタ?「ええ、そんな事で。 もちろん、ほとんど錯覚みたいなものですから、相性が上手く合わなくて破局することが多いそうですが。」「駄目じゃない…。」「いや、駄目じゃないですよ? 相性が合えば、そのまま結ばれることだってあります。 まあそのくらい心ってのは不確かなものですし、そんなしょうもない切っ掛けが元であっても幸福になる人は幸福になります。 魔法だって一緒ですよ、不自然だって時を経れば自然となります。 魔法でルイズに好感情を抱くというのは単なる切っ掛けで、才人がルイズに好意を持っているのは、ルイズの事が気に入ったからですよ。」飽く迄も好感を抱かせるだけであって、主人に対して使い魔を発情させる魔法じゃありませんしね。高感度が一定以下に下がらないというのはチートっぽいですが、その点に於いて実はルイズも一緒です。使い魔が主人を心から嫌う事が出来ないのと同じように、主人も使い魔を心から嫌う事は出来ません。双方向性のギアスですから、どっちもどっちって感じですね。アカデミーで読んだ本でも、そんな感じの事が書いてありました。「要するに、恋愛関係はゴチャゴチャ理由とかを探す事自体が不毛で、己の心の感じるままに行動しなさいという事ですよ。 後は度胸です。」「おをっ!?」人に言っておいてなんですが、私はそういうの無茶苦茶苦手ですがね!いちいちトントンと積み上げていかないと、納得出来ない性質ですから。でも、ルイズの場合は『ドント・シンク・フィール』的な発想の方が良いかなーと思うわけで。「そうですよね!恋愛は勢いですよね!」ええと、シエスタまでなんか元気になっちゃったわけですが。「いや、勢いだけだと事故を起こしそうな…。」「むしろ、起こせ事故って感じですよね!」この娘、何かデンジャラスな事言ってるー!?しかし、私はいったい何をやっているのでしょうか、ハハ…。「起きろ~、起きるのね~?」「んぅ…やかましいですよ、シルフィード。」シルフィードに揺り起こされた私は、布団を深くかぶり再びゆっくりと目を閉じます。…ん?シルフィード?シルフィードですか…シルフィード…すぴー。「きゅい!ああもう!お姉さまが大変なのに、このネボスケ腹黒娘は~!」「ああ、布団が、布団が…。」思い切り布団を剥ぎ取られてしまいました…寒いのです。「布団…布団…。」「がぶ。」あれ?なんか、頭が痛い…。「ぎにゃー! 人の頭に齧り付くとか、何考えているのですかー!?」「寝惚ける腹黒娘が悪いのね! あと、人間美味しくない!きゅい!」「何で齧っただけではなく、味見までしているのですかー!?」「せっかく齧ったんだから、味見くらいはします、きゅい!」この腹ペコ風竜め、妙な方向でセコくなって…誰ですか、こんな教育施したのは。それは兎に角として…?「…随分とタバサそっくりに変身しましたね、シルフィード?」「きゅいきゅい、お姉さまには双子の妹が居るって、前に聞きました。 だから、その娘に化けてみたのね。 これぞ韻竜の知恵です、えへん。」えへんと胸を張る表情豊かなタバサの姿に化けたシルフィード…ううむ、タバサの表情筋もやれば出来る子なのですね。まあ確かに、タバサに化ければジョゼットにも化けた事になりますが…。「そのネタがばれたらガリア王宮が大騒ぎになるから、是非とも止めてくれなさい。 人の姿になるなら、元々のアレがあるでしょうに。」「ブーブー!つまらないのね、それは。」御前は真顔で何言ってやがるのですか、シルフィード。「タバサの顔で感情豊かな表情を浮かべて語るとか、器用な真似をしないでください。 そして、駄目なものは駄目です。 そもそも、何でそんなに余裕なのですか。」「…空元気でも出してないと、シルフィはシルフィの不甲斐無さで泣きたくなります、きゅい。 腹黒娘が前に言ったのね。 辛くても逃げられない時は、自分で自分にハッタリかませって。」をう、いかにも私が言いそうな台詞。「…どんな時に口走った言葉なのだか。 まあ、そういう理由であれば納得なのです。 で、何が不甲斐無かったのですか?」「お姉さまを捕まえたエルフがとんでもなかったのね。 お姉さまの魔法を跳ね返して、シルフィを風の魔法で捕縛するとか無茶苦茶よ、きゅい。」「そりゃ確かに、出鱈目もいいトコなのですね。」韻竜という生き物には、それぞれ生まれながらそれぞれが司る精霊の加護があります。風韻竜のシルフィードには、風の精霊が生まれながらに加護を与えており、通常彼女を風の魔法で害する事は出来ない筈なのです。逆に言うと、タバサを捕まえたエルフ…ビダーシャルは、幼生とは言え風韻竜から風の精霊の加護を引っ剥がすレベルの精霊への干渉力の持ち主ということです。私の攻撃は、まあまず通用しないでしょう。それどころか、私自身の魔法で私が蒸発しかねません。「今回ばかりは銃器でも解決できませんよね、間違いなく。」つーか、核兵器食らっても生きていそうなのが怖いです。「それは兎に角として、前に私に見せてくれた格好の方に変身しなおしてください。」「きゅい…くるるるるるるるる、きゅるるるるるるるるるるる…。」精霊が反応して起こる光にシルフィードは包まれ、その光が止んだ時には16~18歳くらいの少女の姿になっていたのでした。タバサと同じ青銀色の髪にボンキュッボンのダイナマイトボディです。「じゃ、取り敢えず服でも用意することにしましょうか。」でないと、魔法学院に裸で歩きまわるガリア王族っぽい少女とかいう学院七不思議が生まれかねませんしね。「服イヤー!布っきれを体に巻きつけると、風の精霊が嫌がるからシルフィも不快になるのね! 裸がシルフィのユニフォームです!きゅいきゅい!」「何処のアパッチ野球軍ですか、貴女は…。」シルフィードに説教を始めた途端に後ろから妙な気配が…。「おーいケティ、ルイズがまだ知らせは来ないのか…って…え?裸の女の子?」「きゅい?」コレまた狙ったようなタイミングでやってきた才人が、ノックもせずに部屋にやって来たのでした。フフフ…このラッキースケベ野郎めがー!