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No.7277の一覧
[0] ケティ・ド・ラ・ロッタの事も、時々思い出してあげてください(ケティに転生)[灰色](2010/10/04 10:30)
[1] プロローグ[灰色](2009/05/07 01:14)
[2] 第一話 クラッシュできないフラグもあるのです[灰色](2009/07/02 19:17)
[3] 第二話 貴族の矜持はそういう所で発揮しない方が良いのです[灰色](2009/11/22 01:19)
[4] 第三話 引き際は重要なのです[灰色](2009/10/25 15:10)
[5] 第四話 思わぬ失態と収穫なのです[灰色](2009/11/22 01:22)
[6] 第五話 人を呪わば穴二つなのです[灰色](2009/04/13 23:59)
[7] 第六話 決戦に挑むは後の勇者たちなのです[灰色](2014/05/14 22:52)
[8]  番外編 ハーレム願望も程々にして欲しいのです[灰色](2009/11/22 01:29)
[9] 第七話 男はアホな生き物なのです[灰色](2009/10/31 23:38)
[10] 第八話 格好つかない日もあるのです[灰色](2009/10/25 15:11)
[11] 第九話 これが青春だ!なのです[灰色](2009/11/22 01:30)
[12] 第十話 男心も乙女心も複雑なのです[灰色](2009/04/14 00:01)
[13] 第十一話 気付けば矢面なのです[灰色](2009/05/17 15:13)
[14] 第十二話 介入し過ぎたのかもしれないのです[灰色](2009/04/24 09:58)
[15] 第十三話 裏切りとか、壮絶な最期とか、油断とか、なのです[灰色](2009/04/25 17:31)
[16]  プレ編01 杖と契約するまで[灰色](2009/05/17 15:13)
[17] 第十四話 嵐の合間の静けさなのです[灰色](2009/11/22 01:31)
[18] 第十五話 ファンタジーといえばクエストなのです[灰色](2009/05/17 15:12)
[19] 第十六話 ついて来る人来ない人なのです[灰色](2009/05/23 11:04)
[20] 第十七話 でっち上げ傭兵団、旗揚げなのです[灰色](2009/11/22 01:32)
[21] 第十八話 往くぞ空の彼方まで!なのです[灰色](2009/05/29 17:05)
[22] 第十九話 男と女のエトセトラ、メカもあるのです[灰色](2009/11/22 01:32)
[23]  幕間19.1 トリステイン空軍の意地[灰色](2010/02/25 00:03)
[24] 第二十話 そして少年と少女は背景になった…なのです[灰色](2009/11/22 01:27)
[25] 第二十一話 姫様がはっちゃけ過ぎなのです[灰色](2009/07/12 11:32)
[26] 第二十二話 媚薬なんか作るからこんな事になるのです[灰色](2010/02/22 10:03)
[27] 第二十三話 羞恥心と後悔で死ねそうなのです[灰色](2009/09/08 21:57)
[28]  幕間23.1 女王誘拐[灰色](2010/02/25 00:03)
[29] 第二十四話 絶対に叶わない恋のお話なのです[灰色](2009/10/30 06:59)
[30]  幕間24.1 トリステイン銃士隊&約束を履行したりさせられたり[灰色](2010/03/10 18:34)
[31] 第二十五話 勤労精神と格差とガンマニアなのです[灰色](2010/02/22 10:04)
[32]  幕間25.1 艦隊再建[灰色](2010/02/25 00:04)
[33] 第二十六話 酒場にまつわるエトセトラなのです[灰色](2010/02/22 10:05)
[34] 第二十七話 何事も計画的に程々に、なのです[灰色](2009/10/30 07:01)
[35]  幕間27.1 探す人、あるいは貧乏人達の夜&微熱と熱風の憂鬱[灰色](2010/03/10 18:30)
[36] 第二十八話 諦めた方が幸せな事もあるのです[灰色](2009/10/25 15:09)
[37]  幕間28.1 お買い物デートっぽい何かと女王の憂鬱[灰色](2010/03/10 18:44)
[38] 第二十九話 仕掛けは済んだ、後は…なのです[灰色](2010/09/25 01:44)
[39]  幕間29.1 王女と剣士の少年[灰色](2010/03/10 18:52)
[40] 第三十話 少し気まずい決着…なのです[灰色](2010/02/22 10:09)
[41]  幕間30.1 演歌は心で歌うもの そして、例のアレ[灰色](2010/02/25 00:07)
[42]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山01 [灰色](2010/11/01 10:27)
[43]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山02[灰色](2010/11/04 07:35)
[44]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山03[灰色](2010/11/04 21:36)
[45]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山04[灰色](2010/11/08 23:16)
[46]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山05[灰色](2010/11/19 22:08)
[47] 第三十一話 やっぱり男は必要なのです[灰色](2010/02/22 10:11)
[48]  幕間31.1 スイーツとビター[灰色](2010/02/25 16:55)
[49] 第三十二話 美容の為に命を懸けるのです(加筆修正+幕間部分を試験的に追加)[灰色](2010/03/10 18:57)
[50] 第三十三話 人間なので、間違えることも多々あるのです[灰色](2010/03/19 22:54)
[51] 第三十四話 ハードラックとダンスっちまった…なのです。[灰色](2010/05/08 06:59)
[52]  幕間34.1 舞台裏…って、裏とか言うな! ※ゴム存在に改定※[灰色](2010/05/19 10:20)
[53] 第三十五話 前半分は思い出したくも無いのです[灰色](2010/05/26 23:10)
[54]  幕間 35.1 ダータルネスの大艦隊[灰色](2010/05/30 15:46)
[55] 第三十六話 とんでもない事実なのです[灰色](2010/08/11 18:11)
[56] 第三十七話 才人はお酒を飲まない方が良いと思うのです[灰色](2010/06/19 00:40)
[57]  幕間37.1 漆黒の女王、情熱の娘[灰色](2010/07/01 06:57)
[58] 第三十八話 ジュリオに始まりジュリオに終わるのです[灰色](2010/07/15 21:45)
[59] 第三十九話 勝ったのに御通夜みたいなのです[灰色](2011/04/20 21:37)
[60] 第四十話 勝敗は兵家の常なのです[灰色](2010/08/11 21:17)
[61] 第四十一話 たった三人の撤退戦なのです[灰色](2010/08/19 20:14)
[62]  幕間41.1 血塗れの真紅の悪魔[灰色](2010/08/22 05:55)
[63] 第四十二話 泣いている暇なんて無いのです。[灰色](2010/09/11 08:53)
[64]  幕間42.1 よくコケる王様[灰色](2010/09/16 22:12)
[65]  幕間42.2 怪力娘と真っ黒王女[灰色](2010/09/29 10:22)
[66] 第四十三話 いいモノ持ってんじゃねえか?なのです[灰色](2011/04/20 21:37)
[67] 第四十四話 砲兵は戦場の神なのです[灰色](2010/10/11 15:56)
[68] 第四十五話 ウエストウッド村要塞化なのです[灰色](2010/10/19 11:50)
[69]  幕間45.1 青髪の王と可哀想な使い魔[灰色](2010/10/21 22:53)
[70] 第四十六話 骨の髄までしゃぶり尽くされるのが英雄なのです[灰色](2010/10/30 19:12)
[71] 第四十七話 飾って眺めるのです[灰色](2014/05/14 22:49)
[72]  幕間47.1 無茶振り女王とガンマニア娘[灰色](2010/12/09 00:06)
[73] 第四十八話 ああ!窓に!窓に!なのです[灰色](2010/12/17 12:04)
[74] 第四十九話 平和な時ほど物騒なのです[灰色](2011/01/11 07:06)
[75]  幕間49.1 よく考えてみれば新年度だったのです [灰色](2011/01/11 07:06)
[76]  幕間49.2 忘れてなんかいないヨ、本当ダヨ?[灰色](2011/01/14 10:03)
[77] 第五十話 未練たらたらなのです[灰色](2011/01/29 09:34)
[78]  番外編 チョコ無き世界のバレンタインデー[灰色](2011/02/14 10:22)
[79] 第五十一話 平行世界は色々あるのです[灰色](2011/02/25 01:05)
[80]  幕間51.1 タバサに関わる色々なもの 1[灰色](2011/04/21 07:55)
[81]  幕間51.2 タバサに関わる色々なもの 2 (若干追加)[灰色](2011/04/23 14:53)
[82]  幕間51.3 タバサに関わる色々なもの 3[灰色](2011/07/09 12:04)
[83]  幕間51.4 タバサに関わる色々なもの 4 (加筆修正)[灰色](2011/09/06 19:16)
[84]  幕間51.5 タバサに関わる色々なもの 5[灰色](2011/09/19 15:05)
[85]  幕間51.6 タバサに関わる色々なもの 6[灰色](2011/10/01 00:40)
[86] 第五十二話 久しぶりにのんびりまったりと…エロ話なのです[灰色](2012/05/29 21:55)
[87] 第五十三話 さあ、作戦を始めよう…なのです[灰色](2012/05/18 23:42)
[88] 第五十四話 霧とともに舞い降りるのです[灰色](2012/05/29 21:29)
[89]  幕間54.1 エルフとタバサ、そしてとある物語[灰色](2012/08/03 10:27)
[90] 第五十五話 悲しいけど、これって潜入任務なのよね!なのです[灰色](2012/09/25 20:17)
[91]  超番外編01 てりやきバーガーが食べたい[灰色](2012/11/04 07:57)
[92]  超番外編02 豆チョコ戦車、それは愛[灰色](2013/02/16 19:53)
[93]  幕間55.1 タバサの願う事[灰色](2013/04/24 19:03)
[94] 第五十六話 なるべくなら戦わずに勝ちたいものなのです[灰色](2013/05/26 19:58)
[95] 第五十七話 取り敢えずは逃げるのみなのです[灰色](2013/06/24 01:13)
[96]  幕間57.1 門を開放するまで / ガリアの変な面々[灰色](2013/06/24 20:22)
[97]  突発座談会 そんな名の罰ゲェム[灰色](2013/06/30 00:31)
[98] 第五十八話 人生初のゲルマニアなのです[灰色](2013/08/31 19:16)
[99]  幕間58.1 時の迷子マリー[灰色](2013/08/31 10:24)
[100] 第五十九話 秘密にし続けるのは無理なのです[灰色](2013/10/09 09:11)
[101]  超番外編03 This Is Halloween[灰色](2013/11/01 21:59)
[102] 第六十話 私は見守っていますよ。見守るだけですが、なのです[灰色](2013/11/04 23:47)
[103]  幕間60.1 鬼の居ぬ間に鬼が居る[灰色](2013/12/19 22:26)
[104]  幕間60.2 ケティの居ない学園アレコレ[灰色](2014/01/26 23:42)
[105] 第六十一話 久々の学院なのです[灰色](2014/05/05 07:25)
[106] 第六十二話  ロマリアの光と影なのです[灰色](2014/09/09 18:12)
[107]  タバサの冒険編 タバサとケティとついでに吸血鬼01[灰色](2014/08/06 19:03)
[108]  タバサの冒険編 タバサとケティとついでに吸血鬼02[灰色](2014/10/31 22:51)
[109]  タバサの冒険編 タバサとケティとついでに吸血鬼03[灰色](2015/02/24 20:03)
[110] 第六十三話  武器、治療。そして教皇あらわる。なのです[灰色](2016/01/03 00:15)
[111] 第六十四話 教皇との面倒臭い話なのです[灰色](2017/03/19 01:19)
[112] 第六十五話 私の弱点などどうでも良いのです[灰色](2017/05/26 20:55)
[113] 第六十六話 3度目のアルビオンなのです[灰色](2020/07/16 00:30)
[114] 第六十七話 知っていても話せないのです[灰色](2020/07/16 00:52)
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[7277]  幕間37.1 漆黒の女王、情熱の娘
Name: 灰色◆a97e7866 ID:79909f1c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/01 06:57
「では、こちらはこのように。」

「はっ。」

アンリエッタがサインした書類を、官僚が受け取って立ち去る。
ここは何時もの執務室ではない。
王城にある小さいながらも豪奢な聖堂である。
アンリエッタはこの豪華な聖堂の装飾品も含めて城の装飾品を片っ端から売り払おうとしたのだが、ケティに止められた経緯がある。
ケティ曰く『王城の装飾品とは、国力を誇示する為のものなのです。』
つまり王城の装飾品とは『我が国ではこれだけの品を飾っておく余裕があります』という、外交上のハッタリでもあるので気安く売り払ってはいけないという事だった。
まあそんなわけで、アンリエッタとしては好きで絢爛豪華に飾り立てているわけでも無かったりする。
庶民には通じにくいが、見栄とハッタリは王侯貴族や金持ちやヤクザの世界では大事なのだ。


「しかし陛下、わざわざこのような所で執務をなさらなくても。」

マザリーニは窘めるようにアンリエッタに言った。


「あら、どうしてかしら枢機卿?」

そう返しつつも、アンリエッタの目と手は止まらない。
ちなみにアンリエッタは現在、全身黒尽くめの喪服姿。
あまり多くは語らないが、黒さが際立っていた。


「始祖は『聖堂で仕事をしてはいけない』とか、仰られていたかしら?」

「いえ、それはありませぬが…私も聖職者の端くれとして申させて頂けば、些か不謹慎ではないかと。」

政治家としての姿が目立ち過ぎる為か、ほぼ完全に聖職者である事を忘れ去られつつあるマザリーニは溜息を吐いた。


「そうは言っても、仕事を止めて日がな一日中祈っているわけにもいかないもの。」

「い、祈ってらっしゃったのですか!?」

アンリエッタの言葉に、マザリーニは思わずのけぞった。


「あのね、私をなんだと…まあ良いわ。
 これ、何だと思う?」

アンリエッタはマザリーニに数枚綴りの書類を見せた。


「これは…戦死者名簿ですかな?」

「そう、国の為に名誉の戦死を遂げた者たちの名よ。
 戦後家族に渡される戦没者名誉百合章の授与名簿にもなっているわ。
 基本的にゲルマニアの後ろに隠れているとはいえ、矢張り犠牲無しというわけにはいかないのよね。」

アンリエッタの手が少し震えているのをマザリーニは見つけた…が、見なかった事にした。


「前途ある若者を煽てて宥めすかして死地に送って、死んだら勲章渡してハイ御終い…なんていうのは嫌なのよ。
 人の命を掌で転がす立場にある身ですもの。
 国の為に戦っている彼らの死を悼むくらいはしないと、私は何時か人を人とも思わなくなるわ。
 私は慈悲深く、かつ情け容赦無い君主になりたいの。」

「それは矛盾しているのでは?」

慈悲深いと情け容赦無いは殆ど対極みたいな言葉である。


「自分の中にある矛盾さえ御し得ないのであれば、臣下など到底御し得ないのではなくて?」

「ふむ、そうかもしれませんな。」

臣下という他人の心を御す事に比べれば、己の矛盾など大した事が無いかもしれないななどと思いつつ、マザリーニは頷く。
しかし…とマザリーニは目の前の黒尽くめの少女を見ながら思う。


(あの夢の世界の住人の様であられた御方が、この悪夢のような世界に足を踏み入れ、しかも極短期間でよくぞここまで御立派に育たれたものだ。)

アンリエッタの母がアレだっただけに、即位して仕事をしてくれるだけでも万々歳なのに、率先して仕事をどんどんこなし、メキメキと実力をつけて行く。
しかも、ケティ・ド・ラ・ロッタという掘り出し物まで見つけて来てくれたと思っている為、感動で涙がちょちょ切れそうなマザリーニだった。


「枢機卿、喪服を良く見る聖職者として、私の喪服姿はどうかしら、似合っていて?」

「似合うとは思いますが…。」

真っ黒だと、何時も出ている妙なオーラが更に強くなる感じがするのだ。
ある意味物凄く良く似合っているのかもしれないが、この歳の少女が問答無用で平伏したくなるオーラを出しているというのは、王であるとかそういう点は置いておいてどうかと思うマザリーニだった。


「姫様はやはり、白の方がお似合いかと。」

「そう…でも確かに常に黒尽くめの女王とか、英雄譚に出てくる悪役よね。」

アンリエッタは皮肉っぽくほほほと笑った…どう見ても悪役だなぁとか、マザリーニが思ったかどうかは定かではない。


「ああそうそう枢機卿、いきなり話は変わるけれども、私の夫候補は見つかったかしら?」

「陛下の指定は確かに道理に適っていますが、『賢くて控え目で家柄が良くて本人含めて一族に調子に乗りそうなものが居ない』なんて、なかなか見つかるわけが無いでしょう。」

アンリエッタのリクエストは無茶振り過ぎた。


「だって、賢く無ければ王配として表に出せないでしょ?
 女王の夫になるのであれば、ある程度の地位や名声が無いと大変だし、一族が調子に乗ったら粛清しなきゃいけないじゃない?
 いくら私でも、夫の親戚を処刑したり地下牢に放り込んだりするのは気が引けるのよ。」

「粛清が大前提とは、相変わらず問答無用ですな…。」

マザリーニの顔が思わず引き攣る。
外戚が調子に乗るのは世の常なのだが、アンリエッタは調子に乗ったら即座に粛清して引き締めるつもりらしい。


「どうにもならなくなってから引き締めても意味が無いのよ。
 不穏な芽は芽のうちに徹底的に轢き潰しておくべきだって、ケティの本にも書いてあったし。」

「彼女の本は、時々とてつもなく過激ですからな…。」

もし彼女に夫が出来たら、外戚になる者たちを呼んで待遇は一切変わらない旨を伝えねばならないなと思うマザリーニだった。
目障りな枝がある場合には先にこっそり剪定しておかないと、決断に躊躇しない彼の主君は木ごと切り倒してしまいかねない。
だからこそ彼が官僚を手足として使って予め根回しをし、主君の目につく前に穏便に済まさねばならないのだ。
まあそれが王の仕事であり、その前のクッションとなるのが大臣や官僚の本来するべき仕事なので至極当たり前なのだが。


「ケティが男だったら、事は早かったのにねえ?
 あの子の家、家柄の古さだけで言うならトリステイン屈指だし。
 良い感じに能吏が手に入るし。」

「陛下は何を言っているのですか。
 ケティ殿が聞いたら、本気で嫌がりますぞ。」

マザリーニは頭を抱える。


「…ああ、そう言えばケティにも弟がいたわね。」

アンリエッタはふと思いついたように手槌を打った。


「アルマン・ド・ラ・ロッタですな…彼はラ・ロッタ家の跡取り息子です。
 恐らくケティ殿が大反対するかと。」

「何で?」

マザリーニがそう言うと、アンリエッタは首を傾げた。


「ラ・ロッタ家は古来より男系相続となっています。
 詳しい理由はラ・ロッタの継承権を持つ者しか知らないそうですが、『山の女王』と何か関わる理由があるそうで。」

「何それ怖い。」

本当に、知らない人には何処までも謎の大魔境なラ・ロッタ領だった。





「ふおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

ゲルマニアの自治都市ブレーメンにコルベールの歓喜の声が響き渡る。
もくもくと缶から噴出す蒸気、そしてボイラー、回るプロペラ、全部コルベールの大好物だったからだ。


「先生、喜び過ぎですわ。」

一緒に付いて来たキュルケは少し引きつつも、コルベールに自重を促した。


「いやしかしだねミス・ツェルプストー、この光景を見て感動しない者がいるのかね?
 魔法の力を一切使わない動力なんだよ!?」

「そうは言われても、よくわかりませんわ。」

確かに大掛かりだが、このくらいなら魔法でやって出来ない事は無いのだ。


「ようこそフルカン造船所へ、お待ちしておりましたコルベール殿。
 私の名はアルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガー、当造船所の職人長です。」

ベルブリンガーと名乗った男は、一礼してコルベールに握手を求める。


「ジャン・コルベールです。
 しかし素晴らしいからくりですな!」

「いやお恥ずかしい、これはまだ全然未完成なのですよ。」

頬を赤らめ、ベルブリンガーは頭を掻く。


「これで、ですか?」

「ええ、ケティ様が求められた出力を出せんのです。
 いやまあ、出そうと思って出せん事は無いのですが…。」

ベルブリンガーは途方に暮れた表情になる。


「出すとどうかなってしまうんですか?」

「蒸気の圧力とタービンの回転にタービン車室が耐えられんのですよ、つまり大爆発を起こします。
 色々やってみたんですが、どうにも上手くいかなくて。」

ケティの持ってきた進んだ技術に、冶金技術の進んだゲルマニアの職人メイジですら対処が出来ない…ここに来て動力開発はどん詰まりになっていた。


「そうなのですか。
 しかし素晴らしい…このような機構を誰が思いつかれたのですかな?」

「アンナ・ファン・サクセン殿という、女性の職人らしいです。
 彼女が作ったという機構を、ここの職人が発展させてあの機構を作ったんですよ。」

ちなみに、アンナに軸流式蒸気タービンの発想を伝えて作らせたのはケティだったりする。


「その方とは、一度会って話がしてみたいものですな。
 どれどれ…確かにこの機構は、使用する部品にえらく強度が要りそうですな、ううむ…。」

「ええ、途方に暮れております。」

ベルブリンガーの言葉を聴きながら、コルベールはうんうん唸っている。


「ど、どうしたんですの、コルベール先生?」

その様子を見て、キュルケが声をかける。


「…そうか、私の作ったアレと組み合わせて…。」

しかし、コルベールはぶつぶつ呟いている。
その表情が前に学園で見た、彼が戦いに赴く時に見せた表情とダブって見えるキュルケだった。


「かっこいい…かも?」

恋多き女、キュルケの胸がキュンと高鳴った瞬間だった。


「うん、これなら強度が得られる…しかし、構造が…。」

思考の海に没入しつつあるコルベール。


「ぽーっ。」

それに見とれるキュルケ。


「変わった方々が来られたものだ。」

アルプレヒトは頭を掻いた。


「よっしゃ、漲 っ て き た !」

コルベールは大きく頷くと吼えた。


「な、何事ですか!?」

「ベルブリンガー殿、設計図の図面を引きたいのですが!」

コルベールはそう言いながらベルブリンガーの肩を掴んだ。


「ず、図面ですか?」

「はい、方式は変わりますが、蒸気を高出力の動力に変える方法、思いつきましたぞ!」

コルベールは何かティンと来たらしい。


「先生素敵!」

そしてキュルケは何かおかしい。


「それはそうとコルベール殿、こちらの女性はどなたですか?
 助手?」

ベルブリンガーは戸惑いながら、目をハートの形にしたキュルケを見る。


「え?あ、忘れていました。
 こちらの女性は…。」

「初めまして、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。」

コルベールの促しに正気に戻ったキュルケが、ベルブリンガーに優雅に一礼した。


「ツェルプストー…まさか、ツェルプストー辺境伯家!?」

ツェルプストー家の爵位は辺境伯であり、同時にゲルマニア七選帝侯の一つに数えられるゲルマニア屈指の名家である。
しかも今居る自由都市ブレーメンは、ツェルプストー家の威光によって独立を保障されている都市なのだ。


「あら、びっくりしていただけたようで嬉しいですわ。」

「し、しかし何故にツェルプストー家の方が…?」

この造船所は、機密保持の契約をしたゲルマニア人以外は、例え妻子だろうが立ち入り禁止になっている。
例え大貴族と言えど、例外は無い筈だった。


「あら、ケティから聞いていないの?
 うちも多少ながら出資する事になったのよ…もっとも、私は良く分からないのだけれどもね、あっはっは。」

キュルケはあっけらかんと笑い始める。


「良く分からないものに出資を?」

「コルダイトを作っても作り方を一切他社に公表しないケティの商会が、技術流出の危険まで冒して冶金技術の高いゲルマニアに拠点を作ったのよ。
 絶対、ゲルマニアの技術を使った面白いものに決まっているじゃない?」

そう言って、キュルケは魅力的なウインクをして見せたのだった。


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