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No.7277の一覧
[0] ケティ・ド・ラ・ロッタの事も、時々思い出してあげてください(ケティに転生)[灰色](2010/10/04 10:30)
[1] プロローグ[灰色](2009/05/07 01:14)
[2] 第一話 クラッシュできないフラグもあるのです[灰色](2009/07/02 19:17)
[3] 第二話 貴族の矜持はそういう所で発揮しない方が良いのです[灰色](2009/11/22 01:19)
[4] 第三話 引き際は重要なのです[灰色](2009/10/25 15:10)
[5] 第四話 思わぬ失態と収穫なのです[灰色](2009/11/22 01:22)
[6] 第五話 人を呪わば穴二つなのです[灰色](2009/04/13 23:59)
[7] 第六話 決戦に挑むは後の勇者たちなのです[灰色](2014/05/14 22:52)
[8]  番外編 ハーレム願望も程々にして欲しいのです[灰色](2009/11/22 01:29)
[9] 第七話 男はアホな生き物なのです[灰色](2009/10/31 23:38)
[10] 第八話 格好つかない日もあるのです[灰色](2009/10/25 15:11)
[11] 第九話 これが青春だ!なのです[灰色](2009/11/22 01:30)
[12] 第十話 男心も乙女心も複雑なのです[灰色](2009/04/14 00:01)
[13] 第十一話 気付けば矢面なのです[灰色](2009/05/17 15:13)
[14] 第十二話 介入し過ぎたのかもしれないのです[灰色](2009/04/24 09:58)
[15] 第十三話 裏切りとか、壮絶な最期とか、油断とか、なのです[灰色](2009/04/25 17:31)
[16]  プレ編01 杖と契約するまで[灰色](2009/05/17 15:13)
[17] 第十四話 嵐の合間の静けさなのです[灰色](2009/11/22 01:31)
[18] 第十五話 ファンタジーといえばクエストなのです[灰色](2009/05/17 15:12)
[19] 第十六話 ついて来る人来ない人なのです[灰色](2009/05/23 11:04)
[20] 第十七話 でっち上げ傭兵団、旗揚げなのです[灰色](2009/11/22 01:32)
[21] 第十八話 往くぞ空の彼方まで!なのです[灰色](2009/05/29 17:05)
[22] 第十九話 男と女のエトセトラ、メカもあるのです[灰色](2009/11/22 01:32)
[23]  幕間19.1 トリステイン空軍の意地[灰色](2010/02/25 00:03)
[24] 第二十話 そして少年と少女は背景になった…なのです[灰色](2009/11/22 01:27)
[25] 第二十一話 姫様がはっちゃけ過ぎなのです[灰色](2009/07/12 11:32)
[26] 第二十二話 媚薬なんか作るからこんな事になるのです[灰色](2010/02/22 10:03)
[27] 第二十三話 羞恥心と後悔で死ねそうなのです[灰色](2009/09/08 21:57)
[28]  幕間23.1 女王誘拐[灰色](2010/02/25 00:03)
[29] 第二十四話 絶対に叶わない恋のお話なのです[灰色](2009/10/30 06:59)
[30]  幕間24.1 トリステイン銃士隊&約束を履行したりさせられたり[灰色](2010/03/10 18:34)
[31] 第二十五話 勤労精神と格差とガンマニアなのです[灰色](2010/02/22 10:04)
[32]  幕間25.1 艦隊再建[灰色](2010/02/25 00:04)
[33] 第二十六話 酒場にまつわるエトセトラなのです[灰色](2010/02/22 10:05)
[34] 第二十七話 何事も計画的に程々に、なのです[灰色](2009/10/30 07:01)
[35]  幕間27.1 探す人、あるいは貧乏人達の夜&微熱と熱風の憂鬱[灰色](2010/03/10 18:30)
[36] 第二十八話 諦めた方が幸せな事もあるのです[灰色](2009/10/25 15:09)
[37]  幕間28.1 お買い物デートっぽい何かと女王の憂鬱[灰色](2010/03/10 18:44)
[38] 第二十九話 仕掛けは済んだ、後は…なのです[灰色](2010/09/25 01:44)
[39]  幕間29.1 王女と剣士の少年[灰色](2010/03/10 18:52)
[40] 第三十話 少し気まずい決着…なのです[灰色](2010/02/22 10:09)
[41]  幕間30.1 演歌は心で歌うもの そして、例のアレ[灰色](2010/02/25 00:07)
[42]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山01 [灰色](2010/11/01 10:27)
[43]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山02[灰色](2010/11/04 07:35)
[44]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山03[灰色](2010/11/04 21:36)
[45]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山04[灰色](2010/11/08 23:16)
[46]  番外編 タバサの冒険・ケティの物見遊山05[灰色](2010/11/19 22:08)
[47] 第三十一話 やっぱり男は必要なのです[灰色](2010/02/22 10:11)
[48]  幕間31.1 スイーツとビター[灰色](2010/02/25 16:55)
[49] 第三十二話 美容の為に命を懸けるのです(加筆修正+幕間部分を試験的に追加)[灰色](2010/03/10 18:57)
[50] 第三十三話 人間なので、間違えることも多々あるのです[灰色](2010/03/19 22:54)
[51] 第三十四話 ハードラックとダンスっちまった…なのです。[灰色](2010/05/08 06:59)
[52]  幕間34.1 舞台裏…って、裏とか言うな! ※ゴム存在に改定※[灰色](2010/05/19 10:20)
[53] 第三十五話 前半分は思い出したくも無いのです[灰色](2010/05/26 23:10)
[54]  幕間 35.1 ダータルネスの大艦隊[灰色](2010/05/30 15:46)
[55] 第三十六話 とんでもない事実なのです[灰色](2010/08/11 18:11)
[56] 第三十七話 才人はお酒を飲まない方が良いと思うのです[灰色](2010/06/19 00:40)
[57]  幕間37.1 漆黒の女王、情熱の娘[灰色](2010/07/01 06:57)
[58] 第三十八話 ジュリオに始まりジュリオに終わるのです[灰色](2010/07/15 21:45)
[59] 第三十九話 勝ったのに御通夜みたいなのです[灰色](2011/04/20 21:37)
[60] 第四十話 勝敗は兵家の常なのです[灰色](2010/08/11 21:17)
[61] 第四十一話 たった三人の撤退戦なのです[灰色](2010/08/19 20:14)
[62]  幕間41.1 血塗れの真紅の悪魔[灰色](2010/08/22 05:55)
[63] 第四十二話 泣いている暇なんて無いのです。[灰色](2010/09/11 08:53)
[64]  幕間42.1 よくコケる王様[灰色](2010/09/16 22:12)
[65]  幕間42.2 怪力娘と真っ黒王女[灰色](2010/09/29 10:22)
[66] 第四十三話 いいモノ持ってんじゃねえか?なのです[灰色](2011/04/20 21:37)
[67] 第四十四話 砲兵は戦場の神なのです[灰色](2010/10/11 15:56)
[68] 第四十五話 ウエストウッド村要塞化なのです[灰色](2010/10/19 11:50)
[69]  幕間45.1 青髪の王と可哀想な使い魔[灰色](2010/10/21 22:53)
[70] 第四十六話 骨の髄までしゃぶり尽くされるのが英雄なのです[灰色](2010/10/30 19:12)
[71] 第四十七話 飾って眺めるのです[灰色](2014/05/14 22:49)
[72]  幕間47.1 無茶振り女王とガンマニア娘[灰色](2010/12/09 00:06)
[73] 第四十八話 ああ!窓に!窓に!なのです[灰色](2010/12/17 12:04)
[74] 第四十九話 平和な時ほど物騒なのです[灰色](2011/01/11 07:06)
[75]  幕間49.1 よく考えてみれば新年度だったのです [灰色](2011/01/11 07:06)
[76]  幕間49.2 忘れてなんかいないヨ、本当ダヨ?[灰色](2011/01/14 10:03)
[77] 第五十話 未練たらたらなのです[灰色](2011/01/29 09:34)
[78]  番外編 チョコ無き世界のバレンタインデー[灰色](2011/02/14 10:22)
[79] 第五十一話 平行世界は色々あるのです[灰色](2011/02/25 01:05)
[80]  幕間51.1 タバサに関わる色々なもの 1[灰色](2011/04/21 07:55)
[81]  幕間51.2 タバサに関わる色々なもの 2 (若干追加)[灰色](2011/04/23 14:53)
[82]  幕間51.3 タバサに関わる色々なもの 3[灰色](2011/07/09 12:04)
[83]  幕間51.4 タバサに関わる色々なもの 4 (加筆修正)[灰色](2011/09/06 19:16)
[84]  幕間51.5 タバサに関わる色々なもの 5[灰色](2011/09/19 15:05)
[85]  幕間51.6 タバサに関わる色々なもの 6[灰色](2011/10/01 00:40)
[86] 第五十二話 久しぶりにのんびりまったりと…エロ話なのです[灰色](2012/05/29 21:55)
[87] 第五十三話 さあ、作戦を始めよう…なのです[灰色](2012/05/18 23:42)
[88] 第五十四話 霧とともに舞い降りるのです[灰色](2012/05/29 21:29)
[89]  幕間54.1 エルフとタバサ、そしてとある物語[灰色](2012/08/03 10:27)
[90] 第五十五話 悲しいけど、これって潜入任務なのよね!なのです[灰色](2012/09/25 20:17)
[91]  超番外編01 てりやきバーガーが食べたい[灰色](2012/11/04 07:57)
[92]  超番外編02 豆チョコ戦車、それは愛[灰色](2013/02/16 19:53)
[93]  幕間55.1 タバサの願う事[灰色](2013/04/24 19:03)
[94] 第五十六話 なるべくなら戦わずに勝ちたいものなのです[灰色](2013/05/26 19:58)
[95] 第五十七話 取り敢えずは逃げるのみなのです[灰色](2013/06/24 01:13)
[96]  幕間57.1 門を開放するまで / ガリアの変な面々[灰色](2013/06/24 20:22)
[97]  突発座談会 そんな名の罰ゲェム[灰色](2013/06/30 00:31)
[98] 第五十八話 人生初のゲルマニアなのです[灰色](2013/08/31 19:16)
[99]  幕間58.1 時の迷子マリー[灰色](2013/08/31 10:24)
[100] 第五十九話 秘密にし続けるのは無理なのです[灰色](2013/10/09 09:11)
[101]  超番外編03 This Is Halloween[灰色](2013/11/01 21:59)
[102] 第六十話 私は見守っていますよ。見守るだけですが、なのです[灰色](2013/11/04 23:47)
[103]  幕間60.1 鬼の居ぬ間に鬼が居る[灰色](2013/12/19 22:26)
[104]  幕間60.2 ケティの居ない学園アレコレ[灰色](2014/01/26 23:42)
[105] 第六十一話 久々の学院なのです[灰色](2014/05/05 07:25)
[106] 第六十二話  ロマリアの光と影なのです[灰色](2014/09/09 18:12)
[107]  タバサの冒険編 タバサとケティとついでに吸血鬼01[灰色](2014/08/06 19:03)
[108]  タバサの冒険編 タバサとケティとついでに吸血鬼02[灰色](2014/10/31 22:51)
[109]  タバサの冒険編 タバサとケティとついでに吸血鬼03[灰色](2015/02/24 20:03)
[110] 第六十三話  武器、治療。そして教皇あらわる。なのです[灰色](2016/01/03 00:15)
[111] 第六十四話 教皇との面倒臭い話なのです[灰色](2017/03/19 01:19)
[112] 第六十五話 私の弱点などどうでも良いのです[灰色](2017/05/26 20:55)
[113] 第六十六話 3度目のアルビオンなのです[灰色](2020/07/16 00:30)
[114] 第六十七話 知っていても話せないのです[灰色](2020/07/16 00:52)
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[7277]  幕間23.1 女王誘拐
Name: 灰色◆a97e7866 ID:79909f1c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/25 00:03
アンリエッタは全ての公務を終え、部屋に帰ってきた。
よろよろと足取りも重く、疲れ果てているのが一目でわかる。


「はぁ…疲れた。」

アンリエッタはベッドに力無く横たわった。


「そろそろ疲れた以外の台詞も言うようにしないいといけないわね。
 毎日疲れた疲れたばかりじゃあ、気が滅入るというものだわ。」

最近の彼女は自室に戻るとやたらと独り言が多くなっていた、過労で脳内がハイになったままなせいかもしれない。
そう、女王に就任してからというもの、彼女の毎日は公務に始まり公務に終わるだけの毎日となっていた。


「ああもう、少しで良いから時間が欲しいわ、読みかけの詩集も即位以来一度も読めていないし、演劇も見られない…というよりもこの状態で演劇を見に行っても爆睡するだけだわ。
 私の中の乙女成分が日に日に無くなって行く実感…そして代わりに詰め込まれる政治家としての私…さようなら私の青春、麗しき少女時代。」

その仕事量たるや、彼女がまだ若いから何とかこなせているようなもので、本来一人の人間が処理しきれるようなものではないのだ。
老人だったら、数日でベッドではなく棺桶で永遠に眠る事になるだろう。


「そうだわ、お母様のバカー…とかはどうかしら?
 …駄目ね、頭の中が腐っていると、詩的な罵倒すらも困難になるのが確認できただけでも善しとしておきましょう。」

全ての仕事に正面から取り組み、枢機卿や大臣や官僚達等から助言を貰って決済していくうちに、彼女は凄まじい勢いで行政に関する能力を身に着けていった。
身につけていったというか、そうせねば仕事が進まないので、何が何でも覚えなければならない状況に追い込まれていたのだ。


「枢機卿に『決済を代行しますか?勿論絶対に陛下の決済が必要なものの場合はそうさせて頂きますが』と言われた時に『善きに計らって下さい』と言わなかったばかりにこんな目に。
 ああ、何であの時の私は『全部私がやりますわ、国王ですもの』とか言ってしまったのかしら…。
 もしも戻れるなら、言い直すのに。」

マリアンヌは代行承認すら『自らは王で無いのでそのような事は出来ない』と放置していたので、トリステインという国は機構として機能せず、枢機卿も大臣も官僚もそれぞれ自分の権限で出来る仕事をてんでばらばらにやっている形となっていた。
アンリエッタが直々に決済するようになって、やっと国が国として統合された機能を発揮し始めたのだ。

よくもまあ三年持ったものだと呆れるを通り越して感心したくなるアンリエッタであったが、実はマリアンヌの事をあまり怨んでいなかった。
サドっぽい笑みを浮かべながら、目の前に絶望的な高さの書類の塔を築く枢機卿や大臣や官僚達に比べれば。
実の母親でなければ即刻斬首してやるのにと時々思う程度、大したものではない。


「私だって政治に一切関心を持たずに恋に恋していたのだから、ある意味同罪ですものね。
 今こんな目にあうとわかっていたのなら、お父様が崩御した時に私が継ぐと即宣言しておくべきだったわ。」

とは言え、連日連夜の激務も後もう少しの事。
あと少しでトリステインという機構は取り敢えず形を取り戻す。
アンリエッタが判断し、命令し、決済した事が官僚達によって動き出し、国が国としての個を取り戻す。
そうすれば今よりは暇になり、お茶の時間や視察に名を借りた外出の時間も作れる…かもしれない。


「皆がそれぞれ独自に動いていた中で、明らかな不正が大量に発生しているのが痛過ぎるわ。
 不正行為でも、こんな国を何とか持たせてくれていたという事実もあるし…さて、どういう風に功罰を行使しようかしら?」

国家予算がどう見てもきちんと行き渡っていない状況なのだ。
多少ならまだ良いが、国家予算の3分の1が何処に出かけたのやら行方不明。
そして何故だか異様に羽振りの良い大臣やら官僚やらが散見される。

特に財務卿のリッシュモン。
非常に能力は高いのだが、数十万エキューも国家予算から引っこ抜いて懐に入れるというのは幾らなんでも許せるものではないし、全員が殆どお咎め無しではこの状態は改善されない。
他にも何やらきな臭い所があるので、今の所泳がせてはいるが…全てが判明次第、一族郎党一人残らず見せしめとして処刑せねばならないとアンリエッタは考えていた。
狡賢く利に敏い者達に利を説くのだ、『命と金…さて、どちらが大事かしら?』と。


「…その後で、他の者には白状すれば温情はあると示す必要もあるわね。」

頭が良くて臨機応変な対応が出来る者は、その良い頭で臨機応変に狡い事も考える…優秀な大臣や官僚は貴重だ。
全員処刑したら、官僚機構が機能しなくなってしまう。
正直な莫迦や清廉潔白な役立たずばかりでは国は立ち行かない、多少の濁りは仕方が無い。
勿論、横領した公金は家財を売り払ってでもきっちり返してもらうつもりだが、反省しているのであれば救済措置を取るつもりのアンリエッタだった。


「…って、こんな事考えている暇は無いのでしたわ。
 この時間は寝るのが公務なのよ、早く寝なきゃ。」

もはや眠る事さえ公務のアンリエッタ…前回会った時は話の内容にいまいちピンと来ていなかった様だが、彼女の幼馴染がこの激務を実際に目の当たりにしたら、姫様を殺す気かと激怒するのは想像に難くない。


「さあ寝ましょう…あら?」

改めて布団を被りなおして目を瞑ったアンリエッタだったが、ドアがノックされる音が室内に響いた。


「…どなた?」

「…………。」

しかし、返事は帰ってこない。
つまり、城の者ではない可能性が高い。
アンリエッタは枕の下に隠していた杖を握ると、もう一度ノックの音が。


「誰であるか?ここは王の寝室です。
 名を名乗りなさい、近衛騎士を呼ばれたく無ければ。」

今度は国王らしく尊大な口調で言ってみるアンリエッタだった。


「僕だ。」

「詐欺師は間に合っています。」

何となく聞き覚えのある声ではあったが、眠る寸前で頭が薄らぼんやりしているせいかいまいち思い出せない。


「さ…違う、僕だよウェールズだ。」

「ウェールズ…?」

確かにその声は、思い出してみれば彼の声によく似ている。
よく似ているが…何か違和感がある。


「ウェールズ様は爆死しましたわ。
 それとも、幽霊が来たとでも言うのかしら?」

「幽霊でもない、レキシントンに突っ込んだのは僕の影武者だ。
 僕は落ち延びたんだよ、アンリエッタ。
 さあ、ドアを開けておくれ、僕の可愛い従妹殿。」

あのウェールズに限ってそれはありえない…が、誰かが来ていて、それが自分の部屋の前に居るのは確かだ。


(無垢で儚げなお姫様に、暫く戻ろうかしら?)

明らかに罠だが、ここは乗った方が色々とわかるかもしれないし、ウェールズを騙る者は何より許し難い。
そう思ったアンリエッタは、さらさらっとメモを書いて枕の下に仕舞い、数ヶ月前の自分に上っ面だけ戻ってみる事にした。


「で、でも風のルビーは私の手の元に…。」

動揺するふりも大変ねと思いながら、アンリエッタはもう一段階の探りを入れてみる。


「敵を騙すにはまず味方からと言うだろう?
 僕は君が絶対に風のルビーを持っていてくれるとわかっていたからこそ、君の手元に渡るように仕向けたんだよ。」

「…わかりましたわ。
 では最後に何か、身の証になるような事はございませんの?」

理屈は通っているが、違和感は消えない。


「風吹く夜に。」

「…!?」

それは、ラグドリアン湖で会う時に決め、何度も聞いた合言葉。


(な…何故その言葉を知っているの?)

アンリエッタは本物ではないかと思わず信じたくなってしまう自分を、どうにか抑えつける事に成功し、ドアの鍵を開けた。
そしてそーっと扉を開けて、隙間から外をうかがう。


「ウェールズ…様。」

そこに居たのは確かに間違いなくウェールズだった。
アンリエッタと目が合うと、柔和に微笑んでくれる。
意識せずにドアを勝手に開いてしまう自分がいる一方で、アンリエッタの頭の中は冷め切っていた。


(あの頑固な人が国を捨ててなお、柔和に微笑みながら現れはしない。
 例えもし生きていたとしても、酷く悲しそうな顔をしている筈よ。)

これは罠なのだ、とてつもなく残酷な罠なのだと思いながら、アンリエッタはウェールズを抱きしめていた。


「ああ、ああ、ウェールズ…様、よくぞご無事で…。」

演技をしなくても、アンリエッタの両目からは勝手に涙が流れてくる。
願望で、絶望で、怒りで、悲しさで涙が止まらない。


「君は泣き虫だね、アンリエッタ。」

そう言って彼女の頭を撫でるウェールズの手が、やたらと硬質な感触なのにアンリエッタは気付いた。


「ウェールズ様、その手は…?」

「え?ああ…脱出の時にしくじってね、今は義手なんだ。
 流石に無傷では済まなかったよ。」

ウェールズは軽く引き攣った笑みを浮かべた。


「アンリエッタ陛下、お久し振りで御座います。」

ウェールズの後ろから、アンリエッタに敬礼をする老人が現れた。


「おお、バリー卿、貴方も無事だったのね。」

「はい、このバリー、恥ずかしながら落ち延びてまいりました。」

ウェールズの教育係であるバリーまでもがいて、彼と行動を共にしている。
どういう魔法が使われたのか、それともこの目の前の人は本当にウェールズなのか、そういう疑問がアンリエッタの脳裏に浮かんだ。


「敗戦の後、我々は脱出用の偽装商船を使ってトリステインに降下し、身を隠していたのです。
 王太子もご覧の通り片腕を失っておりましたし、追っ手に見つかるとまずいという事であちこちを転々としておりました。
 やっと傷も癒え、我が国がご迷惑をかけた事をお詫びしようと思ったのですが…。」

「…この通り追われる身だからね、白昼堂々とはいかない。
 僕がこの国にいることがばれれば、レコン・キスタはまたこの国へと侵攻してくるかもしれないからね。
 君が一人でいる時間を調べ上げて、こっそり来させてもらったというわけさ。」

辻褄は合うし、バリーもいる。
信じうるに足るだけの材料は揃っているが、それでも目の前のウェールズにアンリエッタは違和感を感じ続けていた。

仕草が別人と言うか、今は思い出せないが別の顔見知りのような気がするのだ。
ウェールズは基本的に柔和で癒しオーラの出ている人なのだが、このウェールズは癒し系というよりは伊達男系。
トリステインによくいるタイプの気障な仕草…。


「…ああもう、頭が疲れ過ぎているのかしら、思い出せないわ。」

「どうかしたのかい?」

思わず出た独り言を聞き返すウェールズに、アンリエッタはにっこりと微笑んだ。


「貴方と会った日が何月何日だったのか…忘れるだなんて私らしくないなと思いましたの。」

内心『やっちまったZE☆』と冷や汗ダラダラなアンリエッタだったが、連日の公務で鍛えた笑顔の仮面で何とか取り繕う事が出来たようだった。


「そうかい?何時出会ったか…なんて事よりも、君といる今の時の方が大事だと僕は思うね。」

「それは確かに…そうですわね。」

ウェールズはというか、アルビオン人は嫌味以外でこんな華麗な切り返しはしない。


(本当の彼なら、すこし困った顔をして『あははは』と笑う筈。)

やはり中身が違うと、アンリエッタは確信したのだった。


「…さて、茶番はこれくらいにしません?」

アンリエッタの表情が急に消えた。
いや、口だけ笑っているが、目から表情が消えた。
茫洋としていながら、全てを見抜こうとする視線を、王者の視線を自分と抱き合う男に向ける。


「私は確かに恋に恋する馬鹿な小娘ですわ。
 でもね、だからこそ想い人の仕草や喋り方は、はっきりと憶えているのよ。」

そう言って、アンリエッタは袖から取り出した杖をウェールズに向けた。


「貴方は…誰?」

「くっ…。」

ウェールズはアンリエッタを押し退けた。


「くくく…はははははは。
 一度やきが回ると回りっ放しか、俺も尽くづく運の無い男だ。」

笑う男の『フェイス・チェンジ』が解け、素顔が明らかになっていく。
トレードマークの帽子は無いが、もうひとつの特徴である髭にはよく見覚えのあるアンリエッタだった。
なぜならば、その男はたかだか数ヶ月前まで彼女の親衛隊長として働いていた男だったからだ。


「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド…私を殺しに来ましたか?」

「いいや、クロムウェルが貴方を御所望だ。
 同行願おうか?」

彼がそう言った途端に鳩尾に強烈な衝撃を受ける。

「うっ…。」

あの書置きを見つければ、すぐに事は発覚する。
追手が自分を助けてくれる事を願うしかないが、駄目ならルイズもいるしまあ良いかと思いながらアンリエッタの意識は暗転した。


「…さて、では偽者は早々に立ち去るとしようか。
 バリー、行くぞ。」

「はっ。」

裏切り者と生ける骸は、王宮の闇の中へと消えたのだった。


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