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No.6318の一覧
[0] 異界の扉は⇒一方通行 『ゼロ魔×禁書』[もぐきゃん](2011/02/28 13:22)
[1] 01[もぐきゃん](2011/06/23 00:39)
[2] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[3] 03[もぐきゃん](2010/03/02 16:24)
[4] 04[もぐきゃん](2010/03/02 16:35)
[5] 05[もぐきゃん](2010/03/02 16:36)
[6] 06[もぐきゃん](2010/03/02 16:33)
[7] 07[もぐきゃん](2010/03/02 16:58)
[8] 08[もぐきゃん](2010/03/02 17:03)
[9] 00/後、風呂[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[10] 09[もぐきゃん](2010/03/02 17:15)
[11] 10[もぐきゃん](2010/03/02 17:27)
[12] 11[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[13] 12[もぐきゃん](2010/06/02 16:51)
[14] 13/一部終了[もぐきゃん](2010/03/02 17:58)
[15] 01[もぐきゃん](2010/05/07 18:43)
[16] 02[もぐきゃん](2010/05/07 18:44)
[17] 03[もぐきゃん](2010/06/11 21:40)
[18] 04[もぐきゃん](2011/06/23 00:41)
[19] 05[もぐきゃん](2010/06/02 17:15)
[20] 06[もぐきゃん](2010/06/11 21:32)
[21] 07[もぐきゃん](2010/06/21 21:05)
[22] 08[もぐきゃん](2010/12/13 16:29)
[23] 09[もぐきゃん](2010/10/24 16:20)
[24] 10[もぐきゃん](2011/06/23 00:42)
[25] 11[もぐきゃん](2010/11/09 13:47)
[26] 12/アルビオン編終了[もぐきゃん](2011/06/23 00:43)
[27] 00/おとめちっく・センチメンタリズム[もぐきゃん](2010/11/17 17:58)
[28] 00/11072・レディオノイズ[もぐきゃん](2010/11/24 12:54)
[29] 13[もぐきゃん](2011/06/23 00:44)
[30] 14[もぐきゃん](2011/06/23 00:45)
[31] 15[もぐきゃん](2010/12/03 14:17)
[32] 16[もぐきゃん](2011/06/23 00:46)
[33] 17[もぐきゃん](2010/12/13 13:36)
[34] 18/虚無発動編・二部終了[もぐきゃん](2010/12/13 14:45)
[35] 01[もぐきゃん](2011/07/22 22:38)
[36] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:47)
[37] 03[もぐきゃん](2011/07/22 22:37)
[38] 04[もぐきゃん](2011/07/26 16:21)
[39] 05[もぐきゃん](2011/07/27 16:48)
[40] 06[もぐきゃん](2011/07/27 16:59)
[41] キャラクタのあれこれ[もぐきゃん](2010/12/02 20:55)
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[6318] 11
Name: もぐきゃん◆bdc558be ID:e4b7aa8d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/23 00:40



一人殺せば殺人犯、十人殺せば軍人で、百人殺せば貴族入り、千人殺せば英雄だ。

だったら、一万人は?
たった一人で一万人を殺した人はどうなるの?

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。回る。廻る。

そんなの関係ないと言えなかった。ルイズにはどう声をかけていいか分からなかった。始めは冗談だと思って、一方通行の瞳を見て、それから初めて本当の事だと知った。
ルイズの可愛い使い魔は、悪党で、最強で、稀代の殺人鬼だったのだ。

一万人って、どんな数?

まずはここからではないだろうか。
それはもう軍隊だ。しかも一方通行の話では全てが何らかの能力をもっていて、『向こう』に存在する非常に高性能な武器まで装備していたという。もうそれはルイズの理解の範疇にある事ではない。ビルからよく狙撃されていたと聞いて、ビルってなんだろう。
ルイズに分かる事は一つ。一方通行は一万人を殺した。それだけである。

彼はどういう思いで今までルイズと付き合ってきたのだろうか。
殺されそうになったのは幾度となくある。しかし今を何とか生きているルイズは幸運だっただけなのか、と問われればそれだけでは決して無いと言いたい。言ってみせる。

ルイズからの一方通行ではあるが、其処には何かある。きっと一方通行も何か感じ取ってくれているはず。
虚無に興味がある。それだけだっていい。そこには触れ合いが絶対に存在する。そこから始めればいい。

一方通行は、そもそも少しくらいルイズを好いていてくれているのだろうか。
その自信さえもてれば、きっと、


「……ルイズさん」


大体にして、重すぎるのだ。
一方通行はその事をなんとも思っていないように話していたが、そんな事は無い。あるはずが無い。自分のエゴで一万人を殺しておいてまともでいられる訳が無い。
どこか何か足りないように感じた一方通行は、きっとそういうことだったのだ。嫌な言い方をするならば、オカシクなってしまっている。

ルイズは『反射』の内側に入り込もうとしていた自分を改めて恐ろしく感じ、そして一方通行の事をまともに見れなくなっていた。
だってそうだろう。就寝時に隣で寝ていた彼は、自分の手で一万人を殺しているのだ。
言えば軍人だって人殺しだが、それとこれとはまた違っていて、命令ではなく自分の我を通して殺したと言っていた。


「……ルイズさん?」


無敵。
彼が唯一固執するもの。
ルイズから見るならば一方通行はすでに無敵だ。しかし彼はその先を目指しているのである。わき目も振らずに、ルイズに注意を払わないで。

良くも悪くもルイズの心の中には一方通行がいっぱいである。恋とか愛とかそういうのではない。ただの印象値の問題として、いつも一方通行の事を考えている。
ルイズは一方通行の事が嫌いではない。嫌いになりたくない。
初めて成功した魔法で初めて呼び出した使い魔を嫌いになんかなりたくは無いのに、しかし彼は一万人を殺しているという。
もう、どうしていいのか分らない。
好きになってくれ、私の事を。最初は『死ね』から始まったけれど―――、


「ルイズさんっ……!」

「へあっ!? あ、ゴメン!」


ビクリと肩を跳ね上げて考えに沈んでいた頭を浮上させる。
隣を見ればシエスタが心配そうに顔を覗き込んでいた。


「大丈夫ですか?」

「う、うん」

「……今日はもう寝ましょう。盗賊さんも襲ってきましたし、明日の授業はきっとお休みですよ」

「あは、そうかもね」


今はどんな顔をして一方通行と話していいか分らない。だから今はシエスタの部屋に避難中。

宝物庫を狙っていたあのゴーレムは最近巷を騒がせている盗賊、『土くれ』のフーケだったのだ。
学院長たちが駆けつけた時にはすでに煮えたぎった、本物の土くれになってしまっていたゴーレム。余りにあっけないそれは改めて一方通行の危険さを示した。
彼はけらけらと笑いながらゴーレムを破壊したのだ。“殺す”と何度も口にしながら。

終わった時、彼の表情からは何もかもが消えていた。
学院長からの感謝の言葉も一方通行には何ら興味を引くものではなかったらしく、全てを無視しながら普通に歩いて、普通に自室に戻って、そしてあたかも当然のように口を開いた。

『一万人を殺した』。

彼はまた遠い所に行こうとしている。





11/『行通方一×一方通行』





宝物が盗み出される事はなかった。
コルベールが大嫌いで、視界にすら入れたくない使い魔の少年がゴーレムを潰してくれたお陰で。
別に個人的な感情だけで生きているわけではない。勿論礼も言おう。しかし、人間としては最も付き合いたくない人種。同族嫌悪。どうしたってその瞳の中に自分自身を幻視してしまう。

そして、学院長室の机に一枚の紙切れ。


「……オールド・オスマン」

「わかっとる」


『明日もう一度盗みにきます。よろしくお願いします』。

綺麗な字で書かれたそれはもちろん予告状であった。誰が送ったかなど当然で、土くれ以外にあり得ない。
よろしくお願いしますなど、非常に馬鹿にしたそれはどうやってこの部屋に入ったのか、どうやって盗むつもりなのか、なぜ自分の不利になるような手紙を残すのか、勿論疑問は腐るほど出てくる。
しかし考える時間すら与えてくれない制限時間。
すでに丸一日を切っている予告時間。
クソが、と口の中だけで小さくコルベールは呟いた。


「王室に報告しますか?」

「ふむ、援軍を送ってくれると思うかね?」

「無理でしょうな」


一度は撃退した相手に何を言っている。そう返事が来るのは間違いないであろう。
貴族はプライドの生き物だ。ここの教員たちが“自分たちで撃退してやる”と在りもしない実力を振りかざすのが目に見えている。そもそも使い魔に出来て私たちに出来ないはずがあるものかと。『土くれ』も大した事が無いなと笑っていたのをついさっき聞いたばかりだ。

コルベールは元軍人だ。人も殺してきた。だから分かる、あのゴーレムの危険性が。
『土くれ』のフーケは間違いなく上位レベルのメイジだ。
無駄な意匠を省き、どこまでも堅実かつ実践的に立ち上がる土人形。30メイルというのはその質量が武器になる。その足が自分の頭上から降ってきてみろ。ここにいる教員がどんな魔法を使おうとプチと蛙のように潰れるのは当然じゃないか。

殺した事も無いたかだか『教員』が、実戦を知っているものに敵うと思っている。
相変わらず平和ボケをしているものだな、とため息をついた。


「して、生徒たちには何と?」

「知らせん訳にはいくまいて。どこぞの馬鹿が前に出てくるのは見えておろうがの、それでも情報を一切与えんのは教師としてどうかとも思う。ここは軍隊ではないからの」

「……慧眼、御見それします」

「やってられんわい、まったく。アクセラレータ君がもいっちょぶっ潰してくれりゃ楽なんじゃがのう……」

「彼に命令できるはずが無い。絶対に」

「……てこずるわい」

「やってられませんな」

「じゃろ? やってられんわ」


そしてコルベールは杖を抜いた。
戦うしかないのだろう。嫌だとごねている場合ではない。
それに、


「これ、ちょっと怖い顔をしておるぞ、コルベール君」

「……失礼しました」


体が疼くのを感じる。
どうしようもない愚か者だ、とコルベールは口元を揉んだ。妙に力の入っているそれを揉みほぐす。


(……人殺しが、抜けていないな)


そしてコルベールは学院長室を後にした。
恐れ入る慧眼はこちらの事情など何でもお見通しのはずなのだ。一緒に居るのはやや気まずい。

コルベールがコツコツと廊下を歩くその姿は、まさしく軍人のようだった。





。。。。。





そして朝、シエスタの胸に顔面を埋めたまま目を覚ましたルイズはいつもの様にトレーニングへと。
昨日のゴーレムの残骸が残っており、それで一方通行を思い出す。
取り合えず一晩が経ったがそれで何か解決するわけでもなく鬱々とした気持ちで蹴るサンドピローはいつものような音はたてない。


(なによ……一万人って何よ……んなもん、分らないっての!)


ルイズは鋭く蹴りを放つがそれもベチ、と。気持ちの乗らないトレーニングはまったくもって身にならない。
ため息をつきつつ、もう終わろう、とクロに乗ってサンドピローを木から外した。

俺は誰も助けない。誰も救わない。そこにいたら弾く。殺す。それしか出来ない。

先日の一方通行の言葉である。
なんと言うか、納得。確かに彼はそういう風な生き方をしているのだろうと容易に想像が出来る。ルイズは一方通行の事を知りたかった。知りたかったが、いくらなんでもこれは無いだろう。

毛並みの美しい馬を撫でながら、


「昨日は危なかったね、クロ」


頬を舐めてくるクロは非常に愛らしい。
パニック状態にあった馬の中で一頭だけ何時もの佇まいで凛とした姿勢をとっていた。相も変わらず頭がいい馬だな、とゴシゴシと身体をさする。


「それじゃあね、また明日」


そしてサンドピローを馬小屋の裏に隠し、もう朝食の時間だ。馬もルイズも。
気分は晴れないまま、水場へ向かい、起きていたシエスタと一言二言言葉を交わし、食堂へと向かった。





「昨日フーケから今日もまた来ると予告嬢が届いておる。よって本日の授業は全て休み。生徒は寮から出る事を禁じる」


オスマンの一声。馬鹿な貴族達はもちろん喜んだ。

シエスタの言ったとおり、本当に学校は休みになってしまった。
ぼんやりと考えながら、最早一方通行の指定席となった隣を見るも、そこには誰もいない。並べられた朝食は誰にも相手されることなくそのままの姿を晒している。
そこまで空腹なわけではないが、これをそのままゴミ箱に行かせるには心苦しい。
ルイズは隣にあるスープと肉たちをもくもくと食べつくし、そしてどうしたもんかと考えるのだ。

一方通行が朝食に来ていたら来ていたでそれなりに気まずかったであろうが、それでも会わないよりはいいはずなのだ。
何かきっかけが欲しい。初めの一歩を進めるきっかけが。
それがあれば、よく回る口だ、きっとお話も出来るはず。そんなの関係ないんだよって、もしかしたら言えるかもしれないのに、しかし一方通行に会いに行くのがどうしても怖い。
だって、用意していった言葉を並べたってきっと見破られるし、本心で付き合いたいのだルイズは。一方通行とは、初めての魔法で召喚した使い魔とは心で繋がりたい。
それが出来ないから鬱々してるし、イライラしてる。初めて心を見せてくれた一方通行は重すぎる。


「……自室から出ちゃ駄目なのよね、皆」


重いため息。
キュルケの部屋にでも逃げ込もうかと本気で思ってしまった。
これをきっかけと思って一気に勝負に出てみるかと言われればまたそれは怖くて、怖くて。

結局いい策は見つからずにルイズは食堂を後にした。
寮を目指し、そして重くなる足取り。

遠目から見ても自分の部屋から負のオーラが出ている気がする。勿論気がするだけだが。
そして部屋の前に来てついに重い足は動かなくなってしまった。ついついノックなぞしようとして、ああ、ここは自分の部屋だと妙な確認まで。

すぅはぁすぅはぁ。
目を瞑って深呼吸。顔をあわせて、まずは何を言おうか。元気? とでも声をかけて大丈夫だろうか。無視されないだろうか。こっちに反応はしてくれるだろうか。そして何より、自分自身がまともでいられるだろうか。
どくんどくんとやけにやかましい鼓動。耳の横に心臓でもついているのかと疑うほどにそれは響いた。

緊張でがちがちに固まってしまっている右手を上げて、ドアノブを掴もうと―――、


「ルイズ!」

「~~~っ!」


ぎゃああああああああああああ!!! と、声にならない悲鳴を口の中だけで止め、そして声の主は、


「ああルイズ、君に一目でもあえてよかったよ。この緊張状態で僕達の」

「ぎ、ぎ、ギー、あんたっ何!?」

「いや、今回は君に用があるわけじゃないんだ。だからその固めた拳を仕舞っておくれ、僕の可愛いルイズ」


勿論仕舞うことなく殴ったわけだが、それにしても女子寮に何のようなのだろうか。
一応、誰も守っていないが一応、女子寮には男子の出入りを虚無の曜日以外禁じる規則がある。それをこうも堂々と破ってきているのだからそれなりに大事なことなのだろうな、と鼻血を吹き出しているギーシュを踏みつけながらギロリと睨みを利かせた。


「あ……ああっ!」


恍惚とした表情の彼は非常に気味が悪い。


「で、何の用なわけ?」

「いや、だから今回は君に用があるわけじゃなくてだね……」

「またシロにケンカでも売ろうっての? アイツ今機嫌悪いからよした方がいいわ、今度は助けらんないかもしれないから」

「僕もそこまで愚かではないよ」

「じゃあ何しに来たのよ?」


ルイズが再度疑問を投げると、ギーシュは足をやんわりと払いながら立ち上がった。
特に何かを決意した、などの特別な感じでもなく完全に普通に言ってのけるのだ。


「ちょっと、彼にお礼を言いにね」

「……あぁん?」


完全にたちの悪い任侠屋さんのそれ。下から睨みつけるようにルイズは視線を送る。

お礼。
ありがとうとか、その辺りであろうか。
完全に意味が分らない。ギーシュが一方通行に礼を言う意味が分らない。まさかこれはお礼とは隠語で、お礼参りとでも言っているのだろうか。


「そう睨まないでおくれ。当然の事だろう?」

「……いえ、全然当然じゃないわね、うん。あなたがシロにお礼を言うことなんて何にも無いはずよ」

「それはグラモンを馬鹿にしているのかい?」

「どうやったらそういう解釈が出来るわけ? シロがあなたに何したって言うのよ?」

「助けてもらったじゃないか」

「はぁ? 何時? 何処で? 誰を!?」


そしてルイズは馬鹿にするのも大概にしろ、と拳を繰り出そうと。
だってそうだろう、一方通行は一万人を殺しているのだ。助けるなんてこととは、それこそ真逆。

しかしギーシュが続ける言葉、それには、


「―――昨日、此処で、学院生全員をさ!」


ルイズの考えを全てひっくり返す力を持っていた。





。。。。。





その部屋に閉じこもったまま天井のシミの数を数えて、一体どのくらいだろうか。
王都で見知った顔を見て以来、それこそ何も考えられなくなっている。


「……クソッタレが」


一方通行は吐き捨てる様に呟き、そして立ち上がった。

妙にちらつく顔。
さらに一万人ほどぶっ殺した話をしたときの、一方通行を召喚したゴシュジンサマ。
全てが一方通行にストレスを与えている。
聡明な頭脳は簡単にイライラの基を思い出すことが出来てしまい、それは忘れる事が出来ない戒めに。
一方通行をして『とんでもない』と言わしめた最弱は、今回ばかりはショックだった様だ。

っは、と一度だけ乾いた笑いを。


(……一万人ってなァ、流石にねェよな)


自身も感じていることである。よくもまぁ一万人も殺したものだと。
数の問題ではないものの、それでも一万人だ。10000人なのだ。想像がつかないであろう。一万人はそれほどの数だ。
殺した本人が思うのもなんだが、お悔やみ申し上げます、と。

罪に問われない一方通行は幸運なのだろうか?
死ねば許されるか?

今更である。
それは全部『あっち』に置いてきた事だった。それゆえにストレスを感じているのだ。

そして少しだけの空腹を感じ、食堂にでも行くかと部屋を出ようとした時にちょうどよくノックが。


「あァ?」

「……失礼」

「こりゃまた珍しい客じゃねェか。俺の部屋じゃねェが、その辺の椅子は空いてンぜ」

「ここは元々来客用の部屋だ。君が使っても問題はない」


現れたのは禿頭の男、コルベールだった。
一方通行は自身でも気がつかなかったが、コルベールが現れたときに感じたものは『安心』だったのではないだろうか。
いつもの一方通行であったのなら部屋に入れる前に扉を閉めているはずである。それなのに椅子まで勧めてやる始末。人殺しのシンパシーに縋ったのだ、彼は。
だって当たり前であろう。15、6年しか生きていない。もしかしたらルイズよりも年下かもしれない。一方通行だって、子供なのだ。ガキなのだ。いくら頭が良かろうが、その事実は絶対にそう。
学園都市の連中が聞くならば耳を疑ったことだろう。
今の一方通行がオカシイのか、それとも普段の一方通行がオカシイのか。その判断はどうやってもつける事は出来ないが、王都での出会いとルイズの表情がちらつくのはまぎれも無い事実。


「で、何の用なンだ?」

「……打ち明けたらしいじゃないか。ミス・ツェルプストーから聞いてね」

「ッハ、人殺しだってかァ? ちょろっと一万人ほどぶっ殺しただけの話だ。事実だろォが」

「実に彼女らしく、随分遠まわしな相談を持って来てくれたよ。まぁ、たまたま最初に会った『大人』が私だからかもしれないがね」

「く、くくっ、『友達の使い魔が人殺しなんですけどどうしたらいいですか』ってかァ? 笑えンじゃねェか、お前ェに答が出せるわけねェよなァ、人殺し」

「よくないな、そういう態度は。一万人を殺した時もそうだったのかね? 頑張ったものじゃないか、殺人鬼」


コルベールの瞳に暗い色が映りこむ。
一方通行はこれだ、と思った。きっと自分もこういう瞳の色をしている。今まさに。
鏡が見たくてしょうがなかった。人殺しという事実から逃げたがっている自分を殺してやりたい。一方通行は一方通行を殺してやりたい。世の中から人殺しを全員殺してやりたい。瞳の色の、赤色の奥に映る闇を、何もかも。

一方通行はひく、と口角が釣り上がるのを感じた。
それを感じて、そしてやっと自分が笑っている事に気がついたのだ。


「……それは一体どういう表情かね」

「テメェをプチっと殺したくてたまンねェ微笑だ。美しいもンだろう、天使の微笑ってヤツだ」

「随分愉快な事を言うな、君は」

「あァ?」


今度はコルベールが笑みを浮かべた。
普通の人間が見ればそれは普通の笑みだが、一方通行が見れば少し違っていて、それは嘲笑に似た何か。同情の隣に居るどれか。
瞬間、腸が煮えくり返り、もう殺そうと思った。
殺してしまえと誰かが叫んだ。

勿論一方通行は何の疑問も感じずにその声を受け入れる。過去に一万回以上も繰り返している。今更耳を塞ぐなんて出来やしない。
ゆっくりと右腕を伸ばし、コルベールに触れようかという時、


「泣かないのかね」

「……はァ?」

「そんな顔をしているよ、君は。微笑とは大分遠い所に居る」

「っく、くく……」

「可笑しいかね?」

「ぎゃはッ、これが可笑しくねェってかァ!? まさかここで最大級のジョークとは流石の一方通行さんでも予想だにしませンでしたよォ!!」


けらけらと一方通行は笑う。
まさか、まさか泣けといわれるとは思わなかった。
一方通行が感じているのはそういうのではない。求めているものもそういうのではない。
脳内のムカつきを止める方法を提示してくれ。そうしてくれれば殺さないでおこう。目玉をくりぬくかもしれないが、それだって生きていけるだろう?
違うんだ、そうじゃない。
一方通行は『そう』じゃない。涙を流すという行為が、朝起きて欠伸をしたとき以外に流れた事が無い一方通行は『そう』じゃないのだ。

げらげら笑いながら見てみれば、コルベールの瞳には暗いものが浮かんだままだ。

こっち側の人間のくせに、なぜそれが分らない?


「あァ、あァ、ひィ……、まさか俺を笑い死にさせて『最強』になろうってンじゃないだろうなァ?」


腹を抱える一方通行に、再度コルベールは口を開く。


「……私の瞳には、何が映っているかね」


余りに簡単な問題。


「流麗で美しく甘美な艶やかさを兼ね揃えた実にドス黒い輝きが宿ってらァ。同じ目ェしたヤツが舐めた事ほざいてンじゃねェぞ」

「……同じ、か。そうなのだろうね。きっとそうだ。人殺しの色で、殺人鬼の色で、私の右手は人を燃やす事を躊躇いはしなかった。今も求めていると感じるときもある。夢を見るんだ。炎の匂い。空気を焼き滅ぼし、そして自身の体が熱く滾る、そんな夢を」

「よく分かってンじゃねェか。よかったぜ」


興味なさげに一方通行は手を振った。
しかし、


「だがね、これはそれだけじゃ無い。この瞳の色がそれだけじゃ、余りに悲しいじゃないか」

「……何が言いてェンだ」

「これはね……、この瞳の色は―――」


そして学院全体が揺れるような衝撃が響いた。




。。。。。





「朝っぱらから随分まじめな盗賊ね」


外を見ながら思わずため息をついた。またもゴーレムが現れたのだ。
昨日と同じ場所、同じ土人形。馬たちはすでに非難済みなので別に何ら問題は無い。

特に注意を払う事無く、窓から身を乗り出していた身体を引っ込めた。ルイズにはやる事があるのだ。『土くれ』は消えていてくれていい。
一方通行を探す。それだけだ。
今胸のうちにある熱が冷め切らないうちに会いたい。今なら言える。一方通行を嫌いにならないですむ。

一方通行は助けた。確かに助けたのだ。
一万人を殺したと告白した時に、自分は一方通行だから誰も助けることが出来ないなんて言っていたけれど、そんなことは無い。しっかりと助けているじゃないか。それが結果論に過ぎないんだってのは分かっている。それでも、彼は誰かを救うことが出来るのだ。

何で自分はこんなに簡単な事に気が付かなかったのだろうか。
ルイズは自分自身を抹殺してやりたい気持ちでいっぱいになった。ヒントはいくらでもあったはずなのに、今日の朝だって、クロに会って、それでその無事を喜んだくせに。

ぎり、と唇をかみ締める。
仕方がないとは言えないが、しかしルイズはあの時の一方通行を見ているのだ。
殺す、死ね、そして笑い声。見てしまっていたからこそ気がつかなかった。


「……ああもうっ、考えるのヤメ! 動きなさいルイズ! 私はご主人様なんだから、だから動くのよ!」


短くなってしまった髪の毛を手でクシャクシャに乱しながら叫んだ。

考えが詰まったら行動。
考えが詰まる前に行動。
考える前に行動。

効果があるかどうか分らない瞑想なんてものを一年間も続けてきた。
貴族なのに身体を鍛えることばかりが好きだった。
魔法のことが嫌いだった。


「変わるわよ!」


頬をぴしゃりと打ちつけ、乱雑に置かれている刀剣類を掴み上げる。
しっかりと体が軽くなるのを感じ一つだけ頷いた。

まずは着ている服を全て放り捨てる。さっさと全裸になり取り出したるは先日買った黒のインナー。ぴったりと肌に張り付くような素材で出来たそれは割と高額だったものである。少しだけ余った袖はたくし上げ邪魔にならないように。
下に穿くものも同じようなもので、ぴったりとルイズの、やや肉の足りない尻のラインを浮かせる。
次いで取り出したるは甲冑である。といっても重装甲のそれではなく、買ったのはパーツだけ。
胸当てを被り、左側の肩当ては外した。脚甲を取り付け、そして、


「めんどくさいわね、どうなってんのよコレ……」


ルイズが取り出したもの、皮で出来たそれは一見すると縄梯子のような形をしていた。
二、三度考え込み、取り付けに失敗して、そして正解にたどり着いた時にそれの全体像が見える。
シースだ。鞘である。ぐるりと腰に巻かれた連結型のシース、一回りで十五本ずつ、上下三十本のナイフを収納可能なそれはあたかもスカートのようで、ルイズはこれからスカートと呼ぼう、と脳裏でどうでもいい事を考えた。


「おーおー、なかなか様になってるじゃねえか娘っこ」

「黙ってなさい、連れてってやんないわよ?」

「冗談はよせよ。やる気なんだろ、メイジと」

「そうよ、こうも喧しくっちゃ人探しも出来ないわ。サクッと倒してシロに伝える事があるの」

「言うねえ。頼もしいこった」


カチャカチャと鍔を鳴らすデルフリンガーを抜き身のまま背中に担ぎ、そして窓から身を乗り出した。
戦っている。馬鹿でかいゴーレムと、余りに小さな人間。一様に魔法を使っているがゴーレムはそんなの関係ないとばかりに足を踏み鳴らし、そして宝物庫の壁を殴りつけている。
そして目を凝らしてみれば、肩に誰かが乗っているのだ。フードを被ったその人物の顔は見えないものの、あれがフーケだろうと。

打倒すべき敵。そう認識した瞬間に体が熱くなるのを感じた。


「いくわよ、ボロ剣。あんたは背中で見てなさい、私の戦いっぷりを」

「おいおい、使わねえ気かよ?」


ルイズは返事も返さずその窓から身を投げ出、すのは怖かったのでしっかりと階段を使って寮から出た。





。。。。。





『―――この瞳の色はね、後悔の色(思い)さ』


それだけ言うと、教員コルベールは消えた。地震の様な振動が起きている事から、恐らくまたあのゴーレムというのが出たのだろう。一方通行にはまったく関係の無いことだ。

自身しかいない部屋でポツリと呟いた。


「……それだけか?」


お笑い種である。よりにもよって、後悔?
っは、と。鼻息だけで飛んでいってしまいそうなものだ、それは。

一方通行は部屋の隅にある化粧台の前に座り鏡を、己の瞳を覗き込んだ。
どんよりと暗い輝きのある瞳。一方通行の瞳。コルベールも似たような輝きがある。
後悔などとんでもない。これはそういうのではない。これは、ただ人を殺した証であるはずだ。

その瞳を覗き込み、鏡の中の人物は人殺しで、ずき、と『脳』に痛みが響いた気がした。そう、『脳』が。


「いっ、てェ……」


一方通行は痛みと無縁にある生活をしているだけに耐性が無い。頭痛というのは非常に厄介な敵になりえる。心臓の鼓動と共にずくん、ずくんと痛む頭は、これは、一体なんだろうか、不思議な、感覚を、彼は感じる。


「ぐッ……あ、ァ……? ンだァ、クソッタレ……」


なんだろうか、と考える前にすでにコルベールが己の前に立っていた。
驚きを表す前にそれは口を開く。


『君は気付いているだろう、その答えに』

「あァ? 殺すぞテメエ……!」


映るコルベールに向けて右手を伸ばした。
聡明な一方通行すら分らないこのムカつきを、この痛みを、コルベールはすでに体験しているとでもいうのか? なぜ分かる? コルベールは答を出しているのか?

そんな馬鹿な事は無いはずだ。

だって、一方通行の方がたくさん殺している。
だって、一方通行の方が頭がいい。
一方通行の方が、一方通行の方が……。

ヂリヂリと脳が焼き切れてしまいそうだった。眩暈を感じ、気分が悪い。嘔吐感がこみ上げてきて思わず口を押さえて、瞳を瞑った時に聞こえてくる声は自分自身のもの。


「後悔?」


駄目だ。それは駄目だ。


「後悔だァ? ンな事が、ありえねェン、だよっ」

『何故でしょうか、と■■■は疑問を投げかけます』


出やがった、と一方通行は口だけを動かす。目の前の人物は誰だ? 殺した女だ。一万人殺した女だ。
気分が悪い。


「後悔ってなァ、悔やんでンだよ! 殺した事を! ッハ、ハハ、何だそりゃ? 後悔していいはずがねェだろォが!」

『なんでよ?』


笑いが出てくる。オリジナルが、出て、きやがった。
吐きそうだ。もう、口元を押さえている右腕は先にある顔面を鷲掴みにしてしまいたい。ころ、ころ、―――、。


「何故ェ? 何故だとテメェ! 俺ァ手前ェのエゴで殺してンだよ、わがままで殺してンだよ!」

『何でだよ?』


ころしたい。殺してしまいたい。目の前の『最弱』を。名前はなんて言った? 調べて、調べたら、かみかみ上・条当麻っ・!
眩暈が、とんでもない。現実が歪んでいく。一方通行の、スーパーコンピューター・の『脳』が、何かを見せている。理解している。これは、現実じゃない。当たり前、そんなもの、現実のはずが無い。自分自身の脳味噌のくせにこの俺様に疑問を投げかけてくるとはいい度胸をしてやがるなテメエころ、す、と、口は、何で、その先の答を。


「『絶対』に成る為だ! 俺こそが『無敵』でッ、他は全部クズ・ゴミ・ムシケラ! ひゃは、そォだ! 一万三十一人の命を奪った俺が後悔していい訳がねェ!! だって、だって、後悔なンてしちまったら、一万三十一人が、……?」

『……それが、どうしたッてンだァ?』


赤い瞳がこちらをのぞきこんでいた。
グラグラと地面が揺れている。


「一万三十一人が、無駄になっちまう……? そう、おれが、ころした、いちまん、さんじゅう、いちにん、が、……?」


脳が・すぱぁくを、起こし始めた。
ジレンマが、トラウマが、
今までに記憶されている一万三十一人の死に様と、そのレポートが、
意識的に奥の方へ奥の方へ追いやっていた記憶が、その記録が、

殺した。
 殺して。
殺し、
=殺しました・

思い出すのは、ここ最近、自分に近しい人物を見た時の言葉で、とんでもなく腹が立ったのだった。
だってそうだろう?
同じくせに、俺と、同じくせに、

『っけ、日和やがったなテメエ。ガキ一人助けて今更善人にでも成るつもりか? 成れると思ってンのか? 戻れねェよ、この悪党が』
これは一体誰に向けた言葉だったのだろうか。

『テメエまさか、善行を重ねれば罪が軽くなるなンて夢見てンじゃねェよなァ。あァおい、人殺しがよォ。そうだろ、テメエは殺してんだろうがよォ』
これは一体誰の夢だったのだろうか。

『キタネェんだよ。悪党なら気取ってンなよ。自分以下を犯せ、侵せ。ソレでこそ『存在』の意味だろォが』
これは一体誰の意地だったのだろうか。

『なァ、わからねェか? お前はもう無理なンだよ、光を見るなンざ、到底出来はしねェンだよ』
これは一体願いだったのだろうか。

『俺『達』みたいなのはよォ、死ぬまでとは言わねェ、死ンでからもずっとだ、ず~っっっっっと! 救いなんざ、無ェンだよ!』
これは一体誰の───、ブツン、と。

痛い、痛い痛い。
脳が引きちぎれてまいそうだ。
どうにかしようと思うも、この現象が何なのかさっぱり見当がつかない。そんなことは無い。分かっているはずなのである。ただ気が付かない振りをしてきただけで。うるせぇ殺すぞ。凄んでみてもその先には何もなく、そもそもそれは誰に向けた言葉なのかすら分らない。


「っひぎ、いてェえへ、ひひゃあ、ッガ、は、ァ亜あァあ?亞ア/アア亜a,#$%&='&|&%あlalaaAAア!!!!」


力いっぱい叫んでみれば、目の前にいるのはこの身を召喚した彼女。


『あんたは一体『どう』なりたいのよ?』


そんなものは千切れ気味の脳内でもしっかり検索可能。

『手前ぇは何でそんな簡単に人を殺せるんだ!』

そういったアイツが羨ましくて、殺してやりたいほど羨ましくて、だから負けてやったんじゃないか。
残したミサカが、ミサカに、ミサカを、ミサカの夢を見る。
一方通行はユメを見る。
毎日毎日おなじ夢を見る。
まだミサカを殺す夢を見る。
9745号の首をブチ折った。
2952号の足をねじり切った。
10019号の咽喉をぶち抜いた。

他にもたくさんたくさんたくさんたくさん。殺して殺して殺して殺しまくった。
楽しかった。能力を使う事は、それが日常になって、ミサカを殺しているのに同じ顔のミサカが湧いて出て、ミサカを殺してまた殺してミサかはいったいいいいつになったら いなくなるのでしょうか? 実験は中止に・中止に・中止になったけどミサカはいるまだいるたくさんいる、ころさなければならないと、考えはじめたのはいつでしょうかわかりませんぅ・6があってだからそこをめざしていたら~っ軍事りよー計画の『いもうとたち』がでてきたんだから、ホントはい、い、い、一方通行ぅは240ねん生きて能力開花のはずだったのに、ひとっ殺しなんてほんとのほんとのホントは■■だったのにィ・かがくしゃが変態びゃっかで学長はへんたいでじゅけいずの設計者が変態でアイツは人工えいせ、いなのにろくな事しないのになのになのに・なのに向かってくるからハンシャしてころして。ミサカはミサかはミサカミサかミサカをころしたから無敵になれるはずだったのに無敵になりたくって#なりたくって”なりたくって・・ころ、ころころ、コロシタのだろうけどだってなんでそれだって―――、


「ウルセェ黙ってろ! 認識してンじゃねェぞ!」


言葉とは裏腹に、考えは深く。


(……だからって、俺は、殺した……?)


憶えていない?
そんなはずが無い。見ようとしていないだけだ、『裏側』を。
記憶の底を広げろ。
忘れているはずが無いのだ、一方通行が。スーパーコンピューターに匹敵するその脳内は、忘れる事を許さない。


「やめ、ろ、考えるな、考えるな!」


行通方一がいる。いるいるここにいる。
『ひとごろしが大好きナんダ』こっちは? 。 成長の中で作り上げた自分。きっとこっちが『表側』。
もう一人だって、ちゃんといる。どこかに、居る。

だって、小さなころ、ヒーローに憧れたのは一方通行だって同じ。
人には無い力を持っていたわけだし、自分はヒーローになれる存在だったんだ。

歪む。
少しだけ時間が経って、クソッタレの■■から捨てられて、けど力は強くなった。
その頃だってまだ信じてた。きっと、人を助ける事が出来るんだって。

歪む。
ちょっとだけ時間が経って、研究員がたくさん居た。この頃は何だか自分の力の事に没頭してて、あんまり思い出がない。
ヒーロー? ちょっと忘れてた。

歪む。
いつもいつもケンカ売ってきやがる。皆死にてェのか?
正義の味方気取りか? 俺ァ何もやってねェよ、向ってくるからだろ。

歪む。
『最強』。皆ゴミ見てェなモンだ。これで───、
ヒーロー? っは、夢見てんじゃねェよ。

歪む。
オカシイな。俺ァ『最強』の筈なのに、なのになんで向ってくるんだ? 俺は別に戦いた───、
正義の味方が居るのなら───、

歪む。
そォか、足りねェってか。『最強』じゃ足りねェってンなら、だったら仕方ねぇよなァ?
っくく、『誰』か『俺』を止めてみろォ!

捻じれて捻じれて、しかし一方通行は千切れてしまうにしては強すぎた。


「俺は、一方通行だろォがっ! こんなモンは必要ねェ! 俺は殺して───」

(―――だからッ、殺した事を受け止めろ!)


不自然な実験の中止、突然の異世界、王都での出会い、ルイズ、使い魔。


(殺したからって、それがどうしたってンだ!)


正義の味方だって人を殺す。
向こうの『最弱』はきっと気がついていない。自分がやった事を。

いったい何人の研究員が路頭に迷う? その家族は?
『誰か』が暴走しないと言い切れる? ミサカが巻き込まれる可能性は?

誰かが死んでいる。『最弱《ヒーロー》』が起こした事で、きっと誰かが死んでいる。
全部救うなんて、ッハ、やって見せろよクソッタレ。

殺し殺されその先にあるのは無だなんてよく聞く話。
何で分かる? 惑星の全生命体でも殺してみせたかよ?
やって見せろ。やってから言ってみせろ。

『一方通行』は誰も救わない。誰も助けな───。

自分で、脳の中の現実だ、それは。
認めよう。最弱に殴られて、よほど痛感した。
きっとあの時から、幻想殺しの上条当麻に『一方通行』という幻想を殺されて、一方通行は『一方通行』ではなくなったのだ。

もう後悔しない。十分した。
わがまま? その通りである。いつか記したとおり、ウルトラマイペースなのだ、一方通行は。
だから、


「ッ! ……ア、があァ亜墓あかくきかいききききっきひひひゃはああああっっっは、っはははははひぃっひゃはははははははははははははははははあああああああああああああァァ!!」


叫びながら、中途半端に伸びた右手を伸ばしきれば、それはいつの間にか自分の頭に。

【───一方通行は自身の体内ベクトル、その全てを認識している。何処がどうなっている、ではなく、それは既に『感覚』。
物心つく頃には既に自分の一部である『反射』。それから時を待たずして扱えるようになった『操作』。
たとえ半身不随になろうが、腕の一本、足の一本吹き飛ぼうが、何の制限なく生活できる。まさしく『第六感』、『第七感』なのだ。
極端な話、一方通行は心臓が止まっても生きていける。血液の流れを操作し、脳に酸素を送り、『思考』『計算』『発現』。この三つさえ出来れば、脳髄だけになっても人を殺すことが出来るはずだ───】

感覚とは何だ。無意識だ。
意識しての行いではなく、それは『第六感』『第七感』。

一方通行は勝手に、そう、勝手に自分にベクトル操作を施していた。
『そういう風な考え』を持たないようにベクトル操作を。脳の電気信号を操り、見たくない記憶を奥の方に奥の方に奥の方に。
脳が作り上げた自分自身に酔っ払って、人殺しをたくさん楽しんだ。そうしなければオカシクなってしまうから。
自分の脳味噌のくせにまったくもって舐めたものである。最強である一方通行は、やはり最強である一方通行に阻害されていた。

認めてしまえ。

俺は誰だ。

最強。

無敵。

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ! と一方通行の口から凡そ人間の出す音ではない声が響いた。
自身の額を掴む右手は暴れだす。
脳が、一方通行のスーパーコンピュータに匹敵する脳が、電気信号を、一方通行の望むべき姿を。

本来なら、自然に分かっていく事だった。
『誰か』との出会いを重ねて、その出会いの中で、自然と分かっていくものだったはず。
『表』と『裏』の余りにかけ離れた距離はきっとその誰かが埋めてくれるものだったのだ。

でもここはどこ?
『一方通行《アクセラレータ》』を知っているやつなど、今のところ王都で見かけたただ一人。

そう、彼は自分で気付くしかなかった。
願いを、思いを。本当の『■■ ■■■』という人物を。
だから、ベクトルを操作。
無意識が勝手に『そういう風』に向けていた考えを、元に戻す。

そしてガリガリと何かを引っかいていた声はぴたりと止まり、


「あァ、そォか」


やけに明瞭な声。
両方の瞳からは一つずつ水がこぼれた。


「……一万人を殺したからって───」


漸くになって、その事を知ったのだ。






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