第1話/迷い込んだメイド
「ここは…どこでしょう…?」
トリステイン学園で働くメイド・シエスタは迷っていた。
普段なら学園内で迷う事は無い。しかしここは…
「こんな所、学園になかったのに…」
そうここは学園とはまったく違った空間だった。
使われている材質から装飾まで何もかも。
「あっ…」
そこで初めて灯りが漏れている扉を見つける。
シエスタはそこで道を聞く事にした。中にいるのが貴族である生徒でない事を祈って…
キィィィィ…
「すいません…」
扉を開けて入ると、自分に三組の視線が向かった。
部屋の中央に3人の男性が座っている。
一人はタキシードを着た男性。
一人は燕尾服を着た男性。
一人はセーラー服を着た少年だ。
三人はどうやらカードゲームをいそしんでいたようだ。
「あー、珍しいお客さんだ」
少年が自分に近づいてくる。
「こんばんわ、お姉さん」
「や、夜分遅くに申し訳ありません」
「いいのいいの。ほら次狼、リキ。お客さんだよ」
「んあ、メイドか?」
「メ、イドだな」
「うん、可愛いメイドさんだよ」
シエスタでもわかるくらい、彼らはどこか独特の存在感を出している。
(もしかして、貴族の方々なのかしら?)
「メイド」
「は、はい!」
「そこの給仕室にコーヒー豆がある。淹れてくれ」
「は、はい!」
「次狼も好きだね。あっ、僕オレンジジュース」
「こ、うちゃ」
「は、はい!ただいま!」
言われるまま、シエスタは給仕室に向かった。
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「お、お待たせいたしました」
三人にそれぞれのカップがいきわたる。
「わぁい♪」
「いただき、もす」
「ふん…ん?」
クンクン
「ん、んん、うんん?」
クンクンクンクンクン…
「あ、あの、何か…」
次郎が執拗に匂いを嗅いでいるのを見て、自分に粗相があったのかと思ってしまう。
カッ!
眼を見開く次狼そのまま一気に、
ゴクゴクゴクゴク…
「ハァ~…」
次狼の顔には確かな満足感が浮かんでいた。
バッ!
次狼は勢い良く席を立ち、
バァンッ!
強く扉を開けて、部屋を出た。
「あ、あの!私何か粗相を……!?」
「ちがう、ちがう」
「スゴイねお姉さん。次狼をあんなにするなんて」
バァンッ!
強い扉が開く音を聞いて、シエスタはまたビクッと驚く。
入ってきたのは次狼だ。手には…
「釣りはいらねぇ」
ズシッ!
「えっ?」
確かな重みを手に感じる。シエスタの手に渡されたのは、純金の延べ棒だった。
「『こっち』の金はまだ用意できてねぇ。これで我慢しろ」
「こ、こんなものもい、いただけません!」
「もう、次狼。宝石の方がいいって。エメラルドのいいのあったじゃん」
「いや、サファイアの方が、に、にあう」
「そうではなくて!只のメイドである私がこんなにいただけません。給金もちゃんといただいております!」
それを聞いて三人は顔を合わせる。
(どうする?いい人だよ、この娘)
(どう、する?)
(決まっている)
「おい、メイド。名前は?」
「は、はい。シエスタと申します」
「ここはお前が働いている所と別の場所だ。明日からコーヒーを淹れに来い。それは給金の前渡だ」
「え、ええ?でも…?」
「ねぇ、来てよシエスタお姉さん」
「きて、くれ」
シエスタは暫く考えて、答えをだした。
「わかりました。明日からよろしくお願いします」
先程の自分のコーヒーをがぶ飲みした次狼を思い出して、決めた。
「よし」
次狼はシエスタの手をとる。シエスタは少しドキッとするが、気付くと自分の手に腕輪が嵌められていた。
「それがあればここに入れる。楽しみにしているからな」
「明日も来てね」
「また、ね」
「はい、わかりました…あれ?」
いつの間にかシエスタは学園の廊下にいた。辺りを見ても確かに学園の廊下だ。
さっきのは夢だと思ったが、手に持った金塊と腕輪が夢じゃない事を告げていた。
「よかったね、次狼。美味しいコーヒーを淹れられる人が見つかって」
「そうだな。ふん、あの娘の淹れるのはマスター以来のものだ」
「ごきげ、ん、だな」
三人はカードゲーム…トランプを再開している。
部屋の灯りが彼らの影を映す。
シエスタは気付かなかった。
灯りに照らされた3人の影が、人間のモノではない事に…