閑話/力を求めるメイドと封印されしモノ
「ここでいいかな」
シエスタは『宝物庫』にラ・ローシェで買った次狼達曰く『珍しい物』を置いた。
ここはキャッスルドランの中の宝物庫。
様々な宝石や絵画、果ては魔導具まで存在していた。
それ一つ一つが平民が十年以上働かないで暮らしていける価値がある。
シエスタの『主』の話だと、これらは『主』の母親の『ヘソクリ』だったそうだ。
「はぁ…ジロウ様達はワタル様と一緒…」
シエスタは溜息を吐く。
今ワタル達は極秘任務でアルビオンに向かう途中である。
キャッスルドランでアルビオンに向かう事も可能だが、極秘任務なのでラローシェの街で待機だ。
自分も昼にラ・ローシェにいたが、買った物を持ってきて、4人の荷物を取りに来た所だ。
アルビオンに向かうのはまだ先になる。
船が出せないらしいが、キャッスルドランで行く事を一緒にいる騎士が『秘密裏に行動できない』として拒否した。
まあ、このキャッスルドランが飛ぶとどうしても目立ってしまうから仕方ないだろう。
しかし…
「ワタル様…大丈夫かな…?」
学園を出てからの渡はどこかおかしかった。
「私は…あの方の力になれないのかな…」
自分も渡達の力になりたいと最近のシエスタはそう思うようになっていた。
しかし、それは度台無理な話だ。
自分は人間の平民…3魔騎士とは違うのだ。
「でも…それでも…」
自分を救ってくれた人達…自分を必要としてくれている人達の為に…
「私は…」
『力が欲しいんですか?』
「きゃっ!?」
突然、部屋に声が響いた。
「だ、誰です!?ここはワタル様の…」
『落ち着いてください。私もキャッスルドランに住んでいるモノです』
「え?」
『まあ、住んでいるというより、『封印』されているモノですが』
「封印…ですか?」
シエスタは首をかしげる。
「何故封印されているのですか?ワタル様に仇なすことでも?」
『いえいえ、私は渡さんの味方ですよ。立位置的にはキバット先輩と同じ位置です』
「キバット様と?」
『はい…私は渡さんの心に答える存在。今の渡さんの心は悲しみで溢れ、私が引き出す事の出来る『力』を制御できません。だからこの城に封印させていただいているのです』
「ワタル様の心…」
(やっぱり…ワタル様は…)
次狼達からシエスタは聞いていた。
渡が人間とは違う事…
人間との共存を望んでいた事…
その為、裏切り者の烙印を押された事…
人間に裏切られた事…
そして…『一人ぼっちの王様』になった事…
「お聞きしたい事があります」
『…なんでしょう』
「私がワタル様を護れる力を手に入れるにはどうしたらいいのですか?」
『シエスタさん?』
「如何なる戦場でも、あの方の側に立ち、あの方に奉仕する為に…どうか教えてください」
シエスタのその眼は覚悟と決意に溢れ、光り輝いていた。
それを感じ、封印されしモノは…
『この宝物庫手前の方に…手甲のようなモノがあります』
シエスタは素早く移動する。
そこにあったのは銀と赤の美しく光る重厚な右手用の手甲で、シエスタの手よりかなり大きかった。
『それは次狼さん達が人間の組織から奪い取った新品です。その手甲を腕に装着すると、あなた専用のツールになります』
シエスタは息を呑んで…覚悟を胸に手甲を持ち、右手にはめた。
シュンッ!
「!?」
シエスタが手を入れると、手甲は伸縮し、シエスタにジャストフィットする。
暫くガシャガシャと音がなり続けると、
『使い方は…』
「だ、大丈夫です…『解り』ます」
シエスタは恐る恐る、右拳を握り、
『G・E・T・R・E・A・D・Y』
その右拳を左掌に乗せる。
『F・I・S・T・O・N』
シエスタは祈るように、両手同士を握り…
「変身…」
『HE・N・SHI・N IXS 2ed SERIES FATIMA』