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No.5204の一覧
[0] ゼロの黒騎士(ゼロの使い魔×鉄コミュニケイション)[早朝](2008/12/09 00:43)
[1] ゼロの黒騎士 第一回[早朝](2008/12/09 00:45)
[2] ゼロの黒騎士 第二回[早朝](2008/12/09 00:46)
[3] ゼロの黒騎士 第三回[早朝](2008/12/09 00:46)
[4] ゼロの黒騎士 第四回[早朝](2008/12/09 00:47)
[5] ゼロの黒騎士 第五回[早朝](2008/12/09 00:48)
[6] ゼロの黒騎士 第六回[早朝](2008/12/09 00:48)
[7] ゼロの黒騎士 第七回[早朝](2008/12/09 00:49)
[8] ゼロの黒騎士 第八回[早朝](2008/12/09 00:50)
[9] ゼロの黒騎士 第九回[早朝](2008/12/09 00:50)
[10] ゼロの黒騎士 第十回[早朝](2008/12/09 00:51)
[11] ゼロの黒騎士 第十一回[早朝](2008/12/09 00:52)
[12] ゼロの黒騎士 第十二回[早朝](2008/12/09 00:53)
[13] ゼロの黒騎士 第十三回[早朝](2008/12/09 00:53)
[14] ゼロの黒騎士 第十四回[早朝](2008/12/09 00:54)
[15] ゼロの黒騎士 第十五回[早朝](2008/12/09 00:55)
[16] ゼロの黒騎士 第十六回[早朝](2008/12/09 00:56)
[17] ゼロの黒騎士 最終回[早朝](2008/12/09 00:58)
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[5204] ゼロの黒騎士 第四回
Name: 早朝◆74a45303 ID:a07c8492 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/09 00:47
「それは確かなんじゃな、ミスタ・コルベール」

普段のおちゃらけた姿からはとても想像できない重々しい声で、
オールド・オスマンは目の前の男、『炎蛇』のコルベールに問いかける。

「……この三日間、幾つもの文献に当たり、様々な可能性を検討しましたが、間違いありません」

ごくり、と唾を飲み込んだのは、果たしてどちらだったのだろうか?
良くも悪くも動じることが無いオールド・オスマンが相手をしていても、なお空気が重い。
それほどにコルベールの辿り着いた答えの持つ意味は、深刻だった。

「間違いありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の左手に刻まれたルーンは、ガンダールヴのルーンです」

つかの間、沈黙が落ちた。
部屋の温度が数度下がったかと錯覚させるような冷え冷えとした緊張感が満ちる。

「ガンダールヴは、詠唱時間の間、ブリミルを守ることに特化した神の盾、じゃったな」

沈黙を断ち切るように、オールド・オスマンが呟いた。

「はい。残念ながら、その姿形は後世に伝わっていませんが、彼はあらゆる武器を使いこなしたと言われています」

「しかし、ミス・ヴァリエールの使い魔は……」

「そう、彼女の使い魔は犬なんです」

再び学院長室が沈黙に包まれる。
先ほどよりも、更に深く、重く。
お互いに、今交わされた会話の意味をその胸のうちで思案しているようだった。

「この件は……」

「分かっています。内密に、ですね」

「うむ……」



春の召喚の儀式から、暫く経った。
その間、ノワールは全く手の掛からない使い魔だった。
まず、無駄吠えをしない。
『赤土』のシュヴルーズの授業で、ルイズが錬金に失敗し、
大爆発を起こした時も、暴れる使い魔たちの中で、例外的に落ち着きを払っていた。
下のしつけ、世話をする必要も無かった。
散歩も必要なかった。
何しろ、朝夕に折を見て学院を抜け出し、一時間ほど裏の森を駆け回っている。
食事と睡眠以外の用は、そこで済ませてしまっているらしい。
ただ、最初にノワールが姿を消した時、ルイズは半狂乱になって学院中を探し回った。
泣き声を聞きつけて、何事かとノワールが駆けつけた時には、ルイズはヴェストリの広場でへたり込んで大泣きをしていた。
シエスタが必死になって慰め、何故かそばにはキュルケが何かを持て余すように佇んでいる。
キュルケが手を引いている一際小さな少女――読んでいる本から顔を上げようともしない――には見覚えがなかったが、
どうやら、ノワールの捜索を手伝うつもりだったらしい。
その光景にノワールは、心のどこかにちくりとした何かを感じた。
だが、それが罪悪感だったと気づくのは、もう少し先の話。
兎も角、それ以来、ノワールが外出する時はルイズの顔を見上げ、
許可を貰ってから、というルールが暗黙のうちに成立した。

かようにノワールは手間の掛からない使い魔だったが、ルイズは、暇を見ては手間をかけたがった。
というよりも、世話をしたがった。

夜寝る前には、必ずブラッシングをした。
毛並みが艶々になるのを見て、このわたしの使い魔なんだから、いつも身奇麗にしなくちゃね、と笑った。

使い魔との触れ合いの一環と言い張って、一緒に散歩にも行った。
一歩遅れて付いてくるノワールを見ては、その度に零れるように微笑んだ。

シエスタに声をかけて、学院そばの草原で取って来いをして一緒に遊んだ。
ノワールは教えてもいないのに一発で取って来いを成功させて、シエスタを驚かせたりした。
ルイズはその事を、まるで我が事のように喜んだ。

一緒に昼寝をした。といっても寝たのはルイズだけで、
ノワールは、寝転んだ自分の腹に頭を持たせかけて眠るルイズの寝顔をじっと見つめていた。

ギーシュの愚痴を一緒に聞いた。
ノワールのご褒美用干し肉が切れたことに気が付いて、厨房に貰いに行く途中で、
顔をぼっこぼこに腫らして飲んだくれるギーシュにつかまったとも言う。

「で、うっかり落としたモンモランシーから貰った香水を拾ったのが、よりにもよってケティだった、って事?」

「うっ……ううぅ、ああ、なんて、なんて僕は運が悪いんだ。始祖ブリミルは僕を嘉し給わぬのかっ!」

「全部あんたが悪いんじゃない。二股とか信じらんない」

サクッ。クリティカルヒット。

「あ、う、で、でも、僕は薔薇……甘い蜜の香りに誘われてやってくる蝶を拒む薔薇があるだろうか? いや、無い!」

ギーシュ、再起動を試みるも、

「言い訳する男って、最低ね」

失敗。止めを刺されて、テーブルに突っ伏す。

「あ、でも、私は本当に好きな相手なら、二番目でも良いかなー……なんて」

背後から、優しげな声が響いた。

「シエスタ、何時の間に来てたのよ?」

「いえ、食堂からルイズ様の声が聞こえたものですから」

そろそろ切れる頃ですよね、と言って笑うシエスタの手には、干し肉の入った袋があった。
気が利くわね、ありがとう、シエスタ。いえ、とんでもありません。
和やかな空気が流れ、ギーシュの影が極限まで薄くなったその時、

「あなた、シエスタだっけ? その考え方は負け犬の考え方よ、負け犬。
 本気で惚れちゃったんだったら、無理やりでも振り向かせるくらいの気持ちじゃなきゃダメよ」

相手も自分も燃やし尽くすような情熱こそ、恋の醍醐味でしょう?
横合いから、婀娜っぽい声が茶々を入れた。

「キュルケ!? なんであんたまでいるのよ!」

天敵の出現に、ルイズの声が一瞬で尖る。

「ちょっとした事故で、部屋の風通しがよくなっちゃったの。
 まだ肌寒いから、寝酒でも召してさっさと寝ようと思ったら、何か面白そうな話をしてるじゃない」

「なーにが、ちょっとした事故よ。どうせ男絡みでしょ? ギーシュと同じように、二股がばれたって所かしら。
 あさましいったらありゃしない」

「そこのギーシュは捨てられちゃったんでしょ? あたしの場合は、奪い合い。
 ほんと美しいって罪よね……あら、誰からも相手にされない、ルイズにはこの違い分からなかったかしら。
 ごめんあそばせ、オホホホホ」

みるみるうちに険悪になる空気。
心なしかのアルヴィーの踊りもぎこちない。

「……あ、私、まだ洗い物が残っているので、先に失礼させていただきます」

君子危うきに……などと口の中で呟きながら、
こっそり脱出しようとするシエスタの背後から、ガシリと肩を掴む手。
ひ、っと息を呑むシエスタ。

「シエスタ、いくら気まずくても、あなたが席を立つ必要なんて無いのよ?
 この慎みを知らない、キュルケって女がとっとと部屋に帰れば良いんだから」

「あら、言ってくれるじゃない、ルイズ。そもそも最初はギーシュの恋愛相談だったんでしょ?
 ネンネのあなたじゃ役に立たないんだから、あなたこそとっとと帰るべきじゃないかしら?」

「……今日こそ、あんたとの決着をつけなきゃいけないようね、フォン・ツェルプストー」

「吠え面かいてもしらなくてよ、ラ・ヴァリエール」

とても十代の少女二人が発するとは思えない重圧が広い食堂全体に満ちる。
うっかり逃げそびれたシエスタはすでに、涙を目に溜め始めていた。

「……なあ、ちゃんと話を聞いてくれるのは、君だけだよ、ノワール。
 ああ、君となら良い友達になれる気がする。
 今度、僕のヴェルダンデを紹介するよ。君と同じく、寡黙な良い奴なんだ……。
 なあ、聞いてるかい、君。
 ケティとモンモランシーに殴られた挙句、何で女の子の喧嘩のダシに使われてるんだろうね、僕」

結局、ギーシュの愚痴はノワールが聞く羽目になった。
喧々諤々と学院の夜は更けていく。

ノワールと遠乗りに出かけた。
馬と併走しても息一つ上げないノワールの体力に驚いた。

虚無の曜日は、ノワール“で”遠乗りに出かけた。
シエスタに見送られて、さて、出掛けようかとしたところで、キュルケとタバサに見つかった。

「あっはっはっは、どこの美少年かと思ったら、ルイズじゃない!」

「うっさいわね、ミニスカートでノワールに跨るわけにもいかないでしょ」

だが、裾丈の短いキュロットスカートと学園指定の飾り気の無いブラウスで身を包み、
長い髪を邪魔にならぬようにハンティング帽に押し込んだ姿は、
まだ女の匂いの薄い身体と相まって、確かに少年のように見えた。
自覚があるのか、あんたみたいに他人に下着見せる趣味はないの、という返事にも勢いが無いルイズ。

「……でも、何時もの格好よりも、その方が色気があるのは、女としてちょっと不味いわよ、ルイズ」

手にした本からちらりと視線を上げ、ルイズを一瞥したタバサが呟く。

「サスペンダーがあれば完璧」

勝気そうな瞳、目元に深い影を落とす長い睫、滑らかな頬、髪を結い上げている所為でむき出しのうなじ、
染み一つ無い白い肌、キュロットから伸びるすらりとした脚線、繊細を通り越してどこか危ういとさえ感じさせる華奢な身体。
少女と認識していた時は見過ごしていた諸々の要素が、今は少年期特有の危うい潔癖さを感じさせた。

あ、ちょっと汚したいかも。
不穏な考えが頭をもたげる、キュルケ。

一瞬の後、正気に戻る。
……何考えてるのかしら、あたし。あれは、ラ・ヴァリエールなのよ?
まったく、虚無の曜日に暇なんて持て余してるから変な考えが起きるのよね。

「……ねえ、ルイズ。弟さんがいたら、近いうちに是非紹介してくださいな」

「いないわよっ!」

もしいても、あんたなんかに絶対紹介しないわっ! と一声叫んでひらりとノワールに跨ると、
迅雷の速度で走り去るルイズ。
サラマンダー(注:学園で飼われる乗用馬の名前)よりもはやーい。
手綱も鞍もないため、ノワールの首筋に顔を埋めるようにしがみ付く。
ノワールの毛皮の下で、しなやかな筋肉が躍動しているのを感じる。
一足駆けるごとに、力強く心臓が拍動するのが分かる。
視点が低いため、馬よりも遥かに速く感じる速度。
知らず知らずのうちに、ルイズは歓声を上げる。



「……あいつ、使い魔召喚してから随分元気よね」

ポツリと、キュルケがどこか寂しそうに呟いた。

「まあ、当たりを引いたのだから気持ちは分かるのだけれども」

今までずっと報われなかったものね、という呟きは、唇より先に飛び出す前に留める。
同情なんて柄じゃないし、何よりルイズもそんな物は望んじゃいまい。
あー、なんかくさくさするわっ! 街に繰り出して男でも引っ掛けてこようかしら、と伸びをするキュルケを横目に、
タバサはじっとルイズとノワールが消えた先を見つめていた。
この小柄な友人が、珍しく読書以外の事柄に興味を持ったと察したキュルケは、ちょっとからかってみる事にする。

「タバサ……愛の形は人それぞれだから、口を出すのは野暮だけど、同性愛は不毛よ?」

「違う」

一言で否定された。
食い下がる。

「あなた、まさかノワールに……!?」

いけない、いけないわ、タバサ。それは流石に人の倫に外れるわよ。
あまりにもおぞましい想像に声を戦慄かせる。

「もっと違う」

心なしか、タバサの声に冷たい何かが混ざったような気がする。

「あの犬は異常」

何時ものように、端的過ぎる言葉。
タバサの一番の親友を自認キュルケでも、流石にこの一言で全てを察するのは無理だった。

「説明して」

「運動能力という点だけ見ても、犬という範疇から大きく外れている」

コクリ、とキュルケが首を傾げる。
どこか子供じみた、意外に可愛らしい仕草をするキュルケは、年相応の少女のように見えた。

「そうかしら? そりゃ確かにルイズを乗せてあの速さで走れるのは大したものだけど……」

そうじゃないと言う様に首を横に振るタバサ。

「ノワールというあの犬は、朝夕に裏の森に行く。時折、時間の関係で正門が閉まっている時がある」

それが? と視線で先を促す。

「あの犬は、城壁を飛び越えて学院の外に出る。帰ってくる時も同じ」

キュルケは、暫くその言葉の意味する異常さが掴めない。
そりゃ、門が閉まっているなら、壁を……。

「……え、嘘。だって、あの城壁、5メイルはあるでしょう?」

タバサが小さく頷く。

「城壁の僅かな凹凸に爪を引っ掛けて一気に駆け上る」

確かにそれは犬って範疇じゃないわね、と呟いて、キュルケは黙り込んだ。
考え込む二人。

「犬にそっくりの幻獣って可能性はないのかしら?」

ヘルハウンドみたいな、と付け足す。

「無い。医務室に運び込まれた時、ミスタ・コルベールがディテクト・マジックをかけたけど反応しなかった」

そう……と呟くキュルケ。
それきり暫く黙りこむ。
学院の喧噪が妙に遠くに聞こえる。
だが、キュルケの直感も、タバサの論理的思考も、今日この場では役に立たないようだった。
答えを得るには、あまりにも情報が少なすぎる。
とうとうキュルケが、つい、と顔を上げた。どうやら結論の出ない思考に飽きたらしい。

ま、どうでも良いわ、ラ・ヴァリエールの使い魔のことなんか。
それよりも、今日何して暇を潰すかよ。
ね、お願い、タバサ、街に行くのにシルフィードで送ってくれないかしら?

ダメ、今日は虚無の曜日。用件を済ませた以上、部屋で読書をしていたい、と視線で語るタバサ。

思い切り不満げな、えー。

そんなやり取りに、おずおずと一人の少女が割り込んだ。

「あの、よろしいでしょうか?」

この辺りでは珍しい黒い髪を肩の辺り切り揃えたメイド――ルイズを見送りに来ていたシエスタだった。

「えっと、あなた、シエスタだっけ? どうしたの?」

つい先日、食堂でルイズとやりあったキュルケは、昨日の今日ということもあり、流石に顔と名前が一致する。
ふと、気づく。
平民であるシエスタが、貴族、しかも、トライアングルメイジであるキュルケとタバサに話しかけるには、
そうとうの勇気を必要としたはずだ。
案の定、シエスタの手は震えていた。

緊張を和らげるように、キュルケは微笑みかける。
タバサにその手の社交性というか気遣いは期待するだけ無駄なので、
こういう時は、意識してキュルケが前に出る必要がある。
その微笑に勇気づけられたように、シエスタが再び口を開いた。

「お二人の会話を小耳に挟んで……実は、私もノワールについて、気になっていた事があるんです」

「そういえば、あなた、最近ルイズの周りでよく見るけど、どういう関係なのかしら?」

ご説明していませんでした。申し訳ありません、と一礼して謝り、自分とルイズの関係を説明するシエスタ。
動物の知識を買われ、ノワールの介抱を手伝ったのだという事。
それ以来、ルイズとは懇意にしている事。

「祖父が、こういう事に妙に詳しい人だったんです。
 暇とお金さえあれば、ハルケギニア中を回って動物の生態を調べていたそうですわ」

動物について詳しい知識があるのは何故かと問われたシエスタは、少し遠い目をしてそう語った。

「なるほどね。で、気になることって言うのは?」

「ノワールの犬種の事ですわ。
 ノワールの体高はおよそ一メイル五サント。
 ハルケギニア最大といわれるアルビニオンのウルフハウンドを凌駕する大きさです。
 これに曲がりなりにも匹敵する犬種となると、
 ゲルマニアの猪狩りの狩猟犬や、ガリア南西部山間のマウンテンドッグですが……」

興味を引かれたのか、タバサも口を挟む。

「どの犬種もノワールに似ていない」

頷いて、肯定の意を表すシエスタ。

「はい。明らかに違う犬種ですわ」

でも、とキュルケが呟く。

「それなら貴方のお祖父さんも知らない所から……
 例えば、ロバ・アル・カリイエから召喚されたって可能性もあるでしょ?」

「かもしれません……でも、犬を見ていると何となく分かるんです。
 その犬種が何を目的として、どの程度人の手が入っているのか」

それで? とキュルケが先を促す
シエスタが、すっ、と息を吸い込んだ。

「ノワールは、牧羊犬でもなく、狩猟犬でも無いと思います。
 そのどちらを目的にするとしても、あれだけの能力を必要とはしません。
 恐らくは、いえ、ほぼ間違いなく軍用犬として生み出され磨き上げられた犬種ですわ」

巨躯に裏打ちされた強靭かつしなやかな身体能力。
一度聞いた固有名詞を確実に区別する知性。
複数の命令を同時にこなす事のできる高い判断力。
“今”の“先”を予想する事の出来る鋭い洞察力。
それらと、必要とあらば、気配を完全に断つ野生の本能との理想的な混合。
本来ならば、軍用犬ですら、これほどの能力を必要とはしない。
シエスタが軍用犬と言ったのは、年齢不相応な該博な知識を持つ彼女をしても、
他にここまで高い能力を求められる犬というのが想像も出来なかったからだ。

シエスタはノワールの血の向こう側に、怨念じみたブリーダーの執念を感じていた。
想像上のブリーダーたちが挑む命題はただ一つ。“最高の狩人を作り上げる事”

一旦息を継ぐ。
まるで、今まで喋った事がずっと背負っていた重荷だったかとでも言うように。

「少し、不安なんです。ノワールは本当に良い子だし、ルイズ様も可愛がってます。
 でも、時折感じるんです、観察するように私たちを見ているノワールの視線を」

あれは、一度酷く傷ついた事のある犬の目だ、とシエスタは思う。
例えば、飼い主に裏切られたとか。
そういう犬は、もう一度傷つけられる事に殊の外敏感だ。
そして、少しでも裏切られたと感じたら、必ず報復するだろう。
その時、自分は決してルイズの力にはなれない。
シエスタは、犬の強さを、そして、ただの人間である自分の弱さをよく知っていた。
ましてや、ノワールは軍用犬だ。
その能力は未知数だが、間違いなく、シエスタの知るどんな犬よりも強力だろう。
自分どころか、下手なメイジでも相手にならないかもしれない。
でも、噂に聞くトライアングルメイジの二人ならば……。

だから

「だから、その時は、酷い事になる前に、ノワールを止めてあげて下さい
 ルイズ様のためにも、ノワールのためにも」

シエスタは深く頭を下げた。
キュルケはタバサと顔を見合わせ、そして、肩をすくめた。

「ま、考えとくわ。
 あなたの考えすぎだと思うけどね」

その眼差しは、ノワールに乗って帰ってくるルイズに注がれている。
遠目からでも分かる。
ルイズは、楽しそうに、それは楽しそうに笑っていた。


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