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No.5204の一覧
[0] ゼロの黒騎士(ゼロの使い魔×鉄コミュニケイション)[早朝](2008/12/09 00:43)
[1] ゼロの黒騎士 第一回[早朝](2008/12/09 00:45)
[2] ゼロの黒騎士 第二回[早朝](2008/12/09 00:46)
[3] ゼロの黒騎士 第三回[早朝](2008/12/09 00:46)
[4] ゼロの黒騎士 第四回[早朝](2008/12/09 00:47)
[5] ゼロの黒騎士 第五回[早朝](2008/12/09 00:48)
[6] ゼロの黒騎士 第六回[早朝](2008/12/09 00:48)
[7] ゼロの黒騎士 第七回[早朝](2008/12/09 00:49)
[8] ゼロの黒騎士 第八回[早朝](2008/12/09 00:50)
[9] ゼロの黒騎士 第九回[早朝](2008/12/09 00:50)
[10] ゼロの黒騎士 第十回[早朝](2008/12/09 00:51)
[11] ゼロの黒騎士 第十一回[早朝](2008/12/09 00:52)
[12] ゼロの黒騎士 第十二回[早朝](2008/12/09 00:53)
[13] ゼロの黒騎士 第十三回[早朝](2008/12/09 00:53)
[14] ゼロの黒騎士 第十四回[早朝](2008/12/09 00:54)
[15] ゼロの黒騎士 第十五回[早朝](2008/12/09 00:55)
[16] ゼロの黒騎士 第十六回[早朝](2008/12/09 00:56)
[17] ゼロの黒騎士 最終回[早朝](2008/12/09 00:58)
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[5204] ゼロの黒騎士 第十回
Name: 早朝◆74a45303 ID:a07c8492 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/09 00:51
眼下には、ラ・ロシェールの町並みが広がる。
街の灯りが、水底に沈んだ宝石のようにも見える。
その光を遮る、人影と呼ぶにはあまりにも大きな何か。

――何だあれは? ゴーレム?

とにかく、何かしら騒動が起こっているのならば、そこに彼らが追っているワルドが関わっている可能性が高い。
翼を傾けて急降下する。
後続の二騎が、隊長騎に続いた。


数十分前――『女神の杵』亭にて

「あら、お帰りなさいまし、子爵」

「日は既に落ちているとはいえ、こんな時間から酒盛りかい? あまり感心はしないな」

「堅い事は言わないで下さいな。何しろ、明日は出立するんですもの。
 朝一番の船に乗ったら、敵地アルビオンへ一直線。
 騒げる時に騒いでおかなければ、もしもの時に未練を残しますわ」

「なるほど。まあ、そういう事なら仕方ないか。
 しかし、明日に残さないように」

「話の分かる方で良かった。さ、子爵様も一献」

「いや、僕は……」

「寂しい事を仰らないで下さいな。
 魔法衛士隊の隊長ともなれば、ご見聞も広いのでしょう?
 軍務の話など色々お聞かせくださいまし」

「あ、それは僕も聞きたいな」

「参ったな」

「……ちょっと席を外す」

「タバサ嬢、どこへ?」

「手水」

「……それは失敬」

――上手くやりなさいよ、タバサ。


予想はしていたが、部屋の扉には当然のように鍵が掛かっていた。
タバサは何事もないかのようにスカートのポケットから細い針金を一本取り出すと、鍵穴に差し込む。
だが、手の中で弾かれるような感覚。

――施錠の魔法。

手の込んだことだと思う。
だが、タバサは焦らない。
障害があるなら、馬鹿正直に突撃する必要はない。迂回すればいいのだ。
ここから入るのが無理だとすると残るは……ベランダの窓。
ちょうど都合の良い事に、隣の部屋を確保してある。
上手くすれば、そこからフライを使うことなく侵入できるはず。

そこまでは良かったのだと思う。
計算違いは、部屋にルイズがいた事。
ルイズは寝台に腰掛けて、伏せるノワールの頭を撫でながら、ぼんやりと考え事をしているようだった。
さすがに事情を知らないルイズのいる前で、隣の部屋に侵入するわけにはいかない。
かといって、顔を見た瞬間部屋を出るというのも、失礼極まりない話だ。
少し考えた結果、タバサは本を取りに来た事にする。
実際、寝巻きのポケットの中にもう一冊本を持ってきている。
何しに来たのかと問われたならば、その本を取りに来たのだと答えれば問題はないはずだ。
そうと決まれば長居は無用。
幸いと言っていいのか、キュルケが買ってくれたこの服はフリルだけではなく、ポケットも多い。
本の一冊くらいなら、そこに入れておけば行動に支障はないだろう。

だが、ごそごそと自分の寝巻きを漁るタバサの背中に向かって、ふと思いついたように、ルイズが尋ねた。

「そういえば、キュルケはまだホールにいるの?」

タバサは本を探す手を止めると、ルイズに向かってコクリと頷く。

「そう……ギーシュやワルドも一緒?」

同じように頷き、さらに一言付け加える。

「宴会」

下で飲んでいてくれるなら、こちらとしても好都合と言う本音はそっと無表情の下に隠した。
ルイズは、どこか困ったように微笑む。
学院では見ないような、どこか大人びた表情。

「そういう気分じゃないの」

そう、とだけ返す。
しばらくの間、部屋の中を沈黙が満たす。

「キュルケがさ、タバサといつも一緒にいるの、ちょっとわかる気がするわ」

唐突に、ルイズが口を開いた。
小首を傾げるタバサ。

「自分じゃ意識してないのかもしれないけど、タバサの傍って意外に居心地が良いもの」

タバサはじっとルイズの顔を見つめる。
何の表情も浮かべていないはずのその顔が、どこか驚いているようにも見えた。
しばらくそうした後、くるりと背中を向けて、寝巻きのポケットを探る作業を再開する。
その姿勢のまま、ポツリと答えを返した。

「よく分からない」

多分それは、キュルケもわたしもある意味では似たもの同士だからだ、とルイズは思う。
つい最近、薄々感じていたことが、ここに来てはっきりとした形に像を結ぶ。
物凄く認めたくない事実ではあるのだけれど、自分もキュルケも、お互い我が強く、そして、敵が多い。
ルイズは魔法が使えないことで、キュルケはその男性遍歴で。
だから、そういう部分で人を判断しないタバサの傍が心地良い。

「もっと早く気がつけばよかった。そしたら、友達になれたのに」

友達、とタバサは呟く。
それに気づかないまま、ルイズは続ける。

「今からでも、遅くはないかしら?」

ふと、手が止まった。
タバサが何かを答えようとしたそのとき、ノワールの耳が立った。
がばりと起き上がる。

「ノワール?」

「静かに」

不思議そうな顔をするルイズをタバサが制する。
そのただならぬ様子に、ルイズも口を閉ざした。
緊張した空気が流れる。
その瞬間、部屋のドアが叩かれた。タバサは無言のまま立ち上がり、油断なく杖を構える。
凍りつくような沈黙の中、むしろのんびりとさえした声が響いた。

「ルイズ、僕だ。入っても良いかい?」

ワルドだった。
緊張した空気が霧散する。

「ワルド? ちょっと待って。構わないわよね、タバサ?」

杖を下ろし、コクリと頷くタバサ。
ルイズはワルドを招き入れるために寝台から立ち上がった。
どうやら、ワルドはルイズをホールの宴会に誘いに来たらしい。
さきほどまでの反動なのか、どこか弛緩した空気が漂う室内で、しかし、ノワールだけが警戒を解いていない。
この若さにして、幾つもの修羅場を潜ってきた経験が、その事をタバサに気づかせた。

――外?

先ほどまでおぼろに差し込んでいたはずの月光が翳っていることに気がついた瞬間、タバサは短く呪文を詠唱。
タバサが渦巻く風に身体を突き飛ばされるようにして部屋の入り口まで飛び退り、ノワールも一足で後退する。
次の瞬間、ベランダから突き込まれたる巨大な岩の拳が、室内に置いてあった何もかもを破壊しつくした。

「ゴーレム!?」

ワルドに抱きかかえられて難を逃れたルイズが叫ぶ。
壁が破壊され、見通しがやたらと良くなった部屋の外、中天にかかろうとする二つの月を隠すようにして、
二十メイルはあろうかというゴーレムが立ち上がる。
その肩には、二人の男女。
片方は白い仮面を被った男。もう一人は……。

「『土くれ』のフーケ! チェルノボーグの監獄に収監されてるはずじゃなかったのっ!?」

「あたしくらい才能豊かだと、スカウト先が引きもきらなくてね。
 雇い主が救い出してくれたのさ!」

その言葉に合わせるように、ゴーレムが拳を振り上げる。

「こいつは、素敵なバカンスの返礼だよ。
 釣りは要らないから、受け取っておくれ!」

「いかん! 一時撤退する!」

一階へ通じる階段へ三人と一匹が駆け込むのと、拳が唸りを上げて叩きつけられるのは、ほぼ同時だった。
砕けた破片が降り注ぐのを、頭を屈めてやり過ごす。

「フーケの雇い主って、アルビオンの貴族派なのかしら」

「恐らく、ね。
 さて、困ったな。どうやら我々は囲まれたらしい」

「嘘!?」

「本当さ。さっき一瞬だが、通りの方から近寄ってくる連中が見えた。
 弩を持ち歩く連中がただの野次馬とも思えないしね。そろそろホールに踏み込んでくる頃だろう」

タバサが提案する。
いつもと変わらぬ静かな声に、一筋焦りが混じっていたかもしれない。

「合流」

これ以上はないというほど、簡潔な提案に、ワルドは首を横に振る。

「いや、それは上手くない。このような任務では、半数が目的地にたどり着ければ成功とみなされる。
 キュルケ嬢やギーシュ君には悪いが、派手に暴れて敵の目を引き付けて貰おう。
 タバサ嬢。君もここに残ってくれないか?」

逡巡は一瞬。
タバサはワルドの言葉に、こくりと頷いた。
無論、タバサはキュルケと同じように、ワルドの潔白を信じてはいない。
状況的にあまりにも怪しい点が多すぎる。
だが、仮にキュルケの疑惑が真実だとして、ここで拒絶した時、果たしてワルドはどう出るだろうか。
最悪の場合、杖を抜く。
魔法衛士隊の隊長を務める人間と、この状況下で一騎討ちして勝つ自信があると言い切れるほど、
タバサは自信過剰な人間ではない。
ならば、ここは一旦引き、キュルケ達と合流して、状況を仕切りなおした方が良いと判断する。
実を言えば、一番の親友であるキュルケの事も心配だ。
先日の待ち伏せの規模を考えると、二人だけでは荷が重い可能性が高い。
それに、何よりもルイズとワルドを二人きりにするわけではない。
吠えもせずじっと伏せているノワールに目をやる。
ルイズの袖をクイと引っ張った。

「ノワールに乗っていくと良い。あなたが一番足が遅い」

「え? あ、ええ、そうね。確かにそうだわ。ありがとう、タバサ」

「気をつけて」

その一言に、万感の思いを込める。

「タバサも無事で。
 ギーシュも守ってあげてね。多分一番弱いから。
 あー、あと、ええっと……その、ツェルプストーにも気をつけるように言っておいて。
 べ、別に心配してるわけじゃないんだからね。その、死なれたら寝覚めが悪いじゃない!」

「分かった」

一つ頷いて、ホールに向かって駆け出す。
その後姿を見送ると、ルイズはノワールに跨った。

「行きましょう、ワルド」

騎乗姿も凛々しいルイズに、何故か痛々しげな眼差しを送るワルド。

「その、ルイズ、下着が……」

「そ、そそそそれ以上は言わないでっ! それに、そんな事言ってる場合じゃないわっ!」

二つの影が、裏口を目指して走り出した。

表通りを横切り、細い裏道を抜け、一散に桟橋へと向かう。
足取りに迷いはなく、目的地はこれ以上ないほどはっきりとしている。
二人と一匹は、あっという間に世界樹の根元に辿り着く。
昨晩も訪れたエントランスを抜け、一瞬視線を彷徨わせるワルドを尻目に、
ノワールは速度を緩めることなく、目的の階段を駆け上る。
追随するワルド。ノワールは決して脚を緩めようとしない。
遥か下方にラ・ロシェールの街の灯り。
今にも崩れそうな手すりが、足音にあわせてパラパラと木屑を舞い散らす。
きしむ階段のたわみさえも、階段を駆け上がる速度に変換する。
後方から置いていきかけたワルドの制止の声。
見上げる視線の先、階段の向こう、踊り場に黒い人影。
わだかまる闇に浮かび上がるような白い仮面。

――危ない、止まれ。

だが、ルイズは抱きしめる腕の下で、ノワールの筋肉が更にうねり膨れ上がるのを感じる。
これは、ノワールが加速するときの兆しだ。

――飛び降りろ、ルイズ!

諸腕に力を込める。
闇の中に流れる髪が、何かに引っ張られたのではないかと思うような大加速。
叩き付ける様な向かい風の中で目を凝らせば、ボロボロのはずの手すりが、
滑らかな一繋がりの流体のように視界の端を後方に流れ去っていく。
階段の踏み板が、蹴り脚の勢いに耐え切れず、一足ごとに踏み砕かれる。
とても階段を駆け上っているとは信じられない。闇の底に向かって落ちていくよう。
だが、ルイズに恐怖はない。
階段の上で仁王立ちをする白仮面の脇を、とても曲がり切れるとは思えない速度ですり抜けた。
白仮面は咄嗟に詠唱を中断してルイズに手を伸ばす。しかし、その手は空しく宙を掴む。
そのまま物理法則に従い踊り場の手すりをぶち破って、
一人と一匹は放物線を描いて中空へと投げ出され……たりはしない。
ノワールは手すりのギリギリ手前で方向転換。
慣性を嘲笑うかのようなバランス感覚で体勢を整えると、体が流されるままに、
手すりを思い切り蹴りつける。逆方向への再加速。
崩壊寸前だった手すりはその一撃で完膚なきまでに破壊されるも、
その僅かな一瞬を文字通りの足がかりにしてノワールは鋭角にターン。
メイジなど真正面から相手にしていられないとばかりに、さらに階段を駆け上がる。
走り去る背を見送る形になった白仮面は、それでもルイズの桃色がかった金髪が闇の中に消える前に呪文を再詠唱。
完成した魔法をノワールめがけてに叩き付けた――エア・ハンマー。
階段の端から端まで叩きのめすに十分な大きさの空気の塊がルイズに迫る。
だが、それが見えているかのように、ノワールは階段の外へと飛び上がると、
垂直に切り立つ壁――世界樹の幹の内側――を、ルイズを背負ったままひた走る。
ルイズが腕の力を弱めるなんて、欠片ほども考えていない機動。
斜めに傾いだ視界の端で、ワルドが白仮面をエア・ハンマーで吹き飛ばすのが見えた。
そのまま、枝に停泊する船まで走り抜ける。

思う。
聞いたぞ、確かに聞いた。
更に思う。
間違いなく、中断前と後で違う魔法をお前は詠唱した。
止まると思ったのだろう?
ルイズが降りると思ったのだろう?
脚が止まったらおれだけ始末しようと思ったんだろう?
当てが外れて、ルイズを巻き込まんでも良いように殺傷力の低い魔法に切り換えたな?


タバサがホールにたどり着いてみると、そこは酷い有様だった。
魔法の範囲外から、数十人がかりで射掛けられては身動きも取れない。
据えつけられたテーブルの脚を錬金して横倒し、バリケード代わりにしているが、
そうでなければ、ギーシュとキュルケは今頃針鼠になっていただろう。
タバサは、低い姿勢で転がるようにテーブルの影に走りこむ。

「タバサ、無事だったのね! ルイズは!?」

「分断された。ワルド子爵と一緒」

裏口の方を指差す。
その仕草で全て了解したとでも言うように、キュルケは一つ頷いた。

「予想してしかるべきだったわ。これがあるから、わたしたちの同行を許したのね」

確実な証拠を押さえようなんて考えたのが不味かった。
とっとと全部ばらして正面から対決すべきだったか、と後悔しても後の祭り。
認めよう。『閃光』の二つ名は伊達ではなった。
手回しの速さはワルドの方が一枚上手だ。

「よ、よく分からないが、ルイズはワルド子爵と一緒なんだろう?
 なら、彼に任せて、ここを何とか切り抜ける方が先決だと思うんだが」

「そのワルドと一緒だって言うのが、問題なのよ。
 でも、確かに今はこれを切り抜ける方が先決ね」

魔法で牽制することで押し込まれる事だけは辛うじて防いでいるが、このままではジリ貧だ。
絶え間なく射掛けて足を止め、精神力が尽きた所で押し込む。
常套手段だが、実に有効な選択だ。有効すぎて、こちらに打つ手がない。
ちょっとは山っ気だしなさいよね、と顔も知らぬ傭兵たちに八つ当たり。
となると、撤退するが上策だが、それにしても、傭兵の足を止めるために最低一人は残る必要がある。
ドットメイジのギーシュは論外。足止めにもならない。
となると、残るのはキュルケかタバサ。
どちらが残るにせよ、残った一人は確実に死ぬ。
いや、そこで死ねればまだマシだ。何しろこちらは女の身。
さらわれでもしたら、どうなるかなど考えたくもない。

「ん……?」

「ちょっと、ギーシュ! 危ないわ、頭引っ込めなさい!」

「あ、いや……見覚えのある顔がちらほらいるんだ」

キュルケはタバサに牽制を任せて、ギーシュに向き直る。

「見覚えのある顔?」

「ああ……僕は昨日、生き残った傭兵を尋問しただろう?
 流石に昨日の今日だからね。顔くらいは覚えてる。
 参ったな。やっぱり貴族派に雇われてたんじゃないか」

知っていれば、こちらが先手を打てたのに、と悔しそうに呟くギーシュ。
でも……

「でも、これは使えるな。傭兵だけなら、何とかなるかもしれない。
 追い払うだけでいいなら、だけどね」

「何か名案があるなら、早くしていただけるかしら?
 正直、あまり時間がないの」

はやくどうにかして、ルイズとワルドを追いかけなくてはならない。
焦るばかりで、キュルケの思考が空回りする。

「出来れば、僕にも事情を説明して欲しいんだが……まあ、良いか。
 さて、ではとくとご覧じろ」

ギーシュは薔薇の造花を模った杖を一振りする。
花びらが舞う。

「こいつは、ク・ホリンとでも名付けようか」

そこに現れたのは、青銅製の犬の姿をしたゴーレム。
1メイル強のそれは、細かい部分まで、驚くほどノワールに似ていた。
キュルケが感心したように呟く。

「貴方、変なところで器用なのね」

テーブルの影から、七体のク・ホリンが風のように飛び出す。
射掛ける傭兵たちの中から、幾つもの悲鳴が上がった。


戦線はしごくあっさりと崩壊した。
犬の姿を模した青銅製のゴーレムを見た瞬間、昨夜生き残った五人が泡を食って逃げ出し、後は酷いものだった。
一人欠け二人消え三人が連れ立って逃げ出し、気が付けば矢ぶすまに切れ目が出来るようになり、
中のメイジ――多分、キュルケという学生――が放った火球の魔法が傭兵たちのど真ん中で炸裂した時、
もはや敵前逃亡を押し留める術はなくなっていた。
恐怖に囚われた集団のなんと脆いことか。
それを食い止めるべき白仮面はもういない。
五人が逃げ出す直前に、後は好きにしろと言い残して、世界樹の方へと飛び去ってしまった。
自らが作り出したゴーレムの肩の上で、『土くれ』のフーケは切なく溜息を吐く。

さて、どうしたものかな、と考える。
傭兵をゴーレムで脅して、もう一度酒場に押し込む事も出来ないわけではない。
だが、昨夜の一件で心底恐怖を刷り込まれた五人の狂態を見た傭兵たちの士気は最低も良い所だ。
パニックが感染しかけていると言っても良い。
最悪の場合、ボウガンがこちらを向く可能性さえある。
あの犬コロと直接対峙していない連中なら、恐怖を新たに刷り込む事で統制を取る事も可能だろうが、
その場合はゴーレムで何人かの傭兵をミンチにする必要があるだろう。
また、無理に傭兵を頼らず、ゴーレムの力押しで中の連中を黙らせるという手もある。
二十メイル超のゴーレムの制圧力は、あんな急ごしらえのバリケードなど、物ともしない。
宿屋の入り口から手を突っ込んで叩きのめすだけで事は終わる。
終わるのだが……

……正直、そこまでする必要はあるかなぁ、とも思う。
大体、自分は盗賊であって、少なくとも、今はまだ殺し屋ではないのだし、
あのノワールとかいう犬ならともかく、キュルケやタバサ、ギーシュという学生を恨んでいるかと言うと、
そこまで深い接点があったわけでもない。
確かに、キュルケとタバサが、フーケが破壊の杖を盗み出そうとする現場に居合わせたのは事実だが、
何かされたわけでもないのだ。
そもそもフーケの中で、あの一件はどちらかといえば自分のミスで起きたのだという意識が強い。
学生だと侮ったりせず、三人娘がいなくなるのを待ってから宝物庫の壁を破壊すれば、
あんな目に遭わずにすんだのだから。
降って湧いたチャンスに、思わず先走った所為だと言える。

雇い主も用は事足りたと言ってるわけだし、これ以上ドンパチする必要はない、か。
それじゃ、今日のところはこの辺で消えさせてもらうかな。

フーケはフライを詠唱。
ゴーレムを解体する手間もそこそこに、夜の闇へと消えた。
結果として、あくまでも結果としてだが、フーケのこの判断は彼女の命を救う事になる。
何故ならば、この直後、マザリーニの放った追っ手――三騎の竜騎士が、ラ・ロシェールの街に到着したのだから。


「ワルド、見て! 竜騎士よ!」

舷側から身を乗り出すようにして、ルイズが叫んだ。
船長との交渉を終え、船――『マリー・ガラント号』という――が出港するのを確認していたワルドは、
思わず安堵のため息が漏れそうになる。その胸にあるのは、逃げ切ったか、という思い。
見栄えのしないトリステインの宰相を、鳥の骨と侮る者は決して少なくない。
だが、その傍に仕えてきたワルドは、マザリーニの有能さを嫌というほど目の当たりにしてきた。
だから、もし仮に誰かが自分の行動の不自然さに気がつくとしたら、
必ずマザリーニが最初に気づくことになるだろう、とそう思っていた。

だが、それにしても、追うと決めたら躊躇わず最速の手段を選ぶか。
偶然とはいえ、『スヴェル』の月夜絡みで、時間的余裕はまだあると偽装できていたはずなのだがな。
つくづく抜け目のない男だ――だが、今回は俺の勝ちだ。

「……ワルド?」

怪訝そうなルイズの声。

「あ、ああ、すまない、ルイズ。 少々を考え事をしていてね。
 恐らく、変事あることを察した近在の領主が向かわせたのだろう。
 後の事は彼らに任せて、僕たちはアルビオンへと急ごう」

そっとルイズの肩を抱き寄せる。
腕の中で、わずかにルイズが身を強張らせたが、拒絶はしない。

「空の風は君が思うよりも身体に障る。今夜はもう船室で休んでいたほうが良い。
 もしも、可愛いルイズが風邪など引いてしまったら、僕の胸は心配で張り裂けてしまうよ」

大げさね、とルイズがわずかに笑みをこぼす気配。

「大袈裟でも何でもないんだがね」

ワルドは心の底からそう答える。


「やられたわ。見事に置いてきぼりね」

アルビオンへと向かう『マリー・ガラント』号は、もう豆粒ほどの大きさにしか見えない。
ゴーレムが突如動かなくなったことで、フーケが退散したことを知ったキュルケ達三人だったが、
全力で急いだものの、結局『マリー・ガラント』号の出航には間に合わなかった。

「でも、まだよ、まだ手はある!」

だが、キュルケは諦めようとしない。
諦めるのは、ツェルプストーの女には似合わない。

「シルフィード」

ポツリとタバサが呟く。
そう、まだタバサの使い魔であるシルフィードという手がある。
今すぐ出発すれば、アルビオンに船が到着する前に……。

「あー、すまないのだが、お嬢さん」

いきなり背後から声を掛けられた。
うるさいわね、今忙しいのよ! と言いかけた所で、その声の主が、タバサでもギーシュでもない事に気づく。

「『女神の杵』亭の主人が言うには、君達が、ワルド子爵の同行者だそうだね。
 そして、傭兵とゴーレムに襲われたそうじゃないか。ちょっと事情を聞かせてもらえないかな?」

「……え、どちら様?」

キュルケに声を掛けたのは、磨き上げられた胸甲も眩い一人の騎士だった。
腰には実用一辺倒の無骨な鉄ごしらえの杖が無造作にぶら下がっている。
そして、その男を何よりも特徴付けているのは、その後ろを守るように佇む一匹の風竜。

「トリステイン空軍竜騎士隊の者だ。
 マザリーニ枢機卿から、ワルド子爵とその同行者を保護するように命じられている」

更に二匹の風竜が、その背後に舞い降りる。
翼の生み出す風圧で、砂埃が舞った。

「こちらも事情が分からなくて困っているところでね。
 君達から詳しい事情が聞けるものだと、そう期待しているんだ」

穏やかな表情とは裏腹に、その言葉には否とは言わせない迫力があった。
キュルケ達にとって、この夜の騒動は、まだもう暫く終わりそうにもなかった。


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