ルイズは元々お嬢様である、しかも大公爵家のご令嬢であるからして王宮作法や茶会作法などには異常に長けている、故に普段のルイズが行っている仕事などはドヴァキンさんの野盗退治や護衛などとは全く逆の仕事を行っている。
「暇だな」
そしてルイズの仕事は食いっぱぐれがない、稼ぐ量はドヴァキンさんの方が上ではあるが日々の糧などは完全にルイズ頼りになってしまう。
ニートに片足を突っ込んでいるドヴァキンさんは魅惑の妖精亭の二階でそんな事をボヤいた、間借り代を支払ってちょっとした宿代わりにしているここはお世辞にも綺麗とは言えない環境であるが、ルイズに不満はないらしい。
「ちょっとぉ、ドヴァキンちゃん。手伝って欲しい事があるんだけどぉ」
まるでシェオゴラスの領域から出てきたような御仁、魅惑の妖精亭店主のミ・マドモワゼルが遠慮がちに声をかけてきた。
「ん、スカロンさんか。何か用?」
「んもう! ミ・マドモワゼルって呼んでちょうだい!」
この見た目だけで判断されそうな御仁とドヴァキンさんの仲はトリステインで一番か二番を争うくらいに良好だ、ドヴァキンさんを自分の都合で利用しない奇特な人物と言ってもいい、ふと親友であったレイロフを思い出してしまうが……流石に怒られそうなのでレイロフに謝罪をしておく。
「で、なんか用なの?」
ドヴァキンさんはルイズの匂いがするベッドから起き上がると体を大きく伸ばして、彼、または彼女に軽い調子で尋ねる。
「あ、そうなのよぉ~。夕飯豪華にするから、お使いに行って欲しいの」
「うん、いいよ。今日の夕飯にソーセージおまけしろよ」
「山盛りでつけちゃうわ!」
ドヴァキンさん、初めてのお使いはこんな感じで開始された。
どうにも魔法学院のシエスタなる姪っ子に流行りの服を送りたいとの事、これで山盛りソーセージが夕飯に追加される、なんて生き易い世界なのだろうか。
お使いに行く前に洗剤が切れていたからついでに補充してやろうと商店に寄ってみると妙に質素な店主が対応してくれた。
「商品を見せてくれ」
「みんなはガラクタって呼ぶけど、俺は宝物って呼んでる」
売りたいのか売りたくないのか分からないセリフを言われてドヴァキンさんは洗濯用石鹸を購入し、さっさと学院に向かおうと王都前に駐留する馬車に接近するのだ。
「乗ってくかい?」
「ああ、学院前まで頼む」
ちゃりちゃりの銀貨を渡して後ろの荷台に乗り込むと御者が声をかけてきた。
「魔法学院へは始めてか? あそこの女子生徒のスカートは一見の価値有りだ」
「不敬罪でしょっぴかれる前に早く行け」
どうして馬車の御者と言うのはあっちもこっちもおしゃべり放題なのだろうか、確かにトリステイン魔法学院の女子制服はミニスカートだ、だがしかし、ミニスカートより見るべき所があるとドヴァキンさんは断言する。
トリステインの文化にブラジャーはない、そこで地肌にそのままYシャツを着ているのだ、つまりポッチが出て透ける、そう、ポッチが透けるのだ!
「エロイのう」
「エロいよなぁ」
ドヴァキンさんはいつの間にか隣に座っている人物の言葉に相槌を打ってやる。
「……なぁ、アズラ。お前なんでここに居るんだ?」
「なんだ、妾が居てはいかんのか」
「いかんでしょ」
「安心しろ、幻影だ」
どうやらこの世界でもデイドラは信仰されているらしい、デイゴンとか来てしまったら世界がヤバイ、ルイズも薄い本に出る事になってしまう。
「何、今日は旧友に警告をしに来ただけだ」
旧友、これほど信用ならない友人認定もないもんだ。
「あのルイジュとか言う小娘に関わっていると……貴様死ぬぞ」
「ルイズな」
「小娘の名前なんぞどうでもいい、だが……あの小娘の力は危険だ」
「俺に消せってか?」
「そこまでは望んでおらん、だが忘れるな。この世界で貴様を滅する事が出来るのがあの小娘だけであると」
「俺のラスボス化フラグですね、わかります」
「ふっ、精々そうならぬように気をつけるのだな、ドヴァーキン、我らがデイドラに立ち向かう勇者よ」
「……何百年前にも居ただろ、クヴァッチの英雄がよ」
「フフフ」
アズラは言いたいことだけ言うとさっさと消え失せてしまった、残されたのは憮然としたドヴァキンさんとアズラの発する気配にビビリまくった御者だけだ。
「ナイチンゲールよ」
「もうええわ」
ノクターナルまでこんにちはしやがった。
結局今日だけでアズラ、メリディア、ノクターナル、ナミラがお見えになった。
原因は恐らく彼らのクエストをクリアした際に要求した報酬、一晩相手にしろが効いているのだろう、自分でもつくづくアホだと思う。
とは言え無事に学院に辿り着いたドヴァキンさんは、スカロン氏の姪っ子を探す為にあちこち適当に歩き始める。
「シエスタ、だっけか」
出立前に聞いた名前、お昼寝を冠する変わった名前を持つ女性を探す。
黒髪に大きめのお乳なんて特徴で探しているが……どうにも姿が見えない、正直このパターンにも覚えはある。
「……こりゃ別のところにお使いさせられるフラグだな、夕飯は抜きか」
そんな自嘲めいた事を呟いたドヴァキンさんは食堂の方にシエスタの所在を尋ねる為に足を運び、案の定彼女は実家に帰宅しているとの情報を得てしまう。
ドヴァキンさんのちっぽけな冒険はまだまだ続きそうだ。