Front mission Zero
File34:出撃
=魔法学院 無期限休校 開始日・トリスタニアの王城=
トリステインを纏めるアンリエッタは、まだ17歳。
"姫だけ"としてなら何も気にする事は無いが、一国を背負うにしては若すぎるかもしれない。
故に自分に協力的ではない貴族達の激しい糾弾は、彼女の心を幾度も傷付けていた。
時には一人泣いた夜も有ったものだが……ルイズが言った"彼"が、生きているという希望。
――――ウェールズ皇太子様は、生きておられます。
それがアンリエッタの心を、強く保っていた。
レコン・キスタは"行方不明"と発表しているので、死んでいない可能性は極めて高い。
何処で何をしているのか判らないが、アルビオンを再び取り戻す為に頑張っているのだろう。
だから彼女は彼にも負けぬようにと兵を纏め、レコン・キスタに抗うつもりだ。
兵力は心とも無いが、例え命を失ったとしても、ウェールズよりも先に逝けるのであれば本望だ。
勝手な話だが……愛する人を失うよりも、愛する人に自分の死を少しでも悲しんでもらう方が良い。
「姫様。 どうか わたくしを……お傍に。」
「ありがとうッ……ルイズ。」
かと言っても、自分は最初から死ぬ気で有ってはならない。
アンリエッタが死ねば自分に付いて来てくれる、大勢の部下達が死ぬ。
敗戦後に蹂躙されてしまう村・街の平民・貴族達が死ぬ。
そして彼女の愛するウェールズ、親友であるルイズも死ぬ。
だからこそ"無謀"と罵倒されようと、彼女は勝つ気で戦いに行かねばならなかった。
「お役に立てるかどうかは……わかりませんが。」
「何を言うの? 貴方が傍に居てくれるだけで、心強いわ。」
「姫様……」
「ところで……あの"使い魔さん"はどうしたの?」
「!? えっ、その……カズキは学院に居ます……今回ばかりは、巻き込めませんから……」
「……そう、貴女もなのね。」
「????」
目の前で跪いているルイズは、何故か包帯やシップ(のようなもの)が目立っていた。
だが彼女が訪れた直後に"魔法訓練"をしていたと聞いているので、今は気にしないことにしている。
そんな彼女は、銃技に優れると言う変わった(人間と言う意味で)使い魔を連れて行かないようだが、
アンリエッタはルイズも同じように"カズキ"に死んで欲しくないのだと予想した。
ウェールズよりも先に逝く方を望むアンリエッタにとって、ルイズの気持ちは良く判る。
≪――――ガチャッ≫
『…………』
『おう娘っ子、戻ったか。』
『デルフリンガー、お願いがあるの。』
『なんだ?』
『もし、カズキに"私の事を聞かれたら"……こう答えて。』
『あん?』
……だが、アンリエッタの予想は"ほんの少し"しか当たっていない。
和輝に死んで欲しくないと言うのは正解だが、他にも様々な理由がある。
一つ目は、和輝を"試す"事。
自分が先に戦地に赴く事で、彼は自分の行動をどう感じてくれるのか?
もし来てくれないのであれば、それもそれで仕方無いが、逆に期待もしている。
二つ目は、自分の劣等感。
WAPを操る技術はライバル達には負けていないのだが、自分は魔法を使え無い。
そうなればシエスタは別として、キュルケ・タバサ・ロングビルがWAPに乗るべきであり、
虚無に目覚めた自分が強力な魔法で敵を蹴散らす方がいい気がしたのだ。
……しかし、数十日の魔法訓練でも虚無に目覚める事は出来ず、始まる戦争。
かと言って今更"やっぱりWAPに乗りたい"と言い出す事もできず、彼女は王宮へ向かったのだ。
そして三つ目は、貴族としての意地。
今更と言ったところだが、ルイズのプライドの高さは貴族の中でもトップクラス。
暫くシュミレーターをしていなかったのもあり、"死<名誉"と言う価値観が強くなってきていた。
故に命を掛けてでも虚無に目覚め、アンリエッタを守ろうと言う決意があるのだ。
「……それでは、ルイズ。 ゆきましょう。」
「はいッ。 ですが、姫様……」
「どうしたの?」
「この指輪は、何時お返しすれば宜しいのでしょうか?」
「そうね……ふふっ、わたくしが 再びウェールズ様とお会いできた時に返して貰いましょうか。」
「……わかりました。」
……
…………
――――日食・前日。
「……ふぅ。」
久しぶりに実家(タルブの村)に戻ったシエスタは、農作業を手伝っていた。
今現在は一段落ついたらしく、彼女は溜息をつきながら汗を拭う。
そして視線は空似へと移り、さんさんと輝く太陽を見上げてシエスタは眉を落とした。
「明日は日食かぁ……」
彼女は"竜の羽衣"の伝説に最も誓い存在だ。
よって日食・ヘリコプター・和輝・異世界……これから成る意味は十分理解している。
当然 明日トリステイン魔法学院に戻ったら彼が居ないかもしれないと言う事も……
いや、居ない可能性は極めて高そうだが、そう思い込みたく無い自分が居た。
只の平民・メイドである自分の人生をここまで変えてくれた彼に、
シエスタは憧れ以上の想いを抱いていた事は、今更 言うまでも無かった。
≪……オオオオォォォォン……≫
「――――えっ?」
……そんな時。
遥か遠くの空から唸り声のような音が響いてくる。
故に彼女含めて村人たちがその方向を見上げると、其処には幾数もの戦艦が近付いてくる。
合計11隻……巨大な旗艦と10の護衛艦からなる、アルビオン艦隊であった。
彼女は戦争の事など何も知らないので、ただポカンとしながら空飛ぶ船を眺めているしかなかった。
……
…………
「ルイズは あのまま戦争に行く気だったのか!?」
『言った通りだ。』
「どうして、それをもっと早く言わないんだッ!?」
『娘っ子が"私の事を聞かれたら"って言ってたからな。
おめ~さんが聞かなかったから、言わなかったダケの事じゃね~か。』
「そう言う問題じゃ無いだろ!?」
『約束は約束だ。』
「……ッ……(そうだな、デルフは"こう言う奴"だったんだ……)」
――――日食・前日の夜。
シュミレーターの最中調整の終了後、未だに戻らないルイズを気にして、
和輝がデルフリンガーに何となく聞いた事が発端だった。
どうやら彼女は最初から戻ってくる気など無かったようであり、
今頃 兵隊達に紛れながらアンリエッタの傍に居るらしい。
こんな貴重な情報を黙っていたデルフリンガーに怒りを感じた和輝だったが、
元はと言えば彼女に対する注意や気遣いを忘れていた事もあるし、彼はこう言う性分なのだ。
よって過ぎた事を今更 グラグダ言っても仕方無いので、
和輝が一旦 口を閉ざしたタイミングで、デルフリンガーは"伝言"を続けようとする。
『どうするんだ? 相棒。』
「そんな事は決まってるだろッ?」
『けどな……選ぶのはお前ェさんの"自由"だ。』
「どう言う事だ?」
『相棒は"こっち"の人間じゃねェから、死にたくなかったら無理に来る必要は無ェとさ。
他の娘っ子達も"この国"の人間じゃ無ェし、別に行かせる必要は無ェとよ。』
「あいつ……」
もし、和輝が"明日帰れる"事を知っていれば、ルイズは"クビ"とまでも言ったかもしれない。
だが幸いか……僅かながらも来てくれる"期待"はしていたようであり、
戦争の参加は強制では無いという事で落ち着いていた。
また、キュルケ・タバサ・ロングビル(+シエスタ)に対しても同様であり、
彼女達もルイズにとっては、今や死んで欲しくは無い"仲間"であった。
元々シュミレーターを始めたのも"WAPを動かす為"であり、戦争の為では無かったのだ。
和輝は使い魔なので強制もクソも無いのだが、彼はその(使い魔の)気は無いとは言え、
ルイズに役割として言われた"一番重要な事"を彼女自身が投げ出すのはどうかと思った。
『まぁ~オサラバして、相棒の世界を見に行くのも良いかもしれね~けどな。』
「バカを言うなッ。」
『悪ィ、冗談だよ。』
「全く何考えてるんだ……使い魔は"主人を守る事"が一番重要なんだろ?」
『あぁ。 だったら明日 情報が入り次第、急いで行くこった。
焦ンねぇでも、戦いがおっぱじまる前に合流できりゃ良いんだからな。』
「……そうだな。」
……
…………
――――翌日 明け方。
「カズキ君、起きてくだされッ! 大変です!!」
「……ッ!?」
運命の日、和輝の一日は今や主人が居ないルイズの部屋に、
コルベールがノックもせずに鍵を開錠してドアを開いてきたのが始まりだった。
大きなベットは無人だが、和輝はしっかりと中古のベットで寝ていたのはさておき。
予定では本日 シエスタの帰りをギリギリまで待ってから、
ヘリコプターで迎えに行くか行かないか判断し、とにかく3機を集める事を優先させるのが第一段階。
そして、領内に侵攻して来たレコン・キスタを迎え撃ちに行ったトリステイン軍と合流し、
ルイズを見つけて一発 頭を小突いてやってからレコン・キスタの艦隊撃破が第二段階。
最期に日食が終わる前に出来るだけ別れの時間をつくり、地球に帰還するのが第三段階であった。
――――午前7時。
「えぇ~ッ! 昨日のうちにレコン・キスタの艦隊がタルブの村を抑えたですってぇ~!?」
「早い。」
「まさか侵攻をズらしてくるとは……やられましたね。」
「現在ではトリステイン軍も動き始め、間も無くレコン・キスタと接触するそうですぞッ?」
しかし、予想に反してレコン・キスタは日食の前日に侵攻してきた。
予想はしていたが、結局 確率が低いという"可能性"に頼ってしまっていた。
当然トリステイン軍も日食の日に侵攻してくると思い込み、アッサリと支配を許してしまった。
それダケならまだマシ……法春は遅れても急げば十分ルイズの戦死は抑えれる筈だったのだが、
よりによって"タルブの村"がレコン・キスタの手に有るらしい。
そう……合流を待つ筈の"シエスタ"に大きな命の危険が生じているのだ!!
今現在はいち早く情報を得たコルベールが和輝を起こし、同じくロングビルはキュルケとタバサを起こし、
身支度を済ませると5人は2機のWAPと戦闘ヘリの前に集まっている。
「俺達が着く頃にはもう、戦いは始まってるって事なのか?」
「はい。 間も無く接触するようなので、幾ら急いでも間に合いませんわ……」
「だったら話は早いじゃない! 行きましょ、カズキッ!」
「手遅れになる前に。」
「そうだな……出撃するぞ! まずキュルケは鉄騎だッ!」
「はいは~い!」
「ロングビルさんはゼニスに乗ってくれ!」
「承知しましたわっ!」
「タバサはシルフィードで着いてきてくれ、現地で法春に乗って貰う可能性が高い!」
「判った。」
開戦は予定よりも4時間以上早く、今まさに戦いは始まろうとしているだろう。
よって"ブリーフィング"の余裕すら無く、各々は和輝の指示で行動に移る。
キュルケは鉄騎・ロングビルはゼニスに登場し、タバサは和輝にインカムを放り投げられると、
既に呼んでいたシルフィードに跨り、和輝は当然"戦闘ヘリ"に乗り込んだ。
『こちら和輝だ、皆 聞こえるか?』
『オッケ~。』
『聞こえます。』
『問題ない。』
『判ってるとは思うが、これから急いでタルブ村に向かう。
だが足並みは合わせる。ヘリの時速は350リーグあるが、WAPは違うしな。
そう言う訳で特にキュルケ、時速250リーグ限界まで飛ばしてくれ。』
『任せといて~!』
『それではこちらは離陸する、各員 入り口まで移動しろ!』
『了解!!』×3
≪ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ!!!!≫
和輝の指示で、2機のWAPは立ち上がると学院の入り口にへと早足で移動する。
同時にシルフィードは地を蹴っており、和輝はコルベールに合図を送る。
すると、コルベールは優しく頷き、和輝は額に右手を沿えいわゆる"挙手の敬礼"をする。
これはお互い二度と会えなくなると言う事から来る行動であり、
和輝は真剣な表情だったが、コルベールの目尻には少しだけ涙が浮かんでいた。
さておき悲しんではおられず、コルベールは風圧に備え身構えながらも杖を振るい、
魔法による風を発生させて回転翼 及び テールローターを動かす。
直後 あっという間に戦闘ヘリは浮上し始め、離陸 所要時間を大幅に短縮させた!
この時 既に2機のWAPは配置についており、シルフィードは2機の頭上で浮いている。
≪ゴババババババババ……ッ!!!!≫
『……良し! 出撃だッ!!』
『――――了解!!』×3
「皆さんッ! 必ず生きて戻ってきてくだされ~っ!!」
≪ギュイイイイィィィィーーーーンッ!!!!≫
そして、物凄い速さ飛び去ってゆく戦闘ヘリとシルフィード。
地面を唸らせながら、走り去ってゆく2機のヴァンツァー。
この一部始終を多数の生徒達や一部の教員もが見ていたが、もはやどうでもいい。
そんな中で、唯一"これら"を知るコルベールは、何時までも4つの後姿を見守っていた。
『わ、私の村は……私が守るッ!!』
―――― 一方同時刻、一人の少女が戦地に赴こうとしていた。