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No.34596の一覧
[0] オールド・オスマンの息子[lily](2012/08/14 19:58)
[1] 001[lily](2012/08/22 21:42)
[2] 002[lily](2012/08/22 01:31)
[3] 003[lily](2012/10/11 17:28)
[4] 004[lily](2012/08/15 19:37)
[5] 005[lily](2012/08/16 16:22)
[6] 006[lily](2012/08/22 23:37)
[7] 007[lily](2012/08/22 23:38)
[8] 008[lily](2012/08/22 23:40)
[9] 009[lily](2012/08/22 23:44)
[10] 010[lily](2012/09/07 02:25)
[11] 011[lily](2012/10/10 00:53)
[12] 012[lily](2012/11/01 22:54)
[13] 013[lily](2012/12/28 20:06)
[14] 014[lily](2013/01/28 20:20)
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[34596] 007
Name: lily◆ae117856 ID:245b0a6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/22 23:38
入学式から二週間ほど経ったフェオの月、最後の週であるティワズの週の中頃はギ―シュが好きな薔薇を始めとする花が美しさを主張し始め、いつのまにか緑が濃くなっているのに気付く月である。

今週の魔法薬学の授業は前回の授業で作った増強剤を返却するところから始まった。生徒達が作ったそれに五段階で評価をつけ、改善点を書いた紙を括り付け、渡す。文句なしの最高評価を得たのはモンモランシーとルイズ、タバサの3人で特にモンモランシーの薬はヴァレリーが作るものとさほど遜色ない出来であった。今回の授業は何かの薬を作るというわけではなく、座学、といっても講堂でヴァレリーが教鞭を振るって生徒達がそれを書き留めるという形式ではなく、庭で薬の材料となる植物を実際に見ながらどういった効能があり、何に使われるのかをヴァレリーが説明していくという形で行っている。

ヴァレリーが生徒達を集め、説明し出したのは薔薇が咲き誇る一画。
単に薔薇と言ってもその種類は多く、ヴァレリーの庭に咲く薔薇を系統で分けるならアルバ、ブルボン、ガリカ、ダマスク、モス、ノアゼットに分けられる。形や色も違いがあり、見る者を楽しませてくれる。アルバ・ローズのセレスティアルは淡い桃色をしており、同じ桃色でもダマスク・ローズのヨーク・アンド・ランカスターはフリルのドレスのように花弁が広がる。ブルボン・ローズのバリエガータ・ディ・ボローニャは紅白のストライプで窄んだ型をしているし、ガリカ・ローズのオフィキナリスは赤色を、カーディナル・ド ・リシュリューは濃紫色の奥ゆかしい姿を見せる。

何人もの生徒がうっとり見惚れる中、ヴァレリーが説明を始める。

「多くの者を魅了し「花の女王」と称される薔薇にも多くの効果があります。安眠効果や血液循環の活性化、抗炎症作用、止血作用などが挙げられます。魔法薬学的には精神安定剤としての使用が多いですね。また、ここにはありませんが「夜の貴婦人」と呼ばれる黒の薔薇はそれそのものが魔法的効果があり、禁制の惚れ薬の材料の一つとなっています。あっ、そうそう、余談ですが皆さんが使っている大浴場に香り風呂がありますよね、花の香りだったり柑橘系の香りがするアレです。実はあの風呂の香料は私が作っているんですよ?何か希望する香りがあれば言ってください。私の授業を受けてくれる皆さんの要望には特別に受け付けちゃいますよ」

ヴァレリーは生徒達の要望に耳を傾け、切りの良いところで締めくくると次の説明をするべく薄青色や鮮青色の小さな花を多数つけた忘れな草が生える一画に移動する。

「この花の名前はゲルマニアの悲恋伝説に登場する主人公の言葉に因んだものなんですがミス・ツェルプストーは知っていますか?」

生徒達の中でゲルマニア出身の者はキュルケだけであったのでこの花の名の由来を説明するには彼女が最適であった。

「えぇ、知っているわ。それは昔、騎士ルドルフとその恋人、ベルタの物語。ドナウ川の岸辺を歩く二人はその花を見つけたわ。「ねぇ、ルドルフ様、あの花はとても可愛らしいですわね」」

キュルケが演劇染みたセリフをヴァレリーにかける。
これにヴァレリーは乗ってみせる。

「「あぁ、愛しのベルタ。君の美しさには敵うまいて。どれ、一つ君にあの花を捧げよう」そう言ってその花を摘もうとルドルフは岸を降りたが誤って急流に飲まれてしまうんだ」

ヴァレリーが件の花を摘み、セリフを続ける。

「ルドルフは最後の力を尽くしその花を岸に投げ言った。「どうか、私を忘れないでくれ!」」

ヴァレリーは摘んだ花をキュルケに投げる。

「それが彼が残した最後の言葉。残されたベルタはルドルフの墓にその花を供え、彼の最期の言葉を花の名にしたわ。それがこの花、忘れな草の名前の由縁」

キュルケが話を結ぶと感嘆の声が生徒達の間に漏れる。
この話を間抜けな話と捉えるかロマンチックな話と捉えるかは聴く者によるが演劇好きの貴族達は多くが後者の理解をしたようである。

「ありがとう、ミス。っとまぁ、こんな感じだね。皮肉だが魔法薬学ではこの花は忘却剤の材料として使われます。また余談になりますが先ほどの物語に由来しこの花の花言葉は「真実の愛」、「私を忘れないで下さい」といったものになります。地方によっては若者がズポンのポケットに、この花を入れて行くと若い娘に気に入られると言い伝えられていたりします。また、偶然見つけた忘れな草を左の腋の下に入れて家路をたどると、途中で出会った最初の人が未来の配偶者の名を教えてくれる。なんてのもありましたね。実は学院内でもこの花が自生している所が幾つかあります。試してみるのも面白いかもしれませんね」

授業の合間の教師の雑学がその授業の魅力の一つであるのはどこの世界でもきっと一緒なのだろう。その点においてヴァレリーの魔法薬学の授業は早くも学院、屈指の人気授業となっている。それはヴァレリー自身の見た目と人間性に依るところも多いが彼の教師としての腕も確かであることの証明でもある。


それからヴァレリーは生食すると「七色の夢を見る」と言われ、幻覚剤の材料となるウバタマや麻酔として古くから伝えられるアヘンなどの説明などをして今回の授業を終えた。

時間を進め、その日の放課後。
風系統のラインメイジであり、自身の魔法に大そうな自信を持っていたヴィリエ・ド・ロレーヌは魔法薬学で返却された増強剤を試しに飲んでみた。括り付けられた紙には「興奮作用の分散と沈静が薄い」との注意書きがあったのだが彼は別段、気にとめることもなく服用してしまったため事件は起きた。

ロレーヌはなんとも微妙な味のそれを飲み干すと体が熱くなるのを感じ、自身の感情と魔力が昂るのを実感していた。湧いてくるのはクラスに存在するトライアングルメイジの3人への嫉妬の炎。風系統の名門の生まれで、その才覚を発揮し入学時では数少ないラインレベルであった彼はクラスはおろか学年で風の授業では一番になれるだろうと思っていた。しかし、待っていたのは一番どころか二番手にも三番手にもなれない事実。今まで風の魔法を鍛えるべく領地で教わってきたし努力もしてきた。それなのにあの3人は事も無げに自分の上を行く。自分の努力が否定されたようでそれが許せなかった。

そんな折、ロレーヌは図書館から帰路につくタバサと出逢ってしまった。自分より幼くして風の第一位の彼女への対抗心は3人の中で最も強く、またタバサがどれほど過酷な道を歩んできたかを知らなかったが故、興奮状態の彼は己を律することが出来なかった。

本を読みながら歩を進めるタバサの前に立ちはだかりロレーヌは言う。

「ミス、貴方に「風」をご教授願いたい」

タバサはそれを無視し、本から目を逸らすことすらせずに通り過ぎようとした。
それがさらに彼の神経を逆なでした。
ロレーヌはタバサが読んでいる本を叩き落とし、怒りを露わにする。

「人がモノを頼んでいるんだ!礼儀を知れ!」

落ちた本を拾い、汚れを払うタバサはそれでもロレーヌをその瞳に映すことは無く、無視して通ろうとする。

「なるほど、君がどうやら私生児というのは本当のようだな。最低限の礼儀すら解さないとは。きっと君は母の顔さえ知らぬ哀れな子なのだろうよ。そんなのだから母に捨てられ、礼儀知らずの臆病者になってしまうのだ。いいだろう、可愛そうな君は本の世界にだけ生きるがいいさ!」

ロレーヌがそう言い残し立ち去ろうとした時、ようやくタバサがロレーヌを見た。
その感情の窺えない碧眼の瞳の中には雪風が吹き荒ぶ。

「やる気になったか?」

二人は距離をあけ、杖をかまえる。

「君のような庶子に名乗る謂れは無いがこれも作法だ。ヴィリエ・ド・ロレーヌ、謹んでお相手仕る」

しかし、タバサはそれでも答えない。

「ふん、この期に及んで憐れだな。その身に相応しく地に伏すがいい!いざ!」

ロレーヌが唱えたのは「ウィンド・ブレイク」。
もともと強力な魔法だが増強剤の効果も相まって荒れ狂う風が密を成しタバサに迫る。
タバサはロレーヌが増強剤を使用していることを知らなかったため、予想以上の強力な魔法に些か驚いた。短い詠唱と長い杖を振り、ロレーヌの攻撃を逸らす。
タバサとしてはロレーヌにそのまま返してやるつもりであったがそれは叶わなかった。
渾身の一撃を流されたロレーヌに向け、タバサが「エア・ハンマー」を放つ。
ロレーヌは「エア・シールド 」を慌てて唱えるが盾もろともタバサの風の槌に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
痛みに喘ぐロレーヌに向け氷の矢を無数に飛び、彼のマントや服が壁に縫いつけられ、身動きできないロレーヌに致命傷となろう大きな氷の矢が飛んでくる。

「っひ……!?」

思わず体が強張ったロレーヌの眼前に氷の矢がぴたりと静止し、溶けだす。
それと同時に体を壁に縫いつけていた戒めも溶け、ロレーヌは壁からずり落ち、ガタガタと震える。
圧倒的な実力の差を見せつけられ、死の恐怖を味わった彼に既に戦意は無く、増強剤による興奮状態も完全に冷え切ってしまった。

タバサは腰を抜かし、立つことすらできない彼を一瞥すると何も言わず再び本を片手に寮へと戻って行った。

残されたロレーヌの頬を一筋の涙が伝う。
それは恐怖からか、悔しさからか。きっと両方なのだろう。


さて、タバサとロレーヌが決闘をしているちょうどその頃、ヴァレリーはそんなこととは露とも知らず、実験室に訪れた友人の対応をどうしたものかと考えていた。ちょこんとベットの上で枕を抱えてしょぼくれているのは幼少の頃よりの付き合いのルイズである。もともと小さいルイズが更に小さく見えるのは気のせいではないのだろう。

座学や一般教養としての魔法薬学や魔法生物学は優秀な彼女であるが、系統魔法の授業は散々な結果に終わっていた。例えばヴァレリーらが難なくこなしたギトーの風の授業では周囲の生徒達を幾人も巻き込んで爆発した後、汗をかきながら外壁沿いを一度も飛ぶことなく5周した。土のクリエイト・ゴーレムによる造形の授業では地面に人一人が入れそうなクレーターを作り上げた。それでもルイズは気丈に振る舞い、各系統の教師に教えを請い、努力した。ただ、その努力が実ることはなく、教師としても「そのうち出来るようになるのでは?」と言うことぐらいしか出来なかった。入学から二週間、爆発しか起こせていないルイズのことを笑う者も出始めていてそろそろ「たまたま失敗しただけ」なんて言い訳が通用しなくなってきている。流石にこれはルイズも落ち込まざる得なく、小一時間ほどヴァレリーのベットで愚痴をこぼした後、疲れたのかしゅんとしているのが今の状況である。

「ねぇ……ヴァレリー?」

ルイズが枕に顔を半分埋めながら話かける。

「ん?」

ヴァレリーはなにやら生成しながら返事をする。

「私……どうしたらいいの?」

トリステイン切っての名門ラ・ヴァリエール。それ故に魔法が上手く使えないルイズには時にラ・ヴァリエールの名が重く圧し掛かることもある。魔法を習い始めてから大凡10年、失敗続きで本当は学院に入るのも怖かったかもしれない。それでも杖を握るルイズは強い女性だとヴァレリーは思っている。その原動力は彼女自身とラ・ヴァリエール家としての矜持からくるものなのだろう。しかし、未だ15の少女であることもまた事実。堪え切れなくなることはあって然るべきことだ。

「う~ん、とりあえず飴ちゃん食べる?」
「真面目に聞いてよ……馬鹿」
「私も父上によく言われるが馬鹿になることも時には大事なことなんだよ。っと完成」

ヴァレリーは今しがた出来上がったばかりの小さな固形物を持ってルイズの横に腰を下ろすとおもむろにルイズの頬を引っ張る。

「なによ……」
「いいから口を開ける」
「ん……」

素直に従い、小さく口を開けたルイズにヴァレリーはその固形物をぽいっと入れる。

「お味はいかかでしょうか、お姫様?」
「甘い……」
「それは私特製の元気が出る飴ちゃんさ。一粒、1エキューします」
「高いわよ」
「私の真心が籠っているからね。おいしいだろ?」

ルイズは口の中で飴をコロコロ転がしながら頷く。
それを見てヴァレリーはルイズの頭に手を置き優しく言う。

「なぜ、魔法が爆発してしまうのかはわからない。しかし、前にも言った通り、君にはトライアングル以上になれる資質があると私は思っている。私は君を嘲笑ったりはしないよ。君がどれだけ努力をしているかを知っているし、何より大事な友達だからね。辛ければ泣いてしまえばいいし、愚痴が言いたくなったら言えばいい。私が君が泣きやむまで傍にいるし話も聞くからさ。其れ位の甲斐性は有るつもりだよ。飽きるまで此処にいていいし、飴ちゃんだってあげちゃうよ?だからさ、落ち込むだけ落ち込んだらしゃんと胸を張って歩くべきだ。それにだ、ルイズ。ラ・ヴァリエールの女性は強かで凛とした美しい花だと私は記憶しているのだが違っただろうか?」

しゅんとしている姿はそれはそれで愛らしいものであるが、やはり友人としては笑顔でいて欲しいと思うものだ。そのうちルイズにも親友と呼べるような友達や恋人ができるのだろうが、少なくともそれまでは学院に於いて眼前の小さな少女を支える役目はヴァレリーにあると言っていいだろう。

「ぐすっ……ヴァレリー……貴方ってば」

ヴァレリーの心よりの言葉はルイズに届いたのだろう。
涙ぐむルイズは鼻をすんと鳴らしてヴァレリーを見つめる。
その顔には微笑みが浮かぶ。

「あっ、しかし君には張る胸が無かったか」
「私の感動を返しなさいよ……馬鹿」

今度はルイズがヴァレリーの頬をつねる。それはもう、思いっきり。

「ひたひ、ひたひ!こら、励ましてやった友人になんたる仕打ちか!?」
「どうせ、私はちぃ姉さまとは違うわよ!この、よくも、美少女つかまえて、胸がないとか!」

じゃれる二人。といってもヴァレリーは割と本気で痛がっているが。
もつれ、ベットに倒れ込めばルイズがヴァレリーを押し倒したような形となる。
ルイズの髪がヴァレリーの頬にかかり、女の子らしい甘い匂いがする。
仲が仲ならキスの一つもするのだろう。しかし、二人は友達同士。

「少しは元気になったかい?」
「ふん、飴……もう一個」
「一粒、2エキューしますが?」
「さっきより高くなってるわ。こんな美少女が友達で嬉しいでしょう?いいからよこしなさい」
「仕方がないなぁ、美少女に免じて特別にもう一つ飴ちゃんをあげよう」

ルイズにもう一つ特製の元気がでる飴をあげ、ヴァレリーは起き上がると魔法薬の生成に戻った。ルイズは猶もベットの上に座っていたが今はもうしょぼくれてはいない。研究室にはヴァレリーが作業する音だけ。口の中の飴がすっかり小さくなった頃、ルイズがヴァレリーに話かけた。

「ねぇ……ヴァレリー」
「ん?」
「その……ありがと……」

ヴァレリーの方を見ずにルイズが言う。ルイズはヴァレリーがわざと軽口を言ったことぐらいわかる。だからこそ正面からお礼を言うのは恥ずかしかった。そんな彼女の心境もまたヴァレリーはわかる。だからヴァレリーは振り向くことはせず、作業をしながら一言だけ告げる。

「どういたしまして」


ティワズの週の虚無の曜日。
いよいよ本日はスレイプ二ィルの舞踏会。
宝物庫から真実の鏡がダンスホールの入口まで引き出され、それを黒いカーテンでしきり、誰が今、姿を変えているのかわからないようになっている。毎年恒例ながら蝶の形のマスクをしたミセス・シュヴルーズがノリノリで生徒達を導く。シュヴルーズは土の系統魔法を教える教師だが2年生の担当であったため多くの一年生はそこまで面識がない。一年生は「あんなマスクをしなきゃいけないのかな」などと不安を覚えるがそれはミセスの知らぬところ。

ヴァレリーの番になり、仕切りの中の真実の鏡の前に立つ。上からかけられた布を除けば虹色に光る鏡面が現れ、一寸溢れた光がヴァレリーをのみ込み、視界を奪う。光が不意に消え、鏡を見ればそこには自分であって自分でない姿。己の理想、なりたいとされる誰かの姿。

―――やはりこうなったか。

ヴァレリーは自分がどういった姿になるのか大方予想できた。
白く長い髪にこれまた同じく白く長い髭、刻まれた顔の皺は今まで生きてきた証。
その姿は学院長であり、ヴァレリーの尊敬する父親、オスマンのそれであった。

ホールへ向かうと、そこには伝説の勇者や偉人に加え、年配の紳士淑女やクラスメイトそのままの姿と様々な人で溢れていた。ヴァレリーの姿をしたものも数人いたので本人は苦笑いで顔の皺を増やした。生徒達が全員集まったのを確認し本物のオスマンが壇上へ現れる。

「諸君、今宵は親睦を深める舞踏会じゃ。なぜ姿を変えたか?それは家柄、地位、国籍、爵位に囚われず、学院では平等であることを知らしめ共に学ぶため。なぜ理想の姿か?それは諸君らに理想を追い求め、その理想に負けぬよう生きてほしいからじゃ。新しき年、多くを学び、良き友を作り、貴族たる様を身につけよ!以上じゃ」

オスマンが言葉を述べると音楽が奏でられ舞踏会の始まりとなった。

皆が皆、ダンスの相手に誰を誘おうか悩む中、ヴァレリーもどうしたものかと長い白髭を撫でていた。なんとなく髭を撫でるのに憧れていたヴァレリーはこの姿になってから、やたらと髭に手をのばしている。ひとまずワインでも飲みながらルイズやギ―シュでも探してみることにしたヴァレリーは脇にのいて、料理をつまみながらホールを観察しているとカトレアの姿を見つけた。当然ここに彼女がいるわけはないので誰かが化けた姿である。もっとも誰が化けたものかは想像できるが。

件のカトレアは先ほどから幾人もの相手にダンスを誘われていてわたわたしている。意中の相手が複数の男に言い寄られるのは複雑な心境でもあるが「あの方ならば当然だろう」とも思う。病弱故、社交界にあまり顔を出せないが本来なら社交界の花となりえる存在なのだから。

ようやく件のカトレアがダンスの相手を選び、音楽に合わせ踊る。優雅かつ軽快にステップを刻む彼女を見ているとヴァレリーの心が苦しくなる。きっと本当のカトレアはあんな上手には踊れない。病がそれを許さないからだ。

ヴァレリー自身もカトレアの病気を何度か診させてもらったが多くの者達と同じように治すことは愚か、その病の根源がなんなのかすらわからなかった。魔法の行使で咳込むことから肺、もしくは脳に異常があるのではないかとの意見もあるが確証もない。自分より実力の上の水メイジの治癒の呪文でも治らないだから魔法の威力、云々というよりは根本的な所が違うというのはわかる。そもそも魔法による治癒は傷ついたものを癒すのであって、切断された腕を繋げることは出来ても腕自体を新しく生成させることは出来ない。その面を見ても魔法による治癒にも限界があるし、先天的な病に効果があまり見込めないのも治癒を専門に扱う者ならわかる。

有識者の中では生命力それ自体を削る何かが彼女の中に存在し、併発した病は治癒での対処、それ以外は薬や魔法で生命力自体を高めるしかないとの見解で一致している。ヴァレリーもその見解を支持しているので魔法では上をいく者がいる以上、自分にできること、具体的には生命力を向上させる魔法薬の開発に取り組んでいる。以前、ヴァレリーがタバサに見せた研究文書もそういった魔法薬を開発するための基盤であった。

―――いけないな、きっと今の私を見たらカトレア様は怒るだろうな。あのお方は聡いから。

自身を諌めるヴァレリーに不意に声がかけられた。

「やぁ、君はヴァレリーだね」

低く渋い声、それに見合うがっちりした体つき、それでいてどこか知り合いと同じ空気を放つ金髪の貴族。

「そういう君は、ギ―シュだな。君の父君かな?やはり似ている」

ヴァレリーに声をかけたのは陸軍元帥でもあり、現グラモン家の当主である父親の姿になったギ―シュであった。ヴァレリーもオスマンの姿であるがわざわざオスマンの姿になるような学生はヴァレリーくらいであったためギ―シュもわかりやすかったのだろう。

「あぁ、そうさ。正直僕は自分が何に化けるかわからなかったんだよね。ほら、僕、既に理想の姿だし?でもやはり父は偉大だったな」
「まぁ、息子は父親の背中を見て育つものだしな。というか君は踊らないのかい?理想の姿とあって美しい人も多いだろう?アンリエッタ姫殿下なんて5、6人いるし」
「君だって踊ってないだろ?皆が皆というわけではないが、美しい人が理想の姿の人は自身に美しさが足りないと感じている人だと思うんだよね。真に美しい人というのはその行動に表れるものさ。今は観察中なんだよ。ところでヴァレリー?僕達はそろって父親の姿になったわけだけど僕達に足りないモノって何だと思うかい?」

なかなか真に迫るギ―シュの言葉にヴァレリーは考える。

「う~ん、すぐに浮かぶものは威厳とか深みだろうか?」
「確かにそうかも、でもそれはなかなか難しいな。僕達はまだ十六だぞ?」
「まぁね。だからこそ今の姿があるのかも知れない。ギ―シュ、君は何が足りないと思う?」
「そうだなぁー。うん、わからない」
「おいおい、人に聞いといてそれはないぞ」
「だってわからないのだから仕方がないじゃないか。でもね、僕は思うんだ。足りないモノなんてこれから生きていく中で自ずとわかることだし今を楽しむことが重要なんじゃないかと。刹那的と言われればそうかもしれないが楽しんでこその人生。それに僕達はまだまだ若い。出来ない事も多いけどこれから出来るようになることも多いはずさ」

自分に足りないモノは何か?そしてどうあるべきかを考える二人。
それはこの舞踏会の趣旨の一つでもある。
ヴァレリーはギ―シュの言葉にあり方の一つを教えられた気がした。

「そう言えば、君はさっきからあの桃色のブロンドの女性ばかり見ているな。立ち振る舞いもなかなかだしきっと中身もそれ相応な子なんじゃないかな。うん、彼女は合格点だ。君はああいう女性が好みなのかい?」

話題が変わってギ―シュらしい話になった。

「好みもなにもあの方は私の意中の人だからな。彼女はカトレア様といってルイズの二番目の姉さ。どうだい、素敵な方だろう。その容姿もさることながら性格も愛らしく、コロコロと笑う様は天使のそれ。奥ゆかしく優雅、品と知性と遊び心を兼ね備えた麗しの蘭の君なのだ」

まるで自分のことのように自慢するヴァレリーにギ―シュは些か驚いた。

「君がそこまで言うか。随分と夢中のようだね。そうか、そうか。君は僕同様、モテるのに全然学院の女の子に興味を示さないから不思議だったんだがこれで納得がいったよ。で?どうなんだ?どこまでの仲なんだい?」

普段は澄ましているヴァレリーもやはり男なんだと再確認するギ―シュの目が輝いている。

「いや、まぁ、なんだ、その、まだ告白していないんだ。それなりの好意は示してるしカトレア様からも悪くは思われてないと感じるんだが……。夏になったら告げようと考えてる」
「おぉ!なんだが今、僕は君が凄い近くに感じるよ!うはは、応援するぞ。さぁ、乾杯だ!」

ギ―シュがワインのグラスを手に取りはしゃぐ。

「う、うむ。このことはあまり人に話さないでくれよ?」
「わかっているさ。それじゃぁ君の恋が咲き誇ることを願って」

二人はグラスを掲げ、一気にワインを呷る。
そこに一曲踊り終えた件のカトレアがやってくる。

「学院長になってるのはヴァレリーね。そちらはギ―シュかしら?合っている?」
「あぁ、そうさ。ルイズはカトレア様になったんだね」
「えぇ、だってちぃ姉さまは私の理想だもの。それにしても二人はなんだか楽しそうね。何かあったの?」

ルイズの質問にギ―シュが嬉しそうに答える。

「それは秘密さ。男同士の固い絆に基づくね」

事の経緯を知らないルイズは首を傾げ、不思議そうにしている。
ギ―シュはルイズにもワインを持たせ、もう一度乾杯を促す。

「さぁ!いざ行かん!我々の輝かしい未来へ!」






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