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No.34596の一覧
[0] オールド・オスマンの息子[lily](2012/08/14 19:58)
[1] 001[lily](2012/08/22 21:42)
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[34596] 001
Name: lily◆ae117856 ID:245b0a6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/22 21:42
広大なハルケギニア大陸西方に位置し南をガリア王国、東に帝政ゲルマニアという大国に挟まれ、西に大海を持つトリステイン王国はお世辞にも列強とは言えず、ハルケギニアに存在する一つの小国に過ぎない。ただ、歴史は古く、この世で最も偉大なメイジにして伝説の系統、虚無の使い手たる始祖ブリミルの3人の子がうち一人が興した国であり、そこが僅かばかりの自慢と言えようか。

そんなトリステイン王国の王都トリスタニアから馬で2時間ほどの所にトリステイン魔法学院は存在する。読んで字の如く魔法を教える場所であるが、誰もが入れる訳ではなく支配層たる王族や貴族のみに入学を許された学院である。そもそも魔法というものが彼ら支配階級のみに使える代物であり、魔法を使えるものをメイジと呼ぶ。それが貴族と平民とを分け隔てる明確な軛であり、その人の人と成りに関わらず貴族を貴族たらしめんとする力の一つであることが共通の認識となっている。

さて、前述の通り、ここトリステイン魔法学院は魔法を教える場所であるわけだが王国と同様、その歴史は古く、数々の優秀なメイジを輩出していているこの魔法学院を卒業することは貴族としての教養と嗜みと成っている。本塔を中心に四方を外壁で囲まれ、それと一体化した魔法の象徴である水・土・火・風、そして虚無を表す五つの塔から形成される外観は王城には劣るものの、やはり見る者を圧倒する存在感というものを放っている。

現在はニューイの月の中頃であったため、在籍する学生は目下夏休み中である。普段の喧騒はなりを潜め、閑散としている。そんな学院を本塔の最上階の窓から見下ろす一人の人物がいた。すっかり真っ白になってしまった長い髪、いつから伸ばしているのかわからないこれまた真っ白な長い髭、深く刻まれた顔の皺には彼が生きてきた時間の長さが窺い知れる。
その人物とはトリステイン魔法学院の学院長たるオールド・オスマン、その人であった。

「……んがっ!?」

物思いにふけるオスマンの髭が不意に引っ張られた。

「これこれ、髭を引っ張るでない」

オスマンは髭を引っ張っている犯人に目を向け優しく言う。
しかし犯人は聞きわけず依然髭はぐいぐい引っ張り続ける。
しかしてそれもそのはずであろう。
何せ相手はまだ言葉も通じず、オスマンの腕に抱かれている小さな赤子であったのだから。

「あたた、自慢の白ひげが抜けてしまうであろう。これからはわしがお前の父親代わりなのじゃぞ?じじいをあまりいじめるでない」

毎日の手入れを欠かさない自慢の髭も今はただのおもちゃへと成り替わっている。
赤子の割に強い力でがしがし引っ張ってくる小さな存在に手を焼くオスマンであったが、腕の中で無邪気にじゃれるこの赤子は実の子でもなければ親戚の子供でもない。
では誘拐してきた子供かといえばもちろんそんなことはない。それならばこの子は何故にオスマンの腕に抱かれているのか?それを知るには少しだけ昔の話をしなくてはいけなかった。


その日はどんよりと雲が厚く、今にも雨が降り出しそうなほどで日中にも関わらずうす暗かった。そんな日に学院からも王都からも大きく離れた片田舎にオスマンと数人の傭兵メイジが足を踏み入れた。村と呼べるかどうかも怪しい村落しかないような場所に彼らが来たのにはもちろん理由があった。
そもそも理由もなしにメイジ達がこのような所にわざわざ来る由もなしだ。
では、その理由とは?
簡潔に述べるのなら亜人討伐のためであった。
しかし亜人にも多く種類がいる。オーク鬼などならこのような田舎ではなくても見ることがあるし、その程度のレベルならば高名なオスマンが出るまでもなかった。
つまりは今回の討伐はオスマンが出向く必要があるほどに厄介な相手だということだ。
そしてその相手とは最悪の妖魔と称される吸血鬼なのであった。
吸血鬼、それは外見は人間と全く変わらず、牙も血を吸うとき以外は隠しておける。その上魔法でも正体を暴くことはできず、性格は狡猾。オーク鬼ほどではないが力も強く生命力も高い。
初歩のものなら先住魔法を使う事も出来る。太陽の光に弱いのが唯一の弱点であり、それ以外にはさしたる弱みはない。血を吸って殺した人間を魔術師の使い魔同様の存在、「屍人鬼グール」として操ることが出来るというまったくもって厄介な相手であった。

噂によれば今回の討伐対象である吸血鬼はずいぶんと変わり者だそうだ。
なんでも始めは村の人の血を吸って害をなしていたとのことだが討伐に駆け付けた一人の女性メイジに恋をしてしまったらしい。
それ以来村の被害は無くなり、村はずれの屋敷にそのメイジと共に住みついてしまったとのこと。しかし吸血鬼の存在は恐怖でしかない。それゆえオスマンらが派遣されたのだ。

吸血鬼が住むという屋敷へと足を踏み入れた討伐隊は一人の男と出逢った。
その男は端整な顔つきではあるものの、色素の抜けたように青白い肌で、ずいぶんと痩せ衰えていた。しかし、ある種の美しさとでも言えようか、その様は品があり、堂々としていた。
状況からいってこの男が吸血鬼なのだろう。

「メイジがずらずらと私に一体何の用だ」
「そなたは吸血鬼、わしらは人間じゃ。それだけでわかるであろう。囚われたメイジの女性を解放してもらおうかの」
「ふん、何を馬鹿なことを、私達は愛し合っているのだよ。囚われたなどと言いがかりも甚だしい。私達はただ、静かに暮らしているだけだ。お帰り願おうか。さもなければ血を見るであろう」
「悪いが退けないのぉ。押し通らせてもらおう」

切って落とされた戦いの火蓋。
吸血鬼とオスマン達の戦いは実に激しいものであった。
胸を抉られ心臓を潰された者、首を切り飛ばされた者。戦いで酷く荒れた屋敷にはそういった討伐隊の傭兵メイジの死体が血だまりに伏している。

気がつけば屋敷にはオスマンと吸血鬼の二人だけとなっていった。
しかし状況はオスマンの有利。
討伐隊はやられてしまったが吸血鬼も無傷では済まなかったからだ。
決して浅くはない傷を体の彼方此方に作り、切り落とされた左腕からはぼたぼたとその血を流し、床の染みは広がっていく。
状況が有利なのは喜ばしいことではあるがオスマンには疑問があった。

―――なぜ、この吸血鬼は此処までして戦うのであろうか?

吸血鬼は狡猾さが一番に恐ろしいのであって、身体能力や扱う先住魔法は危険には変わりはないが複数のメイジを相手に翻弄できるまでの代物ではない。状況が不利と見れば逃げて然るべきが吸血鬼。この地に踏みとどまる必要はない。

「そなた、何故退かなかった?何故そうまでして一人の女性に固執する?」

杖を構え、睨み合ったままオスマンは疑問を口にする。
本来、戦いの最中に心を乱すようなことはあってはならない。
しかし、訊かずにはいられなかった。

「始めに言ったであろう、私達は愛し合っていると。誰かを愛することがそんなに不思議なことかね?」
「しかし、そなたは……」
「如何にも私は吸血鬼である。私は多くの人間を食らってきたさ、貴様達からすればそれは悪なのだろう。だが、彼女に出会ってしまった!そして愛してしまった!理解を求めようなどとは思わない。ただ、此方にも退けない理由があるのだよ」

話は終わりだとばかりに吸血鬼が先住魔法で数多の礫を飛ばす。
それを防いだオスマンがルーンを唱えると床から石の手が伸び吸血鬼の四肢を掴む。続けて唱えたジャベリンのルーンによりオスマンの頭上に幾つもの氷の槍が浮かぶ。

「そうであるか……。悪いがそなたを見過ごすわけにはいかないのじゃ。恨んでもらって構わぬ。何か言い残すことは?」
「殺しているんだ。殺されもするだろう。別に恨みはしない。だが……願わくば我が最後の願いを聞いて欲しい」
「言うてみよ」
「我が最愛の人と出会うことの叶わなかった我が子のことよ……彼女は人間だ。決して屍人鬼などではない。どうか彼女と生まれくる子供は丁重に扱って欲しい!」
「子供がいると言うのか!?」

驚きを禁じえなかったが吸血鬼は確かだと言う。
暫しの沈黙の後、オスマンが口を開く。

「あいわかった。その願い、このオスマンがしかと聞き受けた」
「感謝する……高貴なメイジ、オスマンよ」

僅かに表情を緩めた吸血鬼の最後の言葉であった。
氷の槍が体に突き刺さり、遠退いて行く意識の中、吸血鬼は愛した家族を想い、死んでいった。

屋敷の一室に吸血鬼の愛した女性は眠っていた。
整った顔立ちに月の光りの様に美しい銀色で長髪の彼女は吸血鬼の言った通り、新たな命を宿していた。
実の所、吸血鬼は討伐隊が村にやって来たのは事前に知っていた。
しかし身重な彼女を案じ、逃げることを選ばす、心配をかけまいと眠らせた後、彼女が身籠ってからは碌に血も吸わず弱った体で討伐隊を迎え撃ったのだ。

オスマンの胸には言いようのない、わだかまりが残る。
多くの人の命を奪って来た吸血鬼を討伐したこと自体は人の世では正しい行いなのかもしれない。
だが、自身が誰かにとっての大切な人を奪ったのも明確な事実であるからだ。
長く生き、戦争も経験してきたオスマンには似たような経験は多くある。
その度に、考えてしまう。生きることとは残酷で儘ならないものであると。

オスマンは目覚めた女性に全てを有りのまま告げた。
自分が吸血鬼の命を奪ったこと、最後の願いを聞き受けたこと。
女性は涙を流し、ひどく悲しんだがオスマンを責めはしなかった。わかっていたこと。仕方のないことだと。いっそのこと激しく責め立ててくれれば良かったとオスマンは尚のこと胸を痛めた。

彼女の体調を気遣いながら馬車で戻ったオスマンはその功績を讃えられたが露程も嬉しくはなかった。連れ帰った彼女については真相を明かすことなど到底出来ず、討伐隊で死んだ傭兵メイジの残された妻という報告をした。幸い生きて帰ったのはオスマンただ一人であったため巧く欺くことができた。

オスマンは魔法学院から一番近い町に彼女を匿い、幾度もそこへ足を運んだ。
程なくして彼女は男児を生んだがひどい難産であったため、生まれてきた我が子を見ることなくして彼女は吸血鬼の後を追った。


時間を学院を見下ろしていたオスマンに戻そう。
ここまでの話しでお分かり頂けたかもしれないが、オスマンに抱かれた赤子は彼女と吸血鬼の間に産まれた子供であった。吸血鬼の件に限らず奪った命を胸に留め、それでも、いや、だからこそ次の世代の者を育てたいと思う。故に、魔法学院での学院長にもなったし、吸血鬼の子も引き取った。オスマンの決意は固い。長く生き、身よりをなくした老躯であったが受け賜わった一切の領地を王家に返上した。それはここ魔法学院にて骨を埋める覚悟の現れだ。

―――今はまだ赤子故この先どうなるかは分からないが、人として生きれば其れでよし、しかし吸血鬼として血の乾きに飢え、人を襲うようなことがあれば……。いや、そうならぬようにするのがわしの務めか。

オスマンの不安をよそに赤子は衒いのない笑顔をオスマンに向けるのだった。






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