昨夜のゴーレム事件から数時間後。
教師陣は半壊した宝物庫をみて口をあんぐりと開けました。
宝物庫の壁には、
『破壊の杖、確かに領収致しました、土くれのフーケ』
とデカデカと書かれておりました。
どうやら昨夜テオたちを襲ったゴーレムは巷で話題の大盗賊、『土くれのフーケ』が作り出したものだったようです。
さて、そこで困ってしまったのはテオたちです。
確かに宝物庫の宝を盗んだのはフーケです。
しかし、塔に穴を開けたのは、ゴーレム同士の戦いをしていたテオですし、
そして塔を壊れやすくしたのは爆発魔法を塔に叩き込んだルイズです。
更にはその爆発魔法を使った理由はキュルケとの決闘です。
つまり、テオ、ルイズ、キュルケにはそれぞれ、この大事件の責任の一端があるわけです。
宝物庫を壊すきっかけを作ったなんて、教師たちに知られればどんなに怒られるかわったものではありません。
いや、怒られる程度ですめばまだ良いでしょう。最悪の場合、退学に追いやられる可能性すら有るのです。
大騒ぎする教師陣を前にして、ルイズ達はサアっと顔を青くします。
そんな中、テオがある提案をしました。
曰く、
「全部フーケのせいにしてしまおう」
それは魅力的な提案でした。
都合の良いことに、宝物庫は校舎や寮から離れていたこともあり今回の事件の目撃者はテオ達以外には皆無です。
そして大きな音に驚いて教師連中が駆けつける頃には事の全ては終わっていました。
全てフーケがやったと言えば、其れを覆す証拠は何処にもありはしないのです。
しかし問題は教師連中に対して嘘が突き通せるかということでした。
特にルイズは嘘が直ぐに顔に出る質ですし、キュルケもどちらかと言うと直情的な性格で嘘が上手くはありません。
サイトやエンチラーダは立場が弱いので話をまともに聞いてもらえるとも思えません。
と、言う訳で教師に状況説明をするのはテオの役目となりました。
テオは人に対して嘘を付くなんて貴族的で無いと、基本的に嘘をつきたがりません。
しかし、それでいながらこういった言い訳に関してはテオは天才的な才能を発揮するのです。
教師の一人がその時の状況をテオに聞くと、テオは待ってましたとばかりに口を開き言いました。
「そうですな…まあ、すべての始まりはそこのタバサメガネが吾の部屋に訪れたところから始まります。
彼女は街で買ってきた、と言ってあるものを吾にくれました。
それは一見するとただのクッキーでしたが、そのクッキーからは「すえにいっ」いう恐ろしい匂いがしました。
吾は面妖な!と思いましたが…まあ、食べもせずに、評するのは良くないと思い一口齧って見ました。
その味たるや、まさにこの世のものとは思えぬ味で…(中略・以下そのクッキーの味に関する説明が10分ほど続く)
…つまりは、一口食べた瞬間に、吾の意識は一瞬ヴァルハラへと飛び立つ程の味でした。
これはタバサメガネによる吾の暗殺計画のたぐいかと、彼女を睨みつけたわけですが、彼女は吾の目の前でそのクッキーをモリモリと食べるしまつ。しかもです。吾の召喚したエルザまでもが平然とした表情でそのクッキーを食べ始めたのです。吾は衝撃を受けました。
まあ、タデ食う虫も好き好きなわけですから、タバサメガネは本当にあの馬糞味のクッキーを美味いと感じたのでしょう。ですので吾としては彼女を責めるわけにも行かなくなりまして、その怒りと不快感を何とか自分の中で解決しなくてはいけなくなりました。
そこで気分治しに夜風に当たろうとエンチラーダと共に庭に出た次第です。
この時期の夜風は気持ちの良い冷たさで吾の気分は幾許か良くなったわけです。
月は光光と光り、その青白い光はまるで演劇における照明のようでしたな。
まあ、月が照明で有るとすれば、その蝋燭の芯切り係は相当な才能を持ったやつなのでしょう。
げに、自然の美しさというものには…(中略・以下その月の美しさに関する説明が14分続く)
…
………
そしてその月の光に照らされた吾は、この世の諸行無常について色々と…」
とまあ、こんな様子で的を射ない話を、有無を言わさない勢いの早口でまくし立てるように言うのです。
回りくどいうえに内容の大半が自分の感想なわけで、要点がなかなか現れない言葉の羅列。
テオに説明を求めた教師は、テオに話しかけた事を心の底から後悔するのです。
結局、話の途中で教師のほうが…
「ふむ…わかった…わかったから、兎に角コレはフーケの仕業なんだね?そうだろ?わかった、うん。大丈夫だとも」
と、早々に事をフーケのせいにして会話を切り上げてくれました。
結局テオは、嘘を付くまでもなく、全てフーケの仕業にすることに成功したのでした。
◇◆◇◆
さて、フーケが宝物庫から破壊を杖を盗んだ次の日の朝。
学院長室には各教師が集まり、この自体の収拾に向けて話し合いがされていました。
しかし、このあまりにも非常識な事態に、学園長室の中は話し合いと言うよりは、ただの言い争いに近い状況に発展していました。
教師連は責任が誰にあるのかを弾糾し、その姿はあまりにも見苦しいものでした。
「衛兵は一体何をしていたのだね?」
「いや、所詮衛兵などあてにならん、当日の当直は一体誰なんだ!」
「ミセス・シュヴルーズ!当直は貴方ではありませんか!」
「申し訳ありません」
シュヴルーズはポロポロと泣き出してしまいました。
「泣いたって、破壊の杖は戻ってはこないのですぞ!」
そう言って声を荒げる教師たちを学園長たるオールドオスマンがたしなめます。
「これこれ、あまり女性をいじめるものではない。そもそもじゃ…この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」
そう言ってオールドオスマンは周りを見まわしました。
教師たちは一同に顔を伏せました。
今までまともに当直の警備をしていた教師は一人として居なかったのです。
しかし、それも無理からぬこと。なにせここは魔法使いが集まる魔法学院です。
強力なメイジたちが犇くこの学院に押し入ろうなんて考える盗賊はまずいませんし、いたとしても何重にも固定化の魔法がかけられた宝物塔の中に入り込むことなど普通に考えたら不可能です。
「責任があるとすればワシを含めここの全員じゃよ」
オールドオスマンの言葉に、その場の誰もが押し黙りました。
「さて…そのフーケを見たものは?」
オスマンが尋ねました。
「この生徒たちです」
コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた4人を指さします。
ルイズ、キュルケ、テオそしてタバサの4人です。
それ以外に、サイトとエンチラーダとエルザが居ましたが、使い魔やメイドは数に入れないのでしょう。
その3人については特に紹介をされませんでした。
タバサとエルザに関しては完全なとばっちりでした。
なぜこのような状況になったのかテオが聞かれた際に、タバサの名前を出したのがいけなかったのでしょう。
とりあえず関わっていたと勘違いされこうして学院長の部屋に召還されてしまったのです。
「ふむ…詳しく説明したまえ」
テオが進み出て、口を開きました。
「そう、それは昨日の夜のこと。
吾らが夜空の下で人生について回顧していたのです。
そこに突如として身の丈30メイル前後のゴーレムが現れました。
材質は土及び岩。形状は人形に近いが首及び頭部が無く、目のようなものが方の中央にありました、ああ、頭の部分に木が生えてましたな、うむ。アレはなかなかのセンスだった。
そう、なかなかのセンスだったのですよ。
無機質なゴーレムに木を生やす。なかなか思いつくものではありません。
(中略)
事実、吾は感心しました。
さらに良いのは奇抜な容姿に見えてそれなりに計算されているゴーレムだというところです。
言わば実用美ですな。例えば肩幅が広いのは重心を上に上げることでバランスをとっているわけです。手が長いのは吊り橋のような効果を狙っているようでして…」
テオの言葉は止まりません。ペラペラと昨夜現れたゴーレムについて語り出します。
その場にいる誰もが、辟易とした気分になりました。
誰もがテオの言葉を止めてくれることを望みましたが、それを言うものはおりませんでした。
というのも、そこにいる誰もが、テオが芸術を語りだすと実に面倒くさいと言うことを理解しているからです。
下手にテオに話しかければ、その後テオによる芸術講義を浴びせられることは必死です。
しかし皆の意思を汲み取るように、ある教師がテオの言葉を遮ります。
そう、蛇炎のコルベールその人です。
コルベールはテオの前に出て言いました。
「ええっと…失礼ミスタ、テオフラストゥス…お話を遮って申し訳ないが…」
その言葉にルイズ達は『でかした』と、コルベールに対する評価を上げました。
普段冴えない教師のコルベールも、やる時はやるのだと、一同彼を見直しました。
「…重心が下にある方がバランスは安定するのでは?」
そしてその言葉に評価をどん底まで下げるのでした。
ここでそんな質問をすればテオの話がさらに長くなることは間違いありません。
「ふふふ、実はその限りでは無いのですよ。確かに大抵の場合は重心が下のほうが安定をしますがね、動くものに関しては必ずしもそうでは無いのですな」
「ほうほう…其れは一体どういう事ですかな」
「意外な事にバランスの取りやすさは重心位置の絶対的な距離が高いほど、元の平衡状態に戻しやすくバランスをとりやすいわけでして、例えばコノの杖が………」
「つまり…」
「ですので…」
「ということは…」
「ええ、空飛ぶシリーズにも応用が…」
結局テオとコルベールは二人で物理の世界に行ってしまいました。
そしてそれ以外の一同は彼らを無視して話を続けることにしました。
「ふ…ふむ。とにかく、ゴーレムが現れたことはわかった…つまりフーケはそのゴーレムで塔を壊し、破壊の杖を盗んでいったのじゃな?」
オールドオスマンがルイズの方を向いてそう聞きました。
「え?…ええ、そうです!」
「ふむ…」
オスマンはひげをなでました。
「手がかりなしか…そういえば、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその…朝から姿が見えませんで」
教師の一人がそう言います。
「こんな時に、一体何処にいったのじゃ?」
「さあ…」
その時、部屋のドアを開け、ミス・ロングビルが現れました。
「ミス・ロングビルどこに行っていたのですか?」
「申し訳ありません、朝から急いで調査をしておりました」
「調査?」
「ええ、昨夜から大騒ぎじゃありませんか。そして宝物庫は半壊。壁に書かれたフーケのサインを見て、コレは巷で話題の大怪盗の仕業と知り、そのまま調査に向かったのです」
「仕事が早いの、ミス・ロングビル…で、何かわかったのかの?」
「ええ、フーケの居場所がわかりました」
「なんですと!?」
教師の一人がそう言いました。
「ええ、近在の農民に聞きこみをしましたら、近くの森の廃屋に、黒ずくめのローブの男が入っていくのを見たというものがいおりました」
「黒ずくめのローブ?それフーケです!間違いありません!」
ルイズが叫びます。
「そこは近いのかね?」
「徒歩ですと半日…馬で数時間と言ったところでしょうか」
「王室に報告しましょう」
教師の一人がそう言いますが、その言葉にオスマンは首を横に振ります。
「その間にフーケは逃げてしまうじゃろ、それに、身にかかる火の粉を己で払えぬようでは貴族とは言えんよ。これは我々の問題じゃ、当然我々で解決する!」
そしてオスマンは咳払いをすると有志を募りました。
「捜索隊を編成する、我と思う者は杖をあげよ」
しかし、その言葉を聞いて杖をあげるものはおりませんでした。
「おや?どうした、フーケを捕まえて名をあげようと思う貴族はおらんのか?それでも貴族かね?」
「ここに居るぞ!」
「ミスタ・テオフラストス!?」
コルベールが驚いた声をあげました。
そこには自らの杖を高らかにあげるテオの姿がありました。
「貴方は生徒ではありませんか、そして今は圧力点と重心の関係について話をしている最中ではありませんか!?それに言っては何ですが貴方はその、戦闘には向いていない」
コルベールはチラリとテオの足を見ながら言いました。
「失礼コルベール師。出来ることならば貴殿とはもう少しの間姿勢制御に関する話を続けたかったが、貴族という言葉を出されれば手を上げざるをえませんよ。なに、足なんぞなんとでもなります、少なくとも今日まで足がなくともやってこれたのですからね」
そう言ってテオはニヤリと笑いました。
そしてそのテオの言葉に続いて、ルイズもまた杖をあげました。
「ミス・ヴァリエール!?」
そしてその様子をみて、キュルケも杖をあげました。
「ヴァリエールには負けられないわね」
そしてキュルケが杖をあげるのを見て、タバサも杖をあげます
「タバサ、アンタは何で?というか、アンタ基本的に関係無いでしょ!?」
「心配」
タバサは一言そう言いました。
「ふむ…では頼むとしようかの」
「オールドオスマン!私は反対です、生徒をそんな危険な場所に行かせるのは!」
「では君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」
「いえ…あたたた、持病の癪が…」
シュヴルーズはお腹の辺りに手をおいてうずくまりました。
「彼女らはフーケを見ておる。それにミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持っておると聞いているが?」
「え?本当なのタバサ?」
キュルケは驚いた声をあげました。
王室から与えられる爵位としてはシュヴァリエは最低のものです。
しかし、だからといって誰かれ構わず与えられるものではありません。
純粋な業績を揚げたものに対して与えられる実力の称号なのです。
「そしてミス・ツェルプストーは、優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法もかなり強力。さらにミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家のご息女じゃ…そしてミスタ・テオの実力に関しては…もはや語るまでも無いじゃろう」
そう言ってオールドオスマンは辺りをぐるりと見渡しました。
「この4人に勝てるという者がいるのなら前に一歩でたまえ」
その言葉に、前に出るものは一人もおりませんでした。
オールドオスマンはテオたちの方に向き直ると、
「魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
と言いました。
その言葉に対し、ルイズ達は勿論、普段ニヤニヤと笑うばかりのテオまでもが真剣な顔で直立すると、
「杖にかけて!」と唱和しました。
「では馬車を用意しよう、魔法は目的地につくまで温存したまえ、ミス・ロングビル、案内を頼めるかの?」
「もとよりそのつもりですわ」
◇◆◇◆
とまあ、そんなワケで一同はフーケの捕縛に向かうことになりました。
ミス・ロングビルの用意した馬車の前に準備を終えた一同は集まるのですが…
全員が集まったところでルイズが言いました。
「まず言いたいことは沢山あるわ。
何でテオに小さい子供が同伴してるのかとか、
何でテオが弓を持っているのかとか、
何でテオとそのメイドだけ馬車に乗らずに乗馬しているのかとか。
そして何より、その格好!!」
そう言ってルイズがビシッとテオを指さします。
その指の先には鮮緑色〈リンカン・グリーン〉の服に身を包み、弓を片手に持った男がおりました
「何処が変なんだ?普通の格好だろう」
「それの何処が普通よ!?」
緑の服と羽帽子、緑のタイツに金属製の脚が妙にアンバランスです。
その服装を見たサイトは昔絵本で読んだ『ロビンフット』みたいだと思いました。
「ふふふ、これ狩りをするもののコンサバファッション!」
そう言ってテオは胸を張ります。
「え?ピクニックじゃなかったの?」
エルザが驚いたというふうな声をあげました。
「違うわよ盗賊退治よ!」
ルイズが怒ったように言いました。
「いや狩りだろ?」
「ピクニック!」
「盗賊退治よ!」
「ふははは、まあまて、ピクニックというのは要は森の中で食事をしたりすることだろう。であれば問題ない。見ていろ…今日の昼ご飯は吾が捕まえた獲物で決定だ!ふむどうだこの弓。木製細工は専門外だから、職人に作ってもらったのだが、この柄の部分の楡の木は最高の物を使っていてな特にこの芸術的な反りが…」
全くルイズを無視して、テオはエルザに弓の説明をはじめてしまいました。
「ちょっとメイド!あんたあの場にいたんだから、訂正してやりなさいよ」
テオに直接言っても無駄だと考えたルイズはエンチラーダの方を向いて言いました。
ルイズの剣幕に、エンチラーダは渋々といった様子でテオに耳打ちをします。
「ご主人様、これから行くのは盗賊狩りですよ」
「なるほど、吾は矢でもって盗賊をぶっ挿せばいいんだな?」
「はい」
「よし!お昼ごはんは盗賊だ!」
「食えるか!!」
ルイズとテオのあまりにもなやり取りを聞いて、一同は盗賊退治の先行きに大いなる不安を感じるのでした。
「まあ、まあ、それではみなさん行きますよ?」
ミス・ロングビルがそう言って皆を馬車の中に誘導します。
「ああ、ほら、テオたちも乗りなさいよ」
キュルケがテオ達に向かって言いました。
「バカモン、馬車でどうやって狩りをするというのだ。吾は乗馬で行く」
テオはそう言うといつの間にかエンチラーダが用意していた馬にまたがりました。
「ああ、そのために狩りって言い張ってたんだ」
エルザが納得したような声を出しました。
馬車が苦手なテオです。
恐らくこの狩りと言うのも馬車に乗らないための方便だったのでしょう。
結局一同は馬車に乗りその少し後方をテオ達は馬で追う事になりました。
一同はこんな時でもマイペースを崩さないテオに呆れますが、一々居それを指摘するのも面倒なのでテオの事は無視することにしました。
しばらく進んだ頃。
エンチラーダは自分の馬をテオの馬の横につけ、口を開きました。
「御主人様…いかがなさいますか?」
馬車に居るメンバーには聞こえない程度の声でエンチラーダがテオに尋ねました。
「いかが…とは?」
「いえ、いえ、御主人様は犯人をご存知だと思うのですが…」
「え?なになに?テオはフーケの事を知ってるの?」
テオの膝の上でエルザが聞き返します。勿論、馬車の面々には聞こえない程度の声で。
「ああそういう意味か…知ってるよ、あのミス・ロングビルだ」
「え?そうなの!?」
思わずエルザが大きな声を上げてしまいました。
「これこれエルザ、大声は淑女としてはしたないぞ」
そう言ってテオはエルザをたしなめました。
「ゴ…ゴメン、でもさ…それだったら今ロングビルのおねーちゃんを捕まえちゃえば解決じゃないの?」
「まあ…解決はするだろうがなあ…つまらんだろ」
「はい?」
エルザは不思議そうな声をあげました。
「物語の最初と最後だけ知っても面白くは無いだろう?大切なのは過程だ。…それにエルザ、此処で彼女を捕まえてしまってはピクニックができなくなってしまうだろ?」
「あ、そうか!」
「つまりそういうことだ。楽しむことを忘れたらこの世は途端につまらなくなる」
「…!それで狩りなのね?」
エルザは合点のいった声を出しました。
そう、つまり今回の盗賊退治はテオにとって娯楽なのです。
ただ盗賊を捕まえるのが目的なのではなく、盗賊を捕縛するまでの過程を楽しむ、言わば、貴族の趣味としての狩りと同じ事なのです。
「そういうことだ、狩りの醍醐味は獲物を泳がせてから狩り取ることにある。罠にかけて獲物を取るのは猟であって狩りでは無い…というわけだ、エンチラーダ。あまり吾の楽しみに水をさすな」
「申し訳ございません、出すぎたことを言いました」
「なんだ、結局テオは破壊の杖とかどうでも良いんだ」
エルザがそう言うと、テオは首を振って言いました。
「いや、そんなことはない、吾はオールドオスマンの前で確約をしたろう?」
「確約?」
「ああ、確約だ、吾はオールドオスマンに杖を取り返すように頼まれて、そしてそれを承諾した。その約束は守るさ」
「へえ以外。テオってそういうの気にしないと思ってた」
「ふむ、吾はな、約束は守るのだ。たとえそれがどんなにささいなことでもな、義理は返す、約束は守る。この2つだけはな絶対に違えないのだよ、だから破壊の杖は取り戻すさ…まあ、邪魔臭いのがワラワラとついてきてしまったのは…あまり良い気持ちはしないがな」
そう言ってテオは馬車の上で騒ぐルイズ達を睨みつけました。
「まあ…あまり邪魔なようならば…殺せばいいか」
エンチラーダとエルザにやっと聞こえる程度の小さい声で、
テオはそう言いました。
◆◆◆用語解説
・「すえにいっ」
タバサ・宮中でも食べられるという『橋場美苦起位』と言うものにゴザル。
テオ・なんじゃこりゃあ!く…臭せえ。食い物なのか!?
タバサ・この味がわからぬようではテオ殿もまだまだにござる、ゲヒヒヒ。
このやりとりはフィクションにて候。
・重心が低い方が安定するのでは?
ちなみにこの文章における『安定』とはバランスの取りやすい状態、倒れにくい状態を指す。教科書的な意味においての、『安定』(物事が落ち着いていて、激しい変動のないこと)とは意味合いが微妙に異なる事を理解していただきたい。
そして私は専門家では無いので間違っている可能性もある。それを留意した上で以下の文章を読んでいただきたい。
普通に考えたら重心が低いほうが安定する。
これは事実である。
だがロケットやロボットに関してはその限りではないのだ。
ヒントは倒立振子。
二足歩行等の重心が揺れるものの場合。重心が低いと、機構的に安定だが移動が困難になる。反対に、重心が高いと機構的には転倒しやすいが移動時の制御がしやすい、つまり移動時に安定するのだ。制御で安定化を図る場合、重心が高いほうが制御が楽なのである。それは倒立振子でいうところの振子の周期が長くなるからである。
機構的に安定化を図るか、制御で安定化を図るかの差。
解りやすい例を上げてみよう。
まず箒とペンを用意する。箒の柄を下に手のひらの上に立ててそのまま数秒間バランスを取ってみて欲しい。
そして次に同じ事をペンでやってみていただきたい。
箒の重心はかなり上部にあり、ペンは箒よりもずっと短いので重心はかなり低い。
しかし、大半の人は箒のほうがバランスがとりやすいだろう。
ただし注意していただきたいポイントとして。現存する二足歩行式ロボットの重心は上か?と言われると、そうでもないのだ。
静止している場合はやはり重心が下にあったほうが安定する。
ロボットは常に動いているわけではなく、停止したり、直立したりするので重心が人間と同じあたりにくる。
だが魔法で作られたゴーレムの場合、必要な時に作って動かし、使い終わると同時に消えるので停止した際の安定よりも移動時の安定を重視する傾向にあるというわけだ。
え?アニメ版ではフーケのゴーレムは停止した状態で立ってたって?
こまけーこたあいいんだよ!!!
・コンサバファッション
ファッション形態の一つで上品系のファッションを言う場合が多いが、本来は保守的ファッションという意味。
・狩り
この場合の狩りはスポーツハンティングを指す。
自然の中で鳥獣を狩る為の自らの知識や判断力を試す娯楽的な狩猟の形態。
貴族・王族といった特権階級や富裕層の間の娯楽で有ると同時に戦士階級の軍事演習でもある。