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No.33077の一覧
[0] 空を翔る(オリ主転生)[草食うなぎ](2012/06/03 00:50)
[1] 0    プロローグ[草食うなぎ](2012/05/09 01:23)
[2] 第一章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 01:22)
[3] 第一章 6~11[草食うなぎ](2012/06/03 00:32)
[4] 第一章 番外1,3[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[5] 第一章 12~15,番外4[草食うなぎ](2012/05/09 01:30)
[6] 第一章 16~20[草食うなぎ](2012/06/03 00:34)
[7] 第一章 21~25[草食うなぎ](2012/05/09 01:32)
[8] 第一章 26~32[草食うなぎ](2012/05/09 01:34)
[9] 幕間1~4[草食うなぎ](2012/05/09 01:39)
[10] 第二章 1~5[草食うなぎ](2012/05/09 02:22)
[11] 第二章 6~11[草食うなぎ](2012/05/09 02:23)
[12] 第二章 12~17[草食うなぎ](2012/05/09 02:25)
[13] 第二章 18~19,番外5,6,7[草食うなぎ](2012/05/09 02:26)
[14] 第二章 20~23[草食うなぎ](2012/05/09 02:28)
[15] 第二章 24~27[草食うなぎ](2012/05/09 02:29)
[16] 第二章 28~32[草食うなぎ](2012/05/09 02:30)
[17] 第二章 33~37[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[18] 第二章 38~40,番外8[草食うなぎ](2012/05/09 02:32)
[19] 幕間5[草食うなぎ](2012/05/17 02:46)
[20] 3-0    初めての虚無使い[草食うなぎ](2012/06/03 00:36)
[21] 3-1    ラ・ヴァリエール公爵の目的[草食うなぎ](2012/05/09 00:00)
[22] 3-2    目覚め[草食うなぎ](2012/05/09 00:01)
[23] 3-3    目覚め?[草食うなぎ](2012/05/09 00:02)
[24] 3-4    ラ・ヴァリエールに行くと言うこと[草食うなぎ](2012/05/09 00:03)
[25] 3-5    初診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[26] 3-6    再診[草食うなぎ](2012/06/03 00:40)
[27] 3-7    公爵家にて[草食うなぎ](2012/06/03 00:52)
[28] 3-8    決意[草食うなぎ](2012/11/06 20:56)
[29] 3-9    往復書簡[草食うなぎ](2012/11/06 20:58)
[30] 3-10    風雲急告[草食うなぎ](2012/11/17 23:09)
[31] 3-11    初エルフ[草食うなぎ](2012/11/17 23:10)
[32] 3-12    ドライブ[草食うなぎ](2012/11/24 21:55)
[33] 3-13    一段落[草食うなぎ](2012/12/06 18:49)
[34] 3-14    陰謀[草食うなぎ](2012/12/10 22:56)
[35] 3-15    温泉にいこう[草食うなぎ](2012/12/15 23:42)
[36] 3-16    大脱走[草食うなぎ](2012/12/23 01:37)
[37] 3-17    空戦[草食うなぎ](2012/12/27 20:26)
[38] 3-18    最後の荷物[草食うなぎ](2013/01/13 01:44)
[39] 3-19    略取[草食うなぎ](2013/01/19 23:30)
[40] 3-20    奪還[草食うなぎ](2013/02/22 22:14)
[41] 3-21    生きて帰る[草食うなぎ](2013/03/03 03:08)
[42] 番外9    カリーヌ・デジレの決断[草食うなぎ](2013/03/07 23:40)
[43] 番外10   ラ・フォンティーヌ子爵の挑戦[草食うなぎ](2013/03/15 01:01)
[44] 番外11   ルイズ・フランソワーズの受難[草食うなぎ](2013/03/22 00:41)
[45] 番外12   エレオノール・アルベルティーヌの憂鬱[草食うなぎ](2013/03/22 00:42)
[46] 3-22    清濁[草食うなぎ](2013/08/01 20:53)
[47] 3-23    暗雲[草食うなぎ](2013/08/01 20:54)
[48] 3-24    誤解[草食うなぎ](2013/08/01 20:57)
[49] 3-25    並立[草食うなぎ](2013/08/01 20:59)
[50] 3-26    決別[草食うなぎ](2013/08/01 21:00)
[51] 3-27    緒戦[草食うなぎ](2013/08/01 21:01)
[52] 3-28    地質[草食うなぎ](2013/08/01 21:02)
[53] 3-29    ジョゼフの策 [草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
[54] 3-30    ガリア王ジョゼフ一世[草食うなぎ](2013/08/01 21:03)
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[33077] 3-28    地質
Name: 草食うなぎ◆ebf41eb8 ID:2e49d637 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/01 21:02
「はっはっは、どうだい、シャルロット。この城の防御力は万全だと言った通りだろう!」
「本当、凄い。あの数の艦隊が何も出来ないで帰るしかないなんて…」
「ガリアを真の強国に押し上げようと努力していた僕たちと、漫然として前の日と同じ日々を過ごしていた者達との違いだな。国中の新聞が今日の戦いを国民に伝えるだろう。今は中立している貴族達が何を思うか……楽しみだな」

 葬式のように静まりかえっていたジョゼフの陣営とは対照的に、アンボワーズ城は昨夜の宴がまだ続いているようなお祭り騒ぎに包まれていた。ハルケギニアでも名だたる存在となったガリアの両用艦隊を鎧袖一触とばかりに跳ね返したのだから無理はない。
 実際にはそれほど大した損害を相手に与えた訳でもないのだが、士気の向上という点ではこれ以上ない結果だ。両用艦隊が帰還したのを確認して降下してくる戦列艦を城の者達は大歓声を持って出迎えた。

「おっと、今日の陰の功労者が来たぞ。レアンドロ! こっちだ。サイクローンは大成功だったな」
「ああ、シャルル様、ただいま参ります」

 シャルル達は迎賓館のラグドリアン湖と港を見渡せる大広間のバルコニーにいたのだが、広間に入ってきたレアンドロを見つけ、声を掛けた。

「こちらの被害は無かったようですね。期待通りの成果がありまして、ホッとしています」
「ははは、あれほどの魔法防御装置を開発したというのにまったく謙虚だな。そこがレアンドロらしいとは言えるが」

 今回大活躍したサイクローンとはレアンドロが開発した拠点防御用魔法装置だ。魔法による気候操作の研究から派生した技術だが、この城の防御力を一段と高める事に一役買っている。
 原理的には簡単で『エア・ストーム』と『風の壁』を組み合わせたものに過ぎないが、大量の風石を使用するその威力は絶大だ。
 城を中心とした巨大な渦巻きを発生させ、中心に向かって渦を巻く風は城に近付くにつれ風速を上げる。城の周囲から集められた膨大な空気は暴風となって緩やかな円錐状に張られた『風の壁』まで到達すると、その『風の壁』が発生する強烈な下降気流に導かれて城壁まで降下する。
 集められた空気は城壁上に二百五十六機も設置された吸引口を通り、城中央部に設けられた排気口から上空に放出される。排気口の先にもパイプ状に『風の壁』が張ってあり、ここの内壁では上昇気流が発生するようになっているので排気は更に加速され上空三千メイルで放出される。
 レアンドロが空気の噴水と呼んだその排気は急激に冷やされて雲となり、拡散して下降し渦へと戻る。起動する時には莫大な量の風石を必要とするが、その後の運転にはそれほどはかからずに城を守り続ける事が出来るシステムだ。その制御には王家に伝わるヘキサゴンスペルの奥義まで使用されており、シャルルがこの城を改造するにあたり一切のタブーを認めていないことを示す装備となっている。

「ありがとうございます。しかし、サイクローンでは渦の下部、城壁や港は防御できません。油断はなさいませんように」

 少し疲れた顔をしているレアンドロは大勝にも気を引き締める事を要求した。レアンドロは仕事でオルレアンの森に入っている時に変事の報を受けた。そのまま領地やリュティスには帰らずにいたらシャルルが帰ってきて討伐令が出され、シャルルが反旗を掲げるのに従う事になった。リュティスに残してきた妻や子供達の事は気になるが、父はジョゼフに付いたと聞いたので非道い事にはならないだろうと安心している。昨夜シャルロットがこっそりと今回の事を謝ってきたが、本人はシャルルに付いた事を後悔していない。もしシャルルをほっぽり出してラ・クルスに帰ったとしたら、あの父は激怒しただろうと思っている。
 自分の家臣というものをまだあまり持っていなかったレアンドロは近習だけを引き連れてこの反乱軍に参加しているが、その知識で十分に貢献していた。この城の設計に関わってきた彼にはこの城の限界もよく分かっている。一勝したくらいで喜んではいられなかった。この城が最後の砦なのだ。城を出るその日まで勝ち続けなくてはならない。
 サイクローンを含め、城の防御システムはまだ開発中だ。設計上では城の上空に出城を築くはずだったし、防御用艦船はもっとずっと数が多かった。地上の砲門も数を増やしている最中だし、現在の防御力でどれほど一斉攻撃に耐えうるのかは未知数だ。
 
「うん。油断なんて出来る訳無いさ。まだ兄さんの方が圧倒的に勢力が大きいのだからね。さあ、頑張って手紙を書こう。戦争すると書類仕事が増えるなんて知らなかったよ、ははは」

 国中に分散するオルレアン派貴族との連絡、中立派やジョゼフに付いた貴族の勧誘、諸外国との通信などシャルルが書くべき手紙は数限りない。それどころか対戦中の両用艦隊の士官にまで誘いを掛けている。その仕事量は相当なもので、シャルロットが魔法封蝋などを手伝ってくれているが、毎日夜遅くまでシャルルの部屋のライトが消える事はない。
 シャルルはシャルルの戦いを戦っていた。



 一方のジョゼフはと言うと、軍を離れ、近くのラ・クルス伯爵領を訪ねていた。供は近習だけであり、戦争中とは思えない程の軽装だ。

「ようこそお越し下さいました、ジョゼフ様。大したもてなしも出来ませぬが、どうぞおくつろぎ下さい」

 竜籠に乗って訪れたジョゼフを出迎えたのはこの街の領主、ガリア西部において隠然とした勢力を保持し、元々石頭とは呼ばれていたが今回の行動により晴れて鉄頭との二つ名を頂戴する事になったフアン・フランシスコ・デ・ラ・クルスその人。

「ああ、顔を上げてくれ。今回の助力、誠に感謝する。卿がいなかったら今回の戦線はもっと難しいものになっていただろう」
「礼には及びませぬ。この身は血の一滴にいたるまで陛下の臣。その命に従うのは当然でありますから」
「レアンドロは残念だった、何とか命は助かるようにする。卿の忠誠に報いるにはそれでは足らぬだろうが今はそれくらいしか約束できない、と父から伝言を頼まれています」
「ありがたいお言葉ですが、お気遣いは無用です。私が陛下の臣だったようにレアンドロはシャルル様の臣なのです。不肖の息子の事はもう死んだものと思うようにしています」

 頭を下げる臣下に、不肖の息子と言われれば自分たち兄弟こそだとジョゼフは苦笑した。人の迷惑を顧みないのはもちろんの事、国を巻き込む規模になっているがこれは所詮兄弟喧嘩の延長に過ぎないのだから。

「きっとまた会える日が来るさ。今回の内乱はそれほど長引かないと思っているしな」
「長引きませんか。あの城は難攻不落だと聞いていたものですが……」
「難攻はあっても不落は無い。人間が作るものに完璧なものは無いのだから。……ところでこちらの少年は? どことなくフアン殿に似ている気もしますが」
「ああ、紹介しましょう。先日私の養子となったクリフォードです。エルビラの息子でして、甲斐性無しの父親がまた無職となりましたので引き取りました。クリフ、挨拶しなさい」
「初めまして、ジョゼフ殿下。クリフォード・マイケル・ライエ・デ・ラ・クルスでございます」

 緊張した面持ちでクリフォードが挨拶する。彼は開拓地にいたのだが、ラ・クルスが戦争になりそうと聞いて駆け付けていた。エルビラは妊娠中でウォルフやニコラスはフアンが来る事を拒んだのでそのまま開拓地に残っている。ガリアの内戦はガリアの人間だけで解決するそうだ。

「おお、君があのエルビラの。大変な弟を持って苦労しているという……」
「ぶっ……ええ、そのエルビラの息子です」
「報告書で読んで以来君にはどこか親近感を感じていたんだよ。そうか、フアン殿の養子になっていたのか、これからよろしくな、クリフ」
「あの、その、勿体ないお言葉でございます」

 ガリアの王子が自分の事を知っていたと言う事に動転して、狼狽しつつ答える。ジョゼフは陰気との噂だったが、クリフォードの目にはそのようには映らなかった。

「そう言えば君の両親も大変なことになったそうだが、大丈夫なのか?」
「あ、はあ。両親共に弟のところで元気に働いています」
「まあ、これの父親は元々エルビラを掠って行った時も無職でしたし、殺しても死なないような男ですので心配は要りません」
「ああ、そう言えばエルビラが家を出て行った時、卿は随分と荒れていたよなあ……」

 エルビラは当初駆け落ちに近い形でニコラスと結婚している。ジョゼフはその頃のことを良く覚えていた。

「コホンッ。あー、ところでジョゼフ様はこちらに何かご用命でしょうか。まだ陣を張ったばかりだと聞いております。こちらにまでいらっしゃるのは何か御用があるかと存じるのですが」
「ああ、そうだな二つ程頼みたい。一つは避難民対策だ。現在ド・オルレアンの領民を戦闘予定地域から避難させている。周辺の諸侯に受け入れを要請しているが、小規模な領地が多い。貴殿が彼らの仮住まいに必要な物資を用意してくれるとありがたい」
「お任せ下さい、領内にある物は融通できるように手配いたしましょう。食糧は余裕があるので今すぐにでも送る事が出来ます」
「感謝する。もう一つの頼みはこちらにガンダーラ商会の商館が有るだろう、風石の採掘にはあの商会が関わっていると聞いた。アンボワーズに搬入された風石について色々と聞きたいので紹介して欲しい」
「畏まりました。直ちに責任者を呼びましょう」
「ああ、データなども知りたいのでこちらから行こうと思う。誰かガンダーラ商会を知っている者を案内に付けてくれ」
「それでは……クリフ、お前が案内しなさい。よくあそこには入り浸っているだろう」
「は、はい。殿下それでは早速」

 ジョゼフとその護衛を引き連れラ・クルスが用意した自動車で街へと向かう。城下にある商館には程なく着いた。



「こ、これはジョゼフ殿下、ご足労頂き恐縮至極にございます」

 商館は精一杯混乱していたが代表のスハイツはきちんと礼服を身につけて迎えた。一応城から先触れは出したので間に合ったようだ。

「よい。聞きたい事が有って来たのはこちらだ。知っている事を教えてくれ。ド・オルレアンの風石開発をしているのはこちらで良いんだな?」
「はい、いいえ、一応別会社になっていますが、こちらでも情報を共有しておりますし、人間もこちらのものですので、まあこちらでやっていると言っても良いかと」
「分かりにくいな。知りたいのはド・オルレアンでの風石の産出状況とあの城に貯蔵している量。向こうが用意した風石を使用した防御装置が強力でな、あれがどの程度稼働できるのか知りたいんだ」
「分かるとは思いますが、どのような魔法装置でございますか?」

 館員に資料を取りに行かせ、ジョゼフからサイクローンの詳細を聞き出す。スハイツは暫くなにやら計算していたがやがてペンを止めて顔を上げた。

「ざっと、ざっとの計算ですが、レアンドロ様が風石利用の『エア・ストーム』で行った実験結果がこちらにも残っています。ジョゼフ殿下の証言通りの嵐を発生させ続けるとなるとおよそ二年程で搬入した風石は枯渇するものと思われます」
「二年……そんなに持つのか。起動していない間は消費しない訳だし、枯渇を待つのは難しいな」
「そうでございますね。元々あの城はゲルマニアの大軍が包囲しても耐えきれる事を前提条件として設計されていると聞きました。補給無しで三年というのが物資の備蓄量設定基準との事です」
「三年か。ううむ、聞けば聞く程たいそうな城だな」
「シャルル様が心血を注いだと聞いております」

 風石が切れるのを待つ事は出来そうにない。ジョゼフは溜息を吐くと館員が持ってきた資料に手を伸ばした。
 所々黒塗りがされてはいるが、風石鉱山の試掘から稼働に至るまで詳しい資料が揃っていた。これがあれば今は隠されている坑道もすぐに見つけられそうだが、ジョゼフの興味を引いたのはオルレアン領の地質図だ。一般的な地図と地下の断面図がまとめてあるもので、ジョゼフはこんなものを初めて見た。
 これを見るとラグドリアン湖の南側、城がある辺りは堆積岩の同じ岩盤がずっと続いている事が分かる。 

「ちょっとこの地図を見せてくれ」
「はい、どうぞご覧下さい」
「これは。ガンダーラ商会ではこんなものを当たり前に使用しているのか? 大体こんなに広範囲の地下構造をどうやって調べたんだ」
「ええと、その、特にオルレアンでは進んでいるのです。普通の領地ではここまで領主が調べさせてくれません。ボーリングをして地層を調べ、地形や地層の傾斜、断層などと合わせて推定しています」

 よっぽど興味を持ったみたいでジョゼフは更に二、三質問してきてデータなども欲しがる。いつの間にか風石の事など忘れたように地質図に夢中になっていた。

「ふむ、しかしこの地図を見ると風石はあまりオルレアンには無かったようだな」
「あ、いえ。風石関係はデータの持ち出しを禁止されていましたので、こちらにある地図には記してないだけです」
「ああ、そういう訳か。とすると、これはあまり意味がないのか?」

 言われて他の資料に目を通してみると、試掘などの資料も数字などには全て黒塗りが施されてあり、詳しいことは分からなくなっている。

「そうとも限らないですね。我々で請け負った工事ですし、資料のデータは消しても大体はもう分かっています。この辺が風石の地層になります」
「これは……こんなに広範囲なのか」
「オルレアンに限らず、大体このくらいは有るみたいです。まあ、ハルケギニアのどこを掘っても風石に中るような気はしております。出水が予想されたので湖から遠い、この辺からこういう感じに坑道を掘ってあります」

 スハイツはペンを取ると手を伸ばして地質図に風石の地層を書き込み、さらに坑道の位置まで記す。開発に直接関わっているのでそれくらいは当然覚えていた。オルレアン領の風石開発は国防の拠点であるアンボワーズ城に搬入する事が目的のため、契約相手は王家となっているし支払いも国の予算からだった。ジョゼフにその内容を教える事に何も問題はないので、スハイツは気軽に話す。

「ただ、やはり出水が酷くなり、コストの関係で採掘は中断されております。あの城に納入されているのは主にラ・クルス産の風石ですね」
「採掘中断。穴を掘ったのは無駄だったって事か」
「ある程度は掘っていましたから、まるで無駄だったわけでもないのですが。また風石の価格が上昇したら排水して採掘を再開するつもりみたいです。今は安くなってしまいましたから。坑道はほとんど全部水に浸かっております」
「ああ、成る程。ガンダーラ商会と言えども出水量や風石の価格推移までは予測できなかったって事か」

 ジョゼフは納得がいったように頷いたが、まだまだ聞きたい事は沢山あるようで、スハイツは更に問われるまま堆積岩の形成過程や、風石の蓄積過程なども問われるままに説明した。それらの理論はウォルフからの受け売りだが、スハイツも一時期かなり勉強したので淀みなく説明することが出来た。

「成る程、勉強になった。またヤカに来ることがあったら寄らせて貰おう」
「はっ。ありがたきお言葉でございます」

 結局ジョゼフはオルレアン領の地下構造の話で多くの時間を費やし、城を攻める対策など何も得るものはなかったというのに礼を言って上機嫌で帰って行った。
 地質図は控えがあるので進呈し、上々の対応を果たせたスハイツはホッと胸をなで下ろす事が出来た。



 自軍に戻ったジョゼフはなおも飽きずにその地質図を眺め、感嘆の溜息を吐いている。そんなジョゼフに、何故か周囲の目を気にするようにジョゼフが一人でいる事を確認したビルアルドアーンが近寄ってきて話しかけた。

「どうなさいましたかジョゼフ様。先ほどから随分とその図にご執心のようですが」
「ん? ああ、ビルアルドアーン。これはオルレアン領の地質図というものだそうだ。地下の構造を調べたのをまとめたんだな。ラ・クルスで手に入れてきた」
「ほほう、ここらで有用な鉱物は風石や石灰岩くらいだと聞いておりましたが、なにやら色々あるようですな。砂岩……とは……」
「その名の通り砂が押し固まったような岩だそうだ。何の役にも立たない、そこらの岩だと。他のものもそうだ、泥岩は泥が固まったもの、礫岩は砂よりも大きな石粒が固まったものだと。役に立つ鉱物などお前が今言ったものくらいらしい」
「そんな役に立たないものをこんな広範囲で調べるなど、随分とオルレアン領は暇みたいですな」
「分からんか。俺は地下にこんな秩序だった構造があるなんて知らなかったし、考えもしなかった。ガンダーラ商会が言う事には、地下の構造を知る事で有用な鉱物がどの辺にあるのか推測する事が出来るようになるそうだ」
「世間ではガンダーラ商会が風石鉱脈を掘り当てたのは偶然だと言われています。そうでは無いと仰るので?」
「皆が無秩序だと思っているところに秩序を発見し、その先の真理に到達する。そう言う事だ。ガンダーラ商会が急激に伸びたのは当然かと思ったのさ」
「はあ…」

 興味なさそうにビルアルドアーンから目を離し、地質図に戻す。暫く二人の間に沈黙が流れたが、ビルアルドアーンがそれを破った。きょろきょろとまた周囲を見渡し、天幕内に誰もいない事を確認するとジョゼフの直ぐ側までにじり寄り、小声で語りかけた。

「殿下。アンボワーズの攻略ですが、わたくし、秘策を考えて参りました。お聞き願えますか?」
「何だ、急に。……許す。話せ」
「わたくし殿下が仰った正攻法では無理だという意味をずっと考えておりました。確かにあの城を正面から攻めたのでは被害も費用もかかりすぎて、たとえ勝利したとしてもその後の国の再建に支障を来します」
「まあ、そうだな」
「そこで搦め手はないかと考えたのですが、現在あの城はトリステインから密かに食糧などの補給を受けています」

 港から水中に潜って航行する潜水艦の存在が既に確認されている。トリステインに苦情も入れたが、知らぬ存ぜぬの一点張りで話にならなかった。

「そうだが、既に十分な食糧は城内に有るみたいだし、あまり意味はないのではないか? あの潜水艦を破壊するにしても、水の精霊を怒らせぬよう配慮する必要があるしな」

 水の精霊は湖の外で戦争していてもまったく関与しないが、水中で殺し合うような事をすると結構怒ると言われている。反対に今日のファイア・グライダーのように湖を汚すのでは、と思うような事には案外頓着しない。これは湖の自浄作用が強いからだと考えられているが、精霊の基準は今一はっきりしていない。

「記録に拠れば食べるために殺すなら問題ないみたいですが、難しいでしょう。そこでです」

 ビルアルドアーンが含みを持った笑顔になる。ジョゼフはその表情を不快に思うが表には出さず続きを促した。

「トリステイン側にわたくしの伝手がおります。彼の補給船に工作員を忍び込ませて城に潜入、シャルル様を暗殺する事は可能だとの結論を得ました!」

 ピキッと言う音が聞こえそうな程ジョゼフの表情が強張ったが、己の策を熱っぽく語るビルアルドアーンは気付かない。

「丁度良い凄腕の暗殺者がいるのです。絶対にばれる事は有りません。何、ジョゼフ様の名誉に傷が付く事もありませんよ、裏切りを約束した籠城貴族の一人が功に逸って勝手に殺した、と言う事になります」
「ほほう…そんな事が可能なのか…」
「出来るのです! 攻め込んだ時に門を開ければ領地を増やしてやる、という約束でも文書に残しておけばジョゼフ様は疑われないでしょう。シャルル様がいなければド・オルレアン軍が戦う理由もない。遠からず瓦解する事間違いございません」
「黙れ」

 室内が凍り付くような冷たい声にビルアルドアーンがピタリと停まった。

「何を言うかと思えば、王族を暗殺するなどとは。貴様自分が何を言ったのか分かっているのか」
「い、いえ、わたくしはただ、被害を出さずに確実に勝利を得る方法を……」
「そうか、だが必要ない。暗殺などは卑劣で自分に自信のない者がする事だ。俺は正面からあの城を落とす」
「それは…ご立派な事で…」
「もう下がれ。くれぐれも余計な事はするなよ。シャルルに万一の事があったら貴様を三族もろとも断頭台に送ってやるからな」
「……は。それで、ジョゼフ様はどのようにあの城を落とすので?」
「お前は考えなくて良い。とっとと艦隊に戻って命令を待て」
「…失礼いたします」

 必勝の策を無碍にされ、両用艦隊総司令だというのに野良犬のように追い払われた。ジョゼフの陣幕から追い出されたビルアルドアーンの顔は、怒りで歪んでいた。


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