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No.30156の一覧
[0] 公爵家の片隅で 【完結・オリ主】[FTR](2014/09/29 11:33)
[1] 第1話[FTR](2014/05/18 23:55)
[2] 第2話[FTR](2014/05/23 09:21)
[3] 第3話[FTR](2011/10/16 16:22)
[4] 第4話[FTR](2011/10/16 16:14)
[5] 第5話[FTR](2011/10/16 16:13)
[6] ―幕間―[FTR](2011/10/16 02:49)
[7] 第6話[FTR](2011/12/08 00:45)
[8] 第7話[FTR](2014/05/19 08:37)
[9] 第8話[FTR](2011/12/12 21:53)
[10] 第9話[FTR](2012/03/04 19:38)
[11] 第10話[FTR](2012/08/06 22:05)
[12] ―幕間―[FTR](2014/05/23 09:28)
[13] 第11話[FTR](2012/08/07 00:38)
[14] 第12話【前編】[FTR](2014/09/29 11:29)
[15] 第12話【中編】[FTR](2014/05/22 15:11)
[16] 第12話【後編】[FTR](2014/05/22 15:12)
[17] 最終話[FTR](2014/07/03 12:38)
[18] あとがき[FTR](2014/06/19 12:49)
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[30156] 第1話
Name: FTR◆9882bbac ID:bedd3568 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/05/18 23:55
 家具磨きと言うのは、これで結構面倒なものだ。
 一気にがーっと磨きをかけられればいいのだが、意匠に合わせて磨き方を工夫しなければならないし、あまり力を入れてやってしまうと傷を付けてしまう。
 その辺の力加減を上手く調整しながらも、やや色気が出るくらいの艶を出すのが職人芸と言うもの。無意味にテカらせるのは素人の手並みだ。
 仕上げ用の雑巾でしゅしゅしゅ~っと磨き上げ、ワックスを塗って乾かし、最後に空拭きを施す。
 仕上げ終わってやや距離とって出来栄えを見た。
 美しい。
 曇りなく、それでいて部屋の雰囲気を壊さぬ嫌味のない艶。
 我ながら完璧な仕上がりだ。これならば家政婦も無言で通り過ぎるだろう。
 私たちの支配人たるあの家政婦は、問題がある時はとことん口を出して来るが、納得してくれた時は無言なのが常だ。ねぎらいもお褒めの言葉もない。そうあって当然と言うのが彼女のスタンスなのだろう。大抵の場合、他人に厳しく当たる人はよく言われないものだけど、彼女の場合は自分にはより厳しい人なので誰も何も言わない。

「ナミ」

「ひゃい!?」

 そんなことを考えていたら、まさにその家政婦が音もなく背後に立って声をかけてきた。幽霊みたいに音を出さない人だ。さすがは風のトライアングル、『地獄耳』のヴァネッサ。
 ここでうろたえると追い打ちが来るので、慌てて居住まいを正して目を伏せる。礼儀作法にはとことんうるさい人だから困る。

「エレオノールお嬢様がお呼びです。お部屋にお伺いなさい」

「かしこまりました」

 エレオノールお嬢様は昨日から春休みの帰省をされておられるのだが、早速のお呼び出しと来たか。私は家政婦に一礼し、平静を装いながらも内心で脂汗をかいていた。何しろ、エレオノールお嬢様は取り扱いを間違うと酷い目に遭わされてしまうお方だからだ。
 家具の周囲に散在する掃除道具を籠に入れ、メイドの特殊技能の一つ『優雅に急ぐ』を発動する。スカートの裾を乱さず、全速力で用具入れに掃除道具を戻しに行く。使用人たる者、貴族様のお屋敷にあっては、間違っても雰囲気を壊すようなことがあってはならない。使用人は家の一部なのだから、家格に相応しい物腰を心がけねばならない。走る等もってのほかだ。外見は優雅に構えつつも、丈の長いスカートの中では水鳥の水かきのごとく両足を目いっぱい動かして素早く全速前進。

「あら、もう終わったの?」

 用具置き場に行くと、私と同じ『ブローチ組』のシンシアがモップを手に次の任地へ出発するところだった。
 雪のような肌に眩いブロンド。私と同い年の、そばかすが可愛い女の子だ。

「お嬢様のお呼び出しよ」

「お嬢様……って、エレオノール様?」

「そう」

「あらら、お帰りになられて早速とはついてないわね」

「言わないでよ」

 シンシアの相手も適当に、用具入れのドアを開けて籠を戻す。用具入れと言ってもちょっとした倉庫で、私の感覚だと8畳は余裕であるお部屋だ。やろうと思えば住める広さが用具入れ。貴族ってすごいなあ、と思う。

 そのまま高速移動を続けながら身だしなみを整える。カチューシャの角度やエプロンの汚れ。今日のコンディションなら着替えなくても大丈夫だろう。最初のころは急いで行ったら汚い恰好で来るなと大目玉を食らったっけ。

 ショートカットの中庭を横切ると、先輩のメイド連中が何やら探し物をしていた。
 植え込みをごそごそ。園丁のミスタ・ドラクロワに文句を言われなきゃいいんだけど。

「何かお探しですか?」

 興味をひかれて先輩の一人に訊いてみた。

「ルイズお嬢様よ」

「ルイズお嬢様?」

「魔法の練習中に逃げ出したんですって。奥様かんかんよ。」

 それを聞いて、周囲のメイド連中も声を漏らす。

「ルイズお嬢様も難儀だよね」

「まったくね。上のお二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに」

 あけすけな物言いに、私はちょっとだけ腹が立った。

「あ~、たぶん、ルイズお嬢様は大器晩成型ですよ?」

 私の言葉に手を止めて、先輩の一人が振り返った。

「あら、言うわね。何か根拠があるの?」

「ありますよ。だって、あの奥方様のお嬢様ですし、ただ者で終わると思う方が無理があると思いますけど」

「『ブローチ組』の勘?」

「そんなたいそうなものじゃなくて、何となくです」

 『ブローチ組』と一般の使用人の間に格差はないはずなんだけど、たまにこうやって突っかかられることがある。お給料が変わる訳じゃないのに、何だか嫌な感じだ。





 無意味に思えるほど広いお城の中を移動し、ようやくエレオノールお嬢様の居室に辿りつく。所要時間4分。我ながらまずまずのタイムだ。呼吸を落ちつけてから伺いを立てる。

『開いてるわ』

「失礼致します」

 ドアを開けて入ると、真っ先に飛んでくるのはいつものセリフだ。

「遅いわね。呼ばれたらすぐに来なさい」

 どれほど急いでも、必ずいただくきつい一言。でも、それがこの人の持ち味だから仕方がない。

「申し訳ございません。次からは気をつけます」

「まあ、いいわ」

 エレオノールお嬢様。御歳17歳。私の5つ上だ。魔法学院に在学中で、普段は寮に入っておられるのだが、今日は帰省中だ。

「ルイズが、また癇癪を起したそうなのよ」

「まあ」

「魔法の練習中にね。随分厳しく叱られたせいで、泣きながら逃げ出したそうよ。困ったものだわ。そうでしょ?」

「はい、お嬢様」

「本当に困ったものなのよ」

「はい、お嬢様」

「まったく……あの子ったら」

「はい、お嬢様」

 苛立たしげに言葉を重ねるエレオノールお嬢様には間違っても意見を言ってはいけない。それは経験則に裏打ちされたメイドたちの鉄則の一つだ。

「……ナミ」

「はい、お嬢様」

「慰めて来なさい。方法は任せます」

 微かに視線が泳いでいる。耳がちょっと赤い。少しだけ恥ずかしそうなエレオノールお嬢様。この可愛さに気付く殿方がいれば、恐らくこの方は国でも屈指の名花に上り詰めるだろうになあ。

「かしこまりました。加減はいかが致しましょう?」

「そうね……今日はだいぶ酷かった様子だから、少々強めでいいわ」

「一言申し上げてもよろしいでしょうか?」

「許します」

「お嬢様がご自身でお声をおかけになられたほうが、ルイズお嬢様もお喜びになると思いますが?」

 その言葉に、エレオノールお嬢様は今度こそ真っ赤になって声を荒げた。

「馬鹿おっしゃい。長女の私が甘く接したら、他に示しがつかないでしょう。そのためのあなたよ。判ったらお行きなさい」

「はい、お嬢様。失礼いたします」

 ちょっとだけ必死のお嬢様に忍び笑いを漏らして、私は一礼して部屋を辞した。





 ルイズお嬢様はヴァリエール公爵家の三女だ。御年6歳。年の割には小柄だが、小柄なだけにそれはもう人形のように可愛らしい。ちょっとだけ癖のあるストロベリーブロンドに、端正な顔立ち。何より、透き通るようなお肌が素晴らしい。
 そんなお嬢様だが、魔法がちょっと苦手だ。苦手と言うより、魔法を使うと爆発が起こると言う摩訶不思議な特技をお持ちなのだ。その爆発は結構な威力で、最初は屋内でやっていた魔法の練習を、屋外に切り替えなければいけないほどだった。その決定にはルイズお嬢様もちょっと傷つかれたようだけど、さすがにあそこまでしょっちゅう建屋が破壊されては公爵様もたまらなかったに違いない。
 国中から優れた家庭教師が呼ばれているけど、どうしても上達しないルイズお嬢様。最近はさすがにちょっとお疲れ気味で、何かにつけて癇癪を起されるようになっている。何ともお労しいことだ。

 中庭の池に行くと、小舟がゆらゆら揺れていた。
 私は杖を抜いて、静かにルーンを唱える。ふわりと飛んで、静かに小舟に降り立った。

「見つけましてよ、ルイズお嬢様」

 出来るだけ優しい声をかけると、泣き腫らした目で私を見上げるお嬢様。

「ナミ……」

「また上手くいかなかったのですか?」

 私が声をかけると、ルイズお嬢様はまたぽろぽろと泣き出した。
 泣き顔も可愛いと言うのは何ともずるいと思う。

「ねえナミ」

「はい、お嬢様」

「私、どうしてうまくいかないのかな」

「それは、わたくしには判りかねます」

 そうお応えすると、またぽろぽろ。
 これは確かにお慰めするのは大変そうだ。エレオノールお嬢様の御指示はやや強めにお慰めせよとのこと。
 良く判っていらっしゃる方だと思う。

「ですが、わたくしにも判ることはございますよ?」

「ん?」

「春は必ず来ると言うことです」

「春?」

「ええ。でも、春の前には長い冬があるのです。ルイズお嬢様にとって、今は、その冬なのだとわたくしは思います」

 私の言葉を黙って聞いていたルイズお嬢様は、しばらくすんすんと鼻を鳴らしていたが、程なく落ち着き、私に泣き止んだ顔を向けた。

「……お話、聞かせなさい」

「お話、ですか?」

「あのお話、しなさい」

「かしこまりました」

 私は笑って話し出した。
 ルイズお嬢様が、一番気に入ってらっしゃるおとぎ話。





 むかしむかし、あるところに御濠に囲まれた大きなお城がありました。
 そこの御濠に、アヒルの親子がおりました。
 雛たちは生まれたばかり。みんな黄色くて可愛らしい雛ばかりでした。
 ですが、その中に一羽だけ灰色の、すごくみにくい雛がおりました……。







「お疲れ~」

 一足先に私が部屋に戻っていると、シンシアが疲労困憊と言う顔で部屋に飛び込んできた。
 そのまま自分のベッドにダイブ。着替えてからのほうが良くない、そういうの?
 時刻は夜の9時。私たちは二人とも夜番ではないので、今日はこのまま眠れる。

「早く着替えなよ。シーツ、汚れちゃうよ」

「はあ、着替えるのも億劫だわ」

 そう言いながらテキパキとお仕着せを脱ぎ始めるシンシア。う~ん、同い年のくせに、相変わらず出るとこ出てるなあ。でも、だいぶ今日は疲れているみたい。確か浴室の徹底清掃だったっけ。高いところ専門で飛び回ったんだろうなあ。
 そんなシンシアを見ていて思い出した。

「あ、そうだ。今日実家から届いたんだ」

「何?」

 首を傾げるシンシアに、荷物の中から瓶を取り出す。

「じゃ~ん」

「うわ、うわ、すごい!」

 取り出したのは透明な液体が満ちた瓶だ。私の実家で作っている発泡酒。
 シンシアが特に好きなシャンパンだ。

「欲しい?」

「決まってんでしょ。一人で飲むなんて言わないわよね」

「ふふふ、欲しかったら三べん回ってにゃんと鳴け」

「何回だって回ってあげるわよ」

「嘘だよ。回らなくていいからグラス出して」

 そんな感じにじゃれていると、ドアが3回ノックされる。
 ドアを開けると、隣の部屋のソフィーが立っていた。私より頭一つ背が高く、妙に姿勢がいい子だ。凛とした雰囲気は何だか軍人みたいな感じで、眼光も鋭い。

「遅くにすまんな。借りた本を返しに来た」

「もう読んだんだ?」

「実に有意義な本だったので、なかなか切るところが難しくてな。一気に読んでしまったよ」

「寝不足はまずいよ?」

「そこは気力で何とかする。お、何だかいいものがあるな」

 ソフィーが目ざとくデスクの上の酒瓶を目に止める。

「ソフィーも飲む?」

 この子もこれ好きだし、声をかけようと思っていたところだからちょうどよかった。帰ってきた答えも予想通りだった。

「相伴に与れるなら幸いだ」



「行きま~す」

 栓を捻ると、小気味いい音を立ててコルクが飛んだ。シンシアが嬉しそうに拍手する。

「それにしても……」

 グラスに満ちた泡立つシャンパンを見ながら、ソフィーはしみじみと呟いた。

「本を拝読したから言う訳ではないが、ナミの祖父殿の才能には改めて驚かされるな」

「そう?」

 返してもらった本を棚にしまいながら、私は首を傾げる。本は、私のおじいちゃんが書いた経営に関する実用書だ。私が読んでもあまりよく判らないけど、ソフィーの嗜好には合ったみたい。詳しくは聞いていないけど、ソフィーの家は結構な貴族で、領地も役職も相応に持っているけど、当代に入ってから領地経営がなかなかうまくいっていないらしい。今度、思い切って干拓事業にも手を付けるとか言ってたけど、それもうまくいくかは半信半疑なんだとか。
 そんな彼女は私のおじいちゃんのことを知っていて、しばしば私におじいちゃんの話を聞きに来る。
 ゆくゆくは、自分が領地再建に乗り出すのだと口に出さないまでも全身で主張している感じだ。そのための知識の集積に、今は必死になっているのだろう。

「このシャンパンというのもそうだが、生み出した産品は実にユニークだ。どうすればこのような発想ができるのやら。興味深い」

「何だかどっかのすごい人みたいに思ってるかもしれないけど、普通の人だったよ?」

「ナミのおじいさん、もう何年?」

 至上の幸せといった顔をしてグラスに口を付けているシンシアが、我に返って話に混ざってきた。

「奉公に来た時だから、2年」

 もう2年か。月日が経つのは早いなあ。

「つくづく、惜しい方を亡くしたと思う。もう少し早くお前と縁ができていたらと思うよ」

 さも悔しそうにお酒を飲むソフィー。
 そんな風に人々に偉人みたいに言われるおじいちゃんだけど、私にはあまりピンとこない感じだ。
 年をとってもいたずらとか面白いことが大好きで、思いついたらまずやってみるという元気あふれる人だった。このシャンパンや、多くのアイディア商品を生み出して実家のお店を結構な規模まで成長させたし、慈善事業とかいろんな社会貢献でも名前を知られた人だった。でも家だとひょうきんな普通のおじいちゃんで、王都のちょっとえっちなお店に出入りして、それがばれておばあちゃんにこっぴどく怒られて泣いて謝っていたような人だった。
 孫は私だけだったけど、その分すごく私を可愛がってくれた。いろんなお話をしてくれたし、私がこの家に奉公に上がる時にも、いろいろ骨を折ってくれた。むしろ、積極的に私を公爵様のお城に行かせようとしていたような気がしないでもない。

 そんなおじいちゃんだけど、いつも言っていたのが何故かルイズお嬢様のことだった。
 何でも『ヴァリエール公爵様の三女はすごいお方になるぞ。いつか必ずこの国を救うお方になるからな』とのこと。
 まだルイズお嬢様がお生まれになる前から酔っぱらうたびにそんなことを言っていたけど、そんなルイズお嬢様は魔法についてはちょっと将来が不安な感じ。
 でも、おじいちゃんの予言って当たるんだよね。

 ……何だか私にはよく判らないや。


 そんなことを考えながら飲んでいたら、あっさりとお酒が回ってしまった。
 実は結構弱い方だったりする。
 お酒の残りをシンシアとソフィーに任せて、私は早々に布団にもぐりこんだ。
 寝つきの良さには自信がある。目を閉じれば10数えるうちに夢の世界だ。

 眠りに落ちる時の、すとんとした感覚は好きだ。



 明日もまた、一日頑張らないと。

 そんなことを思いながら、私は眠った。


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