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No.29188の一覧
[0] 【短編集】水兵服とへっぽこ竜[MNT](2013/05/21 00:02)
[1] わたしのすきなせんせい[MNT](2011/09/01 12:12)
[2] これは私のための世界[MNT](2011/09/08 14:18)
[3] ヴェルダンデくんとフレイムくん[MNT](2011/09/19 14:11)
[4] 昔語り[MNT](2011/10/11 12:54)
[5] エレオノールの憂鬱[MNT](2011/11/10 21:32)
[6] 雨の日[MNT](2011/11/22 22:23)
[7] 粉々に[MNT](2012/01/19 19:27)
[8] 帰ってきたシルフィさんとフレイムくん[MNT](2012/02/04 19:29)
[9] ロビンさんとヴェルダンデくん[MNT](2012/03/14 00:41)
[10] 奇妙な主従[MNT](2012/04/07 21:01)
[11] 変わらぬ思いで[MNT](2012/04/25 00:57)
[12] 金属最大![MNT](2012/05/11 12:48)
[13] ガリアの優しいきゅうせいしゅ[MNT](2012/05/11 13:22)
[14] 愛と勇気とつぶあんと[MNT](2012/08/04 13:56)
[15] 晴れ後曇りの日[MNT](2012/09/19 23:01)
[16] 遠くにありて[MNT](2013/03/12 23:05)
[17] 水兵服とへっぽこ竜[MNT](2013/05/21 00:03)
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[29188] ガリアの優しいきゅうせいしゅ
Name: MNT◆809690c0 ID:e3975a1c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/11 13:22

 まただ。

 ガリア王国第二王子シャルルは、軽く舌打ちをした。この間からどうも耳鳴りがするのである。最初の頃は高い虫の羽音のようなもので、気にはなるが無視できないほどではなかったのだが、今はもう……恐ろしいことだが、人の声にも聞こえてしまうのである。
 疲れているのか、と、休みを幾度が取ったが、まったく改善されることはなく、ひどくなるばかりだ。王宮の医師達にも診せたが、どこも異常はないという。その頃には、異常な耳鳴りはかなりひどくなっていて、温厚な第二王子たるシャルルも心の中で「この無能が!」と、毒づくレベルだった。

【ねー聞いてる? 聞いてる? お兄ちゃんとけんかしちゃだめだよ】

 自分は激務のせいで、頭がおかしくなったのだ。
 なんということだ。ついに空耳が男とも女ともつかない子供の声で話しかけてくるような気がするなんて。
 自室でシャルル王子は頭を抱えた。こんな姿新妻にはとても見せられない。それでなくても、最近顔色が悪いと気遣ってくるというのに。身重のあの人にこれ以上の心配はかけられなかった。

【ね、おはなししようよ! わたしお兄ちゃんいないんだ、うらやましいなあ】

「うるさいっ!!」

 思わず、疲労の極地にいたシャルルは、机を叩いて空耳たる何者かに叫んでしまった。直後、しまったと思う辺りをうかがうが、幸いなことに誰もこの異音に気付いてこちらに来る者はいないようだ。

【うわ、びっくりした! 聞こえてるんだね、やっぱり。どうしておへんじしてくれないの?】

 一度返事らしきことをしてしまったせいか、恐ろしい幻聴はとても聞きとりやすくなってしまった。本格的に頭がおかしくなってしまったのだろうか。どうやら頭の中の相手は小さな少女のようだった。名前は忘れた、どこから来たのかも忘れた、気づけばここに居た……うん、自分は病気だ。シャルルはつくづく思った。不幸中の幸いなことに、口に出さず心に思い浮かべるだけで異常な存在との会話は可能だった。

 出て行ってくれないか? という問いには、やってみたけど無理だったの一言でばっさり切られた。自分の妄想や重圧がこの存在を作りだしたとして、それが幼い少女とは、どこまで己は変態なのか……情けなさに涙すら滲みそうである。

【お兄ちゃんと仲直りしようよ!】
【別に喧嘩などしていない】
【うっそだー。いじっぱりさんだね】

 本当に、本当に喧嘩などしていない。兄ジョゼフとシャルルの間に横たわる深い暗いそれを単なる喧嘩だと名づけるには無理がありすぎた。自分が努力して努力して備えた何もかもを、少しの修練で軽々と越えていく兄。魔法の才を見せつけるようにしてもそれを褒め称えこそすれ、決して僻んだりしない兄。なのに、ひょうひょうとした顔で、王位はお前が継げばいいと……

【じゃあ、代わりに言ってきてあげる】

 シャルルは聞き捨てならないことを聞いた。いや、この場合聞いたということで合っているのかどうか、心の空耳を聞いたと誤解したというのか、もうわけがわからない。わかるのは、心労から生まれたとおぼしき子供の意識体が自分の体を自由に動かしたという事実。

【待っててねー】

 同じように同じ体にいるのに、どうやって待っていればいいのか。
 いやいや、今問題なことはそんなことではない、今現在もっとも重要なことは、よくある夜中の意識の半覚醒状態のように頭の中はぐるぐる回るのだが、意識を集中したとしても小指の一本も動かないことだ。頭中のシャルルの苦悩と七転八倒をよそに、謎の子供幽霊(とりあえず妄想では厳しいのでそういうことにした)はシャルルの体で、るんたるんたと楽しげにスキップをしながら、グラン・トロワを歩き出した。

 るんた るんた るんた

 子供が生まれようかというイイ年をした男がスキップらんらん。
 ヒドい。我ながらヒドすぎる。
 行きかう使用人や上級下級貴族軍閥官吏達の視線が痛い。やめろ、待てと絶叫するが、どこ吹く風と聞き流される。
 その共有される視界に、今一番会いたくない人間が入った。もちろんジョゼフ王子である。どことなくやる気なさそうな人を寄せ付けない雰囲気をまとったまま、長い廊下を歩いてくる。

「あっ、おにーちゃーん!」

 終わった。

 満面の笑みで、手を大きく振りながら自分の体が駆け寄っていることがわかった。わかっただけだが。それを理解し認識する思考というものが停止している。ああ、今日はいい天気だな、兄さんが持ってる本は、神学の本かな……うふふあはは

「あーそーぼーぅ!」

 だが、声をかけられたジョゼフの方も全ての動きが停止していた。皆が驚愕の目で二人を注視していることにも気づいてない。

「……シャルル……お前……何か悪いものでも食ったのか? それとも熱が?」

 違うッ! 違うんだ兄さんッ!! 長い長い沈黙の後、恐る恐るという口調でかけられた言葉に、反論したいが生憎と今のシャルルはシャルルではない。

「そんなことしないよう、遊ぼうよーお兄ちゃん」

 誰もが何事かと息を止めて、兄弟対決を眺めている。そろそろこの異常事態に医師が呼ばれていそうだ。あのジョゼフが困惑した表情を隠しもせず、周りを見る……が、誰もサッと視線を反らすさまは見事だった。ガリア宮廷の人の心は今無駄に一つになっている。自分が原因なのだが、もちろんシャルル王子としては泣きたい気分だ。

「なあ、シャルル」
「なんだいっ?!」

 やたら可愛くハキハキ答えるイイ年の父親になろうという男。ナイナイ。我ながらナイ。これは僕じゃないんだ、ごめん兄さん気付いてくれ兄さん、他のことはアレでアレだからせめて肉親の血の繋がり不思議すごいで、気づいてくれ兄さん。

「疲れてるのか……?」
「ぜんぜんっ!」
「…………」
「あっそぼー、あーそーぼー」

 今度は、るんらるんらと、兄の両手を取ってぐるぐる周りを回りだす。痛い。穴がなくても、掘ってでも入りたい。

「……あー、シャルル……お前何歳だ?」
「ろくさい!」

 驚いた。

 謎の幽霊が六歳と答えたことにも驚いたが、その後あの兄が長い間見たことがない優しい顔で「そうか……では、何をして遊ぶ?」と言ったことに。それが嘘のような厳しい第一王子の顔と声音で、「このことは他言無用」と言い放ったことに。
 また、兄と自分との彼我の力量の違い、度量の違いを見せつけられたのだが不思議といつものように心の奥底に黒い靄は生まれることはなかった。このままでは、せっかく築きあげた色々なものが「シャルル王子は心の病」の一言で瓦解しかねないというのに。

「かくれんぼ!」
「そうか、では俺が鬼をやってやろう、あまり遠くへ行くなよ」
「わかったー」

 後のことが知りたかったのだが、この存在は嬉々としながら奥に走りこんでいった。そういえば、もっとずっと昔は、こんなこともあったのに。
 どうして忘れていたのだろう。
 忘れようとしていたのだろう。

 一日中それこそ、【子供のように】二人は遊んだ。自分はともかく兄さんそれはないだろうと何度も思った。厨房で盗み食いヨクナイ。侍女の服にこっそりカエル突っ込むのヨクナイ。客間のシーツにイモムシばらまくの反則。
 同じ立場で言い合いできるたった一人の兄。兄が大好きで、大好きで、羨ましくて妬ましくて憎くて、それでも愛していた。

「お兄ちゃんはすごいねえ、何でも出来るんだねえ。頭もいいし、いろんなことよく知ってるし」
「何を言う、お前の方がすごいだろう。俺は無能だ、魔法の才はお前がずっと上だ」
「うん、それだけは自慢できるんだよ、すごいよ、だからお兄ちゃんもっと褒めて褒めていっぱい褒めて」
「え……あ……そうか? す、すごいぞーすごいなーしゃるるー」

 まさかそう切り返されるとは思っていなかっただろう、兄の困惑した顔と完全棒読み。

「心がこもってない!」
「よ、よし、わかった。すごいぞシャルル、さすが俺の弟だ、この年で王家といってもスクウェアとか本当にすごい、しかも学問にも優れ……まあ、俺には負けるがな、武芸もイケて、当然俺の方が上手だけどな……チェスだって俺とはれる力量があるぞ、もちろん俺が全勝だがな……国民にもお前の方が大人気だ、だが俺が本気になれば、いいところまで行くと思うんだ……」
「なんか褒められてる気分にならない」
「いやいや、本気で褒めているぞ」

 笑いでごまかしつつも漏れ出る本音。ごまかし続きでまっすぐに飛び込んではこなかった兄の本音を、ただシャルルは聞いた。自分が兄に気が狂いそうなほど嫉妬していたと同じように、兄もまた自分を羨んでいたのだと。あの幽霊がいなければ、気づかないまま二人の間の亀裂は深まり、取り返しのつかないことをしてしまっていただろう。
 未だに何者なのかはわからないが、もしかしたら始祖ブリミルの使いなのかもしれない。

「なあ、シャルル……こんなになるまで、辛いことがあるのならもっと俺に何でも言っていいんだぞ? ガリアの王子は一人じゃない、二人なんだ。魔法も使えん頼りない兄かもしれんが、悩みの相談くらいのらせてくれ」

 やはり心労でおかしくなったという認識なのか。変な幽霊に体を乗っ取られたなどと誰しも理解の範疇外だろうからしょうがない。裏の裏までかく兄にもわからないことは多いのだと思うと少しおかしかった。もしかしたら、心労で本当におかしくなっている自分かもしれないが、そんなことはどうでもいい。

【もうだいじょうぶ、だよね】
【君はいったい何だったんだ、やはり幽霊なのか? ガリア王家の】
【思い出したの、わたしは、タバサ】

 聞いたことがない。そんな犬猫につけるような名前の王族が居ただろうか。

【シャルロットとお母さんにいっぱい愛してもらったタバサ】

 生まれるのが娘ならばシャルロットとつけようと思っていたのは事実だが、タバサという名にはまったく心当たりがない。謎を深めてしまうシャルルの意識を置いて、タバサの声はあっという間に遠くなっていった。





 月日は過ぎ、ガリア王宮は王子暗殺やらそんなきな臭いこともなく、ジョゼフは順当に王位を継ぎ、その場で伝説の虚無の系統とわかった。それに関して、兄さんの方が魔法の才まで上になったヒドい、陰険悪辣のくせに、と言いたいことを言う弟の姿がある。兄だから当然だ、一生お前は追いつけないのだ、はっはっは、と言い切る王の姿とあいまって、完全なる仲よし兄弟である。

 結局最後まで[タバサ]の正体は分からずじまいだった。
 6才の時に誕生日の贈り物として、娘に与えた人形に何も知らない夫人が、タバサと名付けたくらいである。瞳に使われている宝石が実にいわくありげだとか、髪が実は人毛でとか、内部に怪しげな魔法陣が……ということもなく。いたって普通の人形……のはずだ。
 一度二人きり? の時に片目をつぶってみせた……よな気がしたのは気がしただけなのだ。

 真実は誰も知らない。ただ、あれはガリアの救世主だったのだと、王弟は今ではこっそり思っている。





チラ裏投稿時の感想と感想返しです。

[1]因果丸◆f9e79432 ID: 4790c705
ガリア兄弟好きの自分には俺得な逸品です。
こういう幸せ話大好きです。

ジョゼフの心情も行間で感じられる間の取り方もよかったですし、
着地点もきれいで読後感もいいですね

[2]雪印◆3061bb15 ID: 4004402a
暗殺フラグへし折るだけで原作の影響力パネェ
壊れてないなら奥さん次第でシェフィールドとの間にも子供生まれそうなんだぜ。

[3]ところ◆3ac64e67 ID: 562fe7f1
心が暖かくなりました

[4]ななん◆e4ce5ba5 ID: b2ac9a7a
心暖まりますな~。しかし、付喪神だとすると、6千年以上前からある始祖の秘法なんて、長い間誰も正しく認識できないからやさぐれていそうですね。

[5]土蜘蛛◆0f9e44ae ID: 910f18a2
あー、久々にまともな補完系if二次見た気がするな。
嫌などんでん返しもなく、ほっとした。ありがとう
ガリア兄弟の悲劇がないだけでも、あの世界がかなり
平和になる事を再認識した。後はアルビオン兄弟かなぁ

MNT
感想ありがとうございます。

悲劇回避。あっけにとられる青ヒゲが書きたくて書いた。
「タバサ」の正体は、あえてイメージしないで書きましたが、才人は付喪神とか言うかもしれません。インテリジェンスソード的意味でデルフの仲間とか。
でも、これじゃあ虚無パワーが溜まりそうにないですね……


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