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No.27313の一覧
[0] 【チラシの裏より】 ぜろろ (ゼロの使い魔×PS2ソフトどろろ)[たまご](2011/04/29 23:31)
[1] 第二話 地獄堂[たまご](2011/04/20 14:53)
[2] 第三話 地獄堂と百鬼丸[たまご](2011/04/20 14:54)
[3] 第四話 談話一[たまご](2011/04/20 14:55)
[4] 第五話 談話 二[たまご](2011/04/20 15:03)
[5] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール[たまご](2011/04/20 15:21)
[6] 第七話 遊び[たまご](2011/04/21 01:04)
[7] 第八話 部屋[たまご](2011/04/21 01:17)
[8] 第九話 会談[たまご](2011/04/22 23:10)
[9] 第十話 決闘[たまご](2011/04/25 20:40)
[10] 第十一話 露見[たまご](2011/04/25 20:54)
[11] 第十二話 困惑[たまご](2011/04/28 23:03)
[12] 第十三話 気配[たまご](2011/04/29 19:34)
[13] 第十四話 わらうつき[たまご](2011/04/29 19:29)
[14] 第十五話 悲鳴[たまご](2011/04/29 19:36)
[15] 第十六話 棘[たまご](2011/04/29 19:54)
[16] 第十七話 捜索[たまご](2011/04/29 20:02)
[17] 第十八話 魔神戦[たまご](2011/04/29 20:17)
[18] 第十九話 ようこそ、ここへ[たまご](2011/04/29 20:43)
[19] 第二十話 幕間 その一  ~人知れぬ涙~[たまご](2011/04/29 21:58)
[20] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等[たまご](2011/04/29 21:57)
[21] 第二十二話 幕間その三 因果[たまご](2011/04/29 23:02)
[22] 第二十三話 妖刀[たまご](2011/05/14 04:44)
[23] 第二十四話 日常[たまご](2011/05/06 18:53)
[24] 第二十五話 デルフリンガー[たまご](2016/06/29 00:38)
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[27313] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
Name: たまご◆9e78f565 ID:598d56d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/20 15:21



ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステイン国立魔法学院の女生徒である。彼女は苦悩していた。

『ゼロのルイズ』、それが彼女のあだ名だ。

トリステイン王国に、いや、ハルケギニア全土に、混沌を解き放ちかねない結果となった、使い魔召喚の儀、そこで魔神達と百鬼丸を召喚してしまった生徒こそ、彼女であった。

ゼロのルイズ

彼女は、召喚の儀において、恐ろしさの余り、全てを見届けず、気を失ってしまったため、あの後何が起こったか分からなかった。もっとも事態を把握していないのは彼女のみではない。周りの人間も、殆どの者が前後不覚に陥ってしまっていた。コルベールから生徒の保護を引き継いだ教師達は、情報をかき集めようとするも、どうにも要領を得ない。今のところ事態を把握しているのは、百鬼丸とコルベールの二人のみ。

彼女は気が付くと、自分の部屋に独り寝かされていた。誰が運んでくれたのであろうか。ベッドの横に備えられた簡素な机には一つの置手紙。署名がある、どうやら教師の一人だ。内容には本日の騒動について。

原因、被害、調査中なれど、確認される人的被害無し、学友危ぶむ無かれ。貴姉、昏倒せり、よって勝手ながら介抱し、部屋へ連れた次第。

ぼんやりとした頭で手紙を読み、少しずつ意識を取り戻していった。怪我人もおらず、自分が生きていることを考えれば、よく分からないが、丸く収まったと解釈してよいのだろうか。仔細についてはいずれ教師から説明がなされるであろう。

はっと何かを思い出したかのように、ルイズは部屋中を、そして窓の外を見回す。召喚の儀を行った広場を遠目に見るも、なにやら少しばかり、人だかりが出来ているのは見えるが、人のほかには何もいない。何も、そう、己の使い魔となるような存在は何処にもいない。

肩を落とす。一体何を期待していたのか。自分は所詮『ゼロ』なのだ。
涙が溢れ出した。だが声を上げたりは決してしない。
自分は負けない。何があっても挫けてはならない。誇り高き貴族なのだ。泣き喚くなんて見っとも無いまねが出来るものか。
自分にそう言い聞かせたが、ぼろぼろと、溢れる涙を留める術がなかった。

彼女は魔法を使えない。正確には、魔法を行使しようとすると、爆発が起こる。理由は分からない。そのため、心無い者は、彼女を、『ゼロのルイズ』のあだ名で呼ぶ。二つ名ではない。『ゼロ』とは『零』のこと。この、魔法を扱いきれない、メイジとして何も持たない彼女を、嘲笑と侮蔑を込めて、そう呼んだ。

二つ名、とはメイジを表す、敬称のようなもの。コルベールを例に取ろう。彼の二つ名は『炎蛇』、『炎蛇コルベール』である。コルベールは、炎を自在に操り、その炎は、敵を逃すことなく追い、絡みつき、飲み込む。正に蛇の如きその業に、尊敬と畏怖を込めてつけられた二つ名が、『炎蛇』である。
他にも例を挙げると、怒涛の如き水の使い手ならば『瀑布の何某』、大空を巻き込む風の使い手ならば『天つ風の何某』、砂や石、岩を以って、相手を砕く土の使い手ならば『砂礫の何某』といった具合である。故に『ゼロのルイズ』は二つ名ではない。

さて今は、『ゼロのルイズ』の話だ。彼女は、今日の使い魔召喚の儀に、淡い期待を抱いて臨んだ。例え魔法を使えずとも、今日の儀式に成功しさえすれば、使い魔を得さえすれば、そしてそれがより強ければ、より美しければ、彼女はメイジであれたのだ。未だに碌な魔法一つ使えたことの無い、己の可能性を信じることが出来たのだ。だが結果はどうだろう。
皮肉なことに、使い魔を得るための、メイジとしてかけがえの無い存在を得るための儀式は、彼女から、メイジとしての全てを奪う結果となった。

何が始祖だ。一度も助けてくれやしない。

ひとしきり泣いたあと、泣き腫らした目を擦りながらまた、ふと思いついた。己の処遇である。通常、使い魔の儀に臨み、使い魔を得られなかったという例は無い。そもそもメイジである貴族が魔法を使えないということが、想定される筈も無いのだ。自然、その場合どうなるかという前例も、決まりも無い。だが少なくともこのまま進級する、ということは無いだろう。大きな可能性としては留年、最悪は退学だ。教師に言われたことはないが、彼女を嘲笑する連中は常に、そんな言葉を彼女に浴びせかけていた。だが、考えてみればもっともな話だ。メイジでないものが、魔法を教えるこの学び舎に、いられようものか。

己の可能性を全て否定されたルイズにとって、今までは一笑に付した学友の何気ない愚弄の言葉が現実感を帯びたものとなった。また愕然とした。

退学になれば彼女の家族は彼女にどう接するだろう。慰めてくれるだろうか、腫れ物を触るような扱いをするだろうか、それとも魔法を使えぬものは貴族に有らず、と縁を切るのだろうか。そうだ、魔法を使えない貴族など、貴族でない。泥沼に落ちていく彼女の思考は、碌な結果を予想しなかった。

私は貴族なんかじゃない。

トリステインにおいて、貴族は、魔法を以って、平民、魔法を使えぬ者達の生活に貢献する、彼らを守る。そうする事で、平民の上に君臨し、彼らを支配することが出来る、という考え方がある。悪循環に陥り、自虐的になったルイズの出した結論も、故に、あながち的外れとは言い切れない。もっとも、今述べた貴族と平民の関係、これは理想論も多分に含んでおり、現実は、魔法を使える貴族が、平民を力でねじ伏せ、彼らを軽んじ、横暴な振る舞いをしている、という場合がほとんどなのだが、箱入りの、貴族の娘であるルイズはそんなことは知らないし、彼女は厳しく育てられた。先の理想論を、理想論で済ます気など無い。

どうしようもなく落ち込んだ。周りにある全てから逃げ出したい、そんな気持ちで、もうここにはいられない気がして、部屋を出た。
行く当ても無く歩き回る。この魔法学院から出たところで、何が変わるわけでもない。だが、じっとしていられないと、とにかく歩いた。

しばらく歩いた、と言ってもルイズに意識はない。それが十分なのか一時間なのかさえ分からなかったが、ふと、目の前に怪しい男がいるのを見つけた。怪しいというのは身なりのこと。見たこともない服を着ている。髪は真っ黒。腰に差している細長いものは、杖だろうか。ドアの前でなにやら悩んでいる。泥棒、ではないだろう。メイジだらけのこの学院に、日も暮れぬ内に忍び込もうなどと、正気の沙汰ではない。姿もみすぼらしいし、杖を持とうとも、間違いなく貴族の格好ではない。貴族崩れの、伊達者のメイジの傭兵、あるいは遠い異国の旅のメイジという辺りだろうか。そう考えると、男の、野性味溢れるような、いささか逞しい姿に、納得が行った。

男はどうやら部屋に入ろうとしているが、入れない、といった具合だ。初めは、誰かに会いに来て、しかし、何か入りづらい理由があるのか、などと思ったが、すこし様子がおかしい。

男は扉の端に手を掛け、引っ張った。その後、うんうんと唸り首を捻り、扉の表面を撫で始め、何か見つけたとばかりに、今度はノッカーを引っ張っている。また、悩んでいる。まさか扉の開け方を知らないなんて事も無かろうに。いや、男の様子を見る限りでは、どうやら正解の気がする。一体どこの田舎から来たのだろうか。年頃の、逞しい大の男が、扉を前に四苦八苦している。呆れると共に、滑稽劇を見ているかのような感覚に、少しばかりの面白みを感じ、暗く沈んだ一連の煩悶も忘れ、ルイズは男に声を掛けた。



「なにやってんのよ、あんた」

ルイズは、変わった服を着た黒髪の男に声を掛けた。

びくりと男の肩が揺れた。恐る恐るというか、まずいものを見られたというか、恥ずかしそうに、男はゆっくりとルイズの方へ顔を向けた。件の百鬼丸である。初めての対面であった。

「これ、どうやって中に入るんだ?」

呆れた。本当にドアの開け方も知らないなんて。

「あんたねぇ、一体どこの田舎から来たのよ。」

男は少し恥ずかしそうに、だが憮然とした表情を取り繕おうとしたのか、む、と唸る。
ゆっくりと歩み寄り、ルイズは、男とドアの間に体を滑り込ませ、少し手を上に伸ばし、まずはノッカーをつかみ軽く二度、ノックをする。返事が無いのをいぶかしみながらも、

「これはこうやって使うの。突然入ったら、中にいる人が驚くでしょう?」

物を知った子供が、知らない子供に自慢するように、得意げに諭した。だが厭らしさは無い。彼女の背は低く、ノッカーに手を伸ばす姿がまた、子供のようで微笑ましい。

ルイズが背を向け、目の前に立った時に、百鬼丸は彼女のその体格を認めた。小さい。加えて、百鬼丸は、割と長身であったため、なお小さく感じた。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは背が低い。年の割にはという言葉が付くが。年は十六、背は150サントを僅かに越えるのみ。体つきも、全体的に細い。ついでに言えば、女性として本来膨らんでいる筈の部分も、小さい。こちらは年の割には、という言葉は必要ないだろう。かなり、気にしていた。

髪は腰の辺りまで伸びており、ゆるく波打っている。桃色と金色が混ざっており、陽の光を受ければ、その、波打ち、浮いた部分がきらきらと淡く輝き、美しい光を放つのが、数少ない彼女の自慢の一つだ。母に似た。また、彼女の慕う、姉の一人も同じ色をしている。小さい頃は、父がその髪を美しいとよく誉め頭を撫でてくれたが、ルイズはそれが大好きだった。

顔も体と同様小さく、少し丸いが、小柄な体と完全に調和が取れている。少し膨らんだ白い頬には、常に薄い朱が差しており、目はつぶらで、瞳が大きく、こちらも桃色だ。その上に添えられたような細い眉が、一層大きな瞳を強調している。薄く、小さな唇の上に、小振りな鼻が、ぽつんと顔の中央に添えられており、顔を構成する全てが慎ましくも、そこにあることを主張していた。幼い、という言葉が的確かもしれない。

今は、学院の制服に身を包んでいる。黒の短いスカートに、真っ白なシャツと、ひざの辺りまである真っ黒なマントを、胸の少し上で留め、羽織っている。足元はこれもまた、真っ黒な靴と、同じ色の、太もも辺りまでの、長い靴下であった。服に隠れていない、所々に見える肌は、熟しきらない果実のようで、光を受けた部分は、黒い装いとあいまって、ほのかに赤みを帯び、淡く浮き出ている。色気、という意味ではなく単純に、その身の織り成す色が、実に鮮やかな少女であった。もっとも事、色彩に関しては、百鬼丸には分からない話ではある。

ルイズは振り返り、目を合わせようと男の顔を見た。少し見上げる形になる。なるほど、とノッカーを見て頷く百鬼丸を見ると、また少し面白い物を見たような気がして、軽く微笑んだ。ドアノブに手を掛けた。男を警戒する心は既に無い。育ちの問題も有るのだろうが、こんな間の抜けた人物が危険だとは、どうしても思えなかった。

「このドアノブ、って言うの。これを右側に回すと開くのよ。」

少しずつ、男の相手をすることが面白くなってきた。先ほどまでの暗い気持ちは忘れて話しかける。
扉を開いた、がそこには誰もいなかった。部屋は綺麗に片付けられており、ベッドに敷かれたシーツには皺の跡さえない。どうやら、しばらく誰も使っていないようだ。

「変ねぇ」

首を傾げて、部屋の主を確認するため、男に声を掛けようと振り向く。男はまだ部屋に入っておらず、入り口に、いや、ドアに向かって何やら探っている。左手でドアノブを掴み、右手で、ドアの横、止め具の部分を触りながら、ガチャガチャと何度もドアノブを回している。ドアの横からぴょこぴょこ顔を出す金具を指で押さえていた。今度は右手を、その金具が嵌る部分に沿え、内側をなぞるように撫でる。形を確かめているのであろう。終わったかと思いきや、ドアを開けたまま、部屋を出て行く。
どうしたのだろう。
ルイズが彼を追いかけようと廊下へ出ると、彼の目線辺りにある蝶番の部分を指で撫でていた。今度はしゃがみ、下の蝶番へ。

「なにやってんのよ、あんた……」

本日二度目だ。今度は笑いながら。
扉を弄ることに夢中になっていた男は、声を掛けられたことに気付き、はっと振り向くと、また恥ずかしそうにしながらも、真面目な顔でこう言った。

「これ、誰が考えたんだ?」

面白い男だ。本当に面白い。
肩が小刻みに揺れだした。いけない。我慢したが、すぐに限界が来た。

「くっふっあはっ、あはははは、あははははははっ」

意思の抵抗も虚しく、ルイズの体は、ついに声を上げて笑い出してしまった。
別に馬鹿にしているわけではない。

「仕方ないだろ。俺の国にはこんなもの無かったんだ。」

またもや、憮然とした表情を作ろうとしているのがわかる恥ずかしそうな面持ちで男はそっぽを向いた。男も、少女の笑い声に、嘲りの色が無い事を感じているのだろう、不快感は見受けられない。

少し、可愛いかもしれない、とルイズは思った。もっとも、大の男に向かって可愛いなどと面と向かって口に出しても喜ぶはずは無い。ましてや、自分達は初対面だ。そう口に出せばきっと、先の子供のような表情を、また作るのだろう。

今度は頬を膨らませるんじゃないかしら。ああ、可笑しいわ。

最早、先ほどまでの苦悩は完全に忘れてしまっていた。
やっと笑い声が収まってきた。
漏れた空気を戻そうと、大きく息を吸い、

「はぁぁ、本当に、あんたどこからきたの?」

少し涙混じりの目で、笑いかける。男の顔を覗きながら尋ねた。

「ずっと遠いところだ。ここからじゃ何処にあるかもわからん」

そっぽを向いたままだ。まだ照れているらしい。

「何それ?じゃあ、どうやってきたの?」
「つれてこられた。気が付いたらここにいたんだ」

真面目な顔で、そう答えた。誰にだろう。

男の引き締まった表情が、先ほどの仕草と対極的で、その精悍な顔立ちを見れば見るほど、あの子供っぽい振る舞いが思い出される。ませた子供が精一杯背伸びをし、大人の表情を繕っているようにルイズには思え、また息が少しずつ漏れ始める。

ルイズは再び、大きな声で笑い出した。
しばらく笑っていると、今度は男が、笑い続ける彼女に少し呆れたかのように、盛大に溜め息をついた。

あら、今のは可愛くないわ。

「もう、呆れないでよ」

今度はルイズが、子供のように、膨れっ面をした。

「そりゃあ、俺は確かに田舎者だが、何でそんなに笑うんだ。」
「だってあなた、本当に面白いんだもの」

自覚があるのだろう。男は頬を右手で掻いた。
そういえば、とルイズは思い出したかのように、実際思い出したのだが、男に尋ねた。

「で、一体誰に会いに来たの?この部屋、長いこと使われてないみたいだけど。」
「会いに来た?誰が?」

何処までもとぼけた男だ。今度は少し不機嫌そうに、ルイズは言う。

「だってあなた、誰かに会いに来たんじゃないの。でもこの部屋、見た感じじゃしばらく使われてないみたいだから、部屋を間違えたんじゃないかしら」

百鬼丸の身なりは、余りにみすぼらしい。彼がこの部屋に泊まる、という可能性には、ルイズは気付かなかったのだ。

「あぁ、そういうことか、俺はここに泊まるように案内されたんだ。コルベールさんって知ってるか?」

彼女の予想とは少し違ったようだ。よく分からないが、なんだか少し残念だった。

「コルベール先生?そう、あなた先生のお客さんなのね。道理で」

変わってるのね。そう続けようとした。だが、そこまで言って、ルイズはふと考えた。もしかして、自分はとんでもなく無礼な事をしたのではなかろうか。異国の人間であるという事は既に確定している。本人がそう言った。そして、よくよく見ると、逞しい体躯に見合った、只ならぬ存在感がある。下手をすれば、コルベール個人でなく、学院の来賓という可能性もある。この男の気を損ねれば、何らかの処罰を受けるかもしれない。

頭の中で滝のように、思考が流れ出す。そこで処罰という事に思い至り、そこから男と会うまでの煩悶を連想してしまった。そうだ、どんな罰を受けても、怖いことなど、もう何も、無い。失うものは既に今日、全て失ったのだ。だが、開き直ることなどできようものか。有るのはただ、喪失感と自己卑下のみ。嘲笑の的、出来損ないの貴族気取りが、異国の民の戸惑う様を笑うなど、おこがましいにも程がある。自然俯く。

突然暗い空気を纏い始めた少女に、百鬼丸は戸惑った。

「どうしたんだ?俺が何かまずいことでも言ったか?」

今の今まで楽しそうに話していた少女が、突然纏った暗い雰囲気に、どう対処すればよいか、百鬼丸には分からなかった。人を慰めた経験など無い。

「その、ごめんなさい、あたし、初めて会ったあなたを笑うだなんて」
「別に気にしてない。それより、一体どうしたんだ?さっきまであんなに笑ってたのに」
「あたし、他人を笑う資格なんて無いの。出来損ないなのよ」

貴族であって貴族でない、出来損ないの落ちこぼれ。『ゼロのルイズ』なんて、巧いたとえではないか。なにか言葉を発するたびに、自分の言葉が自分を傷つけていく悪循環に、彼女は陥ろうとしていた。

「そうか。じゃあ、俺と同じだな。俺も出来損ないなんだよ。だからいいじゃないか、笑ったって」

見上げれば、男はそっぽを向いている。

「えっと、もしかして、慰めてくれてるの?」
「別にそう言う訳じゃない」

少し、暗い気持ちが晴れた。それで現状が変わるわけではないが、ちょっとでも明るい気持ちでられる方が良い。少しずつ笑顔が戻ってきた。今度はその笑顔が、何かを企んで、笑っている顔になる。
照れているのであろう、男が顔を向けている方へ回り込もうと、体を傾け、男の顔を下から覗きこんだ。

「ねぇ、もしかして、照れてるの?」

少しだけ、意地悪く聞くと、男はなんだか悔しそうに唸った。

「ふふ、でも……ありがと」

ふん、と男は鼻を鳴らし、また、ルイズの回り込んだ方と反対側へ首を向けた。
ありがとう、と言ったのは、彼女の本心からだった。この学院には、彼女を馬鹿にする者はいても、彼女を慰めてくれる存在は余りいない。教師達は、いつか努力は実る、と口々に言うが、そんなものは半ば定型句でしかない。心から自分を思ってくれる言葉にはとても聞こえなかった。もっとも心から励まそうとしても、そういった方面では余り口の巧くない人間もいるのだが、それに気付くには、ルイズの心には余裕が無かったし、彼女は言葉の裏を読む事には長けていない。十六とはいえ、まだまだ子供なのだ。

ルイズの方でも少し照れくさくなり、強引にではあるが、話を戻した。

「そうよ、ねぇ、あそこのドアの他にも色んな物があるのよ。なにか面白そうなもの無いかしら」

そう言って、男と目を合わせぬ為に、部屋の中をきょろきょろと見回した。
気を使ってくれているのもあるのだろうが、興味も俄然あるようで、男はすぐに食いついてきた。

それからは少し賑やかに騒いだ。あれは何だと百鬼丸が問えば、得意げにルイズは受け答えする。どんな仕組みかと物を弄る百鬼丸を見て、ルイズはけらけらと笑う。そんなことをしばらく繰り返した。
ルイズとしては、最も面白かったのは、部屋の明かりを突然消した時の事だ。指を弾き、軽く音を鳴らすと、これは魔法によってそう仕組まれているのだが、部屋の明かりがふっと消える。何事かと騒ぐ百鬼丸の驚き様と、警戒のし様に、ルイズは今日で、いや、ここ数ヶ月で一番声を出して笑い転げた。もっともその後、少しだけ本気で怒られたのだが。百鬼丸としては、常に妖怪を相手に戦い続けてきたのだから無理も無い。

しばらくそんな事を繰り返していると、ドアを叩く音が聞こえた。
コンコンと小気味のよい音を立てる。
ちなみに今は、ベッドの天蓋について説明していたところだった。室内で、二人そろって上を見上げている光景は、少し滑稽だ。

「なんだ?」

百鬼丸が、不思議そうな顔をした。妖気は感じない。

「ほら、さっき教えた、ノッカーよ。あなたに用事があるって人が来てるのよ」

そうルイズが教えてやると、百鬼丸は、思い出したと言う顔で頷いた。
ルイズの方に顔だけ向けて聞いた。

「こういう時はどうしたらいいんだ?」
「どうぞ、っていうの。ほら、言ってみて。」

楽しそうにルイズは、百鬼丸の顔を見て、そう促した。

「ど、どうぞ」

どもった上に、声が上擦っている。ルイズはまた、声を出して笑い転げた。



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