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No.27313の一覧
[0] 【チラシの裏より】 ぜろろ (ゼロの使い魔×PS2ソフトどろろ)[たまご](2011/04/29 23:31)
[1] 第二話 地獄堂[たまご](2011/04/20 14:53)
[2] 第三話 地獄堂と百鬼丸[たまご](2011/04/20 14:54)
[3] 第四話 談話一[たまご](2011/04/20 14:55)
[4] 第五話 談話 二[たまご](2011/04/20 15:03)
[5] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール[たまご](2011/04/20 15:21)
[6] 第七話 遊び[たまご](2011/04/21 01:04)
[7] 第八話 部屋[たまご](2011/04/21 01:17)
[8] 第九話 会談[たまご](2011/04/22 23:10)
[9] 第十話 決闘[たまご](2011/04/25 20:40)
[10] 第十一話 露見[たまご](2011/04/25 20:54)
[11] 第十二話 困惑[たまご](2011/04/28 23:03)
[12] 第十三話 気配[たまご](2011/04/29 19:34)
[13] 第十四話 わらうつき[たまご](2011/04/29 19:29)
[14] 第十五話 悲鳴[たまご](2011/04/29 19:36)
[15] 第十六話 棘[たまご](2011/04/29 19:54)
[16] 第十七話 捜索[たまご](2011/04/29 20:02)
[17] 第十八話 魔神戦[たまご](2011/04/29 20:17)
[18] 第十九話 ようこそ、ここへ[たまご](2011/04/29 20:43)
[19] 第二十話 幕間 その一  ~人知れぬ涙~[たまご](2011/04/29 21:58)
[20] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等[たまご](2011/04/29 21:57)
[21] 第二十二話 幕間その三 因果[たまご](2011/04/29 23:02)
[22] 第二十三話 妖刀[たまご](2011/05/14 04:44)
[23] 第二十四話 日常[たまご](2011/05/06 18:53)
[24] 第二十五話 デルフリンガー[たまご](2016/06/29 00:38)
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[27313] 第五話 談話 二
Name: たまご◆9e78f565 ID:598d56d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/20 15:03


ドアを軽く叩く音がして、メイドがワゴンを押しながら入ってきた。
先ほどの、黒髪のメイドである。髪は肩口の辺りで綺麗に切りそろえられ、整っている。そばかすが、白い肌の上にうっすら見えるため、どこと無く垢抜けない印象を与える。目は星目がちで、幼さのまだ残る、年は十五,六と言ったところか。女中にしては飾り気の多い服が、年頃のまだ少し幼さを含む可憐さと、成熟せんとする女性の魅力を上手く混ぜ、引き出していた。
ソーサーを並べ、ティーカップを置き、紅茶を注ぐ。一つ一つの動作が洗練され、動く様が美しい。

「おぉ、来ましたな。」

コルベールは、心底気疲れしていた。百鬼丸という人間がどうにも分からない。普通に話している分には落ち着きもあり、理解力もある。話を進めやすい。
しかし、ふとしたときに見せる表情は、実に対照的だ。野蛮で獰猛、胸の裡に渦巻く感情を野放しにしている。張り詰めた糸は緩むことなく、張り詰めたまま表れ、隠れていく。
恐らく、彼が魔神と呼ぶあの化け物との因縁になにかあるのは間違いない。しかし、そこへ踏み入るのは、まだ時間が要るだろう。

そんな綱渡りのような気分を味わった会話の中、春の柔らかな日差しのようなこのメイドがやってきて、少しばかりコルベールの疲れを癒した。
自分が頼んだものではあるが、紅茶にケーキも持ってきてくれている。今の擦り切れた神経には、たいそう効くであろう。

「すこし疲れましたな。もう年でしてね。申し訳ないが少し休憩と参りましょうか」

百鬼丸は休憩の提案になんでもないように頷いた。恐らくだが、全て彼の中では繋がっている。
勘だ。そして間違いない。





紅茶を入れ、小振りなチーズケーキを用意したテーブルの上の皿におくと、メイドは静かに下がり、ドアの横に控えた。
二人の座っているソファーの間には大きなテーブル。そのテーブルを横から覗く形で、少し離れた位置にドアがあるため、メイドは自然、コルベール、百鬼丸二人を視界に入れることになる。

「そういえば百鬼丸さんは紅茶はご存知ですかな?」

ゆっくりと、紅茶を一口含んだのち、コルベールは尋ねた。

「いや、初めてだな。俺の国にも茶はあるが、色は緑だ」

緑がどんな色かは知らない。
メイドが少し、不思議そうな顔で、百鬼丸を見た。コルベールは、ほう、と呟く。

「さようですか。摘んだものをそのまま使うのでしょうか。あるいは何か手を加えるのでしょうか。一度飲んで見たいものですな」

紅茶に手をつけた百鬼丸に、味はどうかと尋ねてくるが、うまい、と簡潔な一言済ませる。味など感じない。せめて相手を不快にさせないようにと、いつもこの一言で済ませている。がコルベールはもう少し違った反応を期待していたのであろう。少し不満気だ。

「私、一つ推論を立てております。あなたの国についてです」
「心当たりがあるのか?」

これには素直に驚いた。

「いえ、心当たりというほどのものでは。このハルケギニアのはるか東、エルフの住む砂漠の東、われわれが聖地と呼ぶ場所があります。まぁ、聖地についてはいずれ話しましょう。エルフも御存知ない?さようで、それもいずれ。さて、その聖地から更に東に、ロバ・アル・カリイエという、我々からすれば未開の地です。東方の世界。そここそあなたの国のある場所なのでは?」
「わからんな。でも、俺の国から、西へ海をはるか越えた場所に『明 ミン』という大きな国があるんだ。そこをさらに西に行くと大きな砂漠があるらしい。聞いた話だからはっきりとは知らないんだが、その砂漠はとても大きいらしい。けど商人達は珍しいものを仕入れるために、命がけで砂漠を越え、西へと向かうんだとか。その西の果てが、もしもここなら、あんたの言う通りなんだろうな」
「おぉ、やはりそうでしたか。東方からこられた方ではないかと思っていたのです。もっとも根拠は薄いのですが、今の話で少しばかり自信がもてましたぞ」

どうやら一度興味を持てば夢中になりやすいらしい。

「それで東方にはどのようなものがあるのでしょうか?なんでもこのハルケギニアよりも数段進歩した技術があると聞きますっ。ぜひとも、お話をお聞かせ願えませんかっ」

椅子から起き上がり、テーブル越しに手を突いて、詰め寄るコルベールを、百鬼丸は手で制し、慌てて答えた。

「ちょっと待ってくれ、そんなに大した物はないよ。この建物や椅子から考えると、この国の方が進歩してるぞ。あんたの言う東方ってのとは違うとこなんじゃないか?」

この建物、見渡すことはできないが、歩いた感覚では、とてつもなく大きい事が分かる。大きさの理由には、土地の問題など、技術力ではない部分も大いにあるのだが、それにしてもここまで大きなものを、自分は知らない。

椅子、ソファーのことである。こんな柔らかく、大きな椅子も聞いたことはない。恥ずかしい話、百鬼丸は部屋に入ったとき、どこに座ればよいか迷っていたのだ。
もちろんそんな事は言わない。

そうですか、と余程興味があるのだろう、コルベールは肩を落とした。

「まあ、今日の目的は現状の把握ですからな、ですがいずれあなたの国のことも教えて下さい。興味があります」

ソファーにしずしずと座り直し、そういえば、と、

「そちらのメイド、シエスタと申します。シエスタさん?」

首を少女に向けコルベールは優しく促した。
突然話を振られた、シエスタと呼ばれた少女は、慌てて百鬼丸にお辞儀する。

「当学院で奉仕させていただいております、シエスタと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

相変わらず、動作の一つ一つが落ち着いており、品がある。実に様になっている
シエスタの自己紹介に満足した様子で、コルベールは話を続けた。

「彼女の髪の色をご覧ください。あなたと同じで黒いでしょう。もっとも、百鬼丸さんの髪の方が黒いですが、この色、この辺では珍しいものです。ひょっとしたら彼女、はるか昔に、あなたの国から、何らかの事情で流れてきたものの子孫なのかも知れませんな」

先ほどの、現状把握うんぬんの話もどこへやら、コルベールはどうやら、目的そっちのけで興に乗ってきたようだった。初対面の百鬼丸では正直手がつけられない。

「どうです、顔つきなど、あなたの国の方と似ていたりなどは……」

メイドは少し困ったように百鬼丸を見つめ、照れたように頬を染め、微笑んだ。
百鬼丸、雰囲気は凛々しく、勇ましい。顔立ちも整っている。

コルベールが己の知的好奇心を満たさんと、また見合いを勧める身内のような、よく分からない世話心とを出し、余りに驀進する。これは一度鎮める必要がありそうだ。

「勘弁してくれ、悪いが俺は目が見えないんだ」

部屋の空気が凍りついた。

百鬼丸の体は、そのほとんどが作り物である。この体を人々は恐れ、嫌った。百鬼丸は自分の体のことを、他人に隠すようになる。だが、このコルベールという男、この短時間で百鬼丸は、彼に好意を抱くとともに、女中へのわけ隔てない態度から、容易く他人を傷つける人間ではないと感じた。
今まででは考えられないような小さな悪戯心と、そして彼自身にもよく分からない、淡い期待があってのことだが、つい口が滑りすぎたかもしれない。

百鬼丸は冷や汗を流した。
まぁ、聞きたいことは聞いたし、用は既に無いといえば無い。
気味悪がられりゃ逃げるか。

ぶつぶつと独り言ちる。
完全に凍りついたコルベールとシエスタを前に、百鬼丸は途方に暮れていた。





なにやら落ち込んだ百鬼丸を見た二人、コルベールとシエスタは、何を勘違いしたか、ほっと胸をなでおろした。
よもや、逃げる算段をしているとはつゆだに思いもしない。

「お……驚きましたぞ。変な冗談はやめてください。よく考えたらそんな素振り全くないではないですか」

シエスタととも恨めしげに百鬼丸に目をやった。

「いや、目は本当に見えない。この目玉も作り物だ。目が見えなくても分かることはある。俺は特に勘が鋭いらしくてな。小さな頃からこんなだと、慣れてくるもんなんだよ」

何だか吹っ切れているようにも見える。何に対してかはわからない。
しかし信じがたい話だが、嘘をついてはいないようだ。何よりこんな嘘に何の意味も無いだろうに。
また、コルベールは凍りつき、今度はすごい勢いでテーブルに、両手と、昔前髪があった辺りをこすりつけた。シエスタは一人で、コルベールと百鬼丸を交互に見ながら、おろおろとしている。少しばかり涙目だ。

「いや、すまない、申し訳ないっ。そうとは見えず、いや変な話ですな、そうとは知らず、なんと申し上げてよいものやらっ」
「いや、俺が悪かった。だから顔をあげてくれ」

顔を上げてみれば、百鬼丸の顔は笑みを含んでいた。先ほどまでとは少し違う、自然な気がする。

「さて、話の腰も折れたことだし、そろそろ休憩は切り上げないか?」

二人ともケーキには手をつけていない。もともと体裁程度で持ってこさせたものだ。
百鬼丸に食べさせてやりたいという気持ちも、コルベールには無いではないが、先のように、再び話がこじれぬとも限らぬ。
努めて明るく振舞う百鬼丸に、コルベールは申し訳なさを感じつつも、賛成した。

ゆっくりと食器を下げ、入ったときとは対照的に、寂しそうに、すこし涙目のまま退出しようとするシエスタに、ばつの悪さを感じた百鬼丸は、彼女を呼びとめ紅茶の礼を述べた。

「ありがとう。紅茶、だったか、うまかったよ」

本当は、うまいかどうかなど、分からない。光どころか味さえも分からないのだ。だが、今はこう言うべきだろう。百鬼丸精一杯の気遣いだ。
シエスタもそれが分かったのだろう、目の辺りをごしごしと袖口でこすり、返事をする。

「は、はい、ありがとうございます」
「それと、目のことは忘れてくれ。さっきみたいに変に気を使われるのも困る。これでも案外不自由してないんだ」

正直、忘れられるような話ではない。だが、これ以上気を使われるのは、シエスタも、そして百鬼丸も嫌なのだろう。シエスタは百鬼丸を見つめ、微笑んで頷く。少し頬が赤い。泣いた所為だけではなかった。


コルベールはなんだか寂しい。





「いやはや、申し訳ない。それにしても、話を蒸し返すようで大変恐縮ですが、本当に目が?とてもそうは見えないのですが……。いや、気に障りましたなら失礼。申し訳ない」

謝ってばかりいるコルベールに、少しため息をつき、百鬼丸は俯いた。
どうしたのかとコルベールは様子を伺う。百鬼丸は右手を俯いた目の真下まで持ってきて、眼球を、まるで玩具でも扱うかのごとく、取り出し、手のひらに乗せて転がした。
シエスタは既に退室している。

「まぁ、この通りだ。何ならもう片方もはずそうか?」

少し楽しそうに言ってやる。
百鬼丸も、無理やりにではあるが、既に開き直っている。どうやら逃げ出す必要はなさそうだ。もっとも、これはコルベールとシエスタ、二人のおかげだが。百鬼丸は少しだけ心に潜む黒い靄が晴れる気がした。とはいえ、目玉を取り出した後の顔をコルベールに向けるのは躊躇った。どんな相手でも、まず驚くだろう。気安く見せるられるようなものではない。

「いえいえ、結構です。はぁ、しかし本当に見えないのですなぁ」

驚きながらも、コルベールが自分に気を使ってくれていることを感じた。別段気を使ってもらわなくても構いはしないのだが、初めての反応であるのは確かだった。なんともやりづらく、しかし妙に嬉しいものだ。
もっとも彼の本当の姿を見れば、二人とも恐れるかもしれない。育ての親、寿海の与えた体の部品を全て除けば、さぞかしおぞましい、肉の塊に成り果てるだろう。それが自分だ。

「なるほど……、人間とは存外逞しいものですな」
「そうかもな」

違う。人間で無いから逞しいのだ。
自分は魔神に食い残された人間の、部分だ。
不純なものほど純粋を目指して何か強い力を発揮する。
おれはあべこべの畜生だ。だから強い。

「さて、先ほどの続きと参りましょう」

そう、今はそのための時間だ。

「今度はいくつか、私の疑問に答えて頂きたいのです。あの化け物についてです。そのような不便な体であなたが立ち向かっている、彼ら、一体何者なのでしょうか?」

右手に取り出した眼球を、俯いたままはめ込み、コルベールのほうを向く。さてどこまで喋るか。

「魔神。そう呼んでいる。人の心の闇、怒り、悲しみ、憎しみといった感情を糧に生きるものだ。全部で四十八体、もっとも今は三十九体。さっきのでおれが仕留めたのは九体目だ。この国に同じものがいるかは知らないか、幽霊、妖怪、精霊の邪悪で強力な奴、といえば分かりやすいかもな」
「九体目っ。通りで戦いなれている訳です。しかしヨーカイと言うのは初めて聞きますが、幽霊、精霊の類ですか、なるほど。それならば死骸が消えてしまったのも納得が行きます。しかし、人の心の闇を糧に生きる、というのはどういうことですかな?人を捕まえ食らうのですか?」
「そんな奴もいた。でも人を食うだけなら唯の獣だ。魔神は、悲しみがなければ悲しみを、憎しみがなければ憎しみを作る。その為に人を食う。人を操り戦も起こす。さっきの魔神、死んだ後に何かが出てきただろう?ありゃァ人間の命だ」

何度考えてもおぞましい。しかし、天へと昇ったあの光、魔神から逃げ出すことが出来たのだ。名も顔も、何も知らない人間だが、冥福を祈ろう。
しかし、これにはさすがにコルベールも驚いたようだった。

「それほどまでにっ。して、それらを殺す方法はっ?」
「普通の生き物を殺すようにしたら殺せるんじゃないか?おれは今までそうしてきた。さっきの、そう、魔法でも殺せるだろうな」

にやりと笑みを貼り付けた。わざとではないがこればかりは抑えられない。

「そ、そうですか、確かに手応えは私も感じました。それがせめてもの救いですな」

どうやら怖がらせてしまったらしい。
むむっ、とコルベールは唸る。なにやら神妙な面持ちだ。

「あなたのこともお聞かせ願えますか?見たところ、あなたと魔神の間には、ただならぬ因縁がある御様子。なぜそこまで魔神どもを憎むのですか?」
「奴らが人に、仇なすものだからだ」

嘘ではない。一部しか伝えていない、それだけだ。
何故かはともかく自分が魔神を憎み、敵対している事は既にはっきりしている。
十分だろう。

「それはなんともご立派なことです。ではもう一つ、先ほどの使い魔のお話、仮にあの魔神どもを一つの生命と致しましょう。使い魔は独り一体の原則に基づくならば、あなたが何故彼らと共に、ここに現れたのか、何か心当たり、御座いませんか?」
「心当たりか。無いな。例外も、あるんだろう?」

嘘だ。

全てを答えてくれるとはコルベールも初めから思ってはいなかった。しかし、魔神の情報の提供者、百鬼丸自身の事は聞いておかねばならない。彼のこの国での立場というのは、実にあやふやなのだ。重要な人物、とコルベールは認識しているが、それでも対外的には今のところ、ただの、名も知れぬ異国の平民でしかない。どういった理由で魔神と共にこの地にきたのか、理由によっては、百鬼丸という若者の重要性は、格段にあがる。

それに、魔神を殺すことに、何がこの若者をそこまで駆り立てるのか。それもまた、聞いてみたかった。安易な好奇心だろうか。あるいは心配、と言えばなお安いだろうか。

自分は偽善者だから分からない。





話を終えた後、百鬼丸は、とある一室へと案内された。

「誠に申し訳ないが、少しの間、当学院へ泊まって頂きたいのです。あなたを、そして魔神たちを召喚してしまった生徒のこともあります。どうなるかは分かりませんが、もしも学院を、国を挙げて魔神を倒すということになった場合、是非ともあなたにご協力いただきたい。逸る気持ちは分かるのですが、どうかご理解願えますか」

百鬼丸としては別に構わない。しばらく溜め続けた魔神への憎しみは、先の戦いで、今は少し落ち着きを見せている。それに折角の、コルベールとシエスタとの縁を、無為にしたくはない。

「いや、少し休みたかったんだ。助かるよ」

そう答えると、コルベールは喜んだ。これから、なにやらこの学院の最高位のものへと報告に向かうという。自分は行かなくてよいかと尋ねたが、

「お気遣いありがとう御座います。ですが、まずは私の見たもの、あなたに聞いた事を話します。今は来て頂いても、二度手間になってしまいますので。恐らくその後、早ければ今日の夜、遅くても明日の昼ごろにまたお話をお伺いしたいと思っております」

日は既に、暮れようとしている。

「わかったよ」

「それと、お食事ですがお部屋へお持ちします。まだ勝手も分からないでしょうし。それに、私が言うのもなんですが、貴族の子供は厄介でして。あなたの格好は目立ちます。下手に出歩いては問題が起こるかもしれませんから。不自由をお掛けして、申し訳ありません」

気分転換もかね、また初めての異国に若干の興味も沸いていたため、少し出歩きたかった百鬼丸は、それを聞き、残念に思う。

「確かに田舎者だが、そんなに俺が心配なのかい?」
「まさか子供、生徒達のことです。私は生徒の安全を守る義務があるのです。子供達があなたにちょっかい出しでもしたら、私は生徒を守りきれませんよ」

笑いながら言うが、半分本気だ。先の戦いを見るに、身のこなしからして、明らかに、ただの平民というには強い。メイジが一介の剣士なぞに、好き放題やられるとは思わないが、まだまだ尻の青い子供達では本当に心配だ。更に言えば、貴族の子供は、傲慢で、他人を見下すものが多い。真の貴族たる者かくあるべし、なぞと、コルベールは、常々頭を悩ませてはいるのだが、子供達の短い人生では、教訓も手本も少なかったのであろう。
加えて、一見人当たりの好い百鬼丸だが、生徒達の傲慢な態度にあてられて、喧嘩を買わぬとも限らぬ。

この点では、コルベールの心配は、実は的を得ていた。
百鬼丸の故郷に、侍、という身分が在る。ハルケギニアで言えば、これがメイジに最も近い立場にいるのだが、魔法ではなく武を以って、国を治めていた。
百鬼丸は侍が嫌いだ。むやみに威張り、容易く人を殺す。嫌悪していた。侍に喧嘩を売られれば、例外なく必ず買った。もっとも、誰も殺したことは無い。
案外喧嘩っ早いのである。

話を戻そう。

笑い合い、部屋の前で別れた。
さて、と部屋へ入ろうとしたところで困った。扉が開かない。百鬼丸の国のものとは違う。彼はまずドアの右端を掴み、左へずらそうと力を込める。動かない。今度は反対に。動かない。百鬼丸は首を捻った。

飾り好きの貴族のための、更に言えば来賓をもてなすための部屋である。拵えられた扉は、ごてごてと訳の分からない装飾が多い。ドアノブを捻れば好いのだが、何かの飾りと勘違いしている百鬼丸は、ドアノブを掴み、引っ張り、押すに留まった。腕を組んで、しばらく考えた。手で装飾品を一つ一つ確かめるように触ると、納得した顔で何かを見つけた。なにやら手で掴めそうな、金属の輪に気付いた。これに違いない。百鬼丸は、今度はそれを掴み、手前に引っ張る。ノッカーだ。

コルベールさんはどうやって開けてたかな。

そんなことを考えながら、しばらく右往左往していると、呆れたような声が聞こえた。

「なにやってんのよ、あんた」

見られていた。気まずい。


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