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No.27313の一覧
[0] 【チラシの裏より】 ぜろろ (ゼロの使い魔×PS2ソフトどろろ)[たまご](2011/04/29 23:31)
[1] 第二話 地獄堂[たまご](2011/04/20 14:53)
[2] 第三話 地獄堂と百鬼丸[たまご](2011/04/20 14:54)
[3] 第四話 談話一[たまご](2011/04/20 14:55)
[4] 第五話 談話 二[たまご](2011/04/20 15:03)
[5] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール[たまご](2011/04/20 15:21)
[6] 第七話 遊び[たまご](2011/04/21 01:04)
[7] 第八話 部屋[たまご](2011/04/21 01:17)
[8] 第九話 会談[たまご](2011/04/22 23:10)
[9] 第十話 決闘[たまご](2011/04/25 20:40)
[10] 第十一話 露見[たまご](2011/04/25 20:54)
[11] 第十二話 困惑[たまご](2011/04/28 23:03)
[12] 第十三話 気配[たまご](2011/04/29 19:34)
[13] 第十四話 わらうつき[たまご](2011/04/29 19:29)
[14] 第十五話 悲鳴[たまご](2011/04/29 19:36)
[15] 第十六話 棘[たまご](2011/04/29 19:54)
[16] 第十七話 捜索[たまご](2011/04/29 20:02)
[17] 第十八話 魔神戦[たまご](2011/04/29 20:17)
[18] 第十九話 ようこそ、ここへ[たまご](2011/04/29 20:43)
[19] 第二十話 幕間 その一  ~人知れぬ涙~[たまご](2011/04/29 21:58)
[20] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等[たまご](2011/04/29 21:57)
[21] 第二十二話 幕間その三 因果[たまご](2011/04/29 23:02)
[22] 第二十三話 妖刀[たまご](2011/05/14 04:44)
[23] 第二十四話 日常[たまご](2011/05/06 18:53)
[24] 第二十五話 デルフリンガー[たまご](2016/06/29 00:38)
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[27313] 第二十五話 デルフリンガー
Name: たまご◆9e78f565 ID:598d56d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/06/29 00:38



魔法学院から馬に乗って三時間ほど、トリステインの首都であるトリスタニアである。中心の白亜の王宮とそこから広がる城下町、さらにその中のブルドンネ街、この最も大きな通りを、物珍しそうに見回す百鬼丸の袖を引きながらルイズは歩いていた。コルベールはその二人を楽しそうに見て先導している。

人の集まるトリスタニアは当然商都としても栄えている。ブルドンネ街の大通りには大衆食堂、喫茶店、酒場、雑貨屋等が長く軒を連ね、こんな賑やかな街は初めてだと、大通りを歩きたがる百鬼丸の要望でしばらくの観光と洒落込んでいる。
看板を見ながらあれはこれは、と興味津々だった百鬼丸に、しばらくは楽しそうに答えていたルイズだが、片道二時間以上の道のりな上、歩き回れば疲れも溜まる。

「もう、あたしまで田舎者みたいに思われるじゃないの」

と少し機嫌が悪い。

「田舎者なんだよ、嫌なら離れてろ」
「それこそ嫌よ、あんた何するかわかんないじゃない」

コルベールもそれには同意だとこっそり頷いた。

「スリだって多いんだからね」
「生憎おれは無一文だ」
「偉そうに言わないでよ、あたしは持ってんの」
「そうです、メイジのスリなどというのもおりますし」

魔法が使えるもの全てが貴族な訳ではない。没落したものや、領地を持たない貴族、領地持ちでもその次男三男などは、食い詰めれば犯罪に手を染める事は少なくない。一度手を出せばこれほど楽な事もなかなか無いだろう。ただ、スリしか出来ない程度恐るるに足りないが、厄介事はなるだけ避けたい。

わざわざ変装までしているのだ。貴族とわかる格好では何かしらと目に付く。百鬼丸に至っては完全に異国の民だ。シャツとズボンは戦いにくいとごねた為、三人とも今は、旅人が使う外套を頭からすっぽりとかぶっていた。

「メイジの癖にスリなんて情けねぇ」
「それは同意するわね。ほんと、魔法を何だと思ってるのかしら」
「まあまあ、そんな事を言っても仕方ないですよ、さてそろそろ用事を片付けましょうか」

次第に機嫌が悪くなっていくルイズを見て、コルベールがそう提案した。




一つ小道に入り込めば先ほどまでの賑やかさはどこへやら、次第に道が汚れ、薄暗くなってゆく。

「こんなところにあるのか?」

裏通りには秘薬屋、傭兵の仕事斡旋所、闇市、果てには盗人市など、平穏に生きていれば関わりの無いような危険な区域もある。武器屋はどちらかと言えばまだ表に近い。表と裏の境界線はナイフ一本で線が引ける。

「こんなところだから、あるのですよ」

普通の貴族ならば杖以外には武器は要らぬ。ちなみに貴族の象徴でもある杖は普通は市で買うものでなく、多額の報酬で職人に依頼して作らせるものだ。
使えば使うほど手と魔力に馴染むため、古くなった杖はその貴族の年輪ともなり、ともすれば家宝にさえなって受け継がれる。確かな品を一度買えば、騎士や傭兵でも無い限りは、そう買い替えが必要なものでもない。
平民にしても、傭兵や衛兵、亜人の被害が出るような地方の村ならばいざ知らず、王都に住むのであれば、武器を振り回す必要はほとんど無い。

そのため、後暗い人間が足を運ぶような場所でも十分に客は来る。むしろ、賑やかすぎる場所こそ刃物を必要とする者にとっては入りにくい。

剣の交差した看板を見つけ、羽扉を開き中へ入ると、酔っ払ったように鼻の赤い店主が威勢良く声を掛けてきた。

「へい、いらっしゃい」

ルイズも百鬼丸も珍しそうに店内を見回す。
店主が怪訝そうに眉を寄せたが、何かと問えばすかさず愛想を振りまいた。

「いえいえ、失礼しました、何でもございやせん、ええ、知り合いに似ていたもんで。それで本日はどういったものをお求めで?」

百鬼丸が前に出ると、懐から鉄の棒切れを取り出す。昨日ルイズに披露した手製の投擲武器だ。

「こんな、投げるもんが欲しいんだが、あるかい?」
「はぁ、こりゃ手作りですかい? 投げナイフや弓矢ならありやすが、こんなやつはないですね。別のもんでよければいくつかお持ちやしょう」

しばらくお待ちを、と揉み手をしながら店主は店の奥へと消えた。途端、百鬼丸はあたりを注意深く探っている。何かに警戒しているようだ。

「何かいるんだが、人じゃねぇんだ。いや、大丈夫だ妖怪でもねぇ」

腕を組んで頭を捻る百鬼丸。ルイズには良くわからない。目を合わせると、コルベールも首を横に振った。こういうことはやはり感覚が違うらしい。
と、何者かの声が聞こえた。

「そこの者」

しゃがれた、男の声だ。カタカタと何かが音を立てている。

「ここだ」

うず高く詰まれた剣の山からどうやら聞こえてくる。無造作に歩みよる百鬼丸。それを見てルイズとコルベールも安心して近付いた。

「我はここだ、ここにおる」

コルベールが音源を見つけた。古い長剣だ。

「そうだ、我を手に取れ」
「インテリジェンスソードですか、これは珍しい」
「なんだそりゃ?」
「知性を持った剣の事です。 ナイフなんかもありますが」
「我が名はデルフリンガー。伝説の聖剣なり。我を手に取れ」

コルベールが、デルフリンガーと名乗る剣に手をかけた。引きずり出してみれば、柄まで入れて百五十サントほどの長さの片刃の剣。拵えからみるに、かつては見事な品だったのだろうが、今は風化したかのように錆だらけだ。鞘から僅かに引き抜くも、刀身までも錆びついている。研いでも痩せるだけだろう。

「なによ伝説の聖剣って。聞いたことも無いわ。錆びだらけじゃない」
「私も存じませんなぁ、して何か御用ですか、デルフリンガーさん?」
「我を買え、主らが気に入った」

妙な事を言う剣だ。

「はぁ、剣自らに売り込まれるのは初めてですな」
「俺も初めてだよ、喋るだけでも初めて見る」
「おい、こらデル公っ、てめぇまた勝手に喋りやがって」

ばたばたと店主が戻ってきた。些か血相を変えている。

「黙れ、そこの。我は今この者らと話をしておる」
「なに気色悪ぃ喋り方してんだよ。 お客様方、申し訳ありやせん。こいつ何か失礼なことでも?」
「黙れと言うておるに」
「てめぇが黙りやがれっ、勝手に喋んなっていつも言ってんだろがっ」

ルイズ達は首を傾げた。今ひとつ店主とデルフリンガーとやらの会話がずれている、と言うか伝説の剣にしては軽んじられすぎではなかろうか。
そんな気配を察知してか、店主が揉み手を始める。

「どうも申し訳ございやせん。へぇ、いや誰が考えたか知りやせんが、剣に喋らせるなんて趣味の悪ぃこって、なんでこんなもん作ったんでしょうかねぇ。
いつもはこんな仰々しい喋り方しないんですが。やい、デル公め、黙らねぇと溶かしっちまうぞっ」

がちゃがちゃと、またデルフリンガーから音がする。先ほどより激しい。

「やかましいこの野郎、溶かせるもんなら溶かしてみやがれチクショウめっ、せっかく俺様自分で売り込みやってんのに邪魔すんじゃねぇっ」

どうやらこれが伝説の剣の本性らしい。

「ん、う……ん、我を買え」

コルベールはそっとデルフリンガーを元の場所に戻した。

「やい、こらハゲ、俺様を誰だと思ってやがるっ」
「店主、私が溶かして差し上げます……ああ、お金は結構ですよ……」
「悪かった、俺が悪かった。あんたの頭とっても綺麗だ、輝いて見えら。だから頼むよなぁ、俺を買ってくれっ」

騒がしいと、ルイズはまた苛々してきた。コルベールは既にこの古臭い剣を溶かすつもりだ。百鬼丸だけ面白そうに口を挟んだ。

「おい、デルフリンガー。お前、何が出来る?」
「おお、兄ちゃん興味ある? 俺は嬉しいねっ」
「ちょっと、こんなうるさいのがいいの?」
「いえ、ここは溶かして新しいものを作りましょう……」

コルベールが少し怖い。そんな事は気にもせず百鬼丸は続ける

「面白いじゃねぇか、自信があるんだろ?」
「当ったり前よっ。 切るもよし、突くもよしのデルフリンガー様だっ。独りで寂しい夜にはお話し相手だってできるぜっ」
「じゃあ、こいつで」

楽しそうに百鬼丸は刀を抜く。オスマンから貰った刀だ。ちなみにあの趣味の悪い色柄は手直ししてもらっている。

「おれが切るから、刃こぼれ一つでもさせたら買ってやるよ」
「おうおうっ、頑丈さだって折り紙付きよ、そんじょそこらの鈍らにゃ負けやしねぇっ」

なんだか勝手に盛り上がっている。とりあえずコルベールが怖かったので、ルイズは楽しくなってきた振りをして、あたしも手伝う、と壁際の椅子を二つ並べ、デルフリンガーをその上に真横に寝かせて準備をする。そんな様子を尻目に店主がコルベールにこっそり耳打ちをした。

「旦那、あの、お買い上げでいいですかい? 申し訳ありやせんが、こっちも商売でして、デル公が負けたらこっちは商品駄目にされちまいやす」
「それもそうですな、まぁ良いでしょう。してお値段は?」
「百エキューでさぁ」
「安いですな」
「へぇ、厄介払いも込みでこの値段でして」

だとしたら高い。





天井に刃を向けたままでしっかり固定されたデルフリンガーは、なにやらカタカタとまた鍔を鳴らしている。
百鬼丸は自身の得物の具合を確かめた。刃こぼれは無い。ついでデルフリンガーの刃を指でなぞる。錆びだらけで切れ味は悪いだろう。だが別にそれを期待していもない。
喋る剣など初めて見るし、売込みをしてくるのも面白い。言うなれば遊びだ。しかしオスマン特製の刀相手に何処までデルフリンガーが耐えられるか楽しみでもある。しぶとそうなこの剣の事だから、真っ二つに切ってしまっても平気だろう、と結構非道い。

見ればルイズも何やら期待した面持ちでいた。今は危ないので店主に頼み、カウンターの奥に離れさせている。コルベールも興味深げに眺めていた。
店主も刀をしげしげと見詰めている。見慣れぬ剣に武器屋としての血でも騒ぐのか。

では、とゆっくり刀を大上段に構える。

「いくぞっ」
「おう、かかってきやがれいっ」

えいやと振り下ろし、鍔元から刃先まで滑らせれば、鋼の擦れ合う耳障りな音と火花が飛び散った。

「どうだっ」
「へんっ、そんな鈍らじゃ俺にゃ傷一つつけらんねぇっ」

刀を確認すると、小さな刃こぼれが幾つも出来てしまっていた。デルフリンガーを確かめれば、錆をこそぎ落とした程度にしか変化が無い。

「驚いたな、こりゃぁ頑丈だ」
「ほほぅ、興味深いですな」
「へへん、なんせ俺、伝説だかんね」

伝説云々は眉唾物だが、なるほど、これならば確かに役に立つかもしれない。
さて、とデルフリンガーを手に取ろうとしたところで店主が神妙そうに声をかけて来る。

「すいやせん、剣士の旦那、ちょいと今の得物見せて頂いても?」
「ん、ああ、結構痛んじまったがいいかい?」

構いません、と百鬼丸が差し出した刀を手に取り、じっと眺める。角度を変えて再び。ひとしきり確かめた後で腕を組んで唸った。

「失礼ですが、この剣どちらで?」
「そいつは、とある貴族に頼んで作ってもらったもんだが、まぁ偽者だ。頑丈さは本物以上だけどな」
「左様で。ちなみに本物ってぇのは、……いえ、何処で作られた品かご存知で?」
「東方だ」

言葉を濁した。東方の出自と言う様にはしているが、嘘だからだ。だが、店主は更に唸ると、手を叩く。

「うぅん、よし、決めた。 ちょっと待ってておくんなせぇ」

そう言うと再び奥へ引っ込む。何やら良くわからなかったが待つ事にする。振り向くと、何時の間にかコルベールがデルフリンガーと話し込んでいた。伝説とやらについて興味がわいたらしい。デルフリンガーの頑丈さを前にすれば、なるほど少しは信憑性も上がる。何にでも食いつくな、と思う。

「六千年っ、それ程の時を過ごしてこられたのですか」
「そうなんだよな、聞くも涙、語るも涙の冒険だってぇいくらでもあらぁ。 おいハゲ、てめ、なかなか話がわかるじゃねぇか」
「ぬぐっ、いえいえデルフリンガーさん、してまずは六千年前の事をお聞かせ願えますか」
「ミスタ・コルベール、そんなボロ剣の言う事信じちゃだめですって」

額に青筋を浮かべながらも、持ち前の好奇心が怒りに勝っているのだろう、首の凝りそうな相槌を打つコルベール。

「なんだと娘っ子、こっちにきやがれっ、その舌ちょんぎってやるっ」
「いきなり態度がでかくなったわね」
「おうおう、おれっちの相棒はそっちの兄ちゃんだっ、文句があるなら兄ちゃんに言いなっ、なぁ!?」

とんだ話だ。剣の癖に責任を持ち主に押し付けるとは。いや、剣だから間違っていないのだろうか。人の尺度で考えてはいけないのかもしれない、などと真面目に考える。

「ねぇちょっと、早まったんじゃない?」
「……けどよ、喋る剣なんて滅多にないぜ? それに頑丈なのは確かだし、」
「あんたがいいならいいけど。そう言えばデルフリンガーだっけ?、あたし達の事気に入ったって言ってたけどなんで?」
「ああ、あれね、嘘」
「なにこいつ、舐めてるわっ」
「いやいや、それがよっ、聞いてくれよ、ってひゃぁ、来たっ」

その声と同時に店主がなにやら重そうな包みを抱えて戻ってきた。カウンターの上にそっと置く。包みを解くと出てきたのは銀の箱。上の面だけ硝子のように透明だ。入れたものを観賞するために作られたものだろう。

「あれ、あれよ、俺様、あれが怖いの」
「剣の癖になに怖がってんのよ」

それは一振りの刀。百鬼丸の呟きを聞き取り

「へぇ、カタナっていうんですかい?」

ルイズとコルベールが反応した。駆け寄る。透明な上面越しに見えるのは、台座の上に固定された抜き身の刀とその鞘。

「あらほんと、でもこれ凄い、綺麗……」
「ははあ、目利きは出来ませんが、しかしこれはまこと……いやぁ、美しいの一言につきますなぁ」

どこかうっとりとしたようなルイズとコルベールの声。見惚れていた。
中央に向かってなだらかにくびれる柄に、柄巻が規則正しいひし形模様に力強く編まれている。鍔はやや薄めの丸型で、楕円の穴が二つ、鞘は黒一色で飾りは小尻の金具が一つと無骨な拵えだ。
しかし刃が並みの品ではない。反りの浅く、やや厚いが顔さえ映すような輝きに、ゆらゆらと波打つ紋と、貫くような鎬。血を浴びた形跡はあるが、刃はなお輝いている。そして惹きつけられるような妖しさがあった。

「確かに、こりゃ業物だな。しかし取り出せないのか?」

しげしげと眺め、百鬼丸は手に取ろうと探るも箱には継ぎ目が無かった。蓋をかぶせているのではなく、側面の銀の部分と一体化している。

「一面だけを錬金で変化させたのでしょうな。 それに念入りな固定化も。 ここまでするのも良く分かります」
「でもこれ、何で出来てるのかしら」

ルイズの疑問に答えるように、コルベールは側面を指の腹でなぜながら魔力を通す。音が響いた。

「銀ですな。この透明な部分も、恐らく本来は銀だったのでしょう。 しかしもう少し意匠を凝らしても悪くはなさそうなものですが。 
剣のみを眺めたいのであれば銀でなくともよい。むしろもっと素朴なものがよいですし、わざわざ銀を使うのであれば、この箱全てをひとつの美術品に仕上げたほうが、という気はしますな。しかしそれにしても」

美しい、というコルベールの呟き。ルイズも頷いた。

「ご主人、これはどちらで手に入れたものですかな?」

百鬼丸の持つものに似た剣だ。東方のものだとコルベールは考えていた。
コルベールはまだ見ぬ東方に憧れる。

火のメイジである彼がこれまで生きてきた中で、火は戦い以外にその本領を発揮することは殆ど無かった。とある出来事により戦いを忌み嫌うようになったコルベールは、炎が戦ではなく、人の、そして生活の助けとなる術を十年近くも模索し続け、日々研究に没頭している。知識欲は生まれつきのものなのだろうが、その命題が今のコルベールを形作っていると言ってもよい。

そして東方の技術はハルケギニアのそれを遥かに上回っていると耳にした事がある。ならばこそ、東方の技術を知れば、火を戦の道具として出なく扱う事が出来るかもしれない。この刀を辿れば、東方を、あるいはゆかりの品を手にする機会が増えるかもしれない。

刀を手繰り寄せ眺める。と、デルフリンガーが唐突に叫んだ。

「ひゃぁ、おい親父っ、そいつを俺様に近づけんなっ、なんべん言わすんだよっ」

そいつ、とはこの刀のことか。剣が剣を恐るとは妙な話だ。

「へい、そうなんですよ。それも含めてちょいとお話させて頂ければ」
「なぁ、剣士の兄ちゃん、外に出よう、俺お日様が見てぇな」

いい加減苛立ったルイズが、デルフリンガーを鞘に押し込むと声を出さなくなった。

「鞘にしっかり入れていただきゃ喋れなくなりやす」

どうやら正解だったらしい。では、とコルベールが先を促した。

「へい、二、三日前の事なんですがね、明け方のまだ日が昇らねぇような時間に顔色の悪い旦那がやってきてこいつを買えって。
あっしもなにやら怪しいと思いまして、こんな店やってると、どんなに変装したところで、どんな身分かくらいは分かるんでさ。旦那方も訳有りなんでしょ?
いえ、何かしようって訳じゃありやせんで、どうか聞いておくんなせぇ。
それでね、多分ありゃアルビオンの、しかも貴族だって思いやして。 訛りがちょいと酷かったから割と田舎の方でしょうな。 今のアルビオンの情勢はご存知でしょ、反旗を翻した貴族派に、王党派もなんとか耐えちゃあいやすが、多勢に無勢だ。
そんな戦争中の所から来たもんなんて下手すりゃ火事場の品の可能性だってある。奴さんがどっち派かなんてなぁ、あっしにも分かりやせんがね」

アルビオン王国はガリア、ロマリア、トリステインと共に始祖ブリミルに連なるものが興した国だ。ロマリア以外は全てブリミルの血族が興した国であり、王族は始祖の系譜だ。そしてアルビオンはトリステインにとって最も友好的な国家と言ってもいい。

コルベールもルイズも、その情勢は聞き及んでいた。アルビオン王に反旗を翻したレコン・キスタと名乗る貴族派は次第にその数を増やし、いまや王都ロンディニウムを含むアルビオンの半分以上を手中に収め、王室は風前の灯なのだとか。
トリステイン側からの軍事介入は未だに行われていない。これは数年前の王の崩御から、王が空位であるトリステイン国内の情勢が不安定であり、また国家の意思決定機関が十分に機能していないためだった。

どうやら東方へ繋がる手がかりは無さそうだ。おまけに戦の渦中にあるアルビオンからとなると、下手に手出しすれば火傷では済むまい。
が店主はかまわず話を続ける。

「それで、初めはあっしも断わったんですが、なにせこんな立派な代物だ。たったの千エキューで構わねぇって言うもんで。
ところがどっこい買ったはいいものの、デル公は怖がるし、近所のカラスだの鼠だのは寄ってくる、占いの婆からは死相が出てるなんて言われる始末。
とっとと売っぱらいてえが、どっから出たもんか分からねぇ。もし盗品だったりした日にゃあっしの首が危ねぇし。
それなりのところに流せりゃいいんだが、これでも全うな商売してましてね、伝手もねえんでさ。
見たところ旦那様と若奥様も貴族様のようですが、何やら訳ありと思ってたところに、若旦那の得物がこいつとそっくりと来たもんだ。 どうか相談に乗っちゃくれねぇかと思いまして」

さて、どうしたものかと考えている中ルイズがふらふらと銀の箱へ近寄っていく。いささか足取りがおぼつかない様子だ。声をかけようとしたところで突如膨らんだ空間に吹き飛ばされた。





「ダーリンったら、何してるのかしら。全然出てこないじゃないの」

裏通り、武器屋のそばの脇道から小首を出して様子を伺っていたキュルケは、隣にいる少女へ話しかける。返事は無い。目をやれば本を読んでいた。学院を出てから一度も目を離していない。相手をしてくれないのは寂しいが、ここまでくれば天晴れとしか言いようがなかった。

声をかけられた少女、背はルイズよりも低い。太いふちの眼鏡をかけ、蒼い髪は短く、襟足に届くほど。自分の身長よりも長く大きな杖を体に預け、直立の姿勢でひたすら文字を追っていた。その目は眠そうにも見えるが、実は楽しんでいるとわかるものは殆どいない。親友が楽しそうにしているのはキュルケも嬉しいが、とはいえ文句を言わずにも居られない。

「もう、こんなとこでも本ばっかり」

一瞬目を合わせてくると、再び視線を戻し読書を再開した。
名はタバサ。姓も無く、ただタバサだけ。無口で読書ばかりしている彼女だが、不思議な事に馬が合う。一年生の始めの頃に、ひょんなことから決闘にまで至り、それ以来の付き合いだ。使い魔は風竜。他の竜に比べ、速く飛ぶ、それが彼女がキュルケとともにここにいる理由だ。

休日と言う事でいつもより遅く目を覚ましたキュルケ。ルイズの部屋を開ければそこはすでに出かけた後だった。ちなみにルイズの部屋はキュルケの向いだ。
仇敵ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに出し抜かれたとキュルケは理解した。とはいっても、昼過ぎに出る、というルイズの言は微塵も信用していなかったが、眠かったのだから仕方がない。睡眠不足は美容の敵で、美しさは恋の必要条件だ。ただ、少しだけ眠りすぎたとは思うけれども。

ルイズに隠れて百鬼丸の後を追うつもりだったキュルケだが、この出遅れは手痛い。武器屋で待ち伏せをすればいずれ会えるが、既に用を済まされていた時はどうしようもない。
人ごみに紛れた百鬼丸を探し出すのは、ツェルプストーの愛の力をもってしても難しいだろう。困った時の親友頼みと、休日を本に埋もれて過ごす予定だったタバサの部屋に乗り込み、必死に説得。なんとか使い魔の風竜に乗せてもらい、王都へとたどり着いたのだ。
つまりは足代わりである。風竜は今は外の森で待機だ。素晴らしきは友情。そして恋は何事にも勝るという家訓のままに動いた結果だった。
武器屋へたどり着いたのは、百鬼丸達が到着して少し経ってからだ。

「中に入ればいい」
「嫌よ、ヴァリエールが邪魔してくるもの。引き剥がしたいんだけど、無理なら……そうよっ、何かプレゼント買ってあげたら喜ぶかしらっ?」

名案だ。となれば、百鬼丸が何を欲しがっているか、いや、彼らが店を出た後に店主にでも尋ねればよい。

そこまで考えたところで聞き慣れた爆発音。この音は恐らくルイズの魔法だろう。次いで悲鳴が聞こえた。タバサと目をあわせ、頷き合うと、周囲を確かめそろりそろりと近付く。金属を、恐らく剣だろう、数合の打ち合う音。

「何かしら……」

小声で囁いた。返事を期待してのものではない。

突然湿り気を増した辺りの空気が、体の熱を吸い取るように執拗に纏わりつく。
一つ歩を進めるごとに、煙るような息苦しさが濃度を増していった。タバサを見やれば、自分よりはまともそうだが、時折体を震わせている。

「まさか怖いのかしら、タバサ」
「怖いのはあなたも。行く必要は、無い筈」

言うとおりだ。そして行かねばならぬ理由はない。
しかし逃げるなどツェルプストーの名折れでもあるし、まさに怖いもの見たさとでもいうか、命の危機を携えるその正体を確かめたくもあった。
中を覗き込もうとしたところで、奥から小さな体が飛びかかってくる。

「近づくなっ、逃げろっ」

愛しい百鬼丸の声。ただ、聞いたことがないほどに切迫していた。





痛む頭を抑えながら目を開く。見慣れた天蓋。視線を反らせばやはりよく知る箪笥と壁。ルイズは自分がどこにいるのかは良く分からなかった。

「ミス、大丈夫ですか?」

振り向けば椅子から乗り出したシエスタが心配そうに問いかけてきた。隣には百鬼丸もいた。自分はどうやらベッドに寝ていたらしい。服もいつの間にか着替えさせられていた。魔法学院の自室だ。

「あれ?どうしたの?二人とも、痛っ」
「おい、まだ起き上がるな」

肩をつかまれてゆっくりと寝かされる。右腕が痛い。寝そべったままで手を持ち上げて見てみるが、見た目にはどうともない。左手で抑えてみるとやはり痛む。

「ヒャッキマル? あたし……あれ、夜、なんで、ここにいるの?」
「大丈夫か? もう夜だ。外でいきなり倒れたから運んできたんだよ」
「そうなんだ、迷惑かけちゃったかしら。 なんかすこし……だるい。けど多分大丈夫。気持ち悪くは、ないわ」
「そうか、よかった。 腹減ってねぇか?」
「あ、ちょっと待って、大丈夫だから。よく分かんないからまだ行かないで」

百鬼丸は頷いて再び椅子に腰掛ける。何があったか尋ねるも答えは同じだ。なぜか自分は突然体調を崩して気を失ってしまったらしいが、よく覚えていない。腕が痛むのは、倒れた拍子にぶつけたのかもしれない。

頭が回らない。とりあえず混乱は収まってきたが、まだ体も重い。仰向けになったまま話をしているが、百鬼丸もシエスタもたいそう心配してくれていたらしく、話すにつれて安堵が伝わってきた。

ヴァリエール領の屋敷にいた頃を思い出す。厳格なつもりで実は甘い父、いつも怖かった母と上の姉、そして優しい二番目の姉がいる。
ルイズが寝込むと、父と母は優しくなって、上の姉は怖くなくなる。二番目の姉は楽しそうに看病してくれた。心苦しくはあったが、それでも嬉しい気持ちはたしかにある。懐かしい。
瞼が重くなってくる。今日はとても疲れた気がする。



夢を見ている。
夢だとわかる。自身の体が意思と反して動き、本来持たない身体能力を発揮している。夢の中、汚れた裏道を限界を超えた速さで駆け回るルイズの手には、薄暗い刃が握られていた。かつてない力で刀を握る腕が軋んいる。

違う、夢であるが、夢でない。これは実際に起こったことだ。

刀を握ったルイズの頭に、刀の記憶が流れ込んできた。

それは人を操る刀だ。銘は「似蛭」

切ることだけを求めた続けた鍛冶師の、その怨念とも呼べるほどの妄執。そして、切り裂いた肉と血の質が、ただの名刀を妖刀にまで昇華させた。ひたすらに高みを目指し、ついにたどり着いた究極の形の一振り。
血を求める、蛭のような刀。それがこそが、ルイズが手にする刃の正体だった。
恨み辛みのみではない。魔の源は欲望で、善悪は人の言葉でしかないからだ。


妖刀を握れば全ては等しく蛭となる。刀に操られたルイズに渦巻いていたのは、飢えと乾きから逃れる根源的な欲求だった。そして、ルイズの振るう凶刃は、貴族にあってはその血ですら、平民の臓腑より上質であると知ってしまったのだ。

そこに正気は無く、そして罪を犯した、人を斬ったのは間違いなくルイズの体だった。



夜半に悲鳴で目が覚めた。喉が痛い。音は自身の喉から鳴らされたものだったようだ。部屋には誰もいない。ばくばくと脈打つ心臓の音。
あぁっ、と再び悲鳴をあげると、体の痛みを無視してベッドから飛び降り、箪笥の引き出しを漁る。小さな薬瓶をひっつかんで部屋を飛び出し、向かいの扉を何度も叩いた。

「キュルケっ、キュルケっ、ねぇ、返事して、いるんでしょっ、ねぇ」

静寂を無視して叩き続けると、ゴソゴソと音がして気だるげな声が聞こえた。

「んんっ、どなた? もう、夜はきちんと窓から入ってくださらない?」
「ねぇ、開けて、キュルケ、開けてよっ、開けなさいっ」
「ルイズ? ちょっとまちなさい、静かにしてよ、ああもうっ、今出るから」

ドアが開くと、なにかと聞かれる前にルイズはキュルケの腕をつかむ。あられもない格好で出てきたキュルケだったが、今は両の手に巻かれた包帯、その下にあるはずの刀傷が問題だ。何事か言われる前に包帯を外そうとした。

「ちょっと、痛っ、何よ」
「あ、ごめんなさい、これあたしが」
「あんた」

怖くなって必死にまくし立てる。

「ごめん、ごめんね、キュルケ、ほらこれ水の秘薬よ。お父様にお願いしてたの、良いものだから、きっと効くから、ね、。これ使って、傷だってきっと残らない。あんたの手だって綺麗なままになるから」

涙が溢れて声が震えてきた。ああ、なんということをしてしまったのか。
あろうことか、妖刀を握ったルイズは、キュルケに襲い掛かったのだ。

キュルケの顔を見ることすら出来ない。仇敵といえども傷つけたいと思うほど憎くはなかった筈だ。それでも罵倒すらしてこない。沈黙に耐えられず、手を握って秘薬を掴ませようとする。早く済ませて逃げたかった。

「痛、ちょっと乱暴にしないでよ」
「あっ、あの、ごめん、ごめんねっ。わざとじゃないの」

極度の混乱状態であることは理解しているが、どうしようもなく抑えが効かない。がたがたと体も震える。最近こんなことばかりだ。

「ねぇ、ルイズ。あたし怒ってないし、ちゃんと手当もしてもらってるから、大丈夫よ」
「でも、でもあたし、あんたのこと、ごめん、ごめんなさい」

ひたすらに謝り続け、手を引かれ部屋へと招き入れられた。


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少し改訂
続きをなかなか書けず、また今回は改訂ですのでsage投稿です。
時間が欲しいです。


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