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No.27313の一覧
[0] 【チラシの裏より】 ぜろろ (ゼロの使い魔×PS2ソフトどろろ)[たまご](2011/04/29 23:31)
[1] 第二話 地獄堂[たまご](2011/04/20 14:53)
[2] 第三話 地獄堂と百鬼丸[たまご](2011/04/20 14:54)
[3] 第四話 談話一[たまご](2011/04/20 14:55)
[4] 第五話 談話 二[たまご](2011/04/20 15:03)
[5] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール[たまご](2011/04/20 15:21)
[6] 第七話 遊び[たまご](2011/04/21 01:04)
[7] 第八話 部屋[たまご](2011/04/21 01:17)
[8] 第九話 会談[たまご](2011/04/22 23:10)
[9] 第十話 決闘[たまご](2011/04/25 20:40)
[10] 第十一話 露見[たまご](2011/04/25 20:54)
[11] 第十二話 困惑[たまご](2011/04/28 23:03)
[12] 第十三話 気配[たまご](2011/04/29 19:34)
[13] 第十四話 わらうつき[たまご](2011/04/29 19:29)
[14] 第十五話 悲鳴[たまご](2011/04/29 19:36)
[15] 第十六話 棘[たまご](2011/04/29 19:54)
[16] 第十七話 捜索[たまご](2011/04/29 20:02)
[17] 第十八話 魔神戦[たまご](2011/04/29 20:17)
[18] 第十九話 ようこそ、ここへ[たまご](2011/04/29 20:43)
[19] 第二十話 幕間 その一  ~人知れぬ涙~[たまご](2011/04/29 21:58)
[20] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等[たまご](2011/04/29 21:57)
[21] 第二十二話 幕間その三 因果[たまご](2011/04/29 23:02)
[22] 第二十三話 妖刀[たまご](2011/05/14 04:44)
[23] 第二十四話 日常[たまご](2011/05/06 18:53)
[24] 第二十五話 デルフリンガー[たまご](2016/06/29 00:38)
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[27313] 第二十四話 日常
Name: たまご◆9e78f565 ID:598d56d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/06 18:53



モット伯との戦いを終え、いざ学院に戻ってみれば、これまで過ごしてきた日々とそう変わらぬ平穏があったことに、ルイズは何処か拍子抜けしていた。
自分を取り巻く環境が全く変わってないでは無いのだが、文字通り窮地を脱した魔神との戦いが非日常的であったのに対し、なんとあっけなく日常に戻れるのか。
変化を求めていたわけでも、拒んでいるわけでもない。
以前に戻れないような大きな何かがある、と勝手に思い込んでいたに過ぎない。もっとも、帰宅して二、三日は色々あったのだが。

昼前に学院に到着したルイズ達は、シエスタを医務室へ預けたあと、オスマンに簡単に報告する。殆どコルベールが話をしていたのだが。オスマンより労いの言葉を受け、しかし今回の件は誰にも喋ってはならないと言われる。
与太話にしか聞こえないだろうと言う事もあるし、モット伯の抱えていた部下、平民、殆どが恐らく死亡しているのだ。もとより誰に聞かれたところで教えるつもりも無かった。
しかし大きな事件である事は間違いない。
露見した時はどうすれば良いか尋ねるが、この件はオスマンが処理するので何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通せ、とのことだった。
その日は授業を受けず休むよう言われ、疲れきった体には有難いと、自室で泥のように眠る。眠れるか不安だったのだが、夜通し動き回っていた疲労に、体は正直に睡眠を求めてくれたようだ。
目を覚ますと既に日は暮れてしまい、疲れを癒すなら睡眠の次は食事であると、食堂へ足を運ぶ。聞き耳を立てながら食事を摂ったが、モット伯の事件はまだ誰も知らないようだった。
ロングビルから伝言を受け、今度はシエスタも加えて、再び学院長室へ、長話となる。昼の報告は、オスマンの気遣いで簡潔に済まされていたため、休息を挟み詳細を求められたというのもある。
しかし驚いた事に、王宮からの調査が来るとの伝書を、早くも受け取ったとの事。
モット伯はその日どうやら人と会う約束があったらしく、彼の屋敷を訪れたその相手がモット伯の死亡を確認した。幸いそれが聡明な人物で、屋敷内部の惨状から、騒ぎ立てるのは良くないという判断のもと、宰相のマザリーニ枢機卿に直接報告し、直ぐに緘口令が敷かれ、密かに調査団を結成させたらしい。
伝書も枢機卿の直筆で、学院宛てでなく、オスマン個人への手紙であった。
いくら内密に事を進めようと、勅使を務める程の貴族が死亡したことを何時までも隠し通せるものではないため、宰相としては速やかに原因を明らかにし、対応しなければならないのだ。モット伯が最後に確認された学院を、まず始めに調査するのは当然だった。
シエスタがモット伯に仕える約束をしていた事は、それを知る人間全てにこちらも緘口令を敷き、魔神の存在を明らかにした事件のあらましを綴った手紙を宰相に送ることで、オスマンは今回の件を全て極秘で処理するつもりだそうだ。
年齢不詳の老人は、宰相相手に荒唐無稽な手紙を送りつけるほどに人脈も広いらしい。
そして休日、オスマンに誘われ、剣術披露会の計画に加わり、翌日の剣術披露会から六日。既に魔神との戦いを終え、一週間経とうとしていた。
結局、調査団が学院を訪れる事は無かった。
しばらくしてモット伯の殺害が王宮より報じられた。下手人は、最近巷を騒がせている盗賊、『土くれ』のフーケだそうである。





一本の木に向かって黙々と何かを投げ続ける百鬼丸を見つけ、ルイズは声を掛けた。
「あら、今日は誰もいないの?」
「根性無しだらけだ、ここはよ」
「否定はしないけど、失礼な言い分ね。あたしだってここの生徒なんだからね」
「お前は違うさ」
「何よいきなり、気持ち悪い」
「そりゃ失礼」
そう言った切り、再び同じ動作を繰り返したまま、百鬼丸は黙り込む。
無視されているようで嫌だ。むぅ、と可愛らしく腰に手を当てむくれた。

今二人がいるのは火の塔と土の塔の間をつなぐ壁に付ける様に建てられた、コルベールの研究小屋の傍である。

授業が終わると、ルイズはまず始めにここに顔を出す。
希望があれば剣の手ほどきくらいなら喜んで行う、という百鬼丸紹介の口上は、学院内に良い印象を与えるためのものでしかなく、ルイズはおろか、コルベールもオスマンも、貴族が剣を振りたいと言い出す、などとは思っていなかった。
しかしギトーとの模擬戦で見せた百鬼丸の苛烈な戦いぶりは、生徒達に少なからず興味を与えたらしい。

剣術披露会の翌日、剣の指導希望者十数名という驚くべき事態に、一度公言されたのだから仕方あるまいと、百鬼丸は手ほどきする事にした。希望した殆どが、入学したての男子生徒達だったのは、まだ彼らは魔法の腕に自信が無く、力として他の何かを求めためであろう。女子生徒の希望者はおらず、しかし興味はやはりあったらしい、ちらほらと何人か様子を見に訪れる。それを毎日ここで行っていたのだ。
気の置ける友人を学内に持たないルイズは、そういった訳で、手が空けば百鬼丸の様子を見に来るのだった。
時折熱っぽい視線を百鬼丸に向けていたの生徒が居たことはルイズには分かった。百鬼丸はハルケギニアの人間に比べれば彫は浅いが、それでも顔立ちは整っているし、何より野性味溢れる彼独特の空気は貴族に無い類のものだ。かといって、どこぞの傭兵崩れの様に品が無いわけでもない。
物珍しい真っ暗な瞳は時に爛々と輝き、無造作に束ねられているだけの、普段は硬そうな長い髪も、彼の体を追いかける時は黒い獣の尾のように、力強くしなる。
剣を振る百鬼丸の姿は、確かに絵になる。

しかし年上の男に興味を持つ少女の気持ちはルイズにも分かるが、所詮貴族で無い百鬼丸への熱い視線は、近頃の話題に上せただけの一過性のものだろうとも考えている。
では当の本人はと言うと、どうも色恋に疎いらしく、そういった事には全く気付いてもいない様子。
とにかく、賑やかであった筈のこの鍛錬は次第に人が少なくなり、今となっては自分を除けば百鬼丸独り。

「大体、あんたの教え方にも問題有るんじゃない? 見てるだけでもきつそうだし、面白くもなさそうだし」
「きつくなけりゃ意味が無いだろ。おれは教わった事も教えた事も無ぇ。楽して強くなれるんなら、それこそ教わりたいね」

それはそうだ。しかし我流とは恐れ入る。

ちなみに剣を教わりに来た生徒達に対する百鬼丸の指導はというと、教師に作ってもらった簡易な模造刀を、ひたすら上下に振らせ続けるだけ、というもの。
杖より重いものを持った事が無い、とまではいかないだろうが、そこそこ重い鉄の棒を、一時間も二時間も淡々と上下のみで振っていれば、それまで腕力を必要としなかった貴族の少年達の腕が直ぐに悲鳴を上げるのも致し方ない。
一人、二人と抜けていき、いまやこの有様。ましてや師範は学院のどの教師よりも頑丈なこの男だ。ついて行けるようならそれこそ、いずれ何でも出来るようになるだろう。
「教えてもらった事無いのに、なんでそんなに強いのよ。ギトー先生との時も怪我すらしていないし、呆れちゃうわ」
「死にたくないからな」

だったらメイジ相手に喧嘩しなければ良いのだが、それは無理なのだろう。顔も向けずにひたすら何か練習している百鬼丸の返事は、なんとも逞しい事であるが、しかしルイズにはなるほど納得がいく物であった。彼女も身をもって経験したのだ。

呪文を唱え、杖を振るうと、百鬼丸が投げた物体の射線上に爆発を起こした。
爆風に吹き飛ばされたそれが百鬼丸の足元に刺さる。

「うおっと、おい、ルイズッ」
「あたしもね、上手くなったって言うのかしら? 狙いが特にね・・・・・・」
「へえ、今の狙ったのか、凄いじゃないか」
「複雑だわ。今の、何の魔法使ったと思う?」
「何って、爆発、じゃないんだったな」
「そうよ、もう嫌になっちゃう」

魔法が成功するようになったわけではないが、ルイズの失敗魔法、つまり爆発は、死地を経験した事で、精度、威力共に明らかに向上しているのだ。
しかし魔法は彼女の望む効果を得ない。ちなみに今彼女が唱えたのは『レビテーション』と呼ばれる、物体を浮遊させる魔法であるが、それを百鬼丸に教えるつもりは無い。
本当に嫌になる。

「これ以上聞かないで」
「前も思ったが、それ結構強いぞ?」
「あんたねぇ?」
「いや、すまん、悪気は無いんだよ」

実際のところ全く役に立たないわけではない。喉元過ぎればなんとやら、召還儀式の恐怖から一時は鳴りを潜めた『ゼロ』の嘲笑も、少しずつ耳に付くようになった数日前の事だ。
気の短いルイズは、ついつい彼女を嘲った連中に耐え切れず、相手の手前の足元狙って魔法を放ったのだが、その威力は周囲を黙らせるには十分に過ぎ、怪我こそ負わせなかったものの、広場の地面に大きく穴を穿った。
既に穴は修復されたものの、コルベールにこっぴどく叱られ、今は反省している。

「貴方までヒャッキマルさんと同じ様な事をしないでください」

この言葉はかなり効いた。自分は彼の良い部分にも悪い部分にも影響を受けているだと自覚すると共に、大層恥ずかしい思いで、その言葉を聴いた瞬間、下げ続けていた頭を更に地面に近づけるしかなかった。
しかし、その騒動の甲斐あってか、『ゼロ』のあだ名は、ここ二日ほど自分の耳には入っていない。陰で囁かれている事くらい予想は付くが、直接言われないだけまだ良い。
それにしても『ゼロ』のあだ名も、それを一時遠ざけるのも、全てこの爆発だ。

「もう、話題変えましょ。あたし嫌だわ」

ため息を吐くのは、慣れてはいるが好きでない。
丁度良いので、先程から気になっていたことでも尋ねた。

「さっきから何やってんの?」
「ああ? 手裏剣だ」
「シュリケン?」
「ああ、手裏剣って、こっちには無いのか。こう、武器を相手に投げつけて刺すんだよ」
「投げナイフみたいなものかしら?」
「多分そんなんだ、よっと」

再び百鬼丸は、指より太く、手のひらに収まらないくらいの長さの褐色の棒を、木に向かって投げつける。がつっと側面がぶつかり、地面に落ちた。それを目で追うと、同じような棒が何本も根元に転がっていた。
よく見れば確かに、片側の先端は目標を突き刺すために尖っている。

「刺さって無いじゃない」
「初めから出来てりゃ苦労しねぇ」
「あら、ごめんね。あんたってそういうの何でも出来る気がしてたから」
「そうだと良かったんだけどな」
「もう、ごめんって言ってるじゃない。怒んないでよ?」
「怒ってないさ」

そういってもう一本投げる、が刺さらない。

「それ、自分で作ったの?」
「ああ、こないだ斬った鎧とか剣とか削ってな」

意外と器用だ。

「削るだけだぞ? 爺さんの剣、趣味は悪いが頑丈なのが救いだな」
「新しいの作ってもらうんじゃなかったっけ?」
「断られた」
「なんで?」
「持たせたくない、だと」

確かにそうだ。魔法学院の教師相手に大立ち回りを演じた危険人物を、更に危険にするような事はオスマンもしたくはないだろう。

「あははっ、あんた、直ぐ喧嘩しそうだもん。まああたしも人の事いえないか、でも、ふふっ」
「ちょっとは反省してる。出来るだけしないようにするよ。大体あの爺さん、多分面倒臭いだけだぜ?」
「そうかもね。でも、一理あるんじゃない?」
「多分ここなら大丈夫さ。喧嘩吹っかけてくる奴も、もういないみたいだしな」

百鬼丸の言葉通り、生徒達の彼に対する態度は悪くない。何か腹に一物抱えているような人間もいないでもないが、概ね敬意をもってそれなりの態度で百鬼丸に接しているのはここ数日でも伺えた。
通りすがりの見知らぬ生徒に尊敬の眼差しで挨拶をされてうろたえる百鬼丸は、そうされるのが慣れていないのだろう、何度見ても飽きない。

「じゃあなんでそんな事してるの?」
「出来ないよりは出来た方が良いだろ。ギトーの野郎と戦った時の事考えると、これは出来た方がいい」

相変わらずギトーの事は嫌いらしい。顔を合わせる機会が余り無いのが幸いだ。しかしそれにしても少々品が無い。
また投げた。

「刺さんないわね」
「難しいな、形が悪いのか」
「まだメイジと喧嘩するつもり?」
「この間みたいに魔神に取り憑かれた貴族相手にする事もあるだろ」

ルイズも気付いていたが、魔神の乗り移ったモット伯爵の魔法は、確かに強力だった。魔法の効果の幅を明らかに広めている。コルベールと百鬼丸の推察では、どうやら魔神と魔法は相性が良いようだ。
ならば百鬼丸のこの練習は、彼なりに考えた生きる為の手段であり、こうして百鬼丸は生き抜いてきたのだと納得すると共に、口には出さないものの、自分とは違うその逞しさに尊敬の念を覚える。

百鬼丸は上手くいかない事に少し苛立っている様子だった。手を止め考え込み、足元に置いてある棒を、今度は細切れに刻み始める。一握り分になると、それを力一杯投げつけた。

「見ろよ、幾つか刺さった。これ使えるかもな」
「あんたねぇ、そりゃ使えないことも無いでしょうけど」
「何だよ?」
「なんでもなーい」

からかう様にそれだけ言うと、いつもそうしている様に、コルベールの研究室に立てかけられた小さな椅子を、近くの木陰へと引きずり、ちょんと腰掛け、持って来た本を広げる。
何が言いたかったのか百鬼丸も分かっているのだろう、再びもとの細い棒を投げ続けた。
ふと、定期的に鳴り続けていた軽い音が、違うものに変わった事に気付き、本から目を上げた。

「お、刺さった」

何とも間抜けな感想だ。もう一本再び。

「刺さんないわね……」
「うるせぇ」

こうなると気になる。再び百鬼丸に近づき様子を眺めた。二本、三本、四本と投げ、五本目。上手くいった。

「もう少しじゃない?」
「いや、偶然だな」
「駄目なの?」
「ちょっとは良くなってるのかも知れんが、良いやり方が分からん。形も不揃いだしな」
「ふぅん、結構考えてるのね?」
「少しはな。もうちょっと続けてみるか」

そういって百鬼丸は木に近づき、刺さっている棒をしげしげと眺めた。暫く考えた後、それを引き抜き、足元の棒を拾い集めている。
なるほど、と百鬼丸の強さの理由に再び納得した。

「それこそ投げナイフでも探したらどう?」
「そう、探すんだ。明日休日だろ? なんつったっけか?コルベールさんと武器買いに行くんだよ」
「明日は虚無の曜日よ。授業はお休み。でも武器だなんて、危ないわ」

主に百鬼丸に近付く人間が、危ない。

「オールド・オスマンの許可は頂いてるの?」
「当たり前だ。だから言っただろ? あの爺さん、面倒臭いだけだって」
「ちょっと呆れるわね」
「まあ、色々忙しそうだしな」
「そうね……」

理由など分かっている。

「それで、何処で何買うの?」
「トリ……トリ、なんだっけか、どうにも覚えにくいないな」
「トリスタニアね」
「そうだ、トリスタニア。何買うかはまだ決めてない。適当に良さそうな物があったら買おうかって思ってな。メイジ相手にこいつだけじゃ心許ない」

そう言って腰に差した刀をぽんと叩く。

「大砲は?」
「ありゃ取って置きだ。いちいち足が止まるだろ。それに、そうほいほい撃てるなら苦労しねぇよ」
「じゃあそうねぇ、盾でも買えば?」
「そんなもん持ったら剣が振れねえし足も鈍る」
「ほんと、いろいろ考えてんのね」
「少しはな」
「ねぇ、あたしも行って良い?」
「良いんじゃないか? うわっ」

突如百鬼丸が唸り、表情が渋いものになった。額に手を当て、しまった、と呟いている。
二人のもので無い声が頭上から響いた。

「あたしも着いていくっ」

なるほど、原因はこれか。
頭上から現れたのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの不倶戴天の敵。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーである。

何処から盗み聞きをしていたのか、ゆるゆると魔法で空から降り立ち、相変わらず、胸のボタンを二つほど開け、大きな胸を突き出している。隣にはのそのそと現れた全長二メイルほどの巨大な火蜥蜴の使い魔。
魔法が使えず、使い魔を持たず、そして胸の小さなルイズには、もとより仲の悪いキュルケの態度は全てが自分を小馬鹿にしているように思えてならない。
しかし自分は今、キュルケに対し有利な立場にいることをルイズは知っていた。
敢えて今は口を開かない。

「何処から聞いてた?」
「ダーリンったら、御存知無いのね? でもそんな所も可愛いわ」
「何がだよ? っておい、こら、近づくなっ」

そう言って腕を取ろうとするキュルケから、百鬼丸はルイズを間に挟み、盾にする。

「照れなくて良いのよ? でもそんなところも、ああもう、なんて可愛い」
「照れてない。あと可愛いはよせ、気持ち悪い」
「あら、御免なさい、ミスタ・ヒャッキマル。そうよね、殿方に可愛いだなんて失礼よね、とっても逞しいあたしの勇者様」
「何でも良いから、何処から聞いてたんだよっ、近くにいなかったろっ」
「使い魔の見聞きするものは、主であるあたしにも分かるのよ? ダーリンたらあたしが近づいたら直ぐ逃げちゃうんだもの、照れ屋さん。でもこの子、あたしの使い魔でフレイムって言うんだけど、この子のおかげ。ねえ、どうかしら、あたし達を引き合わせたのよ、素敵でしょ?」
「ああ、素敵だね。今度からそいつにも気を配るよ」
「まあ、褒めてくださったのね。初めて、あたし、こんなに嬉しいだなんて。だって、初めて褒めて下さったのよ? あたしじゃなくてフレイムだけど、でも使い魔と主は一心同体、それをそう、素敵だなんて、あぁ」

まるで会話になっていないが、いつもの事だ。キュルケは百鬼丸に盛んに言い寄るのだが、百鬼丸はキュルケが苦手なのだ。怖い、とは何が何でも認めない彼だが、何処をどう見ても怖がっているようにしか見えない。
そんな百鬼丸を誘惑しようとしているのだろう、ゆっくりと体をくねらせ、自分の手を腿から豊満な胸に這わし、そのまま鎖骨を撫で、首筋を沿わせ、最後に人差し指を唇に持っていくキュルケ。
話をしながらゆるゆると百鬼丸へ近づこうとするのだが、百鬼丸は腰を僅かに落とし、摺り足でじりじりとルイズを盾に逃げ続ける。

この三人が揃うと、ルイズを中心に、残り二人は対極で直径三メイル程の円をひたすら描き続けるという奇妙な現象が起こるのである。
そしてキュルケの求めるものがキュルケから逃げ、自分を頼りにしているというこの現象は、百鬼丸には悪いが、ルイズが仇敵に優越感を覚えることが出来る僅かな時間なのだ。

この時ばかりは魔法も使い魔も関係なくルイズはキュルケに勝利している。

そう、身長も胸の大きさも何も全く関係ない。関係が無いのだ。

その矮小さを理解してはいるが、愉快であるのも確かな事で、ルイズは悔しいが悔しくないという妙な心持である。だがそれ以上に、キュルケの思い通りにならないと言うのはやはり気分が良い。
勝利の心地を堪能し続けていた。

明らかに助けを求める百鬼丸の声を聞き、暫しの快感に満足したルイズはようやっと口を開く。

「いい加減になさったら、ミス・ツェルプストー? それともゲルマニアの淑女は皆様、嫌がられてでも意中の方に纏わりつくのが御趣味かしら」
「邪魔しないで、ヴァリエール。ゲルマニアの女は情を大事にするの。フォン・ツェルプストーは特にね」
「あら、相手にされてもいないのにまだ気付かないの、お熱のキュルケさん?」
「恋の炎に身を委ねる喜びはお子様には分からないわ。あたしは『微熱』よ、もう忘れたの?『ゼロ』のルイズは頭の中身も『ゼロ』なのかしら?」

普段ならばここで直ぐに頭に血が上りきって、軽くあしらわれるルイズであるが、今の彼女は違う。何しろキュルケが求めている部分において、自分は勝利しているという確信が心に余裕を作る。

「あら、魔法は確かに『ゼロ』だけど、座学であたしに勝った事あるの? 人の頭を心配する前に自分の頭を心配なさい。ああ、お熱なんだっけ、御免なさい? 気遣いが足りなかったわ」

こういう喧嘩は先に頭に血が上った方が負けなのだ。そしてキュルケの怒りは既に隠しきれるものではない。こめかみが少し膨らんでいる。いまにも歯軋りの音が聞こえてそうだ。

「言ってくれるわね。『ゼロ』のルイズ。女性としての魅力も『ゼロ』なんじゃない? なによ、その真平らな胸は。あたしの方が良いにっ、てっ、ああっ」

百鬼丸は既に逃げ出していた。壮絶な舌戦が繰り広げられている一瞬の隙を突いて、気付かれないよう、既にどこかへ隠れてしまったようだった。一度だけ、自分達の罵倒の浴びせあいに流石にやりすぎだろうと止めに入られた際に巻き込んだからだろう、逃げることに躊躇いは無さそうだ。

「ああもうっ、どうしていつも邪魔するのよ、ヴァリエール。照れ屋な彼が行っちゃったじゃないっ」
「お生憎様、照れてるんじゃなくて相手にされて無いの」
「あんたがあたしの前で男女を語ろうろなんて十年早いのよ」
「はいはい、それじゃあたし疲れたし、もう帰っていいわよ」

あらぬ方を眺めながら右手をひらひらと振る。

「くっ、ちょっと待ちなさい。明日何時から出るの?」
「覚えてたの? お昼過ぎだって」

勿論嘘だ。後で朝一番に出るよう伝えておこうと考えながら。

「でもついてこないでね?あたしあんたが嫌いなの」
「そこだけは気が合うわね。あたしもあんたと一緒に歩きたくないわ。どうせ邪魔されるもの」

そう吐き捨てるように言うとキュルケは、ルイズにとっては気色悪い声で、百鬼丸の名を呼びながらどこかへ行ってしまった。恐らく百鬼丸は捕まるまい。

全力で逃げる百鬼丸は時に学院の外の森にすら潜むのだ。

「また勝ったのね、あたし」

真っ赤に輝く太陽は勝利の余韻に相応しいと、しばらくルイズはそこで勝ち誇ったように小さな胸を張り、一人夕日を見詰めていた。
なんだか虚しくなってきた。
しかしこれもいつもの事である。

「そう、勝利とは虚しいものなの」

勝利と敗北の綯い交ぜになった複雑な感情を受け入れるのも、仇敵の悔しそうな顔を拝めるのであれば代償としては高くない。積年の恨みを晴らすにはこの虚しさをあと幾つ乗り越えなければなら無いのか。遠い流浪の行き着く先に思いを馳せる旅人のような目をして、そんな事を口走る。

反省はしていない。





「ミス、ヴァリエール?」
「あら、シエスタ。今日は遅かったわね。あいつならもう逃げちゃったわよ?」

シエスタもルイズ同様に毎日ここへ来る。これは明らかに百鬼丸に恋をしているとルイズは確信している。あれだけの窮地に、文字通り身を挺して守ってもらえば、惚れた晴れたとなっても当然であろうし、平民にとっての百鬼丸は、貴族すらものともしない英雄らしい。

「そうでしたか。ふぅ、お仕事が、長引いたもので、急いで、きたんですけど」

少し息を切らしているのは言葉通り、余程会いたかったのだろう。
両手にぶら下げた籠の中には表面に水滴がうっすら白く覆っている幾つもの硝子瓶。
冷やした紅茶が中に入っている。
百鬼丸と生徒達への差し入れとして用意しているのだ。なんでもマルトーを始めとした厨房の料理人達も、英雄の為なら幾らでも、と過剰なまでに協力的らしい。時には菓子の差し入れもしてくれる。
しかし今日はその気遣いは余り無駄にならずに済んだ様だ。

「明後日からはもっと少なくってもいいわよ? 今日は誰も来なかったもの」
「え? あ、はいっ」

なんだか少し嬉しそうな返事だが、直ぐに沈んだ面持ちになる。
シエスタには悪いが、黒い髪には翳った仕草も良く似合うとルイズは思う。自分の桃色の髪も好きだが、シエスタの悲しそうな姿は、良く見るものとは情緒が違うのだ。
未だ肩で息をしている為、俯いて前髪が目元を隠すと、まるで泣き濡れているようで、夕日赤く染まった白の髪留めと、夜に向かって手を伸ばす周囲の情景も相俟って、思わず惹き込まれそうなほどの悲哀を醸し出す。許せる事ではないが、魔神も中々に見る目がある。

「毎日会ってるじゃないの」

今度は恥かし気に頷く。恋する女は美しくなる、なぞという仇敵の言葉は、なるほど今だけは寛大な心で評価してやろう。百鬼丸も贅沢な男だと考えたところで、何処か自分が年寄りじみている気がしてしまった。

「あたしも、女の子なんだけどな」
「何です?」
「ひとりごと。それ、飲んじゃったら?」
「いえ、貴族の皆様に用意したものですから」
「誰もいないわよ?」
「ええ、そうなんですけど、畏れ多くて」
「それじゃ、あたしの飲みなさいよ。あげるわ」

少し困った顔をしたが何度か薦めると、それでは、と礼を言い、薄い唇を瓶につける。
次はどんな顔を見せてくれるのか、なぞと淡い期待もあり、その姿に何が連想されるのか楽しみだった。

あまり注視する事のなかった平民の行動と言うのは、よくよく見ればルイズに常に新鮮なものを与えてくれる。シエスタに限らず、使用人達の日常の姿を眺めるのは、ルイズの密かな一人遊びとなっている。この子はきっと何処の子で、こんな風に育てられたのかしら、なぞと色々と考えてみると、とても面白いのだ。そしてシエスタが何かを口に入れるのをルイズは初めて目にする。
きっとまた、黒い瞳の少女ならではの光景が見られるに違いない。

ごきゅっと大きな音がした。

余程喉が乾いていたのか知らないが、高々と両手で瓶を掲げて飲む姿は、田舎育ちとは聞いてはいたものの、豪快すぎる。期待していたものと全く違うどころか真逆に位置するものだ。
そのままぐいぐいと飲み干していく。実に良い飲みっぷりだ。ここが酒場なら拍手喝采は間違いない。

「ふぅ、あら、如何なさいました、ミス・ヴァリエール?」
「あたしね、幻想って大事だと思うの」
「詩的ですわね」
「そしてとっても儚いものなのよ。いま分かったわ」

難しいですわ、と小首をかしげるシエスタ。その小さな仕草が今はどうにも不釣合いに思えてしまった。

「で、少しは落ち着いた?」
「ええ、お心遣いありがとうございます。でも、今日はどちらに行かれたのでしょう」
「さあ? どうせ夕食の時間になったら帰ってくるんじゃない?」
「犬じゃないんですから。まあ、そうなんでしょうけど。それで、またミス・ツェルプストーと?」
「ええ、また勝ってしまったわ」

再び遠い目。そろそろ夕日も城壁に隠れそうだ、期待していた風景と違った。

「差出がましいですが、程々になさいますよう」
「キュルケに取られちゃっても良いの?」
「駄目です」

中々言う。この一見物腰の柔らかい娘も、百鬼丸が絡むとすぐ強情になる。

「そう言えば、明日暇かしら?」
「いえ、明日は少しだけお仕事が」
「そうなんだ、百鬼丸とミスタ・コルベールがお出掛けするって言ってたから」
「ええ、昨日は一緒にお食事を取られてまして、その時に。本当に残念ですわ」

虚無の曜日でも使用人たちは必ずしも休日とはいかないようだ。普段は手の届かない場所でも掃除するのかもしれない。

「そっか、あんた百鬼丸の餌係だったもんね」
「もうっ、またそんな言い方」
「いいのよ。それで、何時出るか聞いてた?」
「お昼前だと伺っておりますが」
「朝御飯終わったら直ぐって言っといて?」
「ご一緒に行かれるのですか、羨ましいです。でも何故?」
「キュルケが」
「しっかりと、お伝えしておきます」

恋は少女から可憐さだけでなく、逞しさまで引き出すらしい。勝手に抱いた幻想を守ろうと、会話を止めそのままぼけっと日が沈むまで夕日を眺めていた。シエスタも何やら見入っていたようだ。

「本当に、有難うございます。毎日見てたのに、とっても綺麗で」
「もう、またその話? いいわよ、聞き飽きたし」
「何度申し上げても、足りないくらいですわ。ですが飽きたという事でしたら止めておきます」
「ええ、今日は面白いものも見せてもらったし」
「ご満足頂けた様で何よりです。 最近楽しそうに私供を見られていましたもので、つい」
「シエスタ?」
「小さい頃によく笑われまして。余り人前では致しませんの。ヒャッキマルさんには内緒ですよ? あたくしも女ですから。ではお仕事がありますので失礼致します」

どうやらルイズの短い絶頂は当の昔に終わっていたらしい。
さて、明日は誰の日だろうか。


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