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No.27313の一覧
[0] 【チラシの裏より】 ぜろろ (ゼロの使い魔×PS2ソフトどろろ)[たまご](2011/04/29 23:31)
[1] 第二話 地獄堂[たまご](2011/04/20 14:53)
[2] 第三話 地獄堂と百鬼丸[たまご](2011/04/20 14:54)
[3] 第四話 談話一[たまご](2011/04/20 14:55)
[4] 第五話 談話 二[たまご](2011/04/20 15:03)
[5] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール[たまご](2011/04/20 15:21)
[6] 第七話 遊び[たまご](2011/04/21 01:04)
[7] 第八話 部屋[たまご](2011/04/21 01:17)
[8] 第九話 会談[たまご](2011/04/22 23:10)
[9] 第十話 決闘[たまご](2011/04/25 20:40)
[10] 第十一話 露見[たまご](2011/04/25 20:54)
[11] 第十二話 困惑[たまご](2011/04/28 23:03)
[12] 第十三話 気配[たまご](2011/04/29 19:34)
[13] 第十四話 わらうつき[たまご](2011/04/29 19:29)
[14] 第十五話 悲鳴[たまご](2011/04/29 19:36)
[15] 第十六話 棘[たまご](2011/04/29 19:54)
[16] 第十七話 捜索[たまご](2011/04/29 20:02)
[17] 第十八話 魔神戦[たまご](2011/04/29 20:17)
[18] 第十九話 ようこそ、ここへ[たまご](2011/04/29 20:43)
[19] 第二十話 幕間 その一  ~人知れぬ涙~[たまご](2011/04/29 21:58)
[20] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等[たまご](2011/04/29 21:57)
[21] 第二十二話 幕間その三 因果[たまご](2011/04/29 23:02)
[22] 第二十三話 妖刀[たまご](2011/05/14 04:44)
[23] 第二十四話 日常[たまご](2011/05/06 18:53)
[24] 第二十五話 デルフリンガー[たまご](2016/06/29 00:38)
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[27313] 第二十二話 幕間その三 因果
Name: たまご◆9e78f565 ID:598d56d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/29 23:02



「何故許可したのですか、危険すぎますっ」
「ほほ、何を恐れることがあるか、心配しすぎじゃないかねミスタ・コルベール? そんな事じゃから、」
「それはもういいですっ、そうではなくて、余りに危険すぎるでしょうっ、風の魔法は目に見えないのですよ?いくらヒャッキマルさんとて只ではすみません、そうなってしまえば、」

風の魔法が戦闘に適すと言われるには勿論理由がある。その一つとして、魔法を感知しやすいメイジならばともかく、平民にとっては、全くと言って良いほどその攻撃が目に見えないのだ。

遠見の鏡による監視にすら気付いた百鬼丸であれば、あるいは風でさえ読むのかもしれないが、確信が無い以上危険すぎるとコルベールは考えていた。
そしてもし、見えないとすれば、彼の性格を鑑みて今回の計画を立てたのは自分だ。

彼からの降参は有り得えない。

ならば命の危機を感じ取った百鬼丸の持ち出す手段は、最悪の場合、考えたくも無いが、足の大砲の使用。
そうなってしまえば、どちらかが死亡ないし重症となっている可能性が高く、また義肢を曝した百鬼丸を学院に置く事すら困難になりうる。彼を良く知る自分やルイズならその限りではないが、彼の体は彼が恐れる通り、異常であることは間違いないのだから。
計画失敗どころの話ではない。

「見えておるよ」
「見えてっ、はい? 何がです?」
「じゃから、ヒャッキマル君じゃよ。彼には、風の魔法が見えておる。というか、感じるのじゃろうな」
「はぁ、しかし何故分かるのです?」
「なんじゃ、おぬしも気付いておらんかったのか。まぁ多分ヒャッキマル君も、わしが仕掛けとは気付いておらんがの」

第一演舞の際、百鬼丸の背後を狙った石塊の奇襲に念を入れたかのような、しかし気付かれないようにと放たれた小さな風の刃。実はオスマンがこっそりと放ったものであった。

コルベールでさえ気が付いていたなかった事に、自分の腕もまだまだ鈍ってはいないと、楽しそうに伝えられる。

「そんな事をしてたんですか? しかし、いや、まさかこの為にっ」
「そうじゃ? 何ぞ文句でも有るかいの?」

隣にいたシュヴルーズとギトーは当然気が付いていただろう。
演舞の最中ならいざ知らず、終了の合図の後に行使された魔法に対して、いくらそれが隠そうとしたものであっても、隣にいても知覚出来ないようであれば、魔法学院の教師として失格である。

「有りますよっ、大有りです、第一、もし彼がかわせなければどうなっていたとっ? おまけにミスタ・ギトーに、って、ああっ」

そこまで言って気が付いた。コルベールは、オスマンが何を考えていたのか気が付いてしまった。

オスマンの行動に対し不思議そうな顔をしたシュヴルーズには、ちょっとした悪戯だと説明し、口止めしたそうである。道楽好きの暇人の悪い癖がまた始まった、としか思っていないであろう。
しかしギトーに対しては何も伝えていないそうだ。恐らく何か、勝手に勘違いをしている事であろう。

コルベールが両者の対決を回避しようと考えていたのに対し、オスマンは始めから百鬼丸とギトーを戦わせる気でいたのだ。

「ほっほっほ、やっと気が付いたか、まだまだじゃのう、うむ、実に愉快」
「全然愉快じゃありません……ヒャッキマルさんが、かわせないとは考えなかったのですか?」
「後ろからぶつけようとした花瓶でさえ切ったんじゃ。遠見の鏡に気付いた事も考えれば、かわす、と考える方が自然じゃろ?」

相も変わらず肝の据わった事である。怒りを通り越して呆れるしかない。

「おぉ、偉大なる始祖ブリミルよ、哀れな男をどうかお助けください」

もう振り回されてばかりの人生は嫌気が差すと、ハルケギニアに始めて降り立ち、エルフの脅威さえ払い、魔法という素晴らしき祝福を人に与えた給うた偉大な存在に助けを求める。

御前と同様に偉大なる、と称される、隣にいる老耄は慈愛も、憐憫も、安息も、平穏も、何も己には与えてくれません、と。

「ギトーくんのことかいの?」
「ええ……そうです、そうですよ」

しかも百鬼丸の勝利を信じて疑っていないらしい。
偉大なる始祖よ、私を苦しめる罪深き咎人に、どうかその御業もて、怒りと裁きを与え給え、とは流石に口に出来なかった。

「第一、君、そんなに敬虔じゃなかろうて?」
「先程啓示が下りまして」
「生えるかの?」
「……無理だそうです」


始祖は時に現実と同様に無慈悲である。





先程よりもかなり大きな輪を形作る生徒達。
魔法学院は学院長室の有る本塔を中央に、周囲に五角形の各頂点に五つの塔を配置され、一際高い本塔から、その半分ほどの高さの各塔へ、そして隣り合う各塔を繋ぐ巨大な壁に仕切られた構造である。

四つの塔は魔法の属性を意味し、『水』『土』『火』『風』そして、本塔はかつて始祖が使ったという、今は失われた『虚無』を象徴している。残りの一つは寮塔である。
配置は正門から右回りに、水、風、火、土、寮塔の順で正門は寮塔と水塔の間。
本塔から通路として各塔へと渡る壁は、寮塔へだけは存在せず、そのため本塔、寮塔、土の塔、水の塔、四つの塔に囲まれたアウストリの広場と呼ばれる場所がもっとも大きな面積を持つ。

剣術披露会は、その過激な内容から、当然その広場で行われているのだが、広大な敷地であるにも関わらず、壁を真後ろに立つ者さえいるほどに広がっていた。 当然、生徒達の危険防止のためだ。

風の最高位のメイジの放つ魔法はそれ程に、広い範囲に影響を及ぼし、なおかつ危険なのだ。
実戦形式の模擬戦闘であることを考えれば当然の措置と言える。

輪の中央にはのギトーと百鬼丸。三メイルほど間を空けて、互いの持つ感情を隠すことなくにらみ合っている。

百鬼丸は憤怒。ギトーは侮蔑。

このギトーにとっては近すぎる、しかし百鬼丸にとっては多少遠い程度の両者の距離は、オスマンの指示によるものであった。
この指示を受けたギトーの反応は、それくらいの有利はくれてやると、こちらは実に予想通りの対応であったのに対し、百鬼丸の方はと言うとかなり意外であった。
自分にとって有利な距離であることは理解している筈だが、それを指示したオスマンと伝えたコルベール、二人の予想に反して、百鬼丸は何の異論も唱えずに承諾したのだ。

意固地で負けん気の強い彼なら、相手に有利な状況で打ちのめすと、息巻いているのではないか、そう考えていたのだから。コルベールとしては肩透かしを食らった気分である。
百鬼丸の控える天幕に、流石に不安になったのであろう、押しかけたルイズと共に、風の魔法の特性と、如何なるものがあるのかをコルベールは伝える。最も恐ろしい部類である、雷の魔法の事も伝えてある。

回避はほぼ不可能で、致死性も高いそれを、まさか平民の、しかも来賓である百鬼丸相手に、ギトーが使用するとは思ってはいない。そもそもギトーは、風、そのものに拘っているきらいがあるため、杞憂に過ぎないのだろうが、念のためである。

しかし、どれだけこの戦いが困難なものであるかを説いても、百鬼丸からの反応は薄い。今は感情を溜めに溜め、膨れ上がりきったものを一度に叩きつけようと、戦いに備えているのであろうか、彼の顔は、かつて見たこともない程に何も映さなかった。
オスマンの隣に控えるため、ルイズを残し、天幕を後にしたコルベールだが、彼の態度とあの無表情だけが、どうにも気がかりでならない。

「ここまできてまだ心配しとるのかね? この距離じゃ。おまけにミスタ・ギトーは慢心しとる上に相手を見縊りすぎじゃ。油断だらけじゃないかね」
「性分ですから」
「心配せんでも勝つわいっ」
「ええ、しかし、もしもの時は」
「わかっておるというに、少しはわしを見習えぃ」

口にも出したが、これは自分の性分だ。隣で憎らしいほどに泰然と構えるオスマンに、最早諦めてはいるが、恨めしげな視線だけは一応送っておく。

「そう致します、偉大なるオールド・オスマン」
「うむうむ、そうじゃ、そうじゃ」

微塵も見習うつもりは無いのだが、皮肉すらも通じない。
壇上から広場に居る者全てを見下ろしながら、予定通りに事が運んでいると一端の策士を気取っているのであろう、では始めるか、とご機嫌な様子で呟くオスマン。

「それでは皆の者、これより最後の演武『戦いの舞』を執り行うが、その前に」

これ以上何を言うつもりであろうか。肝を冷やす。

「この戦いは決闘でなく、互いの技を競うものであり、勝敗は魔法と剣の優劣を競うものではない。貴殿らはその結果を恨むことなく、正々堂々と戦う事を誓えるであろうか? ミスタ・ギトー」
「我が杖と、大いなる始祖にかけましても」
「うむ、ミスタ・ヒャッキマル」
「……父の名と、剣にかけて」

案外まともであったと安心した。

「今、両者の誓いを得て、ここに居る諸君らがその証人となる。さきも述べたとおり、魔法と剣はこの戦いに最早なんの関係も無い。手にするものは違えど、互いの極める技を競うものである。故に諸君らも同様、何に拘ることなく、ここに立つ二人に惜しみない声援を送ればよい」

つまるところ、貴族の魔法が、平民の剣に負けたところで、この戦いには恨み言はなしと、百鬼丸の勝利を信じるオスマンはそう言いたいのであろう。
そしてそれを宣言する事で、生徒達から、百鬼丸の立場と貴族の名誉、そして魔法の権威を守ろうとしているのだ。案外、と言うと失礼だが、ちゃんと考えてはいるようだ。


さて嫌われ者のギトーと、平民の百鬼丸。
応援するならどちらかと、やはり悩んでいた生徒も多かったのだろう、そこかしこから、やれギトーを懲らしめろだの、今こそとっちめろだの、怨念晴らすべしとの声が聞こえ始める。

勿論ギトーに対する声援も確かに存在する。ギトーは嫌いであるが、魔法の実力者であり、貴族を代表して戦うから応援しているだけで、オスマンの宣誓の手前、声高にそれを叫ぶ事が出来き無い様子だ。
弱弱しく感じるのは恐らく気のせいではない。その証拠に、頑張れ、負けるな、くらいの語彙に乏しい声しか聞こえない。

なるほど、盛り上げる為にも良い手であると、コルベールにはやはりオスマンの考える事の真意など推し量れない、そう感心したのも束の間、只々得意げな、皺だらけの顔を見ると、単に調子に乗っているだけなのかもしれないと、投げやりになった。

「それでは両者構えてっ」

未だ余裕めいて片手を後ろに回しているギトーに対し、百鬼丸は今か今かと毒々しい刃を構え、明らかに力を溜めていた。

「始めぃっ」

では、とゆっくり杖を掲げるギトーに向かい、百鬼丸は正しく爆ぜるかのごとく猛然と走り出す。
驚きはしたものの、よもや風の魔法はかわせまいと、風の刃を一つ生み出し放つが、見えるとばかりに僅かに体をずらすだけでそれを避け、慌てて次をとした時には、百鬼丸は既にギトーの胸の内、気が付けば鍔は顎先、首筋には禍々しい刃がその根元から、触れるか触れぬか程の距離で、ぴたりと止まっていた。

速い、とは誰の呟きであったのか。

勝利を宣言する事すら、生徒はおろか、オスマンも、脇に控えるコルベールも忘れていた。
余りの出来事に呆然とするのは無理も無い。いくらなんでもこの決着は早すぎだ。

ふと、百鬼丸の口が、ギトーの耳元に近づき、僅かに動いたのをコルベールは気が付いた。なにやら分からぬがこれはまずい、とオスマンに声をかけようとするが、それより先に百鬼丸が素早く飛び退き、怒りに塗れた声で叫ぶ。

この男は本気を出していない、これは侮辱である、と。

わっ、といたる所から声があがるが、それに沈まれと、風を使って爆音を鳴らした『疾風のギトー』は、憤怒の表情をひた隠し、大仰に深く一礼したまま顔を伏せ、震えた声で、さも冷静であると、謝罪の言葉を述べた。

「誠に失礼、貴殿の技に誠意を欠いた事、貴族としてあるまじき非礼について、恥を忍んで今一度、どうか手合わせ願いたい」

再び巻き起こった歓声は、続きを促すと共に、始まりの合図となる。

「オールド・オスマンっ」
「やられたっ、なんと意固地なやつめっ」
「早く止めねば」
「もう収まらんっ、落とし所を見過ごした、わしとした事がっ」

しかし、と言葉を遮るも、

「今は待たぬか、このまま終われば意味が無い、多少は痛い目みてもいいじゃろう、しかし、あやつめっ」

無事終われば良い、とのコルベールの思いを知ってかしらずか、百鬼丸は考えられるあらゆる手段で、ギトーに恥をかかせ、その傲慢な鼻っ柱を圧し折ってやろうと考えていたのだ。聞き取る事は出来なかったが、恐らくギトーに呟いたのは、彼を煽るような言葉。

どうせ、弱い、本気で来い、とでも言ったのであろう。

そして彼が見せた仮面の如き無表情は、己の考えを悟られまいと、滾りに滾った怒りを隠す、正しく仮面だったのだと得心する。 それみたことか、とオスマンに皮肉るほどの余裕も既に無い。

目の前、手の届かぬところで既に二人は再び戦い始めだした。

風の刃を無数に放たれるも、走り、飛び跳ね、体を捻り、伏せて、これをかわし、あわや当たると思いきや、風の刃に己の刀を沿わすように、鎬を平手で抑えて、細長い刀すらも盾へと換える百鬼丸。

甲高い音が周囲へ広がる。

全てかわしきると、地を這う獣の如く、体を低くして走り出す。
二度目は無いと、己の正面に横殴りに、人一人なぞ容易く吹飛ぶほどの暴風でもって、風の壁を巻き起こすギトーに対し、いくら自分でもこれは切れぬと、風に袖口が巻き込まれるのを、百鬼丸は体ごと退く事で免れた。

「どうだ、風は何者も吹き飛ばし、通り抜ける事はおろか、貴殿の自慢の剣でさえ、斬る事すらも出来ぬのだ」

返事はしない。しかし切っ先を地面に向け、がつんと鍔を拳で叩き、これを外すと、風の流れる筋を読める百鬼丸は、その筋と水平に角度をつけて、目標よりも僅かに横を狙って、勢い良く鍔を投げつける。
その小ささに対して重たい鍔は、風の流れに側面を向ける事で、軌道に大きくは影響を受けない。

強かに腕を打たれ風の結界が緩んだギトーの隙を狙って百鬼丸は再び地を這うも、今度は真上から、空気を固めた巨大な槌をもって迎撃される。

目指すは敵のみとは百鬼丸。

更に力を込めて地を蹴り、またもやギトーの正面へと抜けると、短い詠唱で済むのであろう、一瞬きの強烈な風に吹き飛ばされるが、空中で見事蜻蛉を切って片膝付きながらも着地すると、横っ飛びに転がった。
百鬼丸のいた地面が切り刻まれる。


一進一退の攻防はその激しさを増すばかりであった。周囲は最早、やれ平民なぞと蔑むことなぞ出来ようものか。

「どうした、おれを殺せないのか」
「平民如きがっ」
「言ったな、貴族めっ」
「調子に乗りおって」

ギトーも既に我慢ならんと、距離を取る為、風を自身に向けて吹かせると、その勢いで後ろに下がり、己の周囲を嵐で囲む。慣性で流れ続ける風を盾として、長い詠唱に入った。

敢えてそれを使わせて叩き潰す気であろう、百鬼丸は動かない。

しかしその詠唱を僅かに耳にした時、ギトーは本気で戦うつもりだと、コルベールもオスマンも気が付く。

「オールド・オスマンっ」
「いや、待て、どうやら無事終われるぞ?」

ギトーの姿が、幻ではない、三人に増えた。

ギトーの使った魔法は風の魔法で最も恐ろしいとされる最高位の魔法。
『遍在』と呼ばれるその魔法は、風は遍く存在する、という言葉に因んでつけられ、その効果は、行使した者と同じく思考し、同じく魔法が使える分身を作り出すという、風は最強とギトーが語るに相応しい程の驚異的な物。

それを認めるや否や、百鬼丸はそれまで手にしていた、オスマンにより作られた刀を後ろへ放り、背中に背負った彼本来の武器を抜き取り、腰に差し替え、音も立てずに朱色の鞘から刃を引き抜く。


ぎらりと光る白刃が、何故かこれまで以上に凶悪な代物に見えた。
百鬼丸も本気だ。

もうこれ以上は互いの無事はありえない。 コルベールは再び悲鳴の如く呼びかけた。

「もう良いでしょう、オールド・オスマンっ」

うむ、と一声、老人とは思えぬ程の気迫に満ちた声を上げ、終了の合図を鳴らしたのだった。

「それまでっ」

はっと正気に戻ったかのようなギトーに対して、邪魔をするなと見える百鬼丸。その両者は、正反対のようでありながら、しかし制止をかけたオスマンに対し、まだ足りぬと、同じ心中であるようだ、目が示している。

「これ以上戦う事は罷りならん、両者ともに素晴らしき技を持つ事は周囲の認めるところである、そうであろうっ?」

周囲に巻き起こる歓声は、オスマンの問いに対して同意を高々と表すものであった。
聞くまでも無いと分かっているが、しかし今はこうするのが一番良いのだ。

「ならば優れた二人が傷つく事を、このハルケギニアの地のためにも良しとはせぬ。
結果は引き分け、両者無傷で、しかしその研鑽を遺憾なくこの目に見せてもらった故に、最終演武はこれをもって終了であるっ」

オスマンの宣言により、二人は不服ながらも戦いを終えざるを得ない。終了したにも関わらず相手に挑みかかるとすれば、百鬼丸にとってもギトーにとっても、オスマンを軽んじる行為であるし、卑怯の謗りを受けたくは無い。

両者は思い通りにはいかない事に不満は有ったが、潔くオスマンの裁定にしたがい、しかし互いの健闘すら称えるつもりは無いのだろう、会釈するのみに留まった。
兎にも角にもこれを合図に、虚構に塗れた剣術披露会はその目的を大いに遂げ、何とか無事終了となったのであった。





「何で止めたっ」

学院長室、オスマンの座る前にある机を握り拳で叩き、百鬼丸は未だ頭に血が上ったままの様子である。百鬼丸の後方にはコルベール。閉会の口上を終えたオスマンに、まだ何か言いたそうであった彼を、ここではまずいと何とか宥め、コルベールがつれて来たのだった。

「君はすぐ頭に血が上る。それだけは直さんといかんよ」

そう言うと杖をふるって魔法を行使するオールド・オスマン。

床から一メイルほどの空中に百鬼丸の体が宙に浮いた。

「うわっ、何しやがる、降ろせっ」
「ミスタ・コルベール?」

ため息をつくと、コルベールは小さく弱弱しい炎を杖の先に留めて、宙へ浮かぶ百鬼丸へと向ける。オスマンの企みに乗るのは気に入らないが、百鬼丸に多少の灸を据えねばならないと言うのは同意する。

「何のつもりだっ」
「まだ分からんのかね、いくらおぬしが強くても、こうされたらどうする?」

押し黙る百鬼丸。

「先程ギトー君が見せた遍在の魔法は、こういうことを可能にするのじゃ。あの勝負、おぬしの負けじゃ」
「負けてない」

いや、彼の負けだ。遍在を出したギトー相手に百鬼丸が勝てるとはよもや思ってはいない。それを抜きにしたとしても、仮にギトーがこの方法を、あの場で使ったとすれば、既に百鬼丸は負けなのだ。いくらギトーも頭に血が上っていたとは言え、考えないとは言い切れない。
そしてメイジ二人を相手にすれば、勝つことはおろか、抵抗する事すら出来ないと周囲に思われてしまうし、それを打破するためには、手は限られる。

「ほ、大砲でも使うつもりだったかの?」

悔しそうにうなる百鬼丸を眺めながら、それでもオスマンは言葉を続ける。

「他人を卑下するものを嫌い、正面から立ち向かうおぬしの気概は、わしもコルベール君も素晴らしいものだとはおもっとる。ギトー君も勿論悪い。じゃがなんでも力だけで解決しようとするのは感心できんのぅ。そもそも此度の剣術披露会は何故やらねばならんかった?」
「……おれの所為だ」
「そうじゃ。何も出て行けというとるわけじゃない。何処へ行っても同じことじゃ」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ」
「やり方も時には考えろと言うとるんじゃ。もうこの学院でおぬしの力は証明された。無碍に扱うやつもおらんじゃろ。ここに勤める平民達の地位向上にもつながる。彼らが不当な扱いを受けていたら、おぬしは助けるじゃろ。じゃがもう剣はいらん」
「じゃあ、どうするんだよ」
「わからんやつじゃのう、何のために言葉がある?人の群れの中で暮らすのならばおのずと必要になる」
「今までだってこうしてきたんだ」
「これからは今までとは違うっ、円満に終える方法もちっとは考えんかっ」

百鬼丸は力を振るう事でしか守る事が出来ない状況に生きてきた、と言うのは理解できる。 彼は平民で、旅人で、何の権力もなかったのだから。恐らく自分の国にいた時から身分としては余り変わらなかったのだろう。

しかし今回の件に関しては些か違う。相手を打ちのめす事しかそこには無かったし、多少は自分の持つ厄介さと言うのを、この計画を教えた時に少しは理解しているものとコルベールは思っていた。

オスマンにしても同様なのであろう。そしてオスマンが怒鳴ったように、学院においては既に、これまでと違う方法で己を押し通す方法を百鬼丸は考えなければならないのだ。

言うや否や、魔法を解き、百鬼丸を床へと降ろす。

「とにかく、頭を冷やせっ」

話は終わったと言わんばかりに、言うや否や百鬼丸に対し背中を向けて、オスマンは黙る。 些か物思いに耽りながらも、百鬼丸もそれを読み取り、扉の前でぺこりと頭を下げ、部屋を後にした。

「偉大なるオールド・オスマン」
「なんじゃねミスタ・コルベール?」
「流石です」
「煽てても何も出んぞ、わしゃ今機嫌が悪い。君も早々に」
「いえ、流石と言うのはそう言うつもりで申し上げたものでは」
「で、では、な、なんじゃというのかね?」

百鬼丸を諭すためにと、敢えてコルベールは乗っただけで、決して騙されない。

「今回の騒動の原因は誰ですか?」
「……」

ぎくりと動いた肩が何よりも雄弁に物語っている。

「誰ですか」
「んー、百鬼丸君?」

次はしらを切るつもりか。

「嗾けたのは?」
「ギトー君」

なんと往生際の悪い。

「じゃあそれを嗾けたのはっ?」
「大いなる始祖の御導きじゃっ」
「あなたですよ、あなたっ」
「全て計画通りじゃ、ギトー君は遍在まで見せたんじゃぞっ? 禍根も残さず痛み分けじゃ、大成功じゃないかねっ」
「結果論じゃないですか、それにあなた、やられたってあの時言ったでしょうっ?」
「ぐむ、しかしヒャッキマル君にも忠告できたし? そうじゃ、万々歳じゃ」
「結果論です、とっ」
「偉大なる始祖のお導きじゃいっ、それもこれも、わしの日ごろの行いが良いお陰だもんねー」

拳を握り締め、今日と言う今日は引き下がらないと捲し立てるコルベールに対して、オスマンは子供じみた言い訳を続ける。
そんな二人の遣り取りは当然知る筈も無く、百鬼丸はというと自室で少しばかり悩んでいた。

何時になるとも知れぬが、全ての魔神を倒した時、己は人となる。そして人の群れの中で生きるのなら、己はまだ人として未熟であると認めざるを得ないと、百鬼丸はオスマンの言葉を真面目に捉えていたのだった。


「大体あなた、そんなに熱心な信徒じゃないでしょうっ」
「先程啓示が下っての」
「……生えますか?」
「……無理じゃって」

誰しも望む世界を作る事は、偉大なる始祖の力を持ってしても不可能である。

「わしはふさふさじゃもんねー」
「……」

そして己を満たそうとする欲望の影に、魔神は存在するのだ。

「あっ、いや、すまんっ、いや、すまんって、何でもない、全部わしが悪いっ」

ならば果たして絶対的な善悪は存在するのであろうか。
今だけは考えたくなかった。


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