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No.27313の一覧
[0] 【チラシの裏より】 ぜろろ (ゼロの使い魔×PS2ソフトどろろ)[たまご](2011/04/29 23:31)
[1] 第二話 地獄堂[たまご](2011/04/20 14:53)
[2] 第三話 地獄堂と百鬼丸[たまご](2011/04/20 14:54)
[3] 第四話 談話一[たまご](2011/04/20 14:55)
[4] 第五話 談話 二[たまご](2011/04/20 15:03)
[5] 第六話 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール[たまご](2011/04/20 15:21)
[6] 第七話 遊び[たまご](2011/04/21 01:04)
[7] 第八話 部屋[たまご](2011/04/21 01:17)
[8] 第九話 会談[たまご](2011/04/22 23:10)
[9] 第十話 決闘[たまご](2011/04/25 20:40)
[10] 第十一話 露見[たまご](2011/04/25 20:54)
[11] 第十二話 困惑[たまご](2011/04/28 23:03)
[12] 第十三話 気配[たまご](2011/04/29 19:34)
[13] 第十四話 わらうつき[たまご](2011/04/29 19:29)
[14] 第十五話 悲鳴[たまご](2011/04/29 19:36)
[15] 第十六話 棘[たまご](2011/04/29 19:54)
[16] 第十七話 捜索[たまご](2011/04/29 20:02)
[17] 第十八話 魔神戦[たまご](2011/04/29 20:17)
[18] 第十九話 ようこそ、ここへ[たまご](2011/04/29 20:43)
[19] 第二十話 幕間 その一  ~人知れぬ涙~[たまご](2011/04/29 21:58)
[20] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等[たまご](2011/04/29 21:57)
[21] 第二十二話 幕間その三 因果[たまご](2011/04/29 23:02)
[22] 第二十三話 妖刀[たまご](2011/05/14 04:44)
[23] 第二十四話 日常[たまご](2011/05/06 18:53)
[24] 第二十五話 デルフリンガー[たまご](2016/06/29 00:38)
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[27313] 第二十一話 幕間その二 喧嘩上等
Name: たまご◆9e78f565 ID:598d56d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/29 21:57



珍妙な姿で情け無い言葉を吐きながらも、百鬼丸の剣技は、やはり周囲の殆どを驚嘆せしめた。
眼にも留まらぬ速さで、それでいて正確に石礫を叩き落し始じめたその姿に、舞、という演目名の意味を、見るもの全てが理解する。
百鬼丸は知らないが、一分の無駄も無いその体全ての働きこそが、華麗に踊るかのような印象を見るものに与えるのだ。
礫の数は、以前シエスタを生徒から守った時とは、比べ切れぬほどに多いが、背後に庇うもの無く、また、傷むこと無い刀を振るう己の動きを縛るものは、今は何も無い。
それを理解した百鬼丸は、ますますその本領を発揮する。
百鬼丸にとっては小恥ずかしい『礫の舞』の名は、それを見るものにとっては、正しく相応しいものと言えた。

「驚いたな……」

とは百鬼丸自身の呟きである。余裕がある。
時にかわし、時に手の甲を僅かに掠らせ軌道を逸らし、同時に複数叩き落したかと思えば、体を捻って腰の鞘で礫を防ぐ。
魔神から取り返した右目のおかげで、自身の技が冴え渡るのを自覚した。

「それまでっ」

終了の合図と共に、ぱちんと、敢えてわざとらしい音を立て、刀を鞘に戻した。
礫の雨も止み、己の体をまともに打ったものは一つとして無い。
これにて一先ず終了か。

いや、もう一発、大きい。

終了の合図が鳴ったにも関わらず、百鬼丸を狙うそれは、先程も幾つか混じっていたのだが、それらに輪をかけ明らかに大きい。
既に上空に上げられていたのであろう、落下にあわせて再び力を持ち、背後を狙っている事から、死角を狙っている事には間違いなく、打ち合わせとは違う。

「む、」

そこへ来て右の爪先を狙う鋭い風の流れに気付いた。
ひょいと軽く右足をあげると、土踏まずがあった辺りの地面が、刃物で斬られたかのように、親指の丈ほど僅かに抉れる。
これも含めて、生徒達は余興と考えているのだろう、期待気な眼差しだ。
が、礫と呼ぶには大きすぎる、人の頭ほど在るそれと、今しがたの風の刃には明確過ぎる害意を感じる。特に足元を狙った奇襲は、恐らくほとんどの者が気付いていない。

良いだろう、応えてやろうじゃないか。

その誰にも聞こえぬ声は、周囲の期待に対しても、そしてその中に混じる悪意に対しても。
上げた足を再び支えに、寸前で体を捻り、掬い上げるような大振りの一刀で、これ見よがしに真っ二つに切ってみせた。
沸きあがる歓声の中、百鬼丸は相手を睨み付ける。オールド・オスマンの右手にいる男。黒いローブに身を包んだその男は、挑発的な笑みを隠そうとはしない。
売られた喧嘩は買う主義だ。だが、恐らくまだ何か仕掛けてくるつもりだろう。
相手、いや、敵は哂っているのだから。

ふん、と鼻を鳴らし、百鬼丸は取ってつけたかのように立礼すると、生徒達の手前、苛立ちを隠し、悠然とした足取りで馬蹄の輪から抜け出した。

「ううむ、一発くらい当てるつもりだったんじゃが」
「ええ、驚かされます。明らかに進化とでも言いますか、向上しておりますな。目が見えるようになったおかげでしょう」

オスマンも百鬼丸の体と、魔神との関係は既に聞き及んでいる。

「しかし、どうします?」
「放っておけ。調度良いくらいじゃ」
「しかし、もし何かあっては」
「自分で片付ける」
「ヒャッキマルさん?」
「ああいう手合いは、気に喰わん。着替えてくる」

近づいてきた百鬼丸はそれだけ言うと、天幕の中へ引っ込んだ。
当然だが、不機嫌極まりない。

「ヒャッキマル君もああ言っておる事じゃし」
「まあ、そう言う事でしたら、しかし何が起こるかわかりませんぞ?」
「君は心配性じゃのう、ミスタ・コルベール? だから禿げ……、いやっ、は、はげっ」
「……オールド・オスマン?」
「は、激しい戦いになりそうじゃっ」

真面目ぶって、虚空を睨みつけるオールド・オスマン。
そして忍耐は美徳であると考えてはいるが、それと同時に、時には容易く激情に身を委ねる事も、精神を保つ為には必要だと、コルベールは思うのである。





さて、今回催されたこの剣術披露会。百鬼丸が嫌がっている通り、正しく見世物である。
しかし決してオスマンの娯楽なぞではない。
きちんと目的が二つあり、その目的を達成する手段としてこの剣術披露会が行われているのだ。
オスマンは飽くまで、ついでに、そして出来るだけ、楽しんでいるだけである。因みにルイズはルイズで、百鬼丸にとっては迷惑甚だしいのだが、彼女なりに真面目に考えていた。
それはともかく、これを行う二つの目的。
内一つは既に達成していた。
一つ目の目的は、百鬼丸という人間が学院に存在し、それは不自然な事ではない、と学院内の人間に周知する事。
彼を学院に留めると言う前提を崩す事は出来ない。
シエスタを救出する際に見せた、魔神の気配を察知する能力を持つ百鬼丸は、下手をすればハルケギニア全土すら脅かしかねない魔神に対抗する、現状では唯一の存在なのである。
そして、そんな彼を預ける場所が、今は学院を置いて他に無い。

故に暫くここに留まる事になるであろう彼を、いつまでも正体不明の平民のまま置いておく訳には行かないのだ。ルイズの使い魔にでもなるのであれば、まだ話は早いのだが、百鬼丸は勿論の事、ルイズも何か思うところがあるのであろう、それを良しとしなかった。
よって、百鬼丸という人間は何時、何処から、どのように、何の目的でやってきた、どんな人物であるのか。
既にコルベールの前口上をもって、百鬼丸の経歴と今に至る経緯を周囲に知らしめ、その目的の一つを達成していた。

そしてもう一つの目的。これこそが、現在、学院の為すべき最重要課題である。

それは、百鬼丸と貴族との衝突を防ぐ事。

百鬼丸を学院に留めるという前提によって、魔法学院は常に問題発生の可能性を抱え込むことになった。
まず、百鬼丸の性格と、貴族の価値観の差を考えた時、既に前例もあるのだが、衝突する事は間違いない。
貴族の殆どは平民を蔑み、百鬼丸は他人を蔑む人間を嫌う。
そして悪意には悪意で、純粋な暴力に対しては、百鬼丸は同じく、純粋に暴力で対抗するのだ。
彼は蔑まれる事に対しても、蔑まれる他人を助ける事に対しても惜しみなく剣を振るうだろう。
彼に問題が無いとも言い切れないが、彼のその性格は修正できるものではなく、根幹に有るもの。
オスマンもコルベールも個人的にはその性格は好ましいとは思う。
それでも、そんな百鬼丸とその周囲を取り囲む人間、というか、貴族であるが、両者はその互いが、本来からして反発しあう性質なのだ。

百鬼丸の根幹を変えることは不可能。
同様に学院にいる全ての貴族の価値観を変えることは、これもまた不可能。

つまり百鬼丸と貴族との反発は避けられず、放っておけば両者の衝突は免れない。
これで百鬼丸が一方的に負けるのであれば何の問題も無いのだが、そんな可愛気は当然無い。

百鬼丸は、強い。これがまた問題なのだ。

シエスタを救出する際に百鬼丸が見せたその強さに対して、コルベールは危機感を覚えた。 よもや彼が、人間相手に足に仕込んだ大砲を向けるとは思わない。
しかし、それを抜きにしても、高位のメイジですら、彼と戦えば手傷を負う可能性があると考えたのだ。

魔神から右目を取り返したことで、更に身体能力を高めたのであろう、先程の彼の技の切れを見ればその判断は正しかった。
そして魔神を屠る毎に強くなるであろう彼を想像すれば、それはどれ程の力になるのか分からない。
おまけに、百鬼丸の様子から察するに、仕込んでいるのは間違いなく大砲だけではない。
剣と大砲のみでは武装としては極端すぎる。中間に位置する何かを、魔神を倒す事に全力を傾ける彼が持たないはずが無いのだ。
その劣等感から、見せたくないのであろう、彼はそれを、教えようともしてくれない。
ならば容易く聞きだせるようなことでもなく、未だ不明のままである。

恐らくは飛び道具、矢か銃か、はたまた見た事も無い武器なのか、その程度には推察してはいるが、彼がそれを見せない限りは明らかになることは無い。

そう、百鬼丸の強さの底が、まだ誰にも見えないのだ。

百鬼丸と貴族との衝突は、まず互いの暴力をもって始まる。
それは一方的なものでなく、貴族が傷を負い、あるいは負かされる。
そこへ権力が絡む可能性が実に高い。
それにより起こるのは、他国の生徒すら預かっているトリステイン王立魔法学院においては、下手をすれば戦争にすら発展しかねないほどに大きくなる場合も十分に有り得えるのだ。しかし魔神の脅威を考えれば、今は百鬼丸を留め置くより他無い。

百鬼丸は言わば、火薬庫の中に存在する、手放してはならない火種であるわけだ。

しかし両者の反発は先も述べたとおり必至。
ではどうするかと言うと、反発しても衝突しなければ良い。
では衝突を無くすということを目的と設定し、いかにこれを達成するか。
そのための手段が二つ。
一つ目は、百鬼丸に権力の後ろ盾を与える事。
これはオールド・オスマンという権力の後ろ盾を持っている事を周知することによって成される。
そして既にさきの目的達成と同時に完了していた。
百鬼丸はオスマンたっての希望で、学院に逗留している、とコルベールが紹介したのだから。
これにより学院内の殆どの人間は彼に手出しできなくなる。
しかしそれでも手を出してくる人間がいるであろうと予想された。そして現在正にその通りになっている。
それを踏まえたうえで、もう一つの手段。

百鬼丸は強い、と認めさせる事。

メイジ相手に手傷を負わす程に百鬼丸は強いと、オスマンの後ろ盾すら物ともせぬ輩に、そう知らしめる事なのだ。
これが、本日の『剣術披露会』に至り、過剰なまでに派手な『演舞』を行う理由であった。

平民を見下す貴族を快く思わず、魔法に対抗する力を持った平民の百鬼丸。
避けられない両者の衝突。

『学院を揺るがす問題がいつか必ず起こる』

これが現状である。
貴族の子女を預かる学院として、これを解決するのが急務である、とのコルベールの意見に対してオスマンも同じ考えであった。
そして解決策は先にも述べたが、要約すると以下の通り。

『百鬼丸に権力を与え、力を示し、何者も彼との衝突を避けようとさせる』

権力だけでも、力だけでも、反感を買うだけなのだ。
時間の経過と共に反感を呼び、衝突する可能性が高い。
両方を保持してこそ、その目的は為される。
そのための『剣術披露会』であり、『ヒャッキマルの紹介』と『演武』であった。
これにより、百鬼丸と言う消せない火種から、貴族という名の火薬は逃げる、となるわけである。

もちろん百鬼丸がそれを笠に好き放題する人間ではない、という人となりあっての事である。同時に彼の性格と力が現在の問題を抱えるに至る切欠でもあるのだが。
百鬼丸の性質により抱え込んだ問題を、その性質を使う事で解消するという、外から見れば実にお粗末と言わざるを得ない事実は、コルベールもオスマンも分かっている。
しかし事実は事実であり、対応は必要かつ急務。
モット伯殺害事件を調査する王宮からの使者の応対に奔走する中、問題児の百鬼丸に対してオスマンが憂さを晴らそうという気持ちも、多少は理解できると言うものである。
さて、その問題児であるが、百鬼丸の協力無しに成り立たぬ、彼にとっては面倒極まりないこの計画に何故協力するか。
出て行く、と言う選択肢は、百鬼丸の中には無かった。
いや、出て行きたくない、と言う方が正しい。
コルベールもルイズもシエスタも、三人のその人となりを、百鬼丸は好む。
オスマンは除く。嫌いではないが、彼に対する感情を百鬼丸はうまく言葉に出来ない。

好きか嫌いかで言えば、好き、といったところか。
しかしその全員が所属しているトリステイン王立魔法学院。
父である寿海を除き、己を人として扱ってくれ、そして尊敬もできる知己を生まれて初めて得たこの学院は、彼にとってはかつて無いほどに居心地が良いのだ。
彼はまだ気付いていないが、それらは同じく生まれて初めて得た友人である。
そして友人を得たこの場所は、彼が旅に出て初めて得た、己の居場所なのだった。

もっとも魔神を追うことこそ彼にとって最優先ではあるのだが、その所在は不明であるため、彼が学院を出ない、という理由はあるが、出ていきたい理由は、彼にとっても現状では存在しない。
ならば百鬼丸も学院に留まる事を前提とすると、自身のためにも世話になった恩人のためにも、彼は協力せざるを得ないわけである。
百鬼丸とて、好き好んで見世物になっている訳では無いのだ。

兎も角、魔神戦を終え、事後処理に奔走するその最中にありながら、思慮深く、学院の事を真摯に想うコルベールは、この計画を立案し、迅速に実行した。
その矢先、コルベールの危惧した通り、既に一人、しかもあろうことか教師である男が、彼に喧嘩を売っている。

それに対する百鬼丸は、先の会話の通り、買い叩くと言うもの。

剣術披露会を行うという結論に至る理屈の中に、見事なまでに納まっていた。
実に頭の痛いことである。
だが必ずしも悪い事ばかりでもない。
本来生徒の模範たる教師が、その様な行為に至るのはコルベールにとって誠に遺憾である。
しかしやりようによっては、絶好の機会とも言えるのだから。
百鬼丸に危害を加えようとする男、『疾風のギトー』と呼ばれる最高位に位置する風のメイジである。
『火』『水』『風』『土』と存在する四つの属性の中で、一般的に戦闘に、特に攻撃に適した属性は、『火』と『風』と言われている。

見た目通りの陰湿さと、その器量の狭さに、人望は全くと言って良いほど無いが、魔法に関してはそうでなく、学院でもかなり高い技術を持つ事は、誰もが認める事実である。
つまり、そんな『疾風のギトー』は、強い、とそう考えられているはずなのだ。
しかしその立ち振る舞いから、恐らく戦闘経験は少なく、条件さえ整えば百鬼丸が勝つ可能性はある、とコルベールは推察している。
とはいえ両者にとって危険なため、戦闘は避けるべき事だが。
ではそんなコルベールはどうかというと、従軍経験のある彼は、戦う事に関しては、実は学院の中でも一、二を争うほど慣れているのだが、普段は荒事を嫌い、その性格は実に温厚。また好奇心旺盛で奇妙な研究ばかりしており、貴族らしからぬ、特に荒事を避けるその言動から、強いと言う印象は全く持たれていない。

『頼りない変人』という表現が最も短く、かつ端的に彼の持たれる印象を表す言葉だ。

そしてそんな評判を知っていながらも全く頓着しない彼の様子が、さらにその印象に拍車をかけていた。誇りを持つべき貴族として、情け無い、と。
つまり、オスマンを抜きにして、学院に存在する中で、最も強い、と思われている筈のギトー。それを百鬼丸が倒せば、百鬼丸は学院の中で最も強い。
さらに学院長の後ろ盾。そんな相手に喧嘩を売る人間は失せる。
単純且つ強引ではあるが、こういった算段である。
言うなれば、剣術披露会を開く目的を達成する上で、ギトーは最高の人材なのである。

コルベールは認めたく無いが、最高の生贄、とも呼べる程に。
それでも百鬼丸がギトーに勝利した時、計画は大成功となるのだ。
故にこれは幸運に違いないと前向きにコルベールは考えるようにした。
問題は、直接対決を行わず、百鬼丸がギトーに勝利、あるいは同等の力を持つと証明する方法。これに関してはオスマンの口振りから察するに、何か考えがあるのだろう。
普段は飄々として昼行灯を装っているが、コルベールですら思慮に付かぬほど計算高い一面を見せる事があるオールド・オスマン。

その程度には信頼しているし、実はオスマンが何も考えていないなぞとは、コルベールは想像したくなかった。 頭皮、ではなかった、逃避する事くらい、偶には始祖もその広い御心で哀れな自分を許してくれる事であろう。
近頃冷たく吹く風は、心配性の自分の頭には優しくないのだ。
と、考え事をしていた間に、どうやら次の準備が整ったらしい。
せめて無事終わる事を祈りながら、不安を吹き飛ばそうと精一杯声を張り上げた。

「お待たせいたしましたっ!! 間もなく、第二演武『斬鉄の舞』始めますっ」

中央には既に百鬼丸の姿。因みに服は、流石にあの冗談でしかない柄の着物を着て再び人前に出るのは嫌だったので、元から自分の着ていたものに着替えている。が、刀はそのままである。次の演武を考えると、オスマンの用意した悪趣味な刀の方が、俄然適しているからだ。
この見世物の目的を理解している百鬼丸は、嫌々ながらも、その達成のために最適と考える手段を選択した。
再び馬蹄形に集まる生徒達。先程の派手な余興から、次は何が行われるのだろう、と期待を高らかにしている様子がありありと見て取れる。
百鬼丸は不機嫌ではあるが、先程までとは打って変わって、気勢が上がっている己に気がついていた。
敵がいる、その事実が百鬼丸の意気と集中力を高める。
人を守る事に力を惜しまぬ一方で、短気で意固地な青年は、己を見下し、挑戦してくる手合いには容赦がない。
育んだ環境と置かれてきた状況が彼をそうしただけで、この性質は先にも述べたように彼の気性でしかないのだ。
そして若さとは、その許容の範囲を左右する一つの要素に過ぎない。
さらに言うなれば、不機嫌な百鬼丸にとってギトーの侮蔑と挑発は、己の有り方を貫きつつも、溜まり溜まった鬱憤をぶつける格好の的であった。
普段であれば、進んで相手を嗾けるようなことはしない百鬼丸だが、自然、過激な行動に出るのも無理は無い。
再び馬蹄に組まれた生徒に囲まれる。先程までオスマンと二人の教師がいた場所は、今は大きな椅子に腰掛けるオスマンのみ。敵であると百鬼丸が認識した男、ギトーは、今は生徒達を守る壁役の一人として立っていた。
「それでは、第二演舞『斬鉄の舞』始めっ!!」
オスマンに向かい、慇懃に一礼すると、百鬼丸は周囲に立てられた鉄製の様々な武具をゆっくりと見回す。
第一演舞で対手の一人として参加したふくよかな女性、土の上位のメイジであるミセス・シュヴルーズというらしい、彼女が錬金の魔法で作り上げた強固な武具を、自分が一刀両断する、という趣向である。
平民如きにミセス・シュヴルーズの強力な錬金で作り上げた、しかも鉄製の武具を切れるわけがない。
そう、普段の生徒達ならば冷笑を浴びせるだろうが、先程の百鬼丸の華麗且つ激しい姿が期待となり、生徒達の関心を集めていた。
まずは丈は百鬼丸と同じくらい、太さは子供の手首ほどの、一本の棒の前に立つ。始めに切るのは、この何の変哲も無い、しかしそれで人を殴れば骨を砕く事は容易い硬度と重みを持った鉄の棒である。
娯楽に飢える学院の生徒達に少なからず刺激を与えると予想されたこの剣術披露会。副次的な効果であるとは言え、目聡いオスマンがそれを見逃すわけもなく、演舞の内容は、学生達を盛り上げるための考慮も成されてある。
細いものから、次第に太く大きなものを切ってゆくと言う順序は、言うなれば演出だ。
これを切る事が出来るか、ならば次は出来るのか、そんなものまでも切れるのか、と次第に見るものたちの期待を煽ってゆくのだ。
刀を抜くと、百鬼丸はまず様子を伺うようにギトーの顔にちらりと一瞥をくれると、再び正面を見据える。
ゆっくり刀を上げ、えいやっ、という掛け声と共に、勿論これも演出であるのだが、鉄の棒を容易く切り捨てた。
おお、と小さなどよめき。しかしこれはまだ演武の始まりに過ぎない。
周囲にはこれから切られる為だけに飾られた様々な武具がまだまだ存在しているのだから。
そんな中、百鬼丸はギトーに再び目を向ける。唇の右端を僅かに吊り上げながら。
挑発しているのだ。しかしギトーは何も仕掛けてこない。気がついたようだが、顔を顰めただけ。だが構わない。
そう、演武はまだ始まったばかりなのだから。
次に切るのは剣。直線で、先端に向かって末広がりの刃を持つ諸刃の剣は、百鬼丸の刀が斬る事を目的として作られた物であるのに対し、鋭さと共に重みで叩き潰す事を目的とした形状で、多少大きいが、百鬼丸にとっては鉈に近いものである。
その前に立つと百鬼丸は今度は袈裟に、先ほどと同じような掛け声を上げる。
鋭い音と共に、百鬼丸の刀が剣をすり抜けたかと思うと、刀でなぞった部分から上が、地面に引かれて斜めに滑り落ちた。
さらに大きな歓声。太さ、厚みでいえば先程の棒とそれ程大差無いのだが、剣で剣を切るというこの妙技に、生徒達は興奮しているようだ。
実を言うと今回のこの演武、百鬼丸にとってそれ程難しい事ではない。彼が寿海から譲り受けた刀であれば、その強度から、恐らくこうも容易くはいかないが、今彼が手にしているのは、百歳とも三百歳とも噂される高名なメイジ、オールド・オスマンによって作られた刀である。
切れ味こそ、百鬼丸の刀には劣るものの、強力な力で固定化の魔法を掛けられたこの刀は、とにかく頑丈で硬い。
その魔力は刀の隅々まで行き届き、鎬から先、薄くなるにつれ当然強度の落ちていく筈の刃先ですら、今切った二つの鉄よりも遥かに強靭なのだ。
鋭さは劣るため、若干力加減が難しいが、それでも潰れるどころか、欠ける事すらないこの刃は、硬いものを切るのには適しているとしか言いようが無い。
百鬼丸ほどの技量があってこそ、両断と言う技を可能にしているが、手にしている得物よりも軟な物を切るというこの演武は、彼にとっては八百長の域を出ないものでしかなかった。
これも案外悪くない、と切り捨てられた剣を尻目に、手にした刀に目を向ける。
いや、やはりそうでもない。
何度見ても目が回りそうになる派手な色柄の刃を眺めながら、もう一振り、人前で使っても恥ずかしくない意匠のものを作ってもらおうかと、百鬼丸は真剣に考えた。
しかしすぐに意識を戻す。
再び視線は陰湿そうな男へ向けて、百鬼丸は今度は見下したように哂う。
どうした、目立つ場所じゃ何も出来ないのか
そんな侮蔑を込めて。
悔しそうに歯噛みしている男に満足して、百鬼丸は次の置物に向かう。そう、ただ置物を切っているだけ。
しかし本来ならば彼にとってつまらないものでしかなかったその演目は、実に満足のいく愉快なものになる。
槍を切り、斧を切り、篭手を切り、盾を切り、オスマンの目論見通り、次第に大きくなってゆく歓声を無視して、一つ切るたびに百鬼丸はギトーを挑発する。
早く掛かって来い、何もしないのか、そこじゃ何もできないのか、と口には出さぬものの、その様々な表情をもってギトーを煽った。
青白くこけた顔は、みるみる赤くなり、その表情も明らかに険しくなってゆく様は、明確に百鬼丸の意図を理解している証拠だ。
最後に全身甲冑を正中から縦、真っ二つに両断すると、今度は目もくれず、大歓声の中で、百鬼丸は鼻で笑ってやった。
再び一礼して、興味は失ったと言わんばかりに、泰然と天幕へ戻った。
これをとどめに百鬼丸の行った、普段の彼ならば行わないほど執拗な、一連の挑発行為は、彼の予想以上に効果を挙げることとなるのだった。
「偉大なるオールド・オスマン」
ギトーは、百鬼丸の姿が見えなくなるや否や、僅かに早足でオスマンに歩み寄る
「なんじゃね?ええと、ミスタ……」
「ギトーですっ!! いい加減覚えてくださいっ!!」
「ああ、そうじゃったそうじゃった、ミスタ・ギトー。年を取るとどうもいかんな」
「いえ、こちらこそ失礼しました。恥ずかしながら、私も生徒達と同様に、些か興奮しておりましたようで」
「いやいや、構わんよ。それで?ミスタ・ギトー」
「次なる演目ですが、些か趣向を変えられてみてはいかがでしょうか?」
「ふむ、どういうことじゃ?」
分かっているが、敢えて尋ねる。因みに最後の演目の内容は、二メイル級の十体のゴーレム相手に百鬼丸がこれを打ち倒すという、実戦さながらの、これまで以上に過激な内容である。十と言う数字だけはルイズの発想。
しかし困難かと言うと実は百鬼丸にとってはそうでもない。
オスマン特製の剣もあり、手足くらいなら切り飛ばせる程度の大きさ、かつ緩慢な動作のゴーレムの群れを打ち倒す事なぞ、それもまた、百鬼丸にとっては単なる見世物でしかなかった。
因みに、ゴーレムを操るのはギトーとシュヴルーズ。ギトーはこの演武において、再び百鬼丸に手を出そう、と当初は考えていたのだが、頭に血が上った彼はその予定を変更した訳である。
「彼ほどの人間ならば、容易く土人形など切って見せるでしょう」
「ふむ、そうじゃの。ならば、どうしようというのじゃ?」
「果たして風は切れるでしょうか?」
予想通り、うまく乗ってきたと、そう思いながらも、そんな様子はおくびにも出さず、オスマンは心の中でほくそ笑む。
『疾風のギトー』は、風は最強という持論を強く持ち、それは他の属性の魔法を軽んじる程にその自信は強く、公言して憚らない人間である。また自己顕示欲が非常に強い。
相手が生徒であろうと、ギトーはまだ成熟していない相手を風の魔法で打ちのめし、自身の優位性を周囲に見せ付け、これで風の魔法こそ最強であると理解したか、とそんな事を言うのだ。
過去に何度も同様のことを行っているのは学院でも有名な話であった。
そんな性格が彼から人を遠ざけているのだが、彼は自分と自分の魔法は優れているから周囲が妬むのも仕方ない、と実に見事に自己を完結させ、確立していた。
かと言って、彼が強くないのかと言うと、それは違う。
学院においては決闘が禁止されており、かつ教師である彼に歯向かうものが少ないのも確かだが、決闘といかずまでも彼に挑んだ者は実に多く、それでいて、これを打ち倒したものがいない、と言う事実こそ、それだけ彼が魔法に長じている証拠でもあった。
彼が己に酔っているのも、全く根拠が無いとは言い切れないのである。
風の最高位のメイジ『疾風のギトー』の名は決して伊達ではないのだ。
そしてその周囲に認められた実力と、百鬼丸を見下している油断こそ、オスマンにとっての狙い目であった。
「そうじゃのう、流石に風は切れないとわしは思うが?」
「ええ、私もそう思います。そうです、風は何者にも切ることは出来ません」
「じゃったら、どう趣向を変えようというのじゃ?」
「彼ほどの腕で、よもや土の人形如きが相手では、生徒達の興も削がれてしまうというものです」
「ふむ、しかしこれまで以上に面白いものとわしは思うがの」
ギトーにとっては百鬼丸を褒めるという行為は、言外に土の魔法を貶しているに過ぎない事なぞ、普段の彼を見ていれば容易に想像がつく。
風の魔法の威力と自身の実力を、如何に全生徒に披露できるか、とでも考えているのだろう、揚々と立ち去る黒い外套に包まれた細い体躯を眺めながら、計画通りに進みすぎている事が怖い、とは只の諧謔、オスマンはその笑みを隠そうとはしなかった。
「ほ、愉快愉快」
実にわざとらしい、自分にとっては完全な予定調和の会話を終えたオールド・オスマン。
生徒達と同様、他者のもたらす刺激を好む質の老人にとって、この剣術披露会は、久々に至極満悦できる催し物であり、これから興るであろう熱狂も、満足すぎる結末も、全て自分によって導き出され、この老生の声をもって始まるのだ。
これが愉快と言わず何と言うのか。
やおら立ち上がり、注目を集めんと両手を広げ、大仰な口振りで声高らかに宣言する。
「諸君っ!! 第三演武、『戦いの舞』を始める前に、面白い事をお教えしようっ!!」
百鬼丸の合意を得ることなく、オスマンは第三演武の内容を変更する。しかし百鬼丸は合意するという確信があった。二人の応酬をオスマンはしかと目にしていたのだから。
「第三演武はゴーレム十体との実戦形式で行われるものであった!! しかし、更に趣向を凝らそうではないかとのミスタ・ギトーの提案、そしてミスタ・ヒャッキマルの合意を伴い、その内容を変更する事としたっ!!」
生徒達の期待と関心は高まるばかりである。ゴーレム十体との戦いですら興味深いが、それを越えるとなると、一体どれほど面白いものを見せてくれるというのであろうか。
「第三演武は、ミスタ・ギトーとミスタ・ヒャッキマルの実戦形式の模擬戦となるっ!!」
その、余りに刺激的で興味をそそる内容に、そこに抱える感情は様々ではあったが、生徒達は興奮して騒ぎ出した。
オスマンにとっては全てが予定通りである。平民を快く思わず、狭量なギトーを第一演舞の対手の一人として選べば、己より目立つ異国の平民に対して何かしらの行動を起こすはず。そして鬱憤の溜まっている百鬼丸はそれに応えてくれるはず、そう考えていたのだ。
相手を見下すギトーと、情け容赦なく本気を出す百鬼丸。
勝機は充分すぎると考える。
極端な部分を持つ二人の性格により計画を立てやすく、また実際にその通り進んでいる事にオスマンは満足していた。
しかし、唯一オスマンの予想以上だった、執拗な百鬼丸の挑発行為。
オスマンの所為でもあるのだが、百鬼丸の溜まりに溜まった鬱憤と、極端すぎる二人の性格が、予想以上の事態にまで発展する事をオスマンはまだ知らない。



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