一
何処かから忍び込むかともルイズは考えたが、百鬼丸が言うには、既に気付かれているらしい。ならば正面から行くほうが安全なのだとか。コルベールもそれに賛成しているならば、ルイズは納得せざるを得ない。だが、先程の出迎えはなんだったのか、モット伯邸の門にたどり着くまで、あっけないほど何も起こらなかった。
「なんか拍子抜けね?」
ルイズに話しかけられた百鬼丸は無言だ。だが不機嫌、という訳ではなさそうだ。
「なによ、なんか応えなさいよ」
不機嫌なルイズの声に仕方なさそうに応える。だが、その返事は決して愉快な内容のものではない。
「まだ始まっても無いんだろう」
「あ、門番」
「……」
つい見たままを口走ったら、呆れたような目で見られた。
「なによ」
「別に」
門番は門に対して左右に一人ずつ。石造りの塀で囲まれた伯爵邸の番を勤めるとは思えぬ程みすぼらしい胴当てと兜のみという出で立ちで、武器は腰に下げた剣のみ。こちらも柄拵えは最低限。まるで食い詰めた傭兵をとりあえず連れてきて立たせているだけの様な不自然さだった。こちらには全く反応を示さない。
「夜分に失礼いたします。私、トリステイン王立魔法学院の教諭を務めます……、失礼しますっ」
一応は人間を見たからであろう、それなりの対応を念のため取るコルベールだが、門番達の目は虚ろで、何も応えない。いや、顔が僅かにこちらを向いた。
咄嗟に百鬼丸が前に出る。刀を振るうと、刃が門番の首をすり抜けたかのようにルイズには見えた。何が起きたのか良くわからない。
ごとりと鈍い音。頭が二つ地面に転がる。
理解した。
「ひっ、あ、あ、あんたっ」
「ヒャッキマルさん、何をっ」
「もう死んでる」
「あ、あ、当たり前……」
「違う、死んでたんだ」
「何故分かったのです?」
「おれには分かるんだよ」
それっきり口を噤んでしまった。コルベールは駆け寄り、死体を検分している。
「確かに、血が出ておりませんな。それに、既に冷たい」
聖具の形に指を切りながら、鈍りましたかな、とのコルベールの呟きを耳にして、ルイズは何か、違う世界にでも来てしまったかのような感覚にとらわれた。
ここは現実ではない、どこか別の場所。
あるいは今まで過ごしてきた場所こそが夢だったのか。
「これは、消えないのですか?」
「死体だからな」
「あ、あの、ミスタ?」
「ああ、怖がらせてしまったようで、失礼」
「逃げるなら今のうちだぜ?」
「だ、誰が逃げるもんですかっ、シエスタを見つけるまであたしは帰んないんだからねっ」
馬鹿にするなと喚いた。喉がちりりと痛む。
「生きた人間も操れるのですか?」
「見たことはねぇが、有りうるな。でもここには多分いねぇ」
「それも分かるので?」
頷いている。正直ついていけない。だがシエスタのためを思ってここまできたのだ。自分にも何か出来る事があるはずだ。
無事でいて欲しいと考えながら、ルイズは恐々とモット伯邸の明かりを眺める。
門から邸内に行くまでに十五メイル程の石畳の道がある。門番というのは屋敷を囲む塀の入り口を守っているに過ぎない。邸宅は屋敷を中央に、正面には石畳、左右は少し開けた庭園になっていた。
もっとも、入り口から見える部分であるこの庭園はつまり、飾るための庭園であるため、石も草木も整然としている。屋敷の裏、百鬼丸たちから見て正反対には、何者にも見られぬように、屋敷の主、この場合モット伯であるが、彼がくつろぐ為の庭があるのだろう。
ルイズの自慢の視力を持ってしても、目と鼻の先にありながら、薄暗く照らされた邸内はどこかぼやけていて、その様子を窺い知る事はできなかった。
「行くぞ」
いつの間にか、隣には百鬼丸が立っている。刀は抜いたままだ。コルベールが頷く。 ルイズも緊張した面持ちで、それに倣った。
駆け出そう、と一歩百鬼丸が足を門の中に踏み入れた瞬間に立ち止まった。
「ちょっと、いきなり止まらないでよ」
「さっきより、いや、それどころじゃないな」
「え?」
ルイズを無視した百鬼丸の呟き。コルベールがルイズを庇うように前に出た。
多数の火の玉が集まってきたかと思うと同時に燃え上がり、またもや骸骨の群れが姿を現す。しかし人の大きさほどに大量の火が燃え上がったというのに、暗闇を照らし出す事はなかった。正確に火ではないのだ。
「ミスタ・コルベール、あたしもやります」
「ええ、おねがいします。しかし離れないように」
短い時間で既に二人との実力、経験の差は思い知らされた。それでも自分の魔法は武器にはなると言う確信はある。手数くらいは増えるはず。自らを奮い立たせる為に、大きな声で魔法を唱え、杖を振るう。
ルイズの放った爆発が百鬼丸の正面の敵を吹き飛ばすと同時に、百鬼丸は骸骨の集団の中に身を躍らせた。
百鬼丸はひたすら敵を切り伏せる。時には的確に首を落とし、頭を割り、槍で防ごうとするなら柄ごと、盾を構えれば隙間に突きをいれ、そのまま薙ぐ。屋敷と門の間、丁度中央に位置する少し広い場所で、剣を振るう百鬼丸は、傷を負うことなく、危なげない。それでも確実に骸骨の数を減らし続けている姿は圧巻だった。
「凄い……」
「ミス・ヴァリエール、感心している場合ではありませんぞっ」
百鬼丸から離れた場所で弓を番える骸骨へと火を放ち、己の背後で百鬼丸の戦いぶりに飲まれているルイズに、コルベールは声を掛けた。
もっとも、感動するルイズの気持ちもよく分かる。一対多数の乱戦の中でこの強さ。骸骨どもは、生きた人間に比べれば動作は緩慢ではある。しかしそれを抜きにしても、百鬼丸は、強い。彼と争った生徒が腕を折られたのも、その場面を目撃していないが、これを見れば納得せざるを得なかった。
先程からコルベールとルイズは、門から一歩も動かず、百鬼丸を狙おうと弓を番える骸骨を主に狙っている。しかし仮に矢が放たれても、百鬼丸は顔を向けることなく矢をかわし、叩き落し、あるいはそばにいる骸骨を引きずり盾にする。
目が見えないと言っていたが、嘘ではないかと、今更ながらに馬鹿げたことを考える。彼の目が作り物であることは、なによりコルベール自身確認しているのだ。
矢を叩き落した剣の軌道を変えることなく、そのまま、また一体敵を屠る百鬼丸。
見えないからこそ分かるのかもしれない。
その勇姿を眺めならも、骸骨を炎に包む為の呪文を休まずに唱えつつ、コルベールはそんなことを考えた。
二
シエスタはモット邸につれられた後、まず初めに湯浴みを命じられた。人間そっくりの化け物は、どうやら不潔なものはお気に召さないらしい。
モット伯を守る衛兵達や、御者同様に空ろな目をした二人の女性が手伝ってくれる。だが時折シエスタの体に触れる彼女達の指先は、湯浴みをしているというのに冷たい。
何か話しかけても、応えてくれない。まるでそれは死人のようで恐ろしい。
そう、恐ろしいのだ。
丁寧に、時間を掛けて湯浴みを済ませた頃には既に陽は完全に落ちていた。憔悴したシエスタはそのまま部屋へと案内される。奇妙なことに、窓がついていなかった。いや、窓があるべき場所には何か、土の魔法であろうか、上から塗りつぶされたような跡がある。その窓のような部分は無造作に赤茶けた線を引かれた、美的感覚があるとは思えないような奇妙な模様。汚れ、だろうか。
「主がお呼びになるまで、どうぞ御緩りと、」
その声に振り向くと、ドアは閉められ、がちゃりと鍵が掛けられた音。
途端に不安になりドアを開けようとしたが、そこにあるはずのドアノブが無い。 これもまた取り外され、上から塗り固められている。ドア一面にも埋められた窓の跡のように奇妙な模様があった。
妙だとは思いつつもどうしようもないと部屋を見回す。ベッドの上にドレスが二つ広げて置かれていた。真紅と黒のものである。好きなほうを選べ、という事だろうか。抵抗する気力も既に無い。何とはなしに、真紅のドレスを手に取り、着替えるべきか、弱った頭で考えようとした。
たまには派手な格好でもしてみたいが、しかし、黒も捨てがたい。
彼女にとっては、ここ数日のうちに特別な色となったその色のドレスに身を包まれていれば、いや、もう助かりはしないだろう。しかし少しでも恐れる死への恐怖から守ってくれるかもしれない。 ベッドの上に力なく倒れこむ。
精神的に疲れた彼女は、それを手に握ったまま、何時の間にか眠りに落ちてしまった。
『それではいけないな』
突如聞こえた声にシエスタは目を見開くと、音を立てて起き上がる。
自分は眠っていたのだろうか。どれくらいだろう。外を眺める事も出来ず、時計すら置かれていないこの部屋では時間の経過は計れない。だが、今問題なのはそこではない。 ドレスを投げ捨て、背中を叩きつけるように壁に当てた。
「嫌……」
少し後れて、絹で作られたその上等な朱色のドレスが、部屋の中央の真っ白な床に無造作に、ばさりと落ちる。 同時に鼻腔を刺激する、錆びた鉄のような匂い。
「嫌、嫌、……」
駄々をこねる幼子のように、首を左右に振り続ける。 脳を刺すようなこの匂い。
「やだ、いや……」
認めたくない。
しかし、白い床に無造作に広がる赤が、認めたくない現実を、その視覚から連想させた。
血の匂いだ。
「いや、助けてっ、助けてっ、ミス・ヴァリエールっ、ヒャッキマルさんっ」
そのまま暫く泣き喚く。
だがいくら呼んでも助けに来てくれない。当然だ。ここに彼らは居ない。先日のような幸運は既に過ぎ去った。
シエスタはドアに向かって走り出し、何度もドアを叩く。
「助けてっ、助けてっ。助けて、助けて、助けて、助けて……」
何度も、何度も、何度も。
やがてドアは諦め、かつての窓らしき部分を同じように叩く。
助けて、とそう叫びながら、何度も、何度も、何度も、何度も。
-助けてっ-
三
いい加減百鬼丸は苛ついている様子であると、ルイズには見て取れた。殺しても殺しても湧き続ける骸骨達。 とは言え、彼の剣捌きに迷いは無い。それどころか鋭さを増していくようだった。
はためく衣は闇を受け、真っ黒なその姿はまるで鴉のようで、煌く刃は嘴だ。
ルイズは鴉は嫌いだが、今の百鬼丸は別だ。あれは美しく舞う鴉である。普通の鴉とは違うのだ。
「ルイズっ、真面目にやれよっ」
「う、うるさいわね、ちゃんとやってるわよっ」
見透かされたかのような百鬼丸からの怒声を浴びて気を取り直し、再び爆発させる。 恨めしい事に、何を唱えても爆発してしまう自分の魔法は、多様性を持たない。百鬼丸とコルベールだけ居れば事足りるのではないか、そんな考えが頭をよぎる。 いや、役に立っていないわけではない。現にすでに十数体近く倒した。
頭に浮かんだ陰鬱を振り切ると、隣で奮闘しているコルベールを仰ぎ見る。
コルベールも僅かに疲れを見せ始めていた。それに対して自分はどうかというと、そうでもない。
己の精神力を削りながら行使する魔法と言うのは、決して無限ではない。
しかし爆発しか起こせない自分に余裕があるのは、きっと、きちんと魔法を行使できていないせいだろう。
「コルベールさんっ」
「ええ、強行突破しますっ」
共闘は二度目だと言う二人だが、それにしても息が合っていた。 どちらかが合わせる事が上手いのか、或いは両者優れているのか。 ともかく、この物量を相手にし続けるのは馬鹿らしくなったらしい。
「一度こちらにっ、暫く守ってくださいっ」
返事をすることもなく、百鬼丸はコルベールの傍に駆け寄った。 手近にいた骸骨は、すり抜ける際に鮮やかに切り伏せる。
「何するんだ?」
「私にも少し見せ場をください」
疲れを感じさせぬようにであろう、コルベールの軽口。
「そりゃ失礼したよ。じゃあ任せる」
そう言うと百鬼丸はコルベールの二メイルほど前に陣取り、再び華麗に舞い始める。 ルイズも負けじとがむしゃらに、こちらへ向かう敵に攻撃を開始した。狙いの甘い彼女の魔法は近くで放てば百鬼丸に当たらぬとも言い切れぬ。 注意深く狙いを定める。
コルベールはひたすら呪文を唱えていた。
三十秒も経たぬうちにコルベールは声をあげた。準備が出来たらしい。
「私の後ろへっ」
またもや返事もなく、周囲を一度なぎ払い、コルベールの指示に従う百鬼丸。 ルイズもそれに倣う。では、と呟くとコルベールは杖を掲げると 轟音が響き渡った。
巨大な炎が屋敷の玄関まで巨大な炎が直進する。門目掛け殺到していた骸骨が一瞬のうちに蒸発した。
「おおっ」
「凄いっ……」
「ささ、今のうちに」
言うや否や、炎は二つに別れ、壁となり、屋敷への道を作り上げた。
その中を、三人は駆け抜ける。
「長くは持ちません」
屋敷の入り口へたどり着いたコルベールは、ローブをごそごそと漁ると、ガラス瓶を取り出した。栓をあけ、屋敷の入り口を囲むように半円を描いて液体を撒き散らす。
「何だい、そりゃ?」
「私特製の油です。これで暫く追っ手は無いでしょう」
撒き散らしたその油にに炎が引火し、先の魔法ほどではないが、コルベールの身の丈ほどの炎を上げたまま燃え続ける。
「どうです?『炎蛇』の名もまだ捨てたものではないでしょう?」
「ああ、大したもんだ。凄いな」
「ミスタ・コルベールって……実は凄かったんですね」
「実は、は余計ですよ、ミス・ヴァリエール?」
コルベールが満足気にそう頷くと、三人は屋敷に突入した。
屋敷の中は、玄関を入ってすぐは一寸した広間だ。外とは打って変わって静まり返った物だった。
「何もいないみたいだな」
「そうですか。ふむ、少々疲れましたな」
「でも急がないと、シエスタが」
こうしている間にもシエスタは危険に晒されているやも知れぬのだ。彼女の安全を確認するまでは、安心など決して出来ない。
「少しだけ、休みましょう」
「でもっ、」
「水くらい飲んでおきなさい、ヒャッキマルさんもどうぞ」
そう言うとコルベールは小さな筒を取り出す。渋々頷き受け取ると、すこし口をつける。思ったよりも疲れていたらしい。百鬼丸は動き回っていた所為であろう、すでに飲み干していた。
「ふぅ、それにしても、お前なかなかやるな」
一息つくも、まだ些か興奮した状態だ。そんな気持ちが百鬼丸を一時的に開放的にしていた。 そしてこの言葉は素直に思ったままの事を口にしただけだ。シエスタを助けようという真摯な姿も、馬達を心配する様子も、やはりルイズは百鬼丸にとっては好ましいと思えたのだ。
骸骨どもに飛び掛る直前に見た、ルイズの魔法による爆発を思い出し、会話の切欠にでも、と唐突に話し出しす。
しかし返ってきた言葉は、百鬼丸にとっては予想外だった。
「なによ、馬鹿にしてるの?」
「ちょ、ちょっとお二方」
ルイズは、自分は余り役に立っていない、とそう考えていた。先程の百鬼丸の巧みな戦いぶりも、コルベールの見せた豪快な炎の魔法も、いまだ魔法を正確に行使する糸口さえ掴んでいない己の遥か先を、更に越えたような技術であった。
しかし百鬼丸もコルベールも、彼女が役立たずであるなどとは微塵も思っていない。 彼女がいる分手数は増えるし、百鬼丸の言葉通り、その威力は侮れない。コルベールも、魔法を温存できるというものだ。
「なんで怒るんだよっ、さっきの魔法、大したもんじゃねぇか?」
「それが馬鹿にしてるって言ってるのよっ」
未だ戦いの余韻があるため、ルイズも百鬼丸もすぐに頭に血が上った。
ここが敵地の真ん中である事も忘れて、互いに声を張り上げ始める。
「意味が分かんねぇよ、こっちは褒めてやってんだっ」
「ちょっと二人とも、何もこんなところで」
「偉そうに何よっ、平民の癖にっ……」
しまった、と先に思ったのはルイズであるのかコルベールであるのか。
口を閉ざした百鬼丸の顔をルイズは直視する事が出来なかった。今のも、先日のも、明らかに自分が悪い。
咄嗟に口に出た言葉が決して本音であるとは思わないが、いや、認めたくないが僅かにでも彼を蔑んでいるのかもしれない。魔法を使えない貴族が、平民を蔑んでいるのかもしれない。それはとても傲慢で、滑稽で、哀れで、惨めな事。
しかし頭を下げる事すらも、自分には出来ない。そんな自分が、とても嫌になった。
ルイズは駆け出す。
コルベールが慌ててルイズを追いかけようとした。
「何でこうなるんだよ、わけが分かんねぇ」
コルベールが足を止めて口を開いた。
「ミス・ヴァリエールは魔法が使えないんです。正確に言うと、何の魔法を使っても爆発するんですよ。それに、彼女の同級生は全て……使い魔を所持していますが、彼女にはそれすらないのです。いえ、あなたが気に病むことはありません。ただ、 彼女を悪く言うものは多い。それでも彼女は努力してるんです。それだけは分かって頂きたい。彼女の非礼は代わりに詫びます」
時間が惜しいが、伝えなければと捲し立てる。
百鬼丸には貴族の価値観と言うのは今一つ理解できないが、聞く限りでは確かに自分も無神経だったかもしれない。とは言え、『平民の癖に』というこの言葉だけは許容できるものではないが。
しかしルイズはその平民を助けるために、命の危険を顧みず、今この屋敷にいる。
一体何が彼女にそう言わしめるのか、百鬼丸にはわからない。
それと同時に、彼女と初めて会った時の言葉を思い出した。
出来損ない。彼女は自身をそう表現したのだ。
考え込もうとした百鬼丸を遮り、コルベールは言葉を繋いだ。
「しかし今はシエスタさんを救うのが先です。こうなったら二手に分かれましょう。私は彼女を追います。あなたは反対側へ。合流の合図はこれを」
そういってローブの中から手のひらに収まるほどの赤い玉を投げてくる。
「飛び出している紐に火をつけるか、硬いものに力いっぱい叩きつければ爆発します。中身は火薬の塊ですので扱いにはお気をつけて。轟音があればそちらに向かう。それでは」
そう言うと、コルベールは振り返ることなくルイズを追いかけた。
一人残された百鬼丸は、舌を鳴らすと、コルベールの提案通り、反対側に駆け出す。 まずはシエスタを助けねばならない、と考える事は放棄する。
しかし心に刺さった棘は中々に抜けにくいものであった。