「ルイズ!!」
私の制止は僅かに届かない。
既にその魔法は形になっている。
光。
その光こそが、彼女が自らの意思で紡ぎあげた『魔法』
そう、彼女は。今、始めて、虚無を自らの意思で紡いだのだ。
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障壁は【虚無】に還る
その光は、何にも因らぬもの。
光というのは、空より万象に降り注ぐもの。
太陽という天体が、人と言う種が認知し得る最初の光を生み出した。
そう。光の発生の最初は、今となっては解明する事は出来ないのだ。
既にして世界に存在し、万象に干渉する可能性の一つ。
それが【光】。全てに干渉するとされる【虚無】の一端である。
少女はそれを紡ぐ。
その掲げる杖の先に、光を集束させる。
天より降る光を、加速させ、一点に圧縮させる。
それは、六千年の時を越えた奇跡の、神話の再現。
唯一、始祖たる魔法使い【ブリミル】が扱ったとされる【虚無】。
その正しき継承者がここに居る。
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フーケは、その光景を遠隔視覚で確認した上で。
自らも呪文を諳んじた。
地中にあり、尚、呪文を紡ぐ。
本来ならば、魔力行使を感知されるような状況だ。
だが、現状は彼女に天秤を傾けている。
ルイズの魔法は、それほどの異質だ。
恐らく魔法使いという魔法使いは、あの光景とその残香に引き寄せられてしまう。
スクウェアメイジのフーケですらそう感じているのだから。
イメージを浮かべる。
土と土と水。三属性。
一定範囲の地表面を軟化。
軟化させた地面を揺らぎ動かす。
威力は最小。本来より揺らぎは少なく。
範囲指定も最小。本来の広域殲滅には遠く届かない範囲で充分。
【
地震】
フーケは、スクウェアではあるが、特能型のメイジだ。
ある事柄に関してその能力を遺憾なく発揮するタイプ。
彼女は、四属性を扱えるが、広域殲滅系魔法などの、高威力の魔法は、さほど得意ではない。
扱えたとしても、威力は微々たるものだ。
彼女の本質は別の所にあるのだ。
だが、それでも、今の彼女の意図を遂行するには充分。
何の事は無い。
この上で、魔法を紡ぐ少女の足元を揺らす。
あそこまで形になったモノは、霧散化して消える事はない。
少女が向かい立つ位置は、宝物庫に相対している。
少しのトラブルで、あの光は宝物庫に向かって飛ぶ。
その結果こそは、わからないが、それ故に試す価値もあろうものだ。
そして、フーケの魔法が完成した。
●○●○●
「ルイズ!」
エミヤは遅いと知りつつも静止の為の声を掛ける。
その声は、主に届いた。
…が。
「…エミヤ?」
「…ッ! その物騒な魔法を掲げたまま、私に振り向くんじゃない!」
「っていうか、どーしてここに? それよりもこれ、どーしよ?」
過度に自分の理解を超えた現象に遭遇した時、人は普段と変わりない対応をする時がある。
今のルイズの状況がそれである。
「なっ!? ちょ、ちょっと待て! 君、自分で生み出した魔法を扱いかねていると言うんじゃないだろうな?」
「って言うか、私でも良く解かんないのよ! 魔法を使おうって意識を集中させてみたら、こんな結果になったんだし!」
「か、考え無しかね!? 君は!! 少しは後先というものを…!」
それが災いした。
気を抜きすぎていたのだろう。
エミヤに直感があるのならば、これを予期できたかもしれない。
だが、彼にあるのは、心眼(真)。
類似状況を参照し、推測する事ならば可能であるが、未知の出来事にはこれは当て嵌まらない。
そう。このような会話の真っ最中に。
「って…あれ?と、と、ちょっと、何か揺れてない? って…うわわッわ!!」
局地的な振動を伴う地震が発生するなど経験外だったのだから。
●○●○●
「地震か!? チ、このタイミングでか!」
作為的なタイミングですらある。
私は、そう感じた。
もしもの場合に備え、意識を瞬時に切り替える。
揺れる足場というものは、慣れた者でないと姿勢や集中を危うくする。
ルイズの魔法が暴発して此方に飛んだ場合に備える。
目の端に、キュルケを捉える。彼女もその範囲内に納めるようにして。
剣の丘から楯を引きずり出せるようにする。
案の定、ルイズはワタワタとバランスを失う。
見ていて滑稽ではあるのだが、問題は、その彼女の抱えあげた杖に宿る光だ。
アレの矛先すらも定まらない状況は楽観視できるものではない。
そして、それは見事にすっぽ抜けた。
私の見ている目前で。
その【光】は轟音を立てて、建築物に着弾した。
●○●○●
バランスを失ったルイズの抱え揚げた魔法は、意図せずも杖の先より振り下ろされた。
この初期型魔法の欠点は、集束した魔弾を術者自身が、振り下ろすという動作を持って発射する事に他ならない。
故に、発動後、発射前に下手にバランスを失えば、どのような結果になるか。
言うまでも無い。
単純にすっぽ抜けてあらぬ方向に飛来するのだ。
魔法の失敗よりも性質が悪いのである。
幸か災いか。
人的被害が無いと言う事であるのならば、幸。
すっぽ抜けたルイズの魔法【光】は、エミヤの危惧していた方向には飛ばなかったのだから。
不幸だったのは。
キュルケもルイズもエミヤも。
その【光】が着弾してしまった宝物庫に起きた影響を理解出来なかった事だ。
仕方の無い事でもある。
彼らは、そもそもこの宝物庫に魔法障壁が存在している事実を知らなかったのだから。
そう。土中にて、事を仕掛けた土くれのフーケこそが驚愕した。
通常のメイジでは為しえぬあの【光】の魔法は。
同じく通常のメイジでは突破できぬ魔法障壁そのものを焼き尽くしていたのだから。
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後書きらしきもの
とりあえず、今回はこの辺で。
事態は深刻にゆっくりと進行。
あれ? スピード展開はどうしたんだろう?
ま、いっか。