これは英霊侵食編のプレビュー版。本編とは似て非なる物語の一部。
煮詰めなおす前の租組段階。
何故、異界に彼らが侵食したのか。
その発端のお話。ただし正式採用は未定。
突っ込みどころは満載ですが…取り敢えずの番外編。
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「…成る程。クロムウェル司教。私の身の上は理解できた」
面白い話だ。ここは明らかに平行世界。
まさか自分が第二の極限たる次元移動を経験しようとは。
そもそも、この世界には既にしてその壁を越えたものが何人も来ている。
笑える話だ。それを目指し辛酸をなめる魔術師達の苦労をこの世界は容易く嘲笑ったのだ。
「…ほぅ、それはそれは。では、神の御使いとして共に?」
「いや、何。祝福は何処にあっても等しくあるべきだろう? それが自分の見知らぬ世界であっても」
そうして、黒いカッソクに身を包んだ男は低く笑った。
その笑みは暗く、そして深い。
男がここに存在している理由。それは定かではない。
彼が覚えているのは焼け落ちる城で槍兵に胸を貫かれ死に掛けていた胡乱気な意識の中、胸に埋め込んだ欠片が激しく胎動した事。
彼は知っている。この欠片は根源への扉の一部分であった事を。
黒く汚染された無色の力の欠片。
十年前に彼を死の淵より救い上げたそれは、再び彼を救い上げた。
これを福音と言わずして何と言おう。
男の名は言峰綺礼。
神に仕える使徒。悪を悪と知り、それを求める正しきユダである。
「…で、コトミネ。君はあの赤い騎士を知っていると?」
「無論。あれは、私の世界の亡霊」
「…で、あの理不尽に対抗する手段は? 主は虚無の使い手。その使い魔は私たちの想定を超える武器の使い手だ」
言峰は意を得たように笑みを浮かべ、その問いに神託を告げた。
「簡単な事。同じ存在を呼び寄せるまでの事。起きてしまった事ならば、それは奇跡でもない。事実に成り下がったのならば再現は可能」
そう。これ程にマナの濃い世界。
聖杯戦争の図式を引かずとも魔力は存分に集められる。
幸いにして自らの心臓は、その聖杯の欠片に他ならない。
祝福を、この見知らぬ地にて与えるのも一興。
人は何処でも生きているのだから。
「私はその準備に入ろう。何者も地下室には近づけぬように」
背を向け歩き去る言峰。
その表情には愉悦が浮かんでいた。
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「…ここは?…っ!テメェは…コトミネ!!」
「ほぉ、私を私として認識できたのか? ランサー」
彼が最初に呼び寄せたのは槍兵だった。
簡単な事だ。彼はいつでも闘いを求めている。
聖杯なぞ関係無く戦う事が望みだったのだから。
「…そう殺気を撒き散らすな。もう一度、貫かれるのは流石に遠慮したいのでな」
「…テメェ、どうやって俺を引っ張り出した? いや、そもそもなんで生きてやがる?!」
「何。神の奇跡の恩寵だろうよ」
彼は虚言は言わない。だが真実は語らない。
アンリマユは拝火教の魔王。
それは神と言っても相違あるまい。
何しろ彼の心臓は、その欠片なのだし。
「…食えねぇ野郎だな」
「フム。ほめ言葉として受けておこう」
「…聖杯戦争でもないのに俺を呼び出せるとはな…何が目的だ?」
その目は次に虚言を言わば、心の像を抉り出す。
それを暗に語っていた。
「…お前に命を賭けた闘いを提供してやると言ったら?」
「…正気か?サーヴァントもいねぇのに?」
言峰は槍兵の目的に沿うべく一人の存在を提示した。
「何。一人心当たりがあってな。お前も良く知っているだろう? 記憶でなくとも記録で。…赤い弓兵を」
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エミヤは先の艦隊戦の被害の修復作業を担っていた。
ルイズの虚無は正しくして発現した。
その虚無の光は、人を焼くことなく飛空挺を沈めたのだ。
あとは言うべくも無い。
それでも戦いを捨てなかった者達を、エミヤは速やかに排除した。
追い詰められた人間は獣となり、暴徒となる。
ルイズが護ると決めた人々を護る。
それがこの世界でエミヤが救うべき9だった。
「とはいえ…あまり慣れたい感覚でもない…か」
彼は、空を仰いだ。
そして、その目に映るはず無い人物を。
それに気がついてしまった事に。
いや、気がついた事ではなく、それがそこに居るという事実に。
彼は愕然とした。
そこにあった壊れた飛空船の残骸の上に。
見紛う事の無い…あの槍兵が立っていたのだから。
槍兵はその豹の様な目に獰猛な喜色を浮かべ立っていた。
「はっ…まさか、ほんとにテメェが居るとはな」
「…ランサー…ッ?! バカな。お前が…何故!!」
「さて…な。んな事はどうでもいいだろう? さぁ、はじめようぜ。あの時の続きを」
そして、槍兵はその手に赤い死の槍を具象化させた。
●○●○●
なかなか戻らないエミヤを心配し様子を見に来たルイズが見たのはありえない光景だった。
少なくとも、今までは。
赤と青の暴風。立ち上る魔力は既に周囲を揺るがすほどだ。
その中心に立つのはエミヤと見慣れない青い軽装鎧の騎士。
だが、彼らが行っているのは戦闘。
青の騎士が繰り出す槍をデルフリンガーで弾き反らす。
反らした直後に切り返す。槍がそれを弾く。
一進一退の攻防。刃と槍が競り合う形となる。
「…テメェ、いつの間に戦い方を変えた?あの黒白の宝具はどうした」
「さて…な。別に二刀のみが術ではないしな」
「はっ! セイバーの真似事かよ! アーチャー!!」
競り合っていた得物同士を弾けさせ再び間合いを取る。
それは刹那の出来事。
『…相棒、こいつやべぇぞ…今までとは別格だ』
「…解っているから、少し黙っていろ。余分な事が出来る相手じゃない。紋章があって初めて同格な相手だ」
エミヤは過小評価も過大評価もしない。ただ冷静に判断した。
即ち。ガンダールヴの紋章の力が無ければ、こうまでは渡り合えない事を。
デルフリンガーで渡り合えたのがその証拠だ。
かつては投影に次ぐ投影で渡り合うしかなかった。
「ほぉ…暢気に独り言かよ…舐められたもんだな」
獣相とでも言うべきだろうか。その顔に獣の如き怒りが滲む。
殺気が辺りを支配する。
その殺意の空間に当てられたように少女がその場に迷い出た。
ルイズだ。
何故、彼女が居る?エミヤの表情が凍る。
「…何よ。貴方、わたしの使い魔に…何してるのよ…」
ルイズは顔を蒼白にしながらも青の騎士に相対した。
あろう事か二人の騎士が相対するその中央で。
「ルイズ!!」
エミヤはとっさに彼女を背に庇いやる。
迂闊だった。彼女が来るかもしれない事を予測もしていなかった。
この間合いはあの槍兵にとって必死の間合いだ。
真の名を持って槍を繰り出されればそれで終結してしまう。
だが、彼女を護れなくてはこの身の価値が無くなる。
そう。この場においての絶対の敗北は自身の死ではなく。
他ならぬ彼女の死だ。
「はっ…その嬢ちゃんがお前の寄り代かよ…お前はよくよく女に恵まれるな」
槍兵はそれを見て取った途端に、その殺気を霧散化させた。
「…興が削がれた。今日はその嬢ちゃんの勇気に免じてやる」
槍を何処かに仕舞いやると彼は再び瓦礫の上に跳びわたる。
「…ああ、一つだけ教えておいてやる。俺だけだと思わんほうが身のためだ…アイツは他にも呼ぼうとしていたからな」
肩越しにエミヤを見やる槍兵。
そしてその目に再び獣を宿して一言。
「ま、いずれにせよ…次はその心臓を貰い受ける」
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そして、その場に残ったのは主従の二人。
ルイズの顔はいまだに蒼白。
あの殺気に当てられて、言葉を発する事が出来ただけでも賞賛に値するのだ。
彼女は震える声に自らの従僕に問うた。
「…エミヤ…何、あれは」
「…私と同じ英霊。何故、彼がこの世界に居るのかはわからないが」
エミヤはそうして槍兵の去っていた方角を見やった。
奴は言った。他にも呼び出そうとしていると。
即ち…英霊の召喚を成した者が居る。
「…ルイズ。これからの闘いは予想を超えたものになる」
「…エミヤ?」
「だから選べ。君が。退くのか、戦うのかを」
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あとがき
先に言っておきます。
これはあくまでプレビュー版。
まともに組み込むならもっと伸びます。
まぁ、突っ込みどころは山ほどなんですがね。
あ、あくまで外伝ですから。
本編とは関係ナッシング。
こういった導入の仕方を考えていると。
そういう見本でした。
まぁ、パターンとしては人類を滅ぼしたバットエンドサクラが
根源の渦からセンパイ探して世界に破滅をもたらし歩く。
抑止は後手に回る。彼女は呪いを残すだけ。
人は徐々に滅びを辿る。
そして彼女はエミヤと出会う。
彼の主の少女には守りたい人々が居た。
それはかなしいかなしいえいゆうのお話の再現。
見たいなのもあるんですがね。