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No.2213の一覧
[0] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2007/11/06 00:43)
[1] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2009/01/02 19:21)
[2] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/05/05 19:34)
[3] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/05/08 10:32)
[4] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/05/14 19:42)
[5] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/05/22 21:47)
[6] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/06/18 01:31)
[7] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/07/06 18:23)
[8] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/07/04 03:09)
[9] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/01/26 01:10)
[10] アナザーストーリー・IF・全開・偽螺旋剣編。[愁雨](2005/07/06 20:36)
[11] アナザーストーリー・そうして魔剣は主と出会う。[愁雨](2005/07/17 22:52)
[12] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/07/24 18:43)
[13] アナザーストーリー・そして世界は歪む。[愁雨](2005/07/19 00:07)
[14] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/08/07 20:12)
[15] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/11/07 02:10)
[16] アナザーストーリー・雪風と微熱[愁雨](2005/11/11 23:51)
[17] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/11/20 13:40)
[18] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2005/12/02 00:34)
[19] アナザーストーリー・メイドさんと赤い外套・接触編[愁雨](2005/12/14 07:09)
[20] アナザーストーリー・メイドさんと赤い外套・接触編[愁雨](2005/12/22 01:37)
[21] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/01/15 16:20)
[22] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/01/28 23:06)
[23] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/02/14 23:06)
[24] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/04/16 17:32)
[25] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/04/05 22:25)
[26] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2006/06/19 01:24)
[27] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2007/01/10 01:32)
[28] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2007/01/23 18:30)
[29] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)[愁雨](2009/01/02 21:35)
[30] アナザーストーリー:胸革命と称された少女の出自[愁雨](2009/01/02 21:30)
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[2213] ゼロの最強の使い魔(Servant Of TheZERO)
Name: 愁雨 前を表示する / 次を表示する
Date: 2005/07/24 18:43


「…善は急げね。ちょうど、午後の講義はサボる形になっちゃったし。行くわよ? エミヤ」




エミヤの疑問に答えるにはそれが一番早いと思った。
彼自身の武器では彼の無意識が働いているのかもしれない。
武器を使いこなせるようになる効果なんて使い魔の紋章には無い。
そもそも、人間のような存在を使い魔とした場合の効果なんて、わたしは知らない。
だから、一つ一つその疑問は解消していくしかない。


――――――――――――――――――――――――――――――――

邂逅・魔剣




「了解だ。マスター」

私は、その命を受けて腰をあげる。
成る程、それは至極真っ当、理に叶ったものだ。
私の心象世界に由来しないものならば、無意識下の情報の検出といった事は無い。
最も目にした時点で、剣であるなら問答無用の剣の丘行きなのだが。
だから、この世界特有の特殊武器であるのが理想だが…

「ところで。移動方法は確保してあるのか?」

先行く形のルイズの背に問うた。
よもや、考えも無しに市街地に行く等と言った訳でもなかろう。
昨夜、寄宿舎の屋根より見渡した限りでは、この学園は生活圏からは離れたところにあるようだ。
民家などが見受けられなかった事がそれを印象付ける。

その問いにルイズの動きが凍る。
…マテ。よもやとは思うが…

「…もしかして、徒歩で行くつもりだったのか?いや、そもそも、歩いていける範囲には市街地など見られなかったのだが」
「…って、エミヤ? どうして、市街地が近くじゃないなんてわかるの?」

動きを取り戻したルイズが、私にそんな事を聞く。
私の【保有スキル】の千里眼は説明していなかったか。

「ああ、これは私の特技でな。かつてはこの目の良さを持って弓兵を務めた事もある。遠方の目的捕捉と動体視力には自信があってな。昨夜、寄宿舎の屋上から周囲一帯の地形は把握したつもりだが」
「…ふぇ…いったいどんな視力してるのよ」

いや、それに驚いてもらうのはかまわんがな。
君は肝心な事を答えてないのだが。

「…ルイズ。残念だが。話をそらそうとしても無駄だぞ」
「…虚無の曜日なら、馬の貸し出しがあるんだけど」
「虚無の曜日?…フム。要するに休日の類かね?」

成る程。此方の世界も曜日による区切りで休日を作っているのか。

「…で、今日は、その虚無の曜日ではないだろう?」
「うぐ…」

まさか、考えていなかったとでも言う気だろうか?

「い、良いのよ! 途中で乗り合いの馬車を拾えば!!」
「…それは運良く通りかかった場合だな。で、距離にして、徒歩でどれくらいだ?」
「二日間…」
「…やれやれ。君が行くと決めたなら従うがね」

…それだけの行程を思いつきで行こうと言ったのか? 彼女は。
武器を試すという着眼点は良かったが、その前の段階が御粗末だぞ。マスターよ。

●○●○●



学園の敷地外は広大な平原だ。
近隣に民家が無いのは魔法の修練の上で予測を超えた被害を未然に防ぐ為だろう。

「さて、ルイズ。市街地はどちらの方角かね?」

私はルイズに目的地の方角を確かめる。

「うん? 東に行くの。街道沿いにね」

彼女は指差す。東の方角には確かに街道が見受けられる。
成る程、生活の拠点とは違うものの、こういった街道の整備は欠かせまい。
フム。障害物も無し、視界は良好。
これならば、特に問題無しか。

「…では、逝くか」
「へ? ちょ…っちょっと?」

私はルイズを抱えあげる。抵抗等は無意味。
そう。何時ぞやと同じようにお姫様抱っこだ。
ルイズの顔が朱に染まる。
以前もした事があるのだから、そう気にしないでもらいたいのだが。

「む。どうしたかね?」
「…なんで当然のようにわたしを抱きかかえるのよ…?」
「馬も無く、徒歩で行くには時間が掛かる。馬車は拾えるかどうかは運しだい。ならば、採れる選択肢などそうは多くないと思うが」
「いや…だからね? それがどうして…」

フム。これまでしてわからんのか?
聡いようで鈍いな。マスター。

「…簡単な事だ。少なくとも馬よりは早い自信がある」

最早、問答は無用。
行くべき方角は街道沿い。
後はこの身を持って踏破するのみ。

「しっかり首にしがみついておく事。振り落とさんように注意はするが」
「ちょ…ちょっとぉおおおおおぉおおおおっ!!」

そして、私は赤い疾風となる。

●○●○●



「…あのね…エミヤ。あなたの身体能力も魔力を使った上での状態も認めるわ。素直に凄いって」

市街地。トリステインの城下町。
ここはブルドンネ街。
この町で最も活気が在り、その路地を道なりに歩けば其処は王宮が待ち受ける。

其処に二人の主従の姿があった。

「…でもね? これだけは言わせて…もう少し人に配慮した速度には出来ないの?」

少女は猛っていた。
自らの従者に対して。
赤い外套を着込んだ従者は非難など何処吹く風といった様相だ。

「む。何を言う。十分に配慮したから、短時間で目的地に到着したのでは?」
「…わたしが言いたいのは安全性の方…利便性じゃなくて」

少女の顔色は青い。
どのような交通手段の結果かは窺い知れない。
当の本人達にしか理解できないだろう。
いわんや、赤の従者が、この少女を抱え上げ草原を有り得ぬ速度で疾走して来たなど誰が想像し得よう。

そんな会話などは町行く人の耳にも止まらない。
雑踏は途切れることなく。老若男女の区別無く。
交わされる会話は日常の一端として。

「前回と違って気絶はさせないように配慮したんだがね」
「…あのね。徒歩で二日間、遠乗り用の馬で三時間の距離をね」

少女は溜める様に言葉を切って、有らん限りの声を上げた。

「どうして、一時間弱で到着できちゃうのよ!! はっちゃけ過ぎも良い所じゃないの!!」
「心外な。マスターの為を思ってやった事を攻めるのか? そんな距離を歩くよりは良いだろうに」
「ーーーーーーーッ!!…ああ、もういい…なんか疲れちゃった」

少女は嘆息する。
この従者には、真っ当に舌戦を挑んでも無意味だと悟ったかのように。

従者の目は、始めて来る土地であればこそ予断が無い。
何せ、町の門を潜る時に、主人より財布を預けられたのだ。
いわば、彼の手には、主人の現状の全財がある。

「…っと、ここね」

狭い路地を幾度か曲がるとそこに目的の場所はあった。
掲げられた看板は剣の意匠をしていた。
武器屋である。

●○●○●



ルイズに案内されるままに武器屋の門戸を潜る。
店内は昼間であるのに薄暗い。
…これはあまり期待できんかも知れんな。
武器というものは蔵に仕舞い置くのみでは朽ちてしまう。
適度な日の光を当てる事も重要なのだ。
そう。武具もまた生きているのだ。

ああ、それに乱雑すぎる。
もう少しウィンドウディスプレイを考えるべきだろうに。
これでは目的に叶ったものを探すのに時間が掛かるだけだ。

フム…武器の精度は…あまり良いのが無いな。
剣であるなら問答無用で取り込むが…価値あるものとなると…
武器の造りは、さほど私の世界と変わっていない。
これでは、この世界の武器を持つ事でも、紋章が発動するかを調べるにはあまり適当でないかも知れん。
明らかに、この世界特有の武器を期待していたのだが…
ままならんものだな。

「…これは、貴族のお嬢様。うちは真っ当な商いを手懸けておりますが…」
「客よ。私の従者に剣を見繕って頂戴」

…フム。陳列された武具に対して解析を試みてみるか。
何しろ、我が固有結界。視認したのであれば即座にその複製を作る。
何かしら、掘り出し物があれば、これで十分に解るだろう。

「…お嬢様?お連れさんは何をしてらっしゃるんで?まじまじと剣を眺めているようですが」
「…エミヤ? 何をしているの? 武器を試すんじゃないの?」

両手持ちのクレイモア。これは私の知るところの両手剣と大差無し。該当類似多数。登録。
次。重鎗。騎乗の際に効果を発揮するランス。騎乗は得意でないから射出用の剣弾にて使用。類似武装多数。登録。
次。レイピア。刺突に効果を発揮する剣。元来は戦闘用には不向き。骨子強化にて使用。類似武装多数。登録。

「っちょっと、エミヤ!! 人の話を聞きなさい!!」
「む? ルイズか。どうした」
「あのね。武器を試すって話はどうなったのよ」

ああ、その事か。だが…

「…正直、この店の武器では役に立たん。そもそも買う意味が無い」

私の言に店主の顔色が変わる。
…当然だろうな。だが、これは交渉術の一つ。
貶める事で秘めたる物を引き出す。

「言いますね。ダンナ。アンタがどれ程、武器を使えるか存じませんがうちの秘蔵品を見ても言えますかね?」
「ほぉ…構わんさ。私の眼に適う武器があるなら出してもらいたいところだが」

そう。既にしてここは戦場。
贋作者の誇りにかけて出されるもの全てを解析し贋作しきって見せよう。
我が心象世界に、類似すら在り得ぬ武装。
在ると言うのなら、示して魅せろ。

次々と店の奥から引っ張り出されてくる秘蔵と謳った品の数々。

…フム。意匠は煌びやかだが…それだけだな。
一応、シュペーとの銘が刻まれているところから察するに刀工の作品ではあるが…
人の扱う分には十分だが、私の魔力を通せばそれには耐えられないだろう。
却下。使用に耐えうる武器で無ければ意味が無い。
心象世界には登録するが、使用の際は構成材質の強化の必要があるな。

物足りない。比べる基準が宝具である事が問題ではあるとは思うが。

「…これが最後でさぁ。曰く付きなんで誰も買いやしねぇ流れモノの一品でさぁね」

そうして主が持ち出したのは一振りの古刀。
解析を試みる。
…エラー・警告発生。内包する概念神秘が想定を大幅に逸脱。
…リロード。エラー・構成材質不明。金属構成が理解の範疇を逸脱。
…再試行。エラー・基本骨子に解析不能な特殊カテゴリーを確認。
結論。心象世界に登録は不可能。投影不可。

…なんだと?これは…乖離剣に匹敵するのか?
剣であるなら確実に心象世界に登録するというのに…ありえん。
私が投影できないとするならば、これには相当の神秘があるはずだ。
乖離剣はあの強烈なまでの神聖。剣と言う範疇ですら括れない剣。
それに匹敵するほどの神秘…可能性としては…

「…ふむ。これは…確かに秘蔵品と称する価値はありそうだな」

これには価値がある。
解析による解析で中に取り込むもよし。
投影できないのであれば、旨味は無いのだが。

『…おもしれぇ。おめ、使い手か』

店主より手渡された古刀を鞘より抜き放った瞬間。
左手の紋章が光を放つ。

それと同時に古刀より言葉が放たれた。
発声器官無しに言葉を放ち、意味ある言葉を紡ぐ。

成る程、合点がいった。
これならば、確かに解析も投影も出来まい。

「…ほぉ、解析しきれんと思ったら、インテリジェンスソードか」

インテリジェンスソード。
私が投影できないものの一つ。理由は簡単だ。
この類の武装には知性と意思が存在している。
投影ではこの知性と意思を再現しきれない。
これを再現するという事は、一つの命を投影することに他ならないのだ。
投影の難度からすれば実に宝石剣に匹敵か、それ以上。
この一振りを投影するのに、全てを賭けて届くかの領域だ。

神秘ゆえに投影できないのではなく、命そのものを再現できない。
独自の意思を持ち、考え思考する知性。言葉を解し、話す知能。
無機質といえこれを内包するのは一つの生命体といって過言は無い。
即ち、これを投影することは第三魔法たる魂の運用に極限まで近づく事になる。

『…気に入った。おめ、俺を買っていけ』

…左手の紋章からは、やはり戦闘技能と戦闘方法が情報として転送されるな。
武器を握りとるだけでこの現象が起きるか。
この剣は解析すら弾き、投影など論外だった。
つまり、英霊エミヤにとって未知なる武装。
それを左手の紋章は理解している。

これで確実か。
この紋章は触れた武装を理解し使いこなす異能を内包している。
…使いこなすとはどの領域まで上るのか。
担い手レベルの到達であるのならば…我が心象世界の剣群との有用性は計り知れない。
そも私は、作る者であって使う者ではなかったのだ。
故に、私は持てる技術を磨きに磨いたのだから。

「…ふむ。悪くはない提案だな。…我が内に取り込めぬのならば、それも選択の一つか」

剣を手にする私に声がかけられる。

「…エミヤ? さっきから何をブツクサ言っているの?」
「ルイズ。この剣ならば、私の知らない武装だ。真の意味で未知なる武装。他の武器では、意味が無かったがこれならば、紋章を知るにちょうど良い。これを買う」
「へ? なんでそんな古臭い剣を? もっと綺麗な造りの剣があるじゃない」
「…意匠が綺麗な剣なら、私に再現可能な剣の方が見事なのだが」

そう。星の聖剣や選王の黄金剣。
あのふた振り以上の美しい剣なぞ認めん。断じて認めん。
ましてや何の神秘も内包してない剣などは比べるべくも無い。

「それから、古臭いと言ったな? それは武器とっては重要な事だ。それだけで時間を内包した神秘となるのだからな」
「時間を内包した神秘?」
「そう。器物百年を過ぎて魂魄を宿すと言う。朽ちぬままに在った武器はそれだけで価値ある武器となる」
「…それってどういう意味? 古いものって壊れやすかったりするじゃない。それなのに価値があるの?」

ふむ。此方の世界では武器は、あまり重要視されていないのだろうな。
だが、事実は事実だ。世界が違おうとも、時間という概念は共通する。
その共通事項たる時間を積み重ねた武器であるならば、そこらの概念武装では敵うまい。

『…嬢ちゃん。言っておくがな。俺はこれでも六千年は存在してる。軽く見てもらっちゃ困るぜ』

…六千年? …事実だとするなら、それは洒落にもならないのだが。
それ程の長きを経たのならば、それは一級品の概念武装だ。
これに人々の幻想が集まれば、正しくして『貴い幻想』になるだろう。
いや、六千年もの時間ならば、既にして宝具と同格だ。

「…ふむ。となると銘無しの剣でもあるまい…刀身に刻まれているのは…」
『…消し去るもの。かつてはその名で呼ばれてたな』

店主は我が意を得たりという面持ちで此方を見やっている。

「…そいつは、デルフリンガーって剣でさぁ。ウソかホントか伝説の時代からの剣でしてね。魔剣と呼ばれるそうです」
『おめぇに目がねぇから、それをホントとも言えねぇんだろうがよ』
「…とまぁ、このようにインテリジェンスって言う割にゃ、口が悪くて買い手が付かなかったんですぁね」

成る程な。武器が喋る事というのは余り良い点は無いが、悪いとばかりも言えまい。
無駄にしゃべらせる意味は無いが、警告や情報などの提供に悪い意味は無い。
自らで把握しきれなかった僅かな情報の取りこぼしをフォローさせるのにはうってつけだ。

私はこの剣を振るってみたい衝動に駆られていた。
何より、この紋章は武器を握ると自動的に発動する。
身体の熱を放出したい気分に等しい。

「…すまんが、店主。試し斬りをしたいのだが?」

私のその言葉に店主の顔が職人の顔付きになる。
今までは、商人の顔。あわよくば高値で売りさばこうとする顔付きだった。

「ほぉ、アンタは良くわかっているねぇ。ここに武器を買いに来る奴は、そこを抜かす奴が大半だってぇのに」

店主は腰をあげ、顔だけで方向を指し示す。

「着いて来な。裏口から出りゃ、試剣場だ」

●○●○●



裏口から出た先は、こじんまりとした空間。
そこには、幾度も斬り付けられた等身大の全身鎧があった。

わたしはそこに在った丁度良い高さの岩に腰を下ろす。
少しごわごわして痛いけど。
というか、貴族の腰掛けるようなものじゃないのは確実。
文句の一言も言いたいのだが…

今、この空間を占める空気はそんな余分を許してはくれないだろう。
この場を支配しているのは純粋なものだ。
わたしは、これを表する事の出来る言葉を知らない。
味わった事が無いのだ。こんな身を切るような慄然とした空気を。

店主も同じなのだろう。
全身鎧と何気なく向き合ったエミヤから目を逸らす事が無い。
いや、逸らせない。

それほどまでに空気は張り詰めている。
後、僅かなきっかけでこの場は動きを見せるはずだ。

●○●○●


そして、風が吹いた。


それは正しくして風だった。
紅い疾風だ。僅かに離れたところにある標的に向かって風が奔った。
下段から、振り抜く形の逆袈裟。逆風の太刀とでも言うべきか。
金属音などはしない。振り抜かれたと言う事実のみだ。
その剣の辿った軌跡には間違いなく金属質の鎧があったのに。

片手で降りぬいた剣。その剣閃を翻し上段にて両の手を添える。
両手持ちの形となった魔剣は、鈍い輝きのままに振り下ろされた。
瞬閃。轟閃。風を切る音は正しくして風を切った音。
降りぬいた体勢を瞬時に立て直し、剣を鞘に収める。
そして、斬られたと言う事実を思い出したかのように鎧が刃を辿った軌跡のままに解体された。

それは僅かに一瞬きの間の出来事。
だが、これを見ているものは、確かにこの光景を見たのだ。

●○●○●



私は紋章の促すままに身体を奔らせたにすぎない。
だが、違和感の立ち昇る事も無く私の身体は、その動きを澱み無く遂行した。

今回は魔術回路も魔力放出も使用してはいない。
意図的にそれをセーブした。
紋章に連動する魔術回路は意思で抑え込む。
つまり、純粋に紋章の力のみを使用する形を採った。

紋章は最適な形で最高の威力を武装に発揮させた。
私とて加算される事の無い素の能力でも、斬鉄は出来る。
だが、これほどまでに見事な斬鉄が出来るかと言われれば、否。

そうして、私は店の主人に向き直る。
この剣、現状、投影出来ないならば、購入すべきだ。
六千年もの長きを経たのならば、そうするだけの価値はある。

「…主人。この剣。如何ほどの値段だ?」

呆けた顔を改めると、彼は予想もしない言葉を放った。

「…いらねぇ。御代は結構でさ」
「む…何故だ? 言い値を払えるとは限らんが…商売をしている身の上だろう?」

店主は、その面持ちを真面目なものに変えると言葉を続ける。

「…親父から店を継いで四十と数年。おれぁ、アンタほどに使える達人を見たことぁねぇ。武器って奴は使える人間が使って始めて価値と意味がある。貴族のお飾りでぶら下げておくようなもんじゃねぇんだ」
「…良いのか?これは秘蔵品なのだろう?」
「なおの事さ。鳴り物入りで引き取ったのは良いが、使いこなせる奴には恵まれなかった剣だ。…そいつを気に入ったんなら、持っていってくんな」
「…すまない。言葉に甘えさせてもらう」

っと、視線を感じるな。
この咎める様な視線は…ルイズか。

「…何か、問題でもあるかね? マスター」
「なんで、ご主人様抜きで商談まとめちゃうのよ」
「いや、君が使うわけでもなし、金を支払う訳じゃないから、かまわんだろう」
「…なんか、凄く納得いかない」

だから、その恨みがましい目はやめてくれ。
金銭を浪費せずに済んだのだから良い事だろうに。

●○●○●



そうして、私達は武器屋を離れる事にした。
去り際に店主は気になる事を言っていた。
最近は、この近辺の治安は悪いらしい。
その理由は、ある一人の盗賊が近隣を荒らしまわっているとの事。
ただの盗賊ではなく、その手法には魔法が使用され、通常の警備隊では意も無く蹴散らされるらしい。
貴族達は、その隠匿している財宝をもの見事に暴かれ盗まれていく。
『土くれ』のフーケ。名をそう名乗るらしい。
実際に遭遇する可能性は無いだろうが…何処にでも居る者なのだな。その手の輩は。

私達は再び大通りに足を運ぶ。

「…さて、帰りましょ? で、疑問は解決できた?」
「ああ。とりあえずはな。この紋章は武装を理解し使いこなす異能がある。それは確実だ」
「…そう。…でも良かった。これで解らないってなったら王室アカデミーに直行するつもりだったし」

む?王室アカデミー?
…魔法研究の専門機関だろうか?

「ちなみに。直行した場合は?」
「ん? 解剖されて隅々から調べられるわ。これ以上無い位に確実に問題を解決するためにね」
「…それは、ぜひとも遠慮したいな」

道なりに歩く中、衣料品店が見受けられた。
ふむ…丁度良い。
例の一件の為の布石を打つか。

「ルイズ。すまないが、ここで少し小用があるのだが」
「何よ?服屋に何の用があるのよ?」

ふむ。ならば、その問いにはこう応じよう。

「何。明日の為の準備、その一だ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

毎度毎度、物議を醸し出しております。
内容には手を抜かずに全力投球していきます。

ネタにも手を抜かないのが方針です。
今回は、魔剣との邂逅。エミヤ編。
武器屋の主人は、職人気質な良い人に。
後は、紋章に対する疑問を解決させました。
さすがにぶっつけ本番で紋章の訳の解らない力【注・エミヤにとって】を使わせるのもあれだったので。

後は、服を買わせて帰らせるだけです。
つーか、最新刊で王都トリスタニアまで徒歩二日の距離って書いてあったからそれに合わせて内容修正。

では、いろいろとお騒がせしてますが、それでもお読みくださる方は続きをお待ちください。
次回の更新も本編の方で。

でわ。


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