書き方を少し変えてみました。
好評であれば、これからもこうします。
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Side レイ
「こちらですお兄様、ルイズ」
「兄様早く!!」
愉しげに先を行く、アンリエッタの微笑み顔
俺の手を掴み見上げてくる、ルイズの期待に輝かした目
それらを視界に入れ--俺は、今の状況に至った経緯を思い出していた
姫殿下の私室にて、一波乱あって……一応は一件落着--尤も俺には甚だ、そうは言えないが--した後の事……
アンリエッタと約束した--させられたが正しい--一つでも厄介極まりない数々の事柄に頭を痛めていた俺に、ルイズが話しかけてきた
「兄様……ごめんなさい」
ルイズは沈痛な表情で、目に涙を溜めて俯いた。
「気にするなルイズ……そもそも、俺がルイズがあれを隠し持っている事に気付いていれば、状況はあそこまでいかなった。故に責任は俺にある」
ルイズを撫でて、微笑む俺に、ルイズは--泣き笑いじみていたが--何とか笑い返してくれた
「麗しい兄妹愛ですが……なんだか私、悪役みたいですわ」
「そ、そんな事ありません姫殿下」
突然拗ねだす姫殿下に、慌てて声をかけるが……
「………………」
姫殿下は口を開かず--頬をプクーっと膨らませ--更に不機嫌なようす 。
「姫殿下……?」
俺が困惑気味に声をかけると、姫殿下は漸く口を開き、ポツリと呟いた。
「…………約束」
「あ、……ああ」
納得がいった--確かにこれは俺の落ち度だ--故に
「すまん」
普段ルイズにするような態度で、謝罪を告げる。
そうすると姫殿下は、漸く機嫌が戻ったようで、笑顔で口を開いた。
「宜しいですわ……それと私の事はアンと、愛称でお呼び下さい」
お父様とお母様以外でこう呼ぶのは、お兄様が初めてですわ--と嬉しげに宣う姫でんもといアンに、毒喰わば皿までと言った心境で……
『アン』
と、呼びかけた。
そして脳内の奥深くにある、『知られては拙い事手帳』に--新しい項目を書き足した……
「ルイズも、アンと呼んで良いわよ?」
「ホント!?姫様」
「ええ--「それはやめておいた方が良い」--どうしてですの?」
不満そうな二人に、溜め息混じりに応える。
「言っては悪いが……ルイズには状況を見て、呼び方を変える判断など--まだまだ出来はしないさ」
本来なら俺にも言える事なのだが--言うなれば、異常に当たる俺にはそれは当てはまらない。
「できるもん!!」
「そうですわ!ルイズなら大丈夫ですわ!!」
「……事が起こった後では遅いんだ……忠告は聞いておけ……」
「「…………はぁい」」
少々高圧的に言う俺に、二人は左右鏡会わせに口を尖らせ、返事をした。
「意地悪なお兄様は放っておいて、あちらでお話しましょルイズ」
「うん!姫様!……兄様の意地悪!!」
アンに促されたルイズは--俺にあっかんべえと舌を出し--アンの手を握り、歩いていった。
先程の、下手すれば傷害沙汰と言える状況と比べ、和やかと言えるルイズとアンの様子に、軽く苦笑いする。
そしていつの間にやら--もしかすると俺が一役買ったのかもしれない--仲直りして、まるで姉妹のような二人を見やり、椅子に腰掛けた。
そうしてなんとなく、二人の話に耳を傾けていると--何とも聞き捨てならない内容が聞こえてきた。
「所でルイズ……先程の棒は?」
「棒?……あ、これのこと?」
ルイズは背中に携えている木刀を、見えやすいように前に出した。
「木剣……ですか?」
「うーん……兄様は『ボクトウ』って言ってた」
聞かれるままにポンポン答えるルイズに、顔を顰める--
尤も素直な事は美点なので窘める事も出来ない--
そんな事を考えている、とアンに声をかけられたら……
「お兄様……私これに似たものを見た事があります」
「……何?」
内心の驚きをおくびに出さず--冷静に聞き返す。
「……鉄と木と言う違いはありますが……この反りと片刃、それに短さは見覚えがあります」
確かに、アンの上げた点は日本刀、しかも小太刀の特徴と言える。
尤も、深窓暮らしのアンに、武器の見分けが可能かと言えば--甚だ疑問であるが
そう考えていると、アンが言った。
--見に行ってみましょう--と。
そして今--眼前に見えるのは立派な門
「こちらです」
……確かに見に行く事に賛成した。
「これが我がトりステイン王家が誇る」
……だがそれのある場所が……
「宝物庫ですわ!」
宝物庫だなどと……聞きもしなかった。
何とも言えない不条理に、内心嘆息するが、そうも言ってられず、俺は話を進める事にした。
「……この中にあるんだろうが……鍵は?」
「鍵……ですか?」
ゴソゴソと、服の内側を探るアン
「はい」
差し出される鍵--
何故持っている!?
「これは複製ですわ。本物はお父様が保管しております」
「複製?--そんなものどうやって……?」
「……土メイジって便利ですわね」
つまり勝手に拝借して、土メイジに複製させたって事か……
深々と溜め息を吐く俺に、アンはニコニコと笑顔を向ける。
その姿に--小悪魔の羽根と尻尾を幻視した
「兎に角、鍵があるなら問題無い。気付かれ無い内に、中に入るか」
アンが鍵を開け、俺が門を押し開いて俺達は宝物庫に踏み入った……
Side out
目の毒と言える金銀財宝には目もくれず、アンリエッタはズンズンと先に進む。
その後をレイとルイズが、少々警戒して追う。
「--これですわ」
追いつくと、アンリエッタは既に目的の物を見つけており、重そうにそれを両手で支えていた。
アンリエッタの両手の上には擦り切れた袋が乗っており、それを受け取ったレイは袋の中の物--二本の小太刀を目にして驚愕した。
普段の有り様からは、信じられいほど驚愕したレイだが……無理も無い。
その飾り気の一切無い、黒塗りの無骨な鞘に収められた小太刀は、レイの前世での愛刀『無明』であったのだから……
レイは落ち着きを取り戻し--アンリエッタに抜いても良いか、確認を取る。
頷いたアンリエッタに頷き返し、レイはハンカチを口にくわえ--懐紙代わりと思われる--静かに無明を抜きはなった……
「……………」
刀身は記憶のままの--黒く焼き入れされた波紋の無い実直なもの--だったが、以前には無かった見る者に感じさせる冷え冷えとした刀身の冴えと、言い知れない美しさが加味されていた。
「……なる程--九十九……か」
『器物百年にして魂を得る』
即ち--新造刀として『不破斗真』と四十数年を共にしたのち、紆余曲折あって九十九となった。
そして『魂の宿る器物は主を選ぶ』とも言い--魂を得たこの二刀は何とも稀な運命を背負った主を追って--ゲートを渡り、ハルキゲニア各所で稀に見られる
『場違いな工芸品』
として--この宝物庫に紛れ込んでいたのだろう。
刀たる彼等を存分に振るえる主、斗真--レイにあいまみえるために……
刀身の、冷え冷えと湛えられた光に見惚れいたルイズとアンリエッタの傍らで、それが理解出来たからこそレイは抜いた無明を見据え……
「俺などを選ぶとはな……まぁ良いせいぜいこき使ったやるぞ……相棒」
言い捨て、不敵な笑みを浮かべた。
それに無明の刀身が--望む所--と言った感じにキラリと光った。
余りにも似合って魅力的なレイの不敵な笑みを見てしまったルイズとアンリエッタは、またもや見惚れいた
「む……?どうした?二人共」
「は、はい!」
「顔が赤いが……」
慌てだす二人。
だがそれも、次のレイの言葉で鎮静されてしまう。
「熱でもあるのか?」
呆気に取られる二人に、レイは小首を傾げた。
その後の無明の譲渡を願い出るため、宝物庫を後にした。
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「「お父様!」」
背後から聞こえる愛娘の声に、国王と公爵は振り返った。
二人が振り返った先には子供達がおり、アンリエッタとルイズは仲良く手を繋ぎ、その後ろでレイが恭しく一礼していた。
「ただ今戻りました父上」
「うむ」
鷹揚に頷きながら、公爵は上機嫌であった。
ルイズとアンリエッタの仲睦まじい様子から--一抹の不安が杞憂に終わった為と--画策していた事の一つが上手くいったのだから、当然だろうか。
「何をして遊んでいたのだ?」
国王の膝上に座ったアンリエッタが顔に満面の笑みを浮かべ国王に聞かれるまま応えたが、返しの一言に場の空気が凍った。
「お部屋でお話したり、宝物庫……あ」
自らの発言の不用意さに気づき--アンリエッタは顔を真っ青にした。
国王がアンリエッタを叱る為に口を開く--寸前、レイがスッと前に出て、国王に話しかけた。
「陛下……」
「何だ公爵令息殿、話なら後--「宝物庫の件についてお話があります」--……何?」
国王に鋭い視線を向けられたらレイは恭しく臣下の礼を取り、口を開いた。
「私共は初め、姫殿下の私室にて歓談に興じていたのですが……話が私とルイズが扱う剣の特徴などになりまして……それに姫殿下が宝物庫で似た物を見たと言う事になり、興味を持った私が、見たいと姫殿下に頼み込んだのです」
目を見開くアンリエッタ。
「そんな! 違います--「アンリエッタ」--お母様……」
「淑女が殿方のお話に--口を挟むものではありません」
王妃に窘められ、アンリエッタは沈痛な面持ちで俯いた。
レイは王妃に一礼して感謝を示し、国王に目を向けた。
「……ふむ、状況は解った--時に、その剣はどのような物だ?」
「それに関して願い もありますが、まずは--実物を御覧下さい」
そう言って、レイは携えていた袋から小太刀を一刀取り出し、国王に抜く許可を貰って、小太刀--無明を鞘から抜きはなった。
「--ふむ それか ……確かに私も宝物庫で見た覚えがある--だが、それほど美しい物では無かった筈だが……」
「……この剣には意思があるようです」
「……インテリジェンス・ソードか?」
「意思と言っても、そこまではっきりしたものでは無いようです」
「ふむ」
「……手に取った者が、剣に--相応しい者で無いと判断されれば、真の姿は顕現しないと、愚考します」
暫く場を静寂が包み込んだ。
国王が徐に口を開いた。
「そなたは--剣を振るうそうだな?」
「……はい」
「大貴族たる公爵家の嫡男である君が……何故剣を手に取った?」
引き締められた空気の中、レイが凛と答えた。
「私の大切なものを--護る為です」
それに国王は怪訝な顔をした。
「護る為?……それは魔法でも出来るだろう?いや、魔法の方が--効率が良い筈」
そうするとレイは、苦笑気味に微笑んだ。
「欲張り何ですよ、私は。剣で護れるもの……魔法で護れるもの……そのどちらも護りたいんです」
その微笑みに--場にいた者全てが見惚れてしまった。
「欲張り……か。確かに欲張りだ。……一つ聞きたい」
「……はい」
「その護りたい大切な者に--アンリエッタは含まれているのか?」
「「へ、陛下!?」」
「お父様!?」
国王の言葉に、場は騒然となった。
さもありなん、聞きようによっては
『王家は護るに価するか?』
と詰問しているように聞こえるのだから……
王妃、公爵、アンリエッタが慌てる中--ルイズはただじっと、レイの後ろ姿を見つめていた……
レイは直ぐに口を開くような事をせず、場が静まるのを待った
国王の咳払いで場が静まると--レイは徐に口をひらいた。
「……その対象が姫殿下であるのなら--判断はまだ保留にしたいと思います」
「「なっ!!?」」
余りにも不躾な発言に、王妃と公爵が激昂しかけるが--国王が右手を前に出す事で、二人を制した。
「--まだ、レイ殿の話は済んでおらぬぞ」
そしてレイを見据え、続きを促した。
「……ですが、アンリエッタ様個人にであるならば--是非もありません。護る為に、全力を尽くしましょう」
俯いていた顔を勢い良く上げたアンリエッタは--驚きに目を見張らせていた。
一度は兄と慕ったレイに
『護りたくない』
と言われたと思っていたので、当然と言えた。
そのアンリエッタ--未だ国王の膝に腰掛けている--の頭を慈しむよう撫で、国王はレイに声をかけた……
「つまりレイ殿は--王家と言う『権威』の為で無く、アンリエッタと言う個人の為なら……剣を振るうのに否応は無い……と?」
「御意……されども、私の信念に抵触しない限り--ですが」
その言葉に王妃が顔を顰めるが、国王は……
「……は、ははははは!!」
莞爾と笑い声を上げた。
国王は盲目的に従い、王家の言うがままの臣よりも、よっぽど良いと考えた。
今のトリステインに多くいるそう言った--自らで考えない愚鈍な貴族--に頭を痛めていた国王には、当然と言える考えであろう……
「面白い! 公爵、そなたの息子殿は大器であるぞ!!」
「光栄です--ですが陛下、それは私めが常々申しておった筈ですぞ?」
「はは、違いない!許せよ、公爵!ははははははは!!」
上機嫌に国王は笑い続けた。
「気に入った!褒美だ--その剣そなたに下賜しよう!何、その剣にとっても、宝物庫に死蔵されるよりもそなたに振るわれる方が何倍も有意義だろうて!!」
「有り難き幸せ--ラ・ヴァリエール公爵が嫡男、レイ・フォルス……この剣、確かに拝領致します」
「涼しい顔をしおって!少しは子供らしく喜んでみんか!!」
「…………これが地ですので……」
「そうか! 地か!!」
呵々大笑する国王につられ--周りの者も笑い声を上げた。
この日--王城のテラスでは笑い声が絶えなかった……
~おまけ~
「……レイよ、どうして剣を隠す?」
「いえ……その」
「じーーーーー」
「……むぅ?」
「じーーーー」
「……ルイズに剣を狙われていますので……」
「何と……はは、陛下に対しても、毅然な態度を崩さなかったレイも--妹には弱いか!!」
~あとがき~
……やっと終わったぁ!アンリエッタ邂逅編、長かったです!
これだけで三話…グダグダですな(汗
さて、次回の話ですが…アルビオン旅行編と予定しております。原作の時間軸と違うかもしれませんが…このSSではそうだと言う事にしておいて下さい。
アルビオン旅行編は短くなる予定です。
……でも……レイを胸革命の幼少期と出会わすと言うよからぬ考えが(汗
そうなると また長くなる……
と、兎に角、読んでくれて、ありがとう御座いました!
また、縁があれば