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No.20520の一覧
[0] 月のトライアングル[村八](2010/10/20 23:53)
[1] 1話[村八](2010/07/29 01:01)
[2] 2話[村八](2010/07/29 01:01)
[3] 3話[村八](2010/07/29 01:01)
[4] 4話[村八](2010/08/05 23:20)
[5] 5話[村八](2010/08/07 02:23)
[6] 6話[村八](2010/08/07 02:24)
[7] 7話[村八](2010/08/12 03:53)
[8] 8話[村八](2010/08/16 00:12)
[9] 9話[村八](2010/08/21 01:57)
[10] 10話[村八](2010/08/25 01:38)
[11] 11話[村八](2010/09/07 01:44)
[12] 12話[村八](2010/09/15 00:46)
[13] 13話[村八](2010/10/09 00:30)
[14] 14話[村八](2010/10/20 23:28)
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[20520] 5話
Name: 村八◆24295b93 ID:1e7f2ebc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/07 02:23


ルイズの救出を無事に終えたカールは、その脚でオスマンの元へと赴いていた。
学院の中は現在、物々しい空気に満ちている。
普段から警備に詰めている衛兵は全員が警戒態勢を維持しており、生徒は全員が自室に引きこもっている。
教師陣はメイジとして戦力に数えられており、誰もが待機状態。

以前オスマンが口にしていた通り、この魔法学院はトリステインのアキレス腱である。
自国の貴族に何かあれば問題だし、ガリアやゲルマニアから通う他国の貴族に何かあれば、最悪、外交問題にまで発展するだろう。
そのため、このやり過ぎ感すら漂う状況も、仕方がないのだろう。

扉をノックし声が返ってくると、カールは学院長室に入った。

「ご苦労。災難だったのぅ。
 疲れているところ悪いが、早速話がしたい。
 座ってもらえるか」

「はい」

オスマンの言葉に従って腰を下ろすと、途端に疲れが押し寄せてきた。
戦闘そのものは得意と云って良いカールだが、流石に命のかかったやりとりで、しかも相手は異世界の魔導師だ。
警戒しすぎて困ることはない――過度に緊張することこそなかったものの、ルイズを無事に助け出すという目的にも気を配っていたため、精神的な疲労はかなりものだった。

「……脱獄してたんですね、フーケ」

「そのようじゃな。今、王宮にまでそのことを確かめるためフクロウを飛ばした。
 もしかしたら今日昨日の内に監獄から抜け出したのではないのかもしれん。
 フーケは散々貴族に対して舐め腐った態度で盗みを働いた盗賊じゃから、それを捕まえたことはそれなりの価値があった。
 同時に、捕まえておきながら逃がしたと知れてしまえば、チェルノボーグ監獄……それを管理している国への不信感も増すじゃろ。
 アルビオンで面倒なことが起こっている今、フーケの脱獄が露呈するのは避けたかったのやもなぁ」

「……薄汚い、とは思いませんよ。
 そういうものでしょう」

別に珍しいことではない。この世界でも、管理世界でも。
フーケが脱獄したことが露呈しない内に再度捕まえてしまえば、結果として脱獄した事実は消えてなくなるようなものだ。
その根性を責めることは簡単だが、だからと云って何が変わるというわけではない。
自分の手でそれを改めるつもりがないのなら、余計なことをほざくだけ無駄というものだ。

「そうじゃな。よくあることじゃ」

そしてオスマンもカールと似たようなことを考えているのか、それとも怠慢に諦めを感じているのか。
話を続けようとはせず、彼は溜息を吐いた。

「助かるわい。おぬしをここに呼んだのは愚痴を言うわけでも陰口を叩くためでもない。
 それを分かってくれているなら話が早そうじゃのう。
 ……これから、どうするかね?」

「……そうですね。
 仮面の男が何を考えているのか把握できていないので――」

「ああ……そうじゃな。そこから話さんといけんか」

カールの言葉に、オスマンは頭痛を堪えた風に顔を顰めた。

「モートソグニルを通して一連の流れを見させてもらったが……仮面の男の狙いが、なんとなく浮かび上がった。
 すべての切っ掛けはフーケなんじゃろうなぁ。おそらく、おぬしのミッドチルダ式魔法を目にして、虚無と勘違いしたのかもしれん」

「虚無ですか……俺はあまり実感がないんですけど、そんなに価値のある系統なんですか?
 確かに、失伝した系統が再発見されれば保護は必要だと思いますけど」

希少技能保有者、古代ベルカの騎士、ユニゾンデバイスという単語を脳裏に浮かばせながらカールは云った。
しかしオスマンは緩く頭を振ると、違うんじゃよ、と肩を落とす。

「この世界にはブリミル教という宗教があってな。
 詳しい説明を省くなら……系統魔法を生み出した人物を神と等しく崇めている、と思って欲しい。
 確かに我々の生活基盤である系統魔法を生み出した人物ならば、神と云っても過言ではない。
 その遺産を使って、私たちはここまで繁栄したんじゃからな」

「はい」

「そして、その系統魔法を生み出した人物の使っていた系統が虚無でな。
 神の使っていた聖なる系統。そのせいで、虚無の系統に目覚めたが者が現れたならば、それは現人神として扱われるじゃろう」

「……ミッドチルダ式をそれと勘違いされた、と。
 虚無がどんな魔法を発動させるのか、文献なりなんなりで残っていないんですか?
 それと照らし合わせれば、俺の使う魔法が系統魔法のどれとも違うと分かりそうな気がしますけど」

「正しく記したものも、あるかもしれん。
 だが、如何せん始祖ブリミルが逝ってから時間が経ちすぎた。
 神聖視された虚無は一人歩きを始め、最早何が虚無かも分からん。
 神の御技に等しい所業はどれもが虚無と云われる……というのは乱暴じゃが間違っておらんよ」

オスマンの言葉から、カールは局員として働いていた頃、仲間内で口にしていた冗談を思い出した。
どんな冗談かと云えば、何か不思議なことが起こったら、古代ベルカの遺産、もしくは、アルハザードの超技術、の一言で片付けてしまうというものである。
古代ベルカやアルハザードがなんなのか分からないため、良く分からないものは全部そこに転嫁してしまう、とんでもなく頭の悪い言いがかりだった。

オスマンの話は、それと似たようなものかもしれない。
神の御技に等しい現象。それが起こったら実体の判明していない虚無だと思え。
彼が自分で云ったようになんとも乱暴な話ではあるが、それは云っても仕方のないことだろう。

「大雑把だがブリミル教については分かってくれたと思う。
 では問題へと移ろうか……ミス・ヴァリエールを浚った仮面の男じゃが、どうやら目的は彼女ではなく、君の方だったようじゃな。
 おそらくはフーケの口から君のミッドチルダ式魔法を聞き、それを虚無と勘違い。
 今回の襲撃は、ミス・ヴァリエールを餌に使い魔である君をおびき寄せ、ミッドチルダ式がどのような魔法かを確かめるためのものだったんじゃろう」

そして、とオスマンは目を細めた。

「……ここで大きな問題が一つ発生した。
 仮面の男はおぬしの発言から、ミッドチルダ式を虚無と完全に信じ込んだようじゃ。
 男の目から見ればおぬしは虚無を使うメイジ。であれば、おぬしを召還したミス・ヴァリエールの系統はなんになる?」

「……虚無、ですか」

「そうじゃ。真実がどうかは関係がない。
 仮面の男にとっておぬしとミス・ヴァリエールは虚無を使う者であり、そして口ぶりから察するに、男にとっておぬしらは価値のある存在ということじゃ。
 ……なぁ、カールくん。自分にとって必要な人材を見付けたら、普通はどうするかね?
 そしてその人材が放置して厄介なことになる存在ならばどうするかね?」

「……仲間に引き込むか――」

「手に入らないのならば、排除するか」

オスマンの言葉は脅しに近いものだったが、有り得ないと断言することはできない。
何故なら、仮面の男は虚無を確かめるためだけにルイズを浚った。
公爵家の娘を誘拐することがどれだけ自分の首を絞めることか理解できないほど馬鹿ではないはずだ。
そういう意味ではルイズの命に危険が及ぶことはないと思うが――こちらも、断言はできない。

「のうカールくん。魔法学院の院長として、一つ、君に頼みたい。
 自衛手段止まりで良い。ミス・ヴァリエールにミッドチルダ式魔法を教えてやってはもらえんか?」

「それは――」

思わずカールは言葉に詰まってしまう。
教えない、の一点張りで済むような状況ではなくなってしまったからだ。
オスマンは自衛手段として、と云った。その通り、今のルイズには己を守る術がない。だからこそ彼女にミッドチルダ式を教えてやって欲しいと彼は云っているのだ。
自衛も何も、ルイズが己の身を守るのではなく、カールが守れば――とは云わない。
カールは手段こそ未だに見付かっていないもののいずれミッドチルダに帰る身ではある。守るなんて無責任なことは云えない。
それに加えて、今回の一件。別れて数分と経たずに、目を離した隙に彼女は浚われた。当たり前のことだが、カールは四六時中ルイズと一緒にいられるわけではないのだ。

「おぬしか教師がミス・ヴァリエールの元に駆けつけられるだけの時間を稼げる程度で良い。
 駄目かの?」

「……それは」

教えない、と一言で切って捨てることができない。
それは確かな罪悪感が胸に宿っているからだ。
この世界で一時しのぎの生活基盤、オスマンの信頼を得るために、カールはフーケを撃退した。
その時に使ったミッドチルダ式が事件の原因となったのは、確かだ。

勿論、悪いのはカールではなくフーケだし、もっと云うならばカールをこの世界へと呼び出したルイズのせい、とも云える。
しかしどれもが過失の域を出ない。運が悪かった、の一言で済ますしかないことだ。

だが、巡り合わせが悪かった。自分には関係がない、と切り捨てられるほどカールは厳しくあれる人間ではなかった。
甘いわけではないものの、冷徹というほどでもない。

「完全には理解していないのだろうが、おぬしの所属する組織の規律がどういうものなのかはなんとなく分かっておる。
 そこを曲げて、頼めんだろうか。
 一人の教育者として、生徒の危険に対し、有効な手を打てないというのは避けたい。
 無論、私は頼む側でしかない。すべてはおぬしの裁量次第じゃよ」

オスマンの言葉にカールは目を伏せ、

「……分かりました」

そう、短く口にした。
だがオスマンの表情が明るくなることはない。
申し訳なさを滲ませながら、小さく頭を下げる。

「すまんの」

「いえ。
 ですが、条件というか……一つ、教える前に」

「なんじゃ?」

「ルイズ自身がミッドチルダ式を覚えたいかどうか、という問題があります」

「む……二つ返事で了承するとは思うが」

「そうですね。俺も、少し前まではそう思っていました。
 けれど――」

仮面の男に彼女が浚われる前、ルイズと交わした言葉をカールは思い出す。

公爵家の娘として、貴族として、相応しい人間になるために魔法が使えるようになりたい。

しかし果たして、ミッドチルダ式魔法を覚えることは、ハルケギニアの貴族に相応しいことと云えるのだろうか。
魔法とは、直接的な力であると同時に、貴族にとっての特権である――とカールは解釈している。
一部の者に許された特異技能。それとは別として、魔法が使えるからこそ科せられる責務というものもあるはずだ。

この世界の貴族には、従軍義務があるという。
それはそのまま、力を持つ者が国の盾となり民を守る、ということを現しているのだろう。
戦うことを生業としている者――好んで戦うことを選択した者とは違い、貴族は生まれながらに戦うことを義務付けられている。
貴族として、戦う術を手にすることは義務である。そう、ルイズは思っているのだろう。
そういう意味では、ルイズはミッドチルダ式魔法に飛びつくかもしれない。

だが、ミッドチルダ式魔法を覚えたとしても、その義務を果たすことにはならない。
迂闊に異世界の魔法を使うことは許されない、ということはあるが――それとは別に。
魔法は貴族の力でもあると同時に、その立場を現す権威の象徴なのだ。

始祖ブリミルから賜った、民草を導く力。
虚無ほどではないのだろうが、四系統魔法にも神聖さは存在しているのだろう。
だからこそ貴族という立場とセットで、平民には許されない技術と決められているし、貴族はそれを誇りに思っている。
だがミッドチルダ式には、神聖さなど存在しない。

虚無でも、四系統でもない魔法。
それは貴族が手にするに相応しい力と云えるのだろうか。

そんな風に疑問を抱いていたカールは、ルイズがミッドチルダ式魔法を受け入れるのか心配だった。























仮面の男に浚われた次の日。
ルイズが学院長室に呼び出しを受けたため、指定された時間に部屋へと訪れていた。
学院長室にはオスマンだけがいて、まず最初に昨晩の謝罪――ルイズは生徒であると同時に公爵家の娘でもあるため――を受けたあと、次いで、今の状況について説明を受けた。
仮面の男がカール・メルセデスの使う魔法に興味を持ち、今回のようなことが再び起きるかもしれないこと。
そして、彼を召還したルイズも標的にされているかもしれないこと。
それらを説明されたあと、ここからが本題じゃ、と彼は続けた。

「ミス・ヴァリエール。一つ、君に勧めたいことがある」

「勧めたいこと、ですか?」

「そうじゃ。
 今回、君が浚われたことから分かるとおり、君には自衛手段と云えるものが何もない」

その言葉に、ルイズは小さく唇を噛んだ。
彼女も分かってはいる。別に侮蔑の意味でオスマンは云ったわけではなく、事実を口にしただけに過ぎないと。
それでも自分が魔法を使えないというコンプレックスを刺激されてしまったので、オスマンに見えない膝の上に乗せた手を、彼女はきゅっと握り締めた。

「情けない話じゃが、いくら学院の守りを固めても賊の侵入を完全に防ぐことはできん。
 そして一度中に侵入されてしまえば、教師やカールくんが警戒していようと、四六時中君の側にいることができないため、何かがあってもすぐに対処することはできん。
 ……じゃからな。おぬしには、カールくんの使う魔法を学んで欲しい」

「え……!?」

オスマンの言葉に、ルイズは目を見開いた。
それもそうだろう。今までカールに魔法を教えて欲しいと云っても、彼が頷くことは一度もなかったからだ。
ルイズの驚きをオスマンも分かっているのが、白く長い髭を一撫ですると、苦みの滲んだ声を上げた。

「これに関しては、既に彼も了承してくれている。
 未だに魔法を教えることに抵抗はあるようじゃが、おぬしを襲う者がいる状況をどうにかできない以上、仕方がないとな。
 それで、ミス・ヴァリエール……どうするかね?」

「どうするも何も……!」

学ぶに決まっています!
そう二つ返事で声を上げようとしたルイズを、オスマンは手で制した。

「落ち着きなさい。
 彼の魔法を学ぶことがどういう意味を持つのか分かるかね?
 彼が使う魔法は四系統から外れているし、ましてや虚無などではない。彼には悪いが、トリステインのメイジとして敢えて云うならば。
 あれは貴族にとって外道の技じゃよ。
 それをおぬしは積極的に学びたいと思うのかね?」

普段の好々爺然とした声とは違う、学院長としての重みが加えられた言葉に、ルイズは抱いていた興奮を即座に冷やされた。
……そうだ。分かってる。
魔法を学べる。その一点はゼロと呼ばれるルイズにとってこの上なく魅力的なものの、その学ぶ魔法自体が普通ではない。
魔法は魔法。あくまで力。力の種類が違ったとしても本質に大差はない――とは、云えない。

このトリステインという国は、他の国よりも格式と伝統を重んじる。
だからこそ国力を徐々に低下させているという問題も孕んでいるのだが、それは今論じるべき問題ではない。
その国に公爵家として君臨している家の娘が、伝統も何もあったものではない外道を学んでも良いのかと、オスマンは問うている。

外道。その云い方は過激ではあるものの、間違ってはいない。
ゲルマニアなら便利という一点で持て囃されるかもしれない。
だが他の四国――始祖ブリミルと深い縁のあるトリステイン、ガリア、アルビオン、そしてロマリアからすれば異端だ。
特にロマリアの神官が四系統から外れているカールの使う魔法を目にすれば、その場で異端審問を開始してもおかしくはない。

確かにカールの使う魔法は強力だが、同時に、異物でもあるのだ。
その異物を貴族であるルイズが学んでも良いのか。学ぶに相応しいのか。そう、オスマンは云っているのだ。

「自分で云っていることが矛盾しておることは、分かっているよ。
 学べと云っておきながら、学ぶ魔法が外道と云う。
 だがな、ミス・ヴァリエール。そこから目を逸らしてカールくんの使う魔法を手にしてしまっては、取り返しの付かないことになってしまうのじゃ」

「いえ……その、オスマン学院長」

「なんじゃ?」

「学院長は、貴族がカールの魔法を学ぶことについて、どう考えていますか?」

「なかなか困ったことを聞くのう。
 私が肯定したら、おぬしはそれを言い訳に彼の魔法を学ぶつもりなのかね?」

「そんなことはしません!」

一瞬でオスマンの邪推を切って捨てたルイズに、オスマンは破顔した。

「はは、そうか。
 では、何故聞くのかね?」

「……確かに、私は魔法を使えるようになりたいと思っています。
 だからどんなに理屈を頭で分かっていても、感情が先に行って、正しく判断できないかもしれません。
 ですから、学院長の目から見て、彼の使う魔法を学ぶことがどんな意味を持つのか、聞いておきたくて」

ルイズが口にしたことは嘘でもなんでもない。
オスマンからカールの使う魔法が外道と聞いても、やはり魔法を学びたいという感情は死んでいないのだ。
下手をしたらそれに取り憑かれて、言い訳をしながら魔法を学び始めてしまうかもしれない。
そんな自分を戒めるという意味で、ルイズはオスマンに問いを投げかけていた。

「ふむ、そうじゃな……。
 この歳になると、若い頃には見えなかったものが分かるようになってくる。
 信じていた貴族の在り方。誇り。そういったものを大事にするのは立派だが……それに取り憑かれてしまうのはなんとも哀れじゃ。
 これと決まった規律を守ることを貴族と云うのか。それとも、抽象的な貴族という概念を信じるか。
 それらを間違っているとは云わん。だが、規律を守ることで人が不幸になってしまうのは間違っているのではないかのう。
 このハルケギニアに定められた貴族制。これは特定の階級に生きる者を幸福にするためのものでも、不幸にするためのものでもない。
 選ばれた貴族という人種が、その下で生きる民を正しく導き、万民が幸せに暮らせたら、と願われて生まれた制度なんじゃよ。
 それは、分かるかね?」

「はい」

「うむ。
 そして……なんの意図があって系統魔法を使う者が貴族と呼ばれているのかを、考えてみよう。
 魔法とは守るべき領民を外敵から守る剣であると同時に、領民に畏れられるための断頭台なんじゃよ。
 そして貴族の誇りとは、敵に恐れられ、導くべき民がこの人なら、と信じられるようになるための威厳じゃ。
 それらを両立させるのは、人を守る立場である者が負うべき責務じゃろうて。
 本来の貴族とは孤高の存在なのじゃ。
 魔法という力なくしては、領民を守ることはできん。
 火や風の魔法で外敵から守ることがそうだし、土や水の魔法で人々の生活を豊かにしたり、がな。
 だが魔法を使えたとしても、それが系統魔法から外れたものだとしたら……統治される民は、自分らの主をどう思うかのう?
 畏れられはするじゃろう。だが敬意を払ってもらえるとは思えん。
 つまりじゃな、ミス・ヴァリエール。カールくんの使う魔法を学んだところで、おぬしが望む貴族に近付くことはできん。
 私が云ったように、どこまで行っても自衛手段の域を出んのじゃよ。
 もし出てしまったら最後。それはハルケギニアに根付いている貴族の在り方から外れてしまうじゃろう」

オスマンの言葉は、いちいちルイズの胸に突き刺さった。

彼は古き良き貴族の在り方を尊重する一方で、ルイズは決してそれにはなれないと云っている。
ルイズは女で、貴族として領民をまとめ上げる立場になることはない――などという言い訳は意味がない。
そんなもの必要ない。そう、ルイズは立派な貴族になりたいからだ。
オスマンの云う貴族の在り方は、両親が幼い頃からルイズに教え込んだそれとそっくりだった。

母は鋼鉄の規律を守ることこそが貴族の在り方。容易に態度を翻す不誠実な人間だとは思われない引き締めが必要なのだと云った。
父は民と国を守るためならば、王にすら刃向かう気高さが貴族に必要なものだと云っていた。そして時には、守るべき領民にすら杖を向けなければならないとも。

ずっと厳しかった両親の教育にルイズは息苦しさを覚えていたものの、同時に、両親を貴族として尊敬していたのだ。
広大な領地をしっかりと治める父。
己と夫の信じる貴族の在り方を子供に伝えるべく教育に熱を上げていた母。

幼いルイズにとって二人の背中は遠すぎたが、それでも、自分がなるべき貴族の姿は、ずっと見てきた。
そして、いつか自分もああなれたらと、思っていた――
しかし自分には、系統魔法の才能がない。
使える魔法はカールが使う外道の法のみなのだ。

だが――だとしても――

「……私は、魔法を覚えても、ゼロのままでいるしかないってことですか?」

「……カールくんの話によれば、飛行魔法はフライと似せることが可能という話じゃ。
 それと同じように、いくつかの魔法は系統魔法と偽ることができるらしい。
 『ゼロ』の二つ名から脱却することは、可能かもしれん」

……『ゼロ』から脱却するだけ。
家族の誰もがメイジとして大成していることを考えたら、それは五十歩百歩のような気がする。
けれど、今のルイズにはそれしか望めないというのなら――

「……それでも、構いません。
 魔法を学べるのなら」

苦みを押し殺して、ルイズはオスマンにそう応えた。


















月のトライアングル
















火の塔に数ある研究室の一室で、カールは一人、部屋の中を見回していた。
主のいなかった一室をミッドチルダ式の授業のために割り当てられ、物置同然の扱いを受けていたそこは今、綺麗に掃除され、窓からは午後の暖かな空気が吹き込んでいた。
部屋の中はなんとも寂しいと云える。
カールの背後には黒板と教卓があり、その向かい、部屋の後ろには本棚が並び、壁を埋め尽くしていた。
が、それはカールの授業――教導に必要なものではなく、元々この部屋に置いてあった本たちだ。
急遽決定されたルイズの授業、その準備はギリギリで間に合った状態だった。

部屋の中心には、ルイズの机がぽつんと一つだけ置いてある。
なんとも殺風景な部屋だが、仕方ないだろう。

カールの授業には必要な教材というものがない。
あるにはあるが、この世界には存在していない。
設備も何もない環境で、ルイズにミッドチルダ式魔法を教えなければならないのだ。

どうやってルイズに魔法を教えようか。
そんな言葉がずっと脳裏に鎮座しているものの、まず今日、ルイズの魔力資質がどれほどのものかを調べ、教導計画を練ろうと思っていた。
教育隊ならばともかくとして、教導隊には絶対の指導要綱というものは存在しない。
多くの教え子に魔法を学ばせるのではなく、個人個人の特性を把握して、長所を伸ばし短所をなくす方向に教え導く。
それが今までカールの行ってきた大雑把な教導だ。

だが、ゼロから魔法を教えることは、彼にとっても初めてのことだった。
加えて、腰を据えた長期教導もだ。
世間話として長期教導がどういうものなのか、とある女性から聞いてたいたものの、初めてのこと故に不安ではあった。
設備はない。文化も違う。カールも慣れていない。
この三拍子は頭痛の種でしかなかった。
それでも教導をすると決まった以上、絶対に手を抜かないという矜持をカールは持っていたが。

「相棒相棒。もうそろそろじゃねぇのか?」

「まだ早いよ。開始まで十五分はある」

壁に立てかけられたデルフリンガーの言葉に、カールは懐から懐中時計を取り出し、そう云った。
これはコルベールがジャンクから作り出した趣味の一品だ。
教師ならば時間を守らなければいけませんぞ――と、彼はカールにこれを贈ってくれた。

そう、教師だ。
今のカールは食客からトリステイン魔法学院の臨時教員という風に立場を変えていた。
ルイズに授業時間外で魔法を教えるという線もあったが、一刻も早くルイズに自衛手段を覚えて貰いたい――というオスマンの考えから、こういう形になっている。
彼からすればルイズが浚われた事件は死活問題だ。ルイズが浚われた一件に関して、オスマンは証拠隠滅を図らず、その内容を王宮とヴァリエール家へと伝えていた。
もし二度目があったら公爵に打ち首に処されるわい、とガタガタ震えていた。おそらく冗談でもなんでもないのだろう。

そんなわけで少しでも早くルイズにミッドチルダ式魔法を覚えて貰うべく、午後の授業時間はすべてカールに割り振られている。
そして授業時間を使ってルイズに魔法を教える以上、カールは教師でなければならない。
ルイズからしても、そういう扱いを取って貰わなければ単位数が危うくなり、卒業が怪しくなる。

ルイズが正規の授業を受けないことについては、大した問題がない。
元々使い魔召還儀式を終えたら、魔法学院の生徒は、使い魔の特性によって明らかになった系統の授業を選ばざるを得なくなる。
ルイズの場合は、その授業がミッドチルダ式であるというだけだ。

「しかしよお、相棒。
 相棒の使うミッド式だったかって、あんまり人に教えちゃ駄目なんじゃなかったのか?」

「ああ、そうだ。原則禁止だ。
 けどまぁ、この場合は仕方がないってのもあるし……そもそも何故禁止にされているかってことを考えれば、これは許容範囲だよ、デルフ」

「そーなのか?」

「ああ。
 元々ミッドチルダ式魔法を広めちゃいけないのは、それによって管理世界の存在が管理外世界に仄めかされるからだ。
 まぁこれはオスマンさんの入れ知恵なんだけど……ミッドチルダ式はハルケギニアの、未知の魔法ということにする。
 まぁ、限りなく黒に近いグレーではあるけどね。
 ミッドチルダに帰ったら、謹慎ぐらいは覚悟するさ」

「成る程成る程。
 つまり、相棒の魔法は系統魔法から外れてるけどハルケギニアの技術ですよー……ってことにするんだな?」

「そういうこと。デルフもうっかり口にしないようにな」

「任せておけよ。口は堅いぜ。
 俺、剣だし」

カタカタと緩い金具を上下させて任せろと云うデルフリンガー。
その様子にちょっぴり不安を感じたカールは、溜息を吐いた。

ただまぁ、そのオスマンの屁理屈によって肩の荷が少しだけ降りたのは確かだった。
そもそも彼がこれを考えついたのは、仮面の男がミッドチルダ式を虚無と間違えたことが発端だ。
誇大妄想狂でなければ、普通は異世界が存在するなどと思わないだろう、と。
それもそうだ。カールとオスマン、そしてデルフリンガーが口を滑らさなければ、管理世界の存在は明らかにならないだろう。

「――っと?」

「失礼します」

開始まであと十分――といったところで、不意に扉が開いた。
カールがそちらに視線を投げれば、そこにはルイズの姿がある。
彼女はカールと目を合わせると、どこか不満げに唇を尖らせながらも、ぺこりと頭を下げた。

「今日からお世話になります、メルセデス先生。
 ミッドチルダ式のご教授、よろしくお願いします」

「……先生?」

眉根を寄せながらカールが問うと、同じようにルイズも眉根を寄せる。

「……臨時教員であっても教師じゃないの。
 魔法を教えてくれるのなら、相応の敬意は払うわ。当たり前のことじゃない」

「そ、そっか……」

なんとも変な気分だ。
ルイズと云えば怒り顔、といった表情しか見ていなかった分、猛烈なまでの違和感がある。
確かに召還されて二日目の時点では友好的に接してくれてはいたものの、魔法を教えないと云ってからはずっと、彼女は怒りっぱなしだった。

ルイズは変な顔をするカールを無視して机に進むと、その上に筆記用具を置いた。
彼女が持ち込んだノートは真新しい。カールの知る物とは若干外見が違う。
新聞紙のような材質の荒い紙の背を縫って整えたようなものだった。

どうやら彼女はやる気満々のようだ。
その気持ちは分からなくもなかったので、カールは気を引き締めた。

「まだ早いけど、始める?」

「お願いします」

「分かった。
 それじゃあまずは、君が学ぼうとしている魔法についてだ。
 オスマンさん……学院長から聞いているかもしれないけど、これは四系統から外れた魔法で、虚無でもない。
 知っている人は皆無と云っても良い技術体系だよ」

カールが説明を始めると、ルイズは要点だけを抜き出してノートに文字を書き連ね始めた。
彼女の手が止まるのを待ちながら、カールは先を続ける。

「名称はミッドチルダ式魔法。語源は発祥した地名からきている。
 ミッドチルダ式魔法は系統魔法とは違い、攻撃、防御、補助のすべてをこなす。
 技術体系そのものが何かに特化しているわけじゃなくて、使い手の素質によって使うべき魔法を取捨選別してゆくことになる。
 けれどルイズ。君にはしばらくの間、特化適正を見極めてそこを伸ばすのではなく、どの分野でも必要になる基礎を覚えて貰う予定だ。
 何か質問はあるかな?」

「えっと……」

ルイズは手を止め、微かに迷いながらも、思い出すように問いを口にした。

「先生の使った光の矢、光の剣、光の盾、光の檻。
 これはそれぞれ、攻撃、防御、補助の三つになっているの?」

「ああ、そうだよ」

先生、という呼ばれ方にむず痒さを覚える。
少し前まで食客をやり、今は先生と呼ばれている。
先生お願いします的な何かを思い出してしまい、馬鹿か俺は、と意識を授業に引き戻した。

「光の矢は砲撃魔法。光の剣は近接魔法の魔力斬撃。光の壁は防御魔法で、光の檻は結界魔法と分類されている。
 この他にも、射撃魔法、拘束魔法、治癒魔法、強化魔法、と種類がある。
 状況に応じて魔法を使い分けられるのがミッドチルダ式の強みだ。
 使い手によって特化適正がある、とは云ったけれど、ミッドチルダ式そのものは全領域に対応できる万能選手なんだよ」

逆に近代ベルカ式、古代ベルカ式、と行くにつれ接近戦に傾倒してゆくが、そこは説明する必要はないだろう。
この世界にはベルカなど存在しない。であれば、説明するのはミッドチルダ式だけで良いはずだ。
要らぬ情報を与えて理解を遅らせてしまっては意味がない。

「概要はここまで。
 それじゃあ次は、四系統との違いを説明しようと思う。
 まず最初に最大の違い……ミッドチルダ式魔法は使用することで、足下に魔法陣が現れ、それは魔力光によって彩られる」

云いながら、カールは適当な魔法を構築し、足下にミッドチルダ式魔法陣を形成した。
ルイズはそれを目にして微かに驚くも、先をねだるようにカールに目を合わせてきた。

「このミッドチルダ式魔法陣は、魔力によって形作られ、外部に露出し、目に見える姿を取った数式だ。
 これを、術式と呼ぶ。術式を正しく構築しなければ、魔法は発動しない。
 魔法陣を形成しなくとも魔法を使うことは可能だけれど、難易度は途端に跳ね上がる。
 自分の内側だけで構築できる術式には限界があり、こうして外部に術式を出さなければ強力な魔法は使えないと思って欲しい」

「はい」

「そして二つ目の違い。
 魔法の構築を術式で行うから、呪文は基本的に唱えない。
 術式だけでは制御の難しい大魔法には必要となるけどね」

「けど、先生は……えっと、フーケに魔法を使ったとき、何か口にしていました。
 ふぁんとむぶれいざー……だったような」

「うん。それはトリガーワードと云うんだ。
 これも唱えずに魔法を発動することはできるけど、やっぱり難易度は上がるね。
 トリガーワードはその名が示すとおり、拳銃の引き金としての役割を担っている」

「引き金、ですか?」

不思議そうに首を傾げるルイズに、ああそうか、とカールは思った。
この世界にも銃器は存在しているものの、魔法が戦争のメインであり、かつ、貴族である彼女にとっては縁の薄い武器なのだろう。

「ええっと、つまり、暴発を防ぐために備わっている構築式だよ。
 魔法の名を口にしなければ発動はしない。つまり、誤って発動することはない。
 トリガーワードを云わずに難易度が跳ね上がる理由は、口にせずこれを解除する必要があるからだ。
 普通ならば声に出して解除するものを、術式の段階で取り除く必要がある。
 分かったかな?」

「えっと、ちょっと待ってください」

ルイズはペンを走らせ、文字を書きながら、情報を整理しているようだった。
彼女が話を整理して飲み込み終えるのを待つと、カールは自分の中でも系統魔法との違いを咀嚼しつつ、口を開いた。

「こう、考えて欲しい。
 系統魔法の発動に必要なルーンは術式に。
 系統魔法のカタチを作るのに必要なイメージは、呪文詠唱に変わっていると」

「はい」

「大雑把なものはこんなところかな。
 それじゃあ早速、ルイズには一つの魔法を覚えて貰う」

「いきなりですか!?」

喜びのような、驚愕のような。
椅子から立ち上がりそうな勢いでルイズは声を上げ、すぐに自分の態度に気付いたのか、顔を真っ赤にした。
カールはそれに苦笑しながら、懐から一枚のカード――カブリオレを取り出した。

「スタートアップ、カブリオレ」

起動を命じた瞬間、待機状態だったカブリオレはその姿を一本の長杖へと変える。
呆気に取られた様子のルイズを目にしながら、カールはストレージ機能――その中から、バリアジャケットの構築式をセレクションする。

「ルイズ、これを握って」

「は、はい」

手渡されたカブリオレを、ルイズはおっかなびっくりといった様子で受け取った。
すると彼女は、奥歯にものが引っかかったような顔をする。

「ルイズが構築するべき数式が、既に準備されている。
 頭に浮かんだね? それが術式だよ。さあ、魔力を込めてみて。
 系統魔法の練習をしている時と同じで良い。精神力をカブリオレ――光の杖に注ぐんだ」

精神力、とカールは云う。
それは間違ってはいない。ハルケギニアの魔法に関する本を読み漁った結果として、この世界には魔力という概念がないようだと彼は思っていた。
そして、何故魔力が精神力と云われているか――これの定義は、酷く曖昧なものだった。
やや話が脱線するが、人の心はこの世界でも胸に宿っていると云われている。そしてそこが精神力の源と思われているらしい。
そう、胸に――リンカーコアがある場所が精神力の出所と思われているのだ。
魔法を使うためのエネルギー、その出所が胸にあるとまでは分かっているのだろう。
しかし、ミッドチルダですらリンカーコアの構造は未だ謎に包まれている。
そして医学がミッドチルダほど進んでいないこの世界では、リンカーコアを発見することが出来ていないのだろう。

そんなことを考えながら、カールはさりげなくプロテクションの準備をした。
ルイズの魔法が爆発することはもう知っている。
系統魔法の素質がないのに魔法を使おうとするから発生するエラー、と推察しているが、実際のところがどうなのかは分からない。
ミッドチルダ式の適正があるかもしれない、というのも現段階では確実ではないのだ。
カールを呼び出したということで、その可能性があるというだけだが――

ルイズが集中するように目を閉じた途端、彼女の足下には桃色のミッドチルダ式魔法陣が広がった。
桃色――決して同じではないものの、この世界では絶対に見ることの叶わなかった魔力光、桜色のそれに近いものを目にして、カールの胸はざわつく。
だがそれを教導官の矜持で押し殺し、彼はじっとルイズを見守り続ける。

「頭の中に、自分の今の姿を思い浮かべて。
 トリステイン魔法学院の制服姿だ」

「はい」

答えた瞬間、即座にミッドチルダ式魔法陣が眩い光を放った。
おそらく、普段から身に着けている服だからイメージしやすかったのだろう。

桃色の光が止むと、さっきと同じ姿のままのルイズがそこにはいた。
だが、カールの目には違って見える。
身に纏ったブラウスにスカート、マント。そのどれもが魔力で編まれた防護服に代わっているのだ。

敢えてカールがルイズのバリアジャケットに制服を選んだのは、敵にそれを悟らせない必要があるからだった。
これから戦闘に望む、といった格好を設定すれば威嚇にはなるかもしれないが、同時に、警戒させてしまうだろう。
普段の格好でいながらも確かな防護性能を得た姿。こちらの方が油断を誘えるだろうと思ったからだ。

セットアップを終えたルイズは、不思議そうに自分の身体を見下ろしている。
バリアジャケットが何か、ということまでは分からないのだろうが、自分の身体を何かが纏っていることには気付いているのだろう。

「それじゃあルイズ、杖を」

「はい……えっと先生、これは?」

カブリオレを返して貰いながら、カールはデバイスに走っているバリアジャケットの構築式、そのサポートを切った。
途端にルイズは、何かに耐えるよう口を引き結ぶ。
だがバリアジャケットは解除されない――その様子に、カールは軽く驚いた。

誰もが初めて魔法を使う場合は、デバイスによって術式の構築に触れる。
そう。デバイスなしで魔法を扱うことは、最初は誰もできないのだ。
唯一例外がいるとしたら、それは天才と呼ばれる優れた感性の持ち主であり、呼び覚ますこと自体はカブリオレに頼ったものの、バリアジャケットの維持を自分で行えるルイズには、まず間違いなく才能があるだろう。

……俺を召還しただけのことはある、ってことなのか。

惜しい、とすら思う。
もし彼女に祈祷型インテリジェントデバイス――イメージするだけで魔法を構築できるタイプのデバイスを与えたら、低ランク魔導師を一瞬で追い抜く力を手にするはずだ。
それでも言い過ぎではないほどに、ルイズのミッドチルダ式魔法に対する感性は飛び抜けている。
先に抱いていた不安とは別種の、原石のままでも輝かしい宝石を全力で磨けない悔しさが微かに湧き上がった。

そう胸中で呟きながら、カールはすっと指を持ち上げ、ルイズの額へと差し出した。
彼女はそれを不思議そうに眺め――おもむろに弾かれたデコピンに目を見開く。
だがそれは痛かったからではなく、不可視の柔らかな壁が、衝撃を完全に殺したからだ。

「防御魔法の初歩の初歩。
 基本とすら云えないレベルだけど……それはミッドチルダ式のフィールド防御魔法、バリアジャケット。
 おめでとう、ルイズ。それが君の使う、ミッドチルダ式魔法だよ」

「あ――」

先ほどまでの態度とは裏腹に、ルイズは自分の身体を――バリアジャケットをおずおずと抱き締めた。
それもそうだろう。サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントを除いて、彼女が初めて成功した魔法だ。
系統魔法ではないからかその表情は複雑そうだが、確かな喜びが表情には滲んでいる。
その喜びようがどれほどのものかなど、カールには勿論、ルイズ以外の誰にも分からないだろう。

が、ルイズは何かに気付いたように顔を上げると、小さく頬を膨らませた。

「……バリアジャケットって、先生の着ていたプレートメイルもそうなんですか?」

「そうだよ」

「……じゃあ私のバリアジャケットも、戦場に相応しいものにしたいです」

「君を狙う賊がいなくなるまで我慢しなさい」

「そんなぁ……」

しょんぼりと肩を落とすルイズに苦笑しながらも、カールは授業を続けた。
今日のところはバリアジャケットの構築を完璧とは云わずとも出来るようになることから始める。
解除し、再構築。解除、再構築。それを何度も繰り返す内に、最初は再構築まで一分近くをかけていたルイズも、十秒ほどで構築できるようにまでになる。
これは遅くはない。むしろ早いと云える。慣れてない内にデバイスの補助なしで魔法の発動を行うのは決して楽ではない。
だがそれでも、敢えてカールはルイズにデバイスを使わせなかった。

バリアジャケットの術式は、防御魔法の基本ということもあり、フィールド防御魔法全般と似通った部分がある。
それをデバイスではなく自分の身で覚えることで――基礎固めをしっかりとすることで――後の発展応用をスムーズに、と考えているのだ。

が、一時間ほど注釈を交えてルイズにバリアジャケットの構築を教えていると、不意に彼女はふらついた。
倒れ込むほどではなかったものの、足下はおぼつかず、彼女は椅子に腰を下ろす。

「……すみません。ちょっと疲れたみたいで」

「慌てないで。回復するまで休んでいれば良い」

ルイズにそう声をかけながら、カールは彼女の身体にじっと視線を注いだ。
痩せて小さな身体。別に変な意味で見ているわけではない。

「……一つ、説明し忘れたことがあった」

「なんですか?」

「系統魔法にはない、ミッドチルダ式のデメリットとも云える部分かな。
 ルイズが魔法に不慣れってこともあるけれど……ミッド式は、使用するのに魔力だけじゃなくて、体力も消費するんだ。
 魔力操作が上手くなれば違うんだけど、君はまだ初心者で無駄が多い。
 その分、消費する体力もそれに比例する」

カールの云うことは嘘ではない。
ルイズは今まで失敗魔法としてだが、魔力を消費する機会はあった。
そのため魔力を消費するということを身近に感じてはいるだろうが、しかし、成功した魔法を維持し続けるという経験はないはずだ。
これはルイズだけに云えるのではなく、防御魔法の発達していないハルケギニアの魔導師――メイジ全般に云えることかもしれない。

まだまだ未熟なミッド式の魔導師、ベルカ、近代ベルカの騎士は、そのどれもが一定水準以上の体力が要求される。
それは魔法を使う一方で、魔導師として身体を動かす必要もあるからだ。
カール自身もだが、彼が気にしているとある女性も、最初の内は不慣れな魔法を使って倒れたこともあった。
また、魔力操作が下手な内は、莫大な量のカロリーを補填するために大量の食事を必要としたりもする。

ある意味、ルイズが貴族で良かった。
体力は今からでも付ければ良いが、魔導師として十全に戦える肉体は、食べなければ手に入れることはできない。
もし彼女が平民であったならば、それは不可能だっただろう。

「そういうわけで」

「はい」

「走り込みだ」

「……はい?」

え、この人何云ってるの? みたいな顔をルイズはする。
対してカールは大真面目に、着ているシャツの袖を捲った。

「体力が多ければ、魔法の訓練時間をそれだけ長く取れることに繋がるだろう?」

「そうですね」

「けど、今の君には体力がない。
 ついでに、体型を見る限り筋力も」

「……そうですね」

「魔法の勉強と平行して、身体も鍛えようか。
 俺が教えるのは自衛手段なんだし」

「…………そうですね」

「そういうわけで、バリアジャケットを展開したままヴェストリ広場まで駆け足。
 ほら、急いで!」

「どうしてそうなるのよー!」


























「う、うう……」

疲労困憊、といった様子でルイズはようやく自室へと辿り着いた。
パタリ、と力なくドアを閉じると、彼女はそのまま力なくベッドに向かい、倒れ込んだ。
今日一日は一体なんだったんだろう。そんな言葉が脳裏に浮かんでくる。

ミッドチルダ式、という魔法を教えてもらい、たった一つだが魔法を使えるようになった。
それは良い。素直に嬉しい。
例え系統魔法から外れた外道であろうとも、今まで魔法を一切使えなかったルイズにとって、ミッドチルダ式魔法の存在は心を軽くしてくれる。
自分の才能がなんなのか、ようやく分かった。
それは十六年という決して短くない間ルイズが彷徨っていた迷宮に出口を示してくれる光のようなものだから。
それが系統魔法を使うメイジとして大成できない技術なのだとしても、魔法を手に入れることはルイズの悲願だった。

……例え、系統魔法から外れているのだとしても。
オスマンの言葉は今も棘のように胸へと突き刺さったままだ。
どれだけミッドチルダ式の扱いが上手くなっても、それをおおっぴらに使うことは出来ない。
ミッドチルダ式魔法を、貴族の人間として使うことはできない。

魔法を使えないというコンプレックスを払拭することはできたのだとしても、しかし、ルイズ本来の目的である、ヴァリエール家の娘として相応しいメイジになるという目標を達することは、できないのだ。
……やめよう。
塞ぎ込んでしまいそうになる自分の思考に頭を振って、彼女は息を吐いた。

オスマンの言葉は決して無視できないことだが、今大事なのはミッドチルダ式を覚えることだ。
無力なままで、これ以上家族に迷惑をかけたくはない。
ただでさえ魔法に関しては見放されているというのに、その上、ヴァリエール家のお荷物になってしまうなんてことをルイズは認めたくなかった。

だが――

「走り込みだなんて……」

などとどうしても愚痴りたくなってしまう。
ルイズだってカールが云いたいことは分かる。
ミッドチルダ式魔法は使えば疲労する。それは確かだ。実際、バリアジャケットの構築という基本中の基本を行っただけでルイズは疲れてしまった。
だから体力をつけて魔法を十全に使えるように――というのは、理解できる。
それに母が騎士であったから、メイジとして強さを追求するならば身体も鍛えるものだと知ってはいた。
……ただ、自分の場合は強くなるため云々以前の、逃げるための術を覚える必要があるから、なのだが。
どうにもその辺りが納得できなかったりするが、一人の人間として自分が弱々しいことは認めるしかない。

ルイズは感情が先に立つ少女ではあるものの、根は真面目なのだ。
そのため、相手が正しければ不満に思っていても従うだけの分別はある。
そしてカールの云うことは間違っていなかったので、彼に急かされるまま走り込みを開始したが――

ヴェストリ広場十周。
全力疾走で二周。
じっくりゆっくり腕立て腹筋背筋スクワット各三十回三セット。

瞬発力に自信はあるルイズだったが、持久力はカールが予想したようにまるでなかった。
そのため、今の彼女は全身ガクガク。明日の筋肉痛が恐すぎる。
疲労困憊の極みにあったため食事を取らずに速効で寝てしまいたかったが――

『食事はいつもの二倍ね』

鬼教師はそれを許さずルイズを食堂に連行して、山盛りの夕食を持ってきた。笑顔で。
ちなみに、風呂にはちゃんと入っている。全身が汗でべたつく不快感はあまり経験がなかったため、我慢できなかったのだ。

「……もう、限界。
 くそう、今に見てなさいよ。
 その内魔法を使いこなせるようになって、驚かせてやるんだから……!」

ベッドの上でもぞもぞ服を脱いでいたルイズだが、全裸になった時点で力尽きた。
とてもタンスまで着替えを取りに行く余力が残っていない。
このまま寝てしまえば――

「そ、そうだ。バリアジャケットを着れば良いんじゃない。
 私ったら天才ね」

どうやら脳が茹だっている様子。
目をグルグルさせながらルイズはバリアジャケットを展開すると――そのまま気絶してしまった。

補足だが、術者が気絶してもバリアジャケットは解除されない。
一度構築したら魔力供給を絶たれるか物理的に破壊、術式が欠損するまで、防護服は能力を失わないのだ。
これは、戦闘中に魔導師が気絶した状態で放置されても最悪の状況を免れるために付加されている機能である。

そしてルイズは、バリアジャケットを展開したまま眠ってしまった。というか気絶した。
だが、これもそう悪いことではないだろう。
バリアジャケットは術者を守るという性質上、展開後は温度調節などを完璧に行う。
バリアジャケットの強度にもよるが、火災現場や極寒の地でも、魔導師の身体を守るために。
そのため、快適な気温で眠りにつけると云えば、そうだ。

基本中の基本であるために、バリアジャケットはある意味最も研究された魔法と云っても過言ではないだろう。
設定次第で熱変化に耐え、BC兵器を無効化し、飛行魔法を使っているときは大気との摩擦から術者を守る。
攻撃魔法など派手さのある魔法に目が行きがちになるが、防御魔法や結界魔法など、人命を守るために行使される魔法は高度に進歩していると云えるだろう。

ともあれ、ルイズはバリアジャケットを展開したまま眠ってしまった。
その彼女の真下にミッドチルダ魔法陣が広がり、身体を群青色の輝きが包み込む。
発動された魔法はフィジカルヒール。展開した魔法陣の直上を範囲内とし、サークル内に入ってる者の肉体疲労を癒す治癒魔法だ。

それを発動させた人物は、ルイズの部屋の外にいた。

「意外だ。相棒、結構面倒見が良いんだな」

「そうか? 何が起きるか分からない今、少しでも早くルイズに魔法を覚えて欲しいのはそう不思議じゃないだろ?
 だったら疲れを明日に残さず、しっかり回復してもらわなきゃ」

「いや、なんつーかね。
 娘っ子に魔法を教えないって云ってたから、突き放したところがある奴だなーとか思ってたんだ」

ルイズの部屋、その窓の外。
飛行魔法を発動させて浮かぶカールの背中に担がれたデルフリンガーは、カチカチと金具を鳴らした。
彼は鞘に収まっているものの、コルベールによって設けられたストッパーによってその状態でも会話が出来るようになっている。

突き放したところがある、と云われたカールは、薄く笑みを浮かべた。
カールは個人的に、ルイズという少女を気に入っている。
彼女が浚われた日に交わした言葉がそうだし、外道と分かり、所詮偽りでしかないのだとしても風のドットという力を手に入れたい彼女の必死さを。
確かに局員としてそれは間違っているのかもしれないが――

「今はもう状況が変わったしな。
 教えるならとことんやる。中途半端が一番危ないんだ」

そんな風に、カールは理由を隠した。
デルフリンガーは気付いているのかいないのか、ふーん、と気のない相槌を打つ。

「そーかい。
 しかし相棒、教師っつーか教官って方が板についてるんじゃねぇの?
 座学を娘っ子に教えてる時より、庭で娘っ子駆り立ててた時の方が生き生きしてたぜ?」

「まぁ、身体動かすの好きだしな。
 それに俺は教師じゃなくて教導官。教官って方が正しいよ。
 ルイズには家庭教師って勘違いされてるけど」

「実戦派だったんだなぁ。
 や、俺としては嬉しいけど」

「お前を振り回す機会はきて欲しくはないけどね。
 さて、これから教導計画を詰めるとするかな。
 デルフ。お前、六千年間を剣として生きてきたんだろう? 戦場でメイジがどんな風に動くのか、教えて欲しい。
 それ次第でルイズに何を教えるのかも変わってくるからな」

「任された。
 いやー、なんだか鞘に俺を押し込めない相棒は久々な気がするぜ本当!
 涙がちょちょぎれそうだ! 俺剣だから涙とか出ないけどな……!」

興奮した様子で金具をカチカチ鳴らすデルフリンガーに、カールは苦笑した。
カールはストレージデバイスを扱っているが、実はインテリジェントデバイスに少しだけ憧れていたのだ。
























「うにゅ……」

寝ぼけ眼を擦りながら、ルイズは目を覚ました。
昨日は早く眠ってしまったせいか、普段と比べてやや早く起きてしまったようだ。
まだ窓からは顔を覗かせたばかりの陽光が差し込んでいる――

「ああ、そっか……朝から訓練するって云ってたっけ」

慌てて跳ね起きると、ルイズは着替えようとして自分がバリアジャケットを着て眠ってしまったことを思い出す。
服に皺が寄ってしまっているが、バリアジャケットを解除、再構築すればそれも新品同様の状態に戻った。
ついでに、彼女は髪型をストレートからポニーテールへと変えた。
昨日庭を駆け回り筋トレをした時点で、長い髪が邪魔に思えて仕方がなかったのだ。
しかしルイズ自身は姉とお揃いの長い髪を気に入っているため、切ろうとは思わない。

手早く顔を洗うと、彼女は急いでヴェストリ広場へと向かう。

早朝の学生寮は誰かが起き出している気配がなく、静かな廊下には彼女の足音だけが木霊した。
そうして外に出ると、明るい日差しにルイズは目を細める。

冷たい空気の中で一人準備運動をしている姿を目にして、感心するように小さく頷いた。
身に着けているのは平民が着るような作業服だった。灰のズボンに麻のシャツ。
昨日ルイズに付き添って走り込みをしている時、運動着はないのか、とぼやいていたのをルイズは思い出す。

どうやらカールは先に到着していたらしい。
教師なのだから当たり前。そういうことは簡単なものの、彼の姿勢から熱心に魔法を教えようとする気概が伝わってくるのは悪い気がしない。
しかし、まだ今日で二日目だ。これからも彼が熱心に教えてくれるかどうかは、分からない。

ルイズ自身にやる気があるため、教える側であるカールにも同等の熱意を求めてしまう。
それが独りよがりな要求だと分かっているものの、云わずに答えてくれようとしているカールの姿勢に、ルイズは複雑な気持ちになった。

魔法を教えないと云っていたカール。
授業を始めてくれたことで自身の意固地な部分が薄れ、どうして彼がそう云っていたのかを、ルイズはなんとなくだが理解していた。
バリアジャケット一つ取っても分かる。これは四系統から外れた異端の魔法だ。
このハルケギニアにおいて、道から外れた魔法を使うということがどんな意味を持つのか――ルイズもそのことは良く分かっている。
カールもそれを分かっているのだろう。分かっていて、ルイズにミッドチルダ式魔法を教えようとしてくれている。
ルイズが自分の力で少しでも戦えるようになるために。

魔法を学びだし、使えるようになって、ルイズは嬉しさを覚えている。
しかしこの覚えた魔法の使い道が、はっきりと分からなかった。
……貴族らしからぬこの力と、自分はどう付き合ってゆけば良いのだろう。
それもまた、教師であるカールが教えてくれることなのだろうか。
少し、彼に多くを望みすぎな気もするけれど。

ともあれ――朝日の中で準備をしているカールの下へと、ルイズは駆け寄った。
思ったよりも自分の身体は頑丈だったのか、心配だった筋肉痛は一切感じない。
これなら今日も全力で魔法を学ぶことができる。
少しでも早く、魔法を覚えないと。

さあ、今日も一日を始めよう――

「おはようございます!」






















おまけ

――カール・メルセデス十七歳について

「ヴィータちゃん、最近カールくんどうしてる?」

「ん? メルセデスの野郎か?」

「うん。ちょくちょく現場で一緒になるよね?
 私、全然会えないんだ」

「ああ。アイツとアタシは教導隊じゃ新人だからな。
 一緒になって先輩方からご教授頂いてますよ、っと。
 最近のメルセデスか……うーん、前より馬鹿っぽいところが減った気がするな。
 それが人に物教える立場に相応しい物腰か! とか怒鳴られっぱなしだったぜ、最初。
 それが今じゃ、おっかなびっくりだけど、教導官としてそこそこやれてる。
 あと一月もすれば、一人で派遣されるようになるんじゃねぇのか?
 馬鹿も成長するもんだな」

「あー……大変なんだね、カールくんも。
 出来れば私が面倒見たかったんだけどなぁ」

「駄目駄目。オメーはなんだかんだで甘いからな。
 柔らかくて優しい教導官ってのも悪くはないんだろうが、やっぱりそれなりに畏怖されるべきだろ」

「酷いなぁ、もう。
 ちゃんと怒るときは怒るよ?」

「……ああ、ティアナとスバルの時みてーにな。
 まぁ、良いや。それよりなのは」

「何?」

「メルセデスの野郎もいい加減、可哀想通り越して哀れっぽくなりつつあるから、いい加減それらしい反応ぐらいしてやれよ」

「それらしい反応……?」

「……いや悪ぃ。なんでもねぇ」

「フェイトちゃんもそうだけど、ヴィータちゃんもたまに変なこと云うよね」

「アタシらが変なこと云う原因を考えようとは思わねぇのか……?」

「ええっと……」

「よーっく考えろ」

「うーん……あ、そうか!」

「分かったか。なんか猛烈に嫌な予感がするけど云ってみろ」

「ヴィヴィオに会わせるって約束したのに、まだ会わせてなかったよ私!
 うん、そうだよね。養子ってことなら腫れ物扱いするだろうし、カールくんからは言い出しづらいもん。
 うっかりしてた」

「そっちじゃねぇよ……! うっかりすぎるだろ……!
 お前わざとやってるんじゃねぇよな!?」

「わざとじゃないよ。忘れてたんだってば」

「だから、そっちじゃねぇー!」







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