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No.19871の一覧
[0] 【完結】魔法学院でお茶会を【オリ主】[ただの、ドカですよ](2010/11/04 22:55)
[1] 第一話「虚言者たちのカーテシー」[ただの、ドカですよ](2010/06/28 18:29)
[2] 第二話「牢獄のリバタリアニズム」[ただの、ドカですよ](2010/06/27 10:51)
[3] 第三話「まだ爪はないけれど」[ただの、ドカですよ](2010/07/30 10:35)
[4] 第四話「少女籠城中」[ただの、ドカですよ](2010/06/27 11:04)
[5] 第五話「虚無の曜日は甘くて苦くてやっぱり甘い」[ただの、ドカですよ](2010/06/30 00:45)
[6] 第六話「図書館同盟」[ただの、ドカですよ](2010/07/05 20:24)
[7] 第七話「ラベルの価値」[ただの、ドカですよ](2010/07/30 10:36)
[8] 第八話「メッキの黄金、路傍の宝石」[ただの、ドカですよ](2010/07/16 18:22)
[9] 第九話「砂塵の騎士・前編」[ただの、ドカですよ](2010/07/30 10:37)
[10] 第十話「砂塵の騎士・後編」[ただの、ドカですよ](2010/07/23 10:44)
[11] 第十一話「にせもの王子と壁の花」[ただの、ドカですよ](2010/07/27 09:12)
[12] 第十二話「ちいさな騎士道」[ただの、ドカですよ](2010/07/30 10:44)
[13] 第十三話「ロネ家の魔女」[ただの、ドカですよ](2010/08/04 18:32)
[14] 第十四話「ひび割れていく日々」[ただの、ドカですよ](2010/08/20 14:09)
[15] 第十五話「獣の眼」[ただの、ドカですよ](2010/09/02 16:46)
[16] 第十六話「モラトリアムの終焉」[ただの、ドカですよ](2010/09/09 20:22)
[17] 第十七話「見習いメイド奮闘記」[ただの、ドカですよ](2010/09/17 00:30)
[18] 第十八話「幼きファム・ファタル」[ただの、ドカですよ](2010/09/28 14:38)
[19] 第十九話「にたものどうし」[ただの、ドカですよ](2010/10/11 15:47)
[20] 第二十話「ガラスの箱庭」[ただの、ドカですよ](2010/10/20 18:56)
[21] 第二十一話「傲慢なるもの」[ただの、ドカですよ](2010/10/26 18:23)
[22] 第二十二話「監督生」[ただの、ドカですよ](2010/11/04 22:51)
[23] 最終話「挿し木の花」[ただの、ドカですよ](2010/11/04 22:50)
[24] あとがきみたいななにか[ただの、ドカですよ](2013/04/11 18:18)
[25] 短編「時よ止まれ、お前は美しい」[ただの、ドカですよ](2010/08/05 02:16)
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[19871] 第二十話「ガラスの箱庭」
Name: ただの、ドカですよ◆08b998ca ID:bf009711 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/20 18:56
 寮にあるのは生徒の部屋だけではない。
 自習をするための読書室、ちょっとした遊び道具がある娯楽室などの施設もある。防音が施された演奏室などもある。楽器は少しは揃っているものの、演奏室を使うような生徒はたいてい自分の楽器を持ってきている。さすがにピアノを持ち込む生徒は少ないので、ピアノだけは少し良いものが置かれていた。

 中でも生徒たちが一番よく利用するのは一階のホールだ。ソファやテーブルが何組も置かれていて、隣の給湯室にはティーセットや茶葉も常備されている。寮の部屋はさすがに大人数で集まるには狭いため、消灯までの時間をここで過ごす者は多い。そのため、学院ではあまり接する機会のない他のクラスや他学年の生徒と交流を持ちやすい場でもあった。逆に、身内で固まっているような子たちは自室などにあつまるものだった。

 ザザはホールの片隅にいた。傍らにはノエルも一緒である。目の前のテーブルには水で満たされたグラスが置かれている。

「えいっ」

 呪文を唱え、かけ声とともに杖をふる。だが、グラスにはなんの変化も起こらなかった。

「はい失敗」
「いや、もしかしたら少しは冷たく……」
「そんなはずないでしょう」

 ノエルが溜息混じりに氷の呪文の仕組みについて話し始めた。ザザも分かってはいるのだが、大人しくその説明を聞く。
 ここ最近、ザザはノエルに頼んで氷の呪文の練習を見てもらっていた。代わりにザザはノエルに風の呪文のコツを教える約束だ。ノエルは丁寧に教えてくれたが、なかなか上手くはいかなかった。魔法に対する感覚はそれぞれ違う。乗馬などと同じように、大まかなところは教えられても細かい感覚は自分で掴むしかないのだ。
 わざわざ魔法の個人練習などをしているのが物珍しいのか、声をかけてきた者がいた。

「わざわざ特訓? ずいぶんとまた熱心ね」

 モンモランシーだった。小遣い稼ぎの香水の販売会を終えたところのようだ。いくつかの香水の残り香が香ってくる。
 彼女の実家は領地持ちだが、何か事情があってひどく家計が苦しいらしい。自作の香水を売ったりして小遣い稼ぎをよくやっている。ザザやノエルよりもある意味ではとても現実的な子だ。

「いいかげん授業で目をつけられるのも嫌になってきてね」
「香水か。ちょうどいい、ちょっとやってみせてよ? わたし以外のお手本も見たほうがいいかもしれないし」

 ノエルは人を二つ名だけで呼ぶ。名前で呼ぶのはザザなど一部のものだけだ。こういうところも嫌われやすい理由なのだが、本人はなかなか直そうとしない。
 モンモランシーはノエルの言い方に少し眉をひそめたが、すぐに懐から杖を出してくれた。小遣い稼ぎのあとで機嫌が良かったのかもしれない。彼女が杖をふると、グラスの中の水が一瞬にして氷に変わる。

「おー、さすが」

 ザザが素直に感心してグラスに触れた。冷たさにおもわず顔をほころばせる。その反応に気を良くしたのか、モンモランシーが得意げに胸をはった。見事な巻き髪をかきあげる。

「ふ、ふふん。ま、このくらいはラインなら当然よね」
「そーね。このくらいは当たり前ね」

 得意になるモンモランシーにノエルが冷めた声をあびせる。

「なによ、ノエル」
「別に」

 むっとした表情でモンモランシーがくってかかる。ノエルはいつも通りの冷めた表情だ。めんどうなことになる前に止めようとしたところで、すぐ後ろから声がした。

「面白いことしてますね。ザザ・ド・ベルマディ」

 ソニアがザザの座っているソファにもたれかかっていた。顔のすぐ横でねっとりとした声で話しかけてくる。

「……先輩もどうですか?」
「わたしの属性は火なので、ちょっと無理ですね。ああ、そうだ」

 ソニアは振り向くと、近くで本を読んでいた髪の短い女子に声をかけた。ザザも知っている、ナタリーという名で、二年生の風のトライアングルだった。

「ちょっとお手本を見せてくださいな。先輩として後輩に魔法を教えてあげてください」

 ソニアがそう頼むと、ナタリーは少し面倒そうに立ち上がった。新しく水をとってくるのかと思えば、ガラス戸を開けて中庭へと出た。
 いつの間にか、他の生徒も集まってきていた。ノエルとモンモランシーもいがみ合いをやめて中庭に注目する。

「うわ……」

 ナタリーの実力は一目瞭然だった。作られた氷の塊はひとの背丈ほどもある巨大なものだ。見ていた生徒達が思わず声を上げる。
 注目を当然のもののように受け流し、ナタリーはホールに戻ってくる。座っていた椅子に戻る前に、ザザたちの方を見て薄く笑った。
 鼻で笑うようなその表情は不遜なものだった。だが、グラスひとつの氷で得意げにふるまっていたモンモランシーは何も言えずにいるようだ。ろくに氷もつくれないザザは言うまでもない。

「まあすごい! やっぱりトライアングルは違いますねえ」

 ソニアのそんな陽気な声を遮るように、ノエルが立ち上がった。

「ふん。そのくらい、トライアングルなら当たり前でしょ」
 いきなりトライアングルの上級生にケンカをうるノエルに、ザザもモンモランシーもあっけにとられる。そういうのは同学年だけにして欲しいと二人で止めるが、聞こうともしない。

「おや、霧氷のノエル。そこまで言うなら、貴女はあれ以上のことができるとでも?」
「当然」

 売り言葉に買い言葉でノエルは杖を構える。いつもよりも集中した様子で呪文が唱えられる。ホール中が静まりかえってそれを見守る。

「わ……」

 ホールの中の誰もが息を呑んだ。ノエルが作りだした氷はナタリーの氷塊よりもずっと小さいものだった。だが、それはただの氷ではなかった。ノエルの氷は、精緻な細工がなされた女神の姿をとっていた。ただの氷の塊でなく、氷像を一瞬にして作り上げたのだ。どちらが難しいかは誰の目にも明らかだった。

「大きいものを作るだけなら才能だけでできるわ。才能は、磨かれて初めて実力になるのよ」

 そう言うノエルの額にはわずかに汗がにじんでいる。さすがのノエルにも難しい魔法だったのだろう。ただ氷を固めただけでなく、微細な造形を形作るために魔法を完全に制御しなければいけないのだ。魔法の威力は才能だが、技術は努力である。氷塊が才能の原石だとするならば、この精緻な氷像は原石を掘り出して作り上げたノエルの実力だった。
 ノエルの性格は困ったものだが、こういうことを啖呵を切ってできてしまうところは素直にすごい。隣を見ると、さっきまでいがみ合っていたモンモランシーも同じような目でノエルを見ていた。ザザの視線に気づくと、照れくさそうに目をそらす。

 向こうの反応は素直なものだった。いい気になるな、くらいに言われると思っていたのだがそんなことはなかった。ナタリーはノエルの氷像を見ていたく感動したようで、褒めちぎりながらあれこれと質問してきた。そんな反応になれていないノエルは戸惑った様子で相手の質問に答えていた。

 次の日から、ナタリーはザザたちの勉強会に首をつっこんでくるようになった。ノエルの技巧が目当てのようだったが、ザザの偏った才能のことも面白そうにしていた。
 ホールで魔法の練習や議論などをしていると、横から口を出してくる子も多かった。また、ナタリーが同級生や友だちを連れてきたりすることもあった。モンモランシーもたまに来ては魔法の議論に参加していた。ちなみにそのあとで自作の香水をしっかりと売っている。

 また一人、もう一人と人が集まってきた。氷の魔法に限らず、おのおのが得意な呪文を披露しては実力を高めあった。学年や位階、派閥に関わらず、様々な生徒たちが集まってきていた。中にはドットながら見事な技術をみせる者もいて、ノエルのようなドットを小馬鹿にしていたメイジたちの目を丸くさせる。

 集まってくるものたちに共通点はなかった。立場も才能もばらばらだ。スクウェアも居ればドットもいる。貧乏貴族もいれば高位貴族もいる。一つだけ共通しているとすればそれは、全員が高い自立心と向上心を持っているということだった。実家から自立したい者。逆に魔法の力で実家を助けたい者。ザザのようになにがしかの野心を持った者。また、そういった気風をもたない生徒たちの中にも、ホールでザザたちの様子を見るにつれて興味を持ち出す子が出てきた。

 女子寮のホールにはそんな生徒たちが集まるようになっていた。自然と、魔法のことだけでなく社会のことや将来のこと、世界観なども話題にのぼるようになっていく。ノエルがあけすけにものを言うせいか、学年や家柄にとらわれない言葉がよく聞こえてきた。違う立場の者と意見をかわすのは、ここにいるような生徒にはとても楽しいことだった。もちろん、ザザにとっても。

 こういった集まりが他にないわけではなかった。友人同士で魔法を教え合うことはよくあることだ。希望者を集めて特別講義をしている熱心な教師もいる。だが、学年や派閥の垣根を越えて広く人が集まるような場は珍しかった。

 ノエルという一匹狼がいたのが大きいのかもしれない。彼女が派閥というものに染まらないのは誰もが知っていることだった。ザザはヴァリエール派の一人だが、派閥に関係なく人付き合いをする。そこに学年の違うナタリーがやってきたのも大きいだろう。場所も、誰かの部屋などではなく誰でも気軽にこれるホールだったのが良かった。
 そうしてできた気兼ねない雰囲気がよかったのだ。これまで派閥を嫌っていたような者や誰か顔色を伺うのに嫌気がさした者、そんな者たちにこの空気は歓迎された。ノエルを見ているとそれがよく分かった。それまで誰も近づけない張り詰めたような空気を纏っていた彼女が、ホールで色んな子と話していくうちにどんどんと丸くなっていった。相変わらずつんとした態度は変わらないものの、むやみやたらと敵を作ることは少なくなった。

 この勉強会は他の集団から敵視されることはなかった。誰のものでもないからだ。誰かを頂点とする集団ならば敵対されやすいものの、この勉強会は誰かを中心にして集まっているものではない。始まりとなったのはザザとノエルだが、もはや二人がいなくても常にホールでは誰かしらが集まっている。それに、この集まりには色んな派閥の人間がいる。ザザのようにヴァリエール派の子もいれば、それを目の仇にしていた派閥の子もいる。普段は話しにくいような相手とも、ここでは気安く話せてしまう。雑多な色を混ぜた集団は結果としてどの色でもない無色になっていた。あるいは、誰のものとも分からない灰色。

 ちなみに、魔法や勉強の高尚な話ばかりしているわけでもない。色恋の話題や男子の悪口など、女の子らしい話題でも盛り上がった。エステル仕込みのネタはこの女の園ではいたく評判がよかった。ノエルが顔をまっかにしながらも聞き耳を立てているのでついからかってしまい、ちょっと怒らせてしまったこともあった。


「貴女の目論見どおり、といったところかしら。ザザ・ド・ベルマディ」

 寮の給湯室。ホールに集まった全員分のお茶を入れていると、ソニアがそう言ってきた。今日は人数が少ないのでザザだけでも十分なのに、わざわざついてきたところで何かあるのだとは思っていた。

「何の話です?」

 話しながら、人数分のカップを用意する。この時間は使用人のほとんどは休んでいる。それでなくても、寮の中のことは使用人は最低限しかやらない慣習だった。

「霧氷のノエルを使ったのはよい判断です。あの強烈な個性は貴女の色を消してくれます。一度ついた派閥の色は消すことがとても難しいものですからね。手っ取り早いのは他の色で隠してしまうことです」
「かもしれませんね」

 茶葉をとる。別に高級な葉ではない。さすがに混ぜ物を入れてあるような粗悪品ではないが、平民でも普通に手の届く品だ。

「彼女はラインながら二年生にも名の響いている実力者です。排他的な態度で誰も手を出せませんでしたが、彼女に注目していた者はとても多かった。それを手懐けたのが、ザザ・ド・ベルマディという『優等生』、注目するなというほうが無理がありますね」
「先輩が、ナタリーさんをけしかけたんじゃないですか」
「わたしがやらなくてもいずれ誰かがやっていましたよ。ちなみに、ここまでなら他にも同じようなグループはあります。ラインより上の子たちが固まってエリートぶっている感じの。わたしが評価しているのは、貴方がたがドットたちも取り込んでいるという点です」
「……? 生徒のほとんどはドットなんだから、当たり前じゃないですか?」
「あら? その辺は無自覚なんですね。単純でお人好しなのが上手く働いたということでしょうか」
「なんですか、それ」
「ふふふ、凡人の習性というものがまだ分かっていませんね。ザザ・ド・ベルマディ」

 絡みつくような言葉が紡がれる。
 凡人にはふたつの習性がある。
 凡人は、長いものに巻かれたがる。大樹の陰に寄ろうとする。派閥などはまさにこれだ。権力という大きなものに群がるのが凡人である。そうすれば何も考えなくていい、楽な道だから。
 そしてもうひとつ。凡人は、凡人同士で身を寄せ合おうとする。自分と同じ凡人と付き合うことで、自分の弱さを肯定しようとする。水が低いところに流れるように。

 ザザは人数が少ないうちからクラウディアのようなドットの友人を連れてきていた。ドットメイジも輪に入れることが敷居を低くしていた。ラインやトライアングルばかりで集まっているところに、ドットの者は入りにくい。それでも来るものはいるだろうが、それはドットでも強い意志をもった者だ。大多数の人間はそうではない。弱く流されやすい凡人だ。そして、人数が集まりホールの空気を支配するにつれ、無関心だったほかの凡人たちも流されてついてきてしまう。

「……そこまでは考えてませんでした。というか、こんなに人が来るようになるとは」
「貴女が思っているよりも、世の中の人は馬鹿じゃないんですよ。同時に単純でもありますがね」
「……で、先輩はどう思ってるんですか?」
「いいと思いますよ。いろんな派閥の子が交流するようになってますから、派閥間のいざこざが減りましたしね。個人的にもこの空気は好きです。貴女たちのやる気にせかされて、他の子にも影響が出てます。なんというか、ぎらぎらした目をした子が増えてとても楽しいですね」
「また誰かをからかってあそぶんですか」

 嘆息しながら、ポットに湯を注ぐ。あたりにかぐわしい香りが広がる。ザザはこのときの香りが一番好きだった。安物の葉でもこの湯を落とす瞬間だけは心躍った。

「人聞きの悪い。ちょっと、頑張ってる子の背中を押してあげるだけですよ」
「そのうち自分が押される側になりますよ。ガケの上から」

 お茶の用意ができ、あとは運ぶだけというところでようやくソニアが手伝ってくれた。というか、ソニアは実家では服を着せて貰うレベルのお嬢さまだったのでこの手のことが下手なのだ。ザザも期待していないので運ぶことだけやってもらっていた。そのくせ、カップを渡したりする仕草はザザよりもずっと優雅なのだ。要領が良いというかなんというか。

「まあ、何を考えてるかは知りませんがせいぜい頑張りなさい。貴女はまだ道を造っただけです。それをどう使うかが大切なんですから」

 ホールに戻る前、ソニアはひとことだけザザに言った。



 お茶会の皆のあいだでもホールでの集まりは話題になった。さそわなくても自然に来ている子がたくさんいるのだ。クラウディアも、モンモランシーの香水のコツをヒントに、調色の幅がずいぶんと広がったとはしゃいでいる。

 ザザ自身は氷の魔法がいっこうに上手くならない。だが、最近は魔法以外のことを話すのが楽しかった。上級生や留学生、高位メイジなどいろんな生徒と意義のある話ができる場というのはとても貴重なのだ。
 そういう話は派閥の中ではできない。意見をぶつけ合い、相手と自分の考えの違いから新しい何かを見つけていく。それはお互いが対等であればこそできることで、誰かの顔色を伺わなければならない場所ではやりにくい。話題にのぼるといえば芸術のこと、舞踏会のこと、色恋のこと。ザザはここ以外の派閥は知らないが、ホールで他の子に聞く限りどこも同じようなものらしい。

 ルイズの前では自然とホールの集まりのことを話す者はいなかった。魔法のことはルイズの前ではタブーに近いし、『立場に関係なく議論が出来る場』などと派閥の主の前で言えるわけがない。暗に、ルイズのせいでまともに話もできないと言っているようなものだ。

 それでも、人の口には戸は立てられない。ホールという誰でもこれる場所でやっているのだ。ルイズに知られないはずはなかった。

「ね、ねえザザ。ホールでやってる集まりって、どんなこと話すの?」

 放課後、二人きりになったときにルイズはそう聞いてきた。授業中にちらちらとこちらを見ていたので、何か話があるんだろうとは思っていた。お茶会でみんなの前で聞くよりは、ザザに聞いたほうがいい話題ではある。

「話すことはそのときどきだよ。魔法の話になることもあるし、ほかの勉強の話になることもある。昨日は教義の解釈について話してたけど」
「へえ……」

 ザザが話すホールでの話を、ルイズは興味深そうに聞いていた。
 自分を肯定しかしないお茶会や、腫れ物を扱うように接する生徒、逆にゼロと馬鹿にしてくる生徒たち。そんな環境にいるルイズにとって、ホールでの自由闊達な空気は何よりも魅力的だろう。

「来てみる?」

 その誘いに、ルイズはぱあっと目を輝かせた。だが、すぐに不安げに目を泳がせる。そういった空気の中に、自分が入っていってもいいのかという不安だ。ヴァリエールという名前や、魔法が使えないこと。ルイズはあらゆる意味で特別だ。ルイズという異物が入ることで、空気が壊れてしまうことを心配しているんだろう。

「い、いいの?」
「寮のホールに、来ちゃ行けないわけないよ。高位貴族ってことなら、けっこう来てるし。上級生もいるんだしそんなに目立たないさ。私も一緒にいくよ」

 あの空気の中なら、ルイズもたやすく受け入れられるとザザは思っていた。ルイズは魔法こそ使えないものの、教養が高く頭も良い。いちど話せば皆が彼女ともっと話したいと思うはずだ。最初は少し軋轢があるかもしれないが、ザザやクラウディアがついていればきっと大丈夫だ。あの場所で少しずつ受け入れられていくことで、ルイズの学院での居場所は広がっていくかもしれない。お茶会というちいさな鳥籠ではない、普通の学院生活ができるようになるのではないだろうか。

 自分自身の魔法の実力や見識を高めるためというのもあった。事実、様々な立場の子とふれあうことはとても有意義だった。学生のうちにいろんな人物と旧知になっておくためという目論見もあった。派閥というほどたいしたものではないが、このつながりはザザだけでなくみんなの役にたつはずだ。
 それと同時に、ルイズに居場所を作ってやれたらと、ザザは考えていた。


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