夢か現実かよく分からん状況で、俺は愉快な三人組の尋問を受ける羽目になった。エルフと思っていたフィオとシンシアはダークエルフという種族であるらしい。一般的なRPGとかではダークエルフはエルフと敵対する存在だったが、この世界のダークエルフ達はエルフと小競り合いはあったものの、あまり干渉せずに独自の文明を築いていたらしい。エルフよりは人間に寛容であるらしく『蛮族』とは呼ぶものの、こうして俺に対してもやや友好的である。「つまりお前はロマリアで寝た筈なのにいつの間にか花畑で寝ていたと」「何を言っているのかわからないと思いますが事実です」「うん、実際よく分からんが、お前がこうして此処にいることは事実だからな」茶髪のボサボサ髪を掻き毟りながら『根無し』のニュングは夕食のパンを齧った。このパンは彼の妻の作品である。・・・クロワッサンだと?美味いじゃないか。「それにしてもお前さんの話は分からんな。トリステイン、ガリア、アルビオン、ロマリアは知っているのにそこの当主の名前が全然違うし、俺たちの知らない国の名前もある。頭おかしいんじゃねえかと思ったが受け答えはハッキリしてるしな」「冷静な狂人じゃないですか?でなければ私が辱められる訳がありません」「俺から見たらお前は常時狂人だけどな」「おのれ蛮族!またもや私を辱める言動を!」「はいはい喧嘩しないの。それで、タツヤ君と言ったかしら?貴方は何処から来たの?ご家族は?」どうやら此処がハルケギニアである事は間違いない。だがゲルマニアが存在しておらず、アルビオン王国が健在である。更に言えばロマリアの名前が『ロマリア都市王国』である。あれ?連合皇国じゃなかった?加えて各地を統治する者の名前が俺が知っているのとは全然違う。ロマリアに到着した際のコルベールの講義で、かなり昔ロマリアはそんな名前だったという。ならば俺が今いるのは過去の世界とでも言うのか?未来という可能性やパラレルワールドかもしれないが、過去というのが可能性が高い。・・・どうして俺はそんな過去の世界とやらにいるんでしょうね?分からんがルーンのせいだと言うのか。嘘をついて適当な事を言っても良いがそんな事をしても俺に得な事は何もない。『こいつ頭大丈夫か?』と思われるのを覚悟して自分の仮説を言ってみよう。ルイズのときにそうしたように。「どういえば良いのか・・・まあ、ちょっと未来から」「「「はぁ?」」」予想通りの反応で凄く嬉しいのだが、事実なんだから仕方ない。俺は淡々と続ける。「俺のいた時代からどのくらい昔かは分からないんですけど・・・」せめて基準となるのがあればいいんだが・・・過去ならば何を基準にすればいいんだろう。これが日本の戦国時代にタイムスリップしたとか女だらけの三国志時代に来てしまったのなら武将の名前を聞けば大抵分かるのだが、何せ異世界の歴史なんて1年以上現地にいるがあまり分かってないもんね俺。相変わらず翻訳機能つきの喋る剣がなければ本も読めないし。そういえばハルケギニアでえらく信仰されてるブリミルが降臨後6000年だとか騒いでたな。「そうだ、始祖ブリミルが降臨して何年なんですか?」「1000年ちょいぐらいだっけ?」ニュングがシンシアに確認する。シンシアは呆れながらニュングに言う。「そうよ。全く宗教観念が全然ないのも困りものね」「わっはっはっは!顔も知らん野郎の降臨祭など誰が祝うか」「私たちからすればそいつは「世界を滅ぼす悪魔」とか「人間とエルフの関係を決定付けた元凶」やら「ダークエルフの激減のきっかけを作った男」ですからね。祝う気にもなれませんよ」ダークエルフがエルフによって滅ぼされる寸前までになったのは『人間に寛容だから、手を組んでいらない知恵を付けさせかねない』との声が大きくなったからだという。その声が大きくなってしまったのも、始祖ブリミルが何かとんでもない事をしでかしたせいであり、エルフはブリミルを『悪魔』として嫌い、それを崇拝する人間も嫌っているというのだ。始祖ブリミルは人間に系統魔法を伝えたということで神様扱いだが、一方では悪魔扱いなのか・・・。とはいえ始祖ブリミル降臨1000年という事はここは5000年ぐらい前の過去という事になる。「分かりました・・・何を馬鹿なと思うかもしれませんが・・・俺は貴方達から見れば5000年ぐらい未来のハルケギニアに来てしまった異世界の人間です」「未来人だけというだけでも眉唾なのにこの上異世界人と言うのか」「やはり狂人ですね。ニュング、殺害許可をください」「おまえ、殺害許可という単語を使いたいだけだろう」「なんか響きがカッコいいじゃないですか」「御免ね、私の妹はいつもはこうじゃないんだけど・・・」「いいですよ。5000年後にも同じような奴はいますし」「私を無個性と侮辱しましたね!?おのれ蛮族!幼女でダークエルフで黒い長髪で赤い眼という要素を持つこの私を無個性と切り捨てるとは!許せません!」「お前のような欲望にまみれた幼女が愛でられてたまるか!?」「まあ、そう言うなタツヤ。この幼女エルフは俺の最高の妻でありこいつの姉であるシンシアとの悲しいまでの差(肉体的な意味で)にコンプレックスを抱いているのだよ。見たまえシンシアのこの洗練された肉体を!加えて料理も上手いし、強いし、性格も俺好み!口はたまに悪いがそんなのはご褒美だろう常識的に考えて」「ついさっき会ったばかりの子にそういう説明は凄く照れるんだけど」「照れたお前の顔も俺は好きだぜ」「し、知らない!」茹蛸のように顔を真っ赤にしてニュングから顔を逸らすシンシア。歯の浮くような台詞を言って笑うニュング。身の毛もよだつような会話だが、そこには確かに愛情が溢れていた。ああ、いいなあ。夫婦かあ・・・。「いずれ私のような体型の女性が世間を震撼させると私は信じます」フィオが負け惜しみのように言う。安心しろ。お前のような体型の女で学院を震撼させる女が5000年後現れるから。・・・さて、5000年前のハルケギニアに来たはいいが、どうやって帰れというのだろうか?元の世界に一時的に帰った時のように時間制限で帰れるというのだろうか?でも説明も何もないしなぁ・・・。ニュングは元々自分探しのために家を飛び出してぶらぶらとフィオとシンシアと共に旅をしているらしい。フィオはニュングの使い魔らしいが、肝心のルーンは刻まれていない。ニュング曰く『犯罪臭がするから』だそうだ。フィオの故郷が滅ぼされて目的が無くなった為、気ままにぶらり旅していたのだが、エルフと戦ったり、人間と戦ったり、盗賊紛いの事をしたり、城に招かれたり、王様の娘、つまりお姫様に一方的に求愛されたり、それが元で軍隊から逃げる羽目になったり、ニュングが剣の収集を始めてみたり、フィオがミミズの下克上が見たいと言って巨大化させ、モグラと戦わせたり、しかし何かグロイのでシンシアがモグラも巨大化させたり、ニュングとシンシアが巨大生物見守る中で結婚式を挙げたり好き放題やっているらしかった。ある程度話を済ませると、ニュングはニヤリと笑って言った。「どうだったシンシア?コイツは嘘をついているか?」「いいえ。言葉を選んでいたようだけど、嘘はついていないようよ。未来人で異世界人というのは信じられないけど、まあ、私たちの旅には信じられない事が結構あったからね。本当なんでしょうよ」「あ、悪いなタツヤ。さっきまで嫁がお前の考えを魔法で読んでいたんだ。あんまり使いたくは無いんだが、旅をしていると良からぬ考えをする奴が接触してくることもいるからな。お前さんはそういう奴じゃなさそうで良かったよ」いきなり衝撃のカミングアウトである。正直良い気はしないが、嘘をつかれて良い気分の者もいないしな。「どうせ私の未熟な身体にムラムラしているのを自制していたんでしょう!」「いえ、そんな事は全く無かったわよ」「お姉さま~!?」「でも良かったわね。この子、私たちに対して敵意が無い所か好感を持っているみたいよ。これは珍しい状況じゃない?」「ああ、そういえば大抵疑心を持った奴か敵意むき出しの相手ばっかりだったしな」「あのトリステインのお姫様でさえ最初は警戒していたからね」「馬鹿なんですよ多分この蛮族」フィオが俺を指差して言った。天才と言うつもりはないが、その言い草はカチンと来るのだが。この時代は人間とエルフの戦力差は拮抗しているらしく、だからエルフが憂いを残さないようにダークエルフを滅ぼした。最近は人間側が押され気味らしい。またロマリアの動きも活発になり始めたようで布教の一環と称して各地を飲み込んでいる。「ま、お前さんにとっては過去の話なんだろうけどよ・・・」「未来の事、聞かなくてよいのですか?ニュング」「フィオ。未来ってのは分からないから面白いのさ」未来を知ってどうすると言って笑う『根無し』。宝箱は中が分からないから胸が躍るのだ。※『根無し放浪記』16巻第3章『未来』より。俺がこの状態で未来の世界はどうなっているのだろうか?やっぱり分身が上手くやっているのだろうか?不安で仕方ないが、5000年前にいる俺にはどうすることも出来ない。現在俺は近くの湖で夕食の為の魚釣り中である。「うぬぬ・・・!何故釣れないんでしょうか・・・」俺の隣には釣竿を握り締めながら唸っているフィオの姿がある。そりゃあ餌もつけずに釣り上げようと思ったら相当耐えなきゃいけないだろう。「餌ぐらいつけたらどうだよ」「食べ物で釣って魚を騙すとは鬼畜の所業です」「釣り針そのものを魚に食わせようとしている方がどうかと思うんだが」「そのような胆力を持った魚はきっと大物の風格があると確信しています」「この湖にはその胆力をもった魚がいるというのか」「餌に釣られる哀れな魚はいるようですけどね!フン!」俺はさっきからどんどん釣り上げている訳だが、フィオの方は未だ収穫なしである。魚を入れる桶は二つあり、俺の桶のほうはもう満杯になりそうなのだが、フィオは空である。そのためフィオはどんどん不機嫌になっていく。そろそろ戻ろうかと思ったその時だった。フィオの竿が大きくしなった。「キターーーーーーーー!!ついに挑戦者現る!」フィオは小さな身体で一生懸命竿を引っ張るが、挑戦者の魚はそれを上回る力で引っ張る。「うわわわ・・・!これは凄い大物ですよ!是が非とも釣り上げたい!うにゃ!?」フィオは湖面から飛び出した魚の姿を見て戦慄した。およそ4メイル以上ある鯰がフィオの竿にかかっていた。・・・っておい!でかすぎだろ!?「あの野郎・・・!私を馬鹿にしているかのように見て・・・!魚類の癖に生意気です!」「いや、無茶だろう!?どう見てもこの湖の主じゃねえか!?」「上等です!ほわわわ!?」フィオはどんどん湖の方にに引っ張られていく。しかし彼女も意地を見せているつもりなのか、足を踏ん張り腰を入れている。数分の格闘後だった。「おっ、力が弱まったようです!これはチャンス!」フィオが一気に竿を引っ張ると巨大鯰は湖面から飛び出した。だが、その雄々しい姿にフィオが見惚れたその瞬間、巨大鯰は一気に湖の底へと飛び込んでいった。その急激な力の発生により、フィオは竿を持ったまま湖へと引き込まれそうになった。「あわわわわわわわ!?」見ていて非常に面白い光景である。何せ竿を持ったままのフィオが宙に舞っているのだ。そしてフィオはそのまま湖の中へと消えていった。・・・・・・嫌な、事件だったな。いやいや、これは不味い。何とかしなければ!巨大鯰に水中を引っ張りまわされているフィオは竿だけは離すまいと必死だった。この獲物だけは確実に持って帰る!そうすれば姉も喜んでくれる筈だ。そしてこのような脅威にも一人で何とかできると言う事を証明できる。しかし困った。執念で竿を離さないのはいいのだが、この鯰、非常に元気だ。このままでは先に自分が窒息してしまう。しかしこの獲物は・・・!あれ?待てよ?もしコイツを仕留めても私泳げないじゃん。・・・・・・ま、まさか!この鯰はそれを見越して!?なんという汚さ!汚いな流石汚い!ああ、ヤバイヤバイ・・・鼻に水が入って痛い・・・。おのれェ・・・!魚類の癖に私を弄んで・・・!水の中だから詠唱も出来ないし!フィオは此処に来てようやく、自分が絶体絶命である事に気付いた。弱っていく自分を嘲笑うように悠々と泳ぐ鯰。おのれ・・・!竿を離せば良いかもしれない。でも自分は泳げない。おのれ・・・!!こんな事で死ぬかもしれないという情けなさと恐怖。おのれェ・・・!!!だがフィオは今まで隣にいた男の存在をすっかり忘れていた。ましてや魚類である鯰がその男が何をしようとしているかなど知るわけが無かった。拳大の石が巨大鯰の頭部に命中し、その衝撃で哀れ巨大鯰は意識を失った。何が起きたのか分からないフィオ。窒息寸前である。そのフィオをなんと下から抱えあげた者がいた。「げほっ!げほっ!?」「おお、生きてたな」達也はホーミング投石を使い巨大鯰を水底から狙って見事命中(当たり前だが)させていた。フィオと違い、達也は普通に泳げるのだが、泳ぐより『水中歩行』で進む方が早かった。しかし溺れている状態のフィオに対しては早急に空気を吸わせるために泳いで湖面まで戻った。俺はフィオが握り締めている釣竿を見た。よほどあの巨大鯰を釣りたかったんだろうな。「フィオ、良かったな。大物が釣れたぜ」「と、当然です・・・」俺はフィオを連れて岸に向かった。フィオはしっかりと俺にしがみついていたが、竿は離さないままだった。・・・で、どうすんのこの巨大鯰。桶には入らんぞ?持ち運びも不便なんだが。二人の帰りを待つ状態のニュングとシンシア。元々釣りはニュングの担当だが、達也に任せてみる事にしたのだ。「全く、フィオが行かなくても良かったのにな」「あの子はあれで負けず嫌いだからね。その辺はまだ子どもなんだけど・・・」「得体の知れない男を信じちゃいけない!監視するだっけか?で、どう思うよシンシア。タツヤをさ」「さあ?悪意は感じられないけど、それだけで良い人とは限らないしね」「俺は面白いと思うんだがな。未来から来てしかも異世界人というじゃねえか。夢がある」「元々夢見てるような男だものねアンタ」「おうおう、毎日夢のようですよ。好きなように生きて好きな女と過ごせてな」「はいはい。これで定住できる土地を見つけたら最高なんだけどね」「根無しにそういう事言うなよ」穏やかな時間が流れる。その時、やっと達也達が姿を現した。「おお、戻ってきたな・・・って何その魚!?」「鯰」「アンタ達どうしたの?そんなにびしょ濡れで・・・」「お姉さま・・・フィオは、フィオは勇敢に戦いました・・・」達也の背中で弱弱しくサムズアップするフィオ。困ったような表情の達也の手には桶いっぱいの魚と巨大鯰が握られていた。フィオの手は両方とも達也の濡れた服をしっかりと握り締めていた。それを見たシンシアはくすっと笑うのだった。※『根無し放浪記』16巻第5章『釣り』より。ニュング達は一応追われる身である。ダークエルフのフィオとシンシアがいる時点でエルフの殲滅対象であるからだ。エルフと戦うと言っても、エルフもそんなに人員は裂けない筈だとシンシアは言う。現在人間との戦いの真っ只中なのに主力級の戦士を追っ手に差し向ける事は出来ないと考えていた。だが、だからと言って追っ手が来ない訳ではなかった。何が言いたいかと言うと、現在僕たちはエルフの集団に囲まれています。数はおよそ10人ほどだが、人間はエルフに対して10倍の戦力で立ち向かわなければいけないらしく、実質100人相手にしてると思ったほうが良い。「今度は数で攻めて来たのかよ」「闇の者を生かしておくわけにはいかぬ。貴様のような悪魔の力を行使する男もだ」「好き放題言ってくれますね。私たちは貴方がたに何もしないというのに」「まぁ・・・此方も抵抗はするけどね」「タツヤ、剣は使えるな?」「は、はい」俺はニュングから貸してもらった鉄の剣を握り締めた。ルーンが輝き、集中力が上がる。「フン、蛮族一人増えた所でどうという事もない」「無駄な争いを好まないんじゃなかったか?エルフって奴は」「これは意味のある争いというものだ」「俺の嫁と使い魔、そして俺を襲うのが有益だと?ハンッ!反吐が出るぜ!」ニュングは杖を構えて高速で詠唱をし始めた。その瞬間、シンシアとフィオは杖を振った。俺たちの周りに白い球体のバリアのようなものが張られた。「反射か。気をつけろ」どうやらビダーシャルが使っていた反射の魔法らしい。「いいのか?もうこっちは終わったぜ?」ニュングが杖を振ると、エルフ達の目の前で爆発が起きた。この魔法って・・・『爆発』!?虚無使いだったのこの人!?しかも10人の一人一人の目の前で爆発を起こしている。ルイズではこんな芸当できない。シンシア達が魔法で追撃を行なう。岩の槍や炎の暴風がエルフ達を襲っている。うわーすごいなー。「私たちの故郷を奪っておきながら厚かましいんですよ、貴方達」エルフの一人を石の槍で串刺しにするフィオ。急所を意図的に外しているのが何とも嫌らしい。「欲は出さない方が良いと思うわよ?まるで今の貴方達は人間みたいだから」炎に包まれるエルフの刺客達を見ながら呟くシンシア。あのエルフが子どものようにあしらわれている。「ダークエルフはすでに私たちしかいないのかもしれませんが、だからと言って滅ぼされる訳にもいかないんですよ」「おのれ・・・悪魔め・・・!!」「自分達が正義と勘違いしている奴の典型的な台詞だなぁ、ロマリアにもいたぜそんな奴。お前らは何故俺たちが抵抗するのか分かってないようだから言うが、俺たち家族の幸せを奪おうとしてる手前等の好きにはさせねぇ。お前らが聖者と言うなら俺は悪魔でもいい」「大体貴方達は考えすぎです。こっちはひっそり暮らしていたのに被害妄想で私たちの同胞を殺して・・・恥を知ってください」「人間も貴方達エルフも私たちの幸せの前に立ちはだかるなら容赦しないわ」「貴様達の存在は許されないのだ・・・!」なおも頑固に主張するエルフ。ニュング達は溜息をつく。「それを決めたのは一体誰なんだ?」俺は素朴な疑問を投げかけた。ダークエルフやハーフエルフが存在しちゃいけない理由って何だろう?何かを不幸にするなら戦争している人間やエルフもその片棒担いでるじゃん。まさか神様とか言わないよな?ダークエルフやハーフエルフが直接言ったわけでもないよな?誰だ?誰がそんなこと言ったんだ?いや、言ったとしてもそいつに他種族の生き死にを決めるこできないじゃん。神様じゃないだろう?人もエルフも。失笑モノだぜ。俺は剣を構えて言った。「そうして否定ばっかりしてたら分かり合える人物とも分かり合えず終わっちまうぜ。アンタらそれでいいのか?」「もとより我々は蛮族や悪魔と馴れ合う気はない!」「そうかい。惜しいよな。俺の世界では田舎娘や悪魔ッ娘、エルフにまで萌えを感じる奴らはごまんといるのに。お前らは勿体無いことしてるぜ」「萌えってなんですか?」「お前が聞くのかよ!?」萌えという概念は当に理解していたと思っていたぞフィオ!?人類皆兄弟と言うつもりは無いが、友好関係を築けるならば築いておいても良いじゃないか。駄目なら駄目でいいのだから。干渉せずにいればいいので。「蛮族め、我々に説教するつもりか?」「俺は知っている。人とエルフが分かり合えることも。愛し合えることも。今は戦争中だからピンと来ないかもしれないけど、絶対分かり合うことができるんだ」ニュングとシンシア、テファの両親。異種間の愛が成就した例を俺は知っているし目の前で見せ付けられもした。こいつらはそれを異端として排斥しようとしている。それは勿体無い事じゃないのか?「あんた達はその可能性を摘んでしまうのか?人間より賢いんだろうアンタらは」「そう、賢いからこそ、貴様らを廃すると決めた!」「短絡的な頭の良さだな!畜生め!」俺に襲い掛かってくるのは仮面を被ったエルフの剣士。攻撃力はおそらく1400ぐらいである。俺は襲いかかってくるエルフに対して、一旦剣を鞘に戻した後、一気に引き抜いた。「1000年以上争うもの達が分かり合えるはずがあるまい・・・」少し感情が篭った声で剣士は言う。剣は俺のいた場所に叩きつけられていた。まあ、避けたけど。剣士の仮面にヒビが入る。「いや、アンタの事が少し分かった」剣士の仮面は真っ二つに割れた。現れたのは美少女顔のエルフだった。「アンタが女で」そして俺は剣を鞘に納めた。その瞬間、彼女が着ていた服が切り裂かれた。「んなっ!?」簡素な下着姿になってしまった女剣士は思わず胸を隠してその場にしゃがみこんだ。ニュングが口笛を吹くと、シンシアに殴られた。「下着はシンプルなものが好きだとな。それと美乳だな」シンプルな下着が似合う美少女エルフ剣士。何だか思春期の俺にはエロい想像しかできないが、行動には移しません。「お、おのれ!私にこのような辱めを・・・!!」「素早さがあがったと何故思わん」「思うか!?」「視覚的な効果も上がったな、痛い!?」シンシアにまた殴られるニュング。俺は濡れた服の変わりに羽織っていたマントをその剣士に渡した。俺はこれでシャツとズボン姿である。「くっ・・・!!覚えていろ貴様・・・!嫁入り前の乙女の柔肌をさらす等、あってはならないと言うに・・・!」「その辺は気にしないほうがいいと思え。事故みたいなものだ。というか暗殺者がそのくらいでガタガタ抜かすな」「く・・・くうう!!貴様!名は何と言う!?」「はあ?」「ホラホラタツヤ君。女性がアンタの名前を聞いてるのよ?」シンシアがやれやれといった表情で言う。「達也。タツヤ=イナバ」「覚えたぞタツヤ。貴様の名前を!我が名はジャンヌ!我が誇りにかけていずれ貴様を・・・へっくち!」「おのれジャンヌ!不意打ちで唾液を飛ばすとは何たる卑劣な行為!剣士の風上にもおけん!」「ち、違う!?今のはただの生理現象・・・!?」「やはり卑劣ですね。達也君、この女の殺害許可をください」「お前まだそんなこと言ってるの?ほらほらジャンヌちゃんよ。鼻水を拭けって」俺が鼻水の事を指摘すると、ジャンヌは真っ赤になって立ち上がった。羞恥心に顔を歪めて、俺に対して指をさして言った。「貴様はいずれ私が仕留める!これで勝ったと思うなよ!」そう言って半泣きで走り去っていった。残りの刺客達はどうしようと相談の結果、筏に乗せて川に流すという措置を取った。エルフを憎んでいる筈の人間が言った、『僕たちは分かり合える』。ニュングだけが特別だと思っていた。だけど、自分を助けてくれたこの未来人ははっきりとそう言った。明らかに敵意を持っているエルフですらあのような情けない姿にしてしまった。この男が生きている未来はどのような状況なのか・・・。ニュングは未来なんて知らない方がいいと言ったけど、自分は知りたいと思った。何故だろうか。この蛮族・・・いや、タツヤの事が知りたいと思う自分がいた。彼は自分と同じ誰かの使い魔である。話も合うんじゃないだろうか?「それより今のが使い魔のルーンの力って奴かい?何かピカピカ光ってたけどよ」「まあ、そうですね・・・服やら仮面とかしか斬れませんけど・・・」「役に立つのか分からんな、それ。ちょっとそのルーン見せてくれないか?」ニュングが興味を持ったのか、達也の左手をまじまじと見つめる。しばらく見ているとほほうと言って笑った。「見たことは無いが、読み方は分かるぜ。『フィッシング』だな。釣りか」「釣りですね」「何を釣るのかは知らないが、面白い。俺たちにもピッタリだな」「ピッタリ?」「ああ。『フィオ』に『タツヤ』に『シンシア』に『ニュング』。4人の名前を合わせて出来たみたいな名前が『釣り』だなんて痛快じゃないか」「俺の名前の要素小さい『ッ』だけですか」「わははは!気にするなよ。そうだったら面白いよなって意味なんだからよ!」「人間二人とエルフ二人の絆のルーン・・・そう考えるのも悪くないですね」「たった2日ほどの付き合いだが物凄い濃い2日だなおい。絆か・・・いい響きじゃねぇか。おし、決めたぜタツヤ。お前はこれから俺の弟分だ」「えー、見た目マダオが兄貴分~?」「今ならもれなく姉貴分として私がついて来ます」「お前を姉と呼ぶのは抵抗がある。シンシアさんなら別だが」「やはり胸か!あんなもの飾りじゃないですか!?」フィオは俺に纏わりついてギャーギャー喚く。シンシアは微笑んで言う。「ラッキー。これで体のいいパシリが出来たわ♪」「はっきり言うなよ!?」根無し一行に新たな仲間が増えると思われた。特にフィオはやたら彼に懐いており、それだけ見れば年相応の娘の姿だった。だが、出会いがあれば別れもあるように、元々来訪者でしかなかった彼が帰る時は唐突に訪れた。達也の身体が、三人の目の前で透け始めたのである。彼の左手が赤く光っているのがフィオの目に付いた。驚く一行だったが、達也はただ一人、諦めたような表情だった。「ど、どういうことだこりゃあ・・・?」「・・・原理は分かりませんけど、未来に帰ることになりそうです」「そんな・・・折角、家族の一員が増えたと思ったのに・・・」「すみません、唐突で・・・」「唐突に現れて唐突に消えるなんて酷いと思わないんですか?人に借りを作っといてサヨナラって酷いでしょう」「フィオ、俺たちは家族なんだろう?借りなんて思わなくていいよ」「嫌です。私はそんな薄情なダークエルフではないのです。蛮族と一緒にしないで下さい」フィオは目元をごしごしと擦る。「5000年後なんてエルフでも生きてるかどうか分からない年数じゃないですか。もう会えないって事じゃないですか。そんなのあんまりじゃないですか」「元々会えるはずが無かったんだよ、俺たちは」「でも会ったじゃないですか。何かの縁があったということじゃないんですか?それを会えるはずが無かったと言って切り捨てると言うんですか貴方は」フィオは俺を真っ直ぐ見据えて言った。「私は蛮族と違って薄情ではないです。蛮族と違ってそう簡単に忘れる事はありません。貴方との出会いを忘れる事なんて無理です。よく分からないけど無理だと思います。過ごした時間が例え短いとしても、そんなの関係ないと思います」彼女は彼女なりに俺に何かを伝えたいようだが、それが何なのかが分からないような感じだった。俺はフィオと同じ視線になる為膝をついて言った。「俺は忘れないさ。お前もニュングさんやシンシアさんも。家族の事を忘れる程、俺も薄情な男じゃないからな」「当たり前です。一生覚えておきなさい。私も永遠に覚えておいてあげます」その感情が彼女にはまだ分からなかった。ただ、何も言わずに別れるのが嫌だった。「ああ、覚えといてやるさ。有難く思え」彼は根無し一行を見て、微笑みながら言った。「このルーンを見たら貴方達を思い出せます。ありがとう」「ああ、元気でな。未来がどうなってるかは知らんが」「私たちも貴方のことは忘れないわ。人とエルフが分かり合える時代・・・そんな時代なら見てみたいけどね」「俺もです」そう言って彼は消えていった。人が目の前で消えると言う驚くべき現象だったが、それを突っ込むものなど誰もいなかった。「さて・・・別れもすんだところで寝ようぜ。未来が健やかになる事を願ってよ」「ニュング」フィオがニュングを呼ぶ。「なんだよ?」「私にルーンを刻んでください。使い魔のルーンを。私たちだけのルーンを」「は?」「ブリミルの形式でやる使い魔のルーンなんて私は要りません。あのルーンが私たちの絆を表すなら、私はそれをその身に刻みたい」フィオは右手をニュングに差し出して言った。「私は永遠に彼を忘れない為に、この身に刻む事を決めました。私たちの短くも深い絆を」その夜、幼女の苦悶の声が響く事になった。その日から名実共にフィオはニュングの使い魔として生きる事となる。全ては幻だったのだろうか?否、違う。彼の存在は根無し一行の4人目の家族として彼らの心に刻まれているのだ。※『根無し放浪記』16巻第7章『4人目』より。意識が戻ると何故かまだ夜だった。俺は頭を押さえながら起き上がる。「あ、起きた」ルイズがホッとしたような様子で俺を見ていた。「アンタ丸二日ぐっすり寝てたのよ?ドンだけ疲労してたのよ?」「丸二日だと!?」その瞬間、物凄い空腹感に襲われる。「ああ・・・情けない音出して・・・待ってなさいな。もうすぐ夕食の時間だから・・・」「わーい、嬉しいなー」「精進料理だけどね」「肉を寄越せ!?」ルイズは泣きそうな俺を見て笑いながら部屋を後にする。ルイズが出て行ったのを見て俺は左手のルーンを見た。その瞬間、ルーンが黄色に輝いた気がした。とある屋敷の地下深くにある場所。そこには一つの墓石があった。墓標にはこう刻まれていた。『根無しとその妻、此処に眠る』その墓の周りには色とりどり、様々な種類の花々が咲いていた。墓石の前に何者かが立っていた。その者は墓石に花を添えて呟くように言った。「おはよう、ニュング、お姉さま。久しぶりですね。5000年経ったわ・・・」墓石の前に立つのは修道服を着た女性だった。女性は長い白髪だったがその顔は若々しい。赤い眼と長い耳が人間離れした神秘的な魅力を放っていた。その右手には達也と同じルーンが躍っていた。(続く)・109話目だからと言って何が進展する訳でもなくw