何か前回はまるで良い話(笑)のようなまとめかたであったが、話は絶賛継続中である。喋る水竜はティファニアを見て、一目でハーフエルフだとわかった。長く生きると大抵の事は分かるとは彼女(?)の弁である。しかし彼女でもルクシャナの企みは分からないらしい。「今度は何を企んでいるんだい?お前は気紛れだからわからんよ」「単刀直入に言うわ。わたしたちをしばらく匿って」「おやおや、またいたずらをしたのかい?今度は何をしたというんだい?」この女の奇行は日常茶飯事という事がよくわかる。長く生きている韻竜でさえ狼狽させるとは実にとんでもない女だ。絶対ルイズと会わせてはいけないような気がする。「そんな悪戯だなんて。子どもじゃないのよ私は」「性質の悪い大人に成長したんだろ」「いかにも」「肯定しやがったよこの女」自分のやっている事を分かった上で行動しているとは本当に嫌な女である。喋る水竜は、そんなルクシャナに首を近づけて言った。「でも、何かを持ち出したんだろう?」「ええ、彼らをね」ルクシャナは俺たちを指差して言った。喋る水竜は、俺たちに顔を近づけた。テファと真琴がびくっと震えて、俺の背後に隠れた。その様子を見て水竜はかっかっかと笑って言った。「安心おし。お前たちを食べるほど、悪食じゃないよ」えうっ、と小さな悲鳴をあげるテファと涙目の真琴に水竜は優しげな声で言う。健康的な男性諸君には御馳走であろうテファや一つ目の妖怪に怒られそうな方々にとっての御馳走であろう真琴は水竜にとっては劣悪な環境の犬の餌と同義らしい。いや、俺もなんだけどね?水竜はしばらく俺たちを見つめて、「どうやら、ただの人間じゃないようだね」と言ったので、割って入るように水分100%の変態淑女がドヤ顔で言った。『当たり前でしょう?私が見初めた御方ですよ。私の愛の加護を受けた達也君は愛の名の元に戦う聖戦士なのです!』「アンタは身体も朽ち果てて脳も朽ち果ててしまったのかい?そういう意味じゃないんだがね」『全て朽ち果てても愛は永遠なんです』「お前の愛は重過ぎる。重過ぎて俺には装備出来ない。他をあたれ」『人の想いを重装備扱いしないでください』「話が進まないでしょ!まったく・・・彼らは悪魔の末裔よ」水竜は俺達を無言で見つめている。気分は悪いが、俺は既に悪魔扱いされているので今更である。「ふむ、よく来たね」「え・・・あなたはわたしたちが憎くはないの?」「アンタたちの先祖が、この土地に何をしたのかはよく知っているよ。今、アンタたちが何をしたいかってのも大体わかるんだ」「こんな磯臭い洞窟に住んでるのに、何でそこまでわかるのよ?」ルクシャナがそう言うと水竜は笑いながら言った。「祖母やそこの水の女、それに最近は話相手もいる。情報はこの様な洞窟にいても入ってくるもんさ」「話相手?」「そうじゃ。お前さんはまだ会っていないから知らんだろうがな」このような洞窟内で話相手?見たところ浮浪者の類が流れ着いた形跡はない。ではいったい誰がこの喋る水竜の話相手になっているというのだろうか?俺の疑問はよそに話はどんどん進んでいく。「悪魔の末裔よ。わらわはお前たちが別に憎くはないのじゃ」「へえ、評議会のおじいちゃんたちとは違って話が分かるじゃない」「お前たちエルフとは違って、わらわは滅びゆく種。この世のすべての出来事は、大いなる意思の思し召しと受け止めておる。滅ぶことも、新たな客を迎え入れることも・・・来たるべき大災厄でさえもじゃ」「それってただ諦めているだけじゃないの」憮然とした表情のルクシャナを見て水竜は嗤う。「ふっふっふ、長耳の娘、わらわの娘。お前たちはわらわに悪魔を憎んでほしいのかい?あるいは味方になってやれとでも?」「違うわよ。いくらなんでもそこまで驕ってはないから。とりあえず身を隠せる場所が欲しかったのともう一つ」「なんじゃ?」「聖地・・・シャイターンの門に行きたいのよ」わりとあっさりルクシャナはその名を口にした。水竜は首を振って呆れたように言った。「それはお前たちエルフの方が詳しいだろうよ?」「一部のエルフしか知らないのよ、その場所は。存在は皆知ってるのに場所を知らないなんて許せないじゃない。あなたなら場所ぐらい知っているでしょ?」「確かにわらわは物知りの類じゃが、そこまでは知らぬよ」「何よそれ。さっき情報は入ってくるって言ってたじゃない。これだから引き籠りは困るわ」「何じゃその言いぐさは。いつしか助けてやった恩も忘れたのかえ?」「それはそれ!これはこれ!」「なんちゅう奴じゃ・・・」義侠心もへったくれもないドライな発言に水竜は悲しそうに呟く。このエルフはあれだ。お人好しから金を毟りとり、あげた方の揚げ足をとって一方的な勝者になるタイプだ。「まあ、しばらくいるのは構わん。好きなだけいるがいい。お前たちには潮の匂いがきつかろうが」「礼を言うわ」「心にもない事を。それと久々に会えて懐かしかったぞ」水竜は水そのもののフィオにそう言った。フィオは厳しい視線を水竜に向けて言った。『・・・一つ良いですか、韻竜』「なんじゃ?」『惚けるのは無しにして答えてください』「うむ、答えよう」『貴女の話相手とは・・・このような場所にいる筈のない存在ですね?』「・・・何故、そう思う?」『貴女の『最近』は100年200年の話じゃないですから人間ではないことは分かります。ではエルフか?違いますね。少なくとも貴女はその話相手にこのエルフと出会う前から会い続け、その相手はこのエルフから都合よく身を隠している。同族ならばそのような形跡を知的好奇心の塊の彼女が逃す訳がない。加えてそのエルフを貴女は自分の娘として可愛がっている。故意に引き合わせた事がないというのならば、そのエルフにとって貴女の話相手は安全ではない存在と思われます』「そうだとして、一体誰なのよ?話相手って」『一つ。私の様なダークエルフ。しかしこれは違うでしょう。ダークエルフは私の死を持って滅亡しています。次に他の海洋生物。これも違います。貴女の話相手になるような長命な生物はこの近海には貴女以外にいません。と、なると結構トンでも論になりますが・・・』「・・・水の精霊かなにか?」『私もそう思いましたが、現在、水の精霊と地の精霊は人間の世界にいるし、風の精霊は絶賛暴走中です。と、なると高い知性を持ち会話も可能であり、未だ私たちが出会っていない精霊は『彼女』だけです』そう言って黙るフィオ。ルクシャナが唾を飲み込む音が俺には聴こえた。テファはオロオロしてるし、真琴は話についていけていない。俺もこいつらがなんの話をしているのかがよくわからん。だが何故だろう?喉の奥がチリチリする。「全く・・・腐りきっていると思えば、死んでもよくわからんのぉ、お前は」『私の真の理解者は姉たちと達也君だけで十分です』「俺はお前の事は全く分からん」『ならば今すぐ理解しあいましょう!さあさあ!』「悪いが水相手に欲情はしない」『スライムと逢引すると思えば!』「スライムは水じゃないじゃん」『こうして言葉責めをして私を新たなる愛の形へと誘う達也君に私はムラッと来るんですよ』「やはり腐ってはいるんじゃのぉ・・・」先ほどの賢そうな雰囲気はどこへやら、水というか液状媚薬の様なこの女はこちらの評価を下げまくりである。「・・・しかし、お前の想像どおりじゃよ。わらわの話相手は」『・・・そうでしょう』「・・・人の子よ」水竜は俺に視線を向けて言う。その目には憐憫の光が見えた。「お前の成そうとしていることもわらわには大体わかる。分かったうえで言おう。今のお前では事は成せぬ」「え?」水竜が何のことを言っているのか少し分からなかった。その時だった。『その通りだ』薄暗い洞窟内が明るく照らされ、洞窟内の気温が上昇していく。その原因はすぐに分かった。そいつは巨大な水竜の後方の穴倉から現れた。そいつは一人、輝き、燃えていた。それは優しきものではなく、激しく燃えていた。紅く、紅く燃えていた。『まるで別人ですね』フィオが感情を込めずに言う。彼女の身体は今、蒸発をし始めている。『あの男の従者か・・・無様な姿になったものだな』『貴女も随分と哀れな燃え方をするようになったじゃないですか』フィオの悪態に対し、更に紅く燃える女の身体。フィオは蒸気を出しながら言った。『馬鹿みたいな貴女は好きだったんですけどねぇ、火の精霊様?』俺達の眼前に存在する紅く燃え盛る女。なぜかどろりとした炎を纏ったそれはまさしく火の精霊であった。『地の精は少々賢いと思っていたのだがな・・・。このような軟弱で矮小な者に力を預けるとは』「やれやれ・・・精霊殿、あまり熱くならないでいただきたいものじゃな」『無理だな。水の精と地の精はこの者に力を託し、来たるべき大厄災に備える魂胆だろうが・・・とんだ見込違いだ。力に振り回され、それが自らの力と勘違いした見当違いの臆病者の人間に何が出来る?そのような天運任せの人選を振るい落とすのが私の務めだ。その者が精霊石を二つ所持している以上、私は試練を与えねばならない』そう言って火の精霊は右手をあげた。右手からは燃える剣や槍のようなものが次々と現れた。炎の武器は精霊を囲むように回り始めた。『人間もエルフも私の力を破壊のために使いすぎている。ならば私もそれに倣おう。火は貴様等に都合のいい力ではない事を理解してもらうか。命をもってな』火のくせに氷の様な視線を俺に向けると精霊は右手を俺に向けた。その瞬間、無数の燃え盛る武器が時折火柱をあげながら俺に迫ってきた。『相棒!』「んげ!?」瞬間、水の精霊石が輝く。達也の身体は液体と化し、火の精霊が放った武器は彼の身体を次々と貫通していく。「何か反則よね、あの身体」ルクシャナが呆れたように呟く。ティファニアと真琴は突然の事で開いた口が塞がらない。『達也君!火の精霊は今までのように口八丁で乗り切ることはできません!今はああして知性派ぶってますけど元は馬鹿っぽい精霊でした。口で言うより、力で分からせるしかないんです!ニュングのときもそうでした!』剣の姿に戻ったフィオは続けて言う。『だから達也君、私と一緒に力を合わせた水の威力であの知性派(笑)をコテンパンに・・・』そこでフィオは異変に気付いた。炎の武器たちは依然、達也の水の身体を貫通している。何故だ?今の彼に物理ダメージは効果がないはず。それも先ほどの攻撃で分かっているはずなのに。なぜ火の精霊は攻撃をいまだ続けているのだ?炎を纏う武器が達也の身体を貫く度に彼の身体は蒸発し続けている。最早彼の身体は見た目は蒸気を纏っているようにしか見えない。洞窟内の湿度がどんどん上昇している。蒸し暑さも感じているのか、ルクシャナたちも汗でびっしょりだ。『火には水を・・・そう考えたのだろうが、それは貴様が純粋な水の精霊ならば効果はあろう。だが所詮、今の貴様は水の精霊の力を借りて、精霊化したのみの不純物。あくまで人間が素体となっただけの存在だけだ』火の精霊は冷たく言い放つ。今の状態の達也が凍らされたことはあった。つい最近のことだからティファニア達はよく覚えている。「あの身体は一見反則・・・だけど弱点はきちんとあったわ」ルクシャナは冷静に言った。「あの身体は温度変化にきわめて弱いのね。氷点下になったら凍るし、水温が上昇したら本来の身体が持たない」「い、いまのタツヤはどうなっちゃってるの!?」ティファニアの質問にルクシャナは答えた。「高熱で倒れそうな状態ね」「ええ!?」ルクシャナの指摘は全くその通りであり、達也は今にも倒れそうな状態であった。身体が異様に熱い。頭はぼーっとするし、手足も痺れはじめた。意識は朦朧とするし、喉も腹も痛い。唾液が焼けるような熱さに感じる。このままではなす術がない。達也は気を失いそうな状態で村雨を握った。『あ、ちょっと達也く・・・!』フィオの声が遠く感じる。地の精霊石の光を微かに感じた達也の身体は鉄の色と化した。ほどなくして岩の隙間から、砂の中から、海の中から土の屍兵が現れる。アリィーを退けたときのあの現象だ、とルクシャナは思った。しかしどういう事だろうか?その土人形たちの数が少ない。『成程・・・朽ちた生命を糧に戦力を産みだすか。下劣だが戦場での盾には困らない能力だ。まさに臆病者にふさわしい』だが火の精霊は動じず、憐れむように言った。『だが、韻竜が長年住処とし、精霊が住み着くような隔離場に怨念渦巻く死人が多数いると思ったか?』達也を守る土人形は僅か六体。あの土人形はアリィーの竜の攻撃に耐えれなかった。相手が火の精霊なら更にどうしようもなく、紙切れのように斬られ貫かれていく。気付けば達也の前に土人形はいない。そんな達也に精霊の武器たちが襲い掛かる。『浅慮が過ぎるな。やはり見込み違いというものか』切り裂かれ、貫かれ、達也の身体が跳ねていく。ついには無数の武器に貫かれたまま燃やされていく達也。その表情には一点の曇りもなく・・・?え?「その気持ちの悪い炎を消し飛ばしてやる!!」武器に貫かれた達也の分身が消えると同時に、火の精霊の背後に現れた達也。しかし火の精霊は即座に達也に手を向けた。『後ろに回ればいいと思ったか?』「!!」火の精霊の手から火柱があがると同時に、精霊の武器たちは精霊の元へ戻ってくる。達也は火柱に包まれながら墜落。墜落と同時に炎の槍に貫かれて燃えた。そして残りの武器たちは火の精霊の真上に姿を現した達也に襲い掛かった。「ぎっ・・・・・・!!!?」身体中を切り裂かれ、焼かれる。しかし、両手のルーンが反応。傷も、火傷も全て無くなる。刀を構える達也。これで決まる、そう思った。ティファニアも、真琴も泣きながらそう思った。ルクシャナですら、そう思った。痛みに耐え、一撃を!『力を示すのに小細工は不要。その光は邪魔だな』冷徹に、ただ冷徹にそんな声が聴こえた。ティファニアと真琴は信じたくない光景を見ていた。夢なら覚めてくれと思った。気を失ってしまいたいと思った。でも、見離せなかった。腹部には燃える槍が貫通し、達也は大地に叩きつけられる。そこに燃え盛る剣、斧、槌、槍が彼の身体を焼き、斬り刻み、叩き潰し、貫いていく。その身体にあったはずのもの・・・切り刻まれる身体には両腕が無かった。あったはずの両腕は達也の身体とは少し離れた場所に無造作に転がっていた。喋る鞘、デルフリンガーは胴体と離れた左腕に握られたままであった。『相棒!おい、相棒!!』デルフリンガーの叫びが虚しく響く。チカ・・・チカ・・・と手に刻まれたルーンが今にも消えそうになっている。脚を潰され、内臓を焼かれ、左目を斬られ、髪の毛は丸焦げ、身体のところどころが炭のように黒くなり、既に感覚がない。右目も光しか見えない。歯もほとんど残っていないし、舌も焦げている。その口からは黒い血のようなものが出ている。・・・焦げ臭い。嗚呼、嗅覚は生きている。―――何も、聞こえない。何も、何も―――・・・・・・達也の身体は未だ徐々に焼かれている。その胴体の横には両断された携帯電話が転がっている。真琴も、ティファニアも声が出ない。名前を呼ぶこともできない。だけど、これは理不尽すぎる。理不尽以外の何物でもない。こんなの試練じゃない。ただの惨殺じゃないか。気付いたら真琴が崩れ落ちていた。しかしティファニアは受け止めることが出来ない。『さて、これで』「これでじゃない!明らかにやりす――」何を今更!ティファニアは今更止めようとするルクシャナにそう言おうとした。『試練終了だ』先ほど分身を貫いた炎の槍が達也の喉を貫く。びくんと痙攣する達也の身体。「・・・熱くなりすぎじゃ・・・精霊殿」水竜が呟くと同時に達也の動きがぱたりと止まる。刀を握ったまま転がっている達也の手にはもう何も刻まれていなかった。「――――――え?」達也たちを救出するため砂漠へ向かう飛行船内。ルイズは何か違和感を感じて声を出してしまった。「どうしたの?」キュルケがそんなルイズに声をかけた。理由はない。ただ何となく声をかけた。「いや、何か忘れ物をしているような・・・何かないような感じがして」「忘れ物?」「ええ」ルイズが何だっけと首を傾げているところにギーシュとマリコルヌが姿を現した。「キュルケ、ルイズは一体なにを悩んでいるんだい?」「何か忘れ物をしたかもですって」「忘れ物?」ギーシュはおいおいという感じで頭を掻いた。一方マリコルヌはやや考えて言った。「わかった!生理用品を忘れたんだね!?ダメじゃないかルイズ!淑女としてそれはイカンですよ!」「はぁ!?生理用品!?アンタ何馬鹿なことを・・・!?」「だが安心したまえ!こんなこともあろうかとここにナプキンはあるのだ!」「・・・おいマリコルヌ。何故君が女性用ナプキンを持っているのかね?」「何を言うんだギーシュ君!これも紳士の嗜みじゃないか!寝ぼけたことを言ってるんじゃない!君だって愛しのモンモランシーが定期的な腹痛に襲われた時にこれを常備してれば、彼女に頼りにされること間違いなしだよ!」「・・・致命的に間違っている気がするよ」「貰っておくわ」「貰うのかよ!?」「そもそもルイズ、アンタ生理来てんの?」「馬鹿にして!そうやってアンタは永遠に私を何処かで見下す事しかしないんだ!」ギーシュは密かに思った。まだなんだな、と。そうしてルイズの違和感はうやむやになってしまった。使い魔との繋がりが絶たれたことなど彼女はまだ、知る由もなかった。世にも珍しい人間の使い魔にして『サウスゴータの悪魔』。戦功をあげ、領地を持ち、出世をしながらも平民たちと共に害獣退治の日々を送る。領地内に珍妙な豊穣の神の像を作り、領内の発展を願っていた。人望は高いのか低いのかよくわからず、無茶苦茶な事ばかりやっていた。主である筈の少女に罵声を浴びせたり、放置プレイをかましたりするなど使い魔ぽくない人間であった。無茶に見えてもいつの間にか何とかして見せた。無茶苦茶だが、誰かの希望になっていた。怖くても震えそうでも、彼は手段はともかく7万を相手に生き延びた。日頃罵声を浴びせる主のために戦っていた。悪意の炎に焼かれそうになった少女の前に現れた。心を閉ざした少女の英雄になっていた。世界に絶望した王に愛を思い出させた。外の世界を知らない少女を外に連れ出した。御伽噺のようだった。だが、それは幻想だった。強大な力の前には悪魔と呼ばれても、精霊の力を借りても、伝説の『虚無』の使い魔だとしても無力だった。理不尽なる現実の前に彼女たちの英雄は無惨な最期を遂げた。彼女たちの英雄、因幡達也という人間はこうして死んだのである。――――アプリをダウンロード中です。お待ちください・・・真っ二つになった『彼』の携帯電話がまだ動いていることなど誰も知らない。(続く)