ド・オルエニールの早朝。日の出前に目覚めたルイズは荷物をまとめ終えていた。持っていくものは財布と、替えの下着、もしもの時の予備の杖などである。これから自分はトリステインからガリア、サハラと国境を越える旅にでるのだ。足は――ある。達也のペット一号ともいえるあの黒いペガサス『テンマちゃん』がいる。自分に懐くかどうかは不明だがテンマちゃんの主の主であるルイズはここらで威厳を見せてやらなければならない。国境を抜ける手段は無論強行突破など馬鹿げた事をするわけにはいかない。こんなこともあろうかと花押は本物だがそれ以外は偽造の通行許可証を作ってあるのだ。「・・・こんなこと母様や姉様に知られでもしたら・・・」そんな事を想像して一瞬怯えが心を支配しそうになった。もし自分の犯罪行為が明るみになったらその後の折檻が命の危険を心配するレベルであろう。「でも母様だったら完全に強行突破しそうだから私の方が平和的な分、淑女っぽいわね」淑女はそもそも公文偽造はしません。だがルイズはそれで無理矢理自分を納得させる。この救出劇に皆を巻き込むわけにはいかない。これは少人数で行った方が成功率は高いとルイズが判断した上での行動なのだから。馬小屋に向かったルイズは、馬を鳴かせないように慎重に移動し、テンマちゃんの前へ来た。静かに鞍を載せる自分をテンマちゃんは大人しく見ていた。ルイズは自分を見つめる天馬を見て言った。「貴女の主人を助けるために主人のご主人様である私に力を貸して頂戴」達也の主という事はテンマちゃんの主であるという事も暗に匂わせ、真剣な表情と威厳をもって格の違いを知らしめようとの狙いがルイズにはあったのだが不幸なことにテンマちゃんの世話をしているのは達也とシエスタ、たまに真琴とエルザであり世話も何もしないルイズが自分の主と言われてもテンマちゃんにとっては何とも承服しかねる言葉であるため、テンマちゃんは抗議の為にルイズの頭を噛んだ。「痛い痛い痛い!?やめてやめて!?今日早起きして髪のセットに結構時間かかったんだから唾液まみれにするのはやめて!?あいたたたた!?あ、ギブ。ギブギブ!やめて舌が髪にィ~!!」今まで静かに事を運んできたのにここで大声を出したせいで馬小屋にいた馬たちが起きているのにも気づかず、ルイズは涙と唾液で顔を濡らしながらテンマちゃんに噛むのを止めるように懇願していた。「・・・何をしているんですか?ミス・ヴァリエール・・・」呆れたような声がした。誰かに見つかった!ルイズは半分顔を青ざめさせてどうにか来た人物を見た。そこにはめいいっぱい荷物を背負ったシエスタと達也のペット二号のハピネスだった。ハピネスはルイズの方に飛んできて何やってるの?と言わんばかりに小首をかしげていたが、やがて遊んでいるのだと勘違いをしたのか、ルイズの耳を甘噛みし始めた。「ひィィィやぁぁぁぁ!?ちょ、何をやってふわぁぁぁ!??」耳をはみはみされ頭を齧られる年頃の少女の姿という異様な光景を朝から見せられるシエスタは思った。あれがトリステインが誇る大貴族の娘とか冗談でしょ?と。嬌声混じりの(!?)悲鳴を聞き流しつつ現実逃避を図ろうとするシエスタだったが自分の目的を思い返して我に返った。シエスタがテンマちゃんに一声かけると漸くルイズは解放された。早朝にセットした髪はすでに凄惨たる有様になっていたというか臭い。「はぁ・・・はぁ・・・シ、シエスタ?」「はい、私です」「何でここにいるの?起きるにはまだ早い時間でしょ?」「ミス・ヴァリエールこそこの様な時間に獣相手に高度な自慰行為を働いて頭大丈夫ですか?二重の意味で」「私に妙な性癖を勝手につけて可哀想な頭の持ち主の認定をするなこの妄想狂!?全く・・・何でいるのよ」「わたしもタツヤさん達を迎えに行きます。連れて行ってください」「ダメよ。今回は諦めなさい」溜息をつきつつルイズはシエスタに言う。しかしシエスタはその前に立ち塞がるように立って言った。「嫌です。わたしも行きます」「今から行くところを知ってるの?」「知っています。エルフのところでしょう?」「そうよ。貴女もエルフの怖さは知っているでしょう?」「知っていますよ。でも行きます」「何でよ!?貴女メイジでも戦いに特化した戦士でもなんでもないじゃない!エルフのところに行くという事はそんな身分でも危険があるのよ?ましてや一般人の貴女は死ににいくようなものだわ!?」「わかります!わかっていますよ!でも!皆さんがそのような環境に身を投じて自分は何もせずただ待つということが出来るほどに情けないけどわたしは出来た人間じゃないんです!マコトちゃんや、ミス・ヴァリエールにも・・・タツヤさんにもし・・・何かあったら・・・わ、わたしは・・・生きていけないです・・・生きてる価値がないです・・・だからお願いです・・・連れて行ってください」はらはらと涙を流すシエスタの姿にルイズは思わずOKを出しそうになるがぐっと堪える。「やっぱり無理よ」「じゃあ私騒ぎますから。皆にミス・ヴァリエールの出立を言います」「じゃあ私は皆が駆けつける前に出立するわ」元々これが自分に出来る事だと信じてやる事なのだ。ルイズに迷いはない。アンリエッタも行動に移る準備は進めている。事態がもう動いている以上自分も動くのだ。「そうですか。じゃあ私は勝手についていきます」「あのねぇ・・・」「ミス・ヴァリエール。貴女にテンマちゃんを乗りこなせるんですか?」「・・・べ、別の馬で行くわよ」「陸路でですか。それはそれは時間がかかるでしょうね」「・・・く!」恐らくこのメイド、自分が上手くテンマちゃんを乗りこなせるからって調子に乗っている。ここで陸路を選択すればこのメイドは間違いなくエレオノールや最悪カリーヌに言いつけるに違いない。そして自分は捕獲されTHE ENDである・・・。このメイド、ここまで計算したうえで私の前に姿を現したというのか!?「・・・大事な事だからもう一回言うわよ?エルフの国に行くのは自殺行為同然だけど・・・いいの?」「行きます」「・・・分かったわよ。もう、強情なんだから」「弱気ではタツヤさんは振り向いてくれそうにありませんから」「はいはい御馳走様の空回り。全くあの馬鹿に惚れる要素を見つけただけで賞賛に値するわ」「それはミス・ヴァリエールとタツヤさんの関係がかなり近いところにあるから見えないだけなんですよ。羨ましいし妬ましい気分ですよ。さ、前へお願いします」シエスタはテンマちゃんの鞍に荷物を括りつけるとあっさりテンマちゃんに跨った。所詮これが何時も世話している者とそうでない者との差とでも言いたげにシエスタはルイズを見下ろした。ルイズは歯噛みしたい気持ちだったがシエスタに倣ってテンマちゃんに跨った。「さあ、テンマちゃん、行くのよ!」しかし テンマちゃん は うごかない!▽テンマちゃん は しずか に たたずんでいる!▽「何でよ!?何で動かないのよ!?」「フフフ・・・甘いですねミス・ヴァリエール。テンマちゃんは賢いから命令を聞くべき人の命令しか聞かないんです。そう、私の様な何時も世話をしている人物のいう事なら聞くんです!」「だったらアンタが言いなさいよもう・・・」「では・・・さあ、テンマちゃん?私をタツヤさんの元まで連れて行ってくださいね?」しかし テンマちゃん は うごかない!▽テンマちゃん は なまけている▽「・・・・・・」「・・・・・・」「「・・・・・・・・・・・・」」「何故ですか!?何時も貴女の世話をしているのは私なんですよ!?」「成程分かったわ」「何がですかミス・ヴァリエール!?」「自らの主に対して病的なまでな情念を抱く発情メイドにテンマちゃんは主の身の危険を察知して近づけさせまいと考えているんだわ!」「なんですって!?それは本当なんですかテンマちゃん!?」テンマちゃんはシエスタの疑問に答えるかのごとく彼女を見つめ、そして軽く鳴いた。「テンマちゃんは雌・・・女の勘が主を護っているという事ね。その危険から主を護らんとする姿勢、まさに使い魔の鏡だわ。何で私はこの子を召喚できずあのアホを召喚してしまったのかしら?」「それはミス・ヴァリエール自身も――」「涼しい顔で何を言おうとしてるアンタは!?とにかくお願いテンマちゃん!今は本当に貴女の主が――」ルイズが言葉を続けようとしたその時、シエスタに抱かれていたハピネスがルイズの前に移動してきた。ハピネスはテンマちゃんを見上げると鳴きはじめた。「ぴぃっ!ぴぃぴぴぴぃ!ぴゅえぴぃぴ!ぴぴぴぴ!」「ヒン?ヒヒーン?」「ぴゅえ!ぴぴぴぃぴぴぴーぴ!」「ぶるる・・・」「ぴぴぃ!」「ヒヒヒーン!!」「ぴぃーーー!!」ハピネスとテンマちゃんが鳴いた直後、テンマちゃんは歩き出した。ルイズとシエスタは顔を見合わせた後、ハピネスを見た。既にハピネスはテンマちゃんの頭の上に陣取っている。ルイズとシエスタの言う事は聞かず、ハピネスの説得(?)には応じた・・・。これが意味するのは・・・そう、人徳である。或いは初めからそもそも言葉が通じてないとか。どちらにせよ現在のルイズたちはハピネス以下の存在なのかと痛感させられるという悲しみを背負う嵌めになってしまった。これは幸先が良くない。一人旅をするはずが二人とマスコットとの旅になるのはいいが二人がマスコット以下というのは頂けない。ルイズたちはしょんぼりとしたまま屋敷の門を出ようとした。が、門のところに赤髪と青髪の少女らが杖を持って佇んでいた。キュルケとタバサである。「キュルケ・・・タバサ・・・貴女たち何で・・・」「ここにいるの?かしら?決まっているじゃないのよ。私達もタツヤを助けに行くからよ」「あなただけでは心もとない。わたし達は一度エルフと戦っている。無策で行くより遥かにいい」タバサがそう言うと彼女の使い魔であるシルフィードが傍らに降りてきた。「そうなのね。どうせ行くなら危険は少ない方がいいのね!」「わたし達は全員彼に助けられている。だから彼の危機に助けに行く事は不思議じゃない」「助けられっぱなしは何か嫌だしね。偶には女性が男性を奪い返すってのも燃えるじゃないの」ルイズは元よりシエスタは達也がギーシュを諌めなければ魔法学院にいられなくなったかもしれない。キュルケは達也が来なければ学院襲撃の際に命を落としていたし、タバサはガリアで人形状態のままだった。人助けが趣味なお人好しであればそれも納得できるが・・・どうもそうは見えない。達也も昔のギーシュやマリコルヌやらと変わらないただの女好きの馬鹿男にすぎないとルイズたちは思ってる。だけどその馬鹿は何遍も自分たちを文句を言いつつも助けている。その馬鹿を助けようという自分たちも大馬鹿の様な気がした。「さ、行きましょう。タツヤも喜ぶわよ。こんな美女たちが迎えに来るんだから」キュルケが自信満々な笑みを浮かべて言う。「ええ、行きましょう。全く使い魔の分際で主に迎えに来させるなんてとんだ役立たずね!」「戻ってきたらお説教ですね、ミス・ヴァリエール」「そうね。それじゃさっさと行きましょう!マコトもテファも助けなきゃ」ルイズとシエスタはテンマちゃんで、タバサとキュルケはシルフィードで空を舞う。目の前には日の出の光景が広がる。微かに掛かった靄が日の出の美しさを演出している。「綺麗・・・」ルイズの後ろでシエスタが呟く。その直後であった。背後からゴーゴーと何やら爆音が聞こえてきた。ルイズたちが後ろを振り向くと何やら大きな影が近づいてくる。『そこのいつの間にかいなくなった四人組、止まりなさーい』「ギーシュ!?」キュルケが驚くのも無理はない。ギーシュたちが乗ってきているのは今、学院にあるはずの高速飛行船である『ガンジョ―ダ号』なのだから。ギーシュは魔法の拡声装置を使ってルイズたちに声をかけていた。その傍らにはレイナールやマリコルヌの姿が見える。そして何故か魔法学院の教師であるコルベールやギトーの姿もあり、更にエレオノールもいた。シルフィードとテンマちゃんはガンジョ―ダ号に向かって飛ぶ。その間ルイズは疑問に思っていた。その疑問をルイズは甲板で仲間たちと合流して聞いた。「ミスタ・コルベール!?何でここにいるんですか!ミスタ・ギトーも!」困った顔のコルベールに対してギトーはとぼけるように言った。「何、最近働きづめでしたので有給休暇を取っただけです。ミスタ・コルベールが学院から逃亡したやもしれぬ学院長を探すためにこのガンジョ―ダ号を使うとのことだったので私もついでに同席しただけです。そこに彼らが必死の形相で何かを探していたので事情を聞けば貴女たちがいなくなった、エルフの国に行ったかもしれないと言うではありませんか。それは大変なことですからガンジョ―ダ号を使って捜索してたんですよ。全く困ったものだ・・・有給で愉快な旅をする筈が生徒たちとエルフの国への旅行に行くとはね」「え・・・って、どういう事ですか?」「察しが悪いですねぇ。我々は我々でエルフの国に行き、ミス・ウエストウッドという大変有望な生徒を返してもらいに行くのですよ。ついでに貴女の使い魔も奪還しますけど、ね」「話は全て彼らに聞いている。ミス・ヴァリエール、ミス・タバサ、ミス・ツェルスプトー。君たちは大変優秀なメイジだがまだ未熟でもある。君たちだけでエルフの国に行くのは大変危険だ」「ですから引率は私達が引き受けます。これも教師の仕事ですから」ギトーがそう言った直後、不機嫌そうな表情でエレオノールがルイズの前に立った。「相談もなしに生意気な事をしてくれるわねルイズ」「だって絶対反対するじゃないですか」「そんなの母様もカトレアでもするわよ!貴女のやってるのは自分だけが良い子になろうとしてる行為なのよ!どうせ自分の使い魔が捕まったから自分でなんとかしなきゃとでも思ったんでしょう?」「だって迷惑が・・・」「迷惑なんて言葉が貴女の辞書にあったの?」「ありますよそれぐらい!」ギーシュが静かにルイズに語りかけた。「タツヤから聞いてるよ。君はかつて一人で大軍を何とかしようとした事があるそうだね」ルイズは言葉に詰まった。あの時は達也に酒+睡眠薬のコンボで無理矢理眠らされて止められた。ルイズはあの時一人で何とかしようと思って他に迷惑をかけまいと死まで覚悟していた。「責任感が強いのも結構。だけど置いてけぼりを食らった方の気持ちも君にはわかる筈だろう?」結局あの時は達也が自分の身代わりに大軍に突撃したのだ。残された自分はあの時呪詛にも似た叫びをあげた記憶がある。あの時は半狂乱になっていたと思う。「今度はタツヤはいない。だから君の早まった考えを止める役は僕らがやるんだ」ルイズは呆然と立ち尽くしていた。達也の代わりを皆がやる。使い魔でもなんでもない皆が―――ゼロのルイズと蔑まれて生きてきた日々がまるで嘘であるかのような現実を今の自分は受け止めきれないでいた。出会いと言うのは自分だけではなく環境まで変えてしまう。ルイズの場合は達也を召喚したことでそうなった。ルイズはかつて自分が達也に言った言葉を思い返していた。『アンタは私の宝―』それは自分の力だけの評価としてそう言ったに過ぎない。そういう現実を受け止めて生きてやっていくために発した言葉だった。それを死なせては自分の人生が否定されるかもしれないと思ったからだった。だが、その宝は更に自分に宝を投げ渡していたのだ。地位も名誉もそしてかけがえのない友人も。まぁ、失ったものもあるが。主に威厳と知性と理性な意味で。ルイズは感極まり後ろを向いた。そんなルイズの姿を呆れたように『仲間達』は見守るのであった。「根無し――だと・・・!」ビダーシャルは明らかに狼狽した声で言ったが、ティファニアは一体その単語が何を意味するのか分からなかった。見ればアリィーや他のエルフ達も動揺している様子である。ただ一人、ルクシャナがぽつりと言った。「根無し・・・ね。『扉を覗いた者』として御伽噺では聞いた事があるわ」『へぇ、俺達はお前等からすれば御伽噺の人物なんだな』ビダーシャルは達也の形をした何かを睨みつけながら口を開いた。それはティファニアが聞きたかったものでもあった。「・・・『根無し』のニュング・・・5000年前、ジャンヌ様等の包囲を突破し『シャイターンの門』に辿りつき扉を開き、すぐ閉めて後にエルフの追撃から逃れた蛮人の男。殲滅したはずのダークエルフ二人と蛮人の少女一人を連れて扉を開き、少女を扉内に入れ・・・何を考えていたのだ貴様は」『ただの人助けさ。迷い人を家に帰しただけでね。それだけなのにお前さんたちは好戦的だよな。今も何気に魔法を使おうとしているだろう?見えないように杖を持っても隠し方が下手糞なんだよ小僧。物騒だから』達也の姿をしたニュングは右手を翳す。エルフ達に緊張が走ったその時、ビダーシャルの目が見開かれた。ニュングは鼻を穿りながらにやりと笑った。『消しちゃったから』「・・・・・・!!」何が起こったのか分からないティファニアだったがアリィーの怒りの籠った声で何が起こったのか大体わかった。「貴様・・・!!我々の杖を!」『ああ、消したよ?不意打ちしようとしたんだろうがそんな事5000年も前に味わってるから今更なんだよ。ま、お前らの様な武器もった血気盛んな奴に対して生み出した平和的な魔法だ。俺の『消失』の魔法はな』「杖を・・・消した?『消失』って・・・」聞いたことのない魔法だとティファニアは言おうとした。『ブリミルの野郎が書き残した魔法の対策とかは5000年前もエルフ達は進めていたが、俺の魔法には対策を講じてなかったようだな。ジャンヌは力押しで何とかしようとしてたけどな。その様子じゃそこのティファニア・・・だっけ?君の代でも俺の魔法は全く知られてないようで微妙な気分だ』「貴方は一体・・・!?タツヤはどうしたの!?」『タツヤ・・・俺らの四人目の仲間は生きてるさ。今は意識を失ってるから俺がフォローしてるだけだ。俺は一体なんだと言われても憑りついてる守護霊の様な何かと考えるのが近いな』いや、守護霊は気絶しても身体は乗っ取らないから。『タツヤは・・・俺たちも護っている。だからお前等に良いようにはさせねえよ』ニュングはビダーシャル達に向かって言い放った。そして呟いた。『五人目は・・・護らなくていいって言われたからな』一瞬寂しそうな表情を見せたニュングだがすぐに笑みを浮かべる。『だから安心しな。俺は別にタツヤに成り替わる気は全くない。すぐに返す』ティファニアは胡散臭いが不思議と信用できそうな謎人格の達也の言葉に頷いた。ニュングは頷いた後に困った様子で言った。『済まないが君の兄ちゃんの身体を借りてる。だからそんな怖い顔でみないでおくれよ』「うぅ~っ!!」それでも睨みつけている真琴に苦笑してニュングは頭を掻くのであった。そして当の達也と言えば―――『よお』「またお前かよ自称主人公(笑)」『(笑)付けるなよ』真っ白な空間で以前自らを『平賀才人』と名乗った何者かと再会していた。(続く)