俺の世界にもドラゴンと言われる生物はいる。コモドドラゴンとか言われる生物がいるのだがあれは走るのが速い肉食のオオトカゲである。それ以外に特筆するところは身体がトカゲにしてはデカく毒持ちということか?ただ現在俺たちの目の前に存在するそいつは火を纏い空を飛んでいるんです。コモドドラゴンは飛ばないし火を纏ったら普通に焼死する。正にファンタジー世界にのみ許されたドラゴンの登場に人生の危機である。「い、今は竜とか出ないんじゃなかったんですか先生!?」「目撃証言が無いというだけだ、存在はしていたというわけさ!」この時の達也には知る由もないが現実世界の我々の世界でもこのケースは存在する。絶滅していると思われていたクニマスが普通に現在も生存している事が判明した事がこれに近い事である。目撃証言が無い、その種族に対する知識がない場合、その種族は絶滅同然の扱いを受ける。実際クニマスは大変な発見なのに釣り上げてた漁師さんとか普通に食べてたらしい。なにそれこわい。そんな実例があるなど知る由もない達也は半ば恐慌状態である。炎を纏う火竜の姿は彼の眼には圧倒的に見えた。「竜って言えばタバサのとか軍とかのを見たことしかないですよ俺」「ファイアードレイクは竜としての格も高い。知能は韻竜に劣らないしね。何らかの宝を守るために存在するのだが・・・」「火燐草がその宝だっていうんですか!?」「いくら薬剤の材料になるからと言ってもファイアードレイクが守護するようなものじゃないよ。どうやらこの付近には火竜が守護する何かがあるようだね」しかし俺たちの目的はあくまで火燐草である。トレジャーハンターではない俺たちはファイアードレイクと敵対する意思などあるはずがない。精々竜に出遭ったら気を付けて逃げようぜという気構えがある程度である。しかし、いるかも程度の竜に出遭う等俺たちは非常に運がいいのか悪いのか。少なくとも今日のこの状況を帰って寝て忘れたいのは確実である。先生の話からすれば火竜山脈と人間達とは自然の問題やらなんやで確執があったらしいので問答無用で攻撃される可能性もあるだろう。出会い頭に挨拶もとい会釈ではなく攻撃とか敵対関係しか生まないんだ!やめろ巨大爬虫類!せめてここは警戒程度で手を打ってくれないか?警戒しながら俺たちの草摘みを見守るべきじゃないのかー!?俺が自暴自棄的に混乱しているとコルベールが静かに語りかけた。「いいかいタツヤ君?無闇に刺激してはいけない。ファイアードレイクは基本的に肉食だ。だが家畜の肉を好み人肉は好まない。よって静かにこの場を去れば何の被害も受けずにいられるはずだ。敵意を抱かないのは当然だが驚かせないようにここは細心の注意を払うんだ、いいね?」俺はその意見に全面的に同意である。髪の毛と自らの命を天秤にかけた場合、命の方が大事である。俺は肯定の意思をコルベールに伝えるための返事をしようと口を開いた。だが不運なことにこの時、ファイアードレイクが出現した時に発生した噴煙を吸ってしまった。「は、ハックショーイ!!」「細心どころか心太すぎる行為をやらかしてどうするんだい!?」「出ちゃったモノは仕方ないでしょう!?」「せめて口を塞いでやりなさい!?」とっさの判断は実に大事である。思わずやらかした行為の結果、火竜は此方を充血しすぎだ、目薬したら?とアドバイスしたくなるような真っ赤な目で俺たちを睨んできた。コルベールが息を飲み込むのが分かる。俺も冷や汗が噴出している。正に命がK点を突破しそうな現状である。だが待ってほしい、命の危険かもということというのは分かるが、果たして特にこの竜が守るまでもない植物を採取しに来た頭髪問題解決に奔走していた我々がこのような場所で落命という結末を迎えて良いモノか?断じて否であろう。人間は追い詰められたときに実力以上の力を発揮することもある。成程、そういう時こそ人間の感覚は研ぎ澄まされ新たな境地に目覚めたかの如く凄まじい発想が生まれるのではなかろうか!?それでは生まれろ、凄い発想!俺は自らの脳に全てを委ね、目を閉じその発想を待った。『それでは人生が終わるか始まるかの瀬戸際の達也君に対してのクイズです』突如脳内に恥知らずのダークエルフに似た声が響いた。『問題、これからどうしますか?』そんな出題があっていいのか?①あきらめて火口に身投げしてみる ②笑顔で最期を迎えてみる③人生を振り返ってみる ④一か八か逃げるまさかの四択であった。っていうか起死回生の発想がこれかよ!?ほとんど死亡ENDじゃねえか!逃げるにしても逃げれるかどうかも不明瞭。どうすれば、どうすれば・・・?『ライフラインは三つ全て残ってますよ』ライフラインってなんやねん。じゃあオーディエンスで。『それでは会場の皆さん、ご協力をお願いします』①あきらめて火口に身投げしてみる 34% ②笑顔で最期を迎えてみる 16%③人生を振り返ってみる 21% ④一か八か逃げる 29%会場の皆様、俺に死ねというのか。ええい、テレホンだテレホン!『それでは電話をお繋ぎいたします。もしもし』『はーい、達也君!大ピンチのようですね!でも安心なされてください。このフィオが達也君の力になればどんな困難も貫いていけます!ええそりゃあ困難的な意味でも男女関係的な意味でも・・・』切ってください。『・・・ッチ、折角のライフラインを無駄にしてしまいましたね』何だ今の舌打ちは。『残りは50:50だけですが使用しますか?』使用してみよう。①あきらめて火口に身投げしてみる ④一か八か逃げる だから何で①が残ってんだよ!!?投身自殺なんぞしたくねえぞ!?なんか④も死にそうだし碌な選択肢がないじゃないか!?もうここは無理矢理生存の道を開拓するしかない!そういえばさっき先生がこの火竜は知能は高いみたいなことを言っていた。知能が高い竜といえばタバサの使い魔である。タバサの使い魔は人語を理解するどころか人に化けれるしな。目の前の火竜はその位の知能はあるということだ、人語理解位はできるんじゃないか?そう仮説を立ててみた俺はコルベールに言った。「先生・・・案ずることはありません!」「何だって?何か策でもあるのかいタツヤ君?」「考えてみてください、ファイアードレイクは格の高い竜なんです。そんな偉大な竜が人間のくしゃみ程度で怒り心頭になるほど矮小な胆力の持ち主とは到底思えません」「た、確かにファイアードレイクの格は高いが、こちらが刺激してしまった以上、不機嫌になるに決まってるじゃないか」「不機嫌だからといって即危害を加えるだなんてそれが格の高い竜のする事でしょうか?否!偉大な存在は常に悠然としているべきです。ましてやくしゃみ程度でブチ切れていてはファイアードレイクの名が泣き叫んだ挙句失禁するでしょうが!」その時俺はいつの間にかファイアードレイクの唸り声が静まっていくのに気付いていた。まさかとは思うが火をこちらに噴こうとしているのか?だとすればコルベールが気付くはずだ。しかし彼は杖すら握ってない。俺は恐る恐るファイアードレイクを見た。此方を睨む火竜は警戒感バリバリだったがその瞳に若干の戸惑いの色が見えた。やはり此方の言葉は理解できるようだ。俺の発言はファイアードレイクに対しての畏怖と敬意が含まれているからな。人語を理解できそうな火竜に対して俺は『格の高い存在は常に偉大であれ』などという無茶な理屈で見逃してもらおうと考えてるんだ。「大体火燐草はファイアードレイクの守護対象じゃないんですからここで我々が採集活動を行うことに何の問題があると?我々は山の恵みに感謝しつつ火燐草を採り下山するのみじゃないですか」その山の恵みに感謝するのは俺ではなくコルベールである。火竜が空腹ならば俺たちが宝を狙ってなくても襲われる可能性もあるが、この竜は人肉を好まない。そもそも火竜山脈には野生動物も多く、わざわざ人間を襲わなくともよいはずである。あくまで宝の在り処に俺たちが接近したため、警戒のために姿を現したと考えるのが普通なのだが・・・。だとすればどうして今まで目撃証言が無かったのだろうか?こんな圧倒的な存在見つかってもいいような?肩の上のハピネスは恐怖しているのか震えている。テンマちゃんは何時でも攻撃OKという態勢である。一方、人間二人は圧倒的存在を前に談笑しているというこの意味不明な状況にファイアードレイクも戸惑っているようである。事態は膠着状態で時間だけが過ぎそうなその時だった。『タチサレ・・・』急に脳内に響くような声が聞こえてきた。俺とコルベールは顔を見合わせた。「何だ今の声は・・・?」「まさか」俺はファイアードレイクを見た。炎を纏いし偉大な火竜は俺たちの方を見つめたままだった。『ソノ植物ヲ採取シタラ即座ニタチサレ・・・』その声は確かにファイアードレイクから聞こえていた。・・・え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!??喋ったぁーーーー!!??「先生ィーーー!?ファイアードレイクって喋るんですかぁーーっ!?」「た、確かに知能は韻竜に匹敵するがファイアードレイクが人語を発するとは文献には記されていないぞ!?」『相棒、俺とか村雨の嬢ちゃんは喋るのに今更何を言ってやがるンだ』「黙れ無機物!?」『ファイアー・ドレイク・・・確カニソウ呼バレテモ正解ダガ・・・私ニハ名ガアル』「ファイアードレイクの上位種だというのか?」コルベールがそう言うと、目の前の火竜は口元を釣り上げた。うわあ、怖え。『我ガ名ハ・・・《ファフニール》』その瞬間、火竜は翼を大きく広げて一回大きく吼えた。コルベールは目を見開き唖然としている。ん?ファフニール?どっかで聞いた気がするんだけど・・・北欧神話とかで出なかったけ?「先生・・・ファフニールって・・・」「ファフニールはファイアードレイクの一種だよ・・・」コルベールはそう言って押し黙ってしまった。彼の代わりに喋る鞘であるデルフリンガーが答えた。『おったまげたね。相棒、俺も初めてお目にかかるがよ、ありゃ火の韻竜だぜ』目の前にいるのはタバサの使い魔シルフィードと同じ韻竜だという。だがその存在感と神々しさは比較にならんのだが?『だがえらく大物が出てきたもんだな。こんな奴が守護するモンってのは並大抵なものじゃねえ』『ほう、私の存在を知っているか。そこの人間は竦んでいるようだが・・・な』先ほどより明瞭だが重厚な声が響く。コルベールは火韻竜の出現に言葉を失っている。絶滅しているとされていた韻竜はタバサのシルフィードもそうだが今も生存している。ただでさえ伝説的存在の韻竜を間近で見て圧倒されてしまったのか?「先程も言った通り俺たちは火燐草を採りに来ただけだから、アンタは警戒する必要はないと思う」俺は恐怖心を押し殺しながら火の韻竜に言った。『人間の小僧よ、貴様らのような矮小な存在に反応してわざわざ私は姿を現しはせん』ファフニールはそうきっぱりと言った。じゃあなんで姿を現したというのか?『水の・・・水の精霊の気配がしたから様子を伺いに来たのだ。貴様等は勝手にその植物を採取し立ち去るのだ』ああ、そうですか。待ち人がいたんですか。どうやら意外に平和的に目的は達せられそうだ。「そういうわけなので先生」「・・・っは!?な、何だい?」「折角見逃してくれるんですから、さっさと目的を果たして下山しましょう」「そ、そうだな」コルベールは火韻竜が見ている中、火燐草を採取した。よし、念願の火燐草を手に入れたぞ!「さあ、珍しいのも見れたし帰ろうかタツヤ君。はは、ははは!」「そうですね、いい土産話ができそうですね先生。はははは!」『おいおいお前らあの韻竜が何守ってんのか聞かんのか?』「黙れ無機物!世の中には聞かんで良いことだってあるだろうが!今の俺たちの宝は火燐草なんだよ!」「その通りだ。確かに気にはなるが、今は目的を遂げることが一番さ」『・・・あんまり理解できねえなぁ』髪の毛の悩みなんぞ、無機物である貴様には分かるまい。俺たちはひとまず胸を撫で下ろし、紫電改がある場所まで戻ろうと踵を返した。だが、その時だった。『待て』背後から韻竜に呼び止められた。待てと言われたら待ちたくなくなるのが人情だがここは人情を発揮させるところではない。俺たちは冷や汗を流しながら視線を合わせた。そして互いに頷き、振り向いた。「な、何だね?」先生、少し声が裏返ってます。『貴様ではない、小僧、貴様に尋ねたいことがある』コルベールが俺を見た。その表情は何をしたんだとでも言いたげである。俺は火韻竜の深紅の瞳を見ながら息を呑んだ。「な、何だよ?」『何故、貴様から水の精霊の気配がする?』「は?」コルベールが何を言ってるんだとでも言いたげな声を出す。だが俺には残念ながら心当たりがある。水の精霊から貰った精霊石『水精のサファイア』にこの竜は反応したというのか。「水の精霊から・・・これを託されたからです」俺はそう言って精霊石を見せた。青く輝く精霊石は特に磨いた記憶もないのに美しさを保っている。火韻竜は暫く精霊石を眺めていた。『・・・その精霊石を持った人間に我が先祖が不覚を取ったのは確か五千年前程だったな』「へ?五千年前?」『その精霊石が再び人間の手に託されたという事は成程、私は貴様をあの方に会わせねばならぬというわけか』なんか一人・・・いや一匹で何か納得されてらっしゃるのですが?」「あの方って誰?」『大地の精霊・・・と言えば良いだろう』「大地の精霊は火竜山脈にいるのか!?」コルベールが驚いたように言う。『その通りだ。貴様ら人間はこの地に火の精霊が存在するかと推測しているようだが実際は大地の精霊がいる』そりゃあ火竜山脈って言うぐらいだから火っぽい精霊がいると学術者は思うんだろうな・・・。「・・・という事は、ここで新しい精霊石が貰えるってことなんですか?」俺がそう尋ねるとファフニールは一瞬押し黙った。『そうするのが我が役目なのだがな・・・』「ま、まさか会う資格があるかどうか私が試してやるとか言うんじゃ!?」『そうではない。会わせてやりたいのは山々なのだ。だが今は事情がある』「は?」『大地の精霊はこの星の大地を統括する精霊だ。貴様らが食す穀物の成長もあの方の力あっての事だ』それはそうだろう。この世界にとって精霊の力は不可欠のようなものがあるから。『だが最近風の精霊に起こった異変で大地が荒らされてしまってな・・・』「異変というのは頻発する地震の事かな?」『それもある。後は大地の隆起であの方の加護で育った大地が荒らされ、精霊界のバランスがやや狂ってしまった』「分かった、その荒れた大地を何とかするために、奔走してるんだ!」そうしてくれた方が俺が何とかするより確実に早く世界は救われそうだ。だがファフニールの口からは期待とは違った現状が語られた。『いや、そんなアグレッシブな方ならそもそも貴様に会いに来ている筈だ。大地の精霊は最低限の加護を大地に与えることは維持しつつも、折角加護を与えた大地が荒らされることに失望感を感じてここ火竜山脈に閉じ籠り、私に守護を任せた。その日から地震の頻度が増したのは困りものだった。私も呼びかけるのだが『仕事はしている』などと言って出てこようとしない。加護を求めて人間達は祈祷などもしているが、それにも耳を貸さない。長期的に見てこのままでは星に生きる生物たちの餌となる草なども枯渇してしまう恐れがある。それには人間達はまだ気付いてないようだがな。その火燐草にしてもかつては火口を埋め尽くさんというぐらい生えていたが、精霊が最低限の仕事をしなくなった途端、土が見える比率の方が高くなってしまった。精霊は仕事は最低限してるというが・・・これは明らかに怠慢状態なのだ。そんな状態で精霊が貴様らに会うとは思えんのだ』まさかの精霊引き籠り化である。そして新たな世界の危機も発生したことを聞いてしまった。何で?毛生え薬の材料探しに来ただけだぞ俺ら!?だが大地の精霊に出遭わないと精霊石は貰えない。別に俺がこの世界をどうこうしなくてもいいのだが、ここを見逃したらいけないような気がする。「大地の精霊が籠っている場所は?」『そこを今私が守護している場所なのだが・・・何だ小僧。大地の精霊を無理矢理引きずり出そうというのか?無駄だ。力ずくではどうにもできぬ。我が力でもあの方が籠る場所・・・火口に空いた洞穴奥の岩屋には傷一つもつかない』「力でダメなら知恵を織り交ぜればいいんです」『ほう・・・?策があるというのか?』俺は試すような視線を投げかける火韻竜に自信を持って答えた。「ある。今は引き籠ってる場合じゃないという事を大地の精霊に教えてやろう」こうして俺たちは大地の精霊引き籠り終了計画の為に一肌脱ぐことになった。この世界に漂うという大地の精の中核的存在がどんなものか見せてもらうとしよう。俺はテンマちゃんとハピネスを撫で、俺を訝しげに見つめるファフニールを見返すのだった。・・・やっぱり怖いよコイツ。(続く)