吸血鬼騒ぎも落ち着き、俺は任務の終了をイザベラに報告した。イザベラは俺たちに労いの言葉を掛けたが、何やらいいたそうな表情をしていた。「・・・気のせいかしら?マントの色が変わってない?」俺のマントはタバサやイザベラの髪の色のような水色になっていた。もともとのマントは黒っぽかっただけにこの変化は目立つのだろう。「実は吸血鬼退治のときに燃えちゃいましてね、焼け焦げたままなのも格好がつかないから素材が同じマントを買ったんですよ。この色は姫のガリアと俺の友好の証のようなものと受けとってください」「友好の証ですって?」イザベラは訝しげに言う。ガリア王家の皆さんは何故か髪の色が水色っぽいと感じた俺の発言だがだからと言って友好の証とか大嘘である。トリステインから頂いたマントを燃やしたりしてしまったら普通は申請するなどして後、改めてマントを貰うらしいのだが、手続きが色々面倒なのですっ飛ばした。「水色のマント着けて友好の証とか意味が分からないんだが」任務帰りのイザベラの部下であるジャックが呆れた目で俺に言う。「水色はガリアの色同然。この色を着けることによってトリステインとガリア並びに俺と姫の関係が緊密なものになるという願いを込めて等と言えば綺麗に収まるじゃん」「収まるじゃんじゃないだろう。それだったら何か?俺とかはトリステインのイメージカラーのマントを着れば良いのか?」「トリステインのイメージカラーって何だよ」「何だろう?」「「・・・・・・」」「黒だな」「ああ、黒だな」「そこは白とかじゃないの!?そんなことより嬉しいこといってくれるじゃないタツヤ。冗談抜きでガリアに来ない?」「その気持ちは嬉しく受け取っとくけど、俺は立場上トリステインにいなきゃいけませんから」最近忘れそうになるが俺はトリステインの公女の使い魔なのだ。その立場を忘れてガリアに住むぜ!などと言えば多方面に敵を作るはずだ。案外ゴンドラン辺りは賛成してくれそうだが反対する奴の顔ぶれはそれ以上に凶悪な気がしてならない。具体的に言えばルイズの母ちゃんだな。あと姫様。そもそもこの二人は俺を元の世界に帰す気はないだろうよ。「そう・・・残念ね・・・」イザベラとしては吸血鬼退治を本当にやって来た達也をこのまま手放したくないのだが、そもそもトリステインの男爵をガリアの事件に首を突っ込ませるという事自体異例なのでそう短期間に二度目のお願いをするわけにはいかないのだ。そうポンポン達也にお願いしていたらガリアの騎士達の立場がなくなる恐れもあるとイザベラはジャックなどからも言われている。イザベラとしては名残惜しいが、目的は達しているので今日のところは帰らせなければいけない。何せこの男はトリステインの領地持ちの男爵様なのだ。根無し草の平民とか騎士とかだったら簡単に引き抜けたのに・・・。だが覚えておれトリステイン。このイザベラは欲しい物は何が何でも手に入れなければ気がすまないのだから!正直達也にとっては迷惑でしかない野望を胸に、イザベラは今日のところは笑顔で達也達をトリステインに戻す事に決めた。笑顔とは元々攻撃的なものであるとは誰が言ったのか、達也はイザベラの笑みに何処か既視感を覚えるのだった。姫さんに何か含むものがありそうとはいえガリアへの用件はこれで一段落ついた。早く皆と一緒にトリステインに戻らないとな。俺は玉座の間を出て皆が待っている部屋に向かっていた。そこで俺を見つめる男がいたのに気付いた。「・・・アンタはまだガリアにいたのか」「出て行くには色々とやらなければいけない身なのでな」俺の目の前にはタバサを救出した時に出会い戦ったエルフの男がいた。敵意などは感じられないが元が無表情な男だから何をするか分からん。「構えるな。お前を今どうこうしようとは考えていない」「どうだかな。エルフは前の教皇を殺してるじゃないか」「・・・我らの領地に攻め込まんと企む蛮族の長を潰して何が悪い?盗人猛々しいにも程がある。此方も制裁を加えただけだ」「人類への警告のつもりかい?エルフさんよ」「そう受けとってもらっても構わぬ。我々は意味のない戦いはせぬ主義だが領土問題となれば話は別だ」エルフの男・・・ビダーシャルはこの度正式に彼の国・・・エルフの国ネフテスに帰還する為の挨拶をしに来たという。ロマリアとガリアの戦いが有耶無耶になった以上、エルフの里に干渉しないという交渉は決裂も同然と判断したからだ。そうなれば彼・・・ビダーシャルはネフテスからの召還を受けるのも仕方がないという訳だ。「意味のない戦いね・・・なあ」「何だ」「ダークエルフを滅ぼした事に意味はあったのか?」「そんな事を知ってどうする」「興味本位だよ。戦いが嫌と言ってるエルフのあんたらだが実際はそうやって一種族を滅ぼした前科がある。その前科があってなんであんた等は聖人ぶっているんだ?」「それは人間も同じであろう」「ああそうさ。だから言ってるのさ。自己の都合である種族を滅ぼした人間とエルフは何も違わないんだよ。お前らは人間を蛮族と呼ぶけどさ、滅ぼされたダークエルフからすればあんた等も同じと俺は思うんだけどね。例え高度な文明を持っていようが関係ない。少なくともあんた等エルフが人間を蛮族と呼ぶ意味が俺には分からん」「・・・我々が人間を蛮族というのは粗野なのは無論のこと、この星の自然を簡単に破壊するからだ。文明の発達と共にお前たちは驕り高ぶり自然を破壊しているではないか。自分たちが住む世界を傷付けた結果がこの度の世界の異変の原因なのではないか?」「異変か・・・大陸が浮き上がるかもとかいうアレか」「そうだ。異変はやがて拡散し取り返しのつかぬところまで進むだろう。6000年前、悪魔が厄災をおこさなければこのような事にはならなかった。お前たちが神の如く扱うブリミルは世界にとっては悪魔の所業をなして後世にまで残してしまった・・・今となってはどうしようもない事だがな」「ブリミルがやった事を分かりやすく言ってくれよ。俺知らないんだ」「奴は世界のバランスを壊した張本人なのだ。人類に未知の技術を伝えた結果多くの生命が失われた。人間以外の生命がな」ビダーシャルは淡々とそれで居て何処か嫌悪するように言った。人間以外の生命が失われたとは穏やかではない。俺は始祖に対して何の感慨も持ってはいないが、ブリミルって奴は一体何をしたというんだ?「シャイターンの門ってのを開いたのか?」「門は開くだけならば無害だと思われていた。だが人間であったブリミルは扉の向こうの何かに惑い、悪魔と化した。我々の英雄が奴を殺さなければ世界はかなり早く滅亡の道を歩んでいた」「何かってなんだよ」「少なくともその時から人間は魔術なるものを使い始め、生態系のバランスを崩し始めた。それで増長した人類はエルフの村や町にまで侵攻して来た」「で、数千年にわたる戦いがあったという訳だな」「その通りだ」「人間が天災で死のうが自業自得だと?」「そういう事になるな」星に意思があるのかどうかなど眉唾物の話だがそもそも俺にとってこの世界は眉唾塗れになりそうなことばかりだ。というかこのエルフは他人事のように言っているが天災が起きたらお前らもただじゃすまないだろう。・・・まあエルフの技術は人間のそれを上回っているらしいから彼らは彼らで生き残る術をもう発見しているのかもしれない。俺にとってはこの世界の未来の大災害なんて関係ないのかもしれない。いや、確実に関係はないようにしたいんだ。だが知ってしまったからには放っては置けないだろうが。実際もう地震活動は活発らしいしな。まあよりにもよって水の精霊様から直々に世界救ってくれない?みたいなことを言われてるんだよね何故か。こういうのって普通は精霊とかじゃなくて王様とかから頼まれるイメージがあるんだが・・・。水の精霊はこの騒ぎは風の精霊が暴走してるからって言ったが・・・エルフからすれば星の怒り(笑)なんだとよ。人間にとってもうエルフは大多数が悪と認識してしまったかもしれない。エルフは当に人間を蛮族扱いしている。だからと言って絶対分かり合えないという訳ではないようなのはテファの両親が証明した。「・・・我々は我々の事で手一杯だ。お前たちはどうやら我々のいる場を奪うつもりだったろうが・・・四の悪魔は揃ってはいない」ビダーシャルは俺を指差していった。「お前が存在する限り、悪魔が現れる事はない。我々にとってお前の存在は非常に助かるのだよ。・・・その刻印が何かは分からぬが」「色んな人が言ってたよ。俺が死ねば計画は滞りなく行う事ができるみたいな事をな」「・・・成る程。形振り構っていなかったいなかったという事か。やはり前ロマリア教皇を討ったのは正解だな」「戦争に正解も間違いもあるかよ。教皇が死んで喜ぶ奴もいれば嘆いていた奴もいる。あの人に希望を見出してた人もいたんだ。んなこと言ってたら暴徒が突っ込んでくるぜオッサン」「・・・これは失言だったな。まさか蛮族に指摘されるとは」「エルフも存外万能じゃないってことだろうよ」「・・・フッ・・・その通りだな。万能ならば利用などされなかったからな」ビダーシャルは自嘲気味に呟き止まっていた歩を進めた。本来の彼の目的を果たさんとしているのだ。「この先人間がどのような対応に出てくるのか注視しよう」「それを俺に言ったって無意味だろ。姫さんに言えよ」「・・・そうだな。その通りだ」ビダーシャルはそのまま玉座の間に向かって行った。俺はその姿を見送り、その後に皆のところに戻った。という訳でようやくトリステインに戻れる訳なのだが、ド・オルエニールにはカリーヌがいるかもしれない。このままではキツイお仕置きは確実だと震えるエレオノールと気まず過ぎて吐き気を催すワルドが気の毒で仕方がない。二人とも今回の吸血鬼騒動では頑張ってくれて怪我までしたのでここは俺が一肌脱ぐしかない。とはいえ俺は何も悪い事してないので別に見捨てても良いんだよな。「こうなったら完全にガリアに亡命して・・・」「母親から逃げるのに亡命してどうするんですか」「嫁を取るか命をとるか・・・安定した職をとるかその日暮らしをとるか・・・」「二つとも前者を取れよ」何気に嫁のために死ねと言ってる自分がいた。ガリアとしても親子の逃亡劇に巻き込まれたくはないだろう。「たかが人間じゃない。何をそんなに怯えているのかしら?」「そ、そうだわ!この吸血鬼を囮にすれば、母様の気が逸らせるかも・・・!!」「母親相手に何他人を盾にしようとしてるの?親なんだからちゃんと接しなさいよ」エルザは両親を殺されているので母親に対して右往左往するエレオノールにやけに冷たい。「話をちゃんと聞いてくれる状況とは限らないわ・・・!!」「なら、話を聞いてくれる状況にすれば?例えば適度に痛めつけるとか・・・」「それが出来れば苦労はしないわ!」「は?」「というか親を適度に痛めつけるとかお前・・・」一瞬親を大事にする心が備わってるんだなと評価しそうになったが、この吸血鬼はそんなんじゃなかった。「う~ん・・・お姉ちゃんはおこられたくないんだよね?」真琴が突然暗くなっていくばかりのエレオノールに言った。「そうよ・・・どうすればいいのかしらね・・・」「かんたんだよ!よろこぶことをすればいいんだよ!」「喜ぶ事・・・?」つまり不機嫌な人へのご機嫌取り、それも怒りを忘れるほどの事をすれば被害は最小限で済むかもと真琴は言いたいらしい。ご機嫌とりか・・・カリーヌさんは何をすれば喜ぶんだ?ハピネスを使った芸でもやるか?滑るか?裸踊りでもやるか?公女だから却下だな。ではどうする?モノで釣るにはいささか地位が高すぎる。エレ姉さんが誰かと結婚?誰と?嘘がばれたらやばいからコレも駄目。「怒りがぶっ飛ぶような事か・・・」ストレスの発散はこの世界では何をやっているのだろうか?「ワルド、ハルケギニアにおける大衆娯楽って何だ?」「第一は演芸だろうな。最近は平民でも貴族でも共に楽しめる劇場などがあるときいている」「演芸ねぇ・・・」そういえば領地に演芸場はないな。コレも将来招致出来るようにしないと人は入ってこないよな。「そうだ演芸だよ!」「何だ?一流の劇団でも招致して楽しませるとでも言うのか?」「無駄よ。そういう事は実家で結構やっているから、その辺の一流劇団は見飽きているわよ」「安心してくださいな。そんな一流劇団を呼ぶ金は使いません」「「え?」」エレオノールとワルドが互いに顔を見合わせ、それから俺を見た。俺は携帯電話を取り出し、それから作戦を皆に伝えるのだった。一方、ド・オルエニールには未だにカリーヌが滞在していた。無論ルイズやギーシュなども未だにこの領地にいた。完全に帰るタイミングを逃した。ルイズは日に日に様子が可笑しくなり、テファは孤児院に入り浸り、ギーシュ達は何故かこの領地の名物といわれる巨大生物をカリーヌ指導の下狩りに行ったり・・・。ぶっちゃけて言えば現在キュルケは大変暇であり、早く達也が戻ってこないかなぁ・・・と思いながら溜息をつく毎日だ。彼女の側では達也の屋敷の居間のカーペットの上で仰向けになって倒れているルイズがいた。彼女の目は単色ながら血走っていて、時折うわ言のように、「マコト・・・マコト・・・マママママココココ」などと不気味に口走っており正直近づきたくない。昨日なんか「くけけけけけけけけけけ!」と笑い出したり、「かゆ・・・うま・・・」と言って錯乱したり非常に大変だった。いや、使い魔の妹の心配じゃなくて使い魔を心配しろよアンタ。暴れだしたら燃やして構わないとカリーヌのお墨つきなのだが、流石にそこまではしたくない。「おのれタツヤ・・・何処までも私とマコトを引き離すつもりなのね・・・」「何言ってんのよルイズ。マコトはどう考えてもアンタよりタツヤに懐いてるから、タツヤに着いていくに決まってるじゃない」ルイズは起き上がりテーブルにおいてある紅茶を飲む。そしてテーブルに突っ伏して愚痴を言いはじめた。「大体相談もしないでガリアに行くとかどういうつもりかしら。一応使い魔よねアイツは」「そうねぇ。頼りにされてないんじゃないの?」本当はカリーヌが来るというのと急な呼び出しだったために相談する暇がなかったのが事実である。しかしそんなことをルイズたちが知る由もない。何でガリアに呼び出されたか、内容も知らされていないのだ。まあ、言われたら言われたで飛び出していくのが目に見えるのでゴンドランが言わなかっただけなのだが。そんな時、巨大生物との戦いからギーシュ達が戻ってきた。ギーシュもマリコルヌもレイナールも泥まみれであり生傷だらけだった。「あのような蚯蚓だけならまだしも土竜まで相手に出来るか!?」「あの土竜はどう考えても知力が高いだろう。引き時がよすぎる」「ルイズ、君の母上も呆れていたよ。大きければいいってモンじゃありませんとか怒って今、住民達と一緒に蚯蚓五体と土竜三匹と戦ってるよ・・・」「ここの住民は本当に大変ね。ああいう化け物相手にやっているんでしょう?」「そうね。でもタツヤやゴンドラン殿が来るまではやられ放題だったらしいわ」「にしても珍しい奴に会ったな。ジュリオとかいったか、彼はここに住んでるんだな」「そうよ。婚約者と一緒にね」「彼が来て土竜が大人しくなったのはいいが、蚯蚓が更に増えてね・・・」「・・・?土竜は大人しくなったのに?」ルイズは改めてこの領地の巨大生物の異常さに震えた。ジュリオの能力は確かにヴィットーリオが死んで弱まったのだろうが、それでも蚯蚓には効果がないとかどういうことだ?そんな時、噂の人物が屋敷に訪ねてきた。彼・・・ジュリオも泥まみれで顔は特に砂に塗れていた。「酷い顔じゃない」ルイズは素直な感想を言うとジュリオは苦笑しながら言った。「どうにか追い払えたよ。それより聞いたか?」「何を?」「彼・・・タツヤがもう直ぐ帰ってくるんだってさ。近隣住民達が今、出迎えに行ってるようだが行くか?」「領民総出で出迎えとか暇なのね~」「全くだな。まあ、彼は男爵様になってしまってるようだから祝いたいんだろう」「ぐずぐずしていられないわ。タツヤが帰るという事はマコトが私の元に帰ってくるという事!!」急に蘇生したかのごとく立ち上がったルイズの瞳には涙が溢れ出てきていた。ぎょっとした面持ちでルイズを見る一同。ルイズは恍惚の表情で言った。「こんなに嬉しい事はないわ・・・今行くわマコト!そして私の胸に飛び込んできてーー!!!」まずい、かつてないほどの嬉しさに我を忘れてしまっている!キュルケの脳裏にあの魔法学院での出来事が蘇る。駆け出すルイズの後を急いで追うキュルケ。駄目よ、ルイズ!冷静にならなきゃ!そう彼女が叫ぼうとしたその時、玄関のドアが急に開き、ルイズは哀れドアに顔を打ちつけ、更に開ききったドアと玄関の壁の間に挟まれカエルが潰れたような声を出した。「あら、ごめんなさいルイズ」やってきたのは勿論彼女の母親であるカリーヌであった。カリーヌは泥まみれになった男性陣を見て着替えるように指示し、達也達の出迎えに行きたい奴は行けと言った。それを聞く限りではカリーヌは行かないといっているようなものだが何を言うか、彼女は行く気満々だった。カリーヌの側では鼻から血を流すルイズがゆらりと立ち上がっていた。既に日も沈みかけた頃にも拘らず、領民の大半が達也達を出迎えんと待ち構えた。カリーヌ達は万が一の為の警備も行う為に周囲に気を配っていた。だが危険な気配は何処にもない。今日は恐らく満天の星空が見える夜になるだろう。静かで優しい風が吹いている。心地よい風だ。だがルイズはこのまま達也やエレオノールが帰ってくれば暴風吹き荒れる事になるんだと勝手に考えていた。と、その時だった。辺りが一段と薄暗くなり、領民達がざわつき始めた。まさか魔物か何かかと思ったが空は平穏、何の気配もない。「一体何なの・・・?」ルイズは緊張感を持って辺りを見回した。その時ある一箇所だけに光が集中していた。そこには一人の女の子がいた。誰?と言いそうになったが、キュルケだけが冷や汗をかいていた。「あの子は・・・」『皆さん、今日はド・オルエニール劇団野外公演に来てくれてありがと~!私は司会進行及び楽曲提供の永遠の歌姫、初●ルンで~す!』「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」『今日は顔見せだけで短い時間だけどいつかは作られる劇場の成功を祈って今からちょっとした出し物をしたいと思います!演目は勿論ルンちゃんと監督の赤裸々なロリでアダルトなお歌を・・・』「待て永遠の馬鹿!」その時、ルイズたちはもう聞きなれた声が響く。舞台のように光がもう一方に集中した。そこにはやはりあの男がいた。「タ、タツヤ!?」ルイズがそう叫んだ瞬間、領民達は一斉に騒ぎ出した。「にーちゃん、おかえりー!」「若ー!お帰りなさいませー!」「若ー!馬鹿ー!」「オイ誰だ今馬鹿って言ったろ!?」『素晴らしい領民の人ですね、監督。私たちのことをバカップルとかもっと言っちゃってください!』「お前とバカップルになるようなエピソードはございません。そんな事実も御座いません」『それより何しにきたんですか?コレからお歌を歌おうとしたのに、デュエットでもしたいんですか?私としてはそのままドッキングも』「待て待て待て待て!!その先は言わせんぞ!」『ええ~!?』「えー?じゃない。見ろ、この場には年端も行かない子ども達もいる。あり難いことに俺たちを出迎えしに来た子どもに何を聴かせるんだよお前。そういうネタはこういう時間帯ではだめだ。深夜帯にしろ」『深夜帯ならいいんですか?』「断る」『ひ、酷い・・・謎の歌姫としてやって来たのに歌わせてすらもらえないなんて・・・!タツヤ君の鬼畜ー!幼女とスキャンダラスになって社会的に死ねばいいんダー!』そう言って自称歌姫はわざとらしく闇の中に消えていった。達也は何事もなかったように領民たちに挨拶した。「よい子達はドッキングの意味をマチルダお姉さんやらに聞いちゃ駄目だぞ~?話は変わるがド・オルエニール領民の皆さんから、たまにこのような陳情がくるようです。『娯楽施設を作る予定はないのか』と。施設については検討いたしますが、今はそれを踏まえてこのような形の演芸を考えています。短い時間ですがどうか楽しんでいって下さい。演芸者は皆さんもご存知な人ですよ。それでは始めましょう。『豪華な私の舞台』開幕です!」そう達也が言うと何処からともなく壮大な音楽が流れてきた。同時に達也の背後から何か崩れ落ちる音がした。先ほどの暗闇は何処へやら、眩しいほどの光の中に彼らは居た。貴族っぽいといえば聞こえはいいが何かド派手な羽根やらついてる衣装を身に纏い、ワルドとエレオノールが堂々と立っていた。彼らは歌う。迷える子羊たちに聞けと。見ろと。彼らは高らかに叫ぶ。コレが俺たちの、俺たちが望む豪華な舞台だと!その瞬間、光は広がり、ワルドたちの後ろで簡単な踊りを披露している真琴、エルザ、シエスタ、そして何故かさっきの立体映像の歌姫がいた。野に咲く薔薇は甘い香りで二人を包む音楽にも似ておりこれは甘い思い出になるだろうと彼らは歌う。夢の続きのような今夜の豪華な舞台を見ろ!のようなことを叫んで曲は壮大に豪華に終わり、舞台のセンターにいたハピネスが鳴くと同時に舞台は暗転した。領民達はなんだかよく分からんが盛大な拍手を送ってくれた。「ブラボー!!何か意味分からんがとにかくブラボー!!」「キャーエレオノールサマー」「キャーマコトチャーン」「オイ今の後ろにいた金髪幼女は誰だ!?」「ととさまかっこいいー!」「シエスタちゃん・・・立派だったよ・・・」「オイさっきの変な歌姫最後若に中指立ててたぞ」以上が一般の領民の皆さんの声でした。以下が一般じゃない方々の声になります。「一体ガリアに何しに行ってたんだいあの馬鹿。まあ楽しそうだからいいけど」この嫁、器がでかすぎる。「ジュリオ様、今のはなんですか?」「・・・領主の趣味だろ」うるさい、その通りだ。「アンコール!アンコール!というか幼女達をメインにしろよタツヤ!!」「オイ、マリコルヌ!恥を晒すな!?」「やれやれ・・・騒がしい帰還なことだ」鼻息荒いマリコルヌを止めるレイナールの横で笑うギーシュを見て俺はああ、帰ってきたと思った。「色々突っ込みたい所満載なわけなんだけど」キュルケは頭を押さえて言っている。「エレオノール・・・まさか演劇のスターになって殿方を誘惑する魂胆ですか・・・?それに何故ワルドがここに・・・?フ・・・フフ、成る程これは婿殿とゴンドランの策略ですか・・・!!」何で嬉しそうなんですか貴女。「アンコール!アンコール!マコトだけでいいからアンコール!オイコラタツヤ!マコトを出しなさいよ!!」「何か症状酷くなってないかお前。流石に引くわ」「病人扱いすんな!!」「ルイズお姉ちゃんただいまー!」瞬間、ルイズに電流が走った。嗚呼、あの無邪気で無垢で可愛らしい笑顔・・・。どれだけ私があの笑顔を見ていなかったか(※約6日程度です)!ルイズの頬を熱いものが流れていく。身体の芯がポカポカするような感覚を覚え、同時に幸福感が身体と心を包み込む感覚がする。はっきり言ってこいつは病気以外の何者でもない。気づいた時にはルイズは駆け出していた。そして彼女は最高の笑顔で叫んだ。「マコトォーーーーっ!!」だがマコトに抱きつかんと飛び掛った(!?)彼女に待っていたのは使い魔の手だった。「むぎゅ!?」俺の手に顔を突っ込ませたルイズはそのような間抜けな悲鳴をあげた。「困りますなァ、お客さん。舞台女優へのお触りはご遠慮願いたい」「お・・・おおお・・・おのれ・・・おのれぇ・・・おのれぇぇ!!タツヤァ!!貴方という男は真琴を独り占めするつもり!!?」「可愛い妹を暴徒の手から守るのは兄の勤めだろう」「暴徒ですって!?」「ルイズ、深呼吸して後ろを見てみろ」ルイズは言われたとおり深呼吸をして後ろを見た。そこにはドン引きしている領民の姿があった。更には暗闇の中猛禽類のような目を光らせるエレオノールと、能面のような表情になったカリーヌがゆらりと近づいていた。その瞬間ルイズの全身の血の気がさっと引き、ようやく彼女は冷静に戻ったようだった。「私は・・・何をやっていたのかしら?」精一杯冷静を装い彼女は気丈に、淑やかに俺に尋ねる。「ああ、とりあえずお前冷静になったようでよかったな。人間たるもの自分を見失わない事だ。諦めや混乱は折角の勝機を失うからな。まあ、お前の場合はその混乱によって自分がどうなっているかも分からないようだったが」俺は眉を顰めながらルイズに言う。真琴に会えて嬉しいお前の気持ちはいいのだが、いくらなんでもそこまで喜ばなくていいだろう。「私は・・・どうなって・・・?」「暗くてよかったな。近くで見らんと分からんぞ」俺が下を見ながら言うとルイズも一瞬何かを悟ったような顔になった。ここまで熱き思いを滾らせながらルイズはやって来た。だが、そのような状態の、鼻血を出しながら突っ込んでくるルイズを真琴に抱きつかせる訳には行かなかった。うん、まあ、それだけならいいんだよ。問題はルイズが冷静になって見たのがキレてる姉+母だったことなんだな。さぞ恐怖だったんだろう。いやそうに違いない。「~~~~~~!!!!」ルイズは自分の足元に広がる不自然な水溜りを見た。そして俺は何事かと水溜りの方を見ようとする真琴の目を塞いだ。「ふへ?なにするのおにいちゃーん?」「だーれだ」「おにいちゃんでしょ?いじわるー!」「タツヤ・・・」「何だルイズ」「これは汗よね」「だとすれば脱水症状ものだな。認めろルイズ。それはまさしくにょ・・・」「にょわああああああ!!!??言うなあああああああ!!!!」ド・オルエニールに公女の叫びが響く。現実を認められぬ少女に迫るは恐怖の現実。このあとルイズが更に悲鳴をあげた事は語るまでもない。そして忘れた頃にエレオノールの悲鳴もあがった事は言うまでもなく、深夜にはワルドの泣き叫ぶ声と巨大生物の悲鳴が夜空に響いたのも言うまでもない。そして翌日、カリーヌがゴンドランに近所迷惑だと珍しく怒られたのは特筆すべき事だった。え、俺?何で怒られなきゃならんのだ?(続く)