さて、吸血鬼の正体は把握した。後はどうやって退治するかである。最早エルザは此方をメイジとして認識している以上、ワルド、エレオノール、シエスタ、真琴の誰かを襲う可能性が高い。俺は唯一吸血鬼が襲う可能性が低い男である。吸血鬼はメイジ及び若い女の子の血が好物である。俺はメイジではないし女でもないので襲われる可能性は他の面々よりは少ないと考える。そもそも吸血鬼なんて圧倒的な存在が来ればワルドとか普通に気付くだろ。「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」ハピネスを抱いてトコトコと近づいてきたのは真琴である。何やら上機嫌の様子だが一体何がそんなに嬉しいのであろうか。「どうした?えらくご機嫌じゃないか」「あのね、あたしね、新しい魔法を覚えたの!」「・・・何ィ!?」いつの間にか愛する妹が魔法使いの階段を上っていたことに俺は複雑な気持ちであった。というか喋る杖はそこそこ本気で俺の妹を魔法を教えているようである。教えるは別に構わんがあまりやりすぎは感心しない。「御安心下さい兄様。今回真琴ちゃんが覚えたのも攻撃魔法ではありません」「失敗したら爆発とかしないよな?」「何を言っているんですか兄様。普通魔法失敗しても爆発なんてしませんよ?」・・・ルイズはやっぱり普通の女ではないのか。虚無の力を使いこなせるようになってもアイツは魔法の詠唱の時集中力が乱れた時未だに爆発しそうだからな・・・。聖女ルイズと民衆に呼ばれようが俺の中ではあやつは『テロのルイズ』のままなのだ。「兄様、では見てください」「お兄ちゃん、見ててね!」そげな愛らしゅう言われたら見らん訳にはいかんやろうもん。思わず九州弁になってしまうほどに俺は真琴の新しい魔法を見学する事になった。ゆっくりと深呼吸する真琴に対し、いつの間にか見学に来ていたシエスタとエレオノールとワルドと共に俺は内心応援をしていた。シエスタはともかくあんたら何しに来たんだ。「貴方が留守にしている間、マコトの相手をしていたのは私よ」「魔法少女の新魔法披露は純粋にときめきを覚えるだろう」ワルドの見学理由が成人男性としてどうかと思う。「それじゃあ行くよ!」空気が張り詰めていくような感覚がしている。真琴の表情も真剣そのもので、兄として凛々しい妹の姿をカメラに収めたい気分がいっぱいです。喋る杖を振り上げた真琴はその魔法の呪文を詠唱する。「テルミーテルミーテルテルミー!パメルクラルクラリロリポップン!」おいちょっと待て、カメラ止めろォーっ!?しかしカメラがそもそもあるわけでもなく明らかにどこかで聞いたことのある呪文を唱えた後、真琴は杖を俺のほうに向けた。その際にハートっぽい形の魔方陣が彼女の立つ場所に現れていた。「あんな形の魔方陣見たことないんだけど・・・」「いや、というか何あの呪文」「色々妹に言いたいことはあるでしょうが、可愛いは正義ということで気にしない方向でいてください」俺としても色々言いたいが俺の謎ルーンと同じくアレは気にしすぎたら負けの類のものだろう。違うのは真琴のアレは可愛くて俺のルーンはムカつくという事だ。・・・何か盛大な抗議が聞こえた気がするが幻聴だ。「受けとって!」杖の先端が光る。光は徐々に収束していきやがて手のひらサイズの球体となり真琴の前に浮かんでいた。「魔球『フレンドボール』!」そう言って真琴は光の球を杖で打った・・・っておい!こっちに来るぞ!?光の球はぐんぐんと俺の横にいたハピネスに向かって・・・ってちょっと待て!?攻撃魔法ではないのかこれ!?だが当のハピネスは怯えた素振りも見せず迫る光の球をその小さな翼で・・・「ぴゃっ!」などと鳴いて払い除けた。・・・あれ?光の球はそのまま地面に落ちて消えてしまった。・・・で、何だったのこれ?「ほにゃ?失敗したのかなせんせー?」「いいえ真琴ちゃん。魔法自体は成功ですから落ち込まないで」・・・なんだかよくわからんがアレで成功らしいです。ああ、アレだな?いつでも何処でもノック練習が出来る野球少年大喜びの魔法なのか!そんなもん何処で役に立つんだボケぇ!?他の見学者も全員苦笑いを浮かべてしまってるじゃねえか!?「・・・ま、まあ、次の魔法に期待ということで・・・」見ろ!エレオノールさんも気を遣ってしまってるじゃねえか!?ワルドは・・・っておい!笑うな!人の妹を笑うな!?いやしかし真琴の扱う魔法はハルケギニアの一般的な魔法とは趣が違うというのがわかったな。この辺は流石は俺の妹と言わざるを得ないが頭も痛くなるのも事実である。父さん、母さん、瑞希。真琴が色物になりそうです・・・。あ、俺ですか?とっくに色物です。変な亡霊に取り憑かれています。お払いがしたいです。深夜―――。真琴達女性達は既に眠りについていた。いつ何処で吸血鬼や屍人鬼の襲撃が起こるかわからない為、ワルドと達也は寝ずの番をしていた。一人で番をしていたら襲われてあっさりやられるかもしれない。二人ならもう一人が対応できるだろうと考えてこうなった。まあ・・・向こうが吸血鬼&屍人鬼なんてタッグマッチ挑んできたら不味いんですけどね。「・・・こうして俺たちは貴族でーすとか言って回って、吸血鬼が来なかったら帰ってもいいのかな」「・・・さあな。吸血鬼は狡猾だ。帰る前日辺りに襲い掛かってくるやもしれんぞ?」「人間と吸血鬼、狩って狩られての歴史は今も続くか・・・人間の知識が上がるたびに吸血鬼も成長するってか?」「そう言われている。奴らは魔物の中では我々に近しく異なる存在だからな。我々が進化を辿れば近い奴らも進化する。そして血を吸う。そのような歴史が今まで何千年と続いている。一説にはエルフと人間の確執より長い因縁だとの説もあるぐらいだ」それは暗に人間と吸血鬼は決して相容れぬ関係と言っている様なものだった。ゲームとかでよくある人間と吸血鬼の触れ合いはこハルケギニアでは考えられぬ事なのかもしれない。「吸血鬼に情をかけてはやられるのはこっちだということを人間は理解している。だが相手の外見は此方と変わらん。だから恐ろしく今までそれが原因で数々の村や町が自滅、壊滅に追いやられた」ワルドは夜食のスープを飲み、溜息をつく。彼だって吸血鬼を相手取るのは初めてなのだ。達也は皿の中で揺れるスープを見ながら言った。「吸血鬼はズルイ奴ならさ・・・今の俺たちのこの怯えにもつけ込んでくると思う。いつ来るかわからないこの緊張感・・・何処にいるのかわからないという恐怖感・・・それで俺たちの精神を削って磨り減らして・・・その様子を嘲笑いながら襲うんだ。いや、襲うんじゃない。食事だなこの場合」「・・・食事か・・・そうだな。吸血鬼にとって我々は食料でしかない。ただその食し方が我々にとって恐怖の象徴なだけか・・・」「だけどさ・・・」達也が何かを言いかけたその時だった。玄関からコンコンというノック音が聞こえた。顔を見合わせる達也とワルド。こんな深夜に来客?馬鹿を言え吸血鬼が出るかもしれないというのにわざわざ外出する奴がいるか。「俺が開ける」ワルドがそう言って玄関の扉を注意深く開こうとドアノブに手をかけたその瞬間だった。突然何者かの腕が扉を突き破りワルドの首を鷲掴みにしてそのまま引き寄せた。当然扉は破壊され、ワルドは外にドアごと出ることになった。「な、何だよ!?」狼狽する達也の目の前には倒れ伏すワルド、壊れた扉、そして血の気がないような様子の男がいた。男はガリアの軍人が着ているような格好をしていた。「ぐ・・・気をつけろ・・・!!出たぞ屍人鬼だ!」ヨロヨロと立ち上がるワルドが達也に注意を促す。それを受けて達也は剣を構えて対峙した。だが、屍人鬼は人外ともいえる速さで達也に近づき、彼の顔目掛け拳を振るった。達也は剣でそれを防いだが、その衝撃で腕が痺れてしまった。屍人鬼はもう一方の手で達也を貫かんとするが、その前に横殴りに吹っ飛ばされた。ワルドが『エア・ハンマー』の詠唱を完成させていたのだ。だが、どう考えても直撃なはずなのに平然と立ち上がる屍人鬼。「冗談のような耐久力だな・・・」ワルドは自嘲気味に笑ってすぐさま次の行動に移った。「打撃が駄目ならば斬撃はいかがかな!」「喰らえっ!!」ワルドの風の刃と達也の剣での攻撃が屍人鬼に襲い掛かる。しかしその身を切り刻まれながらも屍人鬼は達也の剣を片手で掴んだ。そしてそのまま投げ飛ばされたが、ワルドのレビテーションによってダメージを受ける事はなかった。「ワルド、根気よくやったら斬れるかもよ?」「気の遠くなるようなアドバイス感謝するよ畜生!」屍人鬼が疾走し、先に魔法を使うワルドを標的にして殴りかかる。それをワルドは巧みな杖さばきで捌いていくのだが、徐々に押し込まれていく。「この・・・化け物が!!」ワルドは屍人鬼の腹部に蹴りを入れる。くの字に折れる屍人鬼だったが、吹き飛びどころか仰け反りもせず、そのままワルドの足を両手で取って地面に叩きつけた。「が・・・!!?」「はぁぁぁぁぁぁあ!!!!」その隙を狙い、達也が屍人鬼の首を狙って突きを行なうが屍人鬼は空いているほうの手で達也の剣を払い落とし、ワルドの足を離した手で達也の腹部を貫いた。「が・・・ギャ・・・あああああああああ!!!!」達也の苦悶の悲鳴が響く。屍人鬼がそのまま手を抜き取ると達也は力なく倒れた。しかし、まだ生きている。確かに生きている。剣の下に行こうと必死に動こうとしている。屍人鬼はそれを眺めながら足を振り上げた。踏み潰すつもりなのだ。「スクウェアメイジに何時までも背中を見せるな」その声と同時に屍人鬼はワルドの近距離からの風の大槌にその身体を打ちつけられた。常人がこれを受ければ骨がバラバラになる事は確実ではあるが、何せ相手は常人ではない。立ち上がった屍人鬼は腕や足がありえない角度に曲がって更に首とか完全に180度曲がっていた。しかしその化け物は鈍い音を響かせながらそれらを無理やりもとに戻していた。そして悠然とワルドたちのもとに近づいてくる。「く・・・!!」ワルドは即座に風の魔法で足止めを試みようとするが屍人鬼はそれをものともせず近づき、ワルドの腹部に拳を叩き込んだ。そして更に彼の顔を鷲掴みにして地面に叩きつけた。「――――!!」屍人鬼は驚異的な力でワルドと達也の首を掴み持ち上げた。その無機質で濁りきった瞳が双月と二人を映す。ワルドも達也も気を失った様子だが、時折苦しそうに呻いていた。「あーあ。すごい強いって聞いたからどれ程のものかと思えば詰まらないわ・・・フフフ」その時、深夜の時間には場違いな程の無邪気な声がした。「せめてこのコぐらいは倒せるかなと思ったけど・・・所詮こんなものね」月に照らされて現れたのは冷たい笑みを浮かべた少女、エルザであった。「これなら残りの面々も楽に吸えそうね。ふふ、おにいちゃんって嘘つきね。この人全然弱いじゃない」エルザは達也に近づき嘲るように言った。本来はこの二人が屍人鬼を倒している隙に家の中の女性陣を襲い、その後二人の血も頂こうと思っていたのだが思った以上にこの二人があっさり負けたため余計な手間が省けた。この程度が護衛なら内部の者の血を吸うのは楽だろう。「みんなの血を吸った後、一番最後にお兄ちゃんの血をゆっくりじっくり吸ってあげる・・・。パンのお礼よ・・・なんてね」エルザの口からは白く光る牙が二本覘いている。吸血鬼である証拠である。「その後は私の身体を焼いちゃったおねえちゃんに・・・ウフフ」あくまで無邪気に、されど壊れた笑みを浮かべるエルザはまずワルドの血を吸おうと彼の首筋に向けて口を開く。そして吸血鬼の少女の牙はゆっくりとワルドの首筋に喰い込んで・・・・・・・「弱い・・・か。同感だよ全く」瞬間、エルザはワルドごと大きな槌で殴られたように吹っ飛んだ。エルザは屍人鬼に受け止められたが、ワルドは全身を強く打ちぐったりとしていた。「・・・誰!?」「誰とは心外だな」ドミニクの家の破壊された玄関から姿を現したのは、黒衣とマントに身を包み悪魔のような陰惨な笑みを浮かべるワルドであった。「奴の話を聞いたときには半信半疑であったが・・・これで納得したぞ。随分と人の心に付入り易い姿だな、化け物め」「・・・よく出来た影じゃない。危うく血を吸うところだったわ」「吸血鬼に誉められるとは思わなかったが・・・全然嬉しくはないな」屍人鬼はワルドに向かい殴りかかった。だがワルドは笑みを浮かべたままそれを次々とかわしていく。ワルドはその間に詠唱を完成させ、屍人鬼の顔面に掌を押し当てる。「操り人形のままでさぞ無念であろう?残せし家族に顔向けできんだろう?」ワルドは悲哀に満ちた表情を一変させ、口元を醜く歪めつつ言った。「だから顔向けできんようにしてやる」その瞬間、ワルドの手と屍人鬼の顔との間から弾けるような爆発がおきた。屍人鬼の顔面はその衝撃で抉られたようになり顔の原型を留めない状態になった。赤く染まった顔面の中所々見える白いものは歯であろうか?「中々の頑丈さではないか」「貴方・・・その手・・・!?」「義手だよ。生身の手では今の魔法は危険だからな」先程の爆発で幾つかの指を形成していた部品が破壊された義手を弄びながらワルドは言った。「だけど顔を破壊した所でそのコはまだ動けるわよ?」「ますます化け物じみているな。実に虫唾が走る」「私も笑いながら顔面を破壊する貴方を見て鳥肌が立ちそうよ。今度は楽しませてくれるのかしら?」「どうかな。吸血鬼よ、俺はお前に尋ねたい。お前は何故人間の生き血を啜る?」「決まっているわ・・・貴方たちが鳥を殺し、植物を採って食べるのと同じ・・・生きる為よ」「その為にお前は次々と人間を殺していっている訳だな」「貴方達も殺生の上に生きているじゃない?でも殺すだなんて言わないで。私の中には私が血を吸った人間の血が生きている・・・。貴方も私に血を吸われれば、私の中で生き続ける事ができるのよ・・・。それはとても素敵な事なのにみんな納得してくれないわ。どうしてかしらね?」ワルドは肩を一瞬竦める。その顔からは表情が消えていた。エルザはそれをみてにっこりと笑う。同時に顔が破壊された屍人鬼がワルドに襲い掛かる。ワルドは屍人鬼の攻撃をかわし、駆け出す。「逃がさない♪」エルザはそう言って呪文を唱える。彼女が唱えるはエルフなどと同じく先住の魔法である。村に無数にある木々の枝が伸び、ワルドに襲い掛かる。だがワルドも素早く詠唱し襲い掛かる枝を切り刻んでいく。「へえ・・・屍人鬼の相手をしながら木の枝に対処するなんて中々すごいのね」「触手っぽいのには慣れている」ワルドは帽子を直しながら屍人鬼を蹴り飛ばし、即座に風の槌で吹き飛ばした。ますます屍人鬼の顔面は削り取られていき、どろりとした返り血がワルドの服に付着する。拭き落とす間もなく木の枝は襲いかかる。「ちっ!」ワルドは地面を転がって木の枝の攻撃を回避する。「取ったわよ、おじちゃん」エルザが勝利を取ったように手をかざすと無数の木の枝が方向転換してワルドに向かってくる。だがその木々の攻撃は突如ワルドを護るように現れた土壁によって防がれた。「え・・・?」「・・・何をしているのよワルド」女性の声である。ドミニクの家の玄関には呆れた表情のエレオノールが杖を持って立っていた。彼女のすぐ後ろには真琴が彼女の身体の影から顔を覗かせていた。エルザはこの三人はそういえば親子だったなと思い出していた。実際は血の繋がりもないし義理の親子でもない。ワルドはちゃんと嫁さんいます。「実に面目ありませんな」「へえ・・・起きていたのね」「玄関を破壊したのが仇ね。普通起きるわよ?」「あのコ・・・お兄ちゃんとお話してた・・・?」「マコト・・・私から離れたら駄目よ?」「う、うん」これでこの二人は親子でもなんでもないとか言われてもエルザは納得しないだろう。「子どもを守りながら私とヤルつもりなの?おばちゃん?」エレオノールはこめかみに青筋を立てながらもエルザに言った。「吸血鬼相手にそこまで図には乗っていないわ」「吸血鬼。お前は言ったな。生きる為に人間の血を吸うと」ワルドは立ち上がり、同じく立ち上がろうとする屍人鬼を見ながら言った。「それがどうかした?」「ああ、お前には知ってもらいたくてな。世の中には見た目は美味そうでも実際は――」蝙蝠の飛ぶ姿が夜空に見える。遠い昔、吸血鬼は蝙蝠が化けていたという話もあった。エルザはふと蝙蝠が飛ぶ先を視線で追った。「ぴゅいーーーっ!」蝙蝠とは違う泣き声が夜空に響く。そして月夜の下、此処より月に近い家の屋根の上に貴族のマントをたなびかせ、その男は立っていた。「毒がある食べ物はこの世に沢山あるんだぜ、エルザ」「・・・!!」先程屍人鬼に腹を貫かれた筈の男がそこにいた。エルザは一瞬目を見開いたがすぐに冷たい笑みを戻した。「おにいちゃんもどうやらそのおじさんのような魔法をつかうようね?メイジじゃないって言ったのに嘘つき」「分身できるのがメイジだけと思うなよ!」「本体の俺!来い!」「え?」いつの間にか腹に穴の開いたままの達也が、屋根にいる達也の真下にいた。・・・え?あの分身魔力の残骸とか全然感じないんだけど?エルザが混乱していたら、屋根の上から達也が飛び降りた。真下の達也は大きく手を広げるが・・・本物の達也は彼の本当に真上、つまり頭の上に落ちた。「胸部に飛び込めよギャああああああああああ!???」腹を貫かれた時とは別次元の悲鳴が夜空に木霊した。立ち込める砂煙の中、達也が立ち上がる。「いてて・・・やっぱり無駄に格好つけないで一階から来ればよかった・・・」俺は地面に倒れ伏す分身を見た。そこには腹に穴を開けたうえに首があらぬ方向を向いている自分の姿が・・・。視界的に真琴に見えないのが不幸中の幸いであるが。「お前ら!よくも俺の大切な分身をこんな目に!許さん!」「とどめを刺した張本人が何を言ってるんだ!?」俺の足元で分身が消えていく。そんな恨めしそうな目で見ないでくれる?分身が消えた後、俺は辺りを見回した。っておい!?何か顔が自主規制な何かがこっち来てる!?「それが屍人鬼だ!頭はないがな!」ワルドがだから一応気をつけろと叫ぶ。一応ってお前ふざけんな!?どうすりゃ良いんだ!?屍人鬼のパワーをわかり易く言えば脳のリミッターを解除した状態らしい。つまり殴られただけですごいダメージを受けるって事だ。普通は剣の攻撃なんてよほどの使い手じゃない限り無謀なのだ。どうしよう・・・俺の剣術って達人レベルとかじゃないし・・・居合は生物は斬れないし・・・。・・・ん?生物?待てよ?屍人鬼って・・・一応死んだ人を吸血鬼が操ったものだよな・・・?既に死んだ個体を生物というのか?どうなんだろうか?もしかして屍人鬼は魔法媒体とかの類じゃないのか?俺は向かってくる屍人鬼を見た。その肌は驚きの白さである。・・・けして生きてはいない。そう思えた。殺人にはならんが死体損壊かもな。まあ、正当防衛だ!俺は向かってくる大男に向かい、刀を抜いた。そして俺は刀を振り抜き、そのまま鞘に納めた。そう、振りぬくことが出来たのだ。闇夜に浮かぶ双月の下、人々に恐れられる吸血鬼の忠実なる僕の屍人鬼は顔面を失っても尚戦った。だが流石に上半身と下半身を離されては戦えなかった。それでも主の命により身体は蠢く。主の命令を守る為にのたうつ死者の成れの果ては――「気が重くなるわね」エレオノールの土を油に変える『錬金』の魔法と、「・・・・・・」ワルドの発火の呪文によって灰燼と化すのだった。「・・・っておい!ワルド!俺との位置関係計算しろよ!?あちちち!?」「というか離れとけよ!?」ついでに俺のマントも灰になってしまった。どうしよう?(続く)