一度は愛想をつかせて家出同然に出て行ったのはいいのだがやはり父が心配である。何だかんだいって母亡き後の自分を見守っていたのはジョゼフである。そう簡単に見捨てられなどはいない。最近愛人やらエルフやらとの交流が盛んだがあの男の本質は孤独である。母の遺言がなければ彼女は父をこのまま見捨てるように育っていたのだろう。だが、現ガリア王女イザベラはこのまま父親が完全な暗黒面に堕ちる事を良しとしなかったのである。こんな身分なのだ、自分だって恨まれるような事はしてきた自覚はあった。しかしそれを気にしているようではガリアの王族などやっていられないのだ。『甘さを美徳と考える者もいるだろうが、この環境、その甘さにつけ込む輩もいるのでな』父、ジョゼフが母が死んだ直後に自分に向けた言葉である。何と言う非道な父親だと思っていたが、その時の父は何か小さく見えた記憶がある。弟のような庇護された幸せを得る事もなかった彼を認め案じていた自分の母。母の死にはいくつか不審な点があった。しばらく後で知ったのだが、母の死にはシャルル派が関与していたのだ。イザベラはその時、大いに憎んだ。敬愛する母が見るからに幸せそうな家族を支援する輩の手によって命を落としたのだ。イザベラがタバサに対して無茶な任務を課すのもそういう背景があっての事だった。むしろ命を奪わないのが不思議でならないとジョゼフは言っていた。イザベラはタバサの実力を渋々ながら認めていた。認めているから好きと言うわけではなく、イザベラはタバサが嫌いだった。確かに実力はみとめよう。だがその為に人形のように感情を排したあの女が嫌いだった。悲劇の少女気取りであろうか?お前はまだ母親が生きているだろう。お前は王族の娘だろう。こうなるかもしれないという事は覚悟していなかったのか?その人形同然の彼女にも友人が出来たと聞いている。自分がアルビオンに行っている間にあの人形のような女は父の指示で本国に戻されたらしいが、その友人達が彼女を救い出したらしい。結構な事だ。お前の何処が不幸だクソが、とイザベラは吐き出したい気分だった。「如何なされました殿下?眉間がすごい事になられていますが?」「少し嫌な事を思い出していただけです。それよりあのフリゲート艦には侵入できそうですか?」「無論です・・・と言いたいところですが・・・」イザベラを護衛する巨漢の男、ジャックは自分の後ろにいる青年を見た。青年は不服そうに口を尖らせる。「なんだよ兄さん」「いや、お前は無鉄砲な所があるからな・・・それだけが心配でならんのだ」「ドゥドゥー兄さんのせいで今まで簡単な任務も決死のサバイバルとなった事もありますものね」「そんな事はもう忘れたね」「忘れるな阿呆」イザベラを護衛するは彼女の預かりである北花壇騎士でも潜入工作を得意(と言っている)とする通称『元素の兄弟』のジャックとドゥドゥーとジャネットの三人だった。この三人を護衛としてイザベラは父のいるフリゲート艦へ急行していたのだが、どうも人選を間違えたのかもしれない。ジャックはともかくドゥドゥーとジャネットが喧しいのだ。しかしながらこの三人はこの場にいない彼らの『兄』を含めて結構な戦果をあげているのも事実だった。・・・ジャックの気苦労が耐えない気がした。「どうやらあの艦に配備されているガーゴイル達は我々も敵と認識しそうです。殿下の御身を考えれば無理に突入するのは危険かと」「いや、兄さん。俺がガーゴイルを蹴散らせばいいじゃないかよ」「お前が突出した分殿下が危険に晒されるぞ?」「あのガーゴイルはどうやら優秀な再生能力を持っているようですわ。兄さんが例え蹴散らした所で再生して囲まれてサヨウナラですわね」「酷い!そんなに俺が信用できないのか!」「コメントは控えさせていただきますわ」「いっそはっきり言えよ!?」「何とか突破口を見つけたいものなのだが・・・ん?」ジャックの視界には、黒い天馬がコソコソとフリゲート艦に単身近づくのが見えた。何故か艦に近づいているのに何もその天馬に近寄る気配がない。自分も視界に入らなければ気付かなかっただろう。イザベラも気付いたようで顔を青くさせていた。「あの天馬に乗った者はロマリアの騎士の格好をしていました・・・まさか暗殺者!?」「その可能性はありますね。如何なさいます?」「決まっています。あの天馬を艦に近づけるわけにはいきません」「承知いたしました。行くぞお前たち」「腕が鳴るな、やっとこさ戦闘だ!」「先走らないでよね兄さん」ジャックたちはイザベラを守りながら黒い天馬のもとに急行した。だが、彼らが接触しようとしているのはロマリアの暗殺者などではなかった。クックックック・・・ハルケレンジャー及びナルシスト仮面With愉快な仲間たちは囮。ガーゴイルたちの攻撃が皆に集中している間に俺は手薄そうな所からフリゲート艦に忍び込み人質を救出するのだ。えーと、一挙に二人を救出したら手間がかかるから、飛べないアニエスさんから助けよう。姫さんは飛べるだろう、魔法使えるし。ガリア王?こんな状況で彼のお命ちょうだいとかそこまでの欲は出さない。心底ムカつく輩であるが、人質の命が最優先なのよ。大方戦争を止めようとしてガリア王に直訴したのだろうが失敗して人質になったってところか。人質奪還とか警察でもない俺がよくやるよ・・・。「ん・・・?どうしたテンマちゃん」突然耳をピクピク動かして、ある方向を向いた愛天馬に俺は彼女が見るほうへと視線を向けた。・・・何かこっちに来てるんですが。飛竜ですね、あれは。「そこの黒天馬!動くな!」男の声が聞こえる。古今東西『動くな』と言われたら動くのが世の常だが、此処は止まってみた。「って、本当に止まったーー!!?」「しまった!追う事前提に動いてたから通り過ぎてしまう!」「何をやっているのよ貴方達はーー!!」俺の目の前を通り過ぎていく飛竜と悲しく響く悲鳴。馬鹿ではなかろうか。「全く、兄さん達ったら、仕方がないわね」いきなり背後から少女の声がした。振り向くと、そこには血が通っていないかのような白い肌に鋭い翠眼が光る少女が俺の後ろに座っていた。少女は杖を此方に向けようと動いた。その瞬間弾かれるように俺は喋る刀を引き抜いた。「んなっ!?」少女は驚いているようだが、俺も内心心臓はバクバクである。落ち着け因幡達也。別人だ。あの人がこの世界にいるわけねえだろうよ。顔立ちが似ているだけだ。目の色も髪の色も服のセンスもまるっきり違う。姫様と杏里の方がよっぽどそっくりだろう。何を迷う必要がある!少女が持っていた杖は真っ二つに折れて空へと放り出された。「あー!私の杖がー!!」叫ぶ少女に俺が次にしてあげる事はただ一つ。自らの上着を貸してやることだった。空に少女の叫びが響く。「ジャネット!!どうした!ジャネット!!」通り過ぎていった飛竜が近づいてくる。ううーむ、これは不味い事になった。上半身下着姿の後ろには俺が来ていた上着を着て身体を押さえているジャネットとか呼ばれた少女。どう見ても事後です本当に有難う御座いました。と、誤解されそうな勢いである。「貴様ァァァァァ!!ジャネットに何をしやがった!!」若い男の怒声が響く。うーむ、何と言おうか。下手に刺激すれば命が危ないがこうも状況証拠が揃っていると最早俺の命は風前の灯である。仕方がない、正直に言おう。「この女がいきなり襲ってきたから返り討ちにしました」「き、貴様・・・!!妹を痴女扱いの上陵辱したと言うのか!貴様、それでも人間か!!」「何かえらく十八禁的思考をしているようだが、どちらかと言えば血生臭いほうだぞ?」「キ、キ、ききききき、貴様ああああああああああ!!血生臭いだとおおおお!!?妹の純潔を奪ったんだな貴様あああああああ!!!」最早止まらぬ俺と同じ年齢ぐらいの青年が吼える。彼の前にいるゴツイ男は呆れながらも鋭い視線を向けている。もう一人いるようだがよく見えない。「安心しろ、妹さんの身体は傷一つ付いていないから」「傷は付けていないが唾はつけたと言いたいんだろう貴様!!」「うまいこと言ったつもりかてめえ!?」「一つ問おう」ゴツイ男が俺に射抜くような視線を向けて問いかけてきた。「貴様はその艦に何用があって近づいていた」別に隠す事であろうか。そもそも今回の戦争はトリステインにはあまり関係ない。「助けなきゃいけない人がいてな」「何・・・?」「この艦の中にその人がいるから、俺は助けに来たんだ」孤立するフリゲート艦に近づく目的が『救出』のためとのたまう目の前の男をジャックは計りかねていた。あの艦にはジョゼフ王とシェフィールド辺りしか人間はいなかったはずなのだが・・・?そのどちらかをこの男は助けようと言うのか?あの人を寄せ付けない感じのする二人を?「助けにきただか知らないが、妹を傷物にしたお前を俺は許せないんだ!」「勝手に傷物認定するなよ。妹さんが可哀想だろう」「おのれ腐れ坊主め・・・!!」「勘違いしないでくれよ。俺はロマリアの者じゃない。この服は借りた」あっさり言うところからするとこの男は嘘はついていないのだろう。服を借りたという事はロマリアにいる間諜か何かだろうか。成る程、そう考えればロマリアに怪しまれずにこの戦争の中動ける。見たことのない顔だがきっとこの男はガリアの者だろう。そのジャックの考えは全く持って外れており、彼はガリアでもロマリアの者でもない。しかも服は本当に借りているから始末におえない。ガリア内に自分の知らない者がいても不思議ではない。第一エルフと同盟していたことさえ最近知ったことなのだ。自分達の与り知らぬ所で兵士が一人増えようが彼らには既に慣れていた事象であった。彼らはこのフリゲート艦にトリステインの王女がいることなど夢にも思っていなかった。イザベラも国が雇った傭兵か何かと認識していた。そのため彼女は立ち上がり、目の前の男に向かって言った。「貴方の腕を見込んで頼みたい事があるが、よろしいか?」威厳を込めてイザベラは言う。ジャネットを一蹴するその実力を見込んだのだ。勘違いもはなはだしいが、イザベラたちはそれが真実と思い込んでいた。目の前の男からは敵意が全く感じられない。あの人形のように感情を消しているわけでもない。ドゥドゥーの気迫に冷や汗をたらすその男の姿は何とも頼りなさげだが・・・。「助けに来た」というその男の顔は何とも頼れそうな感じだったのだ。「俺に出来る事ならな」目の前の男は確かにそう言った。イザベラはその返事に満足そうに頷いた。ガリアはロマリアの思い通りにさせない。幸運なのか不運なのかは知らないが、イザベラが得たカードはそのロマリアが手を焼く存在だった。フッフッフッフ・・・。何か知らんが正直に状況を説明すれば相手はキチンと分かってくれると言うのは本当だな。正直一人で侵入するのは不安だったんだ。何か強そうな奴らだから、俺の身の安全もある程度保障されたというもの。後はフリゲート艦にいる二人を奪還して帰るだけだ。「名は何と言う?」「タツヤと呼んでくれ。実の名は長いからな」「そうか。俺はジャックだ。こっちの怒っている奴が弟のドゥドゥーで、お前の後ろで縮こまっているのが妹のジャネットだ」「服代はあとで出します・・・」「いいさ、我が妹にもいい薬になっただろう。戦場を遊び場気分でいるからな、弟達は。それで此方が我らが祖国王女の、イザベラ殿下だ。実物を見るのは初めてか?」「・・・初めてですね」ガリア王に娘いたんだな。額は広いが美人さんである。しかし見るからにドSの相である。系統としてはエレオノールのような臭いがする。しかし先程のフリゲート艦へ侵入するのに俺の力を貸して欲しいと頼んだ時の物腰からするにちゃんと王族として育てられているという事は分かった。「屈辱ですわ屈辱ですわ屈辱ですわ屈辱ですわ」「ジャネット、だから気をつけるようにと兄さんから言われたろう。全くなまじ自分の力を過信するからそうなるんだ」俺たちがこのような余裕ブチかましていられるのは、ひとえに俺に刻まれた刻印の力『忍び足』の力によるものだ。魔法媒体であるガーゴイル達は俺たちの気配に全く気付く様子もなく、ハルケレンジャー達の方向ばっかりに行っている。とはいえ万が一の事もあるので俺たちはコソコソしているのだ。俺から父親の目的を聞いたイザベラは顔を手で覆っていた。「まさか陛下がこの地を地獄とするのが目的とはな・・・」「王様は自分を討てば世界は救われるとか言ってたけど・・・」「当たり前だ!そう言うわけにはいかないだろうよ!陛下が討たれれば殿下は父を失い、ガリアはロマリアに飲み込まれるじゃないか!」ドゥドゥーが感情的に言う。だからと言って火石を投下すればやばい事は皆分かっている。ガリアという国を強くした実績を持つ王の乱心ともいえる行動にジャック達は混乱している。俺としてもジョゼフには散々迷惑を被っていたので彼の命など如何でもよかったのだが・・・。「父上・・・これ以上地獄を背負い込まないで・・・!」そう言って嘆く娘の姿を見たら、そうは言ってられないな。「しっかりしろ王女さん。貴女が王の娘なら、娘の貴女にしか出来ない事もあるだろう」「その通りです殿下。嘆くのは後でも出来ます。今は前を向き貴女の出来ることを考えましょう。我々も騎士としてお助け致します」「なーに!危険があったら俺が助けますよ殿下!」「殿下。給金は三割り増しで結構ですわ。あと服代」「皆・・・分かりました。私はガリアの王女。ならば王女としてやるべきことを果たしましょう。他国に作られた次期女王等にはできない事を」顔をあげたイザベラの目元には涙の跡がある。しかしその目は光が宿り、しっかりと俺たちを見据えていた。ガリア王女イザベラ、彼女は信頼する部下達の前でようやく女王の資質を見せた。・・・・・・・ん?何か可笑しくないか?一方、こちらは達也が帰るべき世界である。因幡家の玄関口にある呼び鈴前にはランドセルを背負った少年が立っていた。「まったくよー・・・いつになったらかえって来るんだよー」少年は因幡家の呼び鈴を鳴らした。すぐに応対として因幡家の大黒柱の一博の声が聞こえた。『はい』「すみませーん、真琴ちゃんにプリントだって先生が」『ぬっ!?また来たな小僧!何度も言うように真琴はやれんとぐはァ!?』インターホンの向こうから鈍い音とカエルが潰れるような声が聞こえたあと、女性の声が聞こえる。真琴の母親である。『あらあら、桂一郎君、いつもごめんなさいね?』「い、いえ・・・慣れましたから・・・それに家も隣だし・・・」因幡家の右隣の家が三国家ならば、左隣の家に住む少年、村田桂一郎は小学二年生。因幡真琴とはそれこそ生まれた時からの知り合い、幼馴染であった。ドイツのクォーターである為、少々日本人離れした顔立ちの彼は四人兄弟の末っ子である。とはいえ自分は兄や姉とは歳が離れている。兄は今年十八歳で、姉は双子で今年十九である。兄とはよく遊んでいるのだが、姉二人は自分が生まれるとすぐに遠くの全寮制の女子校に送還されたのであまり会わない。むしろ今もあまり会わない。兄曰く帰ってきても面倒なだけらしいが。「真琴ちゃんはまだ帰らないんですか」『ええ・・・心配かけてごめんね・・・』「いえ・・・じゃ、プリントは郵便受けにいれときますね」『お願いね』プリントを郵便受けに背伸びして入れた桂一郎は家に戻ろうとした。そこに並んで帰ってきている自分の兄と、杏里がいた。「あら、桂一郎君、こんにちは」「こんにちは」「おう、弟よ。偉大な兄を出迎えとは殊勝な心がけだな」「兄ちゃん、何も成してないのに偉大もクソもないだろ」「何を言うか!俺の川柳が昨日新聞に掲載されただろうが!ふははは!これで俺様の名も全国区じゃないか!」「表彰も何もないただの風刺川柳だけどね。字余りだし」三国杏里は桂一郎にとって憧れのお姉さんである。美人で優しいのだ。幼い桂一郎が彼女に憧れるのも無理はないのだが・・・。彼女の隣で大笑いしているのは兄である村田恭平だ。文学と二次元少女を愛する兄が、一応幼馴染とはいえ杏里と並んでいるのは違和感がある。本来その間にもう一人いなければいけないのだが・・・。その彼も今は行方不明なのだ。彼が行方知れずになった頃、杏里は憔悴しきっていたのだが、最近はこうして明るい姿を取り戻した。兄は『吹っ切れたのか?』と聞いたらしいが、杏里は『そんなわけないでしょ』と返したという。女は分からんと兄は笑っていたことが記憶に新しい。「そういえば杏里よォ」この兄はその彼がどう思おうが構わず、杏里を下の名で呼ぶ。『彼』は何故か『三国』と呼んでいたのに。「明日は十回忌だな」「・・・そうね」桂一郎が生まれる少し前、杏里は一人っ子になってしまった。十年前、杏里の双子の姉は交通事故で亡くなっている。杏里の両親が家にあまり帰らないのは彼女の遺影を見たくないからだと兄は言っていた。「全く・・・九回忌の時もいなかったし、達也の野郎は何処に行ってんだ?」「帰ってくるよ・・・アイツは」確信めいた言い方で杏里は笑っている。因幡家長男・因幡達也。桂一郎からすれば兄の幼馴染であり、杏里の恋人疑惑もある彼の所在も気になる所であった。「そうかい。お前がそう言うならいいけどよォ・・・ん?」不意に、恭平が何かに気付き前方を見ていた。桂一郎もそれに倣って見ると誰かがこちらに向かって猛ダッシュしてきていた。長い茶髪に白い肌、鋭い蒼い目をしたその方は、村田家の次女であった。いや、アンタ寮生活じゃなかった?「恭平!!どういうことか説明しろコラああああああ!!!!」そう言いながら飛び膝蹴りを恭平にぶちかます十九歳女子。その後ろから黒髪のショートヘアの女性が現れ、その蒼い瞳で恭平を冷たく見下ろして言った。彼女も一応十九歳女子であり、桂一郎の姉で村田家長女である。「事と次第によってはお前の命は永劫ないものと思いなさい」「久々に再会した弟に浴びせかける言葉かよ!?」「どういう事だよ!?たっちゃんが行方不明とか!前に帰ったとき姿見ないなと思えば!!」「全く・・・お父さんが口を滑らせて良かったわ・・・全くふざけた事も起こったみたいだしねぇ・・・?」村田家長女、村田湊(みなと)は杏里を睨みつける。杏里は涼しい表情である。「そうだ!いつの間にこの腹黒暴力女とたっちゃんが恋人同士になってんの!」村田家次女、村田棗(なつめ)はあまりにも酷い言い方で杏里を指差して言う。そして恭平の胸倉を掴んで揺さぶった。「お前らグルか!?」「い、いやさ。これは親父の考えでな?姉ちゃん達はキープとかそんなケチな事を言わず、素敵な男子と恋に落ちればという計画で」「人を山奥の全寮制の女子校に押し込めて素敵な男性もクソもあるか!?学校の教師も男性はジジイばっかりじゃん!!」「湊さん、棗さん。達也は私を選んでくれました。この三国杏里、彼の『恋人』そして将来の『妻』として『夫』の帰りを待ちたいと思いますわ」「ついに本性を現したなこの女!!だから不安だったんだ!」「最近恋人になったからってこの惚気ぶりだよ・・・」「姉の屍を越え、私たちを出し抜いて、弟たちを味方につけさぞ高笑い物でしょうね、杏里。だけど茶番は終わりよ。何故なら私には切り札があるのだから」湊は胸を張って言った。「何せ私、村田湊は因幡達也と結婚の約束をしているのだからね!」「姉さん・・・それって私達が五歳の頃じゃないか・・・」「流石にその時代の約束を出されても引きますよ、湊さん」「煩い煩い煩い!知らないだろうけど、実はもう一回結婚の約束はしたのよ!」「いつだよそれ」「私が小三のころよ!」「だから引くがな!姉ちゃん、その時の約束なんて多分アイツは片手間にしか聞いてないだろ!?」「哀れですね、昔の記憶を自らの都合のよいように捏造するとは」「捏造って言うな!?」「大体恋人らしい事なんてしたのかよー!」「しましたよ」「んなっ!?」仰け反る棗に、湊は歯噛みしている。「キスをしました」「「小学生か!!」」胸を張って言う杏里に湊と棗は同時に突っ込んだ。なんだか不毛な口論になりそうだ。桂一郎は呆れたように溜息をついて自らの家に入っていった。元の世界でそんな口論がおこっている事も知らず、達也はフリゲート艦突入を前に欠伸をしていた。「緊張感がないなぶえっくしょい!」「お前もな、ドゥドゥー」ジャックが呆れたように言う。ジャネットはジャックの後ろに移動していた。「さあ、突入しましょう」イザベラの号令と共に、俺たちはフリゲート艦に侵入していった。ガーゴイルに出会いませんように!(続く)村田恭平は第1話で達也に「思うんですが、そのデートの相手とは貴方の想像上の、架空の人物ではないでしょうか?」と言った奴です。