喋る刀『村雨』を持った因幡達也が桃の中から立ち上がって周囲を見回した。唖然とする一同を見て達也は首を傾げていた。そんな達也をみかねたのか、彼の友人のギーシュが叫んだ。「タツヤ!色々言いたい事があるが、とにかく今のままでは君は死ぬことになる!社会的に考えて!!」「何だとギーシュ!そりゃ一体どういうことだ!?」「つまり僕が言いたいことは紳士ならば隠せと言いたいのだ!」「何をだ!俺にはとりあえず疚しいところは最近切れ痔疑惑があるくらいしかないぞ!?」「自分の今の姿を見て見ろ!?」「何?」そう言われたので俺は自分の今の状況を確認した。気持ち悪いと思ったら桃の果汁まみれだった俺の肉体には何処も異常がない。『全回復』により身体も心もきわめて良好である。なんで桃の中に閉じ込められていたのかはさっぱり分からん。とはいえ、身も心もさっぱり気分な俺に何ら恥じるような所はない。生まれ落ちた赤子のような格好で俺自身生まれ変わった気分・・・あれ?生まれ落ちた赤子のような姿?・・・あるェ~?「素敵です,達也君(ぽっ)」「ぎゃああああああ!?何で全裸なんだ俺ーーー!?」俺は叫んで隠すべき所を手で隠した。だが、心底慌てていた俺は大きなミスを犯した。「胸を隠して如何する副隊長!?」「股間を隠せ馬鹿者ーーー!!!」「ま、負けた・・・負けちまった・・・」怒鳴りながら突っ込むレイナールとギーシュの隣で打ちひしがれるように膝をついているマリコルヌ。女性陣は・・・ルイズは手で顔を覆っているが指の隙間から見ているのはバレバレだ。テファはキュルケが彼女の目を塞いでいる。キュルケも目線を逸らしているが、チラチラ見ているのはばれている。タバサは石のように動かず、ジャンヌも同じように固まっている。フィオは見るまでもなくガン見しているに決まっている。「達也くーん・・・こっち向いてくださーい」何時になく弱々しい声のフィオに振り向くと、血まみれというか血だるまの彼女が俺に微笑みかけていた。「フィオ!?」「えへへ・・・ゴメンなさいこのような姿で・・・」「いや、俺も俺で全裸だし」何故かお肌がつるつるすべすべになっているのが解せぬ。まるで赤子のような肌触りの俺の皮膚である。でも全裸。フィオの側に駆け寄るのは良いのだが、川の冷たい水に対して俺の子孫繁殖工場袋が悲鳴を上げ縮こまった。全裸って辛いな。既にフィオの身体は熱が失われており、その唇はどす黒く変色していた。これはたとえ皆が回復魔法をかけても手遅れだと感じた。しかしそんな身体で、フィオは力強く俺の手を握った。ただ、彼に触れていたかった。彼の格好がどうあれ、私は構わなかった。むしろ全裸の方が直に彼の温もりが伝わってくる。何かが抜け落ちていく自分の身体に心地よい何かが流れ込んでいく。ああ、心地よい。今まで長生きしてきてこんな感覚は初めてだ。本当に長生きはするものである。気付けばニュングと姉の姿は消えていた。フィオの視界にはただ、愛しき彼の驚愕と戸惑いと悲しみの入り混じった顔がある。「達也君・・・貴方と過ごした時間は短くとも私は幸福に満ちた時間でした。貴方を思って生きていた時間は長すぎでしたが不幸ではありませんでした」フィオはちらりと視線を外し、此方に向かって駆けてくるルイズ達を見て軽く息を吐いた。自分はもとより、ジャンヌももはや死に体と判断しての行動だろうか?聖堂騎士達は教皇の下に急いだが、水精霊騎士隊の面々は続々とフィオと達也の下に向かっていた。「フィオ!しっかりしなさい!傷は意外に浅いかもしれないわ!」「ルイズ・・・何処をどう見たら浅く見えるんですか・・・」「フィオ、済まない!僕たちは援護も出来ず・・・!!」「良いんですよ隊長さん・・・どうせあの状況で援護しても返り討ちでしたし・・・」「フィオさん・・・」「ティファニアさん・・・貴女は人とエルフが分かりあえた証拠として、めげずに堂々と生きてください・・・」ティファニアが大きく頷くのを見てフィオは笑う。そして彼女の視線は、膝をついて弱りきっているジャンヌに向いた。「怨恨で動く事を否定はしませんし、貴女の強さも否定はしませんよジャンヌ・・・。貴女は確かに強かった・・・そのせいでダークエルフは生存競争から脱落ですよ」そう、今正に一つの種族が滅亡する時なのだ。それは果たして偉業か愚行か。どちらにせよ生存競争に負けた者の末路は滅びである。しかしフィオは悲観もせずにジャンヌに言った。「ですが・・・復讐の果てに、怨恨を元に強くなった結果・・・貴女は何を得ましたか?」「得たとも。強さを。貴様はその私の強さによって死ぬのだ」「そうですか。貴女の執念も相当なものですね・・・ですが・・・私もただでは死にませんよジャンヌ」「何・・・っが!!?」フィオがゆっくりと指を動かすと、ジャンヌが膝をついていた地中から石の槍が一振り突き出た。ジャンヌはその槍によって胸を一突きされていた。「貴女を生かしておくと、達也君が危険です・・・。これがせめてもの・・・ダークエルフ達の嫌がらせですよ」「き・・・貴様ぁ・・・・っ!!」「お互い長く生き過ぎました・・・執念深く生き続けるのはもう止めにしましょう」「まだだ・・・!その男が生きている限り私の生きる意味は・・・残っていると言うに・・・!!」ジャンヌは血を吐きながら、胸に槍を突き立てたままでなお、立ち上がった。そして震える腕で剣を構えた。その先には達也とフィオがいた。「達也君・・・」服を着る暇などある訳なく、全裸で果汁まみれの俺はフィオから手を離し、瀕死のジャンヌと対峙した。村雨を持つ手に力が篭る。頭の中が澄み渡っていく感覚に襲われる。今度は全回復は使えない。分身もさっき使った。生まれたまんまの姿で刀を構えるのはシュールでしかないが・・・何故か気にならなかった。「どうせならお前も私やその女と共に死ね、タツヤァ!!」咆哮をあげながら残像を残しながら俺に接近するジャンヌ。折角の女性からのお誘いだが、涙を呑んでお断りする。言っておくがお前が俺を恨むように、デルフを破壊し、フィオを死なせる要因となったお前を・・・俺が恨んでない訳ないだろうが!「お前が勝手に死にやがれ!ジャンヌッ!!」俺はそう叫んで、鞘から村雨を抜き放った。剣を上段に構えたまま、達也の前で制止したジャンヌ。一方達也は、村雨を抜き放ち、すぐさま村雨を鞘に戻した。その瞬間、ジャンヌが自身が信じて振ってきた剣が根元から折れた。そして彼女が身に纏っていた衣服は弾け飛び、胸に刺さっていた槍も刺さっている所以外は綺麗に斬られていた。彼女の五千年費やした強さは、今ここで終焉を迎えようとしていた。皮肉にも強さを求める切欠となった存在により、その強さを折られてしまうという結末だった。刺し違い覚悟で力を振り絞った戦士はその力を奪われ、力なく崩れ落ちてしまった。倒れた先には彼女が五千年追い求めてきたふざけた男がいた。力なく倒れるジャンヌを抱きとめる形になった俺だが、このまま投げ捨てるべきなのか迷っていた。ジャンヌの身体からは既に力は感じられず、最早その命は風前の灯であった。・・・っていうか衆人監視の中、互いに裸でこれはどうよ。女は血まみれ,俺は果汁まみれ!危険なにおいがプンプンするぜ!「終わりか・・・私の五千年の意味は何だったのだ・・・」ジャンヌが力なく呟く。知らんわそんなもの。そもそも五千年とか生きすぎなんだよお前ら。「五千年の間に・・・貴女は違う道を選ぶ事も出来た筈です・・・それを貴女は一回の敗北を根に持ってここまで生きてきた・・・この結末は貴女が選んだ道ですよ」フィオがゆっくりと告げるとジャンヌは震える声で言う。「・・・敗北を認めない私に待つのは・・・取り返しのつかぬ更なる敗北だった訳か・・・やはり私は・・・未熟だったのだな」自嘲を含む笑みを浮かべるジャンヌ。その表情は何処か寂しく悲しかった。「何処が敗北ですか・・・貴女が欲を出さなければ貴女の大勝利だったのに勝手に負けたんですよ貴女は」「人間を欲深いなどと言えんな・・・」「そもそも人間は誰かに会いたいからって言って五千年も生きようとしません。私たちはもしかしたら人間より欲深いのでしょうね」ジャンヌがどんどん重くなっていく感じがする。力がどんどん抜けていっているのだ。「良かったではありませんかジャンヌ。剣しか知らぬ生娘の貴女の最期は自分を倒した男の胸の中で。私が元気なら貴女を引き裂いていましたよ」「・・・・・・・・」「何とか言ったら如何ですか。正直妬みで貴女を殺したい気分なんですよ」「・・・・・・・・・・・・・」「何ですかもう。感想も言わずに逝ってしまったんですか。死んでもムカつく女ですね・・・」そう、俺の腕の中で五千年も復讐に生きたエルフの誇り高き剣士、ジャンヌはその長すぎる生涯を終えた。その表情はどこか穏やかに見えた。この生涯の終わりに彼女は何を見たのか、俺には分かるまい。「達也君、達也君・・・いつまでもその女と抱き合ってないで早く私を誉めてください」少し怒ったような声でフィオが俺を呼ぶ。その身体はルイズとギーシュが支えている。その周りをテファやキュルケにタバサ、水精霊騎士隊の皆が囲んでいる。俺はジャンヌが流されないように横たえて、フィオの所に向かった。戦場に雨が降り始めていた。教皇ヴィットーリオは水魔法による治療を受けながら、すでに自分の命が残り短いものだと確信していた。回復魔法をかけても一向に治らぬこの熱さ。恐らく人間の魔法ではどうにもならない毒をあの矢に塗っていたのだろう。「聖戦を発動した者は例外なく戦場で死す・・・か。成る程伝承は事実のようだ・・・」「聖下!何を弱気な事を申されるのですか!?」ジュリオが焦った面持ちでヴィットーリオに呼びかける。彼も顔色がどんどん悪くなっていく主を見て焦っているのだ。「ジュリオ・・・あのエルフは・・・どうなりました?」「勝ちました。勝てたんですよエルフに・・・!勝てるんですよ僕達は・・・!」「そうですか・・・頼もしい限りだ・・・」「そうです!ですから聖下、御気を確かに」「・・・ジュリオ、見ましたか?あの空の光を・・・あの恐ろしき光を」射抜かれる前に起きたあの爆発の事を彼は言っているようだ。「はい・・・!大変恐ろしゅうございました」「あれはけして輝いてはならぬもの。それを容易く輝かせ味方もろとも消したあの男を私は教皇として、人間として許すわけにはいきません・・・」ヴィットーリオは身を起こして空を見上げた。「わたくしは聖敵ならぬ人類の敵であるあの男を討つまで、始祖の下に行かぬと宣言いたします。ジュリオ、皆さん・・・その時までどうかわたくしにお力をお貸し下さい」力なく微笑む若き教皇の姿にロマリア軍は涙ぐみながら歓声をあげた。長い間、孤独を紛らわす生活だった。たまに外に出ては出会った人間をおちょくるのが何よりの暇つぶしであった。素性を明かした人間はごく少数。そして以降変わらなかった人間は恐らく一人。桃色の長い髪を靡かせ、何故か一人称が『ボク』である少女・・・。彼女も生きていればもうそれなりによい歳であろう。その少女とルイズはよく似ている。まあ、彼女は『ボク』なんて言わないが。行動しては眠りの日々を重ね、ようやく私は再会を果たした。五千年。思えば長く待たせたものである。待つ間は不幸ではなく、再会してからはずっと幸福だった。そして最期のこの時もきっと自分は幸福なのだろう。達也君、皆さん。有難う。私は恐らくダークエルフ史始まって以来の幸せ者です。「皆さん、有難う御座います。聞いての通り私はダークエルフ。広義の意味では異教徒の類の存在です・・・」「関係ないだろうそんな事!」「フィオ、そんな肩書きで私達が貴女を邪険にする訳ないじゃない」「そうだフィオ。君は僕らの仲間の一人であり、恩人でもあるのだから・・・」マリコルヌがキュルケがレイナールがそうフィオに声を掛ける。そうだそうだと言う合いの手が周りからも聞こえる。嗚呼・・・どうやら私の愛する人は良い友人たちに恵まれたようだ・・・。「私、貴女と皆を見ていたら希望がもてるわ。人とエルフは分かり合う事は不可能じゃないって」ティファニアが泣きそうな顔でフィオに言った。「ええ・・・でもまず人同士が分かり合えないことにはどうしようもないですね」「痛いところをついてくれるわね、半分死人なのに」ルイズも笑いながら涙を流している。どうも意外にこの少女は涙腺が緩いとフィオは思っていた。「ふっふっふ・・・意味ありげなことを言って皆さんの心に爪痕を残すと言う作戦ですよ」「大変迷惑な死に方だな」ギーシュが呆れたように言う。そしてフィオは最期に達也に向き直った。彼の手を取ってフィオは達也に語りかけた。「達也君・・・正直申しますと私は貴方が心配でなりません。私亡き後、毎晩の如く貴方が涙で枕を濡らすと思うと死ぬに死にきれません」「何その心配!?いらん心配だっつーの!?」「そこは冗談でも死なないでくれハニーと言うべきですよ・・・」「死ぬなよ、ババァ」「非常に惜しいです。ババァではなくハニーと言ってほしかったですよ・・・冗談でも良いから・・・」唇を尖らせ軽く俺を睨むフィオ。しかしすぐにその表情は柔らかくなる。「あーあ・・・何でこんな愛し甲斐のない人を好きになってしまったんでしょうね・・・私」そう悪態をつくがフィオはこの上なく幸せそうな顔で言う。「改めてと言うのも可笑しいですが、達也君。過去も今も未来も死んでもなお、私は貴方が大好きです。例え貴方に想い人がいても、私はその想い人に負けない愛情を貴方に向けていますよ。達也君、貴方は私の幸せそのものです。貴方の幸せは私の幸せとは大げさですが・・・私は貴方に出会えて・・・貴方を想って長生きできて・・・本当に幸せでした。だから達也君・・・貴方もどうかこれから色々あるかもしれませんが幸せを勝ち取ってください・・・。貴方が笑って生きている事を私は精霊たちと共に見守り、嫉妬に狂う事にしておきますよ」「凄まじくダイレクトな愛情の伝え方だな。妹以外でそこまで言われた事はないな・・・少し照れるぞ」「照れるという事は私の告白が達也君の心を揺り動かしたという事ですか?嬉しいですね・・・五千年生きた経験の賜物ですね」弱々しく笑うフィオは囁くように俺に言ってきた。「達也君、達也君・・・大事な事を伝えたいので・・・ちょっと近寄ってもらっても構いませんか?」「あん?皆の前でいいだろうよ」「ちょっと恥ずかしいので・・・でも大事な事なので」仕方がないので俺はフィオにもっと近づいてみた。そしてフィオは俺の耳元でこう囁いた。「達也君・・・私を忘れたら泣きますよ?」そしてフィオは不意打ち的に俺の唇に、自らの唇を重ねた。しまった・・・ベタ過ぎる罠に引っかかってしまった・・・。唇を離したフィオはしてやったりという顔で言った。「隙ありですね、達也君。もう少し警戒感を持ったほうがいいですよ?」「肝に銘じとく」「銘じてください。心配ですから」その時だった。俺の右手が物凄い熱を持ちだした。顔を歪ませて右手を見ると、『フィッシング』のルーンが何故か右手にも現れていた。フィオは笑みを浮かべて俺を見ている。おい、どういうことだこれは。「私の全てをあげちゃいます。きゃっ、言っちゃった」「ルーンを継承させたのかてめえ!?どうやったんだ!?」「人間には分かりえぬ方法ですよ。これで私は達也君の身に刻まれるのであった」「身には刻むなよ!?」「達也君・・・真っ暗の中で怒鳴らないで下さい・・・」フィオは既に目が見えていなかった。ルイズが息を呑んでいる。そんな風には全く見えなかったからだ。「怖いですけど・・・確かに貴方を私は感じました・・・達也君・・・貴方の姿は見えずとも私は貴方と共にいました。だから・・・私もずっと貴方と共に・・・」この女、堂々と死後のストーカー宣言である。俺は心配しなくて良いから成仏しろと言おうとしたのだが、ある事に気付いた。俺の手を握ったフィオの手からはもう力は無かった。それでもなお、彼女は俺の手をずっと握っていたのだ。顔を伏せるギーシュと肩を震わせるルイズに支えられ、俺の手をしっかり握った親愛なるダークエルフ、フィオ。長年たった一人の男への愛に生きた女は最期に様々な人々の親愛に包まれて精霊たちのもとに旅立っていった。幸福な人生を終えた筈の彼女は白い空間にやって来ていた。目の前には白いテーブルと黒いソファが置かれている。テーブルの上にはティーポッドが置かれ、カップが四つ置かれていた。『ここが噂の天国とやらでしょうか?』フィオは辺りを見回しながら呟く。あんな執念深い人生でよくもまあ天国に来たと思えるなと自分でも思う。しかし可笑しい。天国というならば国の体型を取っている筈である。しかしここは如何見えも何処かの部屋である。彼女が疑問に思っていたその時、フィオの後方の扉が開いた。『やっぱりいたわよ、あなた。引越し早々見知った顔が』『おっ!今回は仮想人格じゃないほうだよな?坊主、どうだ?』『だからちゃんと名前を覚えてくださいと何度も言っているでしょう。あれは仮想人格じゃなくて本物ですよ多分。そもそも仮想人格は大分前に消えちゃったじゃないですか。だから技能説明は以降僕らで回していこうと決めたのにあんた等妹さんの所にいっちゃったじゃないですか』『ああ、そうだったなァ・・・よう!義妹よ、元気か!』『死んでる妹に元気もクソもないでしょ・・・』フィオの目の前には死んだはずのニュングと姉のシンシア、そして彼女は会った事などないが、元アルビオンの皇子、ウェールズが口論をしていた。『・・・これは一体どういう事です?私は皆に見送られて昇天したのでは?』『死後の世界って言えばその通りなんだけどね。僕達は死してなお、達也を見守る為にここにいるんだ』『まあー悪く言えば取り憑いてんだけどな。まあ、訳わからんだろうがとりあえずお仕事をしてもらおう』『は?』『いいからいいから。いきなり感動の再会が出来るかもよ?』『ちょっと待ってください姉様!?説明をしてください!?』『要するに、仲良き事は良き事かなよ、フィオ』『訳が分かりませんよ!?』シンシアに引きずられてフィオは悲鳴をあげながら扉から出て行った。残されたのはウェールズとニュングだけだった。『引きこもっていたアイツと違って、こっちに来る奴は多そうだな、坊主』『まあ、タツヤは迷惑がると思いますけどね・・・』フィオとジャンヌの遺体は引き上げられていった。他の皆は川から上がって陣形を整えている。俺は何時までも素っ裸でいるわけにもいかないので聖堂騎士達の予備の下着と法衣を貸してもらい、それを着ていた。とはいえ、雨が降っているのですぐ濡れてしまうのだが。いまだ戦場は膠着している。あの爆発が何時また起きるかも分からない。戦場の混乱も沈静化し、またまともな戦争が再開されると思うと気が滅入る。仲間を失い、水精霊騎士隊の皆も若干テンションが低めである。俺はギーシュに休めと半ば無理やり命令されて、現在お休み中である。でも少ししたら戻るつもりだ。というか戻れとルイズに言われた。鬼か貴様。「デルフの兄さんもいなくなっちゃったんですね・・・」喋る刀が寂しそうに俺に言う。そう、長らく俺を導いていた喋る剣はもういないのだ。「でも任せんしゃい!この村雨、見事デルフの兄さんの後継として、ビシバシズバズシャと鍛えるんでよろしく」明らかに斬る気満々の訓練宣告である。ところで詳しく聞いてなかったがお前はどのような特殊効果があるんだね?「長い間だらけていたから忘れちゃった」「折れろテメエ!?」俺がそう言って村雨をぶん投げようとすると・・・。『あー・・・テストテスト・・・只今送受信のテスト中・・・』久しぶりの怪電波が俺の脳内を駆け巡った。というか人の脳内でマイクテストすんじゃねえ!?『初めまして久しぶりのまた会いましたね!色々挨拶は御座いますがとりあえずお久しぶりです。最近放送がないから油断してましたね。愛ゆえに蘇った貴方の私の怪電波です。随分放送サボっちゃったけど、諸事情だから仕方ないですね!それではご報告があります。レベルアップですよ達也君!』その呆れるほどテンションの高い声は一体何だ。『気にしないで下さい。それでは今回『剣術』『歩行』『釣り』『格闘』の新技能とその他得たものが結構ありますよー?ゆっくり聞いていってくださいな。まずは『剣術』技能が一定値に達しましたので、『居合』のレベルがMAXになっちゃいました。とりあえず回数制限はなくなりましたが相変わらず人は斬れませんよ?残念ですね!精々眼福的な意味で使うといいさ!死ねばいいのに』おい!?今のちょっとさりげない怖さがあったぞ!?何か恨みでもあんのか!?『続いて『歩行』新技能『倍速』を覚えました!早い話が通常の2倍の速さで走れます。単純に2倍です。例えば100m14秒で走るなら、7秒で走れます。基礎能力が結構重要なので頑張って鍛えてください。目には止まるぐらいの速さが限界だと思いますが。体育会の英雄にはなるでしょうね』また使えるのか分からん技能だよ・・・『更に『釣り』技能の新技能は『釣り上げ』です。何時でも何処でも釣り糸を垂らし、何かアイテムを釣り上げる事が出来ます。専用の釣竿は何と魔法のように取り出せちゃいます。ただしこの技能により釣竿を取り出した場合、分身を一体消費します。更に釣り上げる際何かえらいものを釣り上げてしまった場合、分身は一日休みのペナルティがあります。別に陸地でも使えるし、一旦釣竿出したら自分の意思でしまわない限り、一日ずっと出たまんまですから。存分に釣りをお楽しみ下さい。なお、幼女のハートは釣り上げれません』誰もそんな事は聞いてません。『お次は『格闘』新技能です!『当身回り込み』の回数制限が20に増えました!以上!』早っ!?説明早い!?『最後に貴方が得たものを発表していきます。まずは信頼度ですね。ルイズさんとお姫様とフィオさんとギーシュ君とキュルケさんとレイナール君とアニエスさんとタバサちゃんとティファニアさんと真琴ちゃんとその他数名の信頼度が大幅に上がってます。ちなみにマリコルヌ君の信頼度は変動が大きすぎです。これによって得た技能があります。技能の対応者はギーシュ君とフィオさんのお二人です。そう言うわけで二つ技能を覚えてます』ウェールズの時は風の加護だったが、活用した事が殆どない。『ちゃんと活用しましょうね~?ではギーシュ君対応のご褒美技能は『アクセサリ作成』です。要は手先が器用になり、アイテムの製作の完成品の質が大変よくなります。中高生男子が工作の時間に作るであろう逸物の模型も引くほどリアルに仕上がり見るだけで妊娠しそうになるので停学処分を下される悲しい事になるので気をつけてください』どんな技術の無駄遣いだよそれ!?『最後にフィオさん活用のご褒美技能は『意思疎通◎』です。要は会話できない動物と意思の疎通が完璧に出来ます。とはいえジュリオ君みたいな能力ではないので気をつけてください。ちなみに巨大ミミズさんは達也君を気に入っているみたいですよ。モグラは知らん』ミミズに気に入られてもモグラにやられとるじゃん!?『以上で新技能の報告を終わります。あと、個人的にお話したいことがあります』え?何?そう思っていたら俺の両手のルーンが輝きだした。そして立体映像の如く俺の前に姿を現したのは・・・『本日の報告は私、永遠の幼女に仕立て上げられた哀れなダークエルフの幽霊、フィオちゃんがお送りいたしました』長い黒髪に寸胴ボディ、小麦色の肌に赤い眼・・・半透明だが間違いなく俺の目の前にいるのはフィオ(ただし幼女)であった。『達也君。私たちは貴方の中で何時までも生きています。というか取り憑いています。どうか寂しがらずに生きてください』「たち?」『はい。ニュングと姉様、そしてウェールズとか言う人も憑いてます』「多いわ!?成仏しろ!!?」『ふっふっふ・・・この時を待っていたのです。名実共に私と達也君は一心同体!こんなに愉快な環境にいて成仏できるか!というのが公式見解です』「死者は生きている者に迷惑をかけてはならんと思わんかね?」『実害があるのは達也君だけなので大丈夫です』「ふざけんなー!!?」『達也君、ありがとう。本当に死んでも幸せになれるなんて思っていませんでした』「綺麗に纏めようとするな!?」『忘れないで下さい達也君。私たちは何時までも貴方を見守っています』そう言ってフィオは俺の目の前から消えていき、ルーンの輝きもなくなった。死んでも好き勝手な奴である。「ったく・・・そんなに心配なのかよ・・・」俺がそう呟くと、何処からか『『『『うん』』』』と聞こえた気がした。戦場の雨はもうすっかり止み、日の光さえ見えていた。そして遠くの空から大きな爆発音が聞こえたと同時に、戦場がにわかに騒がしくなった。俺は休憩を終えて、皆の下に戻る事にした。戦争はまだ終わっていない。(続く)