突然俺の目の前に現れた日本人のような少年『平賀才人』。何か恥ずかしい称号を引っさげて現れたがコイツは一体何者なのだろう?まあ、何者だとしても俺にとってはどうでもいいんですけどね。『人の話を聞くという態度を取れよ、お前!?』「やかましい!自分の誕生日を祝うのが見知らぬ男というこの悲しみが貴様に分かるか!?」『知るか!?自分の誕生日を忘れていたんじゃないのかお前は!?』「ハルケギニアの暦は俺んとこの暦と違うからややこしいんだよ!」『何で俺にキレるんだよ!?』目の前の男は俺の理不尽な怒りに怯んでいるようだ。というか本当にコイツは一体何なんだ。人の夢に大物っぽく現れやがって。オーラは全くないが。『全く・・・疲れる奴だよ・・・。そんなだからわざわざ俺が忠告しに来たんだけどな』「は?」男は俺を指差して言った。『因幡達也。お前はハルケギニアという異世界で何がしたいんだ?』「元の世界に帰りたい」『・・・悩むかと思ったら即答か。なら何故帰らない?お前には恋人がいるし、妹を危険にも晒したくはないはずだ』「色んなことを投げっぱなしで帰るのはどうかと思っただけさ」『お前がそれを気にする理由が何処にある?妙な正義感や義務感?それはお前の自己満足じゃないのかよ?』「さも自己満足が悪のような言い方だな。所詮人間なんぞそんなものだろうよ。俺は自分が満足する結果を求めて生きてるんだ。妥協し続けるのもいいのかもしれないけどそんなの気持ち悪いだけだろうよ。この世界で俺がやりたいというか見届けたいものがある。それだけで俺はここの世界にまだ留まる理由はある」『そうしてお前は家族や待っている人々を傷つけていくのか?それは自分勝手だろうが』「自分勝手ね・・・ああ、そうだな。俺は恋人がいのない男かもな。浮気されても仕方ないと思うよ」『そう。お前は恋人を寝取られても文句は言えない環境にある』「何が言いたいんだよ」『それなのにお前はどうしてその愛情を貫けるんだ?何故回りは恵まれているのにそっちを見ようとしないんだ?』「昼ドラもしくはハーレム系を見すぎじゃねえのお前。確かに美女に目を奪われるのは男の性だが、愛する女は俺の場合はたった一人しかいなかったのさ。全く、自分の守備範囲の狭さには愕然とするよな、わっはっはっは」『・・・はっきり言ってお前のそのブレなさがつまらないんだが』「・・・お前を楽しませる為に俺は日々を過ごしている訳じゃないんだが。大体人を捕まえてお前の人生つまらんとか兄弟でも殺されるほどの暴言だろう。別に俺は今のように人生にそんなに凄まじい変化は必要ないと思うし、これからもそう思うだろう。他人からすればそれはつまらん考えかもしれないけどさ、いいじゃんそんな人生でさ。そんな人生がいいよ。そんな人生じゃないみたいだが」『お前のそのブレない態度でどれだけ皆が傷ついてる?お前のその妙なテンションは痛々しいとも思えるぜ。ルイズや姫様がお前にどれだけ振り回されてると思ってると思ってんだ!』急に怒鳴った男。何だコイツ?ルイズと姫さんに何か思うことでもあるのか?敵意満々だが、俺は短い人生中そういう相手に出会ったことは結構ある。そういう相手に対してわざわざ友好的に接する必要はない。だって面倒だもん。しかも男だし。しかも夢の登場人物の癖に何て言い草であろうか。しかし俺もその二人には振り回されているのだがこの男は何を見ていたのだろうか?妙なテンションとこの男は言うが、そうでもないとあんな連中と付き合えるか。こんなトンでも世界で生きれるか。何お前?『俺はこの世界でも冷静沈着に生きれるぜ』とでも言うのか?できるか馬鹿者!?それとも『もっと冷静になれ』と説教でもしたいのかお前は。そんなことを俺が思っていると、黙っている俺を見て男は何を勘違いしたのか、勝ち誇った表情で言った。『まあいいさ。俺が辿る物語と違って、お前の旅路の物語なんて誰の記憶にも残らないし、日の目を浴びる機会もないだろ。お前は所詮紛い物の世界の人物に過ぎないからな。紛い物の世界なんて誰も認めない。ま・・・俺も俺で無数にある紛い物の世界で色んな立場になってるからこういう事は言いたくないんだけどな。ま、お前がどんなにこれから先頑張っても、本物の世界の『俺』や『皆』を超える事はできないし、例え支持を受けようとも、贋作は本物じゃない。真実の世界は一つで、その世界の主人公はたった一人さ。その真実の世界の住人の俺から忠告があるんだ』「ゴチャゴチャ訳の分からんことを・・・」『訳が分からんでも聞け。お前が歩んでいる物語、この辺で終わってもいいと俺は思う。退き時を見誤ってズルズルここまで来てしまったんだ。終わりぐらい潔くした方がいいと思うぜ?俺はこれ以上、お前たちの醜態や、この世界の気持ち悪さを見続けるのは嫌なんだ。まあ、気にするな。偽者の世界が一つ終わりを迎えた所で誰も気にしない。むしろ喜ぶ奴もいるんじゃないか?やっと消えてくれたとかで』「真摯なアドバイス感謝してやるよ。俺の人生や俺が歩む道を批評するのは勝手だ。でもな、『真実の世界の主人公』さんよ。俺たちはお前がどう思おうが勝手に生きて勝手に死んでいく。俺にとっての真実の世界はお前のいる世界じゃない。というか黙って聞いてたら真実の世界とか紛い物とかお前何言ってんの?何度も言うけど恥ずかしくないのか?例え俺の存在が何かの贋作だったとしても別に構わん。だってさ、同じ皿でも贋作は安いからな。本物は高いから近寄りがたい。お前がもしお前自身が言うように俺から見れば大層高尚な人物であるとしても、俺はそもそもお前に会った事はないし、会ってもいきなりその言い草だから敬意を払う事もないし。従ってお前の言う事等俺が聞くわけがないじゃない」目の前の男は苦虫を噛み潰したような表情になる。俺、コイツにここまで恨まれるようなことしたっけ?『・・・俺はお前が嫌いだ。俺を蹴落として皆と楽しそうに過ごすお前が嫌いだ。俺より弱いのに微妙に評価されてるお前が嫌いだ。そして何よりも、ルイズを苛めまくるお前が大嫌いだ!』「成る程、要は本来なら俺がその世界で俺TUEEEE!する筈だったかもしれないのになんかよく分からん存在の俺がここにいるから憎いと。何かゴメンなァ?変われるもんならマジで変わりたいんだが」『出来たらここまでわざわざ来てお前に忠告しに来るか!!』男は悔しそうに怒鳴る。しかし怒鳴った所で所詮無駄な遠吠えである。コイツの妄言を信用する訳ではないが現に俺はハルケギニアに召喚されてしまい、目の前の男は召喚されなかった。嗚呼、何という双方にとって迷惑な事実であろうか。変われるものなら変わってやりたいが変え方など分からん。分からん以上、俺のハルケギニアでの生活はもうちょびっとだけ続くのだろう。『クソ・・・!俺がそっちにいたらルイズを全力で守ってやるはずなのに・・・!!』「守らんでも自分で何とかするぞ、あの女は」『お前それでも使い魔か!!』「主が強ければ使い魔は戦わなくていい。つまり身の回りの世話だけしとけばいい!つまり戦わなくていい!」『2回言った!?そこまでして戦いたくないのか!?』「戦う時は戦うけど必要な時以外は戦いたくないでござる」『・・・やっぱりこんな奴にルイズは任せられねぇーー!?ちっくしょー!早く死んでしまえ!そしたらもしかすると俺が召喚されるかも知れないじゃないか!』「残念ながら俺は死ねないんだな、これが」恋人の為に、妹の為に、俺が死んだら悲しむ人の為に・・・俺は死ぬ訳にはいかないのだ。生きて完全に元の世界に帰る為に俺は、くたばってはいけない。俺の目の前で頭を激しく掻きながら男は俺に毒づく。ルイズに対して過保護過ぎやしないかこいつ。まあいいや、こういうタイプにはこう言おう。「安心しろ。ルイズが俺の目の前にいたらとりあえず出来る範囲で守る。その範囲にいなかったらその時は彼女の生命力に期待する」『安心できんわ!?』完全に安心できることなど人生にはないと言おうとした所で唐突に俺は目が覚めた。「・・・・・・・・・何つー夢だ。男と二人きりとか萎えもいいとこだぜ」「何だか恐ろしい夢を見ていたようだがそろそろ足をどけてくれタツヤ・・・」「あん?」俺が見ると、隣で寝ていたギーシュの腹に俺の右足が乗っかっていた。そしてその時俺は大変なミスを犯してしまった。「あ、悪い」そう言って俺は足を最初にどかさず、身を起こしてしまったのだ。当然ギーシュの腹の上の俺の足には体重がかかる。そして運の悪い事に、ギーシュは先程まで酔いつぶれて寝ていたのだ。ギーシュの顔色が急激に悪くなる。「げ」「うっぷ・・・」「しまった・・・飲み込めギーシュ!!!」「それは無茶・・・うぼ!?」そして彼の口からは噴水の如く昨夜食べたものが噴出すのである。その様子は汚さを通り越して一瞬の芸術と言うべき噴射ぶりである。彼の口から出たとは思えない量の個体液体入り混じった芸術品はそのままギーシュの顔面へと落ちていくのだった。その自らが噴出した混合物を顔にぶちまける羽目となった彼は新たな混合物を噴出すことになってしまったのは仕方がないことだった。俺たちがいる部屋に響くのは美しいクラシック音楽などではなく男達の声にならない叫びだった。当然ながら俺はその後、ギーシュに土下座して謝った。部屋が諸事情により使えなくなったため、俺は宿屋の外にいた。既に満天の星空が見える夜中である。現在宿屋の方々が全力で部屋の清掃中である。他の奴らは飲みなおし或いは夜食を食べているもの様々である。様々な偶然が重なって起こった悲劇とはいえ、ギーシュには悪い事をしてしまった。『僕は汚れてしまったよモンモランシー・・・ふふふ・・・』『実際汚いしな』『誰のミスと思ってるんだ君は!?』ギーシュは現在酒場で水を飲まされていることであろう。俺は外でレイナールやギムリと共に夜のガリアの空をボーっと見上げていた。「不幸な事故だった」下着姿のギムリはギーシュの混合物噴射の余波を食らった一人である。遠い目をしながら彼はそう呟く。「まあ、僕たちも浮かれすぎた所もあるからね・・・」ここはまだ戦場だというのに二日酔いしそうなほど飲んでどうするという事をレイナールは言いたいらしい。近いうちにまた戦争は再開される。酔っている場合ではないのだ。「理想を語るなんて柄じゃないけどさ・・・騎士隊の誰一人欠けることなく帰りたいものだね、副隊長」「・・・ああ。そうなったらいいよな。本当に」「でも・・・この戦争は聖戦だ。人は死んでいる」レイナールは顔を伏せて言った。彼らしくない酷く弱気な発言である。「物事に絶対はない。幾らロマリアがブリミル教の聖地でも、ガリアにもブリミルを信仰する人は多い。神様は当てに出来ない」「そもそもしてたのかよ」「僕だって作戦が上手くいくように祈った事ぐらいあるさ。これでもブリミル教徒の端くれだからね」レイナールは眼鏡を右手でくいッと上げて言った。何だか妙に暗い雰囲気である。ギムリも寒いのか喋らないし。そんな時、このような空気をぶち破ってくれそうな者が現れた。「きゅい?三人ともこんな夜に何してるのね?」タバサの使い魔シルフィードが人間の姿で俺たちの前に現れた。というかお前、タバサはどうした。「おねえさまはお友達と寝てるのね」「お前は寝んのか」「寝ようと思ったら三人をみつけたのね。暇だったから声をかけたのね!一体何をしてたのね?」「天体観測」俺の返答に、シルフィードは小首をかしげて、「きゅい?」と一声鳴いた。すると今まで黙っていたギムリがシルフィードの方を向いて「っ!?」と何故か少し驚いたような表情をしていた。・・・何で驚いてんだ?お前コイツを見たこと普通にあるじゃん。シルフィードもそれに少し驚いたのか、ギムリを見てまた、「きゅい?」と鳴いた。するとギムリは身体をのけぞらせて、「っ!!?」と、息を呑むかのごとく驚いていた。シルフィードはそれを見て少し考えた後、「きゅい」「っ!?」「きゅい?」「っ!??」「きゅいきゅい!」「――っっ!!??」シルフィードは上機嫌で鳴き始める。ギムリはそれに合わせる様に下着姿で踊り始める。宿屋の前で何やってるんだお前らは。まあ、折角踊ってるから手拍子ぐらいはしてやるか。数分後、宿屋の前では踊り狂うギムリを見に来たギャラリーで埋め尽くされていた。彼の踊りは騒がしさに怒ったルイズが虚無魔法をブチかますまで続いた。当然その魔法は俺たちにまで被害は広がったが、奇跡的に死傷者はゼロだった。煤だらけになったギムリは満足そうな表情で意識を失っていた。俺とレイナールはそれを見ながら、「副隊長、戦場で調子に乗りすぎるとこうなるんだ。気をつけよう」「味方の中に敵がいるじゃねえか!?」後日、ギムリが何故あの場で踊ったのか問いただすと、シルフィードの可愛さに参っていたからという意味不明な答えが返ってきた。それであんなにロボットダンスとかブレイクダンスとかするのかお前。タバサの使い魔のシルフィードは、我が特攻隊長を狂わせる魔性の女である。俺はそういう人を狂わせるような女性との付き合いは考えた方がいいと改めて思いました。「私は魔性の女じゃないのね!?」「分かったから胸倉掴んで揺り動かすのは止めろ」次の戦いが始まるまで、せめてこのような馬鹿できる時間が多くありますように・・・俺はそう、密かに願うのであった。(続く)