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No.17077の一覧
[0] ハルケギニア~俺と嫁と、時々息子(転生・国家改造・オリジナル歴史設定)[ペーパーマウンテン](2013/04/14 12:46)
[1] 第1話「勝ち組か負け組か」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 17:40)
[2] 第2話「娘が欲しかったんです」[ペーパーマウンテン](2010/10/01 19:46)
[3] 第3話「政治は金だよ兄貴!」[ペーパーマウンテン](2010/10/01 19:55)
[4] 第4話「24時間働けますか!」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 17:46)
[5] 第5話「あせっちゃいかん」[ペーパーマウンテン](2010/10/01 20:07)
[6] 第4・5話「外伝-宰相 スタンリー・スラックトン」[ペーパーマウンテン](2010/10/01 20:11)
[7] 第6話「子の心、親知らず」[ペーパーマウンテン](2010/10/01 20:15)
[8] 第7話「人生の墓場、再び」[ペーパーマウンテン](2010/10/01 20:18)
[9] 第8話「ブリミルの馬鹿野郎」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 18:17)
[10] 第9話「馬鹿と天才は紙一重」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 18:22)
[11] 第10話「育ての親の顔が見てみたい」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 18:25)
[12] 第11話「蛙の子は蛙」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 18:31)
[13] 第12話「女の涙は反則だ」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 18:36)
[14] 第13話「男か女か、それが問題だ」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 18:42)
[15] 第14話「戦争と平和」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 19:07)
[16] 第15話「正々堂々と、表玄関から入ります」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 19:29)
[17] 第15.5話「外伝-悪い奴ら」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 19:07)
[18] 第16話「往く者を見送り、来たる者を迎える」[ペーパーマウンテン](2010/06/30 20:57)
[19] 第16.5話「外伝-老職人と最後の騎士」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:54)
[20] 第17話「御前会議は踊る」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:47)
[21] 第18話「老人と王弟」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:48)
[22] 第19話「漫遊記顛末録」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:50)
[23] 第20話「ホーキンスは大変なものを残していきました」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:50)
[24] 第21話「ある風見鶏の生き方」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:50)
[25] 第22話「神の国の外交官」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:50)
[26] 第23話「太陽王の後始末」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:51)
[27] 第24話「水の精霊の顔も三度まで」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:51)
[28] 第25話「酔って狂乱 醒めて後悔」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:52)
[29] 第26話「初恋は実らぬものというけれど」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:52)
[30] 第27話「交差する夕食会」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:53)
[31] 第28話「宴の後に」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:53)
[32] 第29話「正直者の枢機卿」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:53)
[33] 第30話「嫌われるわけだ」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:53)
[34] 第30・5話「外伝-ラグドリアンの湖畔から」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:54)
[35] 第31話「兄と弟」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:54)
[36] 第32話「加齢なる侯爵と伯爵」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:55)
[37] 第33話「旧い貴族の知恵」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:55)
[38] 第34話「烈風が去るとき」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:55)
[39] 第35話「風見鶏の面の皮」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:56)
[40] 第36話「お帰りくださいご主人様」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:56)
[41] 第37話「赤と紫」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:56)
[42] 第38話「義父と婿と嫌われ者」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:57)
[43] 第39話「不味い もう一杯」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:57)
[44] 第40話「二人の議長」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:57)
[45] 第41話「整理整頓の出来ない男」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:57)
[46] 第42話「空の防人」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:58)
[47] 第42.5話「外伝-ノルマンの王」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:58)
[48] 第43話「ヴィンドボナ交響曲 前編」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:58)
[49] 第44話「ヴィンドボナ交響曲 後編」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:58)
[50] 第45話「ウェストミンスター宮殿 6214」[ペーパーマウンテン](2010/10/09 18:07)
[51] 第46話「奇貨おくべし」[ペーパーマウンテン](2010/10/06 19:55)
[52] 第47話「ヘンリーも鳴かずば撃たれまい 前編」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:59)
[53] 第48話「ヘンリーも鳴かずば撃たれまい 後編」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:59)
[54] 第49話「結婚したまえ-君は後悔するだろう」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 18:59)
[55] 第50話「結婚しないでいたまえ-君は後悔するだろう」[ペーパーマウンテン](2010/08/06 19:03)
[56] 第51話「主役のいない物語」[ペーパーマウンテン](2010/10/09 17:54)
[57] 第52話「ヴィスポリ伯爵の日記」[ペーパーマウンテン](2010/08/19 16:44)
[58] 第53話「外務長官の頭痛の種」[ペーパーマウンテン](2010/08/19 16:39)
[59] 第54話「ブレーメン某重大事件-1」[ペーパーマウンテン](2010/08/28 07:12)
[60] 第55話「ブレーメン某重大事件-2」[ペーパーマウンテン](2010/09/10 22:21)
[61] 第56話「ブレーメン某重大事件-3」[ペーパーマウンテン](2010/09/10 22:24)
[62] 第57話「ブレーメン某重大事件-4」[ペーパーマウンテン](2010/10/09 17:58)
[63] 第58話「発覚」[ペーパーマウンテン](2010/10/16 07:29)
[64] 第58.5話「外伝-ペンは杖よりも強し、されど持ち手による」[ペーパーマウンテン](2010/10/19 12:54)
[65] 第59話「政変、政変、それは政変」[ペーパーマウンテン](2010/10/23 08:41)
[66] 第60話「百合の王冠を被るもの」[ペーパーマウンテン](2010/10/23 08:45)
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[17077] 第35話「風見鶏の面の皮」
Name: ペーパーマウンテン◆e244320e ID:b679932f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/06 18:56
今年で35歳になる『白の国』の主は、執務中、基本的に顔を上げることはない。

「陛下。トリスタニアのタウンゼント大使から報告がありました。ヘンリー殿下は、予定通り三日後に帰国されるそうです」

侍従の報告に、報告書に目を通しながら、軽くうなずくジェームズ1世。聞き流しているわけでないことは、メモを取りながら聞いていることで解る。ジェームズのメモ癖は有名で、会議でもあろうものなら、手帳の2~3ページは黒く埋まる。基本的に無口なのは、ガリア国王のシャルル12世と似ているが、意図的に口数を少なくしているガリア王とは違い、単に世間話が嫌いなためである。「人の噂話をする人物に、ろくな奴はいない」というのが、国王のモットーであり、王の身の回りの世話をする侍従や女官は、異様なほどに口が堅い。

だからと言って、彼は自分に課した厳しいモラルを周囲に押し付け様なことはない。あけっぴろな性格で知られるアルビオン人から見ても『変わり者』として評判の次弟にも、よほど羽目を外さない限りは、その行為を黙認している。まぁ、その行動に、余りにも下らなすぎて、怒る気にもなれないということもあるが。なぜあれほど使用人の服のデザインにこだわるのか。それも女性用だけ・・・

そこまで考えて(何故あやつの事を考えなければならんのだ)と首を振るジェームズ。王は弟達に対して甘いと言われる。馬鹿な子ほどかわいいものだ(弟だが)。ただ、それもあくまで、公私の区別をつけた範囲内のものであり、弟であろうと近臣であろうと、それを乱すものは、ジェームズは極端に嫌う。


「要するに、国王陛下は神経質な性格なのね。ウィリアム(モード大公。末弟)は、陛下の性格に近いかしら・・・真ん中のヘンリーの、そうね・・・あれは、あの人(先王エドワード12世)譲りでしょうね」というのが、3兄弟の母-テレジア大后の評価である。


閑話休題


ジェームズ1世は「王は貴族の模範であり、貴族は平民の模範足るべきである」という父の教えを忠実に守り、堅苦しいまでにそれを続けてきた。それが苦にならないというのは、王の長所である。自分がそんな評価をされていることを、噂話を嫌うジェームズ1世が知るはずもなく、今日もいつものように仕事に取り組んでいた。

「陛下。枢密院議長と宰相閣下との会談時刻です」
「わかった。すぐにいく」


翌日、国王決裁の報告書を受け取ったパーマストン外務卿は「昨日はロッキンガム公爵と枢密院議長との会談か」と、王の昨日の行動の一部を知った。

無くて七癖である。

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ハルケギニア~俺と嫁と時々息子~(風見鶏の面の皮)

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ランカスター朝アルビオン王家初代国王であるリチャード12世(4521~4580)は「政治とは、民のやることにあれやこれやと邪魔をしないこと」という言葉を残した。「再建王」と呼ばれた彼は、規制緩和と民間資本の積極的活用によって、四十年戦争で荒廃したアルビオンを立て直すことに成功する。「解放王」エドワード3世(3970-4005)が主導した一連の農政改革(農奴解放と小麦の品種転換)がもたらした政治的混乱と小麦飢饉という先例もあり、リチャード12世以降のアルビオン国王は、基本的に自ら政治行動を起こすことを極力避けるようになった。

すなわち、国内では「自由放任政策」を堅持。平民の商売に介入することなく、悪質な高利貸しや、不正業者だけを取り締まる一方、治安対策に専念した。対外的には、それまでの大陸への干渉を完全に放棄し、大陸情勢には中立を貫く。歴代の王は貴族間の公平な調停と、自らの教養を高めることに専念。何人かは学問で名を残して、国民からの尊敬を高めた。そうした環境で帝王学を授けられたジェームズ1世が、歴代国王と同じく、慎重な政治姿勢になるのは当然であった。性格的にも、政治的な冒険を嫌う。そんなアルビオンで、ゆっくりとではあるが、着実に中央集権化政策が進んでいるのは、変人と名高い、ある王弟の影響に外ならならない。


「風見鶏」と呼ばれるアルビオン王国宰相、ロッキンガム公爵チャールズ・ワトソン=ウェントワースは、自らの政界遊泳術から、政治的冒険を避けるという手堅い政治姿勢の利点と欠点がよく見えた。


制度が上手く機能している時は何の問題もない。しかし、リチャード12世の時代からすでに1700年以上。「再建王」の時代に作られた制度に、疲労が目立ち始めているのは否めない。そんな状況では、政治的冒険をしないという姿勢は、現状の追認-先送りにしかならず、むしろ害悪といっていい。

だからといって、声高に改革を叫んだところで、そう簡単に政治風土が変わるわけではない。内乱が起こったわけでもなし、農民層乱が起こっているわけでもない。そんな状況では、現場の人間でなければ、問題意識を持つ事は難しい。彼らに改革の必要性を説いても、こう返すだけだろう。「むしろそのような政治的冒険こそ、無用な混乱をもたらすのではないか?」と。「解放王」のトラウマは、未だ癒えてはいない。それは「風見鶏」のロッキンガム自身が、誰よりもよく知っている。同時に、内務省港湾局長や南プリマス県知事を歴任した現場の人間でもある。現状維持を望むものと、改革を求めるもの-どちらの気持ちもわかるのだ。


(まったく、やっかいなものだ)

最近薄くなって来た白髪頭を掻きながら、新宰相・ロッキンガム公爵は、閣議の開催を宣言した。


閣議は文字通り「閣僚による会議」である。かつては枢密院の一委員会であったが、行政府の役割が増すにつれて、政策意思決定の中心とみなされるようになった。些細な法案修正や、省令改正などは、関係閣僚だけがあつまる小数の閣議で決定されることが多いが、今回は「省庁再編」という、全省庁にまたがる懸案とあって、全ての閣僚が出席していた。

内務卿のモーニントン伯爵、財務卿のシェルバーン伯爵、外務卿のパーマストン子爵、枢密院議長のハリファックス侯爵 、大法官のダービー伯爵を初め、各省庁の次官・局長級がずらりと顔をそろえている。目立つのは、王立魔法研究所所長のチャールズ・ヴォルフと、王政庁の責任者でもある侍従長のデヴォンシャー伯爵。両者が通常閣議に出席することは無いが、今回は王立魔法研究所や王政庁も対象になるとあって、責任者が直々に乗り出してきた格好だ。


異様な熱気と興奮に満ちた議場を見渡して、ロッキンガムは(やはり辞退しておけばよかった)と泣き言をいいたくなったが、いまさら言っても遅いと、自分を叱咤する。


「えー、このたび宰相となりまし「宰相、早く本題に入ろうではないか?!」

まずは間を取ろうとしたロッキンガムの思惑は、苛立たしげに声を挟んだ内務卿によって、ものの見事に失敗した。内務卿のモーニントン伯爵は、温和な人物として知られていたが、かつての部下であるロッキンガムが、自分を飛び越えて宰相になったという状況が面白いはずがない。ロッキンガムは、「譲れるものなら譲ってる」と愚痴りたい気持ちを抑えて言う。


「・・・まずは、お手元の書類をご覧ください」

言われるまでも無く、殆どの出席者は、すでに資料を開いている。ロッキンガムとモーニングトンのやり取りを聞いていたものは、当人達以外いなかったようだ。

改めて前任者の偉大さに思いをはせながら、ロッキンガムも書類を手に取る。


出席者が目を血走らせながら見入っているのは、枢密院が発案した・・・ということになっている省庁再編のたたき台である。実際には誰の発案なのかは、出席者の誰もが、「あの王弟だろう」と、うすうす感づいてはいるが、それは言わない。

事実、省庁再編がヘンリー王子の発案だとしても、公式に「ヘンリー案」とすれば、この案を否定・批判することは、王族批判になりかねない。ヘンリーとしても、自分の案が最善だとは思ってはいない。現場の意見を、当事者である官僚達の意見を聞かなければ、いいアイデアが生まれるわけがないのだ。しかし、これが「ヘンリー案」なら、王族批判を恐れて、たとえ問題があろうとも、「お説ごもっとも」と言い出す可能性があった。

それを避けるためには、茶番であろうとも「これは枢密院の案である」といい続けなければならないのだ。


それにあながち嘘でもない。発案したのがヘンリーとはいえ、実際にまとめたのは枢密院だからだ。枢密院はアルビオン国王の諮問機関。王の諮問に答えるという形で、国政に影響を及ぼし、かつては国王に次ぐ権威を誇っていた。しかし行政府や議会が権限を増すにつれ、かつての最高諮問機関は、数ある国王の顧問機関の一つとなっている。枢密院顧問官は「国家の有識者や老巧者」-具体的に言えば、武功を立てた退役軍人や、引退した大臣や次官級の官僚が指名されるが、平均年齢が70代ということもあり「茶飲み場」という陰口を叩かれてもいる。


自分達の先輩に、面と向かって反論はしにくい。いい面の皮なのは、ヘンリーや枢密院の代わりに矢面に立たされるロッキンガムだ。モーニングトン伯などは、内容に少しでも問題があれば噛み付いてやろうと、他の出席者は省益と権益、引いては自身の将来に直結するとあって、じっくりと読み込んでいる。事前に内容が知らされなかったため、参加者で内容を知っていたのは、宰相のロッキンガムと、枢密院議長のハリファックス侯爵しかいなかった。

会議の事前に「たたき台」を通知しなかったのは、事前に内容が漏れれば、省庁を挙げての反対運動が予想されたためだ。リチャード12世の時代、財務省の設立に関して、事前に発表したために、反対運動が長引いたという先例もある。それに。公式な記録の残る閣議の場であれば、露骨な省益は主張しにくい。反対するにしても、奇麗事を言わなければならず、ヘンリーの聞きたいことは、そうした奇麗事であった。聞くに堪えない屁理屈も混じってはいるだろうが、屁理屈でも理屈は理屈。筋の通った話も必要である。泥の中の真実は、裏方の調整役(つまりロッキンガム)に任せればいい。


一度、紅茶に塩を入れてやろうかと、どこかの商会代表の様なことを思いながら、ロッキンガムも、書類に目を落とした。


***

沈黙が下りて十数分。閣議の場には、紙をめくる音と、何かを書き込む音だけがしていた。

ロッキンガムは(無駄飯ぐらいではないのだな)と見直していた。

ヘンリーのことではない。枢密院のことである。「国家の有識者や老巧者」が集まるというだけのことはあり、顧問官がまとめた省庁再編案は、年寄りの知恵(悪知恵とも)とでも言うべき配慮が、随所に見られる。


今回の省庁再編は、前宰相スタンリー・スラックトン侯爵の死去を契機としている。そもそもアルビオン王国宰相は、正式な職務権限が既定されていない。リチャード12世の時代まで、アルビオンの首席閣僚は「大蔵卿」であった。それが王政庁大蔵省から「財務省」を分離独立させるに伴い、大蔵省は王政庁の一部局となったため、それまで王政庁のトップの名称であった大蔵卿は廃止され、ハルケギニア大陸諸国で広く使われていた「宰相」という名称が使われるようになった。

国王大権を統治の正当性に位置づけるハルケギニアでは、国政と王家はイコールである。例えばアルビオンならジェームズ1世は『テューダー朝アルビオン王家の家長』であると同時に『アルビオン王国の国王』という二つの顔がある。前者は私的な、後者は公的な人格であり、時と場合によって、求められる人格が違う。

馬鹿馬鹿しいようだが、必要な区別である。国家の歳入を、王が私的に流用しては、国家財政など成り立つものではない。実際、「哲学王」エドワード4世の時代には、ハヴィランド宮殿の建設や、芸術活動に湯水の如く金が注ぎ込まれ、その負担が長く国家財政と民にのしかかった。リチャード12世が財務省を設置させたのも、王室財政(私的なサイフ)と国家財政を分離するためであった。

話はここで繋がる。リチャード12世は、財政面では「王家」と「国家」を分けたが、政治面では一体化を進めた。政治改革を進める上で、両者を分断するよりは、むしろ一体化して「国王大権」を主張するほうが都合が良かったからだ。「大蔵卿」に代わり「宰相」という名称を採用したことからも、それがわかる(宰相は「宮廷で国政(君主)を補佐する大臣」という意味)。「国家」と「王家」をあいまいにすることにより『再建王』は、フリーハンドを得て、様々な改革に取り組めた。

スタンリー・スラックトンのような、腹芸を得意とする調整型の政治家には、この体制は都合が良かった。権限があやふやなことで、宰相の手腕如何では、国政全般に影響力を及ぼすことも出来たからだ。在任期間が15年に及んだスタンリー・スラックトンは掛け値なしに「優秀」であった。それだけに、この宮廷政治家の死後、制度の矛盾がより明らかとなった。「国政」と「王家」の境があやふやなことで起こる、各省庁の権限争いを、スラックトンは殆ど一人で調停していた。重石がなくなった省庁間で、再び諍いが目立つようになってきたのだ。

「これでは駄目だ」

ジェームズ1世は、何らかの対応に迫られた。


そして、クシャミもしていないし、呼んでもいないのに飛び出したのが、ヘンリーである。ヘンリーは国内の治安機関の改革(平民も登用した警察機構の創設)を考えており、平民の登用への貴族層の反発を、省庁再編と言う大事業に紛れ込ませることで、誤魔化してしまおうという、実にセコイことを考えていた。

そういうわけで、枢密院顧問官が、お茶をすすりながら考えた再編案は、宰相職の廃止と、肥大化した財務省の権限分離の2本柱となっていた。


***

(こりゃ助かる)

侍従長のデヴォンシャー伯爵は、その厳しい顔を崩さずに、内心喝采していた。

侍従長は宮中を取り仕切る、いわば「国王の家令」とでも言うべきものである。元陸軍軍人のデヴォンシャーは、宮中の実務に疎く、そうした内向きの事を、宮廷政治家のスラックトンに任せていた。ところがスラックトンの死後は「王璽尚書(おうじしょうしょ)」と「国事尚書」を兼任させられ、悲鳴を上げていた。

ジェームズ1世は、求められる人格に応じて、印鑑を使い分ける。『テューダー朝アルビオン王家の家長』としての印鑑と、『アルビオン王国の国王』としての印鑑を同じにすることはできないからだ。前者を管理するのが王璽尚書、後者を管理するのが国事尚書である。デヴォンシャーには、たまったものではない。これは国事、あれは王璽という区別だけでも、大変であるのに、デヴォンシャーのもとには、便宜を図ってもらおうと、様々な人物が訪れる。追い払おうにも、中には喫緊な対策を必要とするものも含まれており、全てを無碍には出来ない。

スラックトンは、宰相とこの2つの官職を兼任することにより、情報を収集。宰相の不確かな権限を活用して、政権を運営した。これは大変な事務処理能力と絶妙な調整能力の持ち主であるこの老人だからこそ出来たやり方であり、デヴォンシャーは、山のような案件に目を通すだけで精一杯であった。

今回の提案では侍従長と兼任されることの多かった王璽尚書や国事尚書を「兼任禁止」とするとある。デヴォンシャーにはそれだけで願ったり叶ったりだ。侍従武官長の創設も、国王と軍のパイプ役が増えるということで、ありがたい話である。

(侍従武官長に転任出来れば、一番いいのだが)

デヴォンシャーは、シェルバーン財務卿と、ロッキンガム宰相との口論を、聞いてすらいなかった。

***

内務卿のモーニントン伯爵は、ロッキンガムに食いかかろうとしていた自分の役回りを、財務卿が奪ったため、手持ち無沙汰に、手を組んでいた。

(それに、文句をつける理由もない)

今回内務省は、大きな再編はない。港湾局が監督していた街道を「道路局」として昇格させることや、財務省からの「上知令」事業の移管など、権限の強化拡大が目立った。緩やかな中央集権政策が進む中、それまで領主貴族が担っていた公的インフラの整備や、治安維持を担うのは、ほかならぬ内務省であり、ある意味当然である。「治安機構の内務省からの独立」と、「警察学校の創設」というのが気になったが、それよりも増やされる人員と、他省庁から移管される権限の方が関心がある。ヘンリーのセコイ作戦は、この時点では成功していた。委譲する権限より、移管する権限のほうが多いとあれば、内務省が反対する理由はない。

懸案の港湾管轄権に関しては、空軍との厳しい交渉が予想されるが、それでもモーニントンは、自分の務めて来た内務省が「省庁の中の省庁」と呼ばれる日も近いと考え、頬が緩んだ。

(悪いな、財務卿)

***

シェルバーンは、そのそり上げた頭まで赤く染めて、茹蛸のようになっていた。無論、照れているのではなく、怒り狂っているからである。杖を抜かんばかりの剣幕に、ロッキンガムはとにかく下手に出て、シェルバーンをなだめようと必死だった。

「い、いや、決して、財務省をつぶそうとか、そういうわけではないのです」
「ほう、このようなふざけた内容を叩きつけておいて、よくそんな口が聞けますな」

ボルテージが上がれば上がるほど、口調がゆっくり、丁寧になっていく財務卿に、ロッキンガムは冷たい汗をかく。他の閣僚は、巻き込まれまいと目線をそらし「我関せず」を決め込んでいた。

財務省は、産業部門を統括する商工局を「商工省」に、銀行を初めとした金融機関を監督する銀行局を「金融庁」として独立。通貨発行とその流通を監督する通貨局、予算編成権を王政庁に移管・・・財務省に残されるのは、税収を集める事だけとあれば、シェルバーンが怒るのも無理はない。

「これでは『財務省』ではなく『徴税省』ではありませんか?それとも『徴税庁』ですか?」
「い、いや、それは、それぞれ理由がありまして・・・」

小麦飢饉と四十年戦争で、国土の殆どが荒廃した状況から立ち直る過程では、財務省に権限を集中させる事は有効であり、実際、財務官僚は様々な政策を経験することが出来たため、優秀な人材が多く育った。リチャード12世以降、多くの財務官僚が要職に抜擢されたことからも、それがわかる。

しかしその体制がいつまでも有効に機能するわけではない。経済規模が、緩やかながら人口増加に合わせて拡大し、風石船によってハルケギニア全体が一つの市場として認識されつつある中、財務省にだけ権限が偏ることは望ましくなかった。財務官僚の能力が劣っているというわけではなく、徴税、予算編成、執行権、金融監督に通貨発行、果ては産業政策に至るまでを、一つの省庁でやることには無理があった。それが解らないシェルバーンではない。しかし、生きながらにして体を切り刻まれるような内容を「解りました」とうなずくことなど、出来るはずがなかった。

「宰相閣下は身内にお優しいですな」

率直な物言いで知られるシェルバーンが皮肉を口にしたことに、パーマストン外務卿がそのどんぐり眼を見開いた。ロッキンガムの前職は南プリマス県知事兼任プリマス市長であり、内務省にいたことは、この場の誰もが知っている。穿った見方だと知りつつ、皮肉の一つでも言わなければ、気がすまない。


これにはさすがのロッキンガムもカチンと来た。「それは」と反論しようとするのを、パーマストン外務卿が口を挟む。

「宰相閣下は外務省にも居られた事がある。シェルバーン卿の怒りはわかるが、これは枢密院顧問官の方々の案だ。とりあえずはこれを前提に進めなければ、どうにもならないのではないかね?」

そういいながら、ハリファックス枢密院議長を見やるパーマストン。ロッキンガム公爵がハノーヴァー大使を経験したことを踏まえて「外務省にも喧嘩売るの?」とジャブを入れながら、口うるさい暇人どもの枢密院を押し立て「余りごねると、おじいさんが方がうるさいぞ」と、胸元に杖を突きつける。

阿吽の呼吸で、ハリファックス枢密院議長がじろりとシェルバーンを睨みつけた。御年80になる老元帥を前にしては、さしものシェルバーンも意見を引っ込めざるを得ない。


地獄にブリミルとはこの事と、パーマストン子爵に目線で感謝するロッキンガム。今回外務省はほとんど手付かずといってよく、中立の立場から意見を表明することが出来た。それを踏んだ上で、パーマストンは意見を述べたのだろう。しかしながらシェルバーンの怒りが消えたわけではなく、これから粘り強く抵抗するであろう事は疑う余地がない。枢密院の爺どもはそれを踏んだ上で、ある程度「吹っ掛けた」のだろうが、肩にのしかかる疲労感と、込み上がる胃痛を抑えることは難しい。


(・・・先が思いやられる)


胃液を飲み込み、ロッキンガムは口を開く。


「宰相職は廃止、行政府の長として、国王大権を補佐する首席大臣の『首相』を設置、閣僚を『大臣』と呼称することに、ご異論はありませんか?」


歓喜・憎悪・傍観・諦観・無関心・・・これほど様々な感情のこもった目で見られたことは、ロッキンガムは経験したことは・・・意外とある。「風見鶏」などと呼ばれ、家を守るためにその生き方を選んだ彼にとってみれば、そんな視線を受け流すことなど、慣れたことである。

パーマストン外務卿-初代外務大臣は呆れていた。新設の首相職に誰が就任するか-普通に考えれば横滑りであろう。それを、記録が残される閣議の場で「自分でいいですか?」と同意を求めるとは、一体どんな神経をしているのか?



心棒がしっかりしていなければ、風見鶏は風と共に飛んでいってしまう。



ロッキンガム公爵は、意外と図太く、あつかましく、ちゃっかりしていた。




***

(その頃のヘンリー)

ラ・ロシェールでは、アルビオン空軍の軍艦『キング・ジョージ7世』が、粛々と出航の準備を続けている。


「ヘンリー殿下」
「なんだねタウンゼント君」
「この樽は何ですか。私の目の錯覚でなければ、ワイン樽に見えるのですが」
「ははは。何を言うんだねタウンゼント君。これがワイン樽以外の何に見えるというのだね」
「・・・はぁ」
「心配は無用だ。風と水のメイジに、樽ごとに酸化防止と防腐処理を行わせたからな。気圧が多少変わろうとも、味は落ちない」
「いや、そういうことではなく、このワインは殿下の私物なのですか?」
「無論私物だ。お土産だ」


「・・・」



「な、なんだよ!ちゃんと宮廷費を節約して買っているんだからいいだろう?・・・・・・やめて!そんな目で見ないで!」



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