幕間20・佐々木良夫の諦観ベッドの上、白い天井。星空の下、竜の背中。幸せに近いのは、どっち。ヒロインなのか、黒幕なのか。その“キャラクター”の正体については初登場時から様々な憶測が飛び交っていたらしい。ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。最初に“彼女”が登場した場面は最初も最初、『第一章 俺は使い魔』だった。才人がハルケギニアに召喚され、何が何だか分からない状態でヒロインと言い争っている時に、それを中断するような形で現れた2人目の少女。才人視点でのルイズの評価(という名の容姿説明)は最初から『とびきり可愛い』とあったが、彼女に対しては『灰色の髪と瞳の少女』程度で、本来の“物語”では目立つことなくBADENDな一生を終えた、何とも彼女らしい評価だった。だから、それだけだったら…、ただ話しかけただけだったら、ルイズを野次っていたその他大勢のような脇役Aとして流されていただろう。しかし、そこで彼女はその他大勢から逸脱する“イベント”を起こす。巻き付いてくる巨大なムカデ。主人公の五感に叩き込まれるファンタジーという名の“現実”。それは原作ではルイズに殴ってもらって(+気絶のコンボ)思い知るはずだったイベントの代役を果たし……同時に彼女をただのモブではない登場人物と印象付けた。ピンクブロンドの髪に鳶色の目の美少女に対し、灰色の少女。華やかさと地味っぽさ、怒った顔に笑った顔。対称的……とまでは言わないが、全く違ったタイプの2人。一巻表紙のピンクな美少女はメインヒロインとして、……この軽薄そうな笑顔とわざとらしい口調の彼女は何者なのか。物語にどう関ってくるのか。敵か味方か、それともやはり妙なキャラ付けがされただけの脇役だったか。とか思っていたら。翌朝イチで友人になった。態度は初っ端から友情値7割以上(?)かというフレンドリーっぷりで、前夜のルイズから受けた貴族の印象は微塵もなく、異世界うんぬんも疑いすらしなかった。トラウマになりかけた大ムカデは従順な犬のように言う事を聞き、ご自由にお使いくださいというサービスっぷり。この娘、容姿的には完敗ながらメンタル面でヒロインの座を狙う、ルイズのライバル的な“役割”か?と思いきや……しっかりルイズをフォロー。むしろやたらと親切、献身的で、果ては才人とルイズとの仲を取り持とうとするような言動&行動を見せる。そのせいもあってか、ライバルになるどころかヒロインにまで好かれてしまった。彼女が相手だと、ヒロインは主人公を巡っても争うことをしないだろうというほどに。主人公らを助けるために存在するかのような“都合のいい”キャラクター性。平民に親しまれる異色の貴族。3人目の少女キュルケ、そしてタバサとの関係。主要人物同士を繋げる架け橋のような存在。フーケの事件。アルビオン。出番は減るどころか増え続け、役割も物語が進むにつれ重要な役を担うようになっていく。操られ、奇跡の生還を果たし、女王を諌め、皇子の心を救い、謎を残して失踪し、かつての悪役たちと共に、戦争を止めた。物語が進む時、彼女の姿は常にそこにある。口調はいつも冗談めいていて、態度もどこか飄々と余裕を感じさせるもので。それは“彼女”の素顔を隠す仮面のような役割を果たしていた。登場人物たちから信頼を得れば得るほど、……一部の読者視点から見れば“怪しさ”は膨らんでいった。才人やルイズにはある一人称視点による心中の描写が“彼女”にはなかったのも“怪しまれる”要因の1つだったかもしれない。ヒロインなのか、ジョーカーなのか。それ以前に、善か、悪か。ただどこまでも純粋に“いい人”なのか、大きな目的の為に動く稀代の“策謀者”なのか。それが、今回。他ならぬ“彼女”の放った独白で、その疑問はついに結論付けられた。いつか、マチルダに言われた事もある疑問。ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアとは“何”か。その答えは―――、※※※※※※※※白い天井を見上げ、溜息をつく。事故から今日で何日目になるだろうか。眠っている間に“私”を体験したりするせいで、時間の感覚が酷く曖昧だ。海外旅行なんてしたことないから分からないが…多分、ヘタな時差ぼけより酷いだろう。こんなんじゃ、怪我が治って社会に復帰した時に色々とマズい気がする。そうでなくても日常生活的に……まあ、社会に復帰も何も、就職が決まらないとどうしようもないんだが。“俺”がもし“私”だったら、就職で悩むなんてありえないだろう。平民から王族まで、コネの幅広さは常識ハズレなくらいだし、国だって4国くらいならカバーできる。というか今現在、親友の1人は現役の女王陛下で、腕の中で眠っている少女も近い将来そうなるお方なのだ。職探しとか、逆によりどりみどりすぎて悩むくらいかもしれない。尤も、肝心の“私”はアレなので、そんなの思い付きすらしないだろうが。思い付くどころか全力でその関係を清算したがっている。羨ましいのか、羨ましくないのか。“我ながら”よく分からない。……うん、“こっちの現実”逃避はこれくらいにしておくか。久し振りに頭がクリアな“俺”の時間だ。無駄に使うのも勿体無いだろう。<離別の序曲>(わかれのオーバーチュア)という副題の、第八章。タバサの視点で開始したその話は、再会の物語。そして、“終わり”のプロローグ。逢いたかった“ねえさま”、そして語られるハッピーエンドへの道。タバサは背中に感じる温もりと、彼女の歌う子守唄を聞きながら久方振りの安眠を得る。現在…というか前々から若干その気配があったが、タバサのラリカに対する信頼度というか評価は、過大なくらいに大きかった。それが今回の無血革命の裏話(半分事実で半分嘘だが)やら何やらで、余計に大きく強力になってしまった。ジョゼフが“虚無”だと知っても、それに単身挑むと聞かされても、“ラリカならきっと成し遂げるだろう”とハッピーエンドを信じてしまうくらいに。夜空、シルフィードに乗って。ラリカに背を預け、髪を撫でられながら眠るタバサの挿絵は本当に幸せそうだった。そっちがメインでアップになっているため、彼女を抱くラリカは口元までしか写っておらず、それがまた何ともアレな感じになっている。“私”の思惑通り、“ゼロの使い魔”に例の台詞はカットされることなく載ってしまった。無駄にバッチリ揃ったシチュエーションの中での独白。これを切欠に、ラリカ黒幕説は消滅。代わりに退場フラグが聳え立った。てか既に副題からして離別とか言ってるし。とにかく、彼女はどこまでも愚かなくらいに善人で。策謀も何も、この先は奇跡でも起こらない限り……全てを忘れて、失って、物語から退場する運命にある。それが今回、確定した。腕に付けられたよく分からない器具が外れないよう、注意しながらノートパソコンを点ける。昨日はこんな器具付いていなかったと思ったのに、最近は目を覚ます度にいろいろ増えていて困る。確かに大怪我はしたけど病気ってわけではないはずだし、あんまり医療費かさむようなコトはしないで欲しい。保険金とか慰謝料?とかでその辺は大丈夫なのかもしれないけど。まあ、本やらパソコンやらの持ち込みが許可されている限りは我慢するか。器具追加のせいで制限されるとか言われてから文句言えばいいな。……うん、いろいろ説明聞いたはずなのに、あんまり憶えてないな。健忘か、それともムズかしい話だからって、俺の優秀とはいえないアタマが記憶するのを放棄したのか。今度また詳しく聞こう。……。Wikipxdiaにpixib、ArcediaなどのSSサイトから同人検索。登場人物説明は相変わらずの主要人物扱いで、イラストその他は当社比何割か増しの美化っぷり。イラストでなら並み居る美女・美少女たちとも互角に戦えそうだ。地味で無個性な制服から、現在の特徴ありすぎ狙いすぎな格好になった事も相まって、実にそれっぽい。無駄に格好つけたポーズで斬伐刀(廃刃の方)や弓を構える絵とか、もう何ていうかモロって感じだ。ある意味、“私”の計算通りと言ったところか。ちなみに才人やルイズで調べると、そこそこの確率でココアが一緒に描かれている。こちらに関しても、最早ココアは才人たちの乗り物だという認識が定着してきているのだろう。ココア回収はほぼ諦めているので、コレに関してはもうこのままでいいのかもしれない。斬伐刀とデルフの立場も……、これはもう前々からか。デルフは泣いていいと思う。二次小説や読者同士の考察での『もし○○がいなかったら』では、彼女がいなければ“詰む”みたいなことすら書かれている。ルイズと才人、彼らとキュルケやタバサとの仲。共通の友人で緩衝材だったラリカがいなかったら、友情は成ったのか。ギーシュ戦で斬伐刀を貰えなかった才人。下手をすれば殺されてしまうか、よくても大怪我をするか。フーケ戦ではココア不在で、才人とルイズは地上で巨大なゴーレムと戦わなくてはならない。貴族のプライドと魔法への執着、ルイズが果たして“破壊の杖”を使えたか。アルビオン行きではギーシュ不在は確定、キュルケやタバサとも友情が育めていないため、彼女らの参加もなかったかもしれない。ワルドに直接接触し、交渉するミョズニトニルン。戦闘の難易度は跳ね上がり、ワルドも完全にジョゼフサイドに付いてしまったかもしれない。タルブへ宝探しになんて行くことはなく、ゼロ戦は手に入らない。シエスタの村は蹂躙され、エクスプロージョンが敵の船団を沈めるイベントは起こらない。ゾンビウェールズに唆されたアンリエッタを誰が止めるのか。ともすればキュルケやタバサの不在に加え、無傷のアンリエッタが参戦した場合、勝敗は。ティファニアの運命もどうなっていたか分からない。ワルド、マチルダらと共にクロムウェルを打ち倒さなければ、戦争は終わらなかった。敵の尖兵のままのワルド、暗殺されないミョズニトニルン、不死の軍団を率いるクロムウェル、そしてジョゼフ。対して、その脅威を前に立ち向かえる“仲間たち”はどこまで揃えられたか。詰みそうな例は挙げていけばきりがない。実際はラリカなんていなくても上手くいくはずなのだけど、……むしろホントはいない状態で普通に話は進んでいたけど、“読者”が知るのは“ラリカがいる”物語。いなかった場合はどうなるか、なんて分かりはしないのだ。何だかんだであのメンバーが揃うとかまでならともかく、シエスタやタバサ、アンリエッタ女王陛下にティファニア女王陛下までも恋愛要員になるとか、逆にそっちの方が“ありえない”と思われるだろう。現に、今まで見た限りでは、ラリカ不在のIFストーリーのSSでは、俺の知る“原作”の流れをなぞったものはもう見当たらなかった。“原作”を滅茶苦茶に掻き乱し、どうしようもないくらい“彼女”が定着してしまった世界で、その元凶は今、すがすがしいまでの身勝手さ全開で今度は世界から逃げようとしている。相変わらず例の挿絵には、ジョゼフと向き合うセーラー服姿のラリカが描かれていて、それは確かに別の意味でも“絵”になっていて。このシナリオはもはや揺るぎそうもなく……作戦の大筋はもうほぼ成功という形で確定している。ジョゼフの興味は充分すぎるくらいに引けているから、教皇と会うよう仕向けることも難しくはない。教皇だって“虚無”が会いたいと申し出て来れば断る理由がないはずだ。謁見時にいろいろ訊かれるのは確実だが、“私”はそれを全く問題にしていない。むしろ答える必要がないと思っているので、回答の用意すらしてない。『ロマリアの教皇の“虚無”で、土のルビーの記憶に触れるのです。そうすれば、貴方の望みは叶うでしょう』“私”が彼に言うつもりでいるのは、これだけ。チーム・ワルド対策に頑張って考えたミョズニトニルンとの関係とか、その他膨大な疑問点についての説明はしない。相手は妙な格好をした小娘。されど計画を挫き、“神の頭脳”を撃破した小娘。そいつが、単身で自分の城にやって来た。と思ったら、自分の質問には答えず、逆に『望みを叶えてやるからこうしろ』と上から目線で指示を出す。ジョゼフがもし普通の王だったら、何言ってんだこのアホ娘は?と呆れながらもとりあえず情報を搾り出させることに専念する。質問に答えさせるため尋問拷問大盤振る舞いで、“私”はあえなくBADENDだろう。しかしジョゼフは“普通”の王じゃない。彼の性格から、面白がって“とりあえず一度は”その言葉に従ってみるだろう。それで完全に“チェックメイト”だ。教皇に会って、過去を知ればもうお終い。残るのは、もはや“私”が何者かとか…それどころか、全てに興味を失った抜け殻。きれいなジョゼフ。ミョズニトニルンがいないので原作のように彼女に刺されることはないが、同時にルイズも才人もいない。そして“私”は止めない。恐らく、タバサに斬られて終わりだろう。質問の回答を求めていた者は死に、タバサは“私”に質問しない。質問したとしても、“私”は笑って誤魔化すつもりでいるし、誤魔化されてもタバサは追求しないだろう。で、仕上げの記憶消去という名のフェードアウト。“私”が救われるなんて“奇跡”は起こらず、記憶消去以外の代替案も見付からないまま答えは永遠に失われて。伏線やら謎は投げっぱなしのまま…。広げた風呂敷そのままで、“私”の思い描いたエンディングを迎えるのだ。……。…そんなに経っていないのに、やたらと目が疲れた。目の疲れと毎度の頭痛が合体なんてしたらシャレにならないので、パソコンの電源を落とす。そして目に優しそうな緑の…、めぼしい緑のモノがないな。小説の裏表紙は緑色だが、眺めるには向かない気がする。閉ざされた窓から見える景色は隣の建物の壁だし、この病室には観葉植物の類は置いていない。鉢物はダメとかそういう関係かもしれないが、だったら偽物でも置けばいいのに。結局、眠くもないのに目を閉じることにした。瞼のカーテンで白から黒に塗りつぶされる視界。そういえば、“私”は現在星空の下か。海の上空、雲の上だから星空がやたらと綺麗だった気がする。残念ながらロマンチストとは程遠い俗物思考の“私”にはあんまり興味がなかったが。まあ、人の事は言えないけど…いや、自分の事は言えない、か?どっちでもいいか。このまま眠りについて、次に“私”の目に飛び込んでくる光景は何になるだろう。海から昇ってくる太陽か、それともそびえ立つガリアの城になるのか。順風満帆。計画は滞りなく進行中。放置でOKと思い込んでいるルイズたちが今も自分の行方を必死で探しているだとか、各国に『アルビオン女王と共に革命を起こした謎の少女』という情報が渡り始めているだとか、それを耳にしてティンときた某女王陛下が、速攻でアルビオンに使いを出したとか、そのアルビオンでは現在進行形でいろいろ大変な事になっているだとか、完璧にWin-Winだと決め付けているこの計画が、実際は誰一人として納得しないし幸せにもなれない代物だとか、本来なら致命的になりかねない数々の誤算はあるけれど、彼女が望む結末を迎えるうえでは問題はないのだ。きっと願いは叶うだろう。いろんなものを踏みにじって、悲しませて、心に深い傷を負わせて。『誰も不幸にならない最高のエンディング』だなんて馬鹿な勘違いをしたまま。そして俺は、“私”としてそれを見ることになるのだ。………。眠くはなかったはずなのに、意識が、だんだんとうすれていく。まあ、いつものぱたーんだな。もう、なんだか、いろいろ、どうでもよくなってきた。わたしに、おれのこえ とどかないし、なにもできやしな いんだしただ、 のかなし かおはみたく い……?なにか が てんめつ してどあがいしゃ、 ? ? …………※※※※※※※※<Side ???>「――――――― それで、本人には?」「いずれは伝えようかと思っているのですが。ただ、なんと伝えるべきなのか。彼も自身の身に起こっている“異常”にまだ気付いていないようですし…」「…はい、それは理解しています。ですが、このままでは決して好転しないということも分かります。だから、先生…」「……」「もう、わたしたちの覚悟は決まっています。良夫に伝えてください。それから家族みんなで話し合いますから…」「彼がどう受け止めるか、そしてどんな結論を出すかは分かりません。ですが、我々としましても全力は尽くさせていただきます。…必ず治す、と言い切れないのが情けないですが」「…先生」「佐々木さん…分かりました。では、良夫さんが次に目を覚ました時、 いえ、次に“生き返った”時、 ―――――――――― 彼に手術の件を、お伝えしましょう」――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――すごくお久し振りです。昨年末からいろいろで、更新できないままこんなに経ってしまいました…orzそれなのに空白期間中も感想を書いていただいていて、ありがたいやら申し訳ないやらでいっぱいです。また更新していきたいと思いますので、暇でどうしようもない時などに読んでいただければ幸いです。