第五十九話・強引愚昧ウェイ(Going My Way)いつかの言葉をちょっと変えて。今度は確殺の心を込めて。 ―――― ご崩御ください、国王陛下☆『 ―――― チェックメイト 』私は考えた。残された道を。『はじめまして、ガリア国王ジョゼフ陛下』オーバーヒートした脳味噌は、それでも私に最後の道を教えてくれた。何てことないカンタンな結論。今まで思い付かなかったのは単純に勇気が足らなかっただけだ。『わたくし、陛下の“チェス”の対局相手をつとめさせていただきました……そうですね、“フェイカ・ライア”とでも名乗っておきましょうか』でも、もう追い込まれた。四方八方塞がれた。なら、もう正々堂々、正面からブチ破るしかないでしょう。『皇帝 <キング> になりたがった分不相応な僧侶 <ビショップ> は今や私のお人形。死体の兵士 <ポーン> たちと共にこちらの手駒になりました』出し惜しみなんてしない。手持ちのカードは全部出す。覚悟はできた。心は決まった。『切り札の <クイーン> も、いえ陛下の“女神”でしたか?彼女はとても優秀な駒だったようですが、残念。相手が悪すぎたようです。儚くも散ってしまいました』もう他人に夢は見ない。信じる者が“すくわれる”のは主に足元で、ヒーローが奇跡を起こして助けに行く対象はヒロインだけだ。つまるトコロ、私のようなモブ以下のクズ女が平穏を掴み取るには、自分のチカラでどーにかしろってことなのです。『それで、ものは相談なのですが。宣言したはいいものの、やはり実際に <キング> を取ってゲームを閉じたいのです。それにお互い対局相手の顔も知らないのはどうかと思いますし』だから、私は決めた。フーケ以降、全ての元凶であるこのアホ王。“最初の私”が殺されたのだって、大元を辿ればヤツの戦争ゲームから始まった。そしてこれからも(原作的に)10巻以上にわたって事件は起き続ける。ヤツがいる限り、それは約束された不幸な未来だ。打開するには?私が救われるためには?『お手数ですけど、迎えを寄越していただけませんか?』結論。ガリア王、ジョゼフ1世を“死なす”こと。全ての元凶を、断つこと。それが究極の解決策で、私はそれを実現できるカードを持っている。なら、やってやるしかないでしょう?『ふふ、感謝いたしますわ。お礼に…楽しい対局をさせていただいたお礼に、完全な敗北に添えるカタチで陛下の望みを叶えて差し上げましょう』嘘と偽りにまみれた私だけど、嘘偽りなく貴方の望みを叶えてあげる。求めていたものを、探し続けていたものを、与えてあげる。貴方が忘れてしまった感情を、後悔を、死に至る“心の痛み”を届けてあげる。『では、お会いできる日を楽しみにしていますわ。陛下』貴方を“殺す”ことはできないけれど、貴方を“死なす”ことなら可能だから。もうこの先、この目的を果たすまで、私は何があっても立ち止まらない。私の、最後の戦いだ。これで本当に“終わる”。この戦いの結末がどうであれ、正真正銘これで終わるのだ。……ま、勝つのは私なんだけど。“私”の仇。過去なんぞに囚われた憐れな王よ。渇望した心の震えと、温かな後悔に満たされて、死ぬがいい。『ふふふ、あははっ!あっはははははははははははははは!!!!!』ふはははははははははははははははは!!!!!あはははははははははは。……ははは。…はは。あー………。……ぁ。…。うん。ついカッとなって言った。後悔はしていない。していないったらしていない。無駄な事はしないのです。どーせもう何ともならなかったしネ☆…でも。まあ、その、アレだ。後悔とかしてないし、ちょっぴりビビッていたとかそういうのも微塵もない。アタマ冷えてきたら震えが止まらないとか全然ない。武者震いはしてるけど。大丈夫、OK、問題ない。私は冷静だ。でも、何と言うか。その。ちょっとだけなら泣いてもい~よね?………ぐすん。※※※※※※※※見慣れた病室の白い天井を見上げながら、ぼんやりと混濁した頭で…思う。あの日の記憶。“私”の選択。追い込まれるところまで追い込まれた“私”が出した結論。“俺”の、佐々木良夫の願いは、分かっていたけど…叶わなかった。彼女の全てを賭けた最後の策は、本当に彼女の思い描く通りの結末へ届くかもしれない。奇跡的、と言っていいかどうかは分からないが、策を果たすだけのモノもヒトも状況も全て整っている。加えて、今回彼女は表舞台に露出するのだ。今までのように原作の誰かと一緒にではなく、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアという個人で。Wikiにも明記されている、“主要登場人物”として。今までの彼女の行動、そして舞台裏や心情を明かされないまま作られた人物像は、“それ”を成し得るだけの資格が十分にある。脇役のままでは成し得なかっただろう大事も、今の彼女ならば可能かもしれないのだ。そして、それだけにとどまらず、彼女には…“代償”まで用意されている。たった1人で黒幕の“虚無”を倒し、戦争を終わらせる。いくら“主要登場人物”となっても“主役”ではない者にとって破格ともいえる活躍だ。場合によっては主人公達の助けが必要になったり、予期せぬイベントが起こってしまう危険もある。でも、それを成すのに“代償”を支払うのだとしたら。活躍につり合うだけの悲劇が用意されているとしたら。例えば脇役でも、死と引き換えにすれば多少の強者を倒せるように、代償を支払えばそれなりの活躍が許される。“見せ場”を与えてもらえる。Wikiの登場人物、“上から3人目”の少女が、取り返しのつかないくらいに大きな“代償”を支払えば、どこまでの活躍が許されるか。“可能”になるか。だから彼女は……本当に、思い描く通りの結末を掴み取れるかもしれない。でも、きっとそれは誰も本当の意味で幸せにはなれない結末。自分を想ってくれている全ての人を裏切る、最低のエンディング。もしも、ルイズを信じていたら。才人を、キュルケを、タバサを、ギーシュらの間にある友情を、愛情を信じていたら。先入観を持たず、“今”のワルドを、マチルダを、ティファニアと向き合っていたら。自分に向けられる感情を、素直に受け取れていたら。こんなはずじゃなかったかもしれない。たった1人でも信じられる存在がいたなら、別の選択肢を選んでいたかもしれない。最初に望んだものとは違っても、幸せを掴んでいたかもしれない。…でも、ラリカは結局、誰も信じなかった。無口で内向的な“私”を嘘で覆い隠し、明るく社交的な“私”を演じた。利用目的で近付き、相手の境遇を、性格を、隠された内面を……“原作知識”によって得た情報を使い、取り入った。それは、嘘の自分が嘘で築いた嘘の関係。過ごした時間は騙した時間。嘘の自分でいる限り、“原作知識”がある限り、全ては偽りでしかない。そしてこの関係は、嘘の自分でいるからこそ、“原作知識”があるからこそ成り立つもの。本来なら疎まれて育ち、見下されて過ごし、僅かな期待にすら応えられずに死んだラリカ“なんか”が手にできるようなものではないのだ。ルイズみたいにいい子が、才人みたいにすごい子が、キュルケみたいにきれいな子が、タバサみたいにえらい子が、自分“なんか”と絆を紡ぐはずがないのだ。どうせ、全部ニセモノなのだ。そうラリカは決め付けていた。ある意味、それは“ラリカ”という少女と友人になった彼らに対する最悪の侮辱だろう。劣等感は仕方がなかったかもしれない。“原作知識”というチートを使っているという罪悪感もあったかもしれない。彼らとの最初の出会いは、それこそ打算でしかなかったのかもしれない。でも人は変われる。嘘から出た真実なんて幾らでもあるはずなのだ。なのに、ラリカは頑なに決め付けた。自嘲と現実逃避をするばかりで、変えようとも変わろうともしなかった。本当の意味で、彼らと向き合わなかった。……こんな結論を出してしまうくらいに、誰も信じることができなかった。IFは所詮、意味のない“もしも”でしかなく、現実は現在進行形で進んでいく。屑は屑のまま、変われないまま、それに相応しい結末に向かっていく。止められない物語は、彼女の物語は、加速していく。ぼんやりと、抗えない睡魔が襲ってきた。“俺”が眠り、“私”が目を覚ます。また再び、“私”が始まる。…。ラリカ。愚かで、あわれで、どこまでもすくわれ、ない、“わたし”。おまえ は、※※※※※※※※水の精霊が言った、“満たぬ者”。それはミョズニトニルンの使った禁忌の魔具“ユンユーンの呪縛”を強制的に解呪した為に、ラリカの心の一部が破壊されてしまった事を意味していた。それは偶然か、必然か。欠けたココロは、しかしそこに別のモノを残す。―――― 原罪の記憶。ミョズニトニルンの欠片。夢というカタチでそれに気付いたラリカは、自分が“自分だけのものではない”事への恐怖を抱えながらも周囲にはその事実をひた隠し…やがて完全に自分の中のミョズニトニルンを知覚していった……。そして運命の日、魔法学院寮で起こった奇妙な事件。あの夜、完全にサルベージしたミョズニトニルンの残留思念“悪意の欠片”を壮絶な深層心理戦の末、制御することに成功したラリカは、ある決意を胸にトリステインから去ろうとする。そこに偶然現れたのはかつてアルビオンで戦った裏切りの騎士、ワルド。現在は神聖アルビオン共和国に籍を置くその男を、しかしラリカは“敵”と見なかった。なぜなら、彼女は知っていたから。いつの日かタルブの夜。“際会”した彼の瞳には、負の想いなど映っていなかった事を。騙し、裏切り、殺した彼は、それでもなお、邪悪に歪んではいなかった事を。ゆえに、ラリカは彼の言葉に頷いたのだ。……貴方の目的の為に、私を利用するのは構わない。だから、私も貴方を利用する。言葉でなく、その“契約”は心で交わされた。偽りの虚無クロムウェル、その傍らに立つ謎の美女シェフィールド。その2人を討つ事に成功した4人(ワルド、マチルダ、ティファニア、ラリカ)だが、シェフィールドが倒れた瞬間、異変が起きた。悲鳴をあげ、顔を押さえて苦しみ出すラリカ。そして真紅に染まる、彼女の右目。『彼女に“アンドバリの指輪”を使ってはいけない』頭を押さえ、肩で息をしながらラリカは言葉を紡ぐ。『彼女は、“神の頭脳”ミョズニトニルン。あらゆるマジックアイテムを“支配”する伝説の使い魔。彼女に対しては、あらゆるマジックアイテムを使ってはならない』シェフィールドを操ることができれば、有益な情報を聞き出せるかもしれなかった。彼女を討つ目的の1つはそれだった。しかし、ワルドは、ティファニアは…マチルダは、ラリカの言葉に従った。『私がトリステインを抜け出そうとした理由、そしてワルド様たちと行動を共にした理由、お話します』眠るように横たわるシェフィールド…いや、ミョズニトニルンの屍の傍らで、ラリカの告白が始まる。ユンユーンの後遺症、ミョズニトニルンの記憶により知った事実。とある事情から心を失った“虚無”と、そんな主を愛してしまった使い魔。報われない想いはやがて狂気になり、歪んだ方向へと暴走していく。……喜びを喪った貴方へ“勝利する者の喜び”を。 ……怒りを喪った貴方へ“裏切られる者の怒り”を。 ……哀しみを喪った貴方へ“失った者の哀しみ”を。 ……楽しみを喪った貴方へ“その全てを支配し見下ろす王者の楽しみ”を。見てもらうために、思い出してもらうために、感じてもらうために。この白の国を“舞台”に彼女は“役者”たちに演じさせたのだ。『……私は、そんなミョズニトニルンを止めたかった。きっと、彼女を理解できるのは“彼女のカケラ”を持つ私だけだから…』ラリカはミョズニトニルンの髪を優しく撫でる。『これがワルド様に付いて行った理由です。付いて行けば、いつかこの人に逢えると思って。逢えたらどう説得するかとか、そこまでは考えていなかったけれど』その結末はミョズニトニルンの死だった。『でも、これで良かったんです。彼女が死んだ瞬間、私は全てを“識り”ました。ユンユーンの最後の呪いによって、断片的だった彼女の記憶が私に流れ込んできたから……』ユンユーンの呪縛。ただ人を操るだけでなく対象の人生そのものを奪い取る、忌まわしきそのマジックアイテムに残されていた、最後の呪い。それはミョズニトニルンの死の瞬間に発動し、呪縛に囚われた者の肉体を奪い取るもの。ラリカは呪縛から不完全なカタチでだが逃れていたため、ミョズニトニルンに成り代わられることはなかった。だた、記憶と想いだけを情報として流し込まれ、全てを知ることができたのだ。『……これで、良かったんです。彼女は終わりなき狂気の牢獄から、解放されたのですから』愛ゆえに歪んでしまった最凶の使い魔。アルビオンに災厄をもたらした彼女もまた、運命と言う名の呪縛に囚われた悲劇のヒロインだったのかもしれない……。………。とまあ、そんな具合で。以上が“今までのあらすじ”…とゆ~か“設定”。使える情報や人物をフルに使い、矛盾とか疑問にも懇切親切にお答えした珠玉の嘘。この“設定”を前提に、私の最大最後の策は始動する。もうしてるか。チームワルドの面々は、実は全ての元凶であったミョズ姐さん(“設定”参照。死してなお利用してごめんなさい&ありがとう姐さん)が死んだからガリア関連のアレはとりあえず収まったと判断、現在は新政権を軌道に乗せるべく色々頑張っている。実際ジョゼフ側もアルビオンを今すぐどーこーしようとか思ってないみたいだし、その判断は正解だろう。まあ、アルビオンは戦争してたトリステインとの間では終戦しちゃったし、逆に今の状況ではガリアが侵攻とかする理由がない。新政権が気に食わないから侵略するよ!とか空気読まない戦争はできるかもかーもだけど、現在、ジョゼフの興味は国家戦争でなく、私個人だ。つまるところ、“今のところ”戦争は終結。どっかで小競り合いくらいはあるだろうけど、一応は平和っていえる状態に戻った。ヤツがいる限り、危険な状態は微塵も変わらないけど、とりあえず“今のところ”は。我が目的のその1、『戦争に巻き込まれるとかイヤなので、とりあえず平和な世界』。――――(仮)達成。で、次は私にメロメロ(別な意味で)な憎いあんちくしょう、ジョゼフの始末。これ最重要。てか、世界がいくら平和でも私の平和が約束されなきゃー意味がないし。本末転倒なんてベタ、もう我が辞書には載ってないのだ。…ま、すでにやっこさん、まな板の上の鯉なんですけどね☆私の挑発に乗った時点で…彼の性格からして乗るのは100%確実だったけど、その時点でほぼ終了。私はこうして屋敷で優雅にワインを飲んでるだけで、動いたり頑張ったりする必要はNOTHING。送迎のガリアタクシーにお城まで連れて行ってもらい、謁見の場で“例の話”を出せばチェックメイトだ。なんて簡単なお仕事…!!後は憑きモノが落ちて生きる気力&狂気を失い、キレイなジョゼフと化した彼に、政権をタバ子にでも渡せとかタバ子ママンをどーにかしとけとか、私をアルビオンに送れ(コレが最重要)とか言って、後はまあ、自殺するなりタバ子に殺してもらうなり好きにしてもらう。ガリアの“虚無”は、そうして私の前に為す術もなく滅びるのでありまーす。ワイングラスを呷り、う~んマンダム、と自画自賛。ちょ~っと酔ったかな?さっきもほんのり寝ちゃったみたいだし。もう今宵は待ち人来ないかもかーも。あと30分待って来なかったらベッドインしよう。どーせあんまり寝れないだろうケド、それでもベッドに入れば多少の疲れは取れるはず。ま、どういうわけか、あんま疲れを感じないんだけどね。何と言うか、常にドーパミン分泌マシマシ状態?アドレナリンだっけ?どっちでもいいか。…ええと、どこまで、そうだ。我が最後にして最大の策は、言葉の通り“最後まで”を考えた策だ。当然の事ながら、この策を成していくうえで私は無茶苦茶に目立つだろう。表にだけでなく、裏の方面にも。使い魔能力は使えなくてもミョズニトニルンの記憶と知識を持ち(“設定”上)、新生アルビオン樹立のメンバーの一員(実際は人質で何の役にも立ってない)で、加えてジョゼフを“死なせ”る(予定)とか、もうフルスロットルで目立つ。もう忘れられてる可能性は高いが、ルイズと才人っていう“主人公達”の知人ってのも痛すぎるし、アンアンにまだ恨まれている可能性だって捨てきれない。それに、ジョゼフを“死なせる”のには例の教祖の“虚無”を利用するんだけど、余計な事を喋られたら確実に興味を持たれるだろう。あの宗教国の連中、実に怪しい方々なのでトラブることは必至だ。せっかくジョゼフを消しても、今度は教皇に目を付けられたりしたらたまらない。原作知識もジョゼフ攻略までで打ち止めだし。こうして挙げてみると問題は物凄~く山積みだ。ひとつひとつ解決していくなんて無理ゲーだろう。普通なら。でも、我が策はそれすらも楽~に解決する“手段”を持つ。“奥の手”、最終兵器。最後まで、エンディングまで、全てとっくに計算されているのだ。ワイングラスを…もう中身ないや。ちょうどいい、今日はここまで。あんまり考えるとお腹すくし。夜食は横に成長する要因なのです。ただしテファの場合は胸に栄養行くけど。じゃあルイズとかどこに行ってたんだろう?タバ子は?異次元?…どうでもいいか。大きく伸びする。待ち人、ガリアからのお迎えに備えてわざわざ“こんな格好”をしていたけど、寝間着に着替えるかな。右目の“コレ”は…ホントは付けたまま寝るのはダメなんだけど、もしもの時のためにそのままにしとくか。実に視力的心配がマッハだ。小さく欠伸をして、椅子から立つ。どさり、と外で誰かが倒れる音が聞こえた。とんとん、と軽いノック。そして。「――――“フェイカ・ライア”。あなたを、迎えに来た」ドアの向こう、ちょっとだけ懐かしい……声がした。