第五十七話・動くモノと動かぬモノ誰の想い、事の行方。神のみぞ知り、神は知れない。前を向けば後ろが見えず、後を見れば前は見えない。つまりそーいうコトなのです。<Side Others>「あの…、」シエスタは手渡された“それ”らと、彼女を交互に見て…改めて訊ねた。「だから、あんた達の方がよく知ってるんじゃない?まあ、出来は断然わたしの“それ”の方がいいでしょうけどね。でも、出来はいいって言っても所詮は“そういうもの”だし、売り物にはならないけど」彼女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは、その問いに尊大な(といっても、学院の生徒がメイド達にするものとしては一般的な)態度で答える。ただ、視線はどこか泳いでおり、口調も早口に近かった。「風の噂でね、聞いたのよ。平民専用の秘薬に変わった香りの香水。それで少しだけ好奇心が沸いて、何となく作ってみたのよ。知的好奇心でね。わたしにかかれば簡単すぎたけど。それに、香水もね、他人に作れるのを“香水のモンモランシ”が作れない道理はないから作ってみたの。これはある意味証明ね。できると思ってても実際できなきゃお笑い種だし、実践しなきゃね。まあ案の定、簡単に作れたわ」そして、聞いてもいない事をどこか言い訳っぽく語り始める。「あの、ミス・モンモランシ」「作れることは証明されたわけだし、レシピも憶えたし、でも売り物にはならないから廃棄しても良かったけど、それも勿体無いしね。だからあげるの。勿体無いからね。勿体無いからよ?でももしどうしても別にいらないんだったら処分してくれても、」「あのっ!」シエスタの声に、モンモランシーはハッとしたように目を見開き、小さくコホンと咳をする。それで態度は普段の彼女のものへと戻っていた。「何かしら」「不要だなんて、そんな…ありがとうございます、ミス・モンモランシ。みんなで大切に使わせていただきますね」ぺこりと頭を下げる。抱くように持った“それら”は“何となく”“証明するために”作ったにしては明らかに量が多い。しかし、シエスタはその事について触れなかった。「そう。まあ、好きに使って頂戴。呼び出した用件はこれだけよ。もう戻っていいわ」そっけなく言い放ち、腕組みしながら背を向ける。「…………また、」「え?」「もし足らなくなったら、言いなさい。余った材料で作れるし、どうしてもって言うなら片手間に作ってあげてもいいから」「…ミス・モンモランシ」―――― ありがとうございます。シエスタはモンモランシーの背中に向かって、もう一度頭を下げた。…。………。「………ま、“あの子”が帰ってくるまでの間だけどね。わたしはあくまで知的好奇心で作ったのであって、別に“あの子”みたいにあんた達に渡すのが目的で作ったわけじゃないから。あくまでどうしても欲しいと言われたら作ってあげるだけで、さっきも言ったけど余った材料の処分も兼ねてってだけの事だからそこの所は勘違い、」「メイドの子ならもういないよ、ぼくのモンモランシー」「!?」「今さっき廊下で擦れ違ったよ。あの瓶ってきみが作ってた例のアレだろ?何だかんだ言ってても、やっぱりあげたんだね」モンモランシーが振り返ると、もうそこにはシエスタの姿はなく、代わりに肩にタオルを掛けたやたらとスポーティーなマリコルヌがいた。額に汗が滲んでいるところから、恐らく何らかの運動をしてきたのだろう。「ちょっ、何であんたが…!!それより、もしかして今の…!!言っておくけどわたしは、」「うん、分かってるよモンモランシー」マリコルヌは笑う。「きみはホント、そういうのが不器用だね!」「って分かってないじゃない!?」「そうかな?」「そうよ!!」そっぽを向きながら言う。「“お礼”?」「……」「…」「……っ、“借り”を返すだけよ。あの件じゃ迷惑かけたし、戻ってくるまで少しの間“代わり”をしてあげるだけ。って言っても凄く間接的だし、限定的だし、そもそも“あの子”が望むかどうかは知らないけど。でも何だか気には掛けてたみたいだし、その…それだけよ」逡巡した後、背を向けたまま答える。「………それに、わたしにはこれくらいしか…、できないし」そして聞き取れないくらいに小さな声で漏らし、沈黙した。「…」「…」「彼女、無事だといいね」「どうでもいいわよ。どうせ、へらへら笑いながら戻ってくるんでしょ。軽口叩きながら」「そうかな」「…そうよ」「そうだね、モンモランシー」背を向けたままのモンモランシー。その後姿を見詰めるマリコルヌの表情は、優しかった。※※※※※※※※「サイト」女子寮、ルイズの部屋の前。廊下の壁に背を預けて立つ才人に声が掛かる。「ああ、キュルケか。タバサなら朝早くから出掛けたぜ」「知ってるわよ。たまには休みなさいって言ってあるんだけどね。…こちらにいらっしゃる“眠り姫”さんと1日だけでも交代させてあげたいわ」「…」閉ざされた部屋の扉を見る。鍵は掛かっていないが、この扉は“閉ざされて”いる。あの日からずっと、閉じたままだ。最初は何とかしてこの扉を“開け”ようとした。説得してみたり、強引に連れ出してみたり、叱ってみたりもした。でも、扉は開かない。時間は滞ったまま、眠りから覚めないまま時間だけが過ぎていった。「ねえ、サイト。ルイズは…」「さっさと起きて来いってんだよな。ったく、ねぼすけなご主人サマにも困ったもんだぜ」しかし、冗談めかして答えるサイトの目に負の感情は感じられない。失った悲しみに暮れる事よりも、守れなかった後悔に苦しむ事よりも、分からない“敵”に怒りを向ける事よりも、…あれからずっと動けないでいるルイズに対して苛立つ事よりも。…彼は“そう”する事を選んだ。理由は分かっている。あの“手紙”を代読したのは他ならぬ自分なのだから。その時に見た彼の涙、吹っ切るように、何かを決意するように拭った後の瞳に宿っていたもの。彼もまた、託されたのだ。約束したのだ。――――“ルイズを信じること”守り、守られること。きっとそれは、彼の心にどこまでも強く刻み込まれている。揺るぐことなく、深く。信じているから、待っている。あとはルイズが扉を開け、たったひとこと言えばいい。きっとサイトは 『おせーよ、バカ』 とでも言いながら…でも笑いながら彼女の後に続く、いや、隣に寄り添って往くだろう。無事と信じる、あの子を探しに。「……ホントに、ね」小さく微笑い、溜息混じりにキュルケは答えた。…さっさと“起きて”きなさいよ、ヴァリエール。相方はとっくに準備万端よ?淑女は準備に時間が掛かるものだけど、限度ってのもあってよ。あなたへの手紙の内容は知らないけど、そんな姿なんて望まれてなかったはず。そろそろあの子に、怒られちゃうわよ?まあ、迫力はなさそうだけど。そして、………全く。あなたもあなたよ?…ラリカ。この私が割り込めないって“諦める”くらいに想われてるんだから。さっさと…必ず、無事で帰ってきなさいよね。<Main Side>さ~て本日の『リアル魔法少女・ほーぷれす☆らりか』は第だいたい50くらい話・知将ラリカの神算鬼謀!全ては我が掌の上に!!を絶賛お送りしてる最中です☆ブリミルブリミルっ、貴方のハートにメガ・せんちめんたるビ~~トぅ!!ふう。何だ、その、実にアレだな。素晴らしい。心の中はテンションMAXアテンションぷり~ず。正直、ガッツポーズができないのが辛いです。笑いを堪えるのがこんなに大変だなんて…、マジメな顔が崩れないように全力投球だ。明日は顔面筋肉痛になりそう。幸せな悩みすぎて辛いぜ!!とまあ、前置きが長くなったけど、現状説明。おマチさんが告白してます。ラヴな意味の告白じゃなく、どっちかって言うと神父とかにする系のアレ。罪の告白ってやつですな。お相手は愛しのテファ子さん。そう、昨日煽ったアレだ。我が起死回生、一発逆転奇跡の秘策。もし話題に出なければ、多少強引にでもって思ってたんだけど…杞憂でしたかな。うふふのふ。今日、アホのロン毛が私にやらせる“仕事”の話をする日。朝食が終わってティファニアに退室を促そうとしたロン毛の言葉を遮り、おマチさんが語り始めたのだ。『テファ。今まであんたが訊いても教えてやらなかった事、この期に全部話すよ』『知らなくても良かったと思うかもしれない。そんなの知りたくなかったと言うかもしれない。でも、聞いて欲しい』『今更、かもしれないけど、今じゃなきゃもう言えないと思うんだよ』『もう………テファは子供じゃないから。“本当の事”を知っておくべきだと、思うんだよ』ミス・サウスゴータ…。貴女のその決意に、信じる心に、私…ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイスルティ、…メイルスティア家ってもう潰れてるだろうからこの名はどーなんだろう?まあいいや、ド・ラ・メイルスティアは…感動した!全米が泣いた!!心の中で拍手!!!でも残念。ティファニアは心優しい正統派なヒロイン。“悪人”とかお呼びじゃないのです。まあ、優しいから感謝はするだろうし、表面上は何とかアレだろうけど…好感度は一気にダウンでしょうな。仕送りする必要があったとはいえ、お金を稼ぐだけならトライアングルメイジな実力があれば別の仕事でも稼げるだろうし、盗賊業を選んだ理由には貴族に対する復讐心とかそーいうのもあったっぽいし。結局は自業自得でFA。全く、おマチさんも私なんぞに煽られて言わなくてもいいコトを言っちゃうなんて、甘い甘いあンまぁ~いですなぁ。ホントは最後まで隠し通すハズだったのにね。ま、“原作”にて背景とか過去とか知ってる私がチート過ぎるだけなわけだけど。なるべくしてなった結果というわけだな!!うん、素晴らしい逆転劇にテンションが下がる気配がない。静かなる快進撃がノンストップだぜー。クズ具合も比例して上昇、今の私なら地獄へ特等指定席だ。話している途中、ティファニアは不安そうな顔で私を見てきた。ダラダラ培ってきたエセ友情は正常動作中。現在進行形で“マチルダ姉さん”の好感度が下がり続けていく中、“友達”にヘルプ的視線が行くのは無理もないことだろう。そこでラリカ選手、すかさず“微笑”。言葉は要らない。“ 大丈夫、マチルダさんの本性はアレだったけど、私だけはティファニアの味方だよ。それなりに潔白だし。アンアン射ったのもそう、諫言のちょっとやりすぎたバージョン ”伝わったと思う。その時のティファニア、ハッとしたような表情の後、不安が消えたっぽいし。怖い話でビビってる時に、別サイドからの優しさ。まんまヤ○ザの手口ですな。違うのは、おマチさんも騙されてる側ってトコロか。場を支配してるのはこの私おぅんり~だ。そうこうしてるうちに、おマチさんのお話が終わる。そして私が振るまでもなく、ロン毛に発言権がGO。流れ的に、もうコイツも告白するしかないでしょう。じゃあ、ちゃっちゃと幻滅させちゃって下さい。いくら見た目イケメ~ンで小物臭が消えているとはいえ、コイツは“原作”的にも敵キャラだし、おマチさん以上に嫌われるのは確実だ。何だかんだで私、ティファニアが危うく騙されるのを救ったカタチになるのかも。ちょっとだけ善行。ティファニア、か。うん。利用しちゃってごーめんね。おマチさんとの絆を壊しちゃってごめんなさい。悪いとは本心で思ってる。私の目的の為だから、反省はしないし撤回もしないけど。お詫びに、おサラバするその時まで友情劇場頑張るからっ!最後の時まで私の汚い本心を隠し通すから!これ以上はできるだけあんまり、傷付けないよう考えるから。卑小でクズな友人モドキの存在を、赦して下さい。…赦されないだろうけど、ねー。あー、アレだ。まあとにかく。挽回は、逆転劇は、始まったばかり。“虚無”に怪盗、裏切りの騎士。正義も悪も野望も願いも。我が幸福の糧になれ。精神的に成長した私に隙などないのだ!今まで以上に上手く立ち回ってやるぜ!くくくっ…はははは……ふははははははははははははは!!!!な~んて、悪役三段笑いイェイ♪オマケ<Side おでれえ太君>「なあムカデ!俺とお前が組んで(?)もう長いよな!」「…」「色々あったよな!ところでお前のご主人どうなったか、俺にだけこっそり教えてくれねえ?使い魔ならホントんトコ分かってんだろ?」「…」…ちくしょうやっぱり反応なしかよ!!てか相棒ォ!!剣の稽古の時以外、何で俺、いっつもコイツに括り付けられてんの!?定位置?もう決定なの?あの斬伐刀とかいう剣さえなけりゃあ…!!「いいこと思い付いた。お前さ、俺の言う通りに動いてくれよ。喋れねえんなら、俺が口になってやるからさ!移動はお前で意志伝達は俺、いいコンビじゃねえか?」「…」「…あ、うん、反応やっぱねえのな。分かってたけど。…へへ」「…」やべえな。空がやたら蒼いぜ。ちくしょう