第五十五話・雨の孤島と女の勘予感・直感・第六感。虫の報せに刑事の勘。勘にもいろいろあるけれど、女の勘だきゃ、ご“勘”弁。外から雨の音が聞こえる。昼間は雲ひとつなかったのになー。山の天気は変わりやすいって言うし、メイルスティア領で実感してたけど、海の天気も変わりやすいんだ~。新・発・見。とかまあ、現実逃避はこれくらいにしといて。…よし、なんだこのピンチ。おマチさんの視線はやたら(ある意味)熱いのに、声は絶対零度って言う不思議。お陰で空気もカチンコチン。沈黙が痛い。私の第六感というか嫌な予感というか…それが警鐘を鳴らしまくって耳鳴りがするくらいだ。とにかく、何かヤバい。今までとは種類の違うヤバさだ。「え、ええと…、“何”と言われましても…」コイツは“ナニ”を求めてる?どんな“答え”を?慎重に聞き出さないと。「“何”ってそのままの意味さ。私にはね、どうも…あんたが“何”なのか分からないんだよ」絶賛私も分からないです。「…」だから答えられない。YES・NO無理なら沈黙しかないだろう。今はそれが最良のハズ。…おマチさんも沈黙したけど。「…」「…」「あんたは、」感情の篭ってない声で抑揚なく喋り始めるミス・元ロングビル。雨のBGMにその口調は、“俺”の頃に見てたドラマのシーンみたいだ。うん、どんなシーンだっけ?ああそうだ、殺人犯したヒトが刑事とかに動機とかを淡々と語るシーンだな。もしくは今から殺す相手に、どうして自分が殺されるのかを教えるシーン。…嫌な予感しかしない。「一体何を考えてる?何が狙いなんだい?そして、何を知っている?」「え…、と、」いきなり3連続で疑問文投げ付けられても困る。でも、彼女も私の即答なんて期待してなかったようだ。「何を言ってるのか分からない、って顔してるね。でも、分かってるはずだよ。あんたの行動は…不可解すぎるんだよ。“矛盾”に満ちている」…へ?なーにを言っとるんだこのヒトは?私の行動原理なんぞただ1つ、“私の幸福のために”のみだ。その考えにブレなんてないし、現在進行形で頑張ってる。手詰まり感は否めないけど。目的に向かって一直線、行動に矛盾なんぞ…、「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。地方貴族メイルスティア家の長女で、魔法学院に在籍。成績は座学、魔法ともに下の下。性格は明るく朗らか、トリステイン貴族にしては稀で、平民への蔑視がない。代わりに生徒たちからは一部を除き、やや見下されている感あり」それはアレですか。ミス・ロングビル時代に知った我が内申書の内容とか?プライバシーの侵害だ。…いや、プライバシーなんてコトバ、ハルケギニアにあったっけ?どうでもいいけど、それがどーした??「そしてヴァリエールの、“虚無”の親友。その使い魔ガンダールヴとも親しく、常に行動を共にしている。トリステイン城下を一時騒がせた“フーケ騒動”において彼女らに加え、ゲルマニアとガリアの留学生…ともにトライアングル、とフーケの捕縛に成功した」「…ええとですね、」口を挟もうとしたら睨まれた。はい、まだ話の続きなんですね。大人しく聞いてますから睨まないで!!「その後、王女アンリエッタの要請でアルビオンへ赴く。トリステインの存亡を握る密書の回収に成功した後、裏切ったワルド子爵と戦闘。戦闘にてウェールズが戦死するものの、これを撃退、トリステインへ帰還する」あれは何と言うか不幸な偶然が重なって行くハメになったというか…。あとロン毛と戦ったのは才人&ウェールズ皇太子で、私とルイズはモブでした。「アルビオン新皇帝クロムウェルの“虚無”にて蘇ったウェールズらを使ってのアンリエッタ誘拐作戦においてはトリステインの“虚無”、“ガンダールヴ”に加え“フーケ騒動”でも共闘した2人と共に立ちはだかり、…トリステインの魔法衛士隊をも退けた彼らを撃破した」いやそれも不幸な偶然が重なって行くハメになったんだし、マトモに戦ったのは私以外の皆さんで、私はやっぱりモブみたいなもんだ。「この時、“策”に嵌り国を裏切る寸前だったアンリエッタに対して実力行使でもって諫言したのは彼女、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアであり、その活躍によって実質、アンリエッタ誘拐作戦は失敗に終わったとも言える」…いやそれも不幸な何かそのいろいろアレなのが重なってやるハメになったんですよ。やるっていうか“殺る”方ね?諫言とかチガウから。結果そうなっただけで。私は私がいなくてもそうなるだろう原作に介入しただけのイレギュラーで、やっぱりモブみたいな…コレに関してはモブじゃないか。バッチリ当事者です。ちくせう。てかど~考えても内申書とかじゃないっぽい。今、おマチさんが言ってるコレは何なんだ?「…これは、あんたの調査報告だよ。つい数日前にクロムウェルに報告された、ね」なーるなるなるほどほーど。…はい?は!?へ!?いやいやいやいやいや!!違うって!!それチガウ!!NG!!ダウト!!!確かにそうだけど違うの!!何が違うってそのええと…!「もちろん、これは“表向き”だけ。報告されなかった情報もある。…“ユンユーンの呪縛”で操られた事、そして」一拍置いて、おマチさんは言った。「あんたと、ワルドとの関係もね」雨音が、止んだ気がした。※※※※※※※※よし。何だ、うん。ストレスでお腹痛い。この沈黙を使って整理しよう。この頃、ピンチ!⇒整理しよう!の流れが止まらない気がするけど気のせいだな。気のせいじゃないな。いろいろ考えて行動してたつもりなのにねー。どうしていっつもこうなるんだろーねー。やっぱクズモブ女は運命に逆らったりせずに大人しく底辺人生&死亡ルートを歩めってブリブリミルのお導きなのかなー。そろそろ何だかゴールしてもいいよね?って気分に、ダメだ。ネガるな私!!まだ大丈…夫とか思うとダメな気がするから、まだ焦るような時間じゃないと思うんだ!!似たようなモンだけど!とりあえず、おマチさんの言った事を纏めよう。①クロ公に伝わってる“ラリカ”は何だか重要人物っぽいです②でも彼には言ってない話があるの… byおマチ③テメーとワルドの関係だよッ!!! byマチルダネガらざるを得ない。いいニュースが1つもない。これだけでも挫けそうなことうけあいなのに、続きがあると?とゆーか私とロン毛の関係って何?アレか?偽ミョズミョズ的なアレか?…バレたってわけじゃなさそうなんだけど。「“表向き”だけ見れば、あんたはトリステインの“虚無”の親友で、命懸けで女王を諌めた憂国の士だ。実力はともかく人脈と行動力、愛国心は評価に値するし、クロムウェルにもそう思われてる」違うんです。誤解なんです。人脈とかはルイズ経由で、それも“原作”で心情を知ってるから都合よくなるよう対応してきたってだけの話なんです。それが何だか望まないカタチで広がったりしちゃっただけで、将来的には切らせてもらうつもりだったんです。そして愛国心なんざカケラもないんです。そもそもメイルスティアの者に愛国心なんてないんです。惰性と見栄で貴族やってたよーなダメ家系なので。「なのに“裏”では。あんたはその親友にとっては憎んでも憎みきれない相手で、トリステインにとっても最悪の裏切り者…ワルドと通じている。いや、通じているわけじゃないか。協力してるわけでも味方なわけでもないしね。でも、1つだけ言える。あんたは、ワルドを“強くした”」「…え?」思わず口に出る。何だそれ?それは知らないぞ?確かに、その“表向き”の情報ってのは第三者の視点から見れば正しいかもしれない。私が“原作知識”を使ってるなんて誰も知らないから、そう見られたって仕方なかったかもしれない。でも“それ”は知らない。私がロン毛にしたことなんて、それこそミョズ姐さんを演じたコトか、運悪く出会った時とかに(場をどうにかするために)テキト~に煽った、…あ。心の冷や汗がとめどなく流れる。もしかして、もしかしなくても、“それ”ですか?「あいつが言う“彼女”ってのが、あんただったなんてね。予想外…いや、知れば納得かもね」「その、」ワルドはこのヒトにナニを言ったんだ!?じゃなくて、何か言い訳しないと!!思い付かないけど!!「“虚無”との友情、大人顔負けの忠誠心に愛国心、なのに“敵”の信念を認めて背中を押す。命懸けで守ったはずの国を去ろうとする、抵抗なくその“敵”に囚われる、暢気に軟禁先で暮らしている、聞くべきことなんてありすぎるはずなのに、何も訊ねようとしない!!」マチルダの声は抑揚のないながらも徐々に大きくなっていき、最後は苛ついたような叫びだった。「何なんだよあんたは!?テファに“フーケ”の話もしてないし、私らのことを言及したりもしてない!さっきだってそうだよ、私のことを“フーケ”と呼べって言ったのに、あの子の前では“マチルダさん”だ。まるで“事情”を知ってて“気を利かせて”いるみたいに…!!」ティファニアに探りを入れたのか。で、私が何も聞かず、何も言わなかったのを逆に不審に思ったと。言われたコトを鑑みて、今までの自分の行動を走馬灯の如く思い浮かべる。第三者の視点で見てみる。…怪しい、怪しすぎる。何だこの陰謀臭漂うキャラクターは。この人の言う、“表”と“裏”を知れば疑問は当然だろう。「………もう一度聞くよ」口調が戻る。マチルダの手には、いつの間にか…杖。「あんたは、――――“何”だ?」……。これはもう。本格的に、“終わった”かもしれない。