第五十話・Side再度ワルド!逆転パンドラボックス。“絶望”だけが飛び出していった世界に残るモノたちは。原作通りの“約束された未来”。どうぞ、勝手にハッピーエンドを。完璧だった。普段と変わらない日常を過ごし、まさか“今日”いなくなるとは思わせない策。何をどうすればあんなになるのか、やった私でさえ不明、生死すら判断できそうにない部屋を作る策。使い魔を置いて行くことで、まさかメイジが使い魔を放って逃亡なんてありえないと思わせる策。何となくそれっぽい情報、でも冷静に読んだら何の役にも立たない日記を、さも凄い手掛かり的に作って置いておく策。極め付けに、あの手紙。“ラリカが死んだ”とかは書かれてないけど、読めば死んだと勘違いしてくれそうな内容だろうし、ルイズ・才人・タバ子には『私がいなくなったけど気にしないでね』って書いといた。アンアンも『偉~い女王様なんだからもう私に執着しないで』と暗に伝えたつもりだ。…ついでにちょろっと言いたい事も伝えたし。うん、嘘というのは真実に織り込むことで信憑性を増すのです。だからまあ、そーいうこと。とにかく、策はまさに完璧。これ以上ない完全無欠の計画。びた1ミリも狂いがなかった。はずだったのにね~。あれれ~?なんぞコレ?なにこの状況。うん、改めて思う。くたばれ☆ブリブリミル!あばばばばばばばばばばばばばばば!!!「星が…綺麗ですね」「そうね」「こんな日は、1人で物思いとかに耽りたいものですよね」「そうかしら」「ふふっ。じゃあ、私はちょっと森の方へ用事があるので」「へえ。何の?」「…“お花を摘み”に」「すぐ傍に寮があるのに?わざわざ森まで?」OK、冷静になれ。まず状況を整理しよう。①作戦を完遂し、窓から飛び出ていざ新世界へ!②あ、マチルダ姐さんお久し振りです。以上。自分でも何がどーなってこーなったのか意味不明だぜ☆ってか、おマチさんが夏期休暇に学院を訪問するイベントなんてあったか!?この人は確か、ヒゲと2人して後の方でコソコソ雑用してたはずだ。なのに何しに学院に来てるの?つい懐かしくて?盗賊リベンジ?いや、原作に書かれてなかっただけで、実はコッソリ学院を監視し続けてたとか??うぅ、聞いてない…じゃなくて“読んで”ないぞこんな展開!?「ええと、ミス・ロングビル」ひっひっふーひっひっふー、ラマーズだ!心のラマーズ呼吸法で冷静な私よ戻って来い!大丈夫、大丈夫だ。原作に書かれてないって事は、重要イベントじゃないって事のハズ。てきとーに会話して終了の可能性もある。多分。「あら、その名前で呼んでくれるの。でもフーケでいいわよ。なんなら“土くれ”でも」「いやー、私としては知的で優しいミス・ロングビルの方が…」「フーケ」「あ~、ミス・フーケ、私になんて用はないだろうし、きっと目障りだと思うのでささっと可及的速やかに退散、」「謙虚ね。でも退散なんてしなくていいわよ、あんたに用があって来たんだし」………はい?「というか今朝から監視してたんだけど。部屋にお邪魔しようと思ってたけど、まさかそっちから出て来てくれるとはね」…ええと。「それで、窓からコソコソどちらへ行こうと?ミス・メイルスティア」「いえ別にその何というか散歩的なモノに行」「こういう場面での冗談は嫌いなの」「ちょっとトリステインからサヨナラしようと」ちくしょう。まさかのピンポイント☆ターゲット。何で?何でフーケが?私に用って?恨まれる覚えなんて…あ、ココアでぐるぐる巻きの件があったか。なーるなる。じゃなくて!!脳味噌フル回転。①叫んでみたりする ⇒ ルイズとか来る ⇒ フーケ撃退 ⇒ 明日処刑②戦う ⇒ 負ける ⇒ 私刑という名の処刑よし詰んだ。なんという無理ゲー。解決策なし!あかるいみらいがみえない。「…トリステインから?それ、どういう意味さ?」あばばばばばばばばばばばばばば…って、え?今や私は“土くれ”と同様にお尋ね者状態…むしろ小物のくせにアンアンからピンポイントで目を付けられてる“国家反逆者”なのだ。さらばトリステインっていったら、理由はそれに決まってるでしょーに。ああ、もしかしてこのヒト、事情を知らないのか?無理ないか。“私”も本来は知らないハズの裏情報だし。こうして見事に看破し、逃亡を企てたんだけどね。さっそく詰みかけてるけど。…ん?待てよ。そうだ、今の私はフーケとほぼ同じ状態!もしかすると、何とかこの危機を切り抜けられるかも!!希望が…希望の光が見えてきた!!「…ミス・フーケ、ちょ~っと場所移動しませんか?知ってると思いますけど、学院にはルイズとか才人君とかいるし、騒ぎはマズいと思うのです」とりあえず、この場を離れよう。そして何とか同情を買うなりして見逃してもらおう。てか、それしか生き残る道がなっしんぐ。難易度ハードな人生は伊達じゃ~ないぜ!!※※※※※※※※窓にも“アンロック”を掛けさせてもらい、フーケと2人で森へ。こんな夜中に女2人で誰もいない森に…禁断的な香りがしますわフーケお姐さま!…とかまあ、アホな現実逃避はいいとして、やって来た。ここまで来れば多少騒いだって学院に声が届くことはないだろう。それが安全なのか危険なのかは別として。「それで、どういう事なんだい?あんたの“おともだち”を呼ぶこともしないし、忌々しいあの使い魔すら一緒じゃない。それどころか抵抗すらせずに、こんな場所まで来てるしね。一体あんた、何を企んでんのさ?」フーケが実に怖い目で私を睨む。美人って顔が整ってるだけに、怒るとやたら怖いな。アンアンに睨まれたよりはまだマシな気分だけど。そして、“呼ばない”んじゃなく“呼べない”のだ。ココアと一緒じゃないのも、一緒だとマズいから。抵抗なんかはするだけ無駄だし。最初のフーケ戦ですら何の役にも立ってなかったのに、タイマンでどーしろと?だから警戒解いてぷり~ず。「いえ、企んでなんて…いませんよ。私はさっき言ったとおり、この国から去ろうと思ってるだけなんです」そう、アナタの目の前にいる哀れで貧弱で取るに足らない小娘は、今やトリステインとか虚無とか関係ない、ただの薄汚い逃亡者。こんなクズ子を殺したり痛めつけたりするのは、元有名盗賊かつトライアングルメイジのプライドが許さないですよね?鼻で笑って見逃して下さい。「去る、ね。つまり逃げるっていうことかい?…で、“何”から逃げようと?」今現在は貴方から逃げたいです。やたらと鋭い目で睨んでるフーケ。何だ?何をそんなに訝ってるんだ?まあいい、説明すれば『あーなるほど、アンタも私と同じ犯罪者だからか!納得納得!』とかまあ、そんな具合になるはず。なって欲しい。「ええと、実はですね、私は」「マチルダ、“逃げる”でなく“去る”と言った彼女の真意が分からないか?」…実に聞きたくない声が聞こえた。フーケがいる時点で“もしかして”とか思ってたけど、嫌な予感は当たるんだぜ!あばばばばばばばばばばばばば!!!!「久し振りだ、ラリカ」「こんばんは、ワルド様」上空からの声に応える。無駄な抵抗だけど見上げたりはしなかった。1秒でも長く現実逃避させてくれ。「マチルダ、うまく連れ出せたようだな。しかし森に行くとは…少し探したぞ」「………まあ、ちょっと事情があってね。で、あんたの方も、準備は整ったってわけ」うん。大丈夫。大丈夫じゃないけど大丈夫!!大丈夫なの!!そうだ、プランに何の狂いもない。トライアングルとスクエアがドットのケチな犯罪者をどーこーしようとなんて微塵も思わな「ラリカ」「はい」グリフォンに跨ったヒゲ男が降りてくる。ヒゲ…あれ?「あ、おヒゲ、」トレードマークというか、コイツの唯一にして絶対のアンデンティティーであるヒゲが…消えた?「ん?…ああ。いい加減鬱陶しくなっていたのでね。その、何だ。…変か?」「いえいえ、カッコい~ですよー」まあ、普通にイケメ~ンですよー。心底どうでもいいけど。ヒゲ子爵は何をしたってアレだから、正直あんまり興味はないのです。てか、何でコイツ自慢のヒゲ剃っちゃったんだろ?暑くて口元がムレたか?しかしこれから(心の中で)何て呼ぼう。ヒゲはもうないし…ロン毛でいいか。「………、そうか」「…?」何だこの微妙な間は。その妙に穏やかな笑みは。あと、なぜ睨むんですかマチルダ姐さん!?いや、ヒゲ男(現ロン毛)のヒゲの事なんぞどーでもいい!そんな事よりさっさと説明、「ああ、そうだ。マチルダから聞いたと思うが、君にはついて来てもらう。すまないが、拒否権はないと思ってくれ」絶賛聞いてないです。アレですか?人質的な?だったら人選間違ってますよー。こんなゴミクズみたいなの、人質としての価値というか人間的な価値すら皆無。せめてシエスタ…あぁ、ダメか。私のせいでシエスタは現在ヒロイン対象外。トライアングルの赤青コンビの難易度考えたら私一択になるな。やはり人選ミスだけど。いや待て違う、そうじゃなくて!!「“真意”…ねぇ。それ、どういう意味さ?」いや、私が聞きたいです。ワルドは答えず、私に意味ありげな笑みを向ける。私は愛想笑いでそれに何となく応え、フーケは再びこっちを睨みつけてくる。なんだこのカオス。だれか助け…自分で切り抜けるしかないか。味方なんぞどこにも微塵もなっしんぐ。「おっと、今はそれよりも…ラリカ」「はい。…ええとですね、」「そう時間もない。答えを聞こう」オマエは人の話を聞け。てか、さっき拒否権なしとか言ってたんだから、答えも何もないでしょーに。ダメだ。とりあえず逃亡不能は確定っぽい。トライアングルとスクエアからドットが逃げられるなんて1%もない。奇跡でも起こらなきゃ無理だ。そして奇跡はルイズとか才人みたいなのの為にあるモノで、私のよーなクズに起きるわけがない。でも、うぅむ。ワルド&マチルダ組か。“佐々木良夫”の原作知識では、後ろの方でコソコソ雑用してる準脇役。別の虚無とか色々凄いのが出てきて、正直ほとんど印象に残ってない感じだ。もしかすると、2人の役目は例のハーフエルフ少女(ヒロイン候補)を登場させるためだけの可哀想なアレかもしれない。何気にこの2人、危険度は限りなく低いのかも。少なくとも無能陛下殿が死ぬくらいまでは。「一応ですけど、私は人質としてはお役に立てませんよ」役立たずは死ねとか言われる前に、一応確認。そんな価値ないしね。期待してもらっちゃ困る。確かにキュルケやタバ子を攫うよりずっと難易度低いけど、それは難易度に見合った程度の価値しかないって事でもある。賞金首的な価値は出るかもだけど。コイツらはそんなの魅力と思わないだろう。「分かってるさ。君は“そういう”少女だからな」笑うワルド。ふむ。実に正当な評価だな、うん。でもそうなると逆に私を連れてく意味って何ぞや?……ワカラン。さっぱーりだ。でも、悩んでいる時間はない。分かっているのは、ロン毛は私を人質にしてルイズどーこーする気はないって事。フーケも(絶賛睨んでるけど)復讐的なアレはとりあえずなさそうって事。そして、私の置かれてる状況とかを今説明しても逃がしてくれそうにないって事だ。…覚悟を決めるか。決めるしかないし。実に消極的な決意ですな。あばば。「では、ふつつかものですが。お供させていただきましょう」大丈夫。まだ何とかなる。作戦はかなーりアレな方向にブレてしまったけど、私の心はブレてない。脇役に降格した(はずの)2人と一緒に行動してれば、そんなに危険はないはず。そして折を見てフェードアウトすればいい。大丈夫。本物のミョズさんとか、さっきから視線が痛いマチルダ姐さんとか、そもそもヒゲ…じゃなくてロン毛とか、不安が胸いっぱい夢いっぱいだけど、大丈夫。何とかなる。何とか、する。今までだって何とかなってきたし。大丈夫だ。大丈夫。………だよね?