第五話・胡蝶の夢?と不測の事態たまに夢を見る。“現実世界”で死なずに済んだ佐々木良夫の夢。胡蝶の夢?…どっちが夢?「何これ…?」病室のベッドの上、俺は呟いた。手にしているのは“ゼロの使い魔”。なぜかよく分からないが、“私”が登場人物として登場している。しかも、回を追うごとに重要さが増していく。事故に遭う前は確か、脇役としてすら描かれてなかったはずなのに。最初はちょっと変わった『初めての友人』。いや、才人の最初の友人はギーシュじゃなかったか?決闘騒動の後に認め合ったりして、それから徐々に2人は友情を深めていくはずだ。でも、今手元にあるストーリーだと決闘時には既にラリカと才人は友人で、しかも『斬伐刀』なんてのを彼に渡している。それがワルキューレ戦勝利のキーアイテムってことに。そして才人的にはギーシュは2番目の友人という立場だ。意味が分からない。“私”の頃、こんな事したか?あの内向的な“私”が?ページを捲る。身に覚えの無い展開が繰り広げられていく。フーケ戦で援護射撃?震えて部屋に引き篭もってたんじゃなかったっけ?アルビオン行き!?どうしてそうなった!?おい!?何でそこでワルドと対峙してんだよ!?死ぬって!絶対死ぬって!何だコレ?俺、ラリカだったよな?焼き殺されて、何の因果か“この世界”に生まれ変わって…。分からない。俺の脳味噌じゃ処理できない。何だこれは?あたまいたい。まぶたがさがってくる。ねむいのか?なんだこれ?あ、暗転…※※※※※※※※「おえ」久し振りに気分の悪い目覚めだ。いや~な夢を見てた気がする。覚えてないが、どうせ死ぬ夢とかだろう。2回もリアル死んでたりすると、リアリティさが違う。こんな経験してるの私くらいだろう。嬉しくないけど。やはり周到に練っていたとはいえ、昨日の立ち回りは精神的に疲れたか。明るく社交的な新生ラリカの仮面を被っていても、所詮はラリカ。重ねた無理がどばっと襲ってきたって不思議ではない。そう言えば今日は虚無の曜日。一日中ぐてーんと寝てようかな。秘薬を街に売りに行くのは来週まとめて…って、そう言えば今日もイベントがあるんだった。ガンダールヴと伝説の剣、邂逅!ってヤツだ。要するに、デルフリンガーお買い上げの日。夜にはフーケのゴーレム騒動もある。何て充実した日なのでしょう☆…休ませろ。決闘から数日、原作だとギーシュ戦で怪我をしたお陰で省かれた日々を、才人は別の生徒からの決闘などして過ごしていた。何でもキュルケの元恋人連中だとか。そういえば、才人誘惑イベントなんてのもあった気がする。ごくろ~なコトです。その戦いでは私のあげた『斬伐刀』が活躍した。デルフリンガー登場までの繋ぎを充分に全うしてくれたようで、元持ち主としても嬉しい。ルイズと才人が恩を感じてくれてたらもっと嬉しい。そんなことはど~でもいいや。とりあえず、私も街に付いて行こう。デルフリンガーをちゃんと買うか確認したいし。才人に使うはずだった秘薬代が浮いてるはずだから、まず買えるだろうけどねー。ココアを呼んでみる。…来ない。どうしたのかと思い、視覚をリンクさせてみると…なるほど。聴覚もリンクさせてみた。『ふうん、結構速いじゃない』ルイズの声だ。『多分、馬と同じくらいの速さじゃないか?でも空飛んでるから馬よりも早く着くだろ』サイトの得意げな声。つまり、すでにココアは2人の乗り物として街へ向かっているって寸法だ。いや、ココアは私の使い魔なんだけどね?別にいいけど。『でも良かったの?この…ココアだっけ、ラリカの使い魔じゃ?』『大丈夫だって。ダメならココアだって乗せてくれなかっただろうし。それに俺はともかくルイズが乗るためって言えば、ラリカは絶対OKしてくれるって』え~、なにその独自解釈。『…それもそうね。ラリカなら笑って許してくれそう』ルイズ、お前もか。てか、すっかり才人&ルイズの使い魔と化したココア。ルイズも何だかんだでココアに慣れてくれたようだ。結果オーライ?『でも、剣を買ってくれるなんて…ホントにいいのか?』『え?ま、まあ、あんたも決闘とかよく挑まれてるし、流石にその短刀だけじゃ心細いでしょ。それに、忠節には報いないとね』『ふぅん。でも、長い剣も欲しいなって思い始めてたんだ。サンキューな、ルイズ』『…っ!ま、まあその感謝の気持ちを忘れない事ね!!』おやおやまあまあ、仲睦まじいコトで。それにしても、2人は使い魔の五感が主とリンクできてるって覚えてるのだろうか。つまり、ココアの前でやる事なす事しゃべる事、おーる私に筒抜け。プライバシー?うふふ、何ソレわかんなーい☆さて。ココアは絶賛貸出中だし、今から馬で追い掛けても無駄。つまり詰んだわけだ。デルフリンガーを買ったかどうかはココアを通じて分かるし、これでわざわざ私本人が街へ行く必要はなくなった。いやー良かった良かった。と、思ったらドアが開いた。“ロック”は掛けたはずなのに…って、キュルケ。「おはよーキュルケ。でも“アンロック”は禁止されて、」「ラリカ!ダーリンはどこなの!?」…そう来たか。ダーリン、才人の事だろう。ギーシュ戦で惚れ、その後の決闘でより惚れたって予感。「ダーリンて?」でも一応訊いてみる。「ヒラガサイト!ルイズの使い魔の彼よ!!それで、どこにいるの!?」「いやー、わたくしに訊かれましても、」「今朝、貴方のココアに乗って飛んでくのを見たの!」「…どうやら街へ剣を買いに行ったような。それを訊いてど~するの?」張り合ってシュペー卿が作ったナマクラを買いに行くの?とは言わなかった。どっちの剣を選ぶ?騒動でフーケは宝物庫に穴を開けることができるのだ。イベントに必要なフラグをへし折ってはいけない。「もちろん、追うのよ」予想通りの回答さんくす。「なーるなる。がんばれキュルケまけるなキュルケ。私は寝るけど」タバサ&シルフィードと頑張って追いかけて下さい。「何言ってるの。ラリカも一緒に行くのよ?」その発想はなかった。何故にWhy?「いや、私には足がないし。そうだ、ミス・タバサと仲良かったよね?彼女と一緒にあの風竜に乗っていけばよくない?」「ええ。もうタバサは準備してるわよ。あとはラリカに案内してもらうだけ」…何で決定事項になってるんだ?シルフィードの視力&嗅覚なら、私の案内なしでも余裕で見付けられるでしょ~に。「さ、早く早く!!早くしないとその格好のまま連れてくわよ?」「…3分待ってぷりーず」わぁ、もしかしなくても今日…厄日?うふふのふ。※※※※※※※※で、追い付いた。シルフィード速っ。ココアもそこそこ速いけど、竜と蟲じゃレベルが違うねー。まあ、それがそのまま私とタバサのレベルの違いなんだろうけど。空の旅は思ったより辛くなかった。タバサ的な意味で。あの子って苦手なのですよ。無口だし、無口だし、あと無口だしね。タバサイベントはご遠慮願う私としては仲良くならなくてもいい人材だし、むしろ仲良くなって秘密とか聞いたりしたら命がヤバい。まあ、普通に接していれば私みたいなのが気に入られる確率はゼロなんだろうけど。そのタバサは寝巻き姿のまま本を読み続けていて、まさに置き物。私はキュルケとだけ話していたから苦痛はゼロだった。「あ、ラリカ。…とツェルプストー」丁度武器屋から出てきたところでルイズ達に出くわした。私には笑顔を、キュルケには嫌そ~な顔で反応してくれる。タバサは目に入ってないっぽい。小さいからなのか、対キュルケモードに移行したからなのかは分からないが。「あらヴァリエール。自分自身に魅力がないから、モノでダーリンを釣る気かしら?」何か言い争いを始めた。才人はルイズのフォローに廻るが…あ、キュルケに抱き付かれた。そんな様子を生暖かく見守っていると、マントをくいくいと引かれる。「…?」タ・バ・サだ。私をじ~っと見上げている。「あなたが、『絶望』のラリカ?」多分笑顔が引き攣ってるだろうな~と自覚しつつ、頷く。その二つ名…久々に呼ばれたよ。「意味は?」「将来的な意味で『絶望』。ミス・タバサはメイルスティア家を知らないです?」「タバサでいい。メイルスティア家?」言わすな。忘れたいのに。「いわゆるひとつの貧民ってコトです。領地は荒れ果て、領民は半分流刑者みたいな方々、加えて魔法の才能は家系的に終わってる、そんなステキな貴族なんですよー」恐らく、ルイズが私に好意的だった理由の1つにこの二つ名があるのだろう。だって『絶望』っすよ?ある意味『ゼロ』と同義語。『ゼロ』は魔法の才能ゼロって意味だけど、私の『絶望』は全てにおいて。お先真っ暗の象徴、実質悪口の類だ。でも最近は『傷薬』っていう二つ名もそこはかとなく広まりつつある。主に平民にだけど。…どうかそっちを覚えて下さい。「そう。がんばって」…これがトライアングルメイジで、ガリアの王族じゃなかったらブン殴ってるよ。嘘だけどね。私は心が広いのです。あー、でも、何の因果か恐れていた事態が起こってしまった。タバサと知り合いになるつもりなんてなかったのに。これもキュルケのせいか?うん、そうだ。キュルケが悪い。シュペー卿のナマクラ買って、せいぜい損してお~くれ。