幕間12・現実逃避という名の休日②結局、何がしたかったんでしょーね。この人生。あばば。思考放棄を決め込んで3日ほど経った。とりあえず、人生の目的を見失ってるからやる事がない。でも、何かしないと負の感情がスパイラル。ってなわけで。朝っぱらからジェネリック秘薬作りに勤しんでいた。既に30個ほど完成したジェネリック秘薬。例のハンドクリーム&香水もそこそこ量産されている。売り物にはならないし、売ってお金にしたって使う時がない(寿命的な意味で)から、これらはマルトーとか学院で働く平民の皆さんに遺すつもりだ。ギブアンドテイクな関係だから、お世話になったお礼とかそーいうつもりじゃないんだけど、まあどうせ最後だし、けっこう喜んでくれてたから…そんな感じで。当初は“3回目の私”の為に普通の秘薬を勉強する気でいたんだけど、どーにも頭に入らず断念した。勉強はまた“今度”でいいだろう。と、扉がノック…されずに“アンロック”で開いた。タバ子だ。夏期休暇が始まってから、毎日のように来ている。よっぽど暇なんだろう。「どーしたタバサ?何用かな」視線の先は…机に置いてあるサンドイッチだ。朝食用にてきと~に作ったテキトーサンド。なるほど、餌付けされに来たのか。「食べてい~よ。私の手作り手抜きサンドイッチだけど」「ありがとう」ベッドに腰掛けてサンドイッチをぽくぽく食べ始めたタバ子を観察する。…食べるの早いな。でもさすがは王族、食べ散らかしたりはせず、どことなく気品を感じさせる早食いだ。多分。あ、もう完食?ちゃんと噛んだか?「マズくなかった?」「おいしかった」「そかそか。それは何より。で、用件はなんぞや?キュルケに私を呼んでくるように言われたとか?」それともキュルケといるとエアコン扱いされるから逃げてきたとか?「キュルケはギーシュと街に出掛けた」…はい?なんだその予想外ペアは。でも、説明する気はなさそうだ。さすがタバ子。興味ナシ具合が半端じゃない。「そかそか。それでなぜゆえ私の部屋に?」「…?」不思議そうな顔をするタバ子。あれ?今何か変な質問したか?してないはず。何なんだ一体。「本」本を読みに私の部屋に来たか。そーかそーか。だめだこいつ、はやくなんとか…しなくていいか。基本、置物と変わらないし。暑くなったら自動で魔法使ってくれるから便利かも。「お~けー了解。じゃあタプ~リと寛いで、」「ラリカ~、入るぞ」才人が入ってきた。そして突風で吹き飛ばされて出て行った。ついでに閉じた扉に“ロック”が掛かる。ナイスタバ子。実に流れるような一幕でした。「…紅茶でも淹れよっか?」閉ざされた扉を一瞥し、タバ子をなでなでする。「もらう」「ジャムあるけど入れる?甘いのダメなら入れないけど」「ダメじゃない」「ちょ、ラリカ!開けてくれよ!?タバサもいるのか?」扉がドンドン叩かれる。復活早いな。さすがガンダールヴ!!「追い払う?」「レディの部屋にノックなしで入った罰は、さっきのでチャラね。“アンロック”」鍵を解くと同時に、苦笑いの才人が入ってきた。「やっぱり。ラリカが“ウインド・ブレイク”だっけ?なんて使うわけないと思ったんだよ。タバサが来てたのか」…タバ子?へんじがない、ただ本をよんでいるようだ。「おぶこーす。使いたくても使えないのが正解だけど。で、才人君はどーした?ルイズに私を呼んでくるように言われたとか?」それともルイズといると虐待…されないか。幸か不幸か、原作と違って2人は普通に仲良しこよしだし。「いや、ルイズは城に行っていないんだ。今日はその、暇だったらどっか一緒にどうかなと思って」ルイズ単体で城?嫌な予感しかしないな。ま、もうどーでもいいんだけど。「んー、確かに暇は暇だけど…シルフィードは、」「キュルケに貸した」「…みたいだし、どうやらココアはルイズが乗ってったみたいだし。学院で馬は貸し出してるけどね。才人君、乗れる?」「馬か。ココアにばっか乗ってたからな…苦手かも。でも、ココアに乗るのなら誰にも負けないぜ?」うん、それ私の使い魔だけどな!「うーん。タバサは学院でゴロゴロしてたそうだしなぁ」「出掛けるなら、一緒に行く」「だってさ。タバサも賛成みたいだし、出掛けようぜ!」タバ子、本はいいのか本は。でも、おでかけか。ジェネリック秘薬を量産してるのもアレだし、2人が行きたいなら行ってもいいんだけど。街は行ったばかりだし、暑いし。お金かかるし。そうだ。「じゃあ、森の湖にいくのはどーかな?そこでお昼ごはんでバーベキューでも」「賛成」タバ子即答。食べ物が絡むと食い付きが違う。「湖か。そういやギーシュのやつが、どっかの森に綺麗な湖がどうとか言ってたな。そこに歩いていくのか?」「徒歩だと夜になっちゃうぜぃ。馬だよ、乗馬でゴー」「だから俺、乗馬は、」分かってるって。でもこの世界で乗馬もできないって…ま、いいや。才人の将来なんて私が気にする必要もないし。必要に迫られたら自分で何とかするでしょー。多分。「心配ご無用。このわたくしめにお任せあーれ」※※※※※※※※「ほい到着」到着したよ。…到着しましたよ~?……お~い?馬で2時間、目的地に到着した。けど、才人が降りない。乗馬は慣れてないってわけで、私の後ろに乗ってもらったんだけど…道中、終始無言だった。私は話しかけたんだけど、どーも上の空みたいで。スピードも出してないし、ジャンプとか無茶もしなかったハズ。「才人君?」もう動いてないから私にしがみついてなくていいのに。原作でも腰が痛くなった程度で怖がってとかいなかったと思うんだけど。「…」タバ子が杖を振り下ろすと、ボグっと鈍い音が響き、小さく悲鳴をあげて才人が転がり落ちた。なーにやってんだか。「寝てた?」「え!?あ、ああ!いや、柔ら…じゃなくて、ちょっとボーっとしてて!いやー、着いたか!そうかそうか!」何だそのあからさまな挙動不審は。ま、いっか。私もずっとしがみつかれてたお陰でいろいろ身体が凝った気分。馬を降り、う゛~っと伸びをする。「さてと。さっそくだけど、準備に取り掛かろっか。のんびりしてるとお昼時を過ぎちゃうしね」「ええっ?ちょっと休憩、」「一番楽をしてたのに?」「よし!何でも言ってくれ!!」さっきからタバ子がナイス過ぎる。「あはは、ごはん食べ終わったらじっくり休憩しようね。じゃあ、才人君には薪になりそうな木を集めて貰おうかな。タバサは私の弓を貸してあげるから、テキト~にお肉調達よろしく。私は野菜系を摘んでくるから」「狩りって、肉も現地調達かよ!?」「野菜おぅんりーのバーベキューじゃ悲しいでしょーに。それに、今は夏期休暇中。学院の厨房にお肉とか置いてはないんだぜぃ?」この世界には冷蔵庫なんてない。だから休みの間に厨房にある食材なんて、日持ちする根菜類かガチガチに塩漬けされたモノくらいなもんだ。パック牛肉を持って来て焼肉…みたいな才人の常識は通用しない。「あ、取った獲物を捌くのは私がやるからご安心を。お肉は現地調達、これすなわちメイルスティア家のジョーシキゆえにね」サバイバル貴族の実力をご覧あれ。10歳になる頃には普通に解体とかしてたのだよ。…それにしても、この3人でバーベキューとはねぇ。ギーシュ×キュルケのお出掛けもアレだけど、何とも妙な組み合わせ。一体、ナニがどーなってるんだか。※※※※※※※※食事が終わり、涼しい木陰で一休み。木漏れ日に水の音、風もいい感じに心地良い。タバ子が狩ってこれたのはウサギ1羽だけだったけど、私の採ってきた野菜を加えたら十分な3人前はあった。お腹も大満足状態だ。「それにしても、魔法って便利だよな。火も起こせるし水だって思いのままだし。やろうと思えば材料切るのだってできちまうんだろ?」感心したように才人が言う。「そーだね。才人君の世界は魔法がないんだったっけ?代わりにカガクってのが発達してるとか」「ああ。この前の“竜の羽衣”も、凄く古いけど当時の科学の結晶だ。現代じゃ何百人も乗せたアレの大きいやつが、世界中の空を飛びまわってるんだぜ?」知ってるけどな!あー、飛行機で北海道行ってカニ食べた~い。解凍じゃなくて茹でたてを。でも、食べられるのは今回死んで、“佐々木良夫”に生まれ変わって、加えてそれなりに大きくなってからしか無理だから…最低でも10年は掛かるのか。果てしなく長い。「凄いな~。想像もできないけど…才人君が言うならそうなんだろうね。ある意味魔法なんかより凄いかも」笑ってみせる。才人はこっちを見て、でも返事をしなかった。…“才人の世界”か。おそらく、その世界は“佐々木良夫”の世界とはまた別の世界だ。似ているかもしれないけれど、決定的に“違う”世界。ひょっとすると、ハルケギニアと地球よりも“離れている”のかもしれない。カニはまあ、あるだろうけど。「タバサも、……タバサ?」そういや反応ないなーとか思ってたけど、隣のタバ子はうつらうつらしてた。お腹いっぱいになったら寝るとか、子供みたいだ。いや、実際子供か。私より何倍も強いけど。このままでもアレかと思い、膝枕して、自分のマントをタオルケット代わりに掛けてやる。ふむ、実に気持ちよさそーに寝てますな。髪を撫でると、毎度同じみなサラサラ感。リンスとか使わなくてもこのクオリティ、血統書付きの王族ってのはやっぱり常人と身体のデキが違う。ここまで差ってあるもんなんだなー、同じ人類なのに。そう思い、ちょっと笑みが零れた。自嘲的な意味で。「あ、あのさ、」「ん?」タバ子に向けていた視線を才人に戻す。何だ?やたら真剣な表情で…、「俺、思ってることがあるんだ。いずれはその、元の世界に帰るつもりだけど…何とか、こっちの世界と、俺の世界を自由に行き来できるようにしてみたいって」ほほう、夢のある話ですなぁ。叶うかどうかは、“俺”が“ゼロの使い魔”最終回まで読んでないから分からないけど。「もし、それが叶ったらさ?俺、ラリカを招待するよ。いろんなとこ、連れてくよ。…その、知ってもらいたいんだ、俺の“世界”を」…はい?そんな事できるわけ…あ、“世界扉”が凄く進化したりしたらできるのか?どーなんだろ?まあ、どっちにしろ行けるのは才人の“世界”で佐々木良夫の“世界”は無理だろうけど。「見てもらいたい物とか、場所とか。そして会ってもらいたい人とかさ。たくさんあるんだ。だから、」「才人君」ちょっと落ち付け才人。取らぬ狸の何とやら、だぜー?それに。「…でも多分、その“世界”に私の居場所はないと思うよ。才人君はこの“世界”にも居場所を作れたけど、私にはそんなチカラも、器もないから」そう、そもそも“私”が行ったってどーしようもないのだ。ちゃんとした身元があってナンボな世界。必要なのは日本国民“佐々木良夫”の戸籍と国籍だ。後付で学歴とかも将来のためには必要になってくる。“ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア”はあちらの世界じゃ“戸籍”も“国籍”すらない住所不定無職の難民みたいな感じだろう。普通に生きていくのも一苦労だろうし、何かあってKサツとかに厄介になる状況になったら…想像したくないな。強制国外退去って言われても、どこに行けばいーんだか。コレはおそらく才人の“地球”も佐々木良夫の“地球”も同じだろう。…ま、観光程度なら頑張って目立たないよ~にしてれば何とかなるかもだけど。「なら、俺が作るよ」「え?」「ラリカの居場所は、俺が作る」………はい?なーにをホントに言っちゃってるんだろうね~。そんなカンタンなものじゃないんだけど。だけど。うん。何だ、やたらプッシュしますなぁ。「…」「…」互いに無言。これはアレか、何か答えとかなきゃダメか。「…ありがとう。じゃあ、その時はよろしくね。才人君」ま、厚意には笑顔でお礼を言っとくのが礼儀ってもんだろう。それが叶うかどうかはまた別問題で。叶わないんだけどね、実際。私はもう、終わっちゃうし。「あ、ああ!任せといてくれ!!」パッと表情を明るくして声をあげる才人。頼られるのは嬉しいかもしれないけど、それにしたって喜びすぎだ。「大声はダメダーメ。この子が起きちゃうでしょーに」「…ああ」「うん」分かればよろしい。再びタバ子の髪を撫でながら、空を仰いだ。木漏れ日がやたらと綺麗だ。木々のざわめきも、鳥の声も。水のせせらぎも。気分は完全に晩年。ある意味無我の境地?穏やかな風が、優しく頬を撫でる。「―――― 風、気持ちいいね」「…そうだな」こんな気分のまま、終われたらな~。実際待ってるのは処刑だろうけど。ま。仕方ないか。こんな結末を招いたのは、他ならぬ私なんだし。はぁ。何だか、ねえ。オマケ<その頃、城下町にて>ギーシュ「この服なんてどうかな?」キュルケ「好感度マイナス10ポイントね」ギーシュ「ちょっと地味だけど、これは?」キュルケ「どこの仮装パーティーに出る気?」ギーシュ「なら、これでどうかな」キュルケ「何でいちいちフリルが付いてるのよ」ギーシュ「お洒落だろ?薔薇はいかなる時も女性の目を楽しませねばならないんだよ」キュルケ「“面白い”って意味なら楽しいけど。一緒に居たくはないと思うわ。そう考えるとモンモランシーって偉大だったのね」ギーシュ「くっ、じゃあどうしろと言うんだね?君が“まずはその格好をどうにかしなさい”と言うから選んでるっていうのに」キュルケ「誰も面白衣装を選べなんて言ってないわよ。普通でいいのよ、普通で。“あの子”だって一緒にいて恥ずかしいような個性は要らないって言うわよ」ギーシュ「ふっふっふ、君は“彼女”の親友なのに分かってないね。ここだけの話、“彼女”は僕に仄かな恋心を抱いてるに違いないんだよ。まだ自分の気持ちに気付いてないだけで、」キュルケ「じゃあもう協力は要らないわね。後はご自由に、」ギーシュ「いや、待って。ミス。君の力が必要だから!ね?頼むよ、僕も今回は本気なんだって!」キュルケ「普通に告白すればいいじゃない。そうすれば“あの子”もちゃんと『ごめんなさい』って答えてくれるから」ギーシュ「ダメじゃないかそれ!?お願いだからマジメに頼むよ!」キュルケ「はいはい。冗談だってば。……そうねぇ、“あの子”は、」…。……。##############更新速度が…orz何だかいろいろ忙しくてなかなか更新できませんが、完結まではいくつもりですので、『未完で終わらないか?』と心配されている方、多分ご安心を。今回もまだクズ子は自暴自棄モードです。でも、この状態のままの方がある意味“幸福”に近いかも。幕間はもう少しだけ続きます。