第四十一話・思考の渦と、ターニング・ポイント何が悪いのか。誰が悪いのか。最初から、分かっている答え。…ツケは。いつか払わされる。どうしよう。“レンアイ”っていう新たな可能性を発見して、未来予想図をグレードアップしたのも束の間、気付いたら未曾有のデッドフラグが立ってましたァ~☆アンリエッタ女王陛下=トリステイン王国に“敵”呼ばわり。ここに、国家vs落ちこぼれ学生メイジという、常識では考えられない構図が完成した!あっるぇ~?なにこれ?え?ギャグ?いいえ、救いようのない現実です。うげぁ。熱病に罹ったような、ぼぅっとするアタマで考える。あまりにテンパりすぎるとこんなになるんだ。新鮮。身体の動きはやたら鈍いし、声も出ない。耳もあんまり聞こえない。実にまずい。本能が、理性が、人生終了のお報せを告げているかのようだ。実際そうだが。何が悪かったのか?主人公達がなるはずだった“惚れ薬”イベントの後で、認識力が麻痺していたせい?まさか解除の当日、誘拐事件が発生するとは思ってなかったせい?それとも、殿下に確実に討死して貰えるように、背中を押したせい?いや、そもそもアルビオンになんて行ったせい?誰が悪かったのか?なぜか私の名前を出したコイツらのせい?要らない紹介なんてした、ゾンビ殿下のせい?それとも、私をこの場に連れて来たキュルケのせい?いや、そもそも原作連中になんて関わったせい?いや。結局何がってワケじゃない、誰がってわけでもない。“惚れ薬”騒動で疲れ果て&広がった可能性に浮かれて、考えることを放棄していたのは私の怠慢。少し考えれば予想くらいはできたはずだ。そして行くのを断る口実だってどうにかなったはず。ゾンビ殿下の紹介は切欠に過ぎない。彼は間違った事は言ってない。そう仕向けたのは私だから。私がいなければ、コトは原作通りに進み、殿下はやっぱり殺されただろう。でも、“今回”は私が仕向けた。それは否定できない真実だ。死んで転生できなきゃ地獄行きだなーとは思ってたけど、それも甘かったかもしれない。アルビオンに行くことになったのも、私の認識不足だ。どの程度までルイズ達と交友を深めておくべきか、それを見誤った時点で巻き込まれることは必然だったかもしれない。いや、巻き込まれたんじゃない。彼らを、“私の幸福計画”に巻き込んだんだ。そしてどの時点でも、関係が壊れることを覚悟すれば逃げ出せたはず。断れたはず。それをしなかったのは、私の欲が過ぎたからだ。私が手にできる幸せなんて、どう足掻いたって知れているのに、それ以上を望んでしまった。デッドエンド回避だけならどうにでもなったのに。将来的な幸せまで望んでしまった。ルイズは悪くない。“アンリエッタ”“ウェールズ”、その2つがキーポイントとなる今回の事件、関係者を連れて行くという選択は当然だろう。しかも、彼女は私と一緒に殿下の死に立会い、私と殿下の会話を聞いている。キュルケは悪くない。彼女はただ、アルビオンに関わった人間を連れて来ただけなんだから。ギーシュを連れて来なかったのも何となく分かる。ラ・ロシェールに残ったギーシュは、殿下と会っても何もできない。キュルケとタバ子は戦闘要員として使えるけど、彼じゃ殆ど役に立てないからだ。実力は最弱な私は、それでも女王陛下とも殿下とも面識があるから説得要因としてなら連れて行く価値は十分なんだろう。だから、他の誰も悪くないのだ。なるべくしてなり、みんな、するべくして行動した。ただその結果がこうなっただけの事。悪かったものがあったとしたら、それは“私”なんだろう。私が甘く、馬鹿で、浅かった。その結果が現れただけの事。受け容れないと。そういう事で納得しないと。進めなくなるから。何のせいだとか、誰のせいだとか。分かって何になる?事態は好転しない。そんな下らない事を考える暇があったら、行動しないと。でも、詰んでる事に変りはないわけで。円満解決なんて、私の脳味噌じゃ導き出せないわけで。今さら反省なんてのも何の役にも立たないわけで。私のしてきたミスのツケが、回ってきている。ツケは払わなければならない。それは受け容れている。でも、このまま何もせずにデッドエンドまで受け容れる気はない。屑は屑らしく、惨めにでも足掻いてやる。すいませんでした!と素直に謝る ⇒ 謝って済むなら警察も騎士も軍隊もいらないミョズさんに罪を被ってもらう ⇒ カラーコンタクト持ってきてない、ってかこの状況でやったら後でまたヤバい事態に原作通りにルイズの虚無に期待 ⇒ 私への恨みは消えない=根本解決しないてゆーか、どう頑張っても私への恨みは消えそうにない。ついさっきまで“惚れ薬”でゾッコンラヴ状態だったから身に染みて分かる。あの状態でギーシュが死んだりしたら、恐らく間接的でも殺した相手を一生許しそうにないし。…円満解決とか、やっぱ無理だ。“絶望のラリカ”、まさに言い得て妙。あかるいみらいがみえない。だけど。だから。もう。こ れ し か な い ッ ! !「できることなら戦いたくない。貴方たちを殺したくない。でも、どうしても行く手を阻むと言うのならっ!!」女王陛下が杖をルイズに向け、その刹那。私の放った矢が、その右肩を貫いた。<Side Other>小さく悲鳴をあげ、アンリエッタは杖を落とし、貫かれた右肩を押さえて膝をつく。誰も、敵も味方も反応できなかった。無警告で、不意打ちで、誰も使わないはずの武器で、そして人質への、女王への攻撃。一介の学生でしかない少女の、無謀とも言える一撃。それはあまりにも予想外だった。「へ?」場に相応しくない、間の抜けた声を漏らすルイズ。視線は矢を放った灰色の髪の少女に注がれる。「ラ、ラリカ…?何を、」「“その人”は偽物よ!!」「え?」今度はアンリエッタに注がれる視線。アンリエッタは痛みに顔を歪めながらも、目を見開いた。「くっ、何を…!?私は正真正銘アンリエッ、」「女王陛下が、“トリステインを裏切る”はずがないわ!それに、もし“彼女”が陛下だったとしたら…私“たち”は、ここで彼女を倒さないといけない!!」悲鳴にも似た叫びに、場が静まり返る。愛しき死者の傍らにいる事を望む、悲恋の女王。幼き日の友を、敬愛すべき王を諌めようと参じた、虚無の担い手。そして。誰よりも他者を思いやるがゆえに、自らが矢面に立つ事を選んだ…“絶望”の名を背負った少女。凍ったような時間を破るように、雷鳴。………ぽつぽつと、雨が降り始めた。「まったく」キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、小さく呟き、口元に笑みを浮かべた。要領が悪いと常々思っていた彼女は、やはりどこまでいっても“彼女”だった。おそらく、放っておけば彼女は勝手に不幸になり、要らないものまで背負って潰れていく。彼女自身はそれでも構わないと思っているかもしれない。いや、それでいいと思っているだろう。でも、そうはさせない。させてあげない。あたしの“大切なもの”を、勝手に不幸になんてさせてあげないから。弁解も反論も抗議も受け付けない。あたしはあたしの好きなようにさせてもらうから。ツェルプストーの炎は自分以外の誰にも縛られないから。ふふっ。もしかして、あたしはすっごい我が侭なのかも、しれないわね。「でも、これが最良」タバサは、シャルロット・エレーヌ・オルレアンは、普段と変らぬ表情で…しかしどこか楽しげな口調で言う。彼女の言葉で、彼女が本当は何を言いたいのか、何をしようとしているのか理解した。随分と危険な…間違えば彼女の全てが失われてしまう荒業だが、考えてみればこの方法が最良かもしれない。何より、彼女らしいと思う。寝惚けた子を目覚めさせるには、多少の痛みは必要だからだ。言葉で言っても起きない者は、叩き起こすしかない。起きた直後は怒っても、時が経ちアタマがはっきりすれば理解するだろう。余程の愚か者でもない限り。…それに、もし女王が“そう”であったとしても。彼女を何とかくらい、してみせる。「だな。寝惚けてるその目を、無理矢理でもこじ開けてやらねえと」平賀才人は、ゆっくりと震え始めた心を感じながら、その決意を口にした。アルビオンで何があったか、全てルイズから聞いている。姫様の気持ちは分かる。でも、ウェールズ皇太子の気持ちも…同じくらい分かる気がする。そして何より、彼女の心は、矢に乗せて放たれただろう想いは………。ファンタジーな世界の事なんてまだあまり分かってない自分だけど、彼女のした事の重大さくらいは分かる。なら、そんな今こそ“神の盾”の出番じゃないのか?…面目躍如ってやつだ。杖を握り、剣を構え、弓を番える。12の瞳は決意を持って、1人の生者と死者の一行を見据えた。「もう。無茶するわねラリカ。でも、分かったから」ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、全て理解し、頷いた。きっと皆の心は1つ。分かっていたのに吹っ切れないでいた私の代わりに、彼女が切欠を作ってくれた。…まあ、勝手に無茶をしたことは、後でたっぷりと問い詰めないといけないけど。相変わらず自分の事を考えない親友と、自分の事しか考えられなくなっている旧友。どちらも本当に厄介だ。でも、だからこそ大切で、放ってなんておけない。どちらも、守ってみせる。「みんな、いくわよ!!」降りしきる雨の中。戦いが、始まった。#################クズ子、テンパった末に開き直り、女王に牙を剥く、の回でした。普通は選ばないような選択肢を選び、順調にバッドエンドに近付いているっぽい主人公。ウェールズ時に劣らぬクズっぷりを発揮しました。ダメ人間度数がアップ!もうだめかもしれません…orzでも、こんな主人公を見ても気分が悪くならない方、これからもよろしくお願いします!