第三十九話・顛末、そしてさらば、アイラブユーな私。でもでもいつか、いつの日か。再びあんな想いを抱ける日が…来るのかなぁ。実に微妙だ。予定調和で話は進む。ルイズがギーシュ君に代わっただけ。精霊の涙はあまりにあっさり手に入り、偽物の感情は消え去るのだろう。………私たちは今、学園へ戻ってきていた。「まあ、解除薬だか何だか分からないが、そんなものを飲んでも僕の想いは変わらないだろうけどね。じゃあ、それを証明してみせるよ」モンモンの部屋、できたばかりの解除薬を手にギーシュ君は微笑む。その優しい笑顔に、自分の気持ちが嘘じゃないんだって確信した。この気持ちが惚れ薬のせいのはずない。そもそも、モンモンが私に惚れ薬を飲ませる理由がないんだから。ギーシュ君への想いは、これから先も変わる事はない。それが報われる事はもうないだろうけど、“今”を私は心に刻む。これからは相応しい別の人に向けられる笑顔を、心を、この一瞬だけは私に下さい。その思い出を胸に、私はきっと歩いていけるから。ギーシュ君が解除薬をあおる。これで、元に戻るんだ。「…ありがとう、ギーシュ君」聞こえないくらい小さな声で。伝えきれないくらい大きな想いを。「――――― だよ」そして自分でさえ聞こえないくらいに、微かに。ギーシュ君は前を見ている。私のその声は聞かれていない、気付かれていない。それでいい。伝えてはいけない言葉だから、知られてはいけない想いだから。私には過ぎた、願いだから。私の想い、身の程知らずの告白よ。塗り固めた嘘の底へ、消えていけ。顛末。正気に戻ったギーシュがあばばば言いながら部屋から飛び出した後(才人、ルイズが何とも言えない表情でそれを追っていった)私も解除薬を飲みました。いやー、参ったねコレ。…軽く死にたい。嘘だけど。我がダメ人間な性格のお陰で激しくアイラブユーしなかったのだけがせめてもの救い?なぜ~に私が自分の幸福を優先順位から降格させにゃーならんのだよ。しかもギーシュ第一とか、冗談にしても笑えないぜ~。あばば。でもまあ、感じた“幸福”はホンモノだったわけで。今まで感じた事の無いシアワセとか温かさとか、キュンキュンとかは盛り盛りだったわけで。水の精霊に“満たぬ者”呼ばわりされても、あの時の私は満たされていたワケで。どういう手違いがあったかは知らないけど…ほんの~りと感謝はするのです。ヤツらが去っていった扉を閉じ、ミス・モンモランシに向き直る。「な、何よ」私が怒ってると思ってるのか、彼女は警戒心MAXな顔で反応してくれた。うーむ、たとえ私が怒っててもミス・モンモランシの方が明らかに強いし、警戒する必要はないと思うんだが。「もう用は済んだでしょ?…何よ、何か文句、ああもう!!分かったわよ!わたしが悪かったわよ!でもいいじゃない、元に戻ったんだし、結局別にギーシュに変な事されたわけじゃないんでしょ?わたしはなぜかマリコルヌと付き合うことになってるし、早く誤解を解かないと、」「ミス・モンモランシ」閉めた扉に背を預け、何も言ってないのに喚き始めたミス・モンモンに声をかける。「だ、だから謝ってるじゃない!」「いえいえ、別に私は怒ってないからいいですよ~」そんなキレやすい人に見えるのかな~?まあ、確かに目付きの悪さは自認済みだけど。「怒ってない?うそよ。だって、」「嘘じゃないよ。逆に、ありがとう」微笑んでみせる。だから警戒を解けモンモンさん。主要キャラじゃないものの、コイツもそれなりの重要人物。警戒されたり敵視されたりはゴメン被りたい。それに、怒ってないのは本当だし、ありがとうも本心だ。「へ?」「だから。ありがとう。クスリのチカラとはいえ、誰かと両想い状態なんて…いやー、実にシアワセ体験できました。うん、あんな幸福な気持ち、初めてだったから」うんうん。思い出すと顔面ファイアーになりそうになるけど、確かに貴重な体験だった。そして私の『なるべく平穏で幸せな人生』を手に入れるうえでも参考になる体験かもしれない。誰かをホンキで好きになれば、幸せ度がアップする可能性があるのだ。今までは恋人=結婚=未来への投資みたいな考えだったけど改めねばねーば。うむ。愛する夫&子供と過ごす穏かで平和な日々。何という完璧で理想的な構図なのだろう。…まあ、現状はそこまでゼイタク言えないから、私の幸福最優先なワケだけど。それと、相手を選ばないとマズそう。誰かを好きになった状態の自分を知ることができたのは大きな収穫だ。私が劣等感とか持たずに相互ラブできそうな相手か。そのへんの平民か、いいとこ下級貴族だろーな、多分。別に文句ないけど。とにかく、視野は広がった。それだけでも感謝だ。「そんな、な、何言ってんのよ…。そんなこと言われたら…」でも感謝の気持ちを伝えたはずが、なぜかミス・モンモランシは辛そうな表情になってる。怒る=警戒、無言=逆切れ、感謝=辛そうって、どーすりゃ納得してくれるんだこの金髪縦ロールは。もう少しフォローしなきゃダメなの?私はただ、気にしないで以降放っておいてもらえればいいだけなんだケドね~。「私はですね、ミス・モンモランシ。メイルスティア家というお先真っ暗な家に生まれたから、恋愛とかはほぼ諦めムードだったんですよ、実のトコロ。だって私をお嫁にもらっちゃった人は、もれなく貧困がついてくるんだから。その果てしない貧困道をチャラにできるような容姿も、アタマも、才能も持ってないから余計に無理っぽく。そんな私が、どーいうわけか誰かを好きになり、その相手も私を好きになってくれた。コレはなんて奇跡?そしてそのお陰で、うじうじしてた私の心も、頑張ってみよーかな~とか思えてきたりしたワケです」最後は嘘だが。まあ、逆に勇気付けられたよ!とか言っときゃモンモンさんも気を取り直すだろ。てかね、何で被害者の私が加害者に気を遣わなきゃーならんのだ?「………」だめでした。俯いて何かブツブツ呟くミス・モンモランシ。あー、めんどくさいなー。「あなたは私の背中を押してくれた。だから…怒ってないよ、ミス・モンモランシ」「…っ!!」顔を上げ、キッと私を睨むモンモンさん。ばーじょん涙目。私は何か傷付くようなコトを言ったのですか?「あんたはっ!!」「な、何でしょーか?」「っ!!何でもないわよ!…もう自分の部屋に戻りなさいよ。それと、その、………ごめんなさい」そっぽを向きながらも謝罪の言葉を(まあ、最初に言った逆切れバージョンは別として)口にする。何だかやたら疲れたが、どうやら解決っぽいな。じゃ、遠慮なく帰らせてもらいますかね。ミスタ・グランドプレとの関係をどーにかするのはまた今度でいいだろう。“惚れ薬”状態では別にいいやとか思ってたけど、やはりギーシュとモンモンさんは原作通りの関係に戻しとかないと。何だかんだで私も原因の1つになってる問題だし、何より危険度が限りなく低いしね。私は自分の幸福最優先だけど、それに影響しなければ誰かを不幸にする気はないのでーす。「うん。じゃあ、お邪魔しました」「1つだけ聞いていいかしら」なになにな~に?「ほいさ」「あなたの好きな人って、誰なの?その、場合によっては協力してあげなくもなくてよ」ギーシュじゃないから安心してくれぃ。というか、そんな相手いないっちゅーの。「ありがとう。でも、まだ私自身、どーなのか分かってないような。これからゆっくり、見付けていきたいと思ってる所存なのです」さて。何だかんだ、妙なイベントに巻き込まれはしたけど…これで一段落。戦争は徐々に本格化していって、重要人物とかどんどん出てきて、私の存在感は希薄になって行くだろう。そもそも女子生徒は戦争に参加しなくてもいいっぽいし。フェードアウトはもはや確実なのだ。もちろん、学園襲撃事件でのデッドエンドを回避する作戦は既に決まっている。タイミングを見計らって実家に一時帰宅すればいいだけなのだ。ほんのり前借で幸福も味わい、未来の展望もちょっと広がった。いやー、実に順風満帆。幸福な結末のカタチが見えてきたぜ~☆※※※※※※※※だと思ってたんだけどね。塞翁が馬。幸と不幸は順に巡る。運勢はヤジロベーなバランサー。今、私の前にはアンリエッタ女王陛下がいる。もの凄く睨まれてる。もの凄く憎まれてる。うん。どうやら本格的に詰んだようだ。分不相応な幸福の後には、やっぱり深~い奈落が用意されてたようですな。あは。あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!オマケ<Side 扉を挟んで廊下の3人>「ちゃんと許してくれるまで土下座しろよな」「分かってるよ。でも一応僕も“惚れ薬”の被害者だってこと、分かって欲しいんだがね」「うるさいわね、あんたとラリカじゃ全然違うのよ。謝罪に心がこもってなかったら、たとえラリカが許してくれても私が許さないからね」「分かったからそのクロスボウを僕に向けないでくれないか?もう逃げないから!」逃亡者と追跡者は、仲良く(?)モンモランシーの部屋の前まで戻ってきていた。そして才人が扉に手を掛けた時、『 嘘じゃないよ。逆に、ありがとう 』その声が、扉を挟んだ向こうから…漏れて聞こえた。