第三十七話・行く先はラグドリアンこっちはこっちで大変で、あっちはあっちで大変なのです。まあ、とにかくラグドリアンへ。それぞれの想いを乗せて。<Side Other>「水の精霊か。私たちが火と風のメイジだってのが幸いね。攻守の相性は抜群なんじゃない?攻撃の方はあたしに任せてちょうだい」キュルケはソファに腰掛け、隣で紅茶を飲む親友に言う。「防御に専念する」「触れられたらお終いっていうし、信頼してるわよ」頭を軽く撫でる。小さな友人は特に反応せず、されるがままになっている。年に似合わない不幸を背負わされ、幾多の危険を乗り越えてきたシュヴァリエにはとても見えなかった。「…はしばーみ?」「…」何となく言った言葉にピクリと反応する。そして不思議そうにキュルケの顔を見上げた。「これには反応するのね。本当に合言葉とかじゃないの?」「わからない」「でもあの子、あなたと会う度に言ってるわよね。ひょっとして何か反応するのを待ってるんじゃないかしら」そしていつも答えられないでいるタバサの頭を撫でる。ラリカとタバサが揃うと必ず繰り広げられる光景だ。そのため、ここ最近だとタバサを撫でる頻度はキュルケより彼女の方が多いかもしれない。「そうなの?」タバサは少し考える素振りをする。しかし、すぐに小首を傾げた。「何て言えばいいのかわからない」「じゃあ今度言われた時までに考えておく宿題ね」答えられたら、撫でられなくなるのかしら?それとも、よくできましたとか言って、やっぱり撫でるのか。後者の光景が容易に想像できる。明日は命を落とすかもしれない危険な任務が待っているというのに、その想像に思わず笑みが零れた。「さ。寝不足で本調子が出なかったとか洒落にもならないし、そろそろ寝ましょうか。まあ、少々危険な任務だけど大丈夫よ。なにが起こったって、あたしがついてるんだから」タバサはキュルケを見上げ、小さく頷いた。「…信頼している」“信頼している”その言葉に、キュルケは一瞬目を見開き…そして、微笑んだ。タバサの心を覆う雪風のベールは、徐々に溶けてきている。“微熱”だけではこんなに早く彼女の氷を溶かせられなかっただろう。でも、今の彼女には、親友の自分の他にも友人と呼べる存在ができている。――― “ゼロ”と呼ばれ続けてもなお挫けない、自分のライバル。1年の頃は険悪な感じにもなりかけたが…どうも、例の“仲裁者”のお陰で決定的な関係にはならないまま、ずるずると友人になってしまっていた。その関係はそのままタバサにも繋がっていき、今では出会えば普通に挨拶している。以前のままのタバサなら、いくら頼まれたとしても詔の詩を一緒に考えてくれることなんて有り得なかっただろう。――― 彼女の使い魔の少年。気さくな性格の彼はタバサの寡黙に臆することなく接する。沈黙で気まずくなりかけても、“仲介者”がタバサをいじってそれを破った。おそらく、自分と彼女はタバサの保護者のような感覚で見られているのだろう。だから、少年のタバサを見る目は、優しい。――― およそ友人になんてなり得ないと思っていた、キザでマヌケな女好きの少年。タバサとは絶対に接点を持たないまま、卒業まで過ぎると思っていたのに。しかしアルビオンの時から一緒に行動する機会が増え、宝探し旅行で確定した。“提案者”の彼女がその後も反省会を開いたせいもあり、彼は恐らく学院の男子生徒でタバサと普通に接することのできる唯一の存在だろう。タバサに男の友人とか、1年前では考えられない。――― そして“仲裁者”で“仲介者”で“提案者”の、少し変った少女。そういえば彼女は自分が学院に入学してできた、最初の“友人”だったかもしれない。恋人は量産できても友人などできない(というか、敵ばかり)自分に普通に声を掛けてくる唯一の女生徒。初めは皮肉でも込めているのか、何か裏でもあるのかと疑ってもみたが、やがて気にするだけ無駄と知った。彼女は、“ゼロ”と呼ばれ始めたルイズにさえ変らぬ態度で接するのだ。そして彼女はいつの間にかタバサとも親しくなっていた。最初の頃は挨拶をしなくなったあたりから、タバサとはウマが合わなかったかとも思っていたが、気付けば毎回のように撫でられ、毎回意味不明の合言葉?まで交わして?いる。一体どんな“魔法”を使ったのか。仲良くなったきっかけを聞いても、2人とも分からないと言う。でも、しかし、友人になるきっかけなんてそんなものなのかもしれない。3人の男女をタバサに繋げた少女は、自らのした事に気付いてすらいないだろう。今のタバサには、自分以外にも“仲間”がいるのだ。共に冒険し、飲み交わし、笑い合える…笑い“合う”のは性格的に難しいが、そんな仲間たちに囲まれれば、氷なんてすぐに溶かされてしまう。もっと信用して、信頼して欲しい。自分たちはそれにきっと応えられるから。タバサの背負う不幸や悲しみも、和らげることができるから。「…なにが起こったって、あたし達がついてるんだから、ね?」優しく肩を抱くと、タバサはほんの少しだけ目を細めた…気がした。※※※※※※※※ギーシュ君がフォローを交えた推理をした結果、モンモンとミスタ・グランドプレは付き合う事になった。何を言ってるのか分からないと思うが、正直私も分からない。推理するギーシュ君が名探偵みたいでカッコいいな~とか見惚れてたら…そーなっていた。で、気付けばモンモンはマリコルヌとの両想いラブラブ大作戦を練って盛大に失敗したという話に。「つまりだよ、浮気ばかりしていた以前の僕に愛想を尽かしたモンモランシーは、絶対に浮気しない新たな恋人を作りたかった。そこで白羽の矢が立ったのがマルコってわけさ。でも念には念を入れて、“惚れ薬”で完全に自分しか目に映らなくしようとしたんだよ」「な、なんだってー!?ミス・モンモランシに狙われていたのは、ぼくだったんだね!!」「え!?ちょ、ちが、」「そうだったのか。それならまだ許せるな。もしラリカを実験台とかにしようとしてたなら、モンモンを泣いたり笑ったりできなくさせるところだったぜ」「そんなわけないじゃないかサイト。モンモランシーはそんな最低のゲスじゃない。付き合っていた僕が言うんだから間違いないよ。それに、“惚れ薬”は禁制品で、しかも効果は永遠じゃないっていうしね。バレたら退学どころじゃないんだから、実験台だなんて恨まれそうな事はするわけないさ。ラリカがもし飲んでしまったとしたら、それは純粋にただの事故だよ」「そうか…最近よく熱い視線を感じているような気がしたような気がしてたような気がしたけど、正体はぼくのピュアな心を狙うモンモランシーだったんだね」「ち、ちが…、」「言われてみれば確かにね。悪意を持ってラリカとマリコルヌをくっつけようとかしてたなら、モンモランシー自身に跡形もなく“錬金”をかけるところだった。ギーシュに言われて気付いて良かったわ」「君が早まらなくてよかったよルイズ。おそらくラリカに言ったっていう“素敵な人を紹介”っていう意味は、“新恋人のマリコルヌを紹介する”って事さ。ラリカに言えばおのずと僕にも伝わるからね。直接伝えない方法を取ったのは元恋人の僕に対する、モンモランシーなりの優しさだと思うよ」「………」「それでモンモランシー、僕の完璧な推理はどうかな?十中八九、正解だと思うんだが」「ミス・モンモランシ、君のやや危険な想いは確かに受け取った!でも薬なんかに頼らなくても、ぼくは浮気なんてしないよ」「どうなんだモンモン」「本当の事を言いなさいよ」「せ、正解よ。もうそれでいいわよ!!」半泣きでモンモンがそう宣言し…何だか妙な違和感を残したまま新カップルが誕生したのだった。原作だとモンモンはギーシュ君と恋人なはずだったのに…。でも、正直ギーシュ君の一番は、もっといい人であって欲しいと思っていた。だから、この乖離は悪くはないのかもしれない。………たぶん。※※※※※※※※「それで、そのラグ何とか湖ってとこに行けば解除薬の材料が手に入るんだな?」翌日。授業をサボった私たちは、モンモンの部屋に集合していた。ちなみに昨日はルイズが私の部屋に、才人はギーシュ君の部屋に泊まったらしい。夜這い防止とかで。まあ、少し助かった。ギーシュ君にならいつ何をされたっていいんだけど、“惚れ薬”で正気じゃない状態じゃ後から責任を感じさせてしまう。その配慮は正解だろう。でも私の方は夜這いなんて大それたことできないし、そもそも“惚れ薬”なんて飲んでないんだから見張りなんて要らなかったと思う。「ええ。さっさと行って貰ってくるわよ。行くメンバーはわたしとルイズ、ラリカ、サイト、そしてギーシュの5人ね」…いやにやる気だなぁ、モンモン。原作だと行くのを渋ってたような気がするケド、「待ってくれ。ぼくがメンバーに入ってないよ?ぼくのモンモランシー」「ははは、マルコ、どうやら君の恋人はまだ一緒に旅をするのは恥ずかしいらしいね!まあ、危険はないから安心したまえ。“惚れ薬”の効果はご覧の通り、僕もラリカも全くないんだ。もし手に入らなくたって問題ないしね。どちらかというと、ただの観光旅行だよ!」「あなた達は黙ってて!これ以上ややっこしくなったら堪らないわ!…あとギーシュ、薬が切れたら覚えときなさいよ…」何となく理由が分かった。今回は自分にも関係してるから気合入ってるんだろう。とりあえず、薬が切れた時にギーシュ君がとばっちりを食わないように頑張らないと。「やれやれ、初々しいカップルは見ていて微笑ましいね!それより僕のラリカ。君はラグドリアン湖に行ったことはあるかい?」ギーシュ君が私の肩に手を置き…ルイズにはたかれた。「聞いたことはあるけど、行ったコトはないかなかーな?一度は行ってみたいとは思ってたケドですが」「そうか!いや、実は僕も初めてでね!水の精霊は“誓約の精霊”とも呼ばれているそうじゃないか、丁度いい、そこで僕らも永遠の愛を誓い合おうか!」永遠の愛。ギーシュ君と。わぁ、誓いたいなぁ…。でも、それは叶わないし、叶えちゃいけない。だから、「解除薬を飲んでから、ね~」とだけ答えた。胸がやたらとぎゅーってなる。分かっちゃ~いるけど苦しいぜぃ。「望むところさ!この愛が“惚れ薬”のせいなんかじゃないと証明し、その上で愛を誓う。それなら未だに僕を疑うサイト達も納得するだろう?そうすれば晴れて僕らは邪魔される事なく愛を紡ぎ合える!いやー、実に楽しみだね!!」そう言ってギーシュ君は笑う。全く。そんな純真な笑顔、見せられたら、色んな意味で胸が痛くなっちゃうじゃーないですか。いざ。貴方の心を取り戻す、旅へ。