第三十四話・モンモンと私。悶々と、私。誰かを好きになったとして。それは“私”?それとも、好きになったと“嘘”をついてるだけ?まったく、ムズカシイ問題ですなぁ。「それで、お話って何かな~と」夜。約束通りにミス・モンモランシの部屋にやって来た私は、さっさと用件を聞くことにした。とりとめのない話をするほど親しくないし、正直あんまり長居したくない。あんまり得意じゃないんだよね~モンモンさんって。頑張って親しくなったとしても、メリットなさそうだし。「そっちに座って。今、ワインを出すわね」用意されていた椅子に座る。そういえば、今朝ミス・モンモランシはセーラー服着てこなかったな。ギーシュはまだプレゼントしてないのだろーか?「おかまいなくー。いやー何だかいい匂いがしますな~。香水?」「そうよ。わたしの二つ名、知ってるでしょ?」「“香水”だったよね。うんうん、納得の二つ名かも」「そういえば、あんたも香水を作ったとか。メイドが話してたわよ」「あ~、『働くメイドの香り』。アレを香水と呼ぶかどーかは疑問だけど」あはは、と笑ってみせる。もしかして呼ばれた理由ってそれか?営業妨害するな的な。でも、モンモンさんの香水とアレは用途が全く被らないハズだ。「まあ、着眼点はなかなかじゃない。平民用としてはね。貴族は誰も使わないけど」…私はたまに使ってるんだけどねー。でも、この言い方からすると香水の件は特にどーも思ってないようだ。「貴族とかが使うのを作るには実力不足ですから。あ、どうも~」ミス・モンモランシがワインを注いでくれる。高級なのか安物なのかは微塵も分かんない。でも多分、私がいつも飲んでるやつよりはモノがいいだろう。「ま、弁えているのはいい事よ。そう、何事も身の程を弁えないと、ね?」「…?」笑顔がちょーっと怖いですよモンモンさん。「それで、お話とは何だったかな?私もあんまり遅くなるのはちょっと。使い魔にオヤツを与えないといけなかったり」「使い魔、あのムカデね。そういえばあんた、いつか夜中に学院を抜け出して、誰かさんと夜のデートしたそうじゃない?その使い魔に乗って」「デート?」何だそりゃ?自慢じゃないが、私とデートしてくれるようなキトクな男の子に心当たりはなっしんぐ。才人やギーシュあたりなら、頼めば一緒に出掛けてくれるかもだけど…って、もしかしてアレか?ココアと再契約した夜の話か。「それって、もしかしなくてもギーシュ君を乗せて帰って来た時の事じゃ~ないかな。でもあれはついでに送っただけで、デートとかそんなのじゃないんだけど」ああ、なるほど。それが気になって呼び出したのか。で、当事者っぽい私に確認と。まあ、私が浮気相手だと思われる確率はゼロ(ミス・モンモランシのライバルに認められるほどの魅力ないし)だから…ギーシュが女の子を片っ端からナンパし始めた…つまり、自分とヨリを戻すのを諦めて新たな彼女作り活動し始めたとでも思ったんだろうか。そんな心配しなくても大丈夫なのに。ギーシュは何だかんだでモンモン一筋なんだから。「へぇ、夜中に2人きりで帰ってきてデートじゃなかったと」「帰宅は一緒だけど、会ったのは殆ど偶然だったしね。森で使い魔を洗ってたらギーシュ君がつけて来ちゃって。窓から抜け出すのを見られてたみたいですな~」「…ふぅん」イマイチ信じてないっぽい。真実なんだけどね。てか相手が私って時点でデートは有り得ないでしょーに。「それと、少し前の夜にもキュルケ達と飲み会したって聞いたけど。ギーシュ以外は全員女の子で。あんたの発案らしいわね」「才人君…ルイズの使い魔君も男の子だよ。それと、あれは飲み会と言うより、」宝探しの反省会…でいいのか?名目は確かにそれだけど…。ギーシュのためにモンモンさんの機嫌を直す方法を考える、ってのも一応あったが、誰も微塵も考えてなかった。むしろキュルケなんて、もう別の恋を探せとか言ってたし。「飲み会というより、何よ」「一応、反省会?」あくまで一応。「宝探し旅行のよね?」「うん。結局金銀財宝は見付からなかったワケなので、残念会も兼ねて」「残念会。ふぅん、そう。残念会ね」…さっきからやたらと突っかかるな。ギーシュが誰かと浮気してるか気になってるならハッキリそう訊けばいいのに。確かにルイズは極上の美少女だし、キュルケは超絶ナイスバディ。タバサも神秘的な魅力がある。メイドのシエスタも脱いだら凄い実力を秘めてるし。そんなのと一緒に行動するボーイフレンドを疑う気持ちも納得かもか~も。でも彼女らに直接聞くのはプライド的にもアレだから、私から間接的に聞き出そうってトコロだろう。「ええと、ミス・モンモランシ。不安なのは分かるけど、別に嫉妬とかしなくても大丈夫だと思うよ。だって、」「ちょっと。誰が不安なのよ?いつ、誰に対して嫉妬したっていうの?」うわ、言葉選びを間違えた!?ミス・モンモランシはこちらを睨んで…あ、笑顔になった?でも目は笑ってない。コワイですよー、そんな笑顔似合いませんよー。「ええと、」「ま、いいわ。今日はそんな事のために呼んだんじゃないのよ。今日はね、あんたにとっても素敵な人を紹介しようと思って呼んであげたの。感謝しなさいよ、もしかすると未来の夫候補になるかもしれないんだから」…何だそりゃ。モンモンさんはキトクにも、私に誰かを紹介したくて呼んだと?ワケが分からない。展開も話にも、脈絡がなさ過ぎる。「お気持ちはひじょ~に嬉しいんですが。なぜに私に?」「その人が、あんたに一目惚れしたのよ。で、わたしに是非紹介して欲しいって言ってきてね。それで仕方なく手を貸してあげることにしたの」私に一目惚れ?どーいう感性してるヒトだろ。自慢じゃないけど、一目惚れされるホドのものは持ってない。ちょっぴり悪い目付きがツボに?でもそれならもっと綺麗な子は大量にいるし。「う~ん、微塵も心当たりありませんなー。誰?」「会ってからのお楽しみよ。それよりワインをどうぞ?あんたじゃ買えない高級ワインなのよ?」オマエさんだって貧乏…まあ、メイルスティア家とは比べられないか。「あ~、それじゃいただきまーす」注がれたワインを飲む。高級なのか安物なのか、私の三流な舌じゃ判別つかない。でもマズくはない。…てか、モンモンさん。その満面の笑みは何だ?怖いって。「そろそろ来るはずよ。楽しみね、メイルスティア」うむ、何がそんな楽しみなんだろう。超もしかして、ミス・モンモランシも恋のキューピッド的なお節介を楽しむ女の子だったとか?“俺”が中学生くらいの頃は、そんな事をして喜ぶ女子とかいた気がする。でもミス・モンモランシがねえ…。「ふむふーむ。まあ、会うだけ会ってみましょ~か。ミス・モンモランシがせっかく紹介してくれるんだし」ま、いいや。どんな人でも私なんかに惚れてくれたのなら、素直に嬉しい。いつかは恋人とか見付けたいな~とか思ってたし。丁度いいかも。願わくば、その人が私よりも貧乏とかじゃありませんように。ドアがノックされる。ミス・モンモランシは不自然なほどの笑顔のまま、“アンロック”した。「来たわね、マリ…、え?」そして入ってきた誰かに驚いたのか、固まる。自分で紹介するとか言っといてその反応は何ぞや?私も振り返っ、「メイルスティア、だ、だめっ!!」…た。………。ん?モンモン、コレは何の冗談ですか?「やあモンモランシー!やっと扉を開いてくれたんだね!!きみへの永久の奉仕者ギーシュが、…って、ラリカ?」「や、ギーシュ君。こんばんは~」ああ、分かった。そういう事ね。私をからかったって~ワケか。ボーイフレンドとかいそうにない私に淡~い期待をさせて、実は嘘でしたーって感じでネタばらし。なるな~る。そんな事する理由は不明だけど、どーせそんなコトなんだろう。趣味悪いなぁ。…でも残念。私はどんな理由だろうと、ギーシュ君に会えるだけで嬉しいのですよ~。「え?メイルスティア?」モンモンの不思議そうな声。残念がってないから意外だったかな。「ん?どーしたミス・モンモランシ」「その…何ともないの?」何が?「私は至って健康そのものだけど。それより、お客さんですよー」ギーシュ君を無視するなっての。全く、どーしてこう見る目がないんだろうね。やっぱり、彼女はギーシュ君には相応しくないですな。プライドばっかり高くて高慢なヒトには、薔薇のホントの良さなんて分からないのだろう。「え?あ、ああそうね。ギーシュ、なにしに来たのよ。もう、あなたとは別れたはずよ」とか言いながらも私の方をチラチラ見るモンモン。何を気にしてるんだ?見せ付けようとかそういう意味かな。うん、いよいよ感じ悪いなぁ。「僕はちっともそんな風に思ってなかったよ!君だってすんなり扉を開けてくれたからには僕を許してくれたんだろう?」「それは、…それより、メイルスティア。あんたホントに何ともないの?」だからギーシュ君を後回しにするなってーの。あと、意味不明な質問がしつこ過ぎ。そんなに私にどうにかなって欲しいのか?「だから全然全くこれっぽっちも何ともないって。さっきから意味不明だよ?」「そ、そんな…。どこか間違ってたっていうの?レシピは完璧だったはずなのに…」何だか愕然としながらブツブツ呟き始めるモンモン。可哀相にギーシュ君がしょんぼりしてる。おのれモンモンめ。「ギーシュ君、ミス・モンモランシに何か用だった?」ま、その間にお喋りさせてもらいますか。好きなだけブツブツ言ってて下さいな。「ああ、コレをプレゼントしようと思ってね。メイドに頼んで仕立て直してもらったんだ」持っていた包みを少し開いて見せてくれる。なるほど、セーラー服か。シエスタが不在だから仕立て直す時期がズレたのかも。「セーラー服、気に入ったの?」「いや、そのあれだよ。こういう変わった装いもいいんじゃないかと思ってね、うん」「ふむふ~む。私で良ければまた着るんだけど。でもミス・モンモランシほどキレイじゃないからなー。やっぱ美人に着てもらった方がいいよね?」「そんな謙遜は…って、今なんと?」「お望みとあらばまた着ちゃいますよーと。昨日は時間がなかったけど、時間がある時ならいつでもオケ~イ」私なんかで良かったら、何でもしちゃうんだぜー。だぜー。膝上15サントだって、おヘソが見えちゃう上着だって全然余裕。恋する乙女の前には、羞恥心などミジンコ以下、「ちょっとギーシュ!」モンモンの怒鳴り声。せっかくお喋りしてたのに、空気を詠み人知らないにも程がある。でも、ギーシュ君は笑顔で反応した。…くそぅ。分かってるけど、何だかモヤモヤ。でもでも、ギーシュ君が幸せそうなら!…あうぅ。実にジレンマ。されど現時点の私に為す術はなっしんぐ。私の人生の目的、『なるべく幸せな人生』と『ギーシュ君の幸せ』。両方を叶えるために、これからも頑張らないといけませんな~。………うん?うん。##############暫く振りに更新です。新年度で引越しやら何やらで、落ち着くまで速度落ちそうです…orz